説明

偏波無依存型光波長フィルタ、光合分波素子及びマッハツェンダ干渉器

【課題】偏波依存性をなくすること。
【解決手段】単結晶Si製であり、臨み合う第1及び第2側面16及び16と、臨み合う第3及び第4側面16及び16と、臨み合う上面及び下面16及び16とで囲まれた直方体であって、1.2〜1.6μmの波長の異なる第1及び第2光の混合光を偏波無依存で波長分離する多モード干渉光導波路16と、第1側面に接続され、混合光が入力される第1光導波路18と、第2側面に接続され、波長分離された第1及び第2光をそれぞれ出力する第2及び第3光導波路20及び22とが、クラッド14に埋設されて形成されており、クラッドの屈折率nが1〜1.6の値であり、多モード干渉光導波路の厚みtが0.2〜0.4μmの値であり、及び多モード干渉光導波路の幅Wが1.0〜3.7μmの値であり、クラッドの屈折率が大きくなると共に幅が大きくなり、かつ、厚みが大きくなると共に幅が大きくなる関係を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異なる波長の光を分離する偏波無依存型光波長フィルタ、及びこの光波長フィルタを用いた光合分波素子とマッハツェンダ干渉器とに関する。
【背景技術】
【0002】
光加入者系においては、加入者側から局側への光伝送(上り通信)と、局側から加入者側への光伝送(下り通信)を一本の光ファイバで行う必要があり、そのため上り通信及び下り通信を異なる波長の光で行っている。このため、局側及び加入者側の双方で、異なる波長の光を分離する光波長フィルタが必要となる。一般的に光加入者系では、この光波長フィルタと発光素子及び受光素子とを空間光学的に光軸合わせして組み立てることより、光合分波素子として用いている。加入者側で用いられる光合分波素子は加入者側終端装置(ONU:Optical Network Unit)と称される(例えば、特許文献1〜5)。
【0003】
近年、光波長フィルタとして、光軸合わせを不要とする光導波路型の光波長フィルタが研究されている。この種の光波長フィルタとしては、マッハツェンダ干渉計を用いたもの、方向性結合器を用いたもの、多モード干渉光導波路を用いたもの等が知られている。
【0004】
マッハツェンダ干渉計を用いた光波長フィルタは、回路理論を用いて波長特性を設計できる利点がある。しかし、ONUに使用するSi製のマッハツェンダ型光波長フィルタは、等価屈折率や結合係数の波長依存性が大きいために設計が難しい。
【0005】
また、方向性結合器を用いた光波長フィルタは、透過率が波長依存性を有しているために、光源から出力される光の波長のズレにより透過率が変化してしまう。
【0006】
また、多モード干渉光導波路を用いた光波長フィルタとしては、1.3μmの波長の光と、1.5μmの波長の光を分離できる光学素子(例えば、非特許文献1参照)が知られている。
【0007】
また、波長フィルタとは異なるが、この発明に関連する技術として、特定の波長帯域で出力光の分配比を偏波無依存にする光学素子(例えば、非特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許明細書 第4860294号
【特許文献2】米国特許明細書 第5764826号
【特許文献3】米国特許明細書 第5960135号
【特許文献4】米国特許明細書 第7072541号
【特許文献5】特開平8−163028号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Baojun Li etal.“1×2 optical waveguide filters based on multimode interface for 1.3− and 1.55−μm operation”,Optical Engineering,vol.41,No.3,pp723−727(March,2002)
【非特許文献2】Daoxin Dai and Sailing He,“Optimization of ultracompact polarization insensitive multimode interference couplers based on Si nanowire waveguides ,”IEEE Photonics Technology Letters,vol.18,No.19,pp.2017−2019(Oct,2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1に記載された光波長フィルタは、大きな偏波依存性があり、TE成分及びTM成分のどちらか一方の偏波成分しか利用することができなかった。
【0011】
また、非特許文献1に記載された光波長フィルタを構成する材料は、SiGeであるため、Si製の素子に比べて作成が難しかった。
【0012】
さらに、非特許文献2に記載された光学素子は、異なる波長の光を偏波無依存で波長分離するものではなかった。
【0013】
発明者は鋭意検討の結果、クラッドの屈折率に対して、多モード干渉光導波路の幅及び厚みを最適化することにより、異なる波長の光を偏波無依存で波長分離できることに想到し、この発明を完成するに至った。
【0014】
この発明は、このような問題点に鑑みなされたものである。従って、この発明の目的は、多モード干渉光導波路を用いたSi製の作成容易な偏波無依存型光波長フィルタを提供することにある。
【0015】
また、この発明の更なる目的は、偏波無依存型光波長フィルタを用いた光合分波素子及びマッハツェンダ干渉器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的の達成を図るために、この発明の偏波無依存型光波長フィルタは、多モード干渉光導波路と、第1光導波路と、第2及び第3光導波路とが、基板の第1主面側にクラッドに埋設されて(埋め込まれて)形成されている。
【0017】
多モード干渉光導波路は、単結晶Siを用いて形成されていて、互いに平行に対向する第1及び第2側面と、互いに平行に対向する第3及び第4側面と、互いに平行に対向する上面及び下面とで囲まれた直方体であって、1.2〜1.6μmの波長範囲の中から選択された互いに波長の異なる第1及び第2光の混合光を偏波無依存で波長分離する。
【0018】
第1光導波路は、第1側面に光学的に接続されており、混合光が入力される。
【0019】
第2及び第3光導波路は、第2側面に光学的に接続されており、かつ、これら第2及び第3光導波路から波長分離された第1及び第2光がそれぞれ出力される。
【0020】
そして、クラッドの屈折率nが1〜1.6の範囲の値であり、多モード干渉光導波路の上面及び下面の間の距離である厚みtが0.2〜0.4μmの範囲の値であり、及び多モード干渉光導波路の第3及び第4側面の間の距離である幅Wが1.0〜3.7μmの範囲の値である。さらに、屈折率nと幅Wと厚みtとが、屈折率nが大きくなると共に幅Wが大きくなり、かつ、厚みtが大きくなると共に幅Wが大きくなる関係にある。
【0021】
上述した偏波無依存型光波長フィルタの好適な実施態様によれば、第1〜第3光導波路の、光伝播方向に直交しかつ基板の第1主面に平行な方向に測った幅は、多モード干渉光導波路から離れた側から多モード干渉光導波路との接続部に向かうにつれて、直線的に拡大しているのがよい。
【0022】
上述した偏波無依存型光波長フィルタの別の好適な実施態様によれば、基板の第1主面に平行な面内で多モード干渉光導波路がなす矩形の中心点を通り、幅方向に延びる直線を第1軸としたときに、第2光導波路は、第1軸を対称軸として、第1光導波路と線対称な位置に設けられており、かつ、第3光導波路は、中心点を対称中心として、第1光導波路と点対称な位置に設けられているのがよい。
【0023】
上述した偏波無依存型光波長フィルタのまた別の好適な実施態様によれば、クラッドの材料をSiOとするのがよい。
【0024】
上述した偏波無依存型光波長フィルタのさらに別の好適な実施態様によれば、(i)多モード干渉光導波路の第1及び第2側面の間の距離である全長をLとし、第1光のTE成分における0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、第1光のTE成分の多モード干渉光導波路の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とし、
(ii)第1光のTM成分における0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、第1光のTM成分の多モード干渉光導波路の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とし、
(iii)第2光のTE成分における0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、第2光のTE成分の多モード干渉光導波路の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とし、
(iv)第2光のTM成分における0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、第2光のTM成分の多モード干渉光導波路の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とするとき、
多モード干渉光導波路での干渉条件を与える下記式(A)〜(D)が成立し、m=mかつm=m、及び、mとmとの差を奇数するのがよい。
Δβ=mπ・・・(A)
Δβ=mπ・・・(B)
Δβ=mπ・・・(C)
Δβ=mπ・・・(D)
【0025】
上述した偏波無依存型光波長フィルタのさらにまた別の好適な実施態様によれば、第1光の波長を1.31μmとし、及び、第2光の波長を1.49μmとした場合に、多モード干渉光導波路の厚みtと幅Wとが下記式(E)及び(F)を満たすのがよい。
t≧0.25μmの場合:W=42(t−0.25)1.48+1.15・・・(E)
t<0.25μmの場合:1.1<W<1.15・・・(F)
【0026】
この発明の光合分波素子は、上述の偏波無依存型波長フィルタを用いていて、第1光が第2光導波路から入力されて、多モード干渉光導波路を経て第1光導波路から出力され、第2光が第1光導波路から入力されて、多モード干渉光導波路を経て第3光導波路から出力される。
【0027】
この発明のマッハツェンダ干渉器は、上述の偏波無依存型光波長フィルタを利用していて、偏波無依存型光波長フィルタと、光カプラと、偏波無依存型光波長フィルタ及び光カプラを光学的に接続する第1及び第2アーム光導波路とを備えている。
【0028】
光カプラは、偏波無依存型光波長フィルタにおける第1軸を対称軸として第3光導波路と線対称な位置に第4光導波路が更に設けられて構成されている。
【0029】
第1アーム光導波路は、偏波無依存型光波長フィルタの第2光導波路と、光カプラの第1光導波路とを接続している。
【0030】
第2アーム光導波路は、偏波無依存型光波長フィルタの第3光導波路と、光カプラの第4光導波路とを接続している。
【0031】
そして、第1及び第2アーム光導波路の光伝播方向に直交する横断面形状が正方形状であり、かつ、第1及び第2アーム光導波路の光路長が異なっている。
【0032】
上述のマッハツェンダ干渉器の好適な実施態様によれば、偏波無依存型光波長フィルタ及び光カプラの両者において、多モード干渉光導波路を伝播した後の第1光及び第2光の干渉次数を一方は半整数であり他方は偶数とするように、偏波無依存型光波長フィルタ及び光カプラの全長が決定されているのがよい。
【0033】
上述のマッハツェンダ干渉器の別の好適な実施態様によれば、偏波無依存型光波長フィルタ及び光カプラの両者において、多モード干渉光導波路を伝播した後の第1光及び第2光の干渉次数を両者とも半整数とするように光カプラの全長が決定されているのがよい。
【発明の効果】
【0034】
この発明は、上述のような構成上の特徴を有している。その結果、多モード干渉光導波路を用いたSi製の作成容易な偏波無依存型光波長フィルタが得られる。さらに、この偏波無依存型光波長フィルタを利用した光合分波素子及びマッハツェンダ干渉器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態1の偏波無依存型光波長フィルタの構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】実施形態1の偏波無依存型光波長フィルタの構成を概略的に示す平面図である。
【図3】実施形態1の偏波無依存型光波長フィルタにおいて、クラッドとしてSiOを用い、第1光の波長を1.31μmとし、及び第2光の波長を1.49μmとした場合に、多モード干渉光導波路を偏波無依存とする幅と厚みとの関係を説明するための特性図である。
【図4】実施形態1の光波長フィルタにおいて、多モード干渉光導波路における混合光の伝播径路の一例を模式的に示した模式図である。
【図5】実施形態1の光波長フィルタにおいて、数値計算により求めた、多モード干渉光導波路の全長と干渉次数との関係を説明するための特性図である。
【図6】実施形態1の光波長フィルタの波長分離特性の説明に供する特性図である。
【図7】光合分波素子の構成を概略的に示す平面図である。
【図8】実施形態2のマッハツェンダ干渉器の構造を概略的に示す平面図である。
【図9】実施形態2のマッハツェンダ干渉器に光波長フィルタと光カプラを適用した場合の、数値計算により求めた、光波長フィルタと光カプラの全長と干渉次数との関係を説明するための特性図である。
【図10】実施形態2のマッハツェンダ干渉器の波長分離特性の説明に供する特性図である。
【図11】(A)は、第1変形例の第1光学素子の構造を概略的に示す平面図であり、及び(B)は、第2変形例の第2光学素子の構造を概略的に示す平面図である。
【図12】第1変形例の第1光学素子の動作の説明に供する特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。なお、各図は、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係について、この発明が理解できる程度に概略的に示してある。また、以下、この発明の好適な構成例について説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。また、各図において、共通する構成要素には同符号を付し、その説明を省略することもある。
【0037】
(実施形態1)
以下、図1〜図6を参照して、実施形態1の偏波無依存型光波長フィルタ(以下、単に「光波長フィルタ」と称する。)について説明する。
【0038】
(構造)
図1は、この実施形態の光波長フィルタの構成を概略的に示す斜視図である。図2は、この実施形態の光波長フィルタの構成を概略的に示す平面図である。なお、図1及び図2において、光波長フィルタ10はクラッド14に埋設されているために、直接目視することはできないが、その存在を強調して示すために、実線で描いて示してある。
【0039】
図1及び図2を参照すると、光波長フィルタ10は、基板12の第1主面12a側にクラッド14に埋設されて(埋め込まれて)形成されていて、多モード干渉光導波路16と、第1光導波路18と、第2光導波路20と、第3光導波路22とを備えている。
【0040】
基板12は、単結晶Siを材料として形成された平行平板である。
【0041】
クラッド14は、基板12の第1主面12a上に、光波長フィルタ10を埋め込んで形成された、ほぼ平行平板状の層状体である。クラッド14は、屈折率nが1〜1.6の範囲の値を有する材料により形成される。この実施形態の場合には、クラッド14は、好ましくは、例えば屈折率nが1.46のSiOを材料とする。基板12の第1主面12aと多モード干渉光導波路16の下面16との間に介在するクラッド14の厚みは、好ましくは、例えば約1μm以上の大きさとする。これは、多モード干渉光導波路16を伝播する光の基板12への放射による損失を防ぐためである。
【0042】
多モード干渉光導波路16(以下、単に「多モード導波路16」と称する。)は、単結晶Siを用いて形成されていて、互いに平行に対向する第1及び第2側面16及び16と、互いに平行に対向する第3及び第4側面16及び16と、互いに平行に対向する上面16及び下面16とで囲まれた直方体状に形成されていて、図2の平面図に示すように、多モード導波路16の平面形状は矩形である。
【0043】
詳しくは後述するが、多モード導波路16は、1.2〜1.6μmの波長範囲の中から選択された互いに波長の異なる第1光L1及び第2光L2の混合光LMを偏波無依存で波長分離する機能を有する。
【0044】
この実施形態では、第1光L1の波長を、好ましくは、例えば光加入者系通信分野で加入者側→局側通信に用いられる波長1.31μmとするのがよい。そして、第1光L1のTE成分及びTM成分を、それぞれL1TE及びL1TMと表す。
【0045】
また、第2光L2の波長を、好ましくは、例えば光加入者系通信分野で局側→加入者側通信に用いられる波長1.49μmとするのがよい。そして、第2光L2のTE成分及びTM成分を、それぞれL2TE及びL2TMと表す。
【0046】
ここで、多モード導波路16の、後述する光伝播方向に沿った長さ、すなわち第1及び第2側面16及び16の間の距離を全長Lとする。また、この全長Lに沿う方向を「長さ方向」又は「光伝播方向」と称する。
【0047】
同様に、多モード導波路16の、光伝播方向に直交しかつ基板12の第1主面12aに平行な方向の距離、すなわち第3及び第4側面16及び16の間の距離を幅Wとする。また、幅Wに沿う方向を「幅方向」と称する。
【0048】
また、多モード導波路16の、第1主面12aに垂直な方向に測った距離、すなわち上面16及び下面16の間の距離を厚みtとする。また、厚みtに沿う方向を「厚み方向」と称する。
【0049】
また、第1側面16の幅方向の中点と、第2側面16の幅方向の中点とを通る直線を中心軸C0とする。また、第3側面16の長さ方向の中点と、第4側面16の長さ方向の中点とを通る直線を第1軸C1とする。さらに、上面16の2本の対角線の交差点、すなわち中心軸C0と第1軸C1との交差点を中心点Pとする(図2参照)。
【0050】
詳しくは後述するが、多モード導波路16は、第1光L1及び第2光L2を偏波無依存で波長分離するために、厚みtと幅Wとをクラッド14の屈折率nに対して最適化してある。
【0051】
より具体的には、厚みtは、好ましくは、例えば約0.2〜0.4μmの範囲の値の中から設計に応じて好適な値を選択する。この実施形態の場合には、厚みtは、約0.3μmとするのがよい。
【0052】
同様に、幅Wは、好ましくは、例えば約1.0〜3.7μmの範囲の値の中から設計に応じて好適な値を選択するのがよい。この実施形態の場合には、幅Wは、約1.65μmとする。
【0053】
多モード導波路16の厚みtと幅Wを上述した範囲内の値とすることにより、クラッド14の屈折率nが1〜1.6の場合に、多モード導波路16は第1光及び第2光L1及びL2を偏波無依存で伝播させることができる。
【0054】
そして、多モード導波路16において、クラッド14の屈折率nと、幅Wと、厚みtとの間には、屈折率nが大きくなると共に幅Wが大きくなり、かつ、厚みtが大きくなると共に幅Wが大きくなる関係が成り立つ。なお、この理由については、(設計条件)の項で詳述する。
【0055】
より詳細には、この実施形態のように、クラッド14として屈折率nが1.46のSiOを用い、第1光L1の波長を1.31μmとし、及び第2光L2の波長を1.49μmとした場合に、多モード導波路16の厚みtと幅Wとは、下記式(1)及び式(2)を満たすように設計されている。図3は、厚みtと幅Wとの関係を示す特性図である。なお、詳しくは(設計条件)の項で後述するが、図3は、多モード導波路16を伝播する各成分L1TE,L1TM,L2TE及びL2TMが感じる等価屈折率を、有限要素法を用いて計算することにより得られた。そして、式(1)及び(2)は、図3に対して近似曲線を当てはめることにより導出した。
【0056】
t≧0.25μmの場合:W=42(t−0.25)1.48+1.15・・・(1)
t<0.25μmの場合:1.1<W<1.15・・・(2)
なお、式(1)及び式(2)については後述する。
【0057】
このようにクラッド14として屈折率nが1.46のSiOを用い、厚みtと幅Wとを式(1)及び式(2)を満たす値とすることにより、多モード導波路16は、第1光L1と第2L2光とを偏波無依存で伝播させることができる。
【0058】
また、厚みtと幅Wとを式(1)及び式(2)を満たす値とすることにより、第1光L1のTE成分L1TE及びTM成分L1TMと、第2光L2のTE成分L2TE及びTM成分L2TMとは、多モード導波路16内で0次モード光及び1次モード光のみが励起される。その結果、2次以上の高次モード光の干渉条件を考慮する必要がなくなり、全長Lの決定に当たり、後述する式(3)〜式(6)を適用できる。
【0059】
多モード導波路16の全長Lは、この実施形態の場合には、好ましくは、例えば約23.5μmとするのがよい。詳しくは後述するが、多モード導波路16の全長Lは、第1光L1と第2光L2とを波長分離する能力に関わっており、後述する式(3)〜式(6)を用いて決定する。
【0060】
第1光導波路18は、テーパ状の平面型光導波路であり、その幅広側の一端が、接続部18aにおいて多モード導波路16の第1側面16に一体に接続され、及び、幅狭側の他端が、第1入出力用光導波路24に一体に接続されている。
【0061】
より詳細には、第1光導波路18は、図2の平面図に示すように、その平面形状は二等辺三角形状となっている。従って、この第1光導波路18は、光伝播方向に直交しかつ基板12の第1主面12aに平行な方向に測った幅が、多モード導波路16から離れた側から多モード導波路16との接続部18aに向かうにつれて、接続部18aを底辺として直線的に拡大している。すなわち、第1光導波路18の平面形状は、第1入出力用光導波路24に接続された他端を短尺な上底として、第1側面16に接続された接続部18aを長尺な下底とする等脚台形状である(図2参照)。
【0062】
第1光導波路18は、中心軸C0から第4側面16の側にずれた位置に接続されている。また、第1光導波路18の厚みは、多モード導波路16と同様にtとする。第1光導波路18の長さ方向の全長Lioは、伝播光のモード変換によるロスを防ぐために、5μm以上の長さとすることが好ましい。この実施形態では、第1光導波路18の全長Lioは、好ましくは、例えば約5μmとする。
【0063】
また、第1光導波路18の最大幅、すなわち接続部18aにおける幅は、多モード導波路16の幅Wの1/2未満の値の中から、設計に応じて好適な値を選択する。
【0064】
詳しくは後述するが、第1光導波路18には第1入出力用光導波路24を伝播された混合光LMが入力され、第1光導波路18内を多モード導波路16に向けて伝播する。
【0065】
なお、第1光導波路18に接続された第1入出力用光導波路24は、光波長フィルタ10に光を入出力するためのシングルモード光導波路であり、光伝播方向に直交する横断面形状は、例えば、幅が0.3μm及び厚みが0.3μmの正方形状とする。
【0066】
第2光導波路20は、幅広の一端が、接続部20aにおいて多モード導波路16の第2側面16に一体に接続され、及び、幅狭の他端が、第2入出力用光導波路24に一体に接続されたテーパ状の平面型光導波路である。第2光導波路20の形状は、その最大幅を除いて第1光導波路18と同形状とする。
【0067】
第2光導波路20は、第1軸C1を対称軸として、多モード導波路16を挟んで第1光導波路18と線対称な位置に設けられている。
【0068】
第2光導波路20の最大幅、すなわち接続部20aにおける幅は、多モード導波路16の幅Wの1/2未満の値の中から、設計に応じて好適な値を選択する。この最大幅を上述の範囲の中でできるだけ大きくすることにより、第2側面16に至った第1光L1の集光効率が増加する。
【0069】
詳しくは後述するが、第2光導波路20には多モード導波路16により波長分離された第1光L1が入力され、第2入出力用光導波路24に向けて伝播する。
【0070】
なお、第2光導波路20に接続された第2入出力用光導波路24は、光波長フィルタ10に光を入出力するためのシングルモード光導波路であり、第1入出力用光導波路24と同様の横断面形状を有している。
【0071】
第3光導波路22は、幅広の一端が、接続部22aにおいて多モード導波路16の第2側面16に光学的に接続され、及び、幅狭の他端が、第3入出力用光導波路24に一体に接続されたテーパ状の平面型光導波路である。第3光導波路22の形状は、第2光導波路20と同形状とする。
【0072】
第3光導波路22は、中心点Pを対称中心として、多モード導波路16を挟んで第1光導波路18と点対称な位置に設けられている。別言すれば、第3光導波路22は、中心軸C0を対称軸として、第2光導波路20と線対称な位置に設けられている。
【0073】
第3光導波路22の最大幅、すなわち接続部22aにおける幅は、多モード導波路16の幅Wの1/2未満の値の中から、設計に応じて好適な値を選択する。この最大幅を上述の範囲の中でできるだけ大きくすることにより、第2側面16に至った第2光L2の集光効率が増加する。
【0074】
詳しくは後述するが、第3光導波路22には、多モード導波路16により波長分離された第2光L2が入力され、第3入出力用光導波路24に向けて伝播する。
【0075】
なお、第3光導波路22に接続された第3入出力用光導波路24は、光波長フィルタ10に光を入出力するためのシングルモード光導波路であり、第1入出力用光導波路24と同様の横断面形状を有している。
【0076】
ここで、第2及び第3光導波路20及び22の間の間隙Gについて説明する。第2光導波路20の接続部20aと、第3光導波路22の接続部22aとの間には、間隙Gが存在している。この間隙Gは、光波長フィルタ10の製造上、不可避的に形成されるものである。この間隙Gからは、第2側面16に到達した第1光L1及び第2光L2が光波長フィルタ10外に漏れ出してしまう。よって、間隙Gの幅はできるだけ小さくする必要がある。この実施形態の場合には、間隙Gの幅は、好ましくは、例えば半導体製造プロセスにおける製造限界寸法である0.3μmとする。
【0077】
(動作)
次に、図4を参照して光波長フィルタ10の動作について説明する。
【0078】
図4は、多モード導波路16における混合光LMの伝播経路の一例を模式的に示した図である。なお、図4においては、図の複雑化を回避するために、基板12及びクラッド14の図示を省略している。図4中で一点破線で示す曲線Iは、第1光L1の伝播経路を示し及び、実線で示す曲線IIは、第2光L2の伝播経路を示している。
【0079】
第1光L1及び第2光L2、より詳細には、第1光L1の2成分L1TE及びL1TMと、第2光L2の2成分L2TE及びL2TMとが混合した混合光LMは、第1光導波路18から多モード導波路16へと入力される。そして、多モード導波路16を伝播する過程で、混合光LMの成分L1TE,L1TM,L2TE及びL2TMごとに0次モード光と1次モード光とが励起される。
【0080】
ところで、多モード導波路16の幅Wと厚みtとは、クラッド14の屈折率nに対して最適化されており、その結果、多モード導波路16は、これら第1光L1及び第2光L2に対して偏波無依存となっている。そのため、多モード導波路16内部で、第1光L1の2偏波成分L1TE及びL1TMは、同一伝播経路を伝播する。同様に、多モード導波路16内部で、第2光L2の2偏波成分L2TE及びL2TMは、第1光L1とは異なる同一伝播経路を伝播する。よって、以降の説明では、特に必要がある場合を除き、成分L1TE,L1TM,L2TE及びL2TMごとの伝播経路を問題にせず、第1光L1及び第2光L2ごとの伝播経路について説明する。
【0081】
多モード導波路16において励起された0次モード光と1次モード光とは、互いに干渉しあいながら、多モード導波路16内部を第2側面16に向けて伝播していく。図4に示すように、0次モード光と1次モード光とが干渉する結果、第1光L1及び第2光L2は、それぞれ多モード導波路16を蛇行するような経路で伝播する。
【0082】
図4に示す例では、曲線Iに示す第1光L1は、多モード導波路16において、伝播方向を6回変化させて第2光導波路20に出力される。また、曲線IIに示す第2光L2は、多モード導波路16において、伝播方向を7回変化させて第3光導波路22に出力される。
【0083】
第1光L1及び第2光L2ごとに伝播方向の変化回数が異なるのは、第1光L1及び第2光L2とでは、多モード導波路16における干渉の様子が異なるからである。これは、第1光L1及び第2光L2が感じる多モード導波路16の等価屈折率がそれぞれ異なることに由来する。
【0084】
以降、第1光L1及び第2光L2の伝播方向が多モード導波路16の第3及び第4側面16及び16において大きく変化することを「蛇行」と称する。また、上述した伝播方向の変化回数を「蛇行回数」と称する。
【0085】
このように、多モード導波路16を伝播することにより、第1光(波長:1.31μm)と第2光(波長:1.49μm)の偏波無依存な波長分離が行われる。なお、光波長フィルタ10の設計条件については次項で説明する。
【0086】
(設計条件)
続いて、図3、図5及び図6を参照して、光波長フィルタ10、特に多モード導波路16の設計条件について説明する。
【0087】
まず初めに、図3を参照して、多モード導波路16の幅Wと厚みtとの設計条件について説明する。
【0088】
図3は、クラッド14としてSiOを用い、第1光L1の波長を1.31μmとし、及び第2光L2の波長を1.49μmとした場合に、多モード導波路16を偏波無依存とする幅Wと厚みtとの関係を示す特性図である。図3において、縦軸は多モード導波路16の幅W(μm)を示し、横軸は多モード導波路16の厚みt(μm)を示す。なお、図3は、多モード導波路16を伝播する各成分L1TE,L1TM,L2TE及びL2TMが感じる等価屈折率を有限要素法を用いて計算することにより得られたものである。
【0089】
図3に描かれた曲線Iによると、多モード導波路16においては、厚みtが大きくなるに従って幅Wが大きくなる関係が成り立っている。
【0090】
なお、既に説明した式(1)及び式(2)は、図3に描かれた曲線Iに対して、2つの横軸区間(区間1)0.2〜0.25μmと、(区間2)0.25〜0.4μmとに対してそれぞれ近似曲線を当てはめることで得られたものである。
【0091】
図示はしていないが、クラッド14の屈折率nと多モード導波路16の幅Wとの間には、クラッド14の屈折率nが大きくなるほど多モード導波路16の幅Wが線形に大きくなるという関係が成り立つ。これは、クラッド14の屈折率nが大きくなるほど、多モード導波路16の実効屈折率が低下するためである。この実効屈折率の低下を抑制するために、クラッド14の屈折率nが大きくなったならば、それに対応して多モード導波路16のサイズ(幅Wと厚みt)を線形に大きくする必要がある。
【0092】
このように、多モード導波路16の幅Wと厚みtとを上述の式(1)及び(2)に従うように設定し、及び多モード導波路16のサイズをクラッド14の屈折率nに対して適切に設定することにより、第1光L1及び第2光L2は、多モード導波路16中を偏波無依存で伝播する。
【0093】
続いて、多モード導波路16の全長Lの設計条件について説明する。
【0094】
多モード導波路16の全長Lは、多モード導波路16中における第1光L1及び第2光L2の伝播経路(蛇行の様子)、すなわち干渉条件を勘案して決定する必要がある。
【0095】
ここで、第1光L1のTE成分L1TEにおける0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、第1光L1のTE成分L1TEの多モード導波路16の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とする。
【0096】
同様に、第1光L1のTM成分L1TMにおける0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、第1光L1のTM成分L1TMの多モード導波路16の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とする。
【0097】
また、第2光L2のTE成分L2TEにおける0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、第2光L2のTE成分L2TEの多モード導波路16の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とする。
【0098】
さらに、第2光L2のTM成分L2TMにおける0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、第2光L2のTM成分L2TMの多モード導波路16の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とする。
【0099】
ここで、「多モード導波路16の伝播後の干渉次数」とは、第1光L1及び第2光L2が多モード導波路16内を伝播して第2側面16に到達した時点での干渉次数のことを示す。
【0100】
すると、第1光L1及び第2光L2の干渉条件は、従来公知のモード伝播方程式をこの実施形態の光波長フィルタ10に適合させて得られた、以下の式(3)〜(6)で表される。
Δβ=mπ・・・(3)
Δβ=mπ・・・(4)
Δβ=mπ・・・(5)
Δβ=mπ・・・(6)
【0101】
このとき、多モード導波路16の全長Lは、(条件1)m=mかつm=m、及び、(条件2)mとmとの差が奇数となる、という2条件を満足するように決定する必要がある。
【0102】
以下、これらの条件の意味について説明する。干渉次数m〜mは、第1光L1及び第2光L2の各成分L1TE,L1TM,L2TE及びL2TMの多モード導波路16における蛇行回数をそれぞれ示すことが知られている。また、m〜mが整数であれば、第1光L1及び第2光L2の各成分L1TE,L1TM,L2TE及びL2TMは、m〜mの値に応じて第2及び第3光導波路20及び22の何れか一方に出力されることが知られている。
【0103】
よって、m=mかつm=mなる条件は、第1光L1の各成分L1TE及びL1TMの多モード導波路16における蛇行回数が等しいこと、並びに、第2光L2の各成分L2TE及びL2TMの多モード導波路16における蛇行回数が等しいことをそれぞれ表している。
【0104】
また、m(=m)とm(=m)との差が奇数となるという条件は、m(=m)及びm(=m)のどちらか一方が奇数であり、残りの他方が偶数であることを表している。上述のように、m〜mは、多モード導波路16における第1光L1及び第2光L2の蛇行回数を表しているので、この条件を満たすことにより、第1光L1(L1TE及びL1TM)が奇数回蛇行するときに、第2光L2(L2TE及びL2TM)は偶数回蛇行する。逆に、第1光L1(L1TE及びL1TM)が偶数回蛇行するときに、第2光L2(L2TE及びL2TM)は奇数回蛇行する。
【0105】
その結果、第1光L1と第2光L2とは、一方が第2光導波路20に出力されるときに他方は第3光導波路22へと出力され、また、一方が第3光導波路22に出力されるときに他方は第2光導波路20へと出力される。
【0106】
より具体的には、m(=m)が偶数で、m(=m)が奇数の場合には、第1光L1は、多モード導波路16を偶数回蛇行して第2光導波路20へ出力され、かつ、第2光L2は、多モード導波路16を奇数回蛇行して第3光導波路22へ出力される。また、m(=m)が奇数でm(=m)が偶数の場合には、第1光L1は、多モード導波路16を奇数回蛇行して第3光導波路22へ出力され、かつ、第2光L2は、多モード導波路16を偶数回蛇行して第2光導波路20へ出力される。
【0107】
次に、図5を参照して、多モード導波路16の全長Lの設計条件について、より具体的に説明する。
【0108】
図5は、上述の式(3)〜式(6)を有限要素法により数値計算することにより得られた特性図である。図5(A)は、この実施形態の多モード導波路16(幅W:1.65μm及び厚みt:0.3μm)についての計算結果である。図5(B)は、多モード導波路の幅Wを1.15μmとし、及び厚みtを0.22μmとした場合についての計算結果である。図5(A)及び(B)に共通して、縦軸は干渉次数m(無次元)を示し、及び横軸は全長L(μm)を示す。
【0109】
図5(A)には4本の直線が描かれている。直線Iは、第2光L2のTE成分L2TEの挙動を示している。直線IIは、第2光L2のTM成分L2TMの挙動を示している。直線IIIは、第1光L1のTE成分L1TEの挙動を示している。直線IVは、第1光L1のTM成分L1TMの挙動を示している。
【0110】
図5(A)を参照すると、直線I及び直線IIとは、Lが10〜30μmの範囲で干渉次数が非常によい一致を示している。また、直線IIIと直線IVも、Lが10〜30μmの範囲で干渉次数がよい一致を示している。これらのことから、第1光L1(直線III及び直線IV)及び第2光L2(直線I及び直線II)が、多モード導波路16内部で、偏波にほとんど依存することなく伝播していることがわかる。
【0111】
図5(A)には、m〜mが整数であり、かつ、m(=m)とm(=m)との差が奇数となる条件を満たすLを矢印A〜Cで示している。つまり、多モード導波路16が偏波無依存で第1光L1と第2光L2とを波長分離できる全長Lを示している。
【0112】
この条件を満たすLは、10〜30μmのL範囲においては3点存在する。すなわち、矢印Aで示したL≒20μmの点、矢印Bで示したL≒23.5μmの点及び矢印Cで示したL≒27μmの点である。
【0113】
より詳細には、矢印AのL≒20μmにおいて、m(=m)≒5であり、m(=m)≒6である。また、矢印BのL≒23.5μmにおいて、m(=m)≒6であり、m(=m)≒7である。また、矢印CのL≒27μmにおいて、m(=m)≒7であり、m(=m)≒8である。
【0114】
よって、この実施形態の多モード導波路16においては、全長LをL≒20μm、L≒23.5μm及びL≒27μmの何れかの値に設定することにより、第1光L1及び第2光L2を偏波無依存で波長分離することができる。
【0115】
続いて図5(B)について説明する。
【0116】
既に説明した式(1)及び式(2)から、多モード導波路16の幅Wを1.15μmとし、及び厚みtを0.22μmとした多モード導波路についても、この実施形態の多モード導波路16と同様に、第1光L1及び第2光L2を偏波無依存で伝播できることが明らかとなった。そこで、この寸法の多モード導波路についても、第1光L1及び第2光L2を偏波無依存で波長分離できる多モード導波路の全長Lの算出を試みた。図5(B)の計算は、図5(A)の場合と同様に、有限要素法を用いて行った。
【0117】
図5(B)には、4本の直線が描かれている。直線Iは、第2光L2のTE成分L2TEの挙動を示している。直線IIは、第2光L2のTM成分L2TMの挙動を示している。直線IIIは、第1光L1のTE成分L1TEの挙動を示している。直線IVは、第1光L1のTM成分L1TMの挙動を示している。
【0118】
図5(B)を参照すると、直線I及び直線IIとは、Lが20〜70μmの範囲で非常によい一致を示している。また、直線IIIと直線IVも、Laが20〜90μmの範囲でよい一致を示している。これらのことから、第1光L1(直線III及び直線IV)及び第2光L2(直線I及び直線II)が、多モード導波路内部で、偏波にほとんど依存することなく伝播していることがわかる。
【0119】
図5(B)には、m〜mが整数であり、かつ、m(=m)とm(=m)との差が奇数となる条件を満たすLを矢印D〜Fで示している。
【0120】
この条件を満たすLaは、20〜90μmのL範囲においては3点存在する。すなわち、矢印Dで示したL≒46μmの点、矢印Eで示したL≒52μmの点及び矢印Fで示したL≒60μmの点である。
【0121】
より詳細には、矢印DのL≒46μmにおいて、m(=m)≒5であり、m(=m)≒6である。また、矢印EのL≒52μmにおいて、m(=m)≒6であり、m(=m)≒7である。また、矢印FのL≒60μmにおいて、m(=m)≒7であり、m(=m)≒8である。
【0122】
(効果)
以下、図6を参照して、この実施形態の光波長フィルタ10の効果について説明する。
【0123】
図6は、光波長フィルタ10の波長分離特性の説明に供する特性図である。図6において、縦軸は、第2及び第3光導波路20及び22から出力される第1光L1及び第2光L2の光強度(任意単位)を示し、横軸は波長(μm)を示している。
【0124】
図6は、第1光導波路18から第1光L1及び第2光L2の混合光LM、すなわち偏波成分L1TE,L1TM,L2TE及びL2TMを入力し、第2及び第3光導波路20及び22のそれぞれにおいて検出される光の強度を、波長を変化させながら計算したものである。計算に当たっては、3次元FDTD(Finite Differrence Time Domain)法を用いた。また、波長フィルタ10を構成する単結晶Siの屈折率は3.5を採用した。また、多モード導波路16の幅Wを1.15μmとし、厚みtを0.25μmとし、及び全長Lを24μmとした。
【0125】
図6には4本の曲線I〜IVが描かれている。曲線Iは、第2光導波路20から出力される第1光L1のTE成分L1TEの光強度を示している。曲線IIは、第2光導波路20から出力される第1光L1のTM成分L1TMの光強度を示している。曲線IIIは、第3光導波路22から出力される第2光L2のTE成分L2TEの光強度を示している。曲線IVは、第3光導波路22から出力される第2光L2のTM成分L2TMの光強度を示している。
【0126】
図6を参照すると、第1光L1(波長1.31μm)の両偏波成分L1TE及びL1TMは、約1.3μm付近の波長でピークを持ち、約1.47μm付近の波長でボトムを持つ。そして、約1.3μm付近における両偏波成分L1TE及びL1TMの光強度は、ほぼ同強度である。
【0127】
また、第2光L2の両偏波成分L2TE及びL2TMは、約1.32μm付近の波長でボトムを持ち、約1.45μm付近でピークを持つ。そして、約1.45μm付近における両偏波成分L2TE及びL2TMの光強度はほぼ同強度である。
【0128】
これらのことから、明らかなように、光波長フィルタ10は、第1光L1と第2光L2とを偏波無依存で波長分離することが可能である。
【0129】
また、この実施形態の光波長フィルタ10は、クラッド14がSiO製であり、残りの構成要素がSi製である。したがって、入手容易なSOI(Silicon on insulator)基板などを用いて、半導体製造プロセスを利用して容易に作成可能である。
【0130】
(変形例)
以下、光波長フィルタ10の変形例について説明する。
【0131】
この実施形態では、第2及び第3光導波路20及び22が同形状の場合について説明した。しかし、第2及び第3光導波路20及び22は同形状である必要はない。第2及び第3光導波路20及び22で二等辺三角形の頂角、すなわち、テーパ角を互いに異なる角度に設定してもよい。このようにすることにより、第2及び第3光導波路20及び22が方向性結合器として作用することを防ぐことができ、第1光L1及び第2光L2のクロストークを改善することができる。
【0132】
(光合分波素子)
次に、図7を参照して、光波長フィルタ10の応用例としての光合分波素子について説明する。図7は、光合分波素子の構成を概略的に示す平面図である。
【0133】
この実施形態の光波長フィルタ10は、光加入者系通信システムのONUに用いられる光合分波素子として利用することができる。
【0134】
光合分波素子30は、この実施形態の光波長フィルタ10と、LD(Laser Diode)32と、PD(Photo Diode)34とを備えている。
【0135】
LD32は、光波長フィルタ10の第2入出力用光導波路24に光学的に接続されていて、第2入出力用光導波路24に向けて、波長1.31μmの第1光L1を出力する。
【0136】
PD34は、光波長フィルタ10の第3入出力用光導波路24に光学的に接続されていて、第3入出力用光導波路24を伝播してくる波長1.49μmの第2光L2を受光する。
【0137】
また、光波長フィルタ10の第1入出力用光導波路24は、局側に至る光ファイバ(不図示)に接続されている。
【0138】
この光合分波素子30においては、局側から加入者側へと送信される下り信号としての第2光L2(波長:1.49μm)が、第1入出力用光導波路24→第1光導波路18を経て多モード導波路16へと入力される。多モード導波路16に入力された第2光L2は、既に説明したような伝播経路を経て、第3光導波路22へと出力され、第3入出力用光導波路24を経てPD34で受光される。
【0139】
一方、加入者側から局側へと送信される上り信号としての第1光L1(波長:1.31μm)は、LD32から出力され、第2入出力用光導波路24→第2光導波路20を経て、多モード導波路16へと入力される。ところで、一般に光の伝播には逆過程が成り立つことが知られているので、第2光導波路20から多モード導波路16へと入力された第1光L1は、既に説明した伝播経路とは逆の伝播経路を経て、第1光導波路18へと出力され、第1入出力用光導波路24を経て局側へと送信される。
【0140】
以上説明したように、この実施形態の光波長フィルタ10は、構成を変更することなく、光加入者系のONUとして好適な光合分波素子30として用いることができる。
【0141】
(実施形態2)
続いて、図8〜図10を参照して、この実施形態のマッハツェンダ干渉器について説明する。図8はマッハツェンダ干渉器の構造を概略的に示す平面図である。なお、図8において、光波長フィルタ35、光カプラ42、及び第1及び第2アーム光導波路44及び44は、クラッド14で覆われており、直接目視をすることはできないが、これらの構成要素が存在することを強調して示すために実線で表している。また、図8において、図1及び図2と同様の構成要素には同符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0142】
(構造)
図8を参照すると、マッハツェンダ干渉器40は、光波長フィルタ35、光カプラ42、及び第1及び第2アーム光導波路44及び44を備えている。マッハツェンダ干渉器40は、第1光L1を後述する第2光導波路46から出力し、及び第2光L2を後述する第2及び第3光導波路46及び46から等分配して出力する、いわゆる3dBカプラとして機能する。
【0143】
光波長フィルタ35は、全長Lが異なっている点を除き、実施形態1で説明した光波長フィルタ10と同様に構成されている。このマッハツェンダ干渉器40において、光波長フィルタ35の全長Lは、好ましくは、例えば約15.5μmとする。これは、マッハツェンダ干渉器40を3dBカプラとして機能させるためである。なお、この点については後述する。また、光波長フィルタ35の幅W及び厚みtは、実施形態1の波長フィルタ10と同様に構成されている。
【0144】
光カプラ42は、第4光導波路46が設けられている点を除き、光波長フィルタ35と同様に構成されている。光カプラ42は、いわば、光波長フィルタ35に第4光導波路46を追加することで構成されている。より詳細には、光カプラ42は、第1軸C1’を対称軸として第3光導波路46と線対称な位置に第4光導波路46が更に設けられて構成されている(図2参照)。別言すれば、第4光導波路46は、中心軸C0’を対称軸として第1光導波路46と線対称な位置に設けられているということもできる。
【0145】
第4光導波路46は、多モード導波路16の第1側面16に、多モード導波路16と一体に接続されている。第4光導波路46は第1光導波路46と同形状に形成されている。
【0146】
なお、以下の説明では、光波長フィルタ35の第1〜第3光導波路18,20及び22と、光カプラ42の第1〜第4光導波路とを区別するために、光カプラ42の第1〜第4光導波路に46〜46の符号を付する。
【0147】
第1アーム光導波路44は、光波長フィルタ10の第2光導波路20と、光カプラ42の第1光導波路46とを光学的に接続する偏波無依存型のチャネル型光導波路である。第1アーム光導波路44の光伝播方向に直交する横断面の形状は、好ましくは、例えば幅0.3μm及び厚み0.3μmの正方形状とする。第1アーム光導波路44の横断面形状を正方形状とすることにより、第1アーム光導波路44は、偏波に依存することなく光を伝播させることができる。
【0148】
第2アーム光導波路44は、光波長フィルタ10の第3光導波路22と、光カプラ42の第4光導波路46とを光学的に接続する偏波無依存型のチャネル型光導波路である。第2アーム光導波路44の光伝播方向に直交する横断面形状は、第1アーム光導波路44と同様とする。
【0149】
第1及び第2アーム光導波路44及び44は、マッハツェンダ干渉器40をカプラとして機能させるために、光路長が異なっている。この実施形態に示す例では、第1アーム光導波路44の方が第2アーム光導波路44よりも光路長が長く設定されている。
【0150】
より詳細には、第1及び第2アーム光導波路44及び44の光路長差は、波長1.49μmの第2光L2に対して位相差が0(ゼロ)となり、及び波長1.31μmの第1光L1に対して位相差がπ付近の値となるように設定されている。この実施形態の場合には、光路長差は、好ましくは、例えば約1.3433μmとする。
【0151】
(設計条件)
続いて、図9を参照して、マッハツェンダ干渉器40を3dBカプラとして機能させるための設計条件、特に光波長フィルタ35と光カプラ42の全長Lの設計条件について説明する。
【0152】
光波長フィルタ35と光カプラ42の全長Lは、光波長フィルタ35と光カプラ42の両者において、多モード導波路16を伝播した後の第1光L1及び第2光L2の干渉次数を一方は半整数であり他方は偶数とするように決定する。
【0153】
以下、この点について図9を参照して詳細に説明する。
【0154】
図9は、既に説明した式(3)〜式(6)を光波長フィルタ35と光カプラ42に適用し、有限要素法により数値計算することにより得られた特性図である。図9において、縦軸は干渉次数(無次元)を示し、及び横軸は光波長フィルタ35と光カプラ42の全長L(μm)を示す。
【0155】
図9には4本の直線が描かれている。直線Iは、第2光L2のTE成分L2TEの挙動を示している。直線IIは、第2光L2のTM成分L2TMの挙動を示している。直線IIIは、第1光L1のTE成分L1TEの挙動を示している。直線IVは、第1光L1のTM成分L1TMの挙動を示している。
【0156】
マッハツェンダ干渉器40を、波長1.49μmの第2光L2に対して3dBカプラとして機能させるためには、多モード導波路16を伝播した後の第2光L2の干渉次数mを半整数とする必要があることが一般に知られている(条件1)。
【0157】
さらに、波長1.31μmの第1光L1を第2光導波路20から出力させるためには、上述のように、多モード導波路16を伝播した後の第1光L1の干渉次数mを偶数とする必要がある(条件2)。
【0158】
図9を参照すると、これらの2条件は、図中に矢印G及びHで示した2点で満たされることがわかる。つまり、矢印Gで示したL≒15.5μmの点、及び矢印Hで示したL=31.5μmの点である。より詳細には、矢印GのL≒15.5μmにおいて、第1光L1の干渉次数は約4であり、及び第2光L2の干渉次数は約4.5である。また、矢印GのL=31.5μmにおいて、第1光L1の干渉次数は約8であり、及び第2光L2の干渉次数は約9.5である。
【0159】
よって、光波長フィルタ35と光カプラ42の全長Lを約15.5μm又は約31.5μmに設定すれば、マッハツェンダ干渉器40は、第2光L2に対して3dBカプラとして機能し、及び、第1光L1を第2光導波路20から出力させることができる。
【0160】
図9を参照すると、例えば、矢印Jで示したL≒25μmにおいては、第1光L1の干渉次数は約6.5であり、及び第2光L2の干渉次数は約7.5である。このように、第1光L1及び第2光L2の干渉次数mを両者とも半整数とするように、光波長フィルタ35と光カプラ42の全長Lを決定することができる。
【0161】
第1光L1及び第2光L2の干渉次数mを両者ともに半整数となるように光波長フィルタ35と光カプラ42の全長Lを設定することにより、両方の光L1及びL2に対して3dBカプラとして動作するマッハツェンダ干渉器40が得られる。
【0162】
(動作及び効果)
続いて、図10を参照して、マッハツェンダ干渉器の動作及び効果について説明する。
【0163】
図10は、マッハツェンダ干渉器40の波長分離特性の説明に供する特性図である。図10において、縦軸は、第2及び第3光導波路46及び46から出力される第1光L1及び第2光L2の光強度(任意単位)を示し、横軸は波長(μm)を示している。
【0164】
図10は、第1光導波路18から第1光L1及び第2光L2の混合光LMを入力し、第2及び第3光導波路46及び46のそれぞれにおいて検出される光の強度を、波長を変化させながら計算したものである。計算に当たっては、3次元FDTD法を用いた。また、マッハツェンダ干渉器40を構成する単結晶Siの屈折率は3.5を採用した。また、光波長フィルタ35と光カプラ42の幅Wを1.15μmとし、厚みtを0.25μmとし、及びそれぞれの全長Lを15.5μmとした。
【0165】
図10には2本の曲線が描かれている。曲線Iは、第2光導波路46から出力される第1光L1の光強度を示している。曲線IIは、第3光導波路46から出力される第2光L2の光強度を示している。
【0166】
図10を参照すると、曲線Iに示された第1光L1(波長1.31μm)は、約1.3μm付近の波長でピークを持ち、約1.51μm付近の波長でボトムを持つ。また、曲線IIで示された第2光L2(波長1.49μm)は、約1.32μm付近の波長でボトムを持ち、約1.51μm付近でピークを持つ。そして、第2光L2のピーク強度は、第1光L1のピーク強度の約1/2程度の値である。
【0167】
これらのことから、明らかなように、マッハツェンダ干渉器40は、第1光L1と第2光L2に対して偏波無依存な3dBカプラとして機能することがわかる。
【0168】
(変形例)
続いて、図11(A)及び(B)と図12とを用いて、マッハツェンダ干渉器40の変形例について説明する。
【0169】
図11(A)は、第1変形例の第1光学素子の構造を概略的に示す平面図である。図11(B)は、第2変形例の第2光学素子の構造を概略的に示す平面図である。図12は、第1光学素子の動作の説明に供する特性図である。なお、図11(A)及び(B)においては、理解の容易さのために、基板12及びクラッド14の図示を省略している。また、図11(A)及び(B)において、図8と同様の構成要素には同符号を付してその説明を適宜省略する。
【0170】
図11(A)を参照すると、第1光学素子50は、いわば、上述したマッハツェンダ干渉器40を第3及び第4アーム光導波路56及び56介して2段に直列に接続した構成を有していて、実施形態2のマッハツェンダ干渉器40と同様に3dBカプラとして用いられる。
【0171】
より詳細には、第1光学素子50は、マッハツェンダ干渉器40と、第2光カプラ52と、第3光カプラ54と、マッハツェンダ干渉器40の光カプラ42及び第2光カプラ52を接続する第3及び第4アーム光導波路56及び56と、第2光カプラ52及び第3光カプラ54を接続する第5及び第6アーム光導波路56及び56とを備えている。
【0172】
マッハツェンダ干渉器40は、光波長フィルタ35と光カプラ42の全長Lが、第1光学素子50を3dBカプラとして使用するために最適化されている以外は、実施形態2のマッハツェンダ干渉器と同様に構成されている。
【0173】
第2光カプラ52は、既に説明した実施形態2の光カプラ42と同様に構成されている。すなわち、第2光カプラ52は、既に説明した多モード光導波路16と、第1〜第4光導波路52〜52とを備えている。なお、第2光カプラ52の全長Lは、第1光学素子50を3dBカプラとして使用するために最適化されている。
【0174】
第3光カプラ54は、既に説明した実施形態2の光カプラ42と同様に構成されている。すなわち、第3光カプラ54は、既に説明した多モード光導波路16と、第1〜第4光導波路54〜54とを備えている。なお、第3光カプラ54の全長Lは、第1光学素子50を3dBカプラとして使用するために最適化されている。そして、第2及び第3光導波路54及び54のそれぞれには、第1及び第2出力用光導波路58及び58が接続されている。
【0175】
第3及び第4アーム光導波路56及び56は、光カプラ42と第2光カプラ52とを光学的に接続する、偏波無依存なシングルモードのチャネル型光導波路である。第3及び第4アーム光導波路56及び56の光伝播方向に直交する横断面の形状及び寸法は、既に説明した第1及び第2アーム光導波路44及び44と同様とする。
【0176】
より詳細には、第3アーム光導波路56は、光カプラ42の第2光導波路46と、第2光カプラ52の第1光導波路52とを光学的に接続している。第4アーム光導波路56は、光カプラ42の第3光導波路46と、第2光カプラ52の第4光導波路52とを光学的に接続している。第3及び第4アーム光導波路56及び56は、各光導波路56及び56を伝播する光が干渉しないだけの距離を隔てて配置されている。また、第3及び第4アーム光導波路56及び56は、光路長が互いに等しく形成されている。
【0177】
第5及び第6アーム光導波路56及び56は、第2光カプラ52と第3光カプラ54とを光学的に接続する、偏波無依存なシングルモードのチャネル型光導波路である。第5及び第6アーム光導波路56及び56の光伝播方向に直交する横断面の形状及び寸法は、既に説明した第1及び第2アーム光導波路44及び44と同様とする。
【0178】
より詳細には、第5アーム光導波路56は、第2光カプラ52の第2光導波路52と、第3光カプラ54の第1光導波路54とを光学的に接続している。第6アーム光導波路56は、第2光カプラ52の第3光導波路52と、第3光カプラ54の第4光導波路54とを光学的に接続している。
【0179】
第5及び第6アーム光導波路56及び56は光路長が異なっている。以下この点についてより詳細に説明する。
【0180】
ここで、マッハツェンダ干渉器40における第1及び第2アーム光導波路44及び44の光路長差をΔL(=第1アーム光導波路44の光路長−第2アーム光導波路44の光路長)と定義する。このとき、第5及び第6アーム光導波路56及び56には、「第1アーム光導波路44の光路長=第6アーム光導波路56の光路長」なる関係と、「第2アーム光導波路44の光路長=第5アーム光導波路56の光路長」なる関係とが成り立っている。つまり、第5及び第6アーム光導波路56及び56の光路長差は、第1及び第2アーム光導波路44及び44の場合とは正負が逆転した値、すなわち−ΔL(=第5アーム光導波路56の光路長−第6アーム光導波路56の光路長)となる。
【0181】
このように、第5及び第6アーム光導波路56及び56と第1及び第2アーム光導波路44及び44の光路長差の正負を逆転させる理由は、第1光学素子50の波長分離特性を向上するためである。
【0182】
続いて、図12を用いて、第1光学素子50の動作について説明する。図12は、第1光学素子50の波長分離特性の説明に供する特性図である。図12において、縦軸は、第1及び第2出力用光導波路58及び58から出力される第1光L1及び第2光L2の光強度(任意単位)を示し、横軸は波長(μm)を示している。
【0183】
図12は、第1光導波路18から第1光L1及び第2光L2の混合光LMを入力し、第1及び第2出力用光導波路58及び58のそれぞれにおいて検出される光の強度を、波長を変化させながら計算したものである。計算に当たっては、3次元FDTD法を用いた。また、第1光学素子50を構成する単結晶Siの屈折率としては3.5を採用した。また、波長フィルタ35、光カプラ42、第2光カプラ52及び第3光カプラ54の幅Wを1.15μmとし、厚みtを0.25μmとし、及びそれぞれの全長Lを15.5μmとした。
【0184】
図12には2本の曲線が描かれている。曲線IIIは、第1出力用光導波路58から出力される第1光L1の光強度を示している。曲線IVは、第2出力用光導波路58から出力される第2光L2の光強度を示している。
【0185】
図12を参照すると、曲線IIIに示された第1光L1(波長1.31μm)は、約1.3〜1.4μmの波長で幅広なピークを持ち、約1.51μm付近の波長でボトムを持つ。また、曲線IVで示された第2光L2(波長1.49μm)は、約1.35μm付近の波長でボトムを持ち、約1.5〜1.6μmの波長でブロードなピークを持つ。
【0186】
図12と、マッハツェンダ干渉器40の動作特性を示す図10とを比較すると、第1光学素子50(図12)では、第1光L1及び第2光L2のピーク(曲線III及び曲線IV)は、図10の曲線I及びIIよりも幅広になっている。これは、変形例の第1光学素子50における波長分離帯域が広がりクロストークが減少することを意味する。
【0187】
このように、この第1変形例の第1光学素子50は、実施形態2のマッハツェンダ干渉器40よりも優れた波長分離特性を示す3dBカプラとして動作する。
【0188】
続いて、図11(B)を参照して、第2変形例の第2光学素子について説明する。
【0189】
図11(B)を参照すると、第2光学素子70は、いわば、第1光学素子50の光カプラ42と第2光カプラ52とを、第3及び第4アーム光導波路56及び56を介さずに直接接合することで構成されている。
【0190】
より詳細には、第2光学素子70は、実施形態2で説明した光波長フィルタ35と、第4光カプラ72と、第5光カプラ74と、光波長フィルタ35及び第4光カプラ72を接続する第7及び第8アーム光導波路76及び76と、第4光カプラ72及び第5光カプラ74を接続する第9及び第10アーム光導波路76及び7610とを備えている。
【0191】
光波長フィルタ35は、光波長フィルタ35の全長Lが、第2光学素子70を3dBカプラとして使用するために最適化されている以外は、実施形態2と同様に構成されている。
【0192】
第4光カプラ72は、全長Laが実施形態2の光カプラ42の2倍とされている以外は、既に説明した光カプラ42と同様に構成されている。すなわち、第4光カプラ72は、多モード光導波路78と、第1〜第4光導波路72〜72とを備えている。なお、第4光カプラ72の全長Lは、第2光学素子70を3dBカプラとして使用するために、実施形態2の光カプラ42の約2倍の大きさとされている。
【0193】
第5光カプラ74は、既に説明した実施形態2の光カプラ42と同様に構成されている。すなわち、第5光カプラ74は、既に説明した多モード光導波路16と、第1〜第4光導波路74〜74とを備えている。なお、第5光カプラ74の全長Lは、第2光学素子70を3dBカプラとして使用するために最適化されている。そして、第2及び第3光導波路74及び74のそれぞれには、第1及び第2出力用光導波路58及び58が接続されている。
【0194】
第7及び第8アーム光導波路76及び76は、光波長フィルタ35と第4光カプラ72とを光学的に接続する、偏波無依存なシングルモードのチャネル型光導波路である。第7及び第8アーム光導波路76及び76の光伝播方向に直交する横断面の形状及び寸法は、既に説明した第1及び第2アーム光導波路44及び44と同様とする。
【0195】
より詳細には、第7アーム光導波路76は、光波長フィルタ35の第2光導波路20と、第4光カプラ72の第1光導波路72とを光学的に接続している。第8アーム光導波路76は、光波長フィルタ35の第3光導波路22と、第4光カプラ72の第4光導波路72とを光学的に接続している。第7及び第8アーム光導波路76及び76の光路長差は、ΔL(=第7アーム光導波路76の光路長−第8アーム光導波路76の光路長)とする。
【0196】
第9及び第10アーム光導波路76及び7610は、第4光カプラ72と第5光カプラ74とを光学的に接続する、偏波無依存なシングルモードのチャネル型光導波路である。第9及び第10アーム光導波路76及び7610の光伝播方向に直交する横断面の形状及び寸法は、既に説明した第1及び第2アーム光導波路44及び44と同様とする。
【0197】
より詳細には、第9アーム光導波路76は、第4光カプラ72の第2光導波路72と、第5光カプラ74の第1光導波路74とを光学的に接続している。第10アーム光導波路7610は、第4光カプラ72の第3光導波路72と、第5光カプラ74の第4光導波路74とを光学的に接続している。
【0198】
第1変形例の場合と同様の理由により、第9及び第10アーム光導波路76及び7610の光路長差は、第7及び第8アーム光導波路76及び76の場合と正負が逆転している。つまり、第9及び第10アーム光導波路76及び7610の光路長差(=第9アーム光導波路76の光路長−第10アーム光導波路7610の光路長)は、−ΔLとする。
【0199】
第2変形例の第2光学素子70は、第1変形例の第1光学素子50と同様に、実施形態2のマッハツェンダ干渉器40よりも優れた波長分離特性を示す3dBカプラとして動作する。さらに、第2光学素子70は、素子全体の全長を第2光学素子50よりも短くすることができるので、素子の小型化が可能である。
【符号の説明】
【0200】
10,35 偏波無依存型光波長フィルタ
12 基板
12a 第1主面
14 クラッド
16,78 多モード干渉光導波路(多モード導波路)
16 第1側面
16 第2側面
16 第3側面
16 第4側面
16 上面
16 下面
18,46,52,54,72,74 第1光導波路
18a,20a,22a 接続部
20,46,52,54,72,74 第2光導波路
22,46,52,54,72,74 第3光導波路
24 第1入出力用光導波路
24 第2入出力用光導波路
24 第3入出力用光導波路
30 光合分波素子
32 LD
34 PD
40 マッハツェンダ干渉器
42 光カプラ
44 第1アーム光導波路
44 第2アーム光導波路
46,52,54,72,74 第4光導波路
50 第1光学素子
52 第2光カプラ
54 第3光カプラ
56 第3アーム光導波路
56 第4アーム光導波路
56 第5アーム光導波路
56 第6アーム光導波路
58 第1出力用光導波路
58 第2出力用光導波路
70 第2光学素子
72 第4光カプラ
74 第5光カプラ
76 第7アーム光導波路
76 第8アーム光導波路
76 第9アーム光導波路
7610 第10アーム光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶Siを用いて形成されていて、互いに平行に対向する第1及び第2側面と、互いに平行に対向する第3及び第4側面と、互いに平行に対向する上面及び下面とで囲まれた直方体であって、1.2〜1.6μmの波長範囲の中から選択された互いに波長の異なる第1及び第2光の混合光を偏波無依存で波長分離する多モード干渉光導波路と、
前記第1側面に光学的に接続されており、前記混合光が入力される第1光導波路と、
前記第2側面に光学的に接続されており、波長分離された前記第1及び第2光をそれぞれ出力する第2及び第3光導波路とが、基板の第1主面側にクラッドに埋設されて(埋め込まれて)形成されており、
前記クラッドの屈折率nが1〜1.6の範囲の値であり、
前記多モード干渉光導波路の前記上面及び下面の間の距離である厚みtが0.2〜0.4μmの範囲の値であり、及び
前記多モード干渉光導波路の前記第3及び第4側面の間の距離である幅Wが1.0〜3.7μmの範囲の値であり、
前記屈折率nと前記幅Wと前記厚みtとが、前記屈折率nが大きくなると共に前記幅Wが大きくなり、かつ、前記厚みtが大きくなると共に前記幅Wが大きくなる関係を有することを特徴とする偏波無依存型光波長フィルタ。
【請求項2】
前記第1〜第3光導波路の、光伝播方向に直交しかつ前記基板の第1主面に平行な方向に測った幅は、前記多モード干渉光導波路から離れた側から該多モード干渉光導波路との接続部に向かうにつれて、直線的に拡大していることを特徴とする請求項1に記載の偏波無依存型光波長フィルタ。
【請求項3】
前記基板の前記第1主面に平行な面内で前記多モード干渉光導波路がなす矩形の中心点を通り、前記幅方向に延びる直線を第1軸としたときに、
前記第2光導波路は、該第1軸を対称軸として、前記第1光導波路と線対称な位置に設けられており、かつ、
前記第3光導波路は、前記中心点を対称中心として、前記第1光導波路と点対称な位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の偏波無依存型光波長フィルタ。
【請求項4】
前記クラッドの材料をSiOとすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の偏波無依存型光波長フィルタ。
【請求項5】
前記多モード干渉光導波路の前記第1及び第2側面の間の距離である全長をLとし、
前記第1光のTE成分における0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、前記第1光のTE成分の前記多モード干渉光導波路の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とし、
前記第1光のTM成分における0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、前記第1光のTM成分の前記多モード干渉光導波路の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とし、
前記第2光のTE成分における0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、前記第2光のTE成分の前記多モード干渉光導波路の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とし、
前記第2光のTM成分における0次モード光と1次モード光の伝播定数差をΔβとし、かつ、前記第2光のTM成分の前記多モード干渉光導波路の伝播後の干渉次数をm(ただし、mは正の整数)とするとき、
前記多モード干渉光導波路での干渉条件を与える下記式(1)〜(4)が成立し、
=mかつm=m、及び、mとmとの差が奇数となることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の偏波無依存型光波長フィルタ。
Δβ=mπ・・・(1)
Δβ=mπ・・・(2)
Δβ=mπ・・・(3)
Δβ=mπ・・・(4)
【請求項6】
前記第1光の波長を1.31μmとし、及び、前記第2光の波長を1.49μmとした場合に、前記多モード干渉光導波路の厚みtと幅Wとが下記式(5)及び(6)を満たすことを特徴とする請求項4又は5に記載の偏波無依存型光波長フィルタ。
t≧0.25μmの場合:W=42(t−0.25)1.48+1.15・・・(5)
t<0.25μmの場合:1.1<W<1.15・・・(6)
【請求項7】
請求項6に記載の偏波無依存型波長フィルタを用いた光合分波素子であって、
前記第1光が前記第2光導波路から入力されて、前記多モード干渉光導波路を経て前記第1光導波路から出力され、
前記第2光が前記第1光導波路から入力されて、前記多モード干渉光導波路を経て前記第3光導波路から出力されることを特徴とする光合分波素子。
【請求項8】
請求項3又は4に記載の偏波無依存型光波長フィルタを利用したマッハツェンダ干渉器であって、
前記偏波無依存型光波長フィルタと、光カプラと、前記偏波無依存型光波長フィルタ及び前記光カプラを光学的に接続する第1及び第2アーム光導波路とを備えていて、
前記光カプラは、前記偏波無依存型光波長フィルタにおける前記第1軸を対称軸として前記第3光導波路と線対称な位置に第4光導波路が更に設けられて構成されていて、
前記第1アーム光導波路は、前記偏波無依存型光波長フィルタの前記第2光導波路と、前記光カプラの第1光導波路とを接続しており、
前記第2アーム光導波路は、前記偏波無依存型光波長フィルタの前記第3光導波路と、前記光カプラの前記第4光導波路とを接続しており、
第1及び第2アーム光導波路の光伝播方向に直交する横断面形状が正方形状であり、かつ、前記第1及び第2アーム光導波路の光路長が異なっていることを特徴とするマッハツェンダ干渉器。
【請求項9】
前記偏波無依存型光波長フィルタ及び前記光カプラの両者において、前記多モード干渉光導波路を伝播した後の前記第1光及び第2光の干渉次数を一方は半整数であり他方は偶数とするように、前記偏波無依存型光波長フィルタ及び前記光カプラの全長が決定されていること特徴とする請求項8に記載のマッハツェンダ干渉器。
【請求項10】
前記偏波無依存型光波長フィルタ及び前記光カプラの両者において、前記多モード干渉光導波路を伝播した後の前記第1光及び第2光の干渉次数を両者とも半整数とするように前記光カプラの全長が決定されていることを特徴とする請求項8に記載のマッハツェンダ干渉器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−39383(P2011−39383A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188366(P2009−188366)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】