光ディスク記録再生装置
【課題】従来の総和光量低下検出では検知されない媒体欠陥によるトラッキングエラー信号の乱れを検出して、トラッキング制御ループのループゲインを低下させる。
【解決手段】光ディスク記録再生装置において、演算プロセッサがトラッキングエラー信号TEに基づいて、光ビームスポットをトラックに追従走査させるためのトラッキングアクチュエータの操作量データを算出する(ステップS1〜S3)。続いて、演算プロセッサ9は、ステップS7でトラッキングエラー信号の信頼性が低い期間「1」とされるゲインダウンフラグが「1」のとき(トラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中)は、トラッキング制御ループのループゲインを低下させる(ステップS5、S6)。これにより、トラッキングエラー信号の乱れに対する反応を鈍らせ、トラッキング外れを回避する。
【解決手段】光ディスク記録再生装置において、演算プロセッサがトラッキングエラー信号TEに基づいて、光ビームスポットをトラックに追従走査させるためのトラッキングアクチュエータの操作量データを算出する(ステップS1〜S3)。続いて、演算プロセッサ9は、ステップS7でトラッキングエラー信号の信頼性が低い期間「1」とされるゲインダウンフラグが「1」のとき(トラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中)は、トラッキング制御ループのループゲインを低下させる(ステップS5、S6)。これにより、トラッキングエラー信号の乱れに対する反応を鈍らせ、トラッキング外れを回避する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ディスク記録再生装置に係り、特に光ディスクのトラック追従制御機能を備えた交換型光ディスク記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク記録再生装置において、光ディスクを回転させ、光スポットを光ディスクのデータ記録再生面に合焦点させるフォーカスサーボに入った後、スパイラル状または同心円状のトラックに光スポットが追従するようにトラッキングサーボループをオンさせ、目的のトラック中心に光スポットを追従させつつデータを当該光スポットにて記録再生する。そのためにトラッキング制御装置は、周知の通り光スポットのトラック中心からの位置誤差(位置ずれの方向及び量)を表すトラッキングエラー信号が零となるように対物レンズを移動させる。
【0003】
ここで、ディスク表面のキズやゴミの付着は、トラッキングエラー信号が実際の光スポット位置を示さなくなり、トラック外れの原因となる。このため、ディスク表面のキズやゴミの付着によるトラック外れを回避する従来技術として、ディスク表面のキズやゴミが付着した媒体欠陥領域を検知して得たディフェクト信号によるトラッキング制御系ホールド動作が挙げられる。
【0004】
これは、ディスク表面のキズやゴミの付着によりデータ記録再生面からの反射光が減少するため、光ピックアップ内の分割された光電センサの総和信号レベルが低下し、予め設定されたしきい値を下回ったことを示すディフェクト信号を出力する。このディフェクト信号がトラッキング制御系に伝えられ、トラッキング制御系はディフェクト信号がある期間は、媒体欠陥があるとしてトラッキングエラー信号によるフィードバック制御を中止する。
【0005】
また、ディフェクト信号は反射光の減少によってしきい値を下回るまでは出力されないため、媒体欠陥に突入してしばらくはトラッキングエラー信号の乱れが生じることは避けられない。このような影響を軽減する従来技術として、ディフェクトの存在を予測する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この特許文献1記載の方法は、ディスク表面のキズやゴミの付着した領域はディスク半径方向にある大きさをもっているため、このディスク表面のキズやゴミの付着したトラック通過中はディスク一周の周期性があることを利用し、媒体欠陥の周期性からディフェクトの存在を予測し、その予測前後の駆動電圧をホールドし、ホールドした駆動電圧を基に次のキズ通過中の駆動電圧を補間処理する。
【0007】
【特許文献1】特許第2518729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の従来方法は、媒体欠陥の周期性からディフェクトの存在を予測するようにしているが、トラッキングエラーの乱れる領域全てにおいてディフェクト信号が発生する訳ではない。例えば、ディスク裏面のキズやゴミの付着によりデータ記録再生面からの反射光が減少し、光ピックアップ内の分割された光電センサから出力される総和信号レベルが低下しても、その総和信号レベルが予め設定されたしきい値を下回らない場合においてはディフェクト信号が発生しないため、このような光ディスクに対しては上記の特許文献1記載の従来方法は適用できないという課題がある。
【0009】
また、トラッキングエラー信号は、光ピックアップ内のディスク半径方向内周側光電センサからの信号とディスク外周側光電センサからの信号との差信号であるプッシュプル信号から作られるため、ディフェクト信号生成のための光電センサの総和信号レベルが低下しなくとも、ディスク表面のキズやゴミの付着が内周側と外周側に与える影響が異なる場合には、トラッキングエラー信号の乱れとして現れるという課題がある。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、トラッキングエラー信号の信頼性を推定して、トラッキングエラー信号の信頼性が低くトラッキングエラー信号に乱れが生じている場合には、トラッキングエラー信号の乱れに対する反応を鈍らせることで、トラッキングエラー信号の乱れをディフェクト信号から検知できない場合においてもトラッキング外れを回避し得る光ディスク記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、第1の発明は、光ディスクに形成されたトラックに、記録用又は再生用の光ビームを対物レンズを通して集光して形成したスポットを追従走査させるために、トラックからの光ビームスポットの反射光を受光して得られた受光信号に基づいてトラッキングエラー信号を算出し、そのトラッキングエラー信号によりトラッキングアクチュエータを駆動して、対物レンズをトラックの幅方向に変位させる光ディスク記録再生装置において、
トラッキングエラー信号に基づいて、光ビームスポットをトラックに追従走査させるためのトラッキングアクチュエータの操作量データを算出する操作量データ算出手段と、操作量データから対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の暫定推定値を計算する暫定推定値計算手段と、位置又は速度の暫定推定値とトラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差を計算する誤差計算手段と、誤差の絶対値と予め設定したしきい値とを比較する比較手段と、比較手段により誤差の絶対値がしきい値以上である比較結果が得られるとき、トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定し、そのトラッキングエラー信号の乱れの現れる位置近傍で、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させる制御手段とを有することを特徴とする。
【0012】
この発明では、トラッキングアクチュエータの操作量データから計算した対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の暫定推定値と、トラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差の絶対値がしきい値以上である比較結果が得られるとき、媒体欠陥によりトラッキングエラー信号に乱れが生じたものと推定するようにしたため、従来の総和光量低下検出によるディフェクト検出によって検知されないトラッキングエラー信号の乱れを、トラッキングエラー信号の信頼性を判定することで検知することができる。これにより、トラッキングエラー信号の乱れの現れる位置近傍で、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させることができる。
【0013】
また、上記の目的を達成するため、第2の発明は、第1の発明と同様の光ディスク記録再生装置において、トラッキングエラー信号に基づいて、光ビームスポットをトラックに追従走査させるためのトラッキングアクチュエータの操作量データを算出する操作量データ算出手段と、操作量データを演算する所定周期のトラッキング制御サンプル毎に、前回のトラッキング制御サンプルで予測した対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の推定値を修正して、所定周期後の現在のトラッキング制御サンプルにおける対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の推定値を計算する推定値計算手段と、現在のトラッキング制御サンプルにおける前記位置又は速度の推定値と操作量データとに基づいて、所定周期後の次回のトラッキング制御サンプルにおける位置又は速度の予測値を計算する予測値計算手段と、位置又は速度の予測値とトラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差を計算する誤差計算手段と、誤差の絶対値と予め設定したしきい値とを比較する比較手段と、比較手段により誤差の絶対値がしきい値以上である比較結果が得られるとき、トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定し、そのトラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中は、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させる制御手段とを有することを特徴とする。
【0014】
この発明では、所定周期後の次回のトラッキング制御サンプルにおける位置又は速度の予測値とトラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差の絶対値が、しきい値以上である比較結果が得られるとき、媒体欠陥によりトラッキングエラー信号に乱れが生じたものと推定するようにしたため、従来の総和光量低下検出によるディフェクト検出によって検知されないトラッキングエラー信号の乱れを、トラッキングエラー信号の信頼性を判定することで検知することができる。これにより、トラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中は、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来の総和光量低下検出では検知されない媒体欠陥によるトラッキングエラー信号の乱れを検出して、そのトラッキングエラー信号の乱れが検出される光ディスクの位置近傍のトラック走査中、又はトラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中は、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の一実施の形態について図面と共に詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明になる光ディスク記録再生装置の一実施の形態の構成図を示す。同図に示すように、光ディスク記録再生装置100は、光ディスク1を回転するためのスピンドルモータ2と、光ディスク1に光ビームを照射して光ビームスポットを形成し、光ディスク1からの光ビームスポットの反射光を受光する光学系や反射光を光電変換してトラッキングエラー信号やフォーカスエラー信号や再生信号などを検出する検出回路系などを内蔵するピックアップ3と、電流電圧変換回路4及び5と、プッシュプル信号生成回路6と、トラッキング位置決め制御に必要な低域成分を取り出すための低域フィルタ(LPF)7と、LPF7の出力信号をデジタル信号に変換するAD変換器8と、所定の演算を行って位置誤差データを得る演算プロセッサ9と、演算プロセッサ9の出力信号をアナログ信号に変換するDA変換器10と、トラッキングアクチュエータ駆動回路11と、回転パルスカウンタ回路12とから構成される。
【0018】
次に、この実施の形態の動作の概略について説明する。スピンドルモータ2によって所定方向に回転されている光ディスク1に対して、周知のようにピックアップ3から光ビームを照射することで情報信号の記録が行われ、光ディスク1からの反射光をピックアップ3内の光電センサにより光電変換して得られた信号に基づいて記録情報信号の再生が行われる。また、ピックアップ3は図示していないピックアップ粗動モータによって、光ディスク1の目標とするトラック近傍に位置決めされている。
【0019】
また、ピックアップ3内の対物レンズは、ピックアップ3内の光源から出射した光ビームが光ディスク1の記録再生面にスポットとして焦点を結ぶように、図示していないフォーカスアクチュエータによって光ディスク1の記録再生面に対して垂直方向に変位されて位置決めされている。また、ピックアップ3内の対物レンズは、記録用又は再生用光ビームスポットが光ディスク1の記録再生面に形成されている同心円状もしくはスパイラル状のトラックに追従走査するように、記録時又は再生時の光ディスクからの反射光を受光して得られた受光信号に基づいて算出したトラッキングエラー信号により、図示していないトラッキングアクチュエータによってディスク半径方向(トラックの幅方向)に移動可能とされている。
【0020】
また、ピックアップ3内には、光ディスク1のトラック方向に平行な方向の分割線で2分割されており、ディスク半径方向内周側光電センサ部(分割受光部)と、ディスク半径方向外周側光電センサ部(分割受光部)とからなる光電センサ(受光器)が設けられており、光ディスク1からの反射光の受光面積(光量)に比例したレベルの電流を出力する。上記の2つの光電センサ部の受光面積は、光スポットが正確に所望の1本のトラック中心に位置するようにトラッキングされているときは等しく、トラックずれ方向とずれ量に応じて一方の受光面積と他方の受光面積とが変化する。ディスク半径方向内周側光電センサ部からの出力電流aと、ディスク半径方向外周側光電センサ部からの出力電流bとは、それぞれ電流電圧変換回路4及び5に別々に入力され、互いに独立して電流信号が電圧信号に変換される。
【0021】
電流電圧変換回路4及び5の出力電圧は、プッシュプル信号生成回路6に入力され、ここで差信号であるプッシュプル信号cに変換される。このプッシュプル信号cは、ディスク半径方向に2分割した光電センサの内周側信号と外周側信号の差であるから、トラック中心からのずれを示す成分を含んでいる。よって、プッシュプル信号cはLPF7に入力されて、トラッキング位置決め制御に必要な低域成分が取り出されてトラッキングエラー信号dとなり、AD変換器8によりデジタル信号のトラッキングエラーデータeに変換されてから演算プロセッサ9に入力される。
【0022】
演算プロセッサ9は図示していないシステムコントローラからの命令に基づき、トラッキングエラーデータeを読み取り、その読み取りデータに対して予め設定された演算をすることにより、位置誤差データを得、更にその位置誤差データに所定の補償演算を行った結果であるデジタル操作量fを生成してDA変換器10に出力する。
【0023】
DA変換器10はデジタル操作量fをアナログ操作量gに変換し、トラッキングアクチュエータ駆動回路11に出力する。トラッキングアクチュエータ駆動回路11は、アナログ操作量gに比例した電流をピックアップ3内の対物レンズをディスク半径方向に移動させるトラッキングアクチュエータに供給し、光スポットが光ディスク1のトラック上を追従するように対物レンズを移動する。
【0024】
また、スピンドルモータ2からは、1回転当たり所定数のパルスを発生する回転パルス信号hが出力され、回転パルスカウンタ回路12に入力される。回転パルスカウンタ回路12は、ディスク1回転当たりの回転パルス信号hのパルス数が「N」であるとすると、回転パルス信号hの立ち上がりエッジをカウントし、「0」から「N−1」カウントまでを巡回的に繰り返す。回転パルスカウンタ回路12の出力である回転パルスカウントデータiは、演算プロセッサ9に入力され、ディスク回転角度位置の検出のために用いられる。図2は上記の回転パルス信号hと回転パルスカウントデータiの一例(N=9)のタイミングチャートを示す。なお、回転パルス信号周波数に比べてトラッキング制御サンプル周波数は十分に高いので、回転パルス信号hの立ち上がりエッジはトラッキング制御サンプル周期毎にチェックしている。従って、回転パルス信号hの立ち上がりエッジと立ち上がりエッジ制御サンプルとは同じである。
【0025】
次に、本実施の形態におけるトラックセンターを追従制御中(トラッキング制御中)における演算プロセッサ9の演算動作を、図3に示すフローチャートと共に説明する。演算プロセッサ9は所定のサンプリングタイミングでトラッキング制御を開始する。まず、演算プロセッサ9はAD変換器8からトラッキングエラー信号dのデジタルデータであるトラッキングエラーデータ(TEデータ)eを読み込む(ステップS1)。
【0026】
続いて、演算プロセッサ9はTEデータeから位置誤差演算を行って位置誤差信号TEを求め(ステップS2)、更にその位置誤差信号TEから、制御を安定かつ所定のトラッキング性能が得られる補償演算を行い、トラッキングアクチュエータを駆動するための操作量データを求める(ステップS3)。以上の演算プロセッサ9によるステップS1〜S3は、トラッキングエラー信号に基づいて、光ビームスポットを光ディスク1のトラックに追従走査させるために対物レンズを変位させるトラッキングアクチュエータの操作量データを算出する操作量データ算出手段を実現する。
【0027】
続いて、演算プロセッサ9は、前回のサンプル時間でこのフローチャートが実行されたときに後述するステップS7で生成されたゲインダウンフラグが「1」であるかどうか判定し(ステップS4)、ゲインダウンフラグが「0」であれば、ディスク表面のキズによる乱れがないトラッキングエラー信号であると判断し、ステップS3において求めた操作量データをそのままDA変換器10へ出力する(ステップS6)。ここで、サンプル時間とは、光ビームがトラック中心を走査するよう、対物レンズをトラックの幅方向(ディスク半径方向)に移動させるトラッキングアクチュエータを制御するための操作量データfをDA変換器10に出力する周期をいう。なお、このサンプル時間における値を、本明細書ではトラッキング制御サンプルともいう。
【0028】
一方、ゲインダウンフラグが「1」であれば、ディスク表面のキズ(媒体欠陥)によるトラッキングエラー信号に乱れがあると判断し、ステップS3において求めた操作量データに、所定のゲインKdown(Kdown<1)を乗算し(ステップS5)、その乗算結果をトラッキングアクチュエータデジタル操作量fとしてDA変換器10へ出力する(ステップS6)。
【0029】
図1のDA変換器10へ出力された操作量データ(トラッキングアクチュエータデジタル操作量)fは、アナログ操作量gに変換された後、トラッキングアクチュエータ駆動回路11を介してピックアップ3内の対物レンズを、光スポットが光ディスク1のトラック上を追従走査するように移動変位させる。従って、上記の操作量データ(トラッキングアクチュエータデジタル操作量)fの値に応じてトラッキング制御ループのループゲインが決定され、ステップS5で1より小なるKdownを操作量データに乗算して得られたトラッキングアクチュエータデジタル操作量fを用いる、ゲインダウンフラグが「1」の期間中は、ゲインダウンフラグが「0」の期間よりもトラッキング制御ループ全体のゲインが下げられ(制御補償形態が変化され)、その結果、トラッキングエラー信号の乱れに対する反応が鈍くなり、トラッキングエラー信号の乱れの発生による影響を軽減できる。
【0030】
次に、演算プロセッサ9は、ディスク表面のキズによりトラッキングエラー信号に乱れを生じているかどうかの判断を行い、判断結果からトラッキングエラー信号に乱れがあればゲインダウンフラグに「1」を立て、トラッキングエラー信号に乱れがなければ、ゲインダウンフラグを「0」におろして(ステップS7)、次のトラッキング制御タイミング待ちの状態に戻る。以下、ステップS1〜S7の処理はトラッキング制御サンプル周期毎に繰り返される。
【0031】
次に、図3のステップS7におけるディスクキズ検出によるゲインダウンフラグのセット/リセット動作について、図4に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。演算プロセッサ9は、DA変換器10へ出力したトラッキングアクチュエータデジタル操作量fの、回転パルス信号hの一周期期間内平均値を求める(ステップS11)。ここで、回転パルス信号hの周波数はせいぜい数kHzオーダーであるのに対し、トラッキング制御サンプル周波数は百kHzオーダーであるので、上記の回転パルス信号hの一周期期間内平均値は、数十個のトラッキングアクチュエータデジタル操作量fのデータ平均値となる。
【0032】
続いて、演算プロセッサ9は、前回のサンプル時間において求めてある対物レンズの暫定位置と現在のサンプル時間におけるトラッキングエラー信号から得られる位置との差から、暫定位置と暫定速度の修正を行い、現在のサンプル時間における対物レンズの推定位置と推定速度を得る(ステップS12)。
【0033】
このステップS12は、後述するように、操作量データ(トラッキングアクチュエータデジタル操作量)を演算する所定周期のトラッキング制御サンプル毎に、前回のトラッキング制御サンプルで予測した対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の推定値を修正して、所定周期後の現在のトラッキング制御サンプルにおける対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の推定値を計算する推定値計算手段を実現する。
【0034】
続いて、演算プロセッサ9は、次回のサンプル時間における対物レンズの暫定位置と暫定速度の推定値(予測値)を求める(ステップS13)。このステップS13は、後述するように、現在のトラッキング制御サンプルにおける対物レンズの位置と速度の推定値とトラッキングアクチュエータ操作量とに基づいて、所定サンプル時間経過後の次回のトラッキング制御サンプルにおける対物レンズの位置と速度の予測値を計算する予測値計算手段を実現する。
【0035】
続いて、演算プロセッサ9は、前回のトラッキング制御サンプルにおけるステップS13で求められた現在のトラッキング制御サンプルにおける速度の暫定推定値(予測値)と、トラッキングエラーから得られる速度との差の絶対値が所定のしきい値を超えている制御サンプルが、予め設定したサンプル時間以上連続する場合、ディスク表面のキズ等によりトラッキングエラーに乱れがあると判断し、キズ検知フラグに「1」を立てる(ステップS14)。
【0036】
上記のトラッキングエラーから得られる速度は、例えば、図3のステップS1で得られるTEデータ(位置データ)を用い、現在サンプル時間におけるTEデータをTE0、前回サンプル時間におけるTEデータをTE1とすると、サンプル時間周期を単位時間として、サンプル時間周期で移動した距離を計算することにより、すなわち、(TE0−TE1)により得られる。
【0037】
続いて、ステップS14においてキズ検知フラグが「1」となった回転パルスカウントデータをキズ位置回転パルスカウントデータとして保持しておき、その保持を示すためキズ位置保持フラグに「1」を立てる(ステップS15)。
【0038】
次に、演算プロセッサ9は、キズ位置保持フラグが「1」のキズ位置回転パルスカウントデータの値が保持されている場合、現在の回転パルスカウントデータiの値が、保持してあるキズ位置回転パルスカウントデータの値より小なる第1の値になった時にゲインダウンフラグを立て(「1」にセットし)、その後現在の回転パルスカウントデータiの値が、保持してあるキズ位置回転パルスカウントデータの値より大なる第2の値になったときにゲインダウンフラグを下ろす(「0」にリセットする)(ステップS16)。すなわち、演算プロセッサ9は、キズ位置保持フラグが「1」のキズ位置回転パルスカウントデータの値が保持されている場合、現在の回転パルスカウントデータiの値が、その保持してあるキズ位置回転パルスカウントデータの値に達する直前の第1の値から、保持してあるキズ位置回転パルスカウントデータの値に達した直後の第2の値となるまでの期間は、その期間の回転角度位置においては、ディスク一周前においてディスクのキズが検知されていると判断して、ゲインダウンフラグに「1」を立てる(セットする)。
【0039】
このゲインダウンフラグの動きを、図2を使って更に具体的に説明する。図2(C)は、キズ位置保持フラグが「1」で、保持されているキズ位置回転パルスカウントデータが「3」の場合を示す。この場合、一回転前の回転パルスカウントデータの値が「3」の時にキズ検知フラグが「1」でキズが検知されている状態である。ゲインダウンフラグは、図2(B)に示す回転パルスカウントデータの値が「3」の1つ手前である「2」になった時、図2(D)に示すように、ゲインダウンフラグが「1」となり、回転パルスカウントデータの値が「3」の2つ後ろである「5」になった時、ゲインダウンフラグが「0」に下りる。
【0040】
このように、キズが検知された回転パルスカウントデータの値が「3」の回転角度位置も含めた前後においてゲインダウンフラグを「1」とし、このゲインダウンフラグが「1」の期間は、ディスク表面のキズによるトラッキングエラー信号に乱れがあると判断し、制御ゲインを落としてトラッキングエラー信号の乱れに対する反応を鈍らせることにより、トラッキング外れを回避することができる。
【0041】
再び図4に戻って説明する。ステップS16に続いて、演算プロセッサ9は図2(A)に示した回転パルス信号hの立ち上がりエッジ制御サンプルタイミング毎に、キズ検知フラグを「0」にリセットすると共に、ゲインダウンフラグが「1」であるときの現在の回転パルスカウントデータの値がキズ位置回転パルスカウントデータの値と同じ時に、キズ検知フラグが「0」になれば、トラック上のキズがある領域から抜け出たと判断し、キズ位置保持フラグを「0」にリセットする(ステップS17)。
【0042】
次に、図4のステップS11の、回転パルス信号の一周期期間内のトラッキングアクチュエータ駆動平均値計算処理について、図5に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。図5において、回転パルス信号hの一周期期間内にDA変換器10から出力したトラッキングアクチュエータ駆動データの総和データSUMに、演算プロセッサ9が現在の制御サンプル時間においてDA変換器16に出力するトラッキングアクチュエータ操作量データf(これをTDAとする)を加算する(ステップS21)。前述したように、回転パルス信号hの一周期期間内には、数十個のトラッキングアクチュエータデジタル操作量f(すなわち、トラッキングアクチュエータ駆動データ)がある。
【0043】
続いて、演算プロセッサ9は、総和SUMの加算回数Nを「1」インクリメントした後(ステツプS22)、回転パルス信号hの立ち上がりエッジ制御サンプルタイミングであるかどうかを判断する(ステップS23)。ステップS23で回転パルス信号hの立ち上がりエッジ制御サンプルタイミングであると判断したときは、回転パルス信号hの一周期時間総和演算を行ったので、一周期期間内のトラッキングアクチュエータ駆動平均値として、ステップS21で算出した総和SUMをNで除算することで平均値AVEを算出し(ステップS24)、その後総和SUMと加算回数Nをゼロに初期化する(ステップS25)。なお、ステップS23で回転パルス信号hの立ち上がりエッジ制御サンプルタイミングでないと判断したときは、何の処理も行わず、一旦処理を終了する。
【0044】
次に、図4のステップS12の、前回サンプル時間で求めておいた暫定推定値を修正して現在サンプル時間における推定位置と推定速度を求める演算処理について、図6に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。図6において、トラッキング位置誤差信号TEから前回サンプル時間で計算されている暫定推定位置X1を減算することにより、推定誤差E1を求める(ステップS31)。続いて、予め定めた所定値のゲインF1とステップS31で求めた推定誤差E1を乗算した値を、前回サンプル時間で計算されている暫定推定位置X1に加算することで、現在のサンプル時間における推定位置X1を得る(ステップS32)。
【0045】
そして、予め定めた所定値のゲインF2とステップS31で求めた推定誤差E1を乗算した値に、前回サンプル時間で計算されている暫定推定速度X2を加算することより、現在サンプル時間における推定速度X2を得る(ステップS33)。ここで、上記のゲインF1及びF2は、位置誤差信号TEと暫定推定位置X1の推定誤差E1が収束するような値に設定する。
【0046】
次に、図4のステップS13の、次回サンプル時間における暫定推定値(予測値)の演算処理について、図7に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。図7において、演算プロセッサ9は、現在のサンプル時間におけるアクチュエータ操作量データTDAから、図4のステップS11で求めた回転パルス一周期期間のトラッキングアクチュエータ駆動平均値AVEを差し引きその値をUとする(ステップS41)。これにより、トラックの偏芯成分に追従するための駆動力データAVEが差し引かれ、偏芯成分に追従する駆動力以外のトラッキングアクチュエータ駆動力としてUが求まる。
【0047】
続いて、演算プロセッサ9は、次回のサンプル時間における暫定推定位置である予測位置X1を次式
X1=P11・X1+P12・X2+Q1・U (1)
により求めた後(ステップS42)、次回のサンプル時間における暫定推定速度である予測速度X2を次式
X2=P21・X1+P22・X2+Q2・U (2)
により求める(ステップS43)。
【0048】
上記の(1)式と(2)式は文献(例えば、高橋安人著、「ディジタル制御」、岩波書店、1985年)に記載された物体の動き(ここでは対物レンズの動き)を表すことができる公知の離散状態式
X(k+1)=PX(k)+QU (3)
を行列内の要素毎に示した式である。ここで、Pは2行2列のシステム行列で、その要素がP11、P12、P21、P22である。Qは2行1列の入力行列で、その要素がQ1、Q2である。また、Xは2行1列の状態量で、その要素がX1、X2で、ここではX1を位置、X2を速度とおいている。Uはアクチュエータに加える操作量であるので、スカラー量である。kは現在サンプル時間におけるサンプル番号である。これにより、上記の(1)式と(2)式から次回のサンプル時間(k+1)における位置X1(k+1)及び速度X2(k+1)が予測値(暫定推定値)として得られる。
【0049】
次に、図4のステップS14の、ディスクキズ検出処理について、図8に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。図8において、演算プロセッサ9は、ステップS12、S33で求めた現在のサンプル時間における推定速度X2と位置誤差信号TEから得られる速度(トラッキングエラーから得られる速度)TE_VELとの差を計算し速度差R3を得る(ステップS51)。このステップS51は、対物レンズの速度の暫定推定値とトラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における速度の値との間の誤差を計算する誤差計算手段を実現している。
【0050】
続いて、演算プロセッサ9は、速度差R3の絶対値を計算し(ステップS52)、その速度差絶対値R3と速度しきい値との比較判定を行う(ステップS53)。これらステップS52とS53は、誤差の絶対値と予め設定したしきい値とを比較する比較手段を実現している。
【0051】
ステップS53で、速度差絶対値R3が速度しきい値より小であると判定したときは、キズ連続検出カウンタに所定の値をセットして初期化を行って(ステップS54)、処理を終了する。一方、ステップS53で、速度差絶対値R3が速度しきい値以上であると判定したときは、キズ連続検出カウンタのカウント値をデクリメントした後(ステップS55)、デクリメントしたキズ連続カウンタのカウント値が「0」であるかどうかを判断する(ステップS56)。
【0052】
ステップS56で、キズ連続カウンタのカウント値が「0」であると判断したときは、ステップS54で初期値として設定された所定値の回数、速度差絶対値R3が連続して速度しきい値以上であるので、光ディスク1の表面にキズ等があることからトラッキングエラーに乱れがあると判断して、キズ検知フラグに「1」を立て(ステップS57)、キズ連続検出カウンタに所定の値をセットして初期化を行う(ステップS58)。ステップS56で、キズ連続カウンタのカウント値が「0」でないと判断したときは、処理を一旦終了する。
【0053】
演算プロセッサ9による上記のステップS55〜S58は、図3のステップS4〜S6、図4のステップS15、S16と共に、速度差絶対値R3が速度しきい値以上である比較結果が得られるとき、トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定し、そのトラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中は、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させて(ここではループゲインを低下させて)トラッキング外れを回避させる制御手段を実現している。
【0054】
次に、図4のステップS15の、キズ位置回転パルスカウントデータの保持処理の動作について、図9に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。図9において、演算プロセッサ9は、まず、ディスク表面にキズのある回転角度位置における回転パルスカウントデータを既に保持しているかどうかを、キズ位置保持フラグが「1」であるか否かにより判断する(ステップS61)。
【0055】
キズ位置保持フラグが「1」であるならば、すでにキズ位置回転パルスカウントデータを保持しているので、直ちに処理を終了するが、キズ位置保持フラグが「0」であるならば、まだキズ位置回転パルスカウントデータを保持していないので、キズ検知フラグのチェックを行う(ステップS62)。演算プロセッサ9は、ステップS62において、キズ検知フラグが「0」であると判定したときは、直ちに処理を終了するが、キズ検知フラグが「1」である(これは、速度差絶対値R3が連続して所定回数、速度しきい値以上になったときに、ステップS57で「1」にセットされたものである。)と判定したときは、現在の回転パルスカウントデータiをキズ位置回転パルスカウントデータとして保持し(ステップS63)、更にその保持を示すためにキズ位置保持フラグを「1」にセットして(ステップS64)、終了へ抜ける。
【0056】
次に、図4のステップS16の、ゲインダウンフラグのセット/リセット処理について、図10に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。ここにおける処理概要は、既にキズ位置保持フラグが「1」であり、キズ位置回転パルスカウントデータが保持されている場合、現在の回転パルスカウントデータiが、保持してあるキズ位置回転パルスカウントデータに等しいもしくは、キズ位置回転パルスカウントデータの前後と等しい場合、現在通過中の回転角度位置においては、ディスク1回転前において光ディスク1のキズが検知されているため、ゲインダウンフラグに「1」を立てることである。
【0057】
図10において、演算プロセッサ9は、まず、回転パルス信号の立ち上がりエッジ制御サンプルかどうかを判断し(ステップS71)、立ち上がりエッジ制御サンプルではないときは終了へ抜けるが、立ち上がりエッジ制御サンプルならば、キズ位置保持フラグが「1」であるかどうかを判断する(ステップS72)。ステップS72でキズ位置保持フラグが「0」であると判定したときは、終了へ抜けるが、キズ位置保持フラグが「1」であると判定したときは、現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの1つ手前の値に等しいかどうかをチェックする(ステップS73)。
【0058】
ステップS73で、現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの1つ手前の値に等しいと判定したときは、演算プロセッサ9はゲインダウンフラグに「1」をセットし(ステップS74)、次制御サンプルから制御ゲインを低下させる。一方、ステップS73で、現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの1つ手前の値に等しくないと判定したときは、演算プロセッサ9は現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの2つ後の値に等しいかどうかを判断する(ステップS75)。
【0059】
ステップS75で、現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの2つ後ろの値に等しくないと判定したときは、終了に抜けるが、現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの2つ後ろの値に等しいと判定したときは、ゲインダウンフラグを「0」にリセットし(ステップS76)、次制御サンプルから通常の制御ゲインに戻す。
【0060】
次に、図4のステップS17の、キズ検知フラグ及びキズ位置保持フラグのリセット処理について図11に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。ここにおける処理概要は、回転パルス信号hの立ち上がりエッジ制御サンプルタイミングでキズ検知フラグを「0」にリセットすることと、ゲインダウンフラグが「1」であるならば、ゲインダウン中に現在保持しているキズ位置回転パルスカウントデータ位置でキズが検知されるようであれば、キズ位置保持フラグを「1」のままとし、ゲインダウン中に現在保持しているキズ位置回転パルスカウントデータ位置でキズが検知されなければ、キズのある領域から抜け出たものと判断してキズ位置保持フラグを「0」にクリアすることである。
【0061】
図11において、演算プロセッサ9は、まず、回転パルス信号の立ち上がりエッジ制御サンプルかどうかをチェックする(ステップS81)。ステップS81で、回転パルス信号の立ち上がりエッジ制御サンプルでないと判定したときは、制御サンプリングタイミングではないため、終了へ抜けるが、回転パルスエッジ信号の立ち上がりエッジ制御サンプルであると判定したときは、制御サンプリングタイミングであるため、ゲインダウンフラグが「1」かどうかをチェックする(ステップS82)。
【0062】
ステップS82において、演算プロセッサ9は、ゲインダウンフラグが「0」であると判定したときは、キズ検知フラグを「0」にリセットして(ステップS86)、終了する。ステップS82において、ゲインダウンフラグが「1」であると判定したときは、演算プロセッサ9は、現在の回転パルスカウンタデータの値が、キズ位置回転パルスカウンタデータの値の1つ後であるかどうかを判断する(ステップS83)。ステップS83で現在の回転パルスカウンタデータの値は、キズ位置回転パルスカウンタデータの値の1つ後でないと判定したときは、キズ検知フラグを「0」にリセットして(ステップS86)、終了する。
【0063】
ステップS83において、現在の回転パルスカウンタデータの値は、キズ位置回転パルスカウンタデータの値の1つ後に等しいと判定したときは、キズ検知フラグが「1」かどうかをチェックする(ステップS84)。ステップS84で、キズ検知フラグが「1」であると判定したときは、現在保持しているキズ位置回転パルスカウンタデータと同じ位置でキズが検知されているため、キズ検知フラグを「0」にリセットして(ステップS86)、終了する。一方、演算プロセッサ9は、ステップS84でキズ検知フラグが「0」であると判定したときは、現在保持しているキズ位置回転パルスカウンタデータと同じ位置ではキズが検知されないため、キズ位置保持フラグを「0」にリセットして(ステップS85)、終了する。
【0064】
このように、本実施の形態によれば、図3乃至図11と共に説明したように、現在のトラッキング制御サンプル(サンプル時間)における位置又は速度の推定値とトラッキングアクチュエータ操作量とに基づいて計算して得た、次回のトラッキング制御サンプル(サンプル時間)における位置又は速度の予測値とトラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差の絶対値が、しきい値以上である比較結果が得られるとき、媒体欠陥によりトラッキングエラー信号に乱れが生じたものと推定することで、従来の総和光量低下検出によるディフェクト検出によって検知されないトラッキングエラー信号の乱れを検知し、トラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中(ゲインダウンフラグが「1」のトラッキングサーボ演算期間)は、トラッキング制御ループのループゲインを低下させることで、トラッキングエラー信号の乱れに対する反応を鈍らせ、トラッキング外れを回避することができる。
【0065】
なお、本実施の形態においては、光ディスク一周にキズの検知個所は1箇所として説明したが、ディスク一周に複数個のキズを検知できるようにしてもよいということはいうまでもない。また、キズに限らず、ゴミの付着などによる媒体欠陥についても同様である。
【0066】
また、上記の実施の形態では、トラッキングエラー信号が乱れるディスク回転角度位置近傍のディスク回転角度位置を予測して、その回転角度位置を光ビームスポットが通過中の期間は、トラッキング制御ループのループゲインを下げる(すなわち、制御補償形態を変化させる)ようにすることで、トラッキングエラー信号の乱れによる影響を軽減しているが、図4のステップS15、S16、S17を省略し、S14で得られるキズ検知フラグをゲインダウンフラグとして使うことで、トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定して、トラッキングエラー信号の乱れの現れる位置近傍で制御補償形態を変化させるようにしてもよい(ただし、この場合は、トラッキングエラー信号が乱れていることを検知してから制御補償形態を変化させるため、時間遅れが生じる。)。
【0067】
また、上記の実施の形態では、制御補償形態の変化としてトラッキング制御ループのループゲインを下げるようにしているが、制御ループを安定にするための微分補償ゲインを下げるようにしてもよい。また、対物レンズの暫定位置と暫定速度のどちらか一方だけに基づいて本発明の制御を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の光ディスク記録再生装置の一実施の形態の構成図である。
【図2】図1の本発明装置において用いる各信号を説明するタイミングチャートである。
【図3】図1の本発明装置におけるトラックセンターを追従制御中における演算プロセッサの演算動作の一例を説明するフローチャートである。
【図4】図3のステップS7におけるディスクキズ検出によるゲインダウンフラグのセット/リセット動作を詳細説明するフローチャートである。
【図5】図4のステップS11の、回転パルス信号の一周期期間内のトラッキングアクチュエータ駆動平均値計算処理を説明するフローチャートである。
【図6】図4のステップS12の、前回サンプル時間で求めておいた暫定推定値を修正して現在サンプル時間における推定位置と推定速度を求める演算処理を説明するフローチャートである。
【図7】図4のステップS13の、次回のサンプル時間における暫定推定値の演算処理を説明するフローチャートである。
【図8】図4のステップS14の、ディスクキズ検出処理を説明するフローチャートである。
【図9】図4のステップS15の、キズ位置回転パルスカウントデータの保持処理を説明するフローチャートである。
【図10】図4のステップS16の、ゲインダウンフラグのセット/リセット処理を説明するフローチャートである。
【図11】図4のステップS17の、キズ検知フラグ及びキズ位置保持フラグのリセット処理を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0069】
1 光ディスク
2 スピンドルモータ
3 ピックアップ
4、5 電流電圧変換回路
6 プッシュプル信号生成回路
7 低域フィルタ(LPF)
8 AD変換器
9 演算プロセッサ
10 DA変換器
11 トラッキングアクチュエータ駆動回路
12 回転パルスカウンタ回路
【技術分野】
【0001】
本発明は光ディスク記録再生装置に係り、特に光ディスクのトラック追従制御機能を備えた交換型光ディスク記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク記録再生装置において、光ディスクを回転させ、光スポットを光ディスクのデータ記録再生面に合焦点させるフォーカスサーボに入った後、スパイラル状または同心円状のトラックに光スポットが追従するようにトラッキングサーボループをオンさせ、目的のトラック中心に光スポットを追従させつつデータを当該光スポットにて記録再生する。そのためにトラッキング制御装置は、周知の通り光スポットのトラック中心からの位置誤差(位置ずれの方向及び量)を表すトラッキングエラー信号が零となるように対物レンズを移動させる。
【0003】
ここで、ディスク表面のキズやゴミの付着は、トラッキングエラー信号が実際の光スポット位置を示さなくなり、トラック外れの原因となる。このため、ディスク表面のキズやゴミの付着によるトラック外れを回避する従来技術として、ディスク表面のキズやゴミが付着した媒体欠陥領域を検知して得たディフェクト信号によるトラッキング制御系ホールド動作が挙げられる。
【0004】
これは、ディスク表面のキズやゴミの付着によりデータ記録再生面からの反射光が減少するため、光ピックアップ内の分割された光電センサの総和信号レベルが低下し、予め設定されたしきい値を下回ったことを示すディフェクト信号を出力する。このディフェクト信号がトラッキング制御系に伝えられ、トラッキング制御系はディフェクト信号がある期間は、媒体欠陥があるとしてトラッキングエラー信号によるフィードバック制御を中止する。
【0005】
また、ディフェクト信号は反射光の減少によってしきい値を下回るまでは出力されないため、媒体欠陥に突入してしばらくはトラッキングエラー信号の乱れが生じることは避けられない。このような影響を軽減する従来技術として、ディフェクトの存在を予測する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この特許文献1記載の方法は、ディスク表面のキズやゴミの付着した領域はディスク半径方向にある大きさをもっているため、このディスク表面のキズやゴミの付着したトラック通過中はディスク一周の周期性があることを利用し、媒体欠陥の周期性からディフェクトの存在を予測し、その予測前後の駆動電圧をホールドし、ホールドした駆動電圧を基に次のキズ通過中の駆動電圧を補間処理する。
【0007】
【特許文献1】特許第2518729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の従来方法は、媒体欠陥の周期性からディフェクトの存在を予測するようにしているが、トラッキングエラーの乱れる領域全てにおいてディフェクト信号が発生する訳ではない。例えば、ディスク裏面のキズやゴミの付着によりデータ記録再生面からの反射光が減少し、光ピックアップ内の分割された光電センサから出力される総和信号レベルが低下しても、その総和信号レベルが予め設定されたしきい値を下回らない場合においてはディフェクト信号が発生しないため、このような光ディスクに対しては上記の特許文献1記載の従来方法は適用できないという課題がある。
【0009】
また、トラッキングエラー信号は、光ピックアップ内のディスク半径方向内周側光電センサからの信号とディスク外周側光電センサからの信号との差信号であるプッシュプル信号から作られるため、ディフェクト信号生成のための光電センサの総和信号レベルが低下しなくとも、ディスク表面のキズやゴミの付着が内周側と外周側に与える影響が異なる場合には、トラッキングエラー信号の乱れとして現れるという課題がある。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、トラッキングエラー信号の信頼性を推定して、トラッキングエラー信号の信頼性が低くトラッキングエラー信号に乱れが生じている場合には、トラッキングエラー信号の乱れに対する反応を鈍らせることで、トラッキングエラー信号の乱れをディフェクト信号から検知できない場合においてもトラッキング外れを回避し得る光ディスク記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、第1の発明は、光ディスクに形成されたトラックに、記録用又は再生用の光ビームを対物レンズを通して集光して形成したスポットを追従走査させるために、トラックからの光ビームスポットの反射光を受光して得られた受光信号に基づいてトラッキングエラー信号を算出し、そのトラッキングエラー信号によりトラッキングアクチュエータを駆動して、対物レンズをトラックの幅方向に変位させる光ディスク記録再生装置において、
トラッキングエラー信号に基づいて、光ビームスポットをトラックに追従走査させるためのトラッキングアクチュエータの操作量データを算出する操作量データ算出手段と、操作量データから対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の暫定推定値を計算する暫定推定値計算手段と、位置又は速度の暫定推定値とトラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差を計算する誤差計算手段と、誤差の絶対値と予め設定したしきい値とを比較する比較手段と、比較手段により誤差の絶対値がしきい値以上である比較結果が得られるとき、トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定し、そのトラッキングエラー信号の乱れの現れる位置近傍で、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させる制御手段とを有することを特徴とする。
【0012】
この発明では、トラッキングアクチュエータの操作量データから計算した対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の暫定推定値と、トラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差の絶対値がしきい値以上である比較結果が得られるとき、媒体欠陥によりトラッキングエラー信号に乱れが生じたものと推定するようにしたため、従来の総和光量低下検出によるディフェクト検出によって検知されないトラッキングエラー信号の乱れを、トラッキングエラー信号の信頼性を判定することで検知することができる。これにより、トラッキングエラー信号の乱れの現れる位置近傍で、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させることができる。
【0013】
また、上記の目的を達成するため、第2の発明は、第1の発明と同様の光ディスク記録再生装置において、トラッキングエラー信号に基づいて、光ビームスポットをトラックに追従走査させるためのトラッキングアクチュエータの操作量データを算出する操作量データ算出手段と、操作量データを演算する所定周期のトラッキング制御サンプル毎に、前回のトラッキング制御サンプルで予測した対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の推定値を修正して、所定周期後の現在のトラッキング制御サンプルにおける対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の推定値を計算する推定値計算手段と、現在のトラッキング制御サンプルにおける前記位置又は速度の推定値と操作量データとに基づいて、所定周期後の次回のトラッキング制御サンプルにおける位置又は速度の予測値を計算する予測値計算手段と、位置又は速度の予測値とトラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差を計算する誤差計算手段と、誤差の絶対値と予め設定したしきい値とを比較する比較手段と、比較手段により誤差の絶対値がしきい値以上である比較結果が得られるとき、トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定し、そのトラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中は、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させる制御手段とを有することを特徴とする。
【0014】
この発明では、所定周期後の次回のトラッキング制御サンプルにおける位置又は速度の予測値とトラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差の絶対値が、しきい値以上である比較結果が得られるとき、媒体欠陥によりトラッキングエラー信号に乱れが生じたものと推定するようにしたため、従来の総和光量低下検出によるディフェクト検出によって検知されないトラッキングエラー信号の乱れを、トラッキングエラー信号の信頼性を判定することで検知することができる。これにより、トラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中は、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来の総和光量低下検出では検知されない媒体欠陥によるトラッキングエラー信号の乱れを検出して、そのトラッキングエラー信号の乱れが検出される光ディスクの位置近傍のトラック走査中、又はトラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中は、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の一実施の形態について図面と共に詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明になる光ディスク記録再生装置の一実施の形態の構成図を示す。同図に示すように、光ディスク記録再生装置100は、光ディスク1を回転するためのスピンドルモータ2と、光ディスク1に光ビームを照射して光ビームスポットを形成し、光ディスク1からの光ビームスポットの反射光を受光する光学系や反射光を光電変換してトラッキングエラー信号やフォーカスエラー信号や再生信号などを検出する検出回路系などを内蔵するピックアップ3と、電流電圧変換回路4及び5と、プッシュプル信号生成回路6と、トラッキング位置決め制御に必要な低域成分を取り出すための低域フィルタ(LPF)7と、LPF7の出力信号をデジタル信号に変換するAD変換器8と、所定の演算を行って位置誤差データを得る演算プロセッサ9と、演算プロセッサ9の出力信号をアナログ信号に変換するDA変換器10と、トラッキングアクチュエータ駆動回路11と、回転パルスカウンタ回路12とから構成される。
【0018】
次に、この実施の形態の動作の概略について説明する。スピンドルモータ2によって所定方向に回転されている光ディスク1に対して、周知のようにピックアップ3から光ビームを照射することで情報信号の記録が行われ、光ディスク1からの反射光をピックアップ3内の光電センサにより光電変換して得られた信号に基づいて記録情報信号の再生が行われる。また、ピックアップ3は図示していないピックアップ粗動モータによって、光ディスク1の目標とするトラック近傍に位置決めされている。
【0019】
また、ピックアップ3内の対物レンズは、ピックアップ3内の光源から出射した光ビームが光ディスク1の記録再生面にスポットとして焦点を結ぶように、図示していないフォーカスアクチュエータによって光ディスク1の記録再生面に対して垂直方向に変位されて位置決めされている。また、ピックアップ3内の対物レンズは、記録用又は再生用光ビームスポットが光ディスク1の記録再生面に形成されている同心円状もしくはスパイラル状のトラックに追従走査するように、記録時又は再生時の光ディスクからの反射光を受光して得られた受光信号に基づいて算出したトラッキングエラー信号により、図示していないトラッキングアクチュエータによってディスク半径方向(トラックの幅方向)に移動可能とされている。
【0020】
また、ピックアップ3内には、光ディスク1のトラック方向に平行な方向の分割線で2分割されており、ディスク半径方向内周側光電センサ部(分割受光部)と、ディスク半径方向外周側光電センサ部(分割受光部)とからなる光電センサ(受光器)が設けられており、光ディスク1からの反射光の受光面積(光量)に比例したレベルの電流を出力する。上記の2つの光電センサ部の受光面積は、光スポットが正確に所望の1本のトラック中心に位置するようにトラッキングされているときは等しく、トラックずれ方向とずれ量に応じて一方の受光面積と他方の受光面積とが変化する。ディスク半径方向内周側光電センサ部からの出力電流aと、ディスク半径方向外周側光電センサ部からの出力電流bとは、それぞれ電流電圧変換回路4及び5に別々に入力され、互いに独立して電流信号が電圧信号に変換される。
【0021】
電流電圧変換回路4及び5の出力電圧は、プッシュプル信号生成回路6に入力され、ここで差信号であるプッシュプル信号cに変換される。このプッシュプル信号cは、ディスク半径方向に2分割した光電センサの内周側信号と外周側信号の差であるから、トラック中心からのずれを示す成分を含んでいる。よって、プッシュプル信号cはLPF7に入力されて、トラッキング位置決め制御に必要な低域成分が取り出されてトラッキングエラー信号dとなり、AD変換器8によりデジタル信号のトラッキングエラーデータeに変換されてから演算プロセッサ9に入力される。
【0022】
演算プロセッサ9は図示していないシステムコントローラからの命令に基づき、トラッキングエラーデータeを読み取り、その読み取りデータに対して予め設定された演算をすることにより、位置誤差データを得、更にその位置誤差データに所定の補償演算を行った結果であるデジタル操作量fを生成してDA変換器10に出力する。
【0023】
DA変換器10はデジタル操作量fをアナログ操作量gに変換し、トラッキングアクチュエータ駆動回路11に出力する。トラッキングアクチュエータ駆動回路11は、アナログ操作量gに比例した電流をピックアップ3内の対物レンズをディスク半径方向に移動させるトラッキングアクチュエータに供給し、光スポットが光ディスク1のトラック上を追従するように対物レンズを移動する。
【0024】
また、スピンドルモータ2からは、1回転当たり所定数のパルスを発生する回転パルス信号hが出力され、回転パルスカウンタ回路12に入力される。回転パルスカウンタ回路12は、ディスク1回転当たりの回転パルス信号hのパルス数が「N」であるとすると、回転パルス信号hの立ち上がりエッジをカウントし、「0」から「N−1」カウントまでを巡回的に繰り返す。回転パルスカウンタ回路12の出力である回転パルスカウントデータiは、演算プロセッサ9に入力され、ディスク回転角度位置の検出のために用いられる。図2は上記の回転パルス信号hと回転パルスカウントデータiの一例(N=9)のタイミングチャートを示す。なお、回転パルス信号周波数に比べてトラッキング制御サンプル周波数は十分に高いので、回転パルス信号hの立ち上がりエッジはトラッキング制御サンプル周期毎にチェックしている。従って、回転パルス信号hの立ち上がりエッジと立ち上がりエッジ制御サンプルとは同じである。
【0025】
次に、本実施の形態におけるトラックセンターを追従制御中(トラッキング制御中)における演算プロセッサ9の演算動作を、図3に示すフローチャートと共に説明する。演算プロセッサ9は所定のサンプリングタイミングでトラッキング制御を開始する。まず、演算プロセッサ9はAD変換器8からトラッキングエラー信号dのデジタルデータであるトラッキングエラーデータ(TEデータ)eを読み込む(ステップS1)。
【0026】
続いて、演算プロセッサ9はTEデータeから位置誤差演算を行って位置誤差信号TEを求め(ステップS2)、更にその位置誤差信号TEから、制御を安定かつ所定のトラッキング性能が得られる補償演算を行い、トラッキングアクチュエータを駆動するための操作量データを求める(ステップS3)。以上の演算プロセッサ9によるステップS1〜S3は、トラッキングエラー信号に基づいて、光ビームスポットを光ディスク1のトラックに追従走査させるために対物レンズを変位させるトラッキングアクチュエータの操作量データを算出する操作量データ算出手段を実現する。
【0027】
続いて、演算プロセッサ9は、前回のサンプル時間でこのフローチャートが実行されたときに後述するステップS7で生成されたゲインダウンフラグが「1」であるかどうか判定し(ステップS4)、ゲインダウンフラグが「0」であれば、ディスク表面のキズによる乱れがないトラッキングエラー信号であると判断し、ステップS3において求めた操作量データをそのままDA変換器10へ出力する(ステップS6)。ここで、サンプル時間とは、光ビームがトラック中心を走査するよう、対物レンズをトラックの幅方向(ディスク半径方向)に移動させるトラッキングアクチュエータを制御するための操作量データfをDA変換器10に出力する周期をいう。なお、このサンプル時間における値を、本明細書ではトラッキング制御サンプルともいう。
【0028】
一方、ゲインダウンフラグが「1」であれば、ディスク表面のキズ(媒体欠陥)によるトラッキングエラー信号に乱れがあると判断し、ステップS3において求めた操作量データに、所定のゲインKdown(Kdown<1)を乗算し(ステップS5)、その乗算結果をトラッキングアクチュエータデジタル操作量fとしてDA変換器10へ出力する(ステップS6)。
【0029】
図1のDA変換器10へ出力された操作量データ(トラッキングアクチュエータデジタル操作量)fは、アナログ操作量gに変換された後、トラッキングアクチュエータ駆動回路11を介してピックアップ3内の対物レンズを、光スポットが光ディスク1のトラック上を追従走査するように移動変位させる。従って、上記の操作量データ(トラッキングアクチュエータデジタル操作量)fの値に応じてトラッキング制御ループのループゲインが決定され、ステップS5で1より小なるKdownを操作量データに乗算して得られたトラッキングアクチュエータデジタル操作量fを用いる、ゲインダウンフラグが「1」の期間中は、ゲインダウンフラグが「0」の期間よりもトラッキング制御ループ全体のゲインが下げられ(制御補償形態が変化され)、その結果、トラッキングエラー信号の乱れに対する反応が鈍くなり、トラッキングエラー信号の乱れの発生による影響を軽減できる。
【0030】
次に、演算プロセッサ9は、ディスク表面のキズによりトラッキングエラー信号に乱れを生じているかどうかの判断を行い、判断結果からトラッキングエラー信号に乱れがあればゲインダウンフラグに「1」を立て、トラッキングエラー信号に乱れがなければ、ゲインダウンフラグを「0」におろして(ステップS7)、次のトラッキング制御タイミング待ちの状態に戻る。以下、ステップS1〜S7の処理はトラッキング制御サンプル周期毎に繰り返される。
【0031】
次に、図3のステップS7におけるディスクキズ検出によるゲインダウンフラグのセット/リセット動作について、図4に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。演算プロセッサ9は、DA変換器10へ出力したトラッキングアクチュエータデジタル操作量fの、回転パルス信号hの一周期期間内平均値を求める(ステップS11)。ここで、回転パルス信号hの周波数はせいぜい数kHzオーダーであるのに対し、トラッキング制御サンプル周波数は百kHzオーダーであるので、上記の回転パルス信号hの一周期期間内平均値は、数十個のトラッキングアクチュエータデジタル操作量fのデータ平均値となる。
【0032】
続いて、演算プロセッサ9は、前回のサンプル時間において求めてある対物レンズの暫定位置と現在のサンプル時間におけるトラッキングエラー信号から得られる位置との差から、暫定位置と暫定速度の修正を行い、現在のサンプル時間における対物レンズの推定位置と推定速度を得る(ステップS12)。
【0033】
このステップS12は、後述するように、操作量データ(トラッキングアクチュエータデジタル操作量)を演算する所定周期のトラッキング制御サンプル毎に、前回のトラッキング制御サンプルで予測した対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の推定値を修正して、所定周期後の現在のトラッキング制御サンプルにおける対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の推定値を計算する推定値計算手段を実現する。
【0034】
続いて、演算プロセッサ9は、次回のサンプル時間における対物レンズの暫定位置と暫定速度の推定値(予測値)を求める(ステップS13)。このステップS13は、後述するように、現在のトラッキング制御サンプルにおける対物レンズの位置と速度の推定値とトラッキングアクチュエータ操作量とに基づいて、所定サンプル時間経過後の次回のトラッキング制御サンプルにおける対物レンズの位置と速度の予測値を計算する予測値計算手段を実現する。
【0035】
続いて、演算プロセッサ9は、前回のトラッキング制御サンプルにおけるステップS13で求められた現在のトラッキング制御サンプルにおける速度の暫定推定値(予測値)と、トラッキングエラーから得られる速度との差の絶対値が所定のしきい値を超えている制御サンプルが、予め設定したサンプル時間以上連続する場合、ディスク表面のキズ等によりトラッキングエラーに乱れがあると判断し、キズ検知フラグに「1」を立てる(ステップS14)。
【0036】
上記のトラッキングエラーから得られる速度は、例えば、図3のステップS1で得られるTEデータ(位置データ)を用い、現在サンプル時間におけるTEデータをTE0、前回サンプル時間におけるTEデータをTE1とすると、サンプル時間周期を単位時間として、サンプル時間周期で移動した距離を計算することにより、すなわち、(TE0−TE1)により得られる。
【0037】
続いて、ステップS14においてキズ検知フラグが「1」となった回転パルスカウントデータをキズ位置回転パルスカウントデータとして保持しておき、その保持を示すためキズ位置保持フラグに「1」を立てる(ステップS15)。
【0038】
次に、演算プロセッサ9は、キズ位置保持フラグが「1」のキズ位置回転パルスカウントデータの値が保持されている場合、現在の回転パルスカウントデータiの値が、保持してあるキズ位置回転パルスカウントデータの値より小なる第1の値になった時にゲインダウンフラグを立て(「1」にセットし)、その後現在の回転パルスカウントデータiの値が、保持してあるキズ位置回転パルスカウントデータの値より大なる第2の値になったときにゲインダウンフラグを下ろす(「0」にリセットする)(ステップS16)。すなわち、演算プロセッサ9は、キズ位置保持フラグが「1」のキズ位置回転パルスカウントデータの値が保持されている場合、現在の回転パルスカウントデータiの値が、その保持してあるキズ位置回転パルスカウントデータの値に達する直前の第1の値から、保持してあるキズ位置回転パルスカウントデータの値に達した直後の第2の値となるまでの期間は、その期間の回転角度位置においては、ディスク一周前においてディスクのキズが検知されていると判断して、ゲインダウンフラグに「1」を立てる(セットする)。
【0039】
このゲインダウンフラグの動きを、図2を使って更に具体的に説明する。図2(C)は、キズ位置保持フラグが「1」で、保持されているキズ位置回転パルスカウントデータが「3」の場合を示す。この場合、一回転前の回転パルスカウントデータの値が「3」の時にキズ検知フラグが「1」でキズが検知されている状態である。ゲインダウンフラグは、図2(B)に示す回転パルスカウントデータの値が「3」の1つ手前である「2」になった時、図2(D)に示すように、ゲインダウンフラグが「1」となり、回転パルスカウントデータの値が「3」の2つ後ろである「5」になった時、ゲインダウンフラグが「0」に下りる。
【0040】
このように、キズが検知された回転パルスカウントデータの値が「3」の回転角度位置も含めた前後においてゲインダウンフラグを「1」とし、このゲインダウンフラグが「1」の期間は、ディスク表面のキズによるトラッキングエラー信号に乱れがあると判断し、制御ゲインを落としてトラッキングエラー信号の乱れに対する反応を鈍らせることにより、トラッキング外れを回避することができる。
【0041】
再び図4に戻って説明する。ステップS16に続いて、演算プロセッサ9は図2(A)に示した回転パルス信号hの立ち上がりエッジ制御サンプルタイミング毎に、キズ検知フラグを「0」にリセットすると共に、ゲインダウンフラグが「1」であるときの現在の回転パルスカウントデータの値がキズ位置回転パルスカウントデータの値と同じ時に、キズ検知フラグが「0」になれば、トラック上のキズがある領域から抜け出たと判断し、キズ位置保持フラグを「0」にリセットする(ステップS17)。
【0042】
次に、図4のステップS11の、回転パルス信号の一周期期間内のトラッキングアクチュエータ駆動平均値計算処理について、図5に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。図5において、回転パルス信号hの一周期期間内にDA変換器10から出力したトラッキングアクチュエータ駆動データの総和データSUMに、演算プロセッサ9が現在の制御サンプル時間においてDA変換器16に出力するトラッキングアクチュエータ操作量データf(これをTDAとする)を加算する(ステップS21)。前述したように、回転パルス信号hの一周期期間内には、数十個のトラッキングアクチュエータデジタル操作量f(すなわち、トラッキングアクチュエータ駆動データ)がある。
【0043】
続いて、演算プロセッサ9は、総和SUMの加算回数Nを「1」インクリメントした後(ステツプS22)、回転パルス信号hの立ち上がりエッジ制御サンプルタイミングであるかどうかを判断する(ステップS23)。ステップS23で回転パルス信号hの立ち上がりエッジ制御サンプルタイミングであると判断したときは、回転パルス信号hの一周期時間総和演算を行ったので、一周期期間内のトラッキングアクチュエータ駆動平均値として、ステップS21で算出した総和SUMをNで除算することで平均値AVEを算出し(ステップS24)、その後総和SUMと加算回数Nをゼロに初期化する(ステップS25)。なお、ステップS23で回転パルス信号hの立ち上がりエッジ制御サンプルタイミングでないと判断したときは、何の処理も行わず、一旦処理を終了する。
【0044】
次に、図4のステップS12の、前回サンプル時間で求めておいた暫定推定値を修正して現在サンプル時間における推定位置と推定速度を求める演算処理について、図6に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。図6において、トラッキング位置誤差信号TEから前回サンプル時間で計算されている暫定推定位置X1を減算することにより、推定誤差E1を求める(ステップS31)。続いて、予め定めた所定値のゲインF1とステップS31で求めた推定誤差E1を乗算した値を、前回サンプル時間で計算されている暫定推定位置X1に加算することで、現在のサンプル時間における推定位置X1を得る(ステップS32)。
【0045】
そして、予め定めた所定値のゲインF2とステップS31で求めた推定誤差E1を乗算した値に、前回サンプル時間で計算されている暫定推定速度X2を加算することより、現在サンプル時間における推定速度X2を得る(ステップS33)。ここで、上記のゲインF1及びF2は、位置誤差信号TEと暫定推定位置X1の推定誤差E1が収束するような値に設定する。
【0046】
次に、図4のステップS13の、次回サンプル時間における暫定推定値(予測値)の演算処理について、図7に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。図7において、演算プロセッサ9は、現在のサンプル時間におけるアクチュエータ操作量データTDAから、図4のステップS11で求めた回転パルス一周期期間のトラッキングアクチュエータ駆動平均値AVEを差し引きその値をUとする(ステップS41)。これにより、トラックの偏芯成分に追従するための駆動力データAVEが差し引かれ、偏芯成分に追従する駆動力以外のトラッキングアクチュエータ駆動力としてUが求まる。
【0047】
続いて、演算プロセッサ9は、次回のサンプル時間における暫定推定位置である予測位置X1を次式
X1=P11・X1+P12・X2+Q1・U (1)
により求めた後(ステップS42)、次回のサンプル時間における暫定推定速度である予測速度X2を次式
X2=P21・X1+P22・X2+Q2・U (2)
により求める(ステップS43)。
【0048】
上記の(1)式と(2)式は文献(例えば、高橋安人著、「ディジタル制御」、岩波書店、1985年)に記載された物体の動き(ここでは対物レンズの動き)を表すことができる公知の離散状態式
X(k+1)=PX(k)+QU (3)
を行列内の要素毎に示した式である。ここで、Pは2行2列のシステム行列で、その要素がP11、P12、P21、P22である。Qは2行1列の入力行列で、その要素がQ1、Q2である。また、Xは2行1列の状態量で、その要素がX1、X2で、ここではX1を位置、X2を速度とおいている。Uはアクチュエータに加える操作量であるので、スカラー量である。kは現在サンプル時間におけるサンプル番号である。これにより、上記の(1)式と(2)式から次回のサンプル時間(k+1)における位置X1(k+1)及び速度X2(k+1)が予測値(暫定推定値)として得られる。
【0049】
次に、図4のステップS14の、ディスクキズ検出処理について、図8に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。図8において、演算プロセッサ9は、ステップS12、S33で求めた現在のサンプル時間における推定速度X2と位置誤差信号TEから得られる速度(トラッキングエラーから得られる速度)TE_VELとの差を計算し速度差R3を得る(ステップS51)。このステップS51は、対物レンズの速度の暫定推定値とトラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における速度の値との間の誤差を計算する誤差計算手段を実現している。
【0050】
続いて、演算プロセッサ9は、速度差R3の絶対値を計算し(ステップS52)、その速度差絶対値R3と速度しきい値との比較判定を行う(ステップS53)。これらステップS52とS53は、誤差の絶対値と予め設定したしきい値とを比較する比較手段を実現している。
【0051】
ステップS53で、速度差絶対値R3が速度しきい値より小であると判定したときは、キズ連続検出カウンタに所定の値をセットして初期化を行って(ステップS54)、処理を終了する。一方、ステップS53で、速度差絶対値R3が速度しきい値以上であると判定したときは、キズ連続検出カウンタのカウント値をデクリメントした後(ステップS55)、デクリメントしたキズ連続カウンタのカウント値が「0」であるかどうかを判断する(ステップS56)。
【0052】
ステップS56で、キズ連続カウンタのカウント値が「0」であると判断したときは、ステップS54で初期値として設定された所定値の回数、速度差絶対値R3が連続して速度しきい値以上であるので、光ディスク1の表面にキズ等があることからトラッキングエラーに乱れがあると判断して、キズ検知フラグに「1」を立て(ステップS57)、キズ連続検出カウンタに所定の値をセットして初期化を行う(ステップS58)。ステップS56で、キズ連続カウンタのカウント値が「0」でないと判断したときは、処理を一旦終了する。
【0053】
演算プロセッサ9による上記のステップS55〜S58は、図3のステップS4〜S6、図4のステップS15、S16と共に、速度差絶対値R3が速度しきい値以上である比較結果が得られるとき、トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定し、そのトラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中は、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させて(ここではループゲインを低下させて)トラッキング外れを回避させる制御手段を実現している。
【0054】
次に、図4のステップS15の、キズ位置回転パルスカウントデータの保持処理の動作について、図9に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。図9において、演算プロセッサ9は、まず、ディスク表面にキズのある回転角度位置における回転パルスカウントデータを既に保持しているかどうかを、キズ位置保持フラグが「1」であるか否かにより判断する(ステップS61)。
【0055】
キズ位置保持フラグが「1」であるならば、すでにキズ位置回転パルスカウントデータを保持しているので、直ちに処理を終了するが、キズ位置保持フラグが「0」であるならば、まだキズ位置回転パルスカウントデータを保持していないので、キズ検知フラグのチェックを行う(ステップS62)。演算プロセッサ9は、ステップS62において、キズ検知フラグが「0」であると判定したときは、直ちに処理を終了するが、キズ検知フラグが「1」である(これは、速度差絶対値R3が連続して所定回数、速度しきい値以上になったときに、ステップS57で「1」にセットされたものである。)と判定したときは、現在の回転パルスカウントデータiをキズ位置回転パルスカウントデータとして保持し(ステップS63)、更にその保持を示すためにキズ位置保持フラグを「1」にセットして(ステップS64)、終了へ抜ける。
【0056】
次に、図4のステップS16の、ゲインダウンフラグのセット/リセット処理について、図10に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。ここにおける処理概要は、既にキズ位置保持フラグが「1」であり、キズ位置回転パルスカウントデータが保持されている場合、現在の回転パルスカウントデータiが、保持してあるキズ位置回転パルスカウントデータに等しいもしくは、キズ位置回転パルスカウントデータの前後と等しい場合、現在通過中の回転角度位置においては、ディスク1回転前において光ディスク1のキズが検知されているため、ゲインダウンフラグに「1」を立てることである。
【0057】
図10において、演算プロセッサ9は、まず、回転パルス信号の立ち上がりエッジ制御サンプルかどうかを判断し(ステップS71)、立ち上がりエッジ制御サンプルではないときは終了へ抜けるが、立ち上がりエッジ制御サンプルならば、キズ位置保持フラグが「1」であるかどうかを判断する(ステップS72)。ステップS72でキズ位置保持フラグが「0」であると判定したときは、終了へ抜けるが、キズ位置保持フラグが「1」であると判定したときは、現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの1つ手前の値に等しいかどうかをチェックする(ステップS73)。
【0058】
ステップS73で、現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの1つ手前の値に等しいと判定したときは、演算プロセッサ9はゲインダウンフラグに「1」をセットし(ステップS74)、次制御サンプルから制御ゲインを低下させる。一方、ステップS73で、現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの1つ手前の値に等しくないと判定したときは、演算プロセッサ9は現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの2つ後の値に等しいかどうかを判断する(ステップS75)。
【0059】
ステップS75で、現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの2つ後ろの値に等しくないと判定したときは、終了に抜けるが、現在の回転パルスカウントデータiの値が、キズ位置回転パルスカウントデータの2つ後ろの値に等しいと判定したときは、ゲインダウンフラグを「0」にリセットし(ステップS76)、次制御サンプルから通常の制御ゲインに戻す。
【0060】
次に、図4のステップS17の、キズ検知フラグ及びキズ位置保持フラグのリセット処理について図11に示すフローチャートと共に更に詳細に説明する。ここにおける処理概要は、回転パルス信号hの立ち上がりエッジ制御サンプルタイミングでキズ検知フラグを「0」にリセットすることと、ゲインダウンフラグが「1」であるならば、ゲインダウン中に現在保持しているキズ位置回転パルスカウントデータ位置でキズが検知されるようであれば、キズ位置保持フラグを「1」のままとし、ゲインダウン中に現在保持しているキズ位置回転パルスカウントデータ位置でキズが検知されなければ、キズのある領域から抜け出たものと判断してキズ位置保持フラグを「0」にクリアすることである。
【0061】
図11において、演算プロセッサ9は、まず、回転パルス信号の立ち上がりエッジ制御サンプルかどうかをチェックする(ステップS81)。ステップS81で、回転パルス信号の立ち上がりエッジ制御サンプルでないと判定したときは、制御サンプリングタイミングではないため、終了へ抜けるが、回転パルスエッジ信号の立ち上がりエッジ制御サンプルであると判定したときは、制御サンプリングタイミングであるため、ゲインダウンフラグが「1」かどうかをチェックする(ステップS82)。
【0062】
ステップS82において、演算プロセッサ9は、ゲインダウンフラグが「0」であると判定したときは、キズ検知フラグを「0」にリセットして(ステップS86)、終了する。ステップS82において、ゲインダウンフラグが「1」であると判定したときは、演算プロセッサ9は、現在の回転パルスカウンタデータの値が、キズ位置回転パルスカウンタデータの値の1つ後であるかどうかを判断する(ステップS83)。ステップS83で現在の回転パルスカウンタデータの値は、キズ位置回転パルスカウンタデータの値の1つ後でないと判定したときは、キズ検知フラグを「0」にリセットして(ステップS86)、終了する。
【0063】
ステップS83において、現在の回転パルスカウンタデータの値は、キズ位置回転パルスカウンタデータの値の1つ後に等しいと判定したときは、キズ検知フラグが「1」かどうかをチェックする(ステップS84)。ステップS84で、キズ検知フラグが「1」であると判定したときは、現在保持しているキズ位置回転パルスカウンタデータと同じ位置でキズが検知されているため、キズ検知フラグを「0」にリセットして(ステップS86)、終了する。一方、演算プロセッサ9は、ステップS84でキズ検知フラグが「0」であると判定したときは、現在保持しているキズ位置回転パルスカウンタデータと同じ位置ではキズが検知されないため、キズ位置保持フラグを「0」にリセットして(ステップS85)、終了する。
【0064】
このように、本実施の形態によれば、図3乃至図11と共に説明したように、現在のトラッキング制御サンプル(サンプル時間)における位置又は速度の推定値とトラッキングアクチュエータ操作量とに基づいて計算して得た、次回のトラッキング制御サンプル(サンプル時間)における位置又は速度の予測値とトラッキングエラー信号から得た対物レンズの光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差の絶対値が、しきい値以上である比較結果が得られるとき、媒体欠陥によりトラッキングエラー信号に乱れが生じたものと推定することで、従来の総和光量低下検出によるディフェクト検出によって検知されないトラッキングエラー信号の乱れを検知し、トラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中(ゲインダウンフラグが「1」のトラッキングサーボ演算期間)は、トラッキング制御ループのループゲインを低下させることで、トラッキングエラー信号の乱れに対する反応を鈍らせ、トラッキング外れを回避することができる。
【0065】
なお、本実施の形態においては、光ディスク一周にキズの検知個所は1箇所として説明したが、ディスク一周に複数個のキズを検知できるようにしてもよいということはいうまでもない。また、キズに限らず、ゴミの付着などによる媒体欠陥についても同様である。
【0066】
また、上記の実施の形態では、トラッキングエラー信号が乱れるディスク回転角度位置近傍のディスク回転角度位置を予測して、その回転角度位置を光ビームスポットが通過中の期間は、トラッキング制御ループのループゲインを下げる(すなわち、制御補償形態を変化させる)ようにすることで、トラッキングエラー信号の乱れによる影響を軽減しているが、図4のステップS15、S16、S17を省略し、S14で得られるキズ検知フラグをゲインダウンフラグとして使うことで、トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定して、トラッキングエラー信号の乱れの現れる位置近傍で制御補償形態を変化させるようにしてもよい(ただし、この場合は、トラッキングエラー信号が乱れていることを検知してから制御補償形態を変化させるため、時間遅れが生じる。)。
【0067】
また、上記の実施の形態では、制御補償形態の変化としてトラッキング制御ループのループゲインを下げるようにしているが、制御ループを安定にするための微分補償ゲインを下げるようにしてもよい。また、対物レンズの暫定位置と暫定速度のどちらか一方だけに基づいて本発明の制御を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の光ディスク記録再生装置の一実施の形態の構成図である。
【図2】図1の本発明装置において用いる各信号を説明するタイミングチャートである。
【図3】図1の本発明装置におけるトラックセンターを追従制御中における演算プロセッサの演算動作の一例を説明するフローチャートである。
【図4】図3のステップS7におけるディスクキズ検出によるゲインダウンフラグのセット/リセット動作を詳細説明するフローチャートである。
【図5】図4のステップS11の、回転パルス信号の一周期期間内のトラッキングアクチュエータ駆動平均値計算処理を説明するフローチャートである。
【図6】図4のステップS12の、前回サンプル時間で求めておいた暫定推定値を修正して現在サンプル時間における推定位置と推定速度を求める演算処理を説明するフローチャートである。
【図7】図4のステップS13の、次回のサンプル時間における暫定推定値の演算処理を説明するフローチャートである。
【図8】図4のステップS14の、ディスクキズ検出処理を説明するフローチャートである。
【図9】図4のステップS15の、キズ位置回転パルスカウントデータの保持処理を説明するフローチャートである。
【図10】図4のステップS16の、ゲインダウンフラグのセット/リセット処理を説明するフローチャートである。
【図11】図4のステップS17の、キズ検知フラグ及びキズ位置保持フラグのリセット処理を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0069】
1 光ディスク
2 スピンドルモータ
3 ピックアップ
4、5 電流電圧変換回路
6 プッシュプル信号生成回路
7 低域フィルタ(LPF)
8 AD変換器
9 演算プロセッサ
10 DA変換器
11 トラッキングアクチュエータ駆動回路
12 回転パルスカウンタ回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクに形成されたトラックに、記録用又は再生用の光ビームを対物レンズを通して集光して形成したスポットを追従走査させるために、前記トラックからの前記光ビームスポットの反射光を受光して得られた受光信号に基づいてトラッキングエラー信号を算出し、そのトラッキングエラー信号によりトラッキングアクチュエータを駆動して、前記対物レンズを前記トラックの幅方向に変位させる光ディスク記録再生装置において、
前記トラッキングエラー信号に基づいて、前記光ビームスポットを前記トラックに追従走査させるための前記トラッキングアクチュエータの操作量データを算出する操作量データ算出手段と、
前記操作量データから前記対物レンズの前記光ディスク上における位置又は速度の暫定推定値を計算する暫定推定値計算手段と、
前記位置又は速度の暫定推定値と前記トラッキングエラー信号から得た前記対物レンズの前記光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差を計算する誤差計算手段と、
前記誤差の絶対値と予め設定したしきい値とを比較する比較手段と、
前記比較手段により前記誤差の絶対値が前記しきい値以上である比較結果が得られるとき、前記トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定し、そのトラッキングエラー信号の乱れの現れる位置近傍で、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させる制御手段と
を有することを特徴とする光ディスク記録再生装置。
【請求項2】
光ディスクに形成されたトラックに、記録用又は再生用の光ビームを対物レンズを通して集光して形成したスポットを追従走査させるために、前記トラックからの前記光ビームスポットの反射光を受光して得られた受光信号に基づいてトラッキングエラー信号を算出し、そのトラッキングエラー信号によりトラッキングアクチュエータを駆動して、前記対物レンズを前記トラックの幅方向に変位させる光ディスク記録再生装置において、
前記トラッキングエラー信号に基づいて、前記光ビームスポットを前記トラックに追従走査させるための前記トラッキングアクチュエータの操作量データを算出する操作量データ算出手段と、
前記操作量データを演算する所定周期のトラッキング制御サンプル毎に、前回のトラッキング制御サンプルで予測した前記対物レンズの前記光ディスク上における位置又は速度の推定値を修正して、前記所定周期後の現在のトラッキング制御サンプルにおける前記対物レンズの前記光ディスク上における位置又は速度の推定値を計算する推定値計算手段と、
前記現在のトラッキング制御サンプルにおける前記位置又は速度の推定値と前記操作量データとに基づいて、前記所定周期後の次回のトラッキング制御サンプルにおける前記位置又は速度の予測値を計算する予測値計算手段と、
前記位置又は速度の予測値と前記トラッキングエラー信号から得た前記対物レンズの前記光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差を計算する誤差計算手段と、
前記誤差の絶対値と予め設定したしきい値とを比較する比較手段と、
前記比較手段により前記誤差の絶対値が前記しきい値以上である比較結果が得られるとき、前記トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定し、そのトラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中は、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させる制御手段と
を有することを特徴とする光ディスク記録再生装置。
【請求項1】
光ディスクに形成されたトラックに、記録用又は再生用の光ビームを対物レンズを通して集光して形成したスポットを追従走査させるために、前記トラックからの前記光ビームスポットの反射光を受光して得られた受光信号に基づいてトラッキングエラー信号を算出し、そのトラッキングエラー信号によりトラッキングアクチュエータを駆動して、前記対物レンズを前記トラックの幅方向に変位させる光ディスク記録再生装置において、
前記トラッキングエラー信号に基づいて、前記光ビームスポットを前記トラックに追従走査させるための前記トラッキングアクチュエータの操作量データを算出する操作量データ算出手段と、
前記操作量データから前記対物レンズの前記光ディスク上における位置又は速度の暫定推定値を計算する暫定推定値計算手段と、
前記位置又は速度の暫定推定値と前記トラッキングエラー信号から得た前記対物レンズの前記光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差を計算する誤差計算手段と、
前記誤差の絶対値と予め設定したしきい値とを比較する比較手段と、
前記比較手段により前記誤差の絶対値が前記しきい値以上である比較結果が得られるとき、前記トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定し、そのトラッキングエラー信号の乱れの現れる位置近傍で、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させる制御手段と
を有することを特徴とする光ディスク記録再生装置。
【請求項2】
光ディスクに形成されたトラックに、記録用又は再生用の光ビームを対物レンズを通して集光して形成したスポットを追従走査させるために、前記トラックからの前記光ビームスポットの反射光を受光して得られた受光信号に基づいてトラッキングエラー信号を算出し、そのトラッキングエラー信号によりトラッキングアクチュエータを駆動して、前記対物レンズを前記トラックの幅方向に変位させる光ディスク記録再生装置において、
前記トラッキングエラー信号に基づいて、前記光ビームスポットを前記トラックに追従走査させるための前記トラッキングアクチュエータの操作量データを算出する操作量データ算出手段と、
前記操作量データを演算する所定周期のトラッキング制御サンプル毎に、前回のトラッキング制御サンプルで予測した前記対物レンズの前記光ディスク上における位置又は速度の推定値を修正して、前記所定周期後の現在のトラッキング制御サンプルにおける前記対物レンズの前記光ディスク上における位置又は速度の推定値を計算する推定値計算手段と、
前記現在のトラッキング制御サンプルにおける前記位置又は速度の推定値と前記操作量データとに基づいて、前記所定周期後の次回のトラッキング制御サンプルにおける前記位置又は速度の予測値を計算する予測値計算手段と、
前記位置又は速度の予測値と前記トラッキングエラー信号から得た前記対物レンズの前記光ディスク上における位置又は速度の値との間の誤差を計算する誤差計算手段と、
前記誤差の絶対値と予め設定したしきい値とを比較する比較手段と、
前記比較手段により前記誤差の絶対値が前記しきい値以上である比較結果が得られるとき、前記トラッキングエラー信号の乱れの発生を推定し、そのトラッキングエラー信号の乱れが現れると予測される光ディスク回転角度位置を含む予め設定した光ディスク回転角度位置のトラック走査中は、トラッキング制御ループの制御補償形態を変化させてトラッキング外れを回避させる制御手段と
を有することを特徴とする光ディスク記録再生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−76139(P2009−76139A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244202(P2007−244202)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】
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