説明

偏光板および積層光学部材

【課題】エポキシ系光硬化型接着剤を用いて偏光子と保護膜とが貼合された偏光板において、接着剤の粘度を下げるとともに、硬化後は十分な硬さを与え、偏光子と保護膜との接着力が高められた偏光板を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系偏光子に、接着剤を介して保護膜が貼合された偏光板であって、その接着剤は、(A)光カチオン硬化性成分100重量部に対し、(B)光カチオン重合開始剤を1〜10重量部含有し、その硬化物が80℃で1000MPa以上の貯蔵弾性率を示す光硬化性接着剤組成物から形成されており、上記の光カチオン硬化性成分(A)は以下の(A1)と(A2)を含有するように調製される。(A1)脂環式環に結合するエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物を50〜95重量%、(A2)塩素含有量が1重量%以下であり、下式(I)(Zはアルキレンなど)で示されるジグリシジル化合物を5〜50重量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の光硬化性接着剤を用いて偏光子の片面または両面に保護膜を貼合した偏光板に関するものである。本発明はまた、この偏光板に位相差フィルムなどの他の光学層を積層した積層光学部材にも関係している。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示装置を構成する光学部品の一つとして有用である。偏光板は通常、偏光子の両面に保護膜を積層した状態で、液晶表示装置に組み込まれて使用される。偏光子の片面にのみ保護膜を設けることも知られているが、多くの場合、もう一方の面には、単なる保護膜としてではなく、別の光学機能を有する層が、保護膜を兼ねて貼合されることになる。また偏光子の製造方法として、二色性色素により染色された一軸延伸ポリビニルアルコール樹脂フィルムをホウ酸処理し、水洗後、乾燥する方法は広く知られている。
【0003】
通常、偏光子には、上述の水洗および乾燥後、直ちに保護膜が貼合される。これは、乾燥後の偏光子は物理的な強度が弱く、一旦これを巻き取ると、加工方向に裂けるなどの問題があるためである。したがって、乾燥後の偏光子は通例、直ちに水系の接着剤を塗布した後、この接着剤を介して両面同時に保護膜が貼合される。通例、保護膜としては、厚さ30〜120μmのトリアセチルセルロースフィルムが使用されている。
【0004】
トリアセチルセルロースは透湿度が高く、これを保護膜として貼合した偏光板は、湿熱下、たとえば、温度70℃、相対湿度90%といった条件下では劣化を引き起こすなどの問題があった。そこで、トリアセチルセルロースより透湿度の低い、たとえば、ノルボルネン系樹脂を代表例とする非晶性ポリオレフィン系樹脂を保護膜とすることも知られている。
【0005】
透湿度の低い樹脂からなる保護膜をポリビニルアルコール系偏光子に貼合する場合、従来からポリビニルアルコール系偏光子とトリアセチルセルロースとの貼合に接着剤として一般に用いられているポリビニルアルコール系樹脂の水溶液では、接着強度が十分でなかったり、得られる偏光板の外観が不良になったりする問題があった。これは、透湿度の低い樹脂フィルムは一般的に疎水性であることや、透湿度が低いために溶媒である水を十分に乾燥できないことなどの理由による。一方で、偏光子の両面に異なる種類の保護膜を貼合することも知られており、たとえば、偏光子の一方の面には、非晶性ポリオレフィン系樹脂などの透湿度の低い樹脂からなる保護膜を貼合し、偏光子の他方の面には、トリアセチルセルロースをはじめとするセルロース系樹脂などの透湿度の高い樹脂からなる保護膜を貼合する提案もある。
【0006】
そこで、透湿度の低い樹脂からなる保護膜とポリビニルアルコール系偏光子との間で高い接着力を与えるとともに、セルロース系樹脂などの透湿度の高い樹脂とポリビニルアルコール系偏光子との間でも高い接着力を与える接着剤として、活性エネルギー線硬化型接着剤を用いる試みがある。たとえば、特開2004−245925号公報(特許文献1)には、芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とする接着剤が開示されており、活性エネルギー線の照射によるカチオン重合でこの接着剤を硬化させ、偏光子と保護膜とを接着することが提案されている。また、特開2008−257199号公報(特許文献2)には、脂環式エポキシ化合物と脂環式エポキシ基を有さないエポキシ化合物とを組み合わせて、光カチオン重合開始剤とともに配合した光硬化性接着剤を、偏光子と保護膜との接着に用いる技術が開示されている。
【0007】
一方、特開2009−181046号公報(特許文献3)や特開2002−365432号公報(特許文献4)には、水系接着剤を用いる場合についてであるが、偏光板製造時の保護膜と接着剤の濡れ性および接着剤の粘度によっては、製造後の偏光板に外観不良が発生することが記載され、これらのパラメータが生産性に大きな影響を与えること、またその対策として、濡れ性の向上や接着剤自身の低粘度化が有効であること、特に粘度の寄与が大きいことが記載されている。
【0008】
特許文献1および2に示されるようなエポキシ系光硬化型接着剤は、溶剤型接着剤とは異なり、通常は実質的に溶剤を配合することなく調製される。そのため多くの場合、粘度を下げるには組成物中の低粘度成分比率を増やす必要がある。このような組成比率の変更によって硬化前の接着剤液の粘度を下げることは、多くの場合、硬化後の接着剤層の硬度不足をきたし、接着後の偏光板が十分な耐久性を示しにくくなるという懸念があった。そこでこれまでは、偏光板の製造工程における外観不良を避ける対策として、フィルムの表面改質やレベリング剤の添加などによる濡れ性の向上が主に採用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−245925号公報
【特許文献2】特開2008−257199号公報
【特許文献3】特開2009−181046号公報
【特許文献4】特開2002−365432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、エポキシ系光硬化型接着剤を用いて偏光子と保護膜を貼合する際、効果前の接着剤を低粘度化すると硬化後の接着剤層が十分な高度を示さないという問題を改善するべく鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。したがって本発明の課題は、エポキシ系光硬化型接着剤を用いて偏光子と保護膜とが貼合された偏光板において、そこで用いる光硬化型接着剤の粘度を下げて塗工適性を高めるとともに、その接着剤が硬化した後は十分な硬さを与え、偏光子と保護膜との接着力が高められた偏光板を提供することである。本発明のもう一つの課題は、この偏光板に位相差フィルムなどの他の光学層を積層し、液晶表示装置に好適に用いられる積層光学部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
研究の結果、脂環式エポキシ化合物とジグリシジル化合物という少なくとも2種類の光カチオン硬化性エポキシ化合物を組み合わせ、実質的に溶剤を含まない光硬化性接着剤において、ジグリシジル化合物中の塩素量を低減することで、硬化後の接着剤層の硬さを高い値に維持したまま、組成比率の調製による低粘度化が可能であることを見出した。
【0012】
すなわち本発明によれば、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の少なくとも一方の面に、接着剤を介して透明樹脂からなる保護膜が貼合されてなる偏光板であって、その接着剤は、(A)光カチオン硬化性成分100重量部に対し、(B)光カチオン重合開始剤を1〜10重量部含有し、その硬化物が、80℃において1000MPa以上の貯蔵弾性率を示す光硬化性接着剤組成物から形成されており、上記の光カチオン硬化性成分(A)は、以下の(A1)および(A2)を含有するように調製されている偏光板が提供される。
【0013】
(A1)分子内に2個以上のエポキシ基を有し、そのうちの少なくとも1個は脂環式環に結合している脂環式エポキシ化合物を50〜95重量%、および
(A2)塩素含有量が1重量%以下であって、下式(I)で示されるジグリシジル化合物を5〜50重量%:
【0014】
【化1】

【0015】
式中、Zは炭素数1〜9のアルキレン基、炭素数3もしくは4のアルキリデン基、2価の脂環式炭化水素基、または式−Cm2m−Z1−Cn2n−で示される2価の基を表し、ここで−Z1−は、−SO2−、−SO−または−CO−を表し、mおよびnは各々独立に1以上の整数を表すが、両者の合計は9以下である。
【0016】
この偏光板における一つの好ましい形態では、偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護膜は、アセチルセルロース系樹脂で構成される。もう一つの好ましい形態では、偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護膜は、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂または鎖状ポリオレフィン系樹脂で構成される。もう一つ別の好ましい形態では、偏光子の一方の面に、アセチルセルロース系樹脂からなる保護膜が上記の接着剤を介して貼合され、偏光子の他方の面に、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂または鎖状ポリオレフィン系樹脂からなる保護膜が上記の接着剤を介して貼合される。
【0017】
また本発明によれば、上記いずれかの偏光板と他の光学層との積層体からなる積層光学部材も提供される。この積層光学部材を構成する他の光学層は、位相差フィルムを含むのが有利である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の偏光板は、その製造に用いる光硬化性接着剤が、硬化前には低い粘度を示して塗工適性が改善されていながら、硬化後は高い貯蔵弾性率を示し、偏光子と保護膜とが良好に接着したものとなる。この偏光板は、たとえば高温環境下に置かれることと低温環境下に置かれることが繰り返される冷熱衝撃試験(ヒートショック試験)を行なった場合でも、偏光子に割れを生じる可能性が小さく、信頼性に優れたものとなる。また、この偏光板に位相差フィルムなどの他の光学層が積層された積層光学部材も同様に、過酷な条件下に置かれても偏光子に割れを生じる可能性が小さく、それが適用された液晶表示装置も信頼性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。本発明では、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の少なくとも一方の面に、光硬化性接着剤を介して透明樹脂からなる保護膜を貼合し、偏光板とする。そしてこの光硬化性接着剤は、(A)光カチオン硬化性成分100重量部に対し、(B)光カチオン重合開始剤を1〜10重量部含有し、その硬化物が、80℃において1000MPa以上の貯蔵弾性率を示す光硬化性接着剤組成物から形成する。さらには、この偏光板に他の光学層を積層して、液晶表示装置に好適に用いられる積層光学部材とする。そこで、偏光板の製造に用いる光硬化性接着剤組成物、それを用いた偏光板、およびそれを用いた積層光学部材の順に説明を進めていく。
【0020】
[光硬化性接着剤組成物]
本発明に用いる光硬化性接着剤組成物は、上述のとおり、(A)光カチオン硬化性成分100重量部に対し、(B)光カチオン重合開始剤を1〜10重量部含有するものであって、さらにその光カチオン硬化性成分(A)は、以下の(A1)および(A2)を含有する。
【0021】
(A1)分子内に2個以上のエポキシ基を有し、そのうちの少なくとも1個が脂環式環に結合している脂環式エポキシ化合物を50〜95重量%、および
(A2)塩素含有量が1%以下であって、前記式(I)で示されるジグリシジルエーテル化合物を5〜50重量%。
【0022】
(光カチオン硬化性成分)
光カチオン硬化性成分(A)の主成分となる脂環式エポキシ化合物(A1)は、周知一般のエポキシ化合物であることができるが、耐候性、屈折率および光硬化性の観点から、その分子構造中に芳香族環を含まないものが好ましい。脂環式エポキシ化合物(A1)としては、たとえば、以下の一般式(1)〜(23)で表されるものが挙げられる。
【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
上記の各一般式において、R1〜R46は各々独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。R1〜R46がアルキル基の場合、脂環構造に結合する位置は1位〜6位の任意の位置である。炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖でも分岐していてもよく、また脂環構造を有していてもよい。Y1は、酸素原子またはアルカンジイル基を表し、Y2〜Y21は、各々独立に直鎖でもよく、分岐を有していてもよく、脂環構造を有してもよいアルカンジイル基を表す。アルカンジイル基の炭素数は、Y2、Y4、Y9、Y10、Y11、Y12、Y13、Y14、Y15、Y18、Y19、Y20、Y21は、1〜20であり、Y1、Y3、Y5、Y6、Y7、Y8、Y17、Y18は、2〜20である。Z1〜Z2は、各々独立に直鎖でもよく、分岐を有してもよく、脂環構造を有してもよいアルカントリイル基を表す。アルカントリイル基の炭素数は、Z1は、2〜20であり、Z2は、1〜20である。T1は、直鎖でもよく、分岐を有してもよく、脂環構造を有してもよい炭素数1〜20のアルカンテトライル基を表す。a〜rは、0〜20の整数を表す。
【0027】
上記の脂環式エポキシ化合物(A1)は、1種類を単独で、または2種類以上を混合して用いることができる。
【0028】
光カチオン硬化性成分(A)のもう一つの成分となるジグリシジル化合物(A2)は、前記式(I)で示される。式(I)において、Zは、炭素数1〜9のアルキレン基、炭素数3もしくは4のアルキリデン基、2価の脂環式炭化水素基、または式:
−Cm2m−Z1−Cn2n
で示される2価の基であり、ここで−Z1−は、−SO2−、−SO−または−CO−であり、mおよびnは各々独立に1以上の整数であるが、両者の合計は9以下である。2価の脂環式炭化水素基の典型的な例としては、シクロペンチレンやシクロヘキシレンがある。
【0029】
式(I)において、Zがアルキレン基である化合物は、アルキレングリコールのジグリシジルエーテルである。その具体例を挙げると、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,3−プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジグリシジルエーテル、2−メチル−1,8−オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどがある。
【0030】
また、式(I)においてZが式−Cm2m−Z1−Cn2n−で示される2価の基である化合物は、Zが炭素数2以上のアルキレン基であり、そのアルキレン基のC−C結合が、−SO2−、−SO−、または−CO−で中断されているものに相当する。
【0031】
式(I)で示されるジグリシジル化合物は、製造工程上の理由から、一般的に塩素を多く含む状態で流通している。すなわち、この化合物の製造にあたり、アルキレングリコール類をはじめとする式HO−Z−OHに相当する2価アルコールに、硫酸、三フッ化ホウ素、四塩化錫などの酸性触媒の存在下、エピクロルヒドリンを反応させてクロルヒドリンエーテルを製造し、次いでクロルヒドリンエーテルをアルカリで分子内閉環させる2段法を用いた場合、第1工程のエピクロルヒドリンの付加反応においてエピクロルヒドリンの2モル付加体の生成が避けられず、この2モル付加体に含まれる有機塩素が第2工程の分子内閉環反応では分解されず、また、通常、グリシジルエーテル類は蒸留精製できないので、得られるグリシジルエーテル類には塩素分として1〜3重量%程度の有機塩素化合物が含まれる。
【0032】
本発明に使用されるジグリシジル化合物(A2)は、その塩素含有量が1%以下のものであることが必要であり、たとえば(1)2価アルコールとエピクロルヒドリンを、アルカリ金属水酸化物の存在下、反応系中の水を、共沸溶剤(たとえば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、またはトルエンのような炭化水素類、エチルエーテルやイソプロピルエーテルのようなエーテル類、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン、またはクロロホルムのようなハロゲン化炭化水素類、スルホキシド化合物など、共沸温度が30〜90℃である溶剤)と共に共沸除去しながら反応させる方法、(2)アルカリ金属水酸化物の当量を0.5〜1.5に調整し、エピクロルヒドリンの存在下で反応させ、水洗および/またはアルカリ吸着剤で処理し、次いでエピクロルヒドリンを留去する方法、(3)ヒドロキシル化合物とエピクロルヒドリンをアルカリの存在下に縮合させ、超音波を照射しながら反応させる方法などによって、その塩素含有量を減少させている。
【0033】
(光カチオン重合開始剤)
光硬化性接着剤組成物に配合される光カチオン重合開始剤(B)は、光照射によりカチオン重合を開始させる物質を放出することが可能な化合物であり、特に好ましいものは、光照射によってルイス酸を放出するオニウム塩である複塩、またはその誘導体である。かかる化合物の代表的なものとしては、一般式、[A]y+[B]y-で表される陽イオンと陰イオンの塩を挙げることができる。
【0034】
ここで、陽イオンAy+は、オニウムであることが好ましく、その構造は、たとえば、[(R41xQ]y+で表すことができる。
【0035】
さらに、R45は炭素数が1〜60であり、炭素以外の原子をいくつ含んでもよい有機の基であり、xは1〜5の整数である。x個のR45は各々独立で、同一でも異なっていてもよい。また、少なくとも1つは、芳香族基であることが好ましい。QはS、N、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、I、Br、Cl、F、N=Nからなる群から選ばれる原子あるいは原子団である。また、陽イオンAy+中のQの原子価をzとしたとき、y=x−zなる関係が成り立つことが必要である。
【0036】
また、陰イオンBy-は、ハロゲン化物錯体であることが好ましく、その構造は、たとえば、[LXsy-で表すことができる。
【0037】
ここで、Lはハロゲン化物錯体の中心原子である金属または半金属(Metalloid)であり、B、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Coなどである。Xはハロゲンである。sは3〜7なる整数である。また、陰イオンBy-中のLの原子価をtとしたとき、y=s−tの関係が成り立つことが必要である。
【0038】
上記一般式における陰イオン[LXsy-の具体例としては、テトラフルオロボレート(BF4-、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6-、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6-、ヘキサクロロアンチモネート(SbC16-などが挙げられる。
【0039】
また、陰イオンBy-は、[LXs-1(OH)]y-で表される構造のものも好ましく用いることができる。L、X、sは上記と同様である。また、その他用いることができる陰イオンとしては、過塩素酸イオン(ClO4-、トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CF3SO3-、フルオロスルホン酸イオン(FSO3-、トルエンスルホン陰酸イオン、トリニトロベンゼンスルホン酸陰イオンなどが挙げられる。
【0040】
また、陰イオンBy-として、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートも好ましく使用することができる。
【0041】
本発明では、このようなオニウム塩のなかでも、芳香族オニウム塩を使用するのが特に有効である。中でも、特開昭50−151997号、特開昭50−158680号公報に記載の芳香族ハロニウム塩、特開昭50−151997号、特開昭52−30899号、特開昭56−55420号、特開昭55−125105号公報等に記載のVIA族芳香族オニウム塩、特開昭50−158698号公報記載のVA族芳香族オニウム塩、特開昭56−8428号、特開昭56−149402号、特開昭57−192429号公報等に記載のオキソスルホキソニウム塩、特開昭49−17040号記載の芳香族ジアゾニウム塩、米国特許第4139655号明細書記載のチオピリリウム塩などが好ましい。
【0042】
これらの芳香族オニウム塩のなかでも特に好ましいものを以下に掲げる。
・下記構造のスルホニウム陽イオンを有する化合物
【0043】
【化5】

【0044】
式中、R46〜R59は各々同一でも異なっていてもよい水素原子、ハロゲン原子、あるいは酸素原子またはハロゲン原子を含んでもよい炭化水素基、もしくは置換基がついてもよいアルコキシ基、Arは1以上の水素原子が置換されていてもよいフェニル基である。
【0045】
・以下のようなオニウム陽イオンを有する化合物:
(トリルクミル)ヨードニウム、ビス(ターシャリブチルフェニル)ヨードニウム、トリフェニルスルホニウムなど。
【0046】
具体的な化合物名を挙げると、たとえば、4−(4−ベンゾイル−フェニルチオ)フェニル−ジ−(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4,4’−ビス〔ビス((β−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニオ〕フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート、4,4’−ビス〔ビス((β−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニオ〕フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、4,4’−ビス(ジフルオロフェニルスルホニオ)フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート、4,4’−ビス(ジフルオロフェニルスルホニオ)フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、4,4’−ビス(フェニルスルホニオ)フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート、4,4’−ビス(フェニルスルホニオ)フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニル−ジ−(4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニル−ジ−(4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニル−ジ−(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニル−ジ−(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニル−ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニル−ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(フェニルチオ)フェニル−ジ−(4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(フェニルチオ)フェニル−ジ−(4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(フェニルチオ)フェニル−ジ−(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(フェニルチオ)フェニル−ジ−(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(フェニルチオ)フェニル−ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(フェニルチオ)フェニル−ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、(トリルクミル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、(トリルクミル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(トリルクミル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ターシャリブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(ターシャリブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ターシャリブチルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ベンジルジメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンジルジメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−クロロベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、p−クロロベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−アセトキシフェニルジメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−アセトキシフェニルジメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−メトキシカルボニルオキシフェニルジメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−メトキシカルボニルオキシフェニルジメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−エトキシカルボニルオキシフェニルジメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−エトキシカルボニルオキシフェニルジメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、α−ナフチルメチルジメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、α−ナフチルメチルジメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、α−ナフチルメチルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、α−ナフチルメチルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、シンナミルジメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、シンナミルジメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、シンナミルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、シンナミルテトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、N−(α−フェニルベンジル)シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、N−(α−フェニルべンジル)−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N−シンナミル−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、N−シンナミル−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N−(α−ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、N−(α−ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N−べンジル−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、N−べンジル−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネートなどがある。
【0047】
また、その他の好ましい光カチオン重合開始剤として、キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロアンチモネート、クメン−シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート、キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II)−トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタナイド等の鉄/アレン錯体、アルミニウム錯体/光分解珪素化合物系開始剤なども挙げられる。
【0048】
以上説明した光カチオン重合開始剤(B)は、1種類を単独で、または2種類以上を混合して使用することができ、その使用量は、光カチオン硬化性成分(A)の全体100重量部に対して、1〜10重量%とする。光カチオン重合開始剤(B)の配合量が少なすぎると、接着剤の硬化が不十分になり、接着強度が低下する。一方、その量が多すぎると、硬化物中のイオン性物質が増加する結果、硬化物の吸湿性が高くなり、偏光板の耐久性能が低下する。
【0049】
(光硬化性接着剤組成物に配合されうるその他の成分)
この光硬化性接着剤組成物には、塗工適性改善のため、有機溶剤が少量配合されてもよい。有機溶剤は、偏光子の光学性能を低下させることなく、光硬化性接着剤組成物を良好に溶解するものであればよく、その種類に特別な限定はない。たとえば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。
【0050】
この光硬化性接着剤組成物は、脂環式エポキシ化合物(A1)およびジグリシジル化合物(A2)以外の重合性モノマーをさらに含んでもよい。重合性モノマーとしては、カチオン重合性モノマー、ラジカル重合性モノマーなどが例示できる。
【0051】
カチオン重合性モノマーとしては、たとえばオキセタン類が挙げられる。オキセタン類は、分子内に4員環エーテルを有する化合物であり、たとえば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[(3−エチル−3−オキセタニル)メチル]エーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、フェノールノボラックオキセタンなどが挙げられる。これらのオキセタン化合物としては市販品を容易に入手することが可能であり、たとえば、いずれも商品名で、「アロンオキセタンOXT−101」、「アロンオキセタンOXT−121」、「アロンオキセタンOXT−211」、「アロンオキセタン OXT−221」、「アロンオキセタンOXT−212」(以上、東亞合成(株)製)などを挙げることができる。
【0052】
上記のカチオン重合性モノマーは接着剤の硬化後の密着性を向上させる作用を有し、必要に応じて、耐候性、光硬化性に影響の無い範囲で用いられる。
【0053】
ラジカル重合性モノマーとしては、たとえばアクリレート化合物、メタクリレート化合物(以下、アクリレートとメタアクリレートとの両方を含む意味で(メタ)アクリレートとも記載する)、アリルウレタン化合物、不飽和ポリエステル化合物、スチレン系化合物が挙げられる。本発明の光硬化性接着剤に使用する場合は、入手がしやすく扱いやすい点で(メタ)アクリレートが好ましい。(メタ)アクリレートとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、(ポリ)エステル(メタ)アクリレート、(ポリ)エーテル(メタ)アクリレート、アルコール類の(メタ)アクリレート、その他の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0054】
ここで、(メタ)アクリレート化合物として例示したウレタン(メタ)アクリレートとは、1種または2種以上の(ポリ)エステルポリオール、(ポリ)エーテルポリオール、多価アルコール等のポリオールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物である水酸基含有(メタ)アクリレートと1種または2種以上の(ポリ)イソシアネート化合物とを反応させて得ることができる(メタ)アクリレート;1種または2種以上の(ポリ)エステルポリオール、(ポリ)エーテルポリオール、多価アルコール等のポリオールと水酸基含有(メタ)アクリレートとイソシアネート類とを反応させて得られる(メタ)アクリレート等の、ウレタン結合を有するエステル化合物である。
【0055】
(ポリ)エステルポリオールを誘導する多価アルコールとしては、たとえば1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。(ポリ)エステルポリオールを誘導するポリカルボン酸としては、たとえば、アジピン酸、テレフタル酸、無水フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸などが挙げられる。
【0056】
(ポリ)エーテルポリオールとしては、前述した多価アルコールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させたものが挙げられる。(ポリ)イソシアネート化合物としては、1価または2価以上のイソシアネートが挙げられ、2価以上のイソシアネートが好ましい。
【0057】
2価以上のイソシアネートとしては、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、トランスおよび/またはシス−1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4および/または(2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リシンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、1−メチルベンゾール−2,4,6−トリイソシアネート、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネートが挙げられる。
【0058】
また、(ポリ)エステル(メタ)アクリレートとは、分子中に1個または2個以上の水酸基を有する(ポリ)エステルと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物である。分子中に1個または2個以上の水酸基を有する(ポリ)エステルとしては、1種または2種以上の多価アルコールと、1種または2種以上のモノカルボン酸またはポリカルボン酸とのエステル化合物が挙げられる。
【0059】
分子中に1個または2個以上の水酸基を有する(ポリ)エステルを誘導する多価アルコールとしては、前述した化合物と同様のものが挙げられ、モノカルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸などが挙げられる。ポリカルボン酸としては、前述した化合物と同様のものが挙げられる。
【0060】
(ポリ)エーテル(メタ)アクリレートとは、分子中に1個または2個以上の水酸基を有する(ポリ)エーテルと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物である。分子中に1個または2個以上の水酸基を有する(ポリ)エーテルとしては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することによって得られるものなどが挙げられる。多価アルコールおよびアルキレンオキサイドとしては、前述した化合物と同様のものが挙げられる。具体的には、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0061】
アルコール類の(メタ)アクリレートとは、分子中に1個または2個以上の水酸基を有するアルコール(特に、脂肪族アルコールまたは芳香族アルコール)類と(メタ)アクリレートとのエステル化合物である。たとえば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0062】
その他のアクリレートとしては、ε−カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、フルオレン誘導体ジ(メタ)アクリレート、カルバゾール誘導体ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0063】
上記のラジカル重合性モノマーは、硬化速度を調節するために使用することができる。
重合性モノマーとしてラジカル重合性モノマーを用いる場合は、光ラジカル重合開始剤も配合される。光ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン系化合物、ベンジル系化合物、べンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物等のケトン系化合物を挙げることができる。
【0064】
アセトフェノン系化合物としては、たとえば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、4’−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−ヒドロキシメチル−2−メチルプロピオフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、P−ターシャリブチルジクロロアセトフェノン、p−ターシャリブチルトリクロロアセトフェノン、p−アジドベンザルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられ、ベンジル系化合物としては、ベンジル、アニシルなどが挙げられ、ベンゾフェノン系化合物としては、たとえば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、ミヒラーケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルフィドなどが挙げられ、チオキサントン系化合物としては、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンなどが挙げられる。
【0065】
これらの光ラジカル重合開始剤は、1種あるいは2種以上のものを所望の性能に応じて配合して使用することができ、ラジカル重合性モノマーに対して、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましくは0.1〜10質量%配合される。ラジカル重合性モノマーに対する光ラジカル重合開始剤の配合量が0.05質量%以上である場合、光硬化性接着剤の硬化をより良好に進行させることができ、10質量%以下である場合、本発明の光硬化性接着剤を硬化させて形成した接着剤層の物理的強度が良好である。
【0066】
重合性モノマーとして用いられる化合物は、1種でも2種以上の混合物でもよい。光硬化性接着剤が脂環式エポキシ化合物(A1)およびジグリシジル化合物(A2)以外の重合性モノマーを含有する場合、それら重合性モノマーの使用量は、前述の脂環式エポキシ化合物(A1)100重量部に対して100重量部以下であることが好ましい。重合性モノマーの使用量が100重量部以下である場合、この光硬化性接着剤を用いて偏光板を作製するときに、偏光子と保護膜との接着強度を良好に維持できる。脂環式エポキシ化合物(A1)100重量部に対する重合性モノマーの使用量は、5重量部以上であることがより好ましく、この場合、重合性モノマーによる改質効果を良好に得ることができる。また重合性モノマーの使用量は50重量部以下であることがより好ましい。
【0067】
さらに、この光硬化性接着剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤成分を含有させることができる。添加剤成分としては、前述の光ラジカル重合開始剤のほか、光増感剤、熱カチオン重合開始剤、ポリオール類、イオントラップ剤、酸化防止剤、光安定剤、連鎖移動剤、増感剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、色素、有機溶剤などを配合することができる。
【0068】
添加剤成分を含有させる場合、その使用量は、前述の脂環式エポキシ化合物(A1)の100重量部に対して1000重量部以下であることが好ましい。その使用量が1000重量部以下である場合、光硬化性接着剤の必須成分である少なくとも脂環式エポキシ化合物(A1)、ジグリシジル化合物(A2)および光カチオン重合開始剤(B)の組合せによる、保存安定性の向上、変色防止、硬化速度の向上、良好な接着性の確保という効果を良好に発揮させることができる。
【0069】
[偏光板]
以上のような光硬化性接着剤組成物を用いて偏光子と保護膜とを貼合し、偏光板を製造する。偏光子と保護膜の間に光硬化性接着剤を塗布する方法に特別な限定はなく、たとえば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、偏光子と保護膜の間に上記光硬化性接着剤を滴下したのち、ロール等で加圧して均一に押し広げる方法も利用できる。ここで、ロールの材質は金属やゴムなどを用いることが可能であり、偏光子と保護膜の間に上記光硬化性接着剤を滴下したものをロールとロールの間に通して加圧して押し広げる場合は、これらロールは同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。接着剤層の厚さは、通常50μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。
【0070】
こうして光硬化性接着剤で形成された接着剤層の上には、透明性を有する保護膜が貼合される。ここで用いる保護膜は特に限定されず、具体的には、現在偏光板の保護膜として最も広く用いられているトリアセチルセルロース等のアセチルセルロース系フィルムや、トリアセチルセルロースよりも透湿度の低い透明樹脂のフィルムを用いることができる。トリアセチルセルロースの透湿度は、概ね400g/m2/24hr程度である。偏光子の両面に保護膜を貼合する場合、2枚の保護膜を段階的に片面ずつ貼合してもよいし、両面を一段階で貼合してもかまわない。
【0071】
本発明で用いるアセチルセルロース系フィルムとしては、前述のトリアセチルセルロースフィルムの他、ジアセチルセルロースフィルム、アセチルブチルセルロースフィルムなどが挙げられる。
【0072】
本発明で用いる透湿度の低い透明樹脂フィルムの例として、非晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリサルホン系樹脂フィルム、脂環式ポリイミド系樹脂フィルムなどが挙げられる。これらのなかでは、非晶性ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムが特に好ましく用いられる。非晶性ポリオレフィン系樹脂は通常、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマーのような環状オレフィンの重合単位を有するものであり、環状オレフィンと鎖状オレフィンとの共重合体であってもよい。なかでも、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂が代表的である。また、極性基が導入されているものも有効である。市販されている非晶性ポリオレフィン系樹脂として、ジェイエスアール(株)の“アートン”、日本ゼオン(株)の“ZEONEX”および“ZEONOR”、三井化学(株)の“APO”および“アペル”などがある。非晶性ポリオレフィン系樹脂を製膜してフィルムとすることになるが、製膜には、溶剤キャスト法、溶融押出法など、公知の方法が適宜用いられる。
【0073】
本発明において、好ましい形態の一つは、保護膜が非晶性ポリオレフィン系樹脂からなる300g/m2/24hr以下の透湿度を有するものである。
【0074】
偏光子の両面に保護膜を貼合する場合、両者は、同じ種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。偏光子の両面に異なる種類の保護膜を貼合する場合には、一方の保護膜として、前述の非晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリサルホン系樹脂フィルム、脂環式ポリイミド系樹脂フィルムなどの透湿度の低い樹脂フィルムを用いることができ、他方の保護膜としては、これらのほか、前述のトリアセチルセルロースフィルム、ジアセチルセルロースフィルムやアセチルブチルセルロースフィルムなど、セルロースアセテート系フィルムを用いることもできる。また、このように偏光子の一方の面にセルロースアセテート系フィルムのような透湿度の比較的高い樹脂フィルムからなる保護膜を設ける場合、かかる透湿度の高い樹脂フィルムの貼合面には、ポリビニルアルコール系接着剤など、エポキシ系以外の接着剤を用いてもよい。
【0075】
保護膜は、偏光子への貼合に先立って、貼合面に、ケン化処理、コロナ処理、プライマ処理、アンカーコーティング処理などの易接着処理が施されてもよい。また、保護膜の偏光子への貼合面と反対側の表面には、ハードコート層、反射防止層、防眩層などの各種処理層を有していてもよい。保護膜の厚みは、通常5〜200μm 程度の範囲であり、好ましくは10〜120μm 、さらに好ましくは10〜85μm である。
【0076】
以上のように未硬化の接着剤層を介して偏光子に保護膜が貼合された偏光子には、次いで活性エネルギー線を照射することにより、エポキシ樹脂組成物からなる接着剤層を硬化させ、保護膜を偏光子上に固着させる。
【0077】
活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する、たとえば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどを用いることができる。エポキシ樹脂組成物への光照射強度は、目的とする組成物毎に決定されるものであって、やはり特に限定されないが、開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜100mW/cm2であることが好ましい。樹脂組成物への光照射強度が0.1mW/cm2未満であると、反応時間が長くなりすぎ、100mW/cm2 を超えると、ランプから輻射される熱および組成物の重合時の発熱により、エポキシ樹脂組成物の黄変や偏光子の劣化を生じる可能性がある。組成物への光照射時間は、硬化する組成物毎に制御されるものであって、やはり特に限定されないが、照射強度と照射時間の積として表される積算光量が10〜5,000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。上記エポキシ樹脂組成物への積算光量が10mJ/cm2 未満であると、開始剤由来の活性種の発生が十分でなく、得られる保護膜の硬化が不十分となる可能性があり、一方でその積算光量が5,000mJ/cm2を超えると、照射時間が非常に長くなり、生産性向上には不利なものとなる。
【0078】
活性エネルギー線の照射により光硬化性接着剤を硬化させるにあたっては、偏光子の偏光度、透過率および色相、また保護膜の透明性といった、偏光板の諸機能が低下しない範囲で硬化させることが好ましい。
【0079】
[積層光学部材]
偏光板の使用に際しては、本発明の保護膜層を介して偏光機能以外の光学機能を示す光学層を設けた光学部材とすることもできる。光学部材の形成を目的に偏光板に積層する光学層には、たとえば、反射層、半透過型反射層、光拡散層、位相差板、集光板、輝度向上フィルムなど、液晶表示装置等の形成に用いられるものがある。前記の反射層、半透過型反射層および光拡散層は、反射型ないし半透過型や拡散型、それらの両用型の偏光板からなる光学部材を形成する場合に用いられるものである。
【0080】
反射型の偏光板は、視認側からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置に用いられ、バックライト等の光源を省略できるため、液晶表示装置を薄型化しやすい。また半透過型の偏光板は、明所では反射型として、暗所ではバックライト等の光源を介して表示するタイプの液晶表示装置に用いられる。反射型偏光板としての光学部材は、たとえば、偏光子上の保護膜にアルミニウム等の金属からなる箔や蒸着膜を付設して、反射層を形成することができる。半透過型の偏光板としての光学部材は、前記の反射層をハーフミラーとしたり、パール顔料などを含有して光透過性を示す反射板を偏光板に接着することで形成できる。一方、拡散型偏光板としての光学部材は、たとえば、偏光板上の保護膜にマット処理を施す方法、微粒子含有の樹脂を塗布する方法、微粒子含有のフィルムを接着する方法など、種々の方法を用いて、表面に微細凹凸構造を形成する。
【0081】
さらに、反射拡散両用の偏光板としての光学部材の形成は、たとえば、拡散型偏光板の微細凹凸構造面にその凹凸構造が反映した反射層を設けるなどの方法により、行なうことができる。微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させ、指向性やギラツキを防止し、明暗のムラを抑制しうる利点などを有する。また、微粒子を含有した樹脂層やフィルムは、入射光およびその反射光が微粒子含有層を透過する際に拡散されて、明暗ムラをより抑制しうるなどの利点も有している。表面微細凹凸構造を反映させた反射層は、たとえば、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の蒸着やメッキなどの方法で、金属を微細凹凸構造の表面に直接付設することで形成できる。表面微細凹凸構造を形成するために配合する微粒子としては、たとえば、平均粒径が0.1〜30μmのシリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモンなどからなる無機系微粒子、架橋または未架橋のポリマーなどからなる有機系微粒子などが利用できる。
【0082】
他方、上記した光学層としての位相差板は、液晶セルによる位相差の補償などを目的として使用される。その例としては、各種プラスチックの延伸フィルムなどからなる複屈折性フィルム、ディスコティック液晶やネマチック液晶が配向固定されたフィルム、フィルム基材上に上記の液晶層が形成されたものなどが挙げられる。この場合、配向液晶層を支持するフィルム基材として、トリアセチルセルロースなどセルロース系フィルムが好ましく用いられる。
【0083】
複屈折性フィルムを形成するプラスチックとしては、たとえば、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリアリレート、ポリアミドなどが挙げられる。延伸フィルムは、一軸や二軸等の適宜な方式で処理したものであってよい。また、熱収縮性フィルムとの接着下に収縮力および/または延伸力をかけることでフィルムの厚さ方向の屈折率を制御した複屈折性フィルムでもよい。なお、位相差板は、広帯域化など光学特性の制御を目的として、2枚以上を組み合わせて使用してもよい。
【0084】
集光板は、光路制御などを目的に用いられるもので、プリズムアレイシートやレンズアレイシート、あるいはドット付設シートなどとして、形成することができる。
【0085】
輝度向上フィルムは、液晶表示装置等における輝度の向上を目的に用いられるもので、その例としては、屈折率の異方性が互いに異なる薄膜フィルムを複数枚積層して反射率に異方性が生じるように設計された反射型偏光分離シート、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持した円偏光分離シートなどが挙げられる。
【0086】
光学部材は、偏光板と、前述した反射層ないし半透過型反射層、光拡散層、位相差板、集光板、輝度向上フィルムなどから使用目的に応じて選択される1層または2層以上の光学層とを組み合わせ、2層または3層以上の積層体とすることができる。その場合、光拡散層や位相差板、集光板や輝度向上フィルムなどの光学層は、それぞれ2層以上を配置してもよい。なお、各光学層の配置に特に限定はない。
【0087】
光学部材を形成する各種光学層は、接着剤を用いて一体化されるが、そのために用いる接着剤は、接着層が良好に形成されるものであれば特に限定はない。接着作業の簡便性や光学歪の発生防止などの観点から、粘着剤(感圧接着剤とも呼ばれる)を使用することが好ましい。粘着剤には、アクリル系重合体や、シリコーン系重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマーとしたものを用いることができる。なかでもアクリル系粘着剤のように、光学的な透明性に優れ、適度な濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれ等の剥離問題を生じないものを選択して用いることが好ましい。アクリル系粘着剤においては、メチル基やエチル基やブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどからなる官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。
【0088】
偏光板への粘着剤層の形成は、たとえば、トルエンや酢酸エチルなどの有機溶媒に粘着剤組成物を溶解または分散させて10〜40重量%の溶液を調製し、これを偏光板上に直接塗工して粘着剤層を形成する方式や、予めプロテクトフィルム上に粘着剤層を形成しておき、それを偏光板上に移着することで粘着剤層を形成する方式などにより、行なうことができる。粘着剤層の厚さは、その接着力などに応じて決定されるが、1〜50μm程度の範囲が適当である。
【0089】
また、粘着層には必要に応じて、ガラス繊維やガラスビーズ、樹脂ビーズ、金属粉やその他の無機粉末などからなる充填剤、顔料や着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが配合されていてもよい。紫外線吸収剤には、サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などがある。
【0090】
光学部材は、液晶セルの片側または両側に配置することができる。用いる液晶セルは任意であり、たとえば、薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型のもの、スーパーツイステッドネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型のものなど、種々の液晶セルを使用して液晶表示装置を形成することができる。液晶セルの両側に設ける光学部材は、同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。まず、偏光子の一方の保護膜として用いた防眩層付きポリエチレンテレフタレートフィルムを作製した参考例を示す。
【0092】
[参考例](防眩層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムの作製)
次の各成分が酢酸エチルに固形分濃度60%で溶解されており、硬化後に1.53の屈折率を与える紫外線硬化性樹脂組成物を用意した。
【0093】
ペンタエリスリトールトリアクリレート 60部
多官能ウレタン化アクリレート * 40部
* 多官能ウレタン化アクリレート:ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応生成物。
【0094】
次にこの紫外線硬化性樹脂組成物の固形分100部に対し、多孔質シリカ粒子〔商品名“サイリシア”、富士シリシア化学(株)製〕を2部と、光重合開始剤である2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(商品名“ルシリンTPO”、BASF社製)を5部添加して、防眩層用塗布液を調製した。
【0095】
この塗布液を、片面に易接着層を有し、厚さ38μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの易接着層が設けられていない面(ポリエチレンテレフタレート自体からなる面)に塗布して、紫外線硬化性樹脂組成物層を形成し、80℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させた。乾燥後のフィルムの紫外線硬化性樹脂組成物層側から、高圧水銀灯の光を、UVA(315〜400nm)波長として、照度が250mW/cm2で、積算光量が300mJ/cm2となるように照射し、紫外線硬化性樹脂組成物層を硬化させて、表面に凹凸を有する厚さ5μmの防眩層(硬化樹脂)と二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとの積層体からなる防眩フィルムを得た。この防眩フィルムのヘイズ値を、ヘイズ・透過率計“HM−150”〔(株)村上色彩技術研究所製〕を用いて測定したところ、10%のヘイズ値が得られた。
【0096】
次に、光硬化性接着剤組成物を調製し、偏光板の作製に適用した実施例および比較例を示す。以下の例で用いた光カチオン硬化性成分および光カチオン重合開始剤は次のとおりであり、以下それぞれの記号で表示する。
【0097】
(A)光カチオン硬化性成分
(A1)脂環式エポキシ化合物
a1 :3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート
【0098】
(A2)ジグリシジル化合物
a21 :1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(塩素含有量0.5%)
a21c:1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(塩素含有量8.0%)
a22 :ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(塩素含有量0.5%)
a22c:ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(塩素含有量8.1%)
a23 :シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(塩素含有量0.4%)
a23c:シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(塩素含有量7.7%)
【0099】
(B)光カチオン重合開始剤(表では「開始剤」と略記する)
(b1)トリアリールスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート
【0100】
[実施例1〜6および比較例1〜5]
(1)光硬化性接着剤組成物の調製
光カチオン硬化性成分および光カチオン重合開始剤を、それぞれ表1に示す配合割合で混合した後、脱泡して、光硬化性接着剤液を調製した。なお、光カチオン重合開始剤(b1)は、50%プロピレンカーボネート溶液として配合し、表1にはその固形分量で表示した。
【0101】
(2)硬化前接着剤の塩素濃度の測定
上で調製したそれぞれの接着剤液に含まれる塩素濃度を、以下のようにして測定した。すなわち、まず各接着剤液を燃焼装置“TOX−100”〔(株)ダイアインスツルメンツ製〕で分解し、ガスを吸収液に捕集した後、イオンクロマトグラフ装置“ICS−2000”(ダイオネクス社製)で塩素量を求め、それと最初の分解に用いた接着剤液の量から、塩素濃度を算出した。それぞれの塩素濃度測定結果を表1に示した。
【0102】
(3)硬化物の80℃における貯蔵弾性率の測定
表面に易接着層を有しないポリエチレンテレフタレートフィルム〔商品名“東洋紡エステルフィルムE7002”、東洋紡績(株)製〕の片面に、塗工機〔バーコーター、第一理化(株)製〕を用いて、上記(1)で調製したそれぞれの接着剤液を硬化後の膜厚が約25μmとなるように塗工した。次に、フュージョンUVシステムズ社製の“Dバルブ”により、積算光量が3000mJ/cm2となるように紫外線を照射して、接着剤を硬化させた。これを5mm×30mmの大きさに裁断し、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がして接着剤の硬化フィルムを得た。そして、アイティー計測機器(株)製の動的粘弾性測定装置“DVA−220”を使用し、上で得た硬化フィルムをその長辺が引張り方向となるようにつかみ具の間隔2cmで把持し、引張りと収縮の周波数1Hz、昇温速度3℃/分に設定して、温度80℃における貯蔵弾性率を求めた。結果を表1に示した。
【0103】
(4)偏光板の作製
紫外線吸収剤を含む厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム〔商品名“フジタック”、富士フイルム(株)製〕の表面にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面に、バーコーターを用いて、上記(1)で調製したそれぞれの接着剤液を硬化後の膜厚が約3μmとなるように塗工した。その接着剤層にポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子を貼合した。一方、参考例で作製した防眩層を有する厚さ43μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの防眩層とは反対側の表面(易接着層面)にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面に、上と同じ接着剤液を硬化後の膜厚が約3μmとなるようにバーコーターで塗工した。その接着剤層に、上で作製したトリアセチルセルロースフィルムが片面に貼合された偏光子の偏光子側を貼合し、積層物を作製した。この積層物の防眩層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム側から、ベルトコンベア付き紫外線照射装置を用いて、フュージョンUVシステムズ社製の“Dバルブ”により、積算光量が750mJ/cm2となるように紫外線を照射して、接着剤を硬化させた。こうして、偏光子の両面に保護膜が貼合された偏光板を作製した。
【0104】
(5)冷熱衝撃試験による偏光板の耐久性評価
上記(4)で作製した偏光板を170mm×110mmの大きさに裁断し、トリアセチルセルロースフィルム側に厚さ25μmのアクリル系粘着剤層を設け、その粘着剤層をガラス板に貼って、冷熱衝撃試験(ヒートショック試験)を行なった。冷熱衝撃試験は、上記のガラス板に貼合された偏光板サンプルを、−35℃で1時間保持し、次に70℃に昇温して1時間保持する操作を1サイクルとし、これを合計30サイクル繰り返すことにより行なった。この試験をそれぞれの偏光板6サンプルについて行ない、試験後の偏光子に割れが観察されたものの全サンプル数(6)に対する割合で評価した。結果を表1に示した。
【0105】
【表1】

【0106】
表1に示すとおり、光カチオン硬化性成分(A)中の脂環式エポキシ化合物(A1)を50〜60%、ジグリシジル化合物(A2)を50〜40%とした光硬化性接着剤組成物において、ジグリシジル化合物(A2)として、いずれも塩素含有量の多い1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(a21c)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(a22c)、またはシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(a23c)を用いた比較例2〜5は、接着剤の硬化物が低い貯蔵弾性率しか示さず、偏光板としたとき、冷熱衝撃試験によって偏光子が割れやすい状態であった。
【0107】
これに対し、いずれも塩素含有量を少なくした1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(a21)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(a22)、またはシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(a23)を用いた実施例1〜6は、脂環式エポキシ化合物(A1)と組み合わせた接着剤の硬化物が、高い貯蔵弾性率を示し、偏光板としたときに偏光子の割れを有効に防止できることが確認された。
【0108】
なお、塩素含有量の少ない1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(a21)を用いた場合であって、その配合量を光カチオン硬化性成分(A)中50%とした比較例1の接着剤は、硬化物の貯蔵弾性率が低く、偏光板としたときに冷熱衝撃試験によって偏光子が割れやすい状態であった。このように、ジグリシジル化合物(A2)の種類によっては、塩素含有量を少なくしても、光カチオン硬化性成分(A)中の当該ジグリシジル化合物(A2)の配合量が50%付近になると、硬化物が十分な貯蔵弾性率を与えないことがあるが、本発明で規定するとおり、硬化物が80℃において1000MPa以上の貯蔵弾性率を示すように、脂環式エポキシ化合物(A1)とジグリシジル化合物(A2)を組み合わせればよいことがわかる。
【0109】
実施例1〜6において、光カチオン硬化性成分(A)中の脂環式エポキシ化合物(A1=a1)の量を70%または80%に高め、残りを塩素含有量の少ないジグリシジル化合物(a21、a22またはa23)とすれば、接着剤液の粘度は相応に上昇するものの、室温で塗布が可能な程度の粘度に抑えられ、かつ硬化物が高い貯蔵弾性率を与え、偏光板としたときに、やはり偏光子の割れを有効に防止できるものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の少なくとも一方の面に、接着剤を介して透明樹脂からなる保護膜が貼合されてなる偏光板であって、前記接着剤は、
(A)(A1)分子内に2個以上のエポキシ基を有し、そのうちの少なくとも1個は脂環式環に結合している脂環式エポキシ化合物を50〜95重量%、および
(A2)塩素含有量が1重量%以下であって、下式(I):
【化1】

(式中、Zは炭素数1〜9のアルキレン基、炭素数3もしくは4のアルキリデン基、2価の脂環式炭化水素基、または式−Cm2m−Z1−Cn2n−で示される2価の基を表し、ここで−Z1−は、−SO2−、−SO−または−CO−を表し、mおよびnは各々独立に1以上の整数を表すが、両者の合計は9以下である。)
で示されるジグリシジル化合物を5〜50重量%
含有する光カチオン硬化性成分100重量部に対し、
(B)光カチオン重合開始剤を1〜10重量部
含有し、その硬化物が、80℃において1000MPa以上の貯蔵弾性率を示す光硬化性接着剤組成物から形成されている、偏光板。
【請求項2】
偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護膜は、アセチルセルロース系樹脂からなる請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護膜は、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂および鎖状ポリオレフィン系樹脂からなる群より選ばれる請求項1に記載の偏光板。
【請求項4】
偏光子の一方の面に、アセチルセルロース系樹脂からなる保護膜が前記接着剤を介して貼合され、偏光子の他方の面に、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂および鎖状ポリオレフィン系樹脂からなる群より選ばれる透明樹脂からなる保護膜が前記接着剤を介して貼合されている請求項1に記載の偏光板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の偏光板と他の光学層との積層体からなる、積層光学部材。
【請求項6】
前記光学層は位相差フィルムを含む請求項5に記載の積層光学部材。

【公開番号】特開2012−208246(P2012−208246A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72886(P2011−72886)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】