説明

傾斜センサ

【課題】傾斜センサを構成する容器内に形成した案内路に移動体を配置し、傾斜によって移動体が案内路に沿って移動することにより傾斜あるいは転倒を検知できる傾斜センサであって、案内路内を移動体がスムーズに移動することにより、傾斜状態を精度良く検出できる傾斜センサを提供する。
【解決手段】液体を収容した容器1と、前記容器内に形成した案内路2と、前記案内路内を移動可能な移動体4と、移動体を検出する検出センサとを備えた傾斜センサにおいて、前記案内路2に沿った容器壁に溝6を形成し、この溝によって容器壁と移動体の間に液体の通路(溝)を形成し、移動体と容器壁とが密着することを防止する。また、前記移動体と気体とを収納した傾斜センサにおいて、前記気体収納部の厚みを前記移動体収納部の厚みよりも大きくすることにより、気体が容器壁に張付く現象を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜センサを構成する容器内に形成した案内路に移動体を配置し、傾斜によって移動体が案内路に沿って移動することにより傾斜あるいは転倒を検知できる傾斜センサ(以下転倒センサを含む用語とする)に関するものであり、さらに詳細には案内路内を移動体がスムーズに移動することにより、傾斜状態を精度良く検出できる傾斜センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体を満たした密閉容器内に移動体を入れ、移動体の動きを検出し、傾斜や転倒の判断を行っている傾斜・転倒センサは広く知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−304478公報
【特許文献2】特開2003−166822
【特許文献3】実開昭63−129866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のものは、矩形状の断面をしたリング型の中空体に液体およびそれよりわずかに小さな密度の浮遊体を封入し、さらに中空体の一定領域の断面をわずかに狭くした狭隘部を設けて構成されており、この構成により、傾斜面での加速走行の場合においても、浮遊体に対する走行加速度を無視できるようになっている。
また、特許文献2に記載のものは、気泡管の底面に、第1電極を、気泡管の上面に気泡に対向させて第2電極、第3電極を配置し、第1電極の電位を0レベルとすることにより、漏れ抵抗及び浮遊容量の影響を受けずに、第1電極と第2電極間の静電容量及び第1電極と第3電極間の静電容量を求めることができるものである。
さらに、特許文献3に記載のものは、ダンパ液を封入した収納空間と、この収納空間より若干小さい径を有し、収納空間に移動自在に収納された磁性剛体と、この磁性剛体を境として分割された収納空間を相互に接続するバイパスを備え、センサに高周波振動が付与された時には、ダンパ液によって磁性剛体に微小変位の繰り返しが生ずるのを防止できるようにしている。
【0005】
さらに上記文献に記載したもの以外にも、容器内に液体を満たした案内路に円柱状をした移動体を配置し、容器が回転し、傾斜、転倒状態になると、移動体が案内路内を移動して案内路内での位置をかえ、この移動体の位置を容器に設けた検出センサにより検知することにより容器の傾斜状態を知ることができるセンサ等が知られている。
【0006】
ところで、最近では上述した構成からなる傾斜センサにおいて、センサの小型化を図る必要が生じ、全体として容器の小型化、内部に収容する移動体の軽量化等が図られている。しかし、傾斜センサ全体を小型化する場合、中に収容する移動体も小さくなり、移動体重量が軽く、また、気体の場合には浮力が小さくなる。また、移動体の重量が軽くなったり、気体が小さくなると、容器壁面と移動体の側面とが密着する張付き現象が発生し、容器が転倒しても移動体が案内路内でスムーズに移動できず、傾斜状態を検知できないという不具合が発生することがある。特に、移動体の動きが遅れると、最悪の場合は傾斜センサが傾斜・転倒しても、その状態を検出できなかったり、あるいは傾斜・転倒を検知するまでの時間が長くなったりするという問題が発生する。
また、移動体として気体を使用したものも、気体と容器の壁面とが密着してしまう場合があり、このような状況になると傾斜を検知できないという不具合が発生することがある。
【0007】
さらに、案内路内に液体を満たした傾斜センサでは、高温時の液体の熱膨張により、密閉容器内の圧力が上昇し、容器が破損する事態が生ずる。このような状況を防止するために、移動体と気体とを案内路内に収納したものもあるが、このようなものも、小型化を図るために気体を小さくすると気体と容器の壁面とが密着してしまう張付き現象が発生し、傾斜状態を正確に検知できないという不具合が発生する。
また、案内路をU字状にした場合も同様の問題が発生する。特に気体と壁面とは、気体が小さく軽くなると、張付きが発生しやすく前述のような不具合が発生し易くなる。
以上のようなことから、上記構成からなる傾斜センサの小型化には限界があった。
【0008】
そこで、本発明は、液体を収容した容器と、前記容器内に形成した案内路と、前記案内路内を移動可能な移動体と、移動体を検出する検出センサとを備えた傾斜センサにおいて、前記案内路に沿った容器壁に溝を形成し、この溝によって容器壁と移動体の間に液体の通路(溝)を形成し、移動体と容器壁とが密着することを防止できる傾斜センサを提供し、上記問題点を解決することを目的とする。また、前記移動体と気体とを収納した傾斜センサにおいて、前記気体収納部の厚みを前記移動体収納部の厚みよりも大きくすることにより、気体が容器壁に張付く現象を防止できる傾斜センサを提供する。
本発明はセンサ全体を小型化することにより移動体の重量が軽くなったとしても、案内路に沿った容器壁に溝を形成したため、容器壁と移動体とが密着することを防止でき、小型傾斜センサであっても正確に傾斜状態を検知できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明が採用した技術解決手段は、
液体を収容した容器と、前記容器内に形成した案内路と、前記案内路内を移動可能な移動体と、移動体を検出する検出センサとを備えた傾斜センサにおいて、前記案内路に沿った容器壁に溝を形成し、移動体と容器壁との密着を防止したことを特徴とする傾斜センサである。
また、前記容器内には気体を収納したことを特徴とする傾斜センサである。
また、前記気体は容器内に形成した気体収納部に収納され、また移動体は容器内に形成した移動体収納部に収納され、前記気体収納部の厚みを前記移動体収納部の厚みよりも大きくしたことを特徴とする傾斜センサである。
また、前記溝は、案内路の角に形成したことを特徴とする傾斜センサである。
また、前記移動体を検出する検出センサは光センサ、電極、コイル、MR素子のいずれかであることを特徴とする傾斜センサである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、壁面と移動体の間に液体の通路(溝など)を形成することで移動体や気体と容器壁面が張付くことが無くなり、傾斜センサを小型化して移動体や気体が小さくなったとしても、移動体や気体が案内路内をスムーズに移動できるようになった。この結果、傾斜センサを小型化しても正確な傾斜状態を検出できるようになった。
また、移動体と気体とを収納した傾斜センサの場合、容器に形成した移動体収納部の厚みよりも気体収納部の厚みを厚くすることで気体の動きをスムーズにし、検出信号の出力が低下しない(傾斜状態を正確い検出できる)傾斜センサを提供できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、液体を収容した容器と、前記容器内に形成した案内路と、前記案内路内を移動可能な移動体と、移動体を検出する検出センサとを備えた傾斜センサにおいて、前記案内路に沿った容器壁に溝を形成し、移動体と容器壁との密着を防止したことを特徴とする傾斜センサであり、また容器内に移動体とともに気体を収納した傾斜センサでは気体収納部の厚みを前記移動体収納部の厚みよりも大きくしたことを特徴とする傾斜センサである。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明すると、図1は案内路内に気体と移動体を収納した傾斜センサの正面断面構成図、図2は図(1)中のH−H断面図であり、図2中の(イ)〜(ヘ)は異なる溝形状を示す断面図である。
図1において、1は容器であり、この容器内には略三角形をした案内路2が形成されている。案内路内には液体3が満たされており、案内路内には円柱状(あるいは球状)の移動体4および気体5が配置されている。さらに案内路の周囲の壁面には、図2(イ)〜(ヘ)に示すような形状の溝が形成されている。
【0013】
即ち、図2(イ)は、案内路の周辺の側壁面に略長方形の溝6を案内路外周に跨がるように(言い換えると案内路の内側と外側とにかかるように)形成したもの、同(ロ)は、案内路を区画する周囲壁7の両側に略長方形の溝6を形成したもの、同(ハ)は、案内路の周囲壁7の中央部に略長方形の溝6を形成したもの、同(ニ)は、案内路の側壁面および周囲壁に跨がるように略長方形の溝を形成したもの、同(ホ)は、案内路の周囲壁の両側に開放する三角形状の溝6を形成したもの、同(ヘ)は、案内路の周囲壁7に案内路側が開放した三角形状の溝6を形成したものである。
上記構成からなる傾斜センサでは、センサを小型化することにより移動体4や気体5が小さくなったとしても、溝6の作用で、移動体4や気体5が案内路を区画する壁面に張付くことがなくなり、常に正確な傾斜状況を検出できる。
【0014】
図3に移動体と気体を収納した他の形態の傾斜センサの構成を示す。図3において、20は容器であり、この容器20内には略逆三角形をした案内路21が形成されている。図において案内路21の中間部より上側は、気体収納部として図3に示すように幅Xが移動体の直径Yよりも広く形成されており、案内路の下側(頂点側)は移動体収納部として気体収納部よりも厚みZが薄く形成されている(次式)。
X>Z
案内路21内には液体3が満たされており、また厚みの厚い上方部(気体収納部)には気体5が、さらに厚みの薄い下方部(移動体収納部)には移動体4が配置されている。気体5の直径Yは前記幅Xよりも小さく設定されており、気体5と壁面との間に液体が回りこむようになっている。このような設定にすることで、案内路内での気体5の動きをスムーズにする。さらに案内路の周囲の壁面(特に移動体側)には、前記した図2(イ)〜(ヘ)に示すような形状の溝6が形成されている。
【0015】
上記構成からなる傾斜センサは、センサの小型化をはかるために移動体や気体を小さくしたとしても溝の作用により移動体や気体が容器壁面に張付くことがなくなり、常に正確な傾斜状況を検出できる。
なお、溝の形状は上記の形状に限定することなく、同様の機能を達成できる溝であれば、種々の形態の溝を形成することができる。
また、案内路も上記三角形に限定することなく、V字型、U字型など、同様の機能を達成できる案内路であれば、種々の形態の案内路を採用することができる。
さらに、移動体も円柱状に限定することなく、球体を使用することも可能である。また案内路内に満たす液体も、アルコール、水等の液体やオイル(シリコンオイル等)など移動体の移動に支障がない液体であれば種々の液体を使用することができる。
【0016】
つづいて前記傾斜センサにおいて、移動体を検出する検出センサの構成作用について説明する。
図4(イ)は容器に形成した案内部下方に光センサを配置した例である。光センサは、容器の外側壁面に発光側の光センサと受光側の光センサを対向して配置し、発光側から光りを出し、その光りを受光側の光センサにより検出し、間に移動体が存在するか否かを検知する。
図4(ロ)は移動体を磁石で形成し、容器の両側にホールICを配置したものである。磁石とホールICとの間に移動体が入ると、磁界変化が発生し、ホールICの抵抗値が変化する。この抵抗値変化を検知し、移動体の有無を検出する。
図4(ハ)は移動体4として導電体を使用している。案内路の両側に図示のように電極を配置し、これらの電極間に移動体が入ると、両電極間の静電容量が変化し、これによって移動体の有無を検出することができる。
図4(ニ)は、容器に設ける電極を通常移動体がある側と、傾斜・転倒時に移動体が動く側両方に設置する。この場合には、互いの電極の出力差を測定し、移動体が何方にあるかを検出してもよいし、あるいは、それぞれの電極の出力を測定し、移動体が何方にあるかを検出してもよい。
なお、検出センサは上記の例に限定することなく、同様の機能を達成できるセンサであれば、種々の形態のセンサを採用することができる。
【0017】
以上の構成からなる傾斜センサの作用を説明する。
傾斜センサが傾いたりあるいは転倒すると移動体4と気体5とが傾斜方向に移動する。この時、壁面と移動体4および気体5との間に液体の溝(通路)6が形成されているため、移動体4や気体5が容器壁面に張付くことがない。このように傾斜センサを小型化して移動体や気体が小さくなったとしても、移動体や気体がスムーズに移動でき、この結果、傾斜センサを小型化しても正確な傾斜状態を検出できる。また、移動体の移動は前述したように検出素子により検知することができるので傾斜状態を容易に検出することができる。
【0018】
以上、案内路内に気体と移動体とを収納した本発明に係る傾斜センサについて説明をしたが、案内路内に気体のみ、あるいは移動体のみを収納した傾斜センサであっても、案内路壁面に溝を形成することにより同様の効果を達成できることは当然である。また、案内路に形成する溝の断面は四角形、三角形、円形(半円形)等、同様の効果を達成できる断面であれば種々の断面を採用することができ、また溝という用語もこれら断面形状をしたものも含むものとする。また、案内路は三角形状に限定されることなく、同様の機能を達成できるものであれば、V字状、円弧状のものを使用することができる。また、移動体は円柱に限定されることなく、円盤、円筒等の円形状のものも使用することができる。さらに案内路、移動体等に滑りのよい材質を使用することで両者の摩擦を小さくし、移動体の円滑な移動を可能にすることもできる。 さらに、本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいかなる形でも実施できる。そのため、前述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、二輪車転倒検知センサ、加速度センサ、傾斜センサ等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】案内路内に気体と移動体を収納した傾斜センサの正面断面構成図である。
【図2】図(1)中のH−H断面図であり、(イ)〜(ヘ)は異なる溝形状を示す断面図である。
【図3】移動体と気体を収納した他の形態の傾斜センサの構成を示す図である。
【図4】(イ)は容器に形成した案内部下方に光センサを配置した例、(ロ)は移動体を磁石で形成し、容器の両側にホールICを配置したもの、(ハ)は移動体4として導電体を使用した例、(ニ)は、容器に設ける電極を、非傾斜時に移動体がある側と、傾斜・転倒時に移動体が動く側の両方に設置した例の図である。
【符号の説明】
【0021】
1 容器
2 案内路
3 液体
4 移動体
5 気体
6 溝
7 周囲壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容した容器と、前記容器内に形成した案内路と、前記案内路内を移動可能な移動体と、移動体を検出する検出センサとを備えた傾斜センサにおいて、前記案内路に沿った容器壁に溝を形成し、移動体と容器壁との密着を防止したことを特徴とする傾斜センサ。
【請求項2】
前記容器内には気体を収納したことを特徴とする請求項1に記載の傾斜センサ。
【請求項3】
前記気体は容器内に形成した気体収納部に収納され、また移動体は容器内に形成した移動体収納部に収納され、前記気体収納部の厚みを前記移動体収納部の厚みよりも大きくしたことを特徴とする請求項2に記載の傾斜センサ。
【請求項4】
前記溝は、案内路の角に形成したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の傾斜センサ。
【請求項5】
前記移動体を検出する検出センサは光センサ、電極、コイル、MR素子のいずれかであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の傾斜センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−292388(P2006−292388A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109318(P2005−109318)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)