説明

光インタコネクション回路

【課題】電子回路チップの配置制限がない。
【解決手段】受発光素子を具えた電子回路チップが配置されたプリント配線基板10、2次元光導波路20-1及び20-2、及び円偏光板16-1、16-2を具えている。第1電子回路チップ12-1が具えている発光素子14-1の出力光が円偏光板16-1に入力されて円偏光に変換されて第1回折格子22-1に入力される。第1回折格子に入力された光束は回折されてその回折光が2次元光導波路20-1に入力される。2次元光導波路に入力された回折光は、2次元光導波路を伝播してその一部が第2回折格子22-2に到達する。第2回折格子に到達した回折光は回折されてこの回折光が受光素子14-2に入力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発光素子を具える電子回路チップと受光素子を具える電子回路チップとの間で、光によって通信を行うための光インタコネクション回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子集積回路の性能の向上が著しく、電子集積回路を内蔵した電子回路チップ間での通信速度が増大している。これに伴い、電子回路チップ間の通信に光を用いる光インタコネクション回路が盛んに研究されている(例えば、特許文献1〜24参照)。
【0003】
これら光インタコネクション回路の基本的な構成は大別して、3次元自由空間を通信に使う光を伝播させる構成、及び光導波路に閉じ込めて通信に使う光を伝播させる構成の2種類ある。
【0004】
3次元自由空間を伝播させて光インタコネクションを実現する光インタコネクション回路は、例えば、光のコリメート、光の分波、あるいは光を偏向させる光学素子等を組み合わせることによって実現されている(例えば、特許文献16〜19参照)。
【0005】
また、光導波路を利用して光インタコネクションを実現する光インタコネクション回路は、光導波路(1次元光導波路)が集積化された光配線ボードを使って、通信に使う光を伝播させる構成とするのが一般的である(例えば、特許文献20〜24参照)。
【0006】
一方、最近の技術動向によれば、物体を特定の波長の光の電磁場から隠しそれ以外の波長の光の電磁場を通す機能を有する物質である透明マント(invisibility cloak)の研究報告がなされている(非特許文献1及び2参照)。この透明マントを使用することによって、波長選択的に光導波経路を3次元的に形成することが期待される。
【0007】
また、詳細は後述するが、入射光束を360°等方的に回折する3次元的回折光である同心球状回折格子の製造方法についても研究報告がなされている(例えば、非特許文献3参照)。この同心球状回折格子を利用することによって、従来研究されてこなかった、3次元自由空間を伝送路とする光インタコネクション回路を形成することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/013128号パンフレット
【特許文献2】特開2006-113372号公報
【特許文献3】特開2004-191390号公報
【特許文献4】特開2004-191391号公報
【特許文献5】特開2004-191392号公報
【特許文献6】特開2004-192023号公報
【特許文献7】特開2004-172965号公報
【特許文献8】特開2004-22901号公報
【特許文献9】特開2003-315854号公報
【特許文献10】特開2002-26440号公報
【特許文献11】特開2001-141965号公報
【特許文献12】特開平10-178387号公報
【特許文献13】特開平9-199700号公報
【特許文献14】特開平9-43441号公報
【特許文献15】特開平7-141688号公報
【特許文献16】特開2006-113566号公報
【特許文献17】特開2004-327584号公報
【特許文献18】特開2001-36197号公報
【特許文献19】特開平6-69490号公報
【特許文献20】特開2002-353494号公報
【特許文献21】特開平10-274791号公報
【特許文献22】特開平10-54949号公報
【特許文献23】特開平9-5581号公報
【特許文献24】特開平8-278522号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nina A. Zharova, IIya V. Shadrivov, Alexander A. Zharov, and Yuri S. Kivshar, "Ideal and nonideal invisibility cloaks," Optics Express vol. 16, No. 26, pp. 21369〜21374 (2008).
【非特許文献2】北野正雄、「メタマテリアルとは何か」応用物理 第78巻、第6号、pp.503-510(2009)
【非特許文献3】Masanobu Haraguchi, Futoshi Komatsu, Kenji Tajiri, Toshihiro Okamoto, Masuo Fukui and Kun-ichi Kato, "Fabrication and Optical characterization of a TiO2thin film on a SiO2 micro-sphere," Surface Science, Vol.548, No.1-3, pp.59-66, 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
光配線ボードを利用して実現される光インタコネクション回路は、光損失が少ない点で優れているが、相互接続する電子回路チップの数が多くなるに従って光導波路の形状及びその配置(光配線)が複雑になる。そのため、相互接続する電子回路チップの数が非常に多くなった場合は、光インタコネクション回路を形成することが困難となる場合もある。
【0011】
また、電子回路チップの配置に関して、光配線ボードの構成に基づく制限が課せられる。すなわち、光配線ボードは2次元的な平面に並列されて形成されるのが一般的であるので、光配線ボードの光の入出力端に電子回路チップを2次元的に並べて配置しなければならない等の制限がある。
【0012】
一方、従来の3次元自由空間を通信に使う光を伝播させる構成とされた光インタコネクション回路は、電子回路チップが配置された複数の電子ボード間において、異なる電子ボードに配置された電子回路チップ間での通信が想定されて形成された光インタコネクション回路である。3次元の自由度を持って配置された電子回路チップ間の通信を想定して光インタコネクションを実現することが可能である光インタコネクション回路については未だ提案がなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の発明者は、光配線ボードを利用して実現される光インタコネクション回路が有する光配線の複雑化の問題、及び電子回路チップの配置制限の問題は、通信に使う光を導波する伝送路を、2次元光導波路あるいは3次元自由空間とすることで解決されることに着目した。
【0014】
また、2次元あるいは3次元の自由度を持って配置された電子回路チップ間の通信を想定して光インタコネクションを実現するためには、送信側の電子回路チップから出力される通信に使う光が、方向に依存することなく均等な強度で2次元光導波路あるいは3次元自由空間を伝播させる構成とする必要がある。
【0015】
この発明の発明者は、鋭意探求した結果、電子回路チップ間の通信に利用する光の偏向状態を制御することによって、このような構成を実現することが可能であることに想到した。
【0016】
この発明はこのような事情に着目してなされたものであり、電子回路チップの配置制限がない光インタコネクション回路を提供することを目的とする。
【0017】
第1発明の要旨によれば、上述の目的を達成するため、光インタコネクション回路は、以下の特徴を具えている。
【0018】
第1発明の光インタコネクション回路は、発光素子を具える第1電子回路チップと、受光素子を具える第2電子回路チップとの間で、2次元光導波路を伝播する光によって通信を行うための光インタコネクション回路であり、円偏光版、第1回折格子、及び第2回折格子を具えて構成される。
【0019】
円偏光板は、発光素子の出力光の偏光を円偏光に変換する。第1回折格子は、円偏光板から出力される円偏光の光束を回折し2次元光導波路へ導入する。また、第2回折格子は、第1回折格子で回折されて2次元光導波路を伝播する導波光の一部を回折してこの2次元光導波路から出力させる。すなわち、第1発明の光インタコネクション回路は、発光素子の出力光が円偏光板に入力され、第2回折格子で回折された光束が受光素子に入力される構成とされている。
【0020】
また、第1発明の他の好適な実施形態の光インタコネクション回路によれば、第1回折格子を、円偏光の光束を2次元光導波路の導波方向に回折する機能を有する回折格子とし、第2回折格子を、2次元光導波路を伝播した導波光を2次元光導波路の導波方向に対して垂直方向に回折する機能を有する回折格子とするのが良い。
【0021】
また、更に、第1発明の他の好適な実施形態の光インタコネクション回路によれば、上述の第1及び第2回折格子の平均等価屈折率は、2次元光導波路の等価屈折率に等しく設定するのが良い。
【0022】
また、更に、第1発明の他の好適な実施形態の光インタコネクション回路によれば、上述の第1及び第2回折格子は、レリーフ型回折格子とするのが良い。
【0023】
また、更に、第1発明の他の好適な実施形態の光インタコネクション回路によれば、上述の2次元光導波路の導波方向に平行な平面に沿って、第1及び第2回折格子が設置されている箇所を除き、光遮蔽版を設けた構成とするのが良い。
【0024】
第2発明の要旨によれば、光インタコネクション回路は、発光素子を具える第1電子回路チップと受光素子を具える第2電子回路チップとの間で3次元自由空間を伝播する光を用いて通信を行うための光インタコネクション回路であり、円偏光板、第1同心球状回折格子、及び第2同心球状回折格子を具えて構成される。
【0025】
円偏光板は、発光素子の出力光の偏光を円偏光に変換する。第1同心球状回折格子は、円偏光板から出力されて3次元自由空間に入力された円偏光の一部を回折する。第2同心球状回折格子は、第1同心球状回折格子で回折されて3次元自由空間を伝播する第1同心球状回折格子の回折光の一部を回折してこの回折光を3次元自由空間から出力させる。すなわち、第2発明の光インタコネクション回路は、発光素子の出力光が円偏光板に入力され、第2同心球状回折格子で回折された光束が受光素子に入力される構成とされている。
【0026】
また、第2発明の他の好適な実施形態の光インタコネクション回路によれば、上述の第1及び第2同心球状回折格子の少なくとも一方を、透明マント領域が中心部に設けられ、光偏向素子をこの透明マント領域に内蔵させた構成とするのが良い。透明マントとは、物体を特定の波長の光の電磁場から隠しそれ以外の波長の光の電磁場を通す機能を有する物質であり、最近盛んに研究されている(非特許文献1及び2参照)。透明マント領域とはこの性質を持つ物質で囲まれた領域をいう。
【発明の効果】
【0027】
第1発明の光インタコネクション回路によれば、第1電子回路チップと第2電子回路チップ間の通信を担う光を導波させる伝送路として2次元光導波路を利用する構成とされているので、この2次元光導波路の任意の場所に第1あるいは第2電子回路チップを配置することが可能である。すなわち、2次元光導波路は、光を導波する2次元の光導波層を2次元のクラッド層で挟んだ構成であり、クラッド層の表面の任意の場所において、回折格子によって光を2次元の光導波層に入出力させることが可能である。この回折格子の役割を果たすのが、第1及び第2回折格子である。
【0028】
一般に、回折格子で回折される回折光を光導波路に入力させる構造の説明においては、回折格子を光カプラと呼び、回折光を光導波路にカップリングさせるという言い方もされる。
【0029】
従って、発光素子を具える第1電子回路チップをクラッド層の表面のどこに配置しても、発光素子から出力される光束を第1回折格子によって2次元光導波路に入力することが可能である。また、2次元光導波路を導波された光は、クラッド層を介してこの2次元光導波路の任意の場所から第2回折格子によって出力させることが可能であるので、受光素子を具える第2電子回路チップをクラッド層の表面のどこに配置しても、2次元光導波路から出力された光束を受光素子で受光することが可能である。
【0030】
また、第1発明の光インタコネクション回路によれば、発光素子の出力光の偏光を円偏光に変換する円偏光板を具え、この円偏光板によって発光素子の出力光が円偏光に変換されてから第1回折格子によって回折されて2次元光導波路に入力される。このように円偏光の光束が第1回折格子によって回折される構成とすることによって、入力光束は2次元光導波路の360°全範囲にわたった伝播方向に均等な強度で回折される。
【0031】
従って、第1電子回路チップが配置された位置に対して、何れの位置に第2電子回路チップを配置しても等しく回折光を受信することが可能であり、配置場所によって回折光の受信が困難となることはない。すなわち、第1発明の光インタコネクション回路によれば、第1及び第2電子回路チップの配置制限がなくなる。
【0032】
第2発明の光インタコネクション回路によれば、第1電子回路チップと第2電子回路チップ間の通信を担う光を導波させる伝送路として3次元自由空間を利用する構成とされているので、この3次元自由空間の任意の場所に第1あるいは第2電子回路チップを配置することが可能である。
【0033】
また、第2発明の光インタコネクション回路によれば、発光素子の出力光の偏光を円偏光に変換する円偏光板を具えており、第1同心球状回折格子が、円偏光板から出力されて3次元自由空間に入力された円偏光の光束を回折し、第2同心球状回折格子が第1同心球状回折格子で回折されて3次元自由空間を伝播する回折光の一部を回折してこの回折光を3次元自由空間から出力させる構成とされている。
【0034】
このように円偏光の光束が第1同心球状回折格子によって回折される構成とすることによって、3次元自由空間に入力される入力光束は3次元自由空間の360°全範囲にわたった伝播方向に均等な強度で回折される。
【0035】
3次元自由空間中に配置される第1同心球状回折格子が配置された位置に対して、何れの位置に第2同心球状回折格子を配置しても等しく回折光を第2同心球状回折格子に入力することが可能であり、第1及び第2同心球状回折格子の配置場所によって、第1電子回路チップと第2電子回路チップ間の通信が困難となることはない。
【0036】
すなわち、第2発明の光インタコネクション回路によれば、第1同心球状回折格子及び第2同心球状回折格子の配置場所に3次元自由度があるので、これに従って、第1及び第2電子回路チップの配置制限がなくなる。
【0037】
また、第2発明の光インタコネクション回路の好適な実施形態によれば、上述の第1及び第2同心球状回折格子の少なくとも一方は、透明マント領域が中心部に設けられており、この透明マント領域内に光偏向素子が配置された構成とされている。
【0038】
この透明マント領域は特定の波長の光に対してのみ機能し、この特定波長の光は、空間中に透明マント領域が全く存在しないかのごとく振舞う。また、この特定波長以外の光は透明マント領域内に侵入し光偏向素子によってその進行方向が曲げられるので、透明マント領域に対する特定波長の光と特定波長以外の光とを利用すれば、両者の光に対して同心球状回折格子は全く異なる振る舞いをする。従って、この特定波長の光とこの特定波長以外の光とを用いた多波長による光通信が効率よく実現可能である光インタコネクション回路を実現することが可能となり、このことによって一層、電子回路チップの配置の自由度を大きくとることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1発明の実施形態の光インタコネクション回路の2次元光導波路の導波層に直交する平面で切断して示す概略的断面構造図である。
【図2】2次元光導波路の第1及び第2回折格子の配置関係、及び、第1及び第2回折格子の垂直断面形状についての説明に供する図である。(A)はクラッド層上に配置された回折格子の配置の関係を示す図であり、(B)は2次元光導波路の導波層のa-a'で示す位置で切断して示した概略的断面構造図である。
【図3】同心円状回折格子による回折効果についての説明に供する図である。(A)はz軸の負の領域から平面波で表される光束が入射しこの同心円状回折格子で反射及び透過される出射光のz-x平面における等位相波面を示す図であり、(B)はz-y平面における等位相波面を示す図である。
【図4】同心円状回折格子による回折光の偏光方向依存性についてのシミュレーション結果の説明に供する図である。(A)は入射する入力光の偏光が円偏光である場合、(B)は入射する入力光の偏光が直線偏光である場合の回折光の等位相波面の空間形状のx-z平面での切断面をそれぞれ示す図である。
【図5】3次元自由空間に配置された同心球状回折格子が立体サポート材料に支えられて配置されて構成される第2発明の実施形態の光インタコネクション回路の概略的立体構造図である。
【図6】透明マント領域が中心部に設けられこの透明マント領域内に光偏光子が設置された構成の同心球状回折格子の概略的断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図を参照して、この発明の実施形態につき説明する。なお、各図は、この発明に係る一構成例を図示するものであり、この発明が理解できる程度に各構成要素の断面形状や配置関係等を概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の材料および条件等を用いることがあるが、これら材料および条件は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。また、各図において同様の構成要素については、同一の番号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。
【0041】
<第1発明の実施形態の光インタコネクション回路の構成>
図1を参照して第1発明の実施形態の光インタコネクション回路の構成につき説明する。図1は、第1発明の実施形態の光インタコネクション回路の2次元光導波路の導波層に直交する平面で切断して示す概略的断面構造図である。
【0042】
図1においては、第1発明の実施形態の光インタコネクション回路の一例として、プリント配線基板10に、発光素子14-1を具える第1電子回路チップ12-1、受光素子14-2を具える第2電子回路チップ12-2、及び発光素子14-3を具える第3電子回路チップ12-3が配置されている例を示している。
【0043】
また、ここでは、第1電子回路チップ12-1から第2電子回路チップ12-2に向けた通信が行われるものとして説明する。この場合は、第1電子回路チップ12-1が具える発光素子14-1から出力される信号光が通信に使われ、第2電子回路チップ12-2が具える受光素子14-2で受信される。
【0044】
第1電子回路チップ12-1から第2電子回路チップ12-2へ向けた通信であっても、逆に第2電子回路チップ12-2から第1電子回路チップ12-1へ向けた通信であっても、光インタコネクションの形態は同一である。すなわち、第1電子回路チップ12-1を送信側とし、第2電子回路チップ12-2を受信側とするものと定義して光インタコネクションを説明しても説明の一般性を失うことはない。
【0045】
プリント配線基板10には、一般に、発光素子及び受光素子を具えた電子回路チップが複数設置されている。電子回路チップは、電子集積回路(IC: Integrated Circuit)あるいは大規模集積回路(LSI: Large Scale Integration)等である。また、図1では発光素子と受光素子とを単に1つのブロックで模式的に示してあるが、実際の光インタコネクション回路では、発光素子および受光素子は隣接して設けられており、1つの電子回路チップは発光素子と受光素子とを共に具えている。
【0046】
すなわち、第1電子回路チップ12-1は発光素子14-1と受光素子(図示を省略してある。)を具えており、第2電子回路チップ12-2も受光素子14-2と発光素子(図示を省略してある。)を具えている。従って、第2電子回路チップ12-2を送信側とし、第1電子回路チップ12-1を受信側とする場合は、受光素子14-2とあるところを発光素子14-2と読み替え、発光素子14-1とあるところを受光素子14-1と読み替えればよい。
【0047】
一般に、光インタコネクション回路においては、第1電子回路チップ12-1と第2電子回路チップ12-2との間で双方向通信が行われる。従って、いずれの電子回路チップも送信側あるいは受信側となり得る。
【0048】
発光素子は、GaAs結晶あるいはInP結晶を主材料として形成される発光ダイオード(LED: Light Emitting Diode)あるいは半導体レーザ(LD: Laser Diode)等である。また、受光素子はGe結晶を主材料として形成されるフォトダイオード等である。プリント配線基板10は、ガラスエポキシ基板等が利用されるが、シリコン基板等の半導体基板が利用されることもある。
【0049】
プリント配線基板10には、発光素子及び受光素子を具えた電子回路チップの他に、図示を省略してあるが、これら電子回路チップを駆動するための駆動回路も固定されている。発光素子、受光素子及び駆動回路をプリント配線基板10に固定するには、周知のボンディング技術が利用される。
【0050】
2次元光導波路20-1及び20-2は、SiON光導波路、Si光導波路、ポリマー光導波路等周知の光導波路を適宜利用できる。2次元光導波路20-1及び20-2は、光を導波する2次元の光導波層を2次元のクラッド層で挟んだ構成であり、クラッド層の表面の任意の場所から、光カプラによって光を2次元の光導波層に入出力させることが可能である。2次元光導波路20-1及び20-2が、光を導波する2次元の光導波層を2次元のクラッド層で挟んだ構成であることは周知のことであるので、図面が煩雑化することを避けるために、クラッド層を省略して示してある。
【0051】
第1発明の実施形態の光インタコネクション回路は、受発光素子を具えた電子回路チップが配置されたプリント配線基板10、2次元光導波路20-1及び20-2を具え、更に、円偏光板16-1、16-2及び遮光板18-1、18-2を具えている。円偏光板16-1、16-2は、光学結晶材料、フォトニック結晶基板、ポリマー膜等、周知の素子が適宜利用される。また、遮光板18-1、18-2は、Cr等の金属薄膜を蒸着法で蒸着する等の方法で形成される。
【0052】
なお、発光素子14-1等の発光面及び受光素子14-2等の受光面から2次元光導波路20-1に具えられている円偏光板16-1等の入射面との間隔が充分狭くなるように配置した場合、すなわちプリント配線基板10と2次元光導波路20-1とを充分近づけて配置した場合は、遮光板18-1は必ずしも必要とされない。同様に、2次元光導波路20-1と2次元光導波路20-2とを充分近づけて配置した場合は、遮光板18-2は必ずしも必要とされない。
【0053】
図1に示す第1発明の実施形態の光インタコネクション回路では、第1電子回路チップ12-1が具えている発光素子14-1の出力光が円偏光板16-1に入力されて円偏光(以下、この円偏光を第1円偏光とも称する。)に変換されて、第1回折格子22-1に入力される。第1回折格子22-1に入力された光束は、第1回折格子22-1で回折されてその回折光(以下、この回折光を第1回折光とも称する。)が2次元光導波路20-1に入力される。
【0054】
2次元光導波路20-1に入力された回折光、すなわち第1回折光は、2次元光導波路20-1を伝播してその一部が第2回折格子22-2に到達する。第2回折格子22-2に到達した第1回折光は、第2回折格子22-2によって回折されてこの回折光(以下、この回折光を第2回折光とも称する。)が受光素子14-2に入力される。
【0055】
図1に示すように、第1発明の実施形態の光インタコネクション回路によれば、発光素子14-1の出力光は、円偏光板16-1を通過した後第1回折格子22-1で回折されて2次元光導波路20-1にカップリングされる。このとき、第1回折格子22-1によって、2次元光導波路20-1の導波方向に対して垂直の方向に出力された発光素子14-1の出力光を、第1回折格子22-1を中心にして360°等方的に2次元光導波路20-1中に回折させる構造とするのが望ましい。そのためには、第1回折格子22-1として、屈折率(導波屈折率あるいは等価屈折率)の高い部分と低い部分とが交互に繰り返される周期構造が同心円状に形成された回折格子を利用すればよい(例えば、特許文献14及び15参照)。以後、同心円状に形成された回折格子を同心円状回折格子ということもある。
【0056】
また、第2回折格子22-2は、第2回折格子22-2を中心にして2次元光導波路20-1中を360°の全方位から伝播して到達する第1回折光を受けて、この第1回折光を2次元光導波路20-1の伝播方向に対して垂直方向に回折させる機能を有している事が望ましい。従って、第2回折格子22-2も同様に、同心円状回折格子が利用される。
【0057】
<2次元光導波路の積層構造>
図1に示す第1発明の実施形態の光インタコネクション回路によれば、2次元光導波路として2次元光導波路20-1及び20-2の2層を具えている。このように2次元光導波路を2層以上設けることによって、電子回路チップの配置の自由度を増すことが可能である。
【0058】
例えば、図1に示すように、第3電子回路チップ12-3が具える発光素子14-3から出力される出力光を、2次元光導波路20-1を透過して2次元光導波路20-2に設置された円偏光板26-1に入力して第1円偏光に変換し、回折格子28-1で回折させて第1回折光を2次元光導波路20-2にカップリングさせる構成とすることが可能である。そして、第1回折光は2次元光導波路20-2を伝播して、同じく2次元光導波路20-2の何れかの箇所に配置された回折格子(図示を省略してある)によって回折され、よって第2回折光が2次元光導波路20-2から出力されて、第3の受光素子(図示を省略してある)に入力されるという光経路を形成することが可能である。
【0059】
すなわち、この場合には2次元光導波路20-2が利用されて光インタコネクションが実現される。このように積層される2次元光導波路の数を増やすことによって、光インタコネクションが実現可能となる光経路の選択幅が広がり、結果として電子回路チップの配置の自由度を増すことが可能となる。因みに、図1においては、積層される2次元光導波路の数が2層となっているが、2層に限定されること無く、3層以上の積層構造とすることも勿論可能である。
【0060】
<回折格子の構造>
図2(A)及び図2(B)を参照して、2次元光導波路の第1回折格子22-1及び第2回折格子22-2の配置関係、及び第1回折格子22-1及び第2回折格子22-2の垂直断面形状について説明する。図2(A)は2次元光導波路を上方から見た概略的平面図であり、2次元光導波路のクラッド層上に配置された回折格子の配置の関係を示す図である。また、図2(B)は2次元光導波路20-1の導波層のa-a'で示す位置で2次元光導波路20-1の導波面に垂直な方向に切断して示した概略的断面構造図である。
【0061】
図2(A)に示すように、2次元光導波路20-1のクラッド層上には、第1回折格子22-1及び第2回折格子22-2は勿論、第3回折格子22-3、第4回折格子22-4等、複数の回折格子が配置されている。図1では、第3回折格子22-3、第4回折格子22-4等については、煩雑を避けるため図示を省略した。
【0062】
第1回折格子22-1及び第2回折格子22-2等の同心円状回折格子の構造は同一であるので、ここでは第1回折格子22-1についてその構造を説明する。
【0063】
図2(B)に示すように、第1回折格子22-1は、2次元光導波路20-1のクラッド層にくぼみ部分16bと突起部分16tを交互に配置することで形成されている。このように形成される回折格子は、レリーフ型回折格子と呼ばれる。
【0064】
くぼみ部分16bの底はクラッド層を通過して光導波層まで到達していても、到達していなくともよい。いずれにしても、クラッド層にくぼみ部分16b及び突起部分16tを形成することによって、くぼみ部分16b及び突起部分16tのそれぞれの箇所における等価屈折率が異なった状態となる。
【0065】
すなわち2次元光導波路20-1を導波する光は、くぼみ部分16b及び突起部分16tを伝播するときに、等価屈折率が周期的に変化する導波路を伝播する状態となる。従って、くぼみ部分16bと突起部分16tとが交互に周期的に配置されているので、回折格子としての機能を果すこととなる。
【0066】
図2(A)に示すように第1回折格子22-1と第2回折格子22-2とを直線で結ぶ間には、第3の回折格子が存在しない。しかしながら、一般には第1回折格子22-1と第2回折格子22-2とを直線で結ぶ間に、第3の回折格子が存在する場合もあり得る。この場合には、第3の回折格子によって、第1回折格子22-1で回折されて2次元光導波路20-1を伝播する光の一部は回折され、回折光以外の残りの光成分は第3の回折格子を通過する。そして、この第3の回折格子で回折されずに第2回折格子22-2に到達する光成分のみが、第1回折格子22-1と第2回折格子22-2との間の通信に有効に利用されることとなる。
【0067】
そこで、この第3の回折格子を通過して第2回折格子22-2に到達する光成分が、最大限第2回折格子22-2に到達するように第3の回折格子が形成されていることが望ましい。また、第1回折格子から回折されて2次元光導波路20-1を伝播する光成分は、第2回折格子22-2以外の回折格子、すなわち第2電子回路チップ12-2以外の電子回路チップにも伝達する必要がある場合もある。
【0068】
この場合は、第3の回折格子が存在することによって、回折光の伝播方向の依存性が強く発生することは望ましくない。このような場合にも対応可能であるためには、回折格子の等価屈折率が周期的に変化するように形成されている第3の回折格子の平均等価屈折率の大きさが、2次元光導波路20-1の等価屈折率に等しくなるように設定されていればよい。
【0069】
上述のように、第3の回折格子の周期的等価屈折率構造部分を形成することによって、2次元光導波路20-1を伝播して第3の回折格子に入力されて回折されずに通過する透過光成分は、第3の回折格子が存在しない場合と同一の光路を伝播する。すなわち、第3の回折格子が存在することによって回折される光成分のエネルギーだけその強度は弱まるが、第3の回折格子を通過する透過光は、第3の回折格子が存在しない場合と同様に2次元光導波路20-1を伝播して第2回折格子22-2に到達する。
【0070】
従って、第3の回折格子の平均等価屈折率の大きさを2次元光導波路20-1の等価屈折率に等しくなるように設定することによって、この第3の回折格子を通過して第2回折格子22-2に到達する光成分を最大限第2回折格子22-2に到達するようにすることが可能となり、また、第3の回折格子の存在によって回折光の伝播方向の依存性が強く発生することもない。
【0071】
<回折格子による回折効果>
図3(A)及び図3(B)を参照して、同心円状回折格子による回折効果について説明する。第1回折格子22-1及び第2回折格子22-2等が同心円状回折格子であるが、いずれの回折格子を取り上げてもその基本的構造は同一であるので、以後の説明においては、特に断ることなく単に同心円状回折格子という。
【0072】
ここで、同心円状回折格子が設置された2次元光導波路の導波面をz-x平面にとり、2次元光導波路の厚さ方向をy方向にとるものとする。図3(A)はz=0にその中心が設定されて配置されている同心円状回折格子に、z軸の負の領域から平面波で表される光束が入射しこの同心円状回折格子で反射及び透過される出射光のz-x平面における等位相波面を示す図である。また、図3(B)は同様に、この同心円状回折格子で反射及び透過される出射光のz-y平面における等位相波面を示す図である。
【0073】
図3(A)の横軸にはx=0を中心にμm単位で寸法が目盛ってあり、縦軸にはz=-10μmからz=20μmの範囲にわたりμm単位で寸法が目盛ってある。同心円状回折格子の中心は、z=0μm、x=0μmの位置に設定されている。また、図3(B)の横軸はy軸を、縦軸にz軸をとって示してあり、いずれの軸にもμm単位で寸法が目盛ってある。同心円上回折格子は、y=0μm〜1μm範囲に存在しており、y=1μmを超える範囲は2次元光導波路のクラッド部分に相当し、yが0μmからマイナスを付して示してある領域は空気層である。
【0074】
図3(A)及び(B)に示す等位相波面は、FDTD(Finite Difference Time Domain)法によってシミュレーションして得られた結果である。このシミュレーションでは、同心円状回折格子に入力する光の波長を1μmとし、2次元光導波路の屈折率を1.7とした。同心円状回折格子の格子間隔は、入射する光の1次回折光の伝播方向が、2次元光導波路の導波方向と直交するように、0.6μmとしてある。また、同心円状回折格子のくぼみ部分と突起部分の平均面からの高さの差はいずれも0.2μmに設定した。
【0075】
図3(A)に示すように、同心円状回折格子によって回折される光成分(1次以上の高次回折光成分)、及び透過される光成分(0次回折光成分)のいずれも、z軸上を伝播していることが読み取れる。また、同心円状回折格子によって2次元光導波路に向けて回折される1次回折光の伝播方向は、図3(B)にkとして示すベクトルの方向(波面に対する法線方向)に伝播するように回折されていることが分かる。ベクトルkの方向は、2次元光導波路の導波方向とほぼ直交する、すなわちほぼy軸に平行な方向となっている。同心円状回折格子の格子間隔を精密に調整することによって、ベクトルkで与えられる1次回折光の伝播方向が、2次元光導波路の導波方向と厳密に直交するようにすることが可能である。
【0076】
次に、同心円状回折格子の回折光の偏光方向依存性について説明する。
【0077】
第1電子回路チップ12-1が具えている発光素子14-1は、上述したようにLEDあるいはLDである。これらの半導体発光素子から出力される出力光の偏光状態は直線偏光である。後述するように、直線偏光の光を図1に示すように、第1回折格子22-1で回折させて2次元光導波路20-1にカップリングさせると、第1回折格子22-1を中心として2次元的に等方的に回折光が伝播せず、その伝播光の強度が方向依存性を持つ。
【0078】
図4(A)及び図4(B)を参照して、同心円状回折格子による回折光の偏光方向依存性についてのシミュレーション結果の説明をする。このシミュレーションにおける設定条件は、上述の図3(A)及び図3(B)に示すシミュレーションを行った条件と同一に設定してある。
【0079】
図4(A)及び図4(B)は、2次元光導波路の光カプラとして形成された同心円状回折格子に、2次元光導波路の導波面に対して垂直の方向から入射された入力光が、同心円状回折格子で回折されてその回折光が2次元光導波路を伝播する様子を示す図である。図4(A)及び図4(B)では、2次元光導波路を伝播する回折光の等位相波面の空間形状を示している。図4(A)は入射する入力光の偏光が円偏光である場合の回折光の等位相波面の空間形状のx-z平面での切断面を示し、図4(B)は、入射する入力光の偏光が直線偏光である場合の回折光の等位相波面の空間形状のx-z平面での切断面を示す図である。
【0080】
図4(A)及び図4(B)において、x=0、z=0を中心にした略同心円が等位相波面を示している。両図において、中心部分の濃淡が周辺部分の濃淡より濃いのは、回折光の振幅の大きさが周辺部分に伝播するにつれて伝播方向に依存することなく均等な割合で小さくなっていることを示している。
【0081】
入射する入力光の偏光が円偏光である場合の回折光の等位相波面は、図4(A)に示すように、x=0、z=0を中心にした360°の全方位にわたって途切れていないことが分かる。これは、回折光の伝播方向依存性がなく、伝播方向に均等な強度で回折されることを意味している。すなわち、円偏光を同心円状回折格子によって回折させる構成とすることによって、この同心円状回折格子から見て2次元導波路上の任意の位置に受信側の回折格子を配置することが可能であることを示している。従って、第1電子回路チップが配置された位置に対して、何れの位置に第2電子回路チップを配置しても等しく回折光を受信することが可能であり、第1及び第2電子回路チップの配置制限がなくなることを意味している。
【0082】
一方、入射する入力光の偏光が直線偏光である場合の回折光の等位相波面は、図4(B)に示すように、x=0、z=0を中心にした特定の方向(図4(B)では、x軸に平行な方向)で消えていることが見て取れる。これは、この方向に伝播する回折光が存在しないことを意味しており、等位相波面が消えている領域に受信側の電子回路チップを配置しても、送信側から送られた光信号を受信できないことを意味している。
【0083】
<第2発明の実施形態の光インタコネクション回路の構成>
図5を参照して第2発明の実施形態の光インタコネクション回路の構成につき説明する。図5は、3次元自由空間に配置された同心球状回折格子が立体サポート材料に支えられて配置されて構成される第2発明の実施形態の光インタコネクション回路の概略的立体構造図である。
【0084】
図5においては、第2発明の実施形態の光インタコネクション回路の一例として、立体サポート材料30に光信号を中継する複数の同心球状回折格子42-1、42-2等、発光素子34-1を具える第1電子回路チップ32-1、受光素子34-2を具える第2電子回路チップ32-2が配置されている例を示している。この他に、図5においては、識別符号を付していない複数の同心球状回折格子を示してある。
【0085】
ここでも、上述の第1発明の実施形態の光インタコネクション回路の説明と同様に、第1電子回路チップ32-1から第2電子回路チップ32-2に向けた通信が行われるものとして説明する。この場合は、第1電子回路チップ32-1が具える発光素子34-1から出力される信号光が通信に使われ、第2電子回路チップ32-2が具える受光素子34-2で受信される。
【0086】
上述の同心球状回折格子は、例えば、マイクロ球体にTi(OC2H5)4のエタノール溶液に漬けて400〜800℃で焼成処理してTiO2膜を形成し、続いてSiO2スピンオンガラスに漬けて同様に焼成処理してSiO2膜を形成するという工程を交互に繰り返すことで形成することが可能である(例えば、非特許文献3参照)。
【0087】
立体サポート材料30としては、モールド樹脂等の透明材料を適宜選択して利用することが可能である。また、一つ一つの同心球状回折格子それぞれを、ポールで支える方法、あるいは吊り下げる等によって空気中に配置することも可能である。
【0088】
立体サポート材料30としてモールド樹脂を使用する場合は、同心球状回折格子の高屈折率部分の屈折率と低屈折率部分の屈折率の平均値が、モールド樹脂の屈折率に等しくなるように設定するのがよい。これは、上述した2次元状の回折格子である同心円状回折格子の場合と同様に、同心球状回折格子に入力されて回折されずに通過する透過光成分が、この回折格子が存在しない場合と同一の光路を伝播するようにすることが可能となる。すなわち、この回折格子が存在することによって回折される光成分のエネルギーだけその強度は弱まるが、この回折格子を通過する透過光は、この回折格子が存在しない場合と同様に3次元自由空間を伝播するという効果が得られる。
【0089】
図5に示す第2発明の実施形態の光インタコネクション回路において、第1電子回路チップ32-1及び第2電子回路チップ32-2のそれぞれは、立体サポート材料30を囲む側壁面(図5では立体サポート材料30の底面)に配置されている。
【0090】
第1電子回路チップ32-1が具える発光素子34-1から出力された出力光は、第1円偏光板36-1で第1円偏光36-1-pに変換されて第1同心球状回折格子42-1に到達すると回折されて第1回折光となり、3次元自由空間である立体サポート材料30を伝播して、この第1回折光の一部42-1-dが第2同心球状回折格子42-2に到達する。第2同心球状回折格子42-2に到達した第1回折光42-1-dは、この第2同心球状回折格子42-2で再度回折されて、この第2回折光42-2-dが受光素子34-2に入力される。
【0091】
図5において、第2電子回路チップ32-2に対しても第2円偏光板36-2が配置されている。これは、第2電子回路チップ32-2も送信側となる場合があり、この場合は、第2電子回路チップ32-2が具える発光素子の出力光を円偏光に変換するために、第2円偏光板36-2が必要となるためである。なお、第2電子回路チップ32-2の受光素子34-2に入力される回折光42-2-dも第2円偏光板36-2を通過することとなるが、一般に受光素子の受信感度は入力光の偏光状態に依存しないので、第2電子回路チップ32-2が受信側となった場合に、第2円偏光板36-2の存在がこの光通信の障害になることはない。
【0092】
図5は、第1電子回路チップ32-1及び第2電子回路チップ32-2のそれぞれが立体サポート材料30を囲む6平面の内の底面に配置されている場合を示しているが、電子回路チップは立体サポート材料30の6平面のいずれの平面に設置することも可能である。従って、第2発明の実施形態の光インタコネクション回路によれば、第1発明の実施形態の光インタコネクション回路以上に、電子回路チップの配置に関する制限が少なくなるという効果が得られる。
【0093】
また、上述の第1同心球状回折格子42-1、第2同心球状回折格子42-2及びこれ以外の同心球状回折格子のいずれかを、物体を特定の波長の光の電磁場から隠しそれ以外の波長の光の電磁場を通す透明マント領域が中心部に設けられ、特定の波長以外の波長の光を偏向して透明マント領域から出力させる光偏向素子をこの透明マント領域に内蔵させた構成とするのが良い。
【0094】
図6を参照して、透明マント領域が中心部に設けられこの透明マント領域内に光偏光子が設置された構成の同心球状回折格子の構造につき説明する。図6は、透明マント領域が中心部に設けられこの透明マント領域内に光偏光子が設置された構成の同心球状回折格子の概略的断面構造図である。
【0095】
同心球状回折格子52は、透明マント領域56の外側が高屈折率部分54aと低屈折率部分54bとが交互に同心球状に分布された同心球状回折格子部分54が配置され、透明マント領域56内に円錐プリズム等の光偏向素子58が配置されて構成されている。図6では、透明マント領域56が、波長λ1の光に対しては透明マントとしての機能を果さず、波長λ2の光に対して透明マントとして機能するものとして示してある。また、同心球状回折格子60も同様な構造とされているものとして示してある。一方、同心球状回折格子62は同様の構成であるが、波長λ2の光に対しては透明マントとしての機能を果さず、波長λ1の光に対して透明マントとして機能するものとして示してある。
【0096】
図6に示すような構成とされている場合、波長λ1の光は同心球状回折格子52及び60が具える透明マント領域に侵入できるが、同心球状回折格子62が具える透明マント領域には侵入できない。従って、波長λ1の光は同心球状回折格子52及び60が具える光偏向素子によってその伝播経路が曲げられるが、同心球状回折格子62が存在しない場合と同一の伝播経路を伝って導波される。逆に波長λ2の光は同心球状回折格子62が具える光偏向素子によってその伝播経路が曲げられるが、同心球状回折格子52及び60が存在しない場合と同一の伝播経路を伝って導波される。
【0097】
一例として、図5に示した第2発明の実施形態の光インタコネクション回路における第1同心球状回折格子42-1及び第2同心球状回折格子42-2として、図6に示す同心球状回折格子52、60あるいは62を利用することが可能である。この場合、図5に示した第2発明の実施形態の光インタコネクション回路の構成で、多波長を用いた光通信が実行可能である光インタコネクション回路が実現される。
【0098】
このように、透明マント領域を具える同心球状回折格子を採用する事によって、多波長による光通信が効率よく実現可能である光インタコネクション回路を実現することが可能となる。すなわち、このことによって一層、電子回路チップの配置の自由度を大きくとることが可能となる。
【符号の説明】
【0099】
10:プリント配線基板
12-1、32-1:第1電子回路チップ
12-2、32-2:第2電子回路チップ
12-3:第3電子回路チップ
14-1、14-3、34-1:発光素子
14-2、34-2:受光素子
16-1、16-2、26-1、36-1、36-2:円偏向板
18-1、18-2:遮光板
20-1、20-2:2次元光導波路
22-1:第1回折格子
22-2:第2回折格子
22-3:第3回折格子
22-4:第4回折格子
28-1:回折格子
30:立体サポート材料
42-1、42-2、52、60、62:同心球状回折格子
54:同心球状回折格子部分
54a:高屈折率部分
54b:低屈折率部分
56:透明マント領域
58:光偏向素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子を具える第1電子回路チップと受光素子を具える第2電子回路チップとの間で、2次元光導波路を伝播する光によって通信を行うための光インタコネクション回路であって、
前記発光素子の出力光の偏光を円偏光に変換する円偏光板と、
該円偏光板から出力される円偏光の光束を回折して前記2次元光導波路へ導入する第1回折格子と、
該第1回折格子で回折されて前記2次元光導波路を伝播する導波光の一部を回折して該2次元光導波路から出力させる第2回折格子と
を具え、
前記発光素子の出力光が前記円偏光板に入力され、前記第2回折格子で回折された光束が前記受光素子に入力される構成とされている
ことを特徴とする光インタコネクション回路。
【請求項2】
前記第1回折格子は、前記円偏光の光束を前記2次元光導波路の導波方向に回折する機能を有しており、
前記第2回折格子は、前記2次元光導波路を伝播した導波光を前記2次元光導波路の導波方向に対して垂直方向に回折する機能を有している
ことを特徴とする請求項1に記載の光インタコネクション回路。
【請求項3】
前記第1及び第2回折格子の平均等価屈折率は、前記2次元光導波路の等価屈折率に等しく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の光インタコネクション回路。
【請求項4】
前記第1及び第2回折格子は、レリーフ型回折格子であることを特徴とする請求項1に記載の光インタコネクション回路。
【請求項5】
前記2次元光導波路の導波方向に平行な平面に沿って、前記第1及び第2回折格子が設置されている箇所を除き光遮蔽版が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の光インタコネクション回路。
【請求項6】
発光素子を具える第1電子回路チップと受光素子を具える第2電子回路チップとの間で、3次元自由空間を伝播する光を用いて通信を行うための光インタコネクション回路であって、
前記発光素子の出力光の偏光を円偏光に変換する円偏光板と、
該円偏光板から出力されて前記3次元自由空間に入力された円偏光の一部を回折する第1同心球状回折格子と、
前記第1同心球状回折格子で回折されて前記3次元自由空間を伝播する前記第1同心球状回折格子の回折光の一部を回折して当該回折光を該3次元自由空間から出力させる第2同心球状回折格子と
を具え、
前記発光素子の出力光が前記円偏光板に入力され、前記第2同心球状回折格子で回折された光束が前記受光素子に入力される構成とされている
ことを特徴とする光インタコネクション回路。
【請求項7】
前記第1及び第2同心球状回折格子の少なくとも一方は、物体を特定の波長の光の電磁場から隠し、それ以外の波長の光の電磁場を通す透明マント(invisibility cloak)領域が中心部に設けられ、前記特定の波長以外の波長の光を偏向して該透明マント領域から出力させる光偏向素子を該透明マント領域に内蔵していることを特徴とする請求項6に記載の光インタコネクション回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−39442(P2011−39442A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189225(P2009−189225)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】