説明

光データ記憶のための感光性材料のプリ露光および硬化

【課題】光データ記憶のための、特にホログラフィックデータ記憶のための感光性材料のプリ露光および/または硬化を実施することができる光記憶媒体(10)へ書き込むための装置(1)を提供すること。
【解決手段】装置(1)は、第1の光ビーム(7、8)を放出するための第1の光源(2)、第2の光ビーム(15)を放出するための第2の光源(14)、および第1の光ビーム(7)の少なくとも一部分を空間的に変調するために少なくとも2つの状態間で切り替え可能な空間光変調器(6)を有し、この空間光変調器(6)は、第1の状態では、それが第1の光ビーム(7、8)を光記憶媒体(10)の方へ導き、第2の状態では、それが第2の光ビーム(15)を光記憶媒体(10)の方へ導くように、配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光データ記憶のための、特にホログラフィック(holographic)データ記憶のための感光性材料のプリ露光および/または硬化を実施することができる光記憶媒体へ書き込むための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光記憶媒体の容量を増加させるための1つの概念は、ホログラフィックデータ記憶を使用することである。この場合、従来の光記憶媒体に対してのように少数の層だけでなく、ホログラフィック記憶媒体の全体積が情報を記憶するために使用される。ホログラフィックデータ記憶では、2つのコヒーレント(coherent)なレーザビームの重ね合わせにより生成される干渉パターンを記録することにより、デジタルデータが記憶され、この場合、1つのビームが空間光変調器によって変調され、データページの形式で記録される予定の情報を運ぶ。
【0003】
ホログラフィックデータ記憶に対しては、ただし他の形式の光データ記憶に対してもまた、フォトポリマー等の感光性材料が光データ記録のために使用される。これらの材料は、その材料により局所的に吸収される全光エネルギーに依存して、固有の物理的性質、例えば屈折率を変える。これらの変化は、その材料内にデータを記録することを可能にする。いくつかの材料に対しては、データを効果的に記録できる前に材料をプリ露光し、データを記録後に再度材料を露光する必要がある。この最後の露光またはポスト露光は、硬化、固定、またはフラッド(flood)硬化としても知られている。プリ露光は、材料の感度を増大させるために必要であり、この感度は、高いデータ記録速度を達成するために必要とされる。硬化は、記録後の処理されていない全ての材料を処理するために必要であり、すなわち記録されたデータは固定され、材料内への追加のデータの記録が防止される。プリ露光および硬化が材料内にどのような検出可能なデータ構造も生じさせないことが望ましい。プリ露光の目的は、データを記憶する前に材料の感度を上げることである。硬化の目的は、データを記録した後に材料の感度を下げることである。プリ露光および硬化の両方に対して、データが記録される予定のまたは記録された感光性材料の体積は、結果として生じる物理的性質の変化がデータ記録品質を阻害しないように、露光する必要がある。普通このことは、材料をインコヒーレント(incoherent)な光で露光することにより達成され、この光は、例えばLEDのアレイによって放出される。このようにして、記録体積全体にわたり物理的性質の均一な変化が得られる。インコヒーレントな光源を使用すると、例えば干渉効果によりもたらされる材料の不均一な露光が回避される。
【0004】
例えば、ホログラフィックデータ記憶のために使用される感光性材料を硬化する方法が開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。いずれの場合にも、レーザダイオードのようなコヒーレントな光源が光データ記録のために使用される。追加のインコヒーレントな光源が硬化のために使用される。結果として、少なくとも部分的に分離した2つの光路、および光源を制御するための2つの分離した電子ドライバが必要とされる。このことは、光学システムを複雑にし、そのコストを上昇させる。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4799746号明細書
【特許文献2】米国特許第4687720号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光記憶媒体のプリ露光および/または硬化のために簡略化した配置を有する、光記憶媒体へ書き込むための装置を提案することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、この目的は、第1の光ビームを放出するための第1の光源、第2の光ビームを放出するための第2の光源、および空間光変調器を備える光記憶媒体から読み出しかつ/またはそれへ書き込むための装置により達成され、この空間光変調器は、第1の光ビームの少なくとも1部分を変調するために少なくとも2つの状態間で切り替え可能であり、第1の状態ではそれが第1の光ビームを光記憶媒体の方へ導き、第2の状態ではそれが第2の光ビームを光記憶媒体の方へ導くように配置される。
【0008】
本発明は、どちらの光ビームも装置の主光路内に案内できるように空間光変調器(SLM)を使用することを提案する。したがって、両方の光源の光を光路内に選択的に案内するのに単一の素子で十分である。このことにより、光学的なセットアップが簡単になり、部品の数が減少する。第2の光ビームを光記憶媒体の方へ導くために、空間光変調器は、第1の光ビームの少なくとも一部分を変調する第1の状態から、第2の状態へ切り替えられる。次いで、第2の光ビームを放出するために、第2の光源のスイッチを入れる。もちろん、空間光変調器を第2の状態に切り替える前に、第2の光源のスイッチを同様に入れることもできる。
【0009】
本発明による解決策のさらなる利点は、プリ露光および/または硬化を空間的に変化する露光線量で実施できることである。露光線量は、露光強度と露光時間との積として定義される。SLMのピクセル(pixel)のいくつかだけを第2の状態に選択的に切り替えることにより、かつ/またはピクセルが第2の状態にとどまる時間を個別に適合させることにより、所望の露光線量プロファイルが生成される。
【0010】
空間光変調器は、複数の切り替え可能な微小ミラーを有するデジタルミラーデバイスであることが有利である。デジタルミラーデバイスは、微小ミラーを2つの異なる方向に、例えば+30°および−30°だけ傾けることにより、2つの異なる状態が容易に実現できるという利点を有する。さらに離散的な傾斜角を使用することにより、例えば2つより多い光ビームを光記憶媒体の方へ選択的に導くために、追加の状態を実現することができる。
【0011】
光記憶媒体は、ホログラフィック記憶媒体であることが好ましい。ホログラフィック記憶媒体に対しては、2つの光ビームが必要とされ、それらは、ホログラフィック記憶媒体へ書き込むためのコヒーレントな光ビーム、およびホログラフィック記憶媒体のプリ露光および/または硬化のためのインコヒーレントな光ビームである。したがって、本発明による解決策は、ホログラフィック記憶システムのピックアップ(pickup)のレイアウトを簡単にし、製造コストを低減することを可能にする。
【0012】
さらによく理解するために、図を参照して以下の記述でより詳細に本発明を説明する。例示の実施形態において、本発明は、ホログラフィック記憶媒体に適用される。本発明は、他の形式の光記憶媒体にも適用可能であり、本発明の範囲から逸脱することなく特定の特徴を便宜的に組合せかつ/または変更することができることが理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ホログラフィックデータ記憶では、デジタルデータは、2つのコヒーレントなレーザビームの重ね合わせにより生成される干渉パターンを記録することにより記憶される。ホログラフィック記憶媒体から読み出しおよびそれへ書き込むための従来技術の装置1の例示的なセットアップが図1に示される。コヒーレントな光源、例えばレーザダイオード2は、光ビーム3を放出し、この光ビームは、コリメートレンズ4によってコリメートされる。次いで、光ビーム3は、2つの分離した光ビーム7、8に分割される。本例では、光ビーム3の分割は、第1のビームスプリッタ5を用いて達成される。しかしながら、この目的のために他の光学部品を使用することも同様に可能である。反射型空間光変調器(SLM)6は、2次元データパターンをインプリントするために、2つのビームのうちの1つ、いわゆる「物体ビーム」7を変調する。さらに、反射型空間光変調器6は、もう1つのビーム、いわゆる「参照ビーム」8を反射する。物体ビーム7および参照ビーム8の両方とも、ホログラフィック記憶媒体10内、例えばホログラフィックディスク内に対物レンズ9により焦点を合わせられる。物体ビーム7と参照ビーム8との交差部に干渉パターンが現れ、この干渉パターンがホログラフィック記憶媒体10の感光層内に記録される。説明されたセットアップでは、参照ビーム8は、SLM6によって反射される。もちろん、参照ビーム8のために単独の光路を提供することも同様に可能である。
【0014】
記憶されたデータは、記録されたホログラム(hologram)を参照ビーム8だけで照射することにより、ホログラフィック記憶媒体10から取り出される。参照ビーム8は、ホログラム構造によって回折され、最初の物体ビーム7の複製、すなわち再構成された物体ビーム11を生成する。この再構成された物体ビーム11は、対物レンズ9によりコリメートされ、第2のビームスプリッタ12によって2次元アレイ検出器13、例えばCCDアレイ上へ導かれる。アレイ検出器13は、記録されたデータを再構成することを可能にする。
【0015】
プリ露光および/または硬化に対しては、追加の光ビーム15がインコヒーレントな光源14、例えば発光ダイオード(LED)によって放出され、追加のレンズ16および追加のビームスプリッタ17により光路内に結合され、ホログラフィック記憶媒体10上へ照射される。
【0016】
図2において、本発明によるホログラフィック記憶媒体から読み出しおよびそれへ書き込むための装置1が示される。光学的なセットアップは、図1におけるのと本質的に同じである。しかしながら、このセットアップでは図1の反射型SLM6は、特別なデジタルミラーデバイス60、すなわち切り替え可能な微小ミラー61のアレイにより置き換えられている。一方では、デジタルミラーデバイス60は、物体ビーム7を変調し、参照ビーム8を反射する。他方では、それはまた、光源14により放出されるプリ露光用または硬化用光ビーム15をホログラフィック記憶媒体10の方へ導くためにも使用される。このようにして、図1の追加のビームスプリッタ17を除外することができる。この場合もやはり、参照ビーム8のために単独の光路を提供することが同様に可能である。
【0017】
デジタルミラーデバイス60の上面図が、図3に表される。側面図は図4に示される。デジタルミラーデバイス60は、切り替え可能な微小ミラー61のアレイから構成される。それは、コヒーレントな光ビーム7、8のための空間光変調器として、およびインコヒーレントな光ビーム15のための操舵ミラーとしての両方に使用される。この目的のために、微小ミラー61は、2つの状態間で切り替え可能であり、この場合各状態は、単一の微小ミラー61の異なる傾斜角に対応する。以下では、これらの状態を状態−1および+1と呼ぶ。デジタルミラーデバイス60がコヒーレントな光源2の光ビーム7、8により照射されると、状態−1にある微小ミラー61は、主光路内に明るいピクセルを生成する。+1状態にある微小ミラー61は、主光路から離れる方向へ光を反射する。したがって、+1状態にある微小ミラー61は、光路内に暗いピクセルを生成する。このようにして物体ビーム7は、空間的に変調される。一般に、参照ビーム8に対して空間的変調は望まれないことから、参照ビーム8によって照射される全ての微小ミラー61は−1状態に設定される。
【0018】
プリ露光および硬化に対しては、インコヒーレントな光源14のスイッチが入れられ、デジタルミラーデバイス60がインコヒーレントな光ビーム15により照射される。微小ミラー61は、+1状態に切り替えられ、インコヒーレントな光ビーム15をホログラフィック記憶媒体10の方へ導く。主光路内で最大強度および均一な強度分布を達成するために、全ての微小ミラー61は、+1状態に切り替えられることが有利である。
【0019】
図において、本発明は、ホログラフィック記憶媒体から読み出しおよびそれへ書き込むための装置に関して説明されている。もちろん本発明は、また、ホログラフィック記憶媒体へ書き込むためだけの装置でも使用することができる。さらに、本発明の概念は、2つ以上の異なる光源の間で切り替えが必要な他の光学システムにも同様に適用可能である。光源は、1つのコヒーレントな光源および1つのインコヒーレントな光源である必要はない。例えば、光源は、カラー画像を生成するために、赤色、緑色、および青色の光をそれぞれ放出する3つのレーザとすることもできる。この場合、デジタルミラーデバイス60は、3つの状態すなわち微小ミラー61の3つの制御可能な傾斜角を必要とすることになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ホログラフィック記憶媒体から読み出しおよびそれへ書き込むための従来技術の装置を概略的に表す図である。
【図2】ホログラフィック記憶媒体から読み出しおよびそれへ書き込むための本発明による装置を概略的に表す図である。
【図3】図2の装置のデジタルミラーデバイスの上面図を示す図である。
【図4】図3のデジタルミラーデバイスの側面図を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光ビーム(7、8)を放出するための第1の光源(2)、第2の光ビーム(15)を放出するための第2の光源(14)、および前記第1の光ビーム(7)の少なくとも一部分を変調するために少なくとも2つの状態間で切り替え可能な空間光変調器(6)を備えるホログラフィック記憶媒体(10)へ書き込むための装置(1)であって、前記空間光変調器(6)は、第1の状態では、それが前記第1の光ビーム(7、8)をホログラフィック記憶媒体(10)の方へ導き、第2の状態では、それが前記第2の光ビーム(15)を前記ホログラフィック記憶媒体(10)の方へ導くように、配置されることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記空間光変調器(6)は、複数の切り替え可能な微小ミラー(61)を有するデジタルミラーデバイス(60)であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の光ビーム(7、8)は、前記ホログラフィック記憶媒体(10)へ書き込むためのコヒーレントな光ビームであることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記第2の光ビーム(15)は、前記ホログラフィック記憶媒体(10)のプレ露光および/または硬化のためのインコヒーレントな光ビームであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
光記憶媒体(10)のプリ露光および/または硬化の方法であって、
第1の光源(2)により放出される第1の光ビーム(7)の少なくとも1部分を第1の状態で変調する空間光変調器(6)を第2の状態に切り替えるステップと、
第2の光ビーム(15)を放出するための第2の光源(14)のスイッチを入れるステップと、
前記空間光変調器(6)を用いて前記第2の光ビーム(15)を前記光記憶媒体(10)の方へ導くステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項6】
前記空間光変調器(6)は、複数の切り替え可能な微小ミラー(61)を有するデジタルミラーデバイス(60)であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記光記憶媒体(10)は、ホログラフィック記憶媒体であることを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の光ビーム(7、8)は、前記ホログラフィック記憶媒体(10)へ書き込むためのコヒーレントな光ビームであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の光ビーム(15)は、前記ホログラフィック記憶媒体(10)のプリ露光および/または硬化のためのインコヒーレントな光ビームであることを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記空間光変調器(6)のいくつかのピクセル(61)だけを前記第2の状態に選択的に切り替えることにより、かつ/または前記空間光変調器(6)の前記ピクセル(61)が前記第2の状態にとどまる時間を個別に適合させることにより、所望の露光線量プロファイルを生成するステップをさらに有することを特徴とする請求項5から9のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−152257(P2008−152257A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321382(P2007−321382)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(501263810)トムソン ライセンシング (2,848)
【氏名又は名称原語表記】Thomson Licensing 
【住所又は居所原語表記】46 Quai A. Le Gallo, F−92100 Boulogne−Billancourt, France
【Fターム(参考)】