説明

傾斜計

【課題】例えばボーリングにより地中に掘削されたボーリング孔(縦穴)に挿入して使用するに好適で、しかも検出リニアリティの良い傾斜計を提供する。
【解決手段】筒状のケースの軸方向に進退自在に設けられた棒状の可動子と、この可動子の変位量を検出する変位センサ、例えば可動子に装着された透磁性体、又は渦電流効果を生ずる金属からなる芯、およびこの芯を囲繞して設けられたコイルとからなる差動トランスと、前記ケースの軸方向を横切る方向に回動軸を有して前記ケースの内部に回動自在に軸支された回動体と、この回動体に取り付けられて該回動体の姿勢を地球の重力方向に偏倚する錘と、この回動体に取り付けられて該回動体の姿勢を弾性偏倚させるばねと、前記ケースの傾きに伴う前記回動体の回動を前記可動子の直進運動に変換する運動変換機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリングにより地中に掘削されたボーリング孔(縦穴)に挿入して使用するに好適な傾斜計に関する。
【背景技術】
【0002】
崖崩れ等の土砂災害を防ぐには、例えば地層の動きからその傾斜状況を計測して対策を講じることが必要である。ちなみに地層は地震等による震動、地中における水分、更には地表面等から加わる圧力の影響を受けて常に変化しており、このような地層の動きを計測する手法の1つとして傾斜計が用いられる。傾斜計は、基本的には糸や棒等で吊した錘が常に地球の重力方向、即ち、鉛直方向に垂下することを利用して、錘を吊した基体(支持体)と上記錘が垂下する向きとがなす角度から、上記基体の傾き角度(傾斜角)を求めるように構成される(例えば特許文献1,2を参照)。
【0003】
また特に地層の動きを計測する傾斜計は、通常、密閉したケースに組み込まれて該ケースと共に地中に埋設して用いられ、地層の動きに伴って変化する上記ケースの傾き角を計測するように構成される。
【特許文献1】特開2003−139530号公報
【特許文献2】特開平10−141950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところでこの種の傾斜計を、例えばボーリングにより地中に掘削したボーリング孔(縦穴)に挿入して用いる場合、例えばボーリング孔に挿入可能な径の円筒体(パイプ)をそのケースとして用いることが普通である。そして、そのケースの径はできるだけ小さいほうがボーリング孔の径を小さくできる等、施工の費用や作業の面から極めて望ましい。また地中は湿度が高く、水に濡れる可能性があることから、その傾斜センサとしてホール素子やストレインゲージ等ではなく、水や圧力等の外界の影響を受け難い、密封された強固な構造の差動トランスを用いることが好ましい。
【0005】
また一般に傾斜計は、前述したようにケース(基体)に対する水平面での錘の傾きを検出するものであるから、特許文献1,2にそれぞれ示されるように傾きを検知するセンサとして差動トランスを横向きに配置することが必要である。しかしこのような差動トランスを、例えば外径が30mm程度のボーリング孔に挿入可能な円筒体(パイプ)内にどのように組み込むかと言う点で問題がある。
【0006】
即ち、一般に差動トランス(コイル)の外径は10mm程度と小さいが、その全長が長い。これ故、差動トランスを横向きにして円筒状のパイプに組み込むと該パイプの径が大きくなることが否めない。例えば測定距離が±1mmの差動トランスのコイルの長さは約20mmであり、芯を含めるとその全長は略30mmになるから、パイプの内径として約35mm程度必要である。するとボーリング孔の径を大きく掘る必要があるため、多大な掘削費用が掛かる。
【0007】
また重い錘の傾斜変位を差動トランスで計測するように構成した従来の傾斜計は、例えば1枚の板ばねで錘(約100g)を吊るし、傾斜に伴って地球の重力により錘が板ばねの力に抗して鉛直方向に移動した際に生じる横方向の変位を差動トランスで計測するように構成されている。しかしケース(パイプ)が傾斜する際、上記錘に作用する力が大きいので、多少の摩擦等があっても確実に動作する利点はあるが次のような欠点がある。
【0008】
即ち、差動トランスを横方向に設置する為、ケースパイプの径が大きくなる。板ばねに吊された重錘の横方向の変位は正確な直進運動ではなく、円弧を描くため、差動トランスの芯とコイルの位置を正確にセットすることは非常に難しい。また芯とコイルの隙間を大きく取る必要があるため、差動トランスの特性が悪くなる。更には板バネの撓み面に直角な面の分力が板ばねにねじれを生じさせ、板ばねのリニアリティが悪くなる。また或る程度荷重が加わった状態においては、上記板ばねの弾性値は一定であるが、無負荷に近い状態では一定にならないため、傾斜が零点付近で良いリニアリティを得ることは難しい等の問題がある。
【0009】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、例えばボーリングにより地中に掘削されたボーリング孔(縦穴)に挿入して使用するに好適で、特にリニアリティの良好な性能を持つ傾斜計を提供することにある。
即ち、本発明に係る傾斜計は、より小径(内径が20〜25mm)のケースを使えるようにしたものであって、例えばボーリングにより地中に掘削されたボーリング孔(縦穴)に挿入して使用するにあたり、従来のボーリング孔より小径の孔に挿入するに好適な外径の小さい傾斜計を提供することにある。特にリニアリティ良く傾斜を検出することのできる傾斜計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するべく本発明に係る傾斜計は、筒状のケースに組み込まれ該ケースと共に地中に埋設されて上記ケースの傾きを計測するに好適なものであって、
<a> 前記ケースの軸方向に進退自在に設けられた可動子と、
<b> この可動子の変位量を検出する変位センサ、例えば可動子に装着された透磁性体、又は渦電流効果を生ずる金属からなる芯、およびこの芯を囲繞して設けられたコイルとからなる差動トランスと、
<c> 前記ケースの軸方向を横切る方向に回動軸を有して前記ケースの内部に回動自在に設置された回動体と、
<d> この回動体を弾性偏倚して前記ケースの軸方向と直交する方向に平衡に支持するばねと、
<e> 前記回動体に取り付けられて前記ばねに抗して前記回動体を重力方向に向けて回動偏倚する錘と、
<f> 前記ケースの傾きに伴う前記回動体の回動を前記可動子の直進運動に変換する運動変換機構と
を具備したことを特徴としている。
【0011】
即ち、本発明に係る傾斜計は、摩擦が少なく、強固で1軸面でのみ回転する軸受(例えばボールベアリング)にて軸支された回動体に重錘を取り付けると共に、上記回動体の両側を一対のばね(例えば蔓巻きばね)で吊ったもので、ケースが傾斜する際、2つの蔓巻きばねに発生する回転力に抗して、上記重錘が重力によって地球の鉛直方向に移動することによって生ずる前記回動体の回転変位を差動トランスで計測する構成としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上述した構成の傾斜計によれば、前記回動体をばねにより弾性偏倚して前記ケースの軸方向と直交する方向に平衡に支持し、この回動体を前記錘により前記ばねに抗して重力方向に向けて回動偏倚させるように構成しているので、前記回動体の回動に伴う前記可動子の進退量を前記変位センサの計測範囲に容易に合わせることができる。従って傾斜角の検出をリニアリティ良く行うことが可能となる。
【0013】
また錘によって地球の重力方向に姿勢が一定に保持された回動体のケースに対する傾きである回動体の回動を、運動変換機構を介して前記筒状のケースの軸方向に進退可能に設けられた可動子の直線運動に変換するので、前記筒状のケースの横幅(径)を十分に確保できない場合であっても、上記可動子の変位、ひいては前記回動体の回動角を確実に検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る傾斜計について説明する。
図1は本発明の実施形態に係る傾斜計の概略構成を示す正面図であり、また図2はその側面構成図である。この傾斜計は、例えば内径が20〜25mmの円筒状のケース1の内部に組み込まれるものである。具体的には傾斜計は、長尺の板からなる支持体2に搭載されて前記ケース1の内部に組み込まれ、予め地面に穿いたボーリング孔(図示せず)に前記ケース1と一体に挿入されて、地中に埋め込まれて使用される。
【0015】
上記傾斜計は、概略的には前記ケース1の軸方向に沿って挿入される長尺矩形状の板体からなる支持体2の上部領域に、所定長さの軸体からなる可動子3を前記支持体2の長手方向に沿って直進移動自在に設けると共に、この可動子3の上下方向の変位を検出する差動トランス(変位センサ)4を設けて構成される。この差動トランス4は、前記可動子3の先端部に装着された、例えば透磁性体や渦電流効果を生ずる金属からなる円筒型の芯4aを囲繞する円筒コイル4bを備えたもので、上記円筒コイル4bを励磁したときに前記芯4aによって円筒コイル4bに生起される誘起電圧から該コイル4bに対する前記芯15の変位量を、後述するように前記ケース1の傾き角度として検出するものである。尚、前記可動子3は、円筒コイル4bの上端部においてスラスト軸受け5を介して該円筒コイル4bと同軸に軸支されており、これによって前記円筒コイル4b内を円滑に、その軸方向に上下動するようになっている。
【0016】
一方、前記支持体2の下部領域には、該支持体2の面と直交する向きを軸としてボールベアリング等のラジアル軸受け6が設けられており、このラジアル軸受け6を介して板状の回動体7が回動自在に軸支されている。特にこの回動体7は、前記ラジアル軸受け6に軸支されることで前記ケース1の軸方向に対して直交する1軸面でのみ、大きな摩擦を生じることなしに円滑に回動し得るように設けられている。またこの回動体7の下端部には、例えば100g程度の重錘8が固定されており、この重錘8によって前記回動体7が重力方向に回動偏奇されるようになっている。尚、上記重錘8は、前述したラジアル軸受け6を回動軸として前記回動体7と一体に回動する。
【0017】
また前記回動体7の上端両肩部には前記ラジアル軸受け6を通る該回動体7の中心線を基準として一対の支持ピン9a,9bが左右対称に設けられている。また前述した支持体2の上端両肩部にも前記ラジアル軸受け6を通る該支持体2の中心線を基準として一対の支持ピン10a,10bが左右対称に設けられている。そしてこれらの支持ピン10a,10bと前記支持ピン9a,9bとの間には、一対のコイルばね(蔓巻きばね)11a,11bがそれぞれ張架されている。これらのコイルばね(蔓巻きばね)11a,11bの弾性力により、基本的には前記回動体7が前記ケース1の軸方向と直交する方向に平衡に支持される。尚、上記左右に対称となる位置とは、回動体7の回動中心と、この回動体7に取り付けられた重錘8とを結ぶ中心線を基準とする線対称の位置を指す。
【0018】
そして上述した如く回動自在に設けられた回動体7の上部一側縁部と、前述した可動子3の下端部との間は、略「く」の字状のリンク部材12にて連結されている。具体的には上記リンク部材12は、その一端部を結合ピン13aを介して前記回動体7の上部一側縁部に回動自在に連結され、またその他端部を結合ピン13bを介して前記可動子3の下端部に回動自在に連結されている。このような連結構造をなすことで、前記回動体7の回動変位が前記可動子3の上下変位として伝達されるものとなっている。
【0019】
このような構成の傾斜計によれば、前述した回動体7は前記2本のコイルばね(蔓巻きばね)11a,11bの弾性力(引っ張り力)と前記錘6の重量とが釣り合ったところでその姿勢が安定する。従って、例えば傾斜計としての傾き計測範囲が±30°であるにも拘わらず、ケース1内に収納された回動体7の回動範囲が±15°しか許容されない場合であっても、前述した2本のコイルばね(蔓巻きばね)11a,11bの弾性力(引っ張り力)と前記重錘8の重量とを予め調整しておくことで、ケース1の傾きに対して回動体7の回動角を半分にすることが可能となる。
【0020】
即ち、定常状態において前記回動体7の姿勢をケース1の径(ラジアル)方向に安定に平衡化するべく該回動体7に付与する弾性偏倚力と、上記回動体7に重力方向の回動偏倚力を与える重錘8の重量とを調整することによって、ケース1の傾き角θに対する回動体7の回動角φを、或る比例関係を満たすように設定することができる。従って小径パイプからなるケース1の内部に前述した機構を組み込む上での利点が多大である。
【0021】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。ここでは変位センサとして差動トランス4を用いた例について示したが、縦方向に摺動するポテンショメータやホール素子等を変位センサとして用いることも勿論可能である。また回動体5の形状等についても、ケース1内の空間を有効に利用して収容できるようなものであれば良い。また回動体7の支持構造についても、ボールベアリング等の軸受けを用いて滑らかに回動するようにしておけば十分であり、ばねについても前述したコイルばね(蔓巻きばね)に限定されないことは言うまでもない。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る傾斜計の概略構成を示す正面図。
【図2】図1に示す傾斜計の側面図。
【符号の説明】
【0023】
1 ケース
2 支持板
3 可動子
4 差動トランス(変位センサ)
7 回動体
8 重錘
12 リンク部材(連結機構)
11a,11b コイルばね(蔓巻きばね)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のケースに組み込まれて、該ケースと共に地中に埋設されて上記ケースの傾きを計測する傾斜計であって、
前記ケースの軸方向に進退自在に設けられた可動子と、
この可動子の変位量を検出する変位センサと、
前記ケースの軸方向を横切る方向に回動軸を有して前記ケースの内部に回動自在に軸支された回動体と、
この回動体を弾性偏倚して前記ケースの軸方向と直交する方向に平衡に支持するばねと、
前記回動体に取り付けられて前記ばねに抗して前記回動体を重力方向に向けて回動偏倚する錘と、
前記ケースの傾きに伴う前記回動体の回動を前記可動子の直進運動に変換する運動変換機構と
を具備したことを特徴とする傾斜計。
【請求項2】
前記運動変換機構は、連結体を介して前記可動子と前記回動体とを相対変位可能に連結したリンク機構からなる請求項1に記載の傾斜計。
【請求項3】
前記変位センサは、前記可動子に装着された透磁性体、又は渦電流効果を生ずる金属からなる芯と、この芯を囲繞して設けられたコイルとにより構成された差動トランスである請求項1に記載の傾斜計。
【請求項4】
前記ばねは、前記回動体の水平方向両端部とケースとの間にそれぞれ張架された一対の蔓巻きばねからなる請求項1に記載の傾斜計。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−216227(P2008−216227A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58132(P2007−58132)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(593199471)株式会社オサシ・テクノス (3)
【出願人】(000111340)ノーブル産業株式会社 (1)