説明

光パワー制御を有する画像形成光学系

この発明は、液体レンズを含む画像形成光学系に関し、光学系のパワーが修正され、同時に、少なくとも1つの光学収差が自動的に補正されることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、パワーが修正可能な画像形成光学系に関する。そのような光学系は一般に、デジタルカメラまたは銀ベースのカメラもしくはビデオカメラタイプの装置に関連しているが、顕微鏡または内視鏡にも関連している。
【背景技術】
【0002】
先行技術の提示
一般に、パワーが修正可能な光学系は、焦点距離が固定されている硬質レンズのいくつかの群を含み、それらの位置および/または相対距離は修正され得る。
【0003】
文献FR2580412は、1つ以上のレンズ群の変位によって拡大および焦点合せを同時に行なう装置を記載している。この変位は、さまざまなレンズ群の同時移動の組合せである。これらの移動は非常に複雑であり、予め定められた移動法則に対応している。
【0004】
レンズ群の変位は、さまざまな変位を得るよう多数の機械的結合を有する系の生成を必要とする。したがって、そのような系は比較的大きく、もろい。
【0005】
出願人の名における米国特許第6 369 954号は、少なくとも2つの透明な対向面を有するチャンバに含まれた屈折率が異なる2つの液体を隔てる可動屈折界面を含む、エレクトロウェッティングタイプの可変焦点液体レンズの例示的な実施例を記載している。屈折界面の曲率、ひいては液体レンズのパワーは、可動屈折界面を規定する2つの液体のうちの一方とチャンバ内の他方の液体近くに設けられた電極との間に電圧を印加することによって修正され得る。
【0006】
1つまたはいくつかの液体レンズで構成されたそのような系のパワーは、液体レンズの機械的変位を必要とすることなく修正され得るので、より単純でよりかさばらない光学系を得ることが可能になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、理想的な光学系により得られる物体の画像は、物体の1点が画像の1点に対応し、光学系の光軸に垂直な物体平面が画像の一平面に対応する、というようになっている。さらに、光学系は色を忠実に表現しなければならない。光が単色で、光軸近くの光線だけが光学系に到達する場合、ほぼ理想的な光学性能を得ることが可能である。しかしながら、実際には、実際の光学系は一般に大きな口径を有しており、そのため光軸から離れた光線が画像取得手段に到達する。さらに、光学系は一般に、たとえば太陽光などの白色光を受取るよう意図されているが、それは単色ではない。したがって、理想的に動作する光学系を得ることは非常に困難である。「光学収差」という表現は、理想的な画像と実際に得られる画像との間に存在する差を述べるために使用される。高性能の光学系を得るには、理想的な画像にできるだけ近い画像を得るために光学収差を最低限に減らすことが、したがって望ましい。
【0008】
ある光学収差は色収差に対応しており、それは、白色光がプリズムを通過する際、虹の色を有するスペクトルに分かれることから派生する。色収差には2つのタイプ、すなわち、光軸上の焦点の位置が波長とともに変わる場合の軸方向(または長手方向)色収差と、周辺領域における画像のサイズが波長とともに変わる場合の長さ(または横方向)色収差
とがある。硬質レンズからなる従来の光学系では、色収差は、異なる屈折特性および分散特性を有するさまざまなタイプの光学ガラスから作られた多数のレンズを用いて補正される。
【0009】
光学収差の別の例は像面湾曲収差であり、それは波長に一次的に依存していない収差である。これは、従来の硬質レンズからなる光学系では、物体平面の画像が湾曲して平らではないように見えるためである。光学系によって提供される画像取得手段、たとえばフィルムは平らであるため、画像の中心がくっきりしていれば、画像の端はぼやけて見え、逆に、画像の端がくっきりしている場合には、画像の中心はぼやけて見えるようになる。像面湾曲収差を補正するための一解決策は、特定形状の硬質レンズ、または特定のパワーおよび屈折率を有する硬質レンズの組合せを使用することにある。
【0010】
硬質レンズからなる光学系の場合、光学系の動作中、光学収差はほとんど変化しない。これは、光学系のさまざまな硬質レンズに対する光線の入射角が、レンズの変位中、ほとんど変化しないためである。したがって、たとえば硬質レンズの所与の位置について光学収差が最初に一旦補正されると、それらは、光学系の動作中、レンズの広範囲の位置について補正された、または実質的に補正されたままである。
【0011】
少なくとも1つの可変焦点液体レンズを含む光学系の場合、異なる状況が起こる。これは、液体レンズの可動屈折界面の曲率半径を変えることによってパワーが修正されるためである。したがって、これは、光学系の動作中、可変屈折界面に対する光線の入射角の大きい変動を伴う。その結果、光学系の動作中、光学収差の永続的でかつおそらく大きい変動がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
この発明の目的は、液体レンズを含む光学系を提供し、光学系のパワーが修正され、同時に、少なくとも1つの光学収差が自動的に補正されるようにすることである。
【0013】
この発明の別の目的は、比較的単純な設計の光学系を提供することである。
この発明の別の目的は、自動焦点合せ、すなわちオートフォーカスシステムと互換性のある光学系である。
【0014】
この発明の別の目的は、液体レンズを含む光学系を、光学系のパワーを修正し、同時に少なくとも1つの光学収差を補正するよう制御する方法を提供することである。
【0015】
光学系のパワーが修正され、同時に光学収差が補正されるようにするために、発明者等は、2つの可変焦点エレクトロウェッティングレンズからなるこの発明に従った光学系の使用を提案している。光学系のパワーの各値について、問題となっている光学収差を排除するか最小限にする、可変焦点レンズ用のある特定のパワーの対が決定される。
【0016】
より特定的には、この発明は画像形成光学系を提供し、この画像形成光学系は、エレクトロウェッティングタイプの少なくとも第1および第2の可変焦点レンズを含み、各レンズの焦点距離は制御電圧の印加により制御され、この画像形成光学系はさらに、光学系の所望のパワーを表す制御信号を受信するのに好適であり、かつ、制御信号と予め規定された制御法則および/または予め規定されたテーブルとに基づいて、得られた光学系のパワーが所望のパワーに等しくなるよう、少なくとも、第1の制御電圧を第1のレンズに、第2の制御電圧を第2のレンズに送出する一方、同時に、1つ以上の光学収差を少なくとも部分的に補正するのに好適である制御装置を含む。
【0017】
この発明の一実施例によれば、この系は、エレクトロウェッティングタイプの少なくとも第3の可変焦点レンズを含み、制御装置はさらに、受信された制御信号と前記予め規定された制御法則および/または前記予め規定されたテーブルとに基づいて、得られた光学系のパワーが所望のパワーに等しくなるよう、第3の制御電圧を第3のレンズに送出する一方、(a)同時に、2つの光学収差を補正するか、または(b)画像の所与の倍率を得、同時に1つの光学収差を補正するのに好適である。
【0018】
この発明の一実施例によれば、光学収差は、色収差かまたは像面湾曲収差である。
この発明の一実施例によれば、この系はさらに、画像の少なくとも一部を解析するための、および、前記画像の解析に基づいた焦点合せを可能にするための値を有する前記制御信号を制御装置に送出するための手段を含む。
【0019】
この発明の主題はまた、エレクトロウェッティングタイプの少なくとも第1および第2の可変焦点レンズを含み、各レンズの焦点距離は制御電圧の印加により制御される画像形成光学系を制御する方法である。この方法は、光学系の所望のパワーを表す制御信号と予め規定された制御法則および/または予め規定されたテーブルとに基づいて、得られた光学系のパワーが所望のパワーに等しくなるよう、少なくとも、第1のレンズに送出される第1の制御電圧と第2のレンズに送出される第2の制御電圧とを決定する一方、同時に、1つ以上の光学収差を少なくとも部分的に補正するステップと、少なくとも第1および第2の制御電圧を少なくとも第1および第2のレンズにそれぞれ印加するステップとを含む。
【0020】
この発明の一実施例によれば、この方法は、形成された画像の少なくとも一部を解析すること、および、焦点合せを確実にするよう画像の品質基準を最適化するために前記制御信号の値を決定することにある先行ステップを含む。
【0021】
この発明の一実施例によれば、この発明は、所与の光学収差を有する画像を得るために、所与の第1および第2の制御電圧を第1および第2のレンズにそれぞれ印加すること、および、前記所与の光学収差を有して得られた画像の少なくとも一部の解析に基づいて前記制御信号の値を決定し、焦点合せを可能にすることにある先行ステップを含む。
【0022】
この発明の一実施例によれば、所与の光学収差は色収差である。画像の解析は、前記色収差がある場合の少なくとも1つの所与の波長または少なくとも1つの所与の波長帯についての、光学系が焦点合せされる際の極値またはピーク値に達している関数の値を、前記色収差がない場合の前記波長または波長帯についての関数の予想値と比較することにある。
【0023】
この発明の一実施例によれば、焦点合せを表す関数は、光学系の伝達変調関数である。
この発明のこれらの目的、特徴および利点、ならびに他の事項を、添付図面に関連して与えられた特定の非限定的な例示的な例の以下の説明において、詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
詳細な説明
わかりやすくするため、さまざまな図において、同一の要素は同じ参照番号で示される。説明の残りの部分において、エレクトロウェッティングタイプの可変焦点レンズとは、2つの液状媒体を隔てる液体回折界面を含む光学系を指しており、その曲率半径はエレクトロウェッティングにより修正され得る。したがって、同一の筐体内に2つの液体回折界面を含み、各液体回折界面の曲率半径がエレクトロウェッティングにより修正可能な光学系は、この発明によれば、エレクトロウェッティングタイプの2つの可変焦点レンズに基づく光学系に対応している。
【0025】
この発明は、光学系のパワーを修正しながら同時に光学収差を補正するための光学系に関する。
【0026】
図1は、この発明に従った光学系10の第1の例示的な例を示す。図1では、軸Dは光学系10の光軸に対応している。この例では、光学系10は、電気制御装置16の出力を介して供給される2つの可変焦点液体レンズ12、14を含む。各可変焦点液体レンズ12、14は、屈折率が異なる2つの液体を隔てる可動屈折界面18、20を有しており、界面の形状は電気的に制御される。より正確には、可動屈折界面18、20を規定する液体間に電圧U1、U2を印加することにより、屈折界面の曲率、ひいてはレンズ12、14の焦点距離を修正することが可能である。例を挙げると、各液体レンズ12、14は、米国特許第6 369 954号に記載された例示的な実施例のものに対応し得る。制御装置16は、光学系の所望の総パワーPを表す信号Sを受信し、所望の総パワーPを得るよう2つの可変焦点液体レンズ12、14に電圧U1、U2を送出して、たとえば、物体平面22に位置する物体から得た画像の焦点を画像平面24に合せること、および光学収差を補正することを可能にする。
【0027】
出願人は、2つの可変焦点レンズ12、14を含む図1に示すような構造を用いると、光学系10のパワーPを変動させ、同時に、光学収差、たとえば色収差または像面湾曲収差を、予め定められた制御法則に従って可変焦点レンズ12の可動屈折界面18の曲率および可変焦点レンズ14の可動屈折界面20の曲率を特定的に制御することにより補正することが可能である、ということを実証している。
【0028】
これらの制御法則は解析により、または実験により決定されてもよい。制御装置16は、所望のパワーPを得るために、所望される光学系10のパワーPの各レベルについて、レンズ12および14の収束に対応する1対の制御電圧U1およびU2を決定する一方、同時に光学収差を補正するための計算手段を含んでいてもよい。制御装置16はまた、パワーPの各レベルについて、レンズ12および14の収束に対応する1対の制御電圧U1およびU2を含むテーブルが記憶されているメモリ手段を含んでいてもよい。一変形によれば、パワーPの所望のレベルに基づいて制御電圧U1、U2が決定されるようにする解析関数のパラメータが、制御装置16のメモリに記憶されてもよい。
【0029】
制御法則の解析的計算の一例をここで提供する。制御法則用の式を簡略化するために、ある近似が使用される。したがって実際には、制御法則用の式は以下に説明するものとは異なるかもしれず、以下の説明は、2つの可変焦点液体レンズ12、14を含む光学系10を用いて、光学系10の総パワーPを変動させる一方で同時に光学収差を補正する可能性を実証する、という唯一の目的を有している。各可変焦点レンズ12、14は、並置された2枚の薄型レンズからなると考えられる。そのような近似は必ずしも現実と対応してはいないが、制御法則を決定するためのよい出発点を提供する。2つのレンズ12、14の中心間の間隔をe1で示す。また、可変焦点レンズ12の可動屈折界面18は、屈折率がn1,1、アッベ数がν1,1の液体を、屈折率がn2,1、アッベ数がν2,1の第2の液体から隔てていると仮定する。実質的に球形の屈折界面18の曲率半径をR1で示す。可変焦点レンズ14の可動屈折界面20は、屈折率がn1,2、アッベ数がν1,2の第1の液体を、屈折率がn2,2、アッベ数がν2,2の第2の液体から隔てていると仮定する。実質的に球形の屈折界面20の曲率半径をR2で示す。
【0030】
レンズ12について、第1の液体により提供されるパワーp1,1は、以下の方程式により与えられる。
【0031】
【数1】

【0032】
第2のレンズにより提供されるパワーp2,1は、以下の方程式により与えられる。
【0033】
【数2】

【0034】
レンズ12の総パワーP1はしたがって、以下の方程式により与えられる。
【0035】
【数3】

【0036】
光軸Dから距離h1だけ離れて屈折界面18に到達する光線の場合、レンズ12により導入される色収差ξ1は、以下の方程式により表される。
【0037】
【数4】

【0038】
式中、νeq1は、レンズ12についての等価アッベ数に対応しており、以下の方程式により与えられる。
【0039】
【数5】

【0040】
1、h1、P1、p1,1、p2,1、n1,1、n2,1、ν1,1、ν2,1、ξ1、およびνeq1を、R2、h2、P2、p1,2、p2,2、n1,2、n2,2、ν1,2、ν2,2、ξ2、およびνeq2にそれぞれ置換えることにより、レンズ14について同様の式が得られ得る。
【0041】
光軸Dから距離h1だけ離れてレンズ12に到達する光線は、以下の方程式により与えられる距離h2だけ離れてレンズ14に到達する。
【0042】
【数6】

【0043】
二重レンズ12、14の総パワーPは、以下の方程式により与えられる。
【0044】
【数7】

【0045】
二重レンズ12、14により導入される色収差ξは、以下の方程式により与えられる。
【0046】
【数8】

【0047】
したがって、色収差をなくすことは、項ξをゼロにすることを必要とする。
さらに、非点収差がない場合に像面湾曲収差を最小限にすることは、ペツバル和(Petzval sum)(ΣP)と呼ばれる式を最小限にすることを必要とし、ペツバル和は、図1に示す光学系の場合、以下の式を有する。
【0048】
【数9】

【0049】
色収差および像面湾曲収差を同時に補正することは、項ξおよびΣPをともにゼロにすることを必要とする。したがって、これは、方程式(9)をゼロに設定し、方程式(8)で決定されたP1の関数として式P2を表したものを導入することによって得られる、以下の方程式を解くことを必要とする。
【0050】
【数10】

【0051】
この方程式は限られた数の解しか有さず、これは、限られた数の(P1,P2)対、すなわち限られた数の総パワーPの値についてしか、像面湾曲収差および色収差の同時補正が得られないことを意味している。総パワーPを連続的に変動できることが望ましいため、これは考えられない。
【0052】
第1の実施例に従った光学系では、1度に1つの光学収差しか補正されない。例を挙げるために、色収差を補正する場合をここで説明する。
【0053】
これを行なうには、目的はしたがって、項ξをゼロにすること、すなわち以下の方程式を解くことである。
【0054】
【数11】

【0055】
方程式(11)はしたがって、P1の関数としてのP2用の式を与える。
【0056】
【数12】

【0057】
方程式(7)から始まり、総パワーPについての以下の式が得られる。
【0058】
【数13】

【0059】
レンズ12の屈折界面18の曲率半径R1はしたがって、以下の式により与えられる。
【0060】
【数14】

【0061】
レンズ14の屈折界面20の曲率半径R2は、以下の式により与えられる。
【0062】
【数15】

【0063】
図2において、曲線30、31、32および33は、色収差補正が行なわれる場合の、0mm、2mm、3mmおよび5mmの間隔e1にそれぞれ関する、レンズ12のパワーP1の関数としての光学系10の総パワーPの変動を示している。カーブ30〜33は、パラメータが以下の値を有する上述の方程式を用いて描かれたものである。n1,1=1.63、n1,2=1.33、ν1,1=25、ν1,2=59、n2,1=1.33、n2,2=1.55、ν2,1=59、およびν2,2=33。これは、νeq1=13.38およびνeq2=19.87を与える。なお、総パワーPの変動範囲は間隔e1とともに増加する。
【0064】
光学系10はしたがって、以下のように制御され得る。制御装置16が、所望の総パワーPを表す信号Sを受信する。制御装置16は次に、この所望の総パワーPを得ながら同時に色収差をなくすために使用されるパワーP1およびP2の対を決定する。各レンズ12
、14について、レンズ12、14の屈折界面18、20の曲率半径R1、R2と、そのような曲率半径を得るためにレンズ12、14に印加される制御電圧U1、U2との関係が、制御装置16に記憶される。制御装置16は次に、所望の曲率半径R1、R2を得るためにレンズ12および14に印加される電圧U1、U2を決定する。
【0065】
非点収差がない場合に像面湾曲収差の補正を行なうには、ペツバル和(方程式(9))をゼロに等しくすることが必要であり、以下の方程式が与えられる。
【0066】
【数16】

【0067】
方程式(7)は、総パワーについての以下の式を与える。
【0068】
【数17】

【0069】
図3において、曲線34、35および36は、像面湾曲収差補正が行なわれる場合の、0mm、2mmおよび8mmの間隔e1にそれぞれ対する、レンズ12のパワーP1の関数としての総パワーPの変動を示している。曲線34、35および36は、図2に示す曲線を決定するために使用されたものと同じパラメータ値について得られたものである。なお、総パワーPの変動範囲は間隔e1とともに増加する。
【0070】
レンズ12、14は、上述のものと同一の方法で制御される。
ユーザは、所望の総パワーPを表す信号Sを、手動制御を介して電気制御装置16に送出してもよい。そのような実施例は、たとえば、光学系の倍率をユーザが調節可能なズームシステムにおいて適用可能である。
【0071】
しかしながら、信号Sは自動的に送出されてもよい。一例として、自動焦点合せ(いわゆる「オートフォーカス」システム)の場合、光学系10は、画像平面24に形成された画像の解析に基づいた焦点合せを確実にする値を有する信号Sを制御装置16に送出するのに好適なオートフォーカスシステムを含む。そのようなオートフォーカスシステムは、画像平面24に形成された画像のスペクトル解析を実行し得る。
【0072】
別の例として、光学系は、形成される画像の所与の対象領域の自動光学ズーミングを光学ズームシステムの視野において確実にする値を有する制御信号Sを、制御装置16に自動的に送出するのに好適なオートズーミングシステムを含み得る。ここでおよび明細書全体において、「光学ズーミング」は、デジタル倍率とは対照的な、画像の光学倍率として理解される。オートズーミングシステムは、画像の少なくとも一部を解析するための手段と、画像の解析に基づいたズーミングを確実にする値を有する制御信号Sを制御装置16に送出するための手段とを含み得る。
【0073】
可変焦点レンズ12、14を2つだけ含む上述の光学系では、焦点合せ、倍率の修正、および1つの光学収差の補正を同時に行なうことは不可能であり、焦点合せおよび2つの光学収差の補正を行なうことも不可能である。これを行なうには、これから説明するように、3つの液体レンズが必要となる。しかしながら、上述の光学系では、2つの光学収差の完全な補正は行なえないものの、焦点合せおよび2つの光学収差の部分的な補正を行な
うようよう、レンズ12、14についての制御が決定されてもよい。これを行なうには、各光学収差を補正するために規定された制御法則に基づいて、妥協に対応する制御が決定されてもよい。
【0074】
図4は、この発明に従った光学系40の第2の実施例を示す。光学系40は、第1の実施例の1組の要素を含み、さらに、たとえばレンズ14と画像平面24との間に配置された追加の液体レンズ42を含む。レンズ42は、屈折率が異なる2つの液体を隔て、かつ2つの液体間に電圧U3を印加することにより変形され得る可動屈折界面44を有する。電圧U3は、電気制御装置16により送出される。
【0075】
出願人は、3つの可変焦点レンズに基づく光学系40では、光学系40の総パワーPが所与の範囲内で修正され、同時に、総パワーPの各値について2つの光学収差、たとえば色収差および像面湾曲収差が補正され得る、ということを実証している。一例を挙げると、総パワーPの値は、焦点を合せるために調節されてもよく、光学系40はしたがって、焦点合せ動作を実行し、同時に2つの光学収差を補正する。さらに、出願人は、総パワーPの各値について焦点合せおよび1つの光学収差の補正が同時に行なわれるよう、光学系40の総パワーが所与の範囲内で修正され得る、ということを実証している。一例を挙げると、総パワーPの値は、所与の倍率を生じさせるために調節されてもよく、光学系40は、焦点合せおよび1つの光学収差の補正を同時に行なうことを可能にする。
【0076】
光軸Dから距離h1だけ離れてレンズ12に到達する光線は、レンズ14には距離h2、レンズ42には距離h3だけ離れて到達し、距離h2およびh3は、以下の方程式により与えられる。
【0077】
【数18】

【0078】
三重レンズ12、14、42の総パワーPは、以下の方程式により与えられる。
【0079】
【数19】

【0080】
三重レンズ12、14、42により導入される色収差ξは、以下の方程式により与えられる。
【0081】
【数20】

【0082】
したがって、色収差をなくすことは、項ξをゼロに等しくすることを必要とする。
さらに、非点収差がない場合に像面湾曲収差を最小限にすることは、ペツバル和を最小限にすることを必要とし、ペツバル和は、図4に示す系の場合、以下の式を有する。
【0083】
【数21】

【0084】
色収差および像面湾曲収差の双方を補正することは、方程式(21)および(22)をゼロに設定することを必要とする。
【0085】
方程式(22)から、以下の式が得られる。
【0086】
【数22】

【0087】
3用の式を方程式(21)に導入することにより、方程式(21)をゼロに等しく設定することは、P1およびP2において三次方程式を解くことを必要とする。
【0088】
3用の式から、総パワーPはP1およびP2の関数として表され得る。所与の総パワーPを得ながら同時に色収差および像面湾曲収差を補正するには、2つの未知数P1およびP2を有する2つの方程式の系を解くことがしたがって必要である。そのような系は少なくとも1対の解(P1、P2)を有することが示され得る。P3はそこから方程式(23)を介して推定される。レンズ12、14の半径R1およびR2は、方程式(13)および(14)により与えられる。半径R3は、以下の方程式により与えられる。
【0089】
【数23】

【0090】
光学系40の総パワーPを変動させながら同時に1つの光学収差の補正および焦点合せを行なうことが望ましい場合をここで検討する。総パワーPはしたがって、画像平面24に焦点が合された画像の倍率を変えるよう修正される。
【0091】
α3を、レンズ42を出射する光線と光軸Dとの間の角度とし、BFを、レンズ42と画像焦点平面24との距離とする。その場合、光軸Dに平行で光軸Dから距離h1だけ離れてレンズ12に到達する入射光線については、以下の方程式が存在する。
【0092】
【数24】

【0093】
焦点合せのためには、画像平面24は固定されたままなので、距離BFは一定でなければならない。
【0094】
方程式(18)および(19)から、方程式(25)は以下のようになる。
【0095】
【数25】

【0096】
すなわち、以下のようになる。
【0097】
【数26】

【0098】
色収差を補正することが望ましい場合、方程式(21)により与えられる項ξはゼロと等しくならなければならない。P3用の式を方程式(21)に導入することにより、方程式(21)を0に等しくすることは、P1およびP2について三次方程式を解くということになる。P3用の式から、総パワーPはP1およびP2の関数として表され得る。所与の総パワーPを得、同時に焦点合せおよび色収差の補正を行なうには、2つの未知数P1およびP2を有する2つの方程式の系を解くことが必要である。そのような系は少なくとも1対の解(P1、P2)を有することが示され得る。P3はこれから方程式(27)を介して誘導される。レンズ12、14および42の半径R1、R2およびR3は、方程式(13)、(14)および(24)により与えられる。同様の理由付けが、像面湾曲の補正に適用され得る。
【0099】
前述の実施例と比較すると、追加の液体レンズの提供は特に、追加の光学収差の補正を可能にする。これらはたとえば球面収差、またはコマ収差であってもよい。
【0100】
図5は、上述の実施例に従った光学系のためのある特定のオートフォーカス方法を示す。そのような方法は1つの光学収差を制御された態様で導入することにあり、これを色収差の場合で説明する。この方法を実行するために、光学系は、画像平面24で得られた画像の、または前記画像の少なくとも一部の解析を実行するのに好適な手段を含む。そのような解析は、光学系の画像取得手段、たとえばカラーCCDセンサまたはカラーCMOSセンサにより実行されてもよい。光学系は、波長または波長帯の関数としての、画像の焦点状態を表す品質関数を決定するのに好適な処理モジュールを含む。そのような品質関数は、各波長または各波長帯に対し、焦点位置で極値を通過する。
【0101】
一例では、品質関数は、得られた画像のスペクトル解析から決定される光学系の変調伝達関数、すなわちMTFに対応している。変調伝達関数とは、光学系に到達する光の各波長帯についての光学系による減衰を表す。別の例では、品質関数は、各波長帯の関数としての、センサの所与の対象領域に位置する物体画像の遷移シャープネスを表す。しかしながら、画像の任意の他の品質基準をもちろん使用可能であり、そのような基準は、オートフォーカスシステムの実現化について当業者には公知である。
【0102】
ここの方法は、光学系により提供される画像に識別可能な色収差が観察されるように、光学系の液体レンズ用の予め定められたパワー値を最初に設定することにある。色収差がある場合に得られた品質関数の解析は次に、焦点を合せるために光学系の総パワーを修正すべきやり方についての情報を提供する。これは、波長または波長帯の関数としての品質関数の変動が、色収差があるかないかに依存して異なるためである。色収差を導入した場合の各種スペクトル帯、たとえば赤色帯(R)、緑色帯(G)および青色帯(B)についての品質関数の値を、色収差がない場合に予想される品質関数の値と比較することにより
、焦点を合せ、さらには提供されるべき総パワーの変動の大きさについての情報を得るために総パワーを修正すべきやり方についての情報を得ることが可能になる。
【0103】
一例を挙げると、図5において、曲線50は、焦点合せが達成された場合の品質関数の一般的な変動を示している。点線および細線でそれぞれ描かれた曲線52および54は、光学系の総パワーが低すぎる場合、および高すぎる場合において同じ色収差が存在する場合の品質関数の変動をそれぞれ示している。
【0104】
一般に、この発明は、光学系により提供される図面の解析から、光学収差を自動的および/または連続的に最小限にすることを可能にする。
【0105】
たとえば、出願人は、この発明に従った、4つの可変焦点レンズを含む画像形成光学系を用いると、所与の範囲で倍率が修正可能である(ズームシステム)一方で、少なくとも2つの光学収差の少なくとも部分的な補正および焦点合せを確実にする光学系を達成することが可能である、ということを示している。
【0106】
この発明に従った画像形成光学系は、光学収差の補正を確実にしつつ、実質的に球形の界面を有する可変焦点レンズを有するという、先行技術に対する利点を提示している。
【0107】
もちろん、この発明は、当業者には自明のさまざまな代替的な実施例および修正が可能である。特に、光学系は、液体レンズに加え、1つまたはいくつかの硬質レンズを含んでいてもよい。さらに、光学系に到達する光線の平均方向に追従して光学系のサイズを減少させるには、入射光線の平均方向に対して傾斜した軸に沿って液体レンズを配置するよう、液体レンズのどちらかの側に反射鏡を追加することが可能である。加えて、光学系のサイズを減少させるには、同一の筐体内に2つ以上の屈折性液体を配置することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】この発明に従った光学系の第1の例示的な例を示す図である。
【図2】色収差を補正するために、光学系のパワーが、光学系の光学素子のパワーとともにどのように変動するかの一例を示す図である。
【図3】像面湾曲を補正するために、光学系のパワーが、光学系の光学素子のパワーとともにどのように変動するかの一例を示す図である。
【図4】この発明に従った光学系の第2の例示的な例を示す図である。
【図5】上述の例示的な例に従った光学系がオートフォーカス用にどのように制御されるかという原理を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成光学系(10;40)であって、
エレクトロウェッティングタイプの少なくとも第1および第2の可変焦点レンズ(12,14)を含み、各レンズの焦点距離は制御電圧の印加により制御され、前記画像形成光学系はさらに、
光学系の所望のパワー(P)を表す制御信号(S)を受信するのに好適であり、かつ、制御信号と予め規定された制御法則および/または予め規定されたテーブルとに基づいて、得られた光学系のパワーが所望のパワーに等しくなるよう、少なくとも、第1の制御電圧(U1)を第1のレンズに、第2の制御電圧(U2)を第2のレンズに送出する一方、同時に、1つ以上の光学収差を少なくとも部分的に補正するのに好適である制御装置(16)を含む、画像形成光学系。
【請求項2】
制御装置は、前記予め規定された制御法則および/または前記予め規定されたテーブルが記憶されているメモリ手段を含む、請求項1に記載の画像形成光学系。
【請求項3】
光学収差は、色収差かまたは像面湾曲収差である、請求項1に記載の画像形成光学系。
【請求項4】
光学系の所望のパワーを表す信号(S)を送出する手動制御をさらに含む、請求項1に記載の画像形成光学系。
【請求項5】
焦点合せを確実にする値を有する制御信号(S)を制御装置(16)に自動的に送出するのに好適なオートフォーカスシステムをさらに含む、請求項1に記載の画像形成光学系。
【請求項6】
前記オートフォーカスシステムは、画像の少なくとも一部を解析するための手段と、前記画像の解析に基づいて、焦点合せを確実にする値を有する前記制御信号(S)を制御装置(16)に送出するための手段とを含む、請求項5に記載の画像形成光学系。
【請求項7】
対象領域の自動光学ズーミングを光学系の視野において確実にする値を有する制御信号(S)を制御装置(16)に自動的に送出するのに好適なオートズーミングシステムをさらに含む、請求項4に記載の画像形成光学系。
【請求項8】
前記オートズーミングシステムは、画像の少なくとも一部を解析するための手段と、前記画像の解析に基づいて、光学ズーミング・インまたはアウトを確実にする値を有する前記制御信号(S)を制御装置(16)に送出するための手段とを含む、請求項7に記載の画像形成光学系。
【請求項9】
エレクトロウェッティングタイプの少なくとも第3の可変焦点レンズ(42)を含み、制御装置(16)は、受信された制御信号と前記予め規定された制御法則および/または前記予め規定されたテーブルとに基づいて、得られた光学系のパワーが所望のパワーに等しくなるよう、第3の制御電圧(U3)を第3のレンズに送出する一方、(a)同時に、2つの光学収差を補正するか、または(b)画像の所与の倍率を得、同時に1つの光学収差を補正するのに好適である、請求項1に記載の画像形成光学系。
【請求項10】
エレクトロウェッティングタイプの4つの可変焦点レンズを含み、制御装置(16)は、受信された制御信号と前記予め記憶された制御法則および/または前記予め規定されたテーブルとに基づいて、得られた光学系のパワーが所望のパワーに等しくなるよう、制御電圧を前記レンズの各々に送出する一方、画像の所与の倍率を得、同時に、2つ以上の光学収差を少なくとも部分的に補正するのに好適である、請求項1に記載の画像形成光学系

【請求項11】
前記可変焦点レンズの各々は、屈折率が異なる2つの液体を隔てる可動屈折界面(18,20)を有し、界面の形状は実質的に球形であり、界面の曲率は前記電圧の印加により修正される、前述の請求項のいずれかに記載の画像形成光学系。
【請求項12】
エレクトロウェッティングタイプの少なくとも第1および第2の可変焦点レンズ(12,14)を含み、各レンズの焦点距離は制御電圧の印加により制御される画像形成光学系(10;40)を制御する方法であって、
光学系の所望のパワーを表す制御信号(S)と予め規定された制御法則および/または予め規定されたテーブルとに基づいて、得られた光学系のパワーが所望のパワーに等しくなるよう、少なくとも、第1のレンズに送出される第1の制御電圧(U1)と第2のレンズに送出される第2の制御電圧(U2)とを決定する一方、同時に、1つ以上の光学収差を少なくとも部分的に補正するステップと、
少なくとも第1および第2の制御電圧を少なくとも第1および第2のレンズにそれぞれ印加するステップとを含む、方法。
【請求項13】
光学系(40)は、エレクトロウェッティングタイプの少なくとも第3の可変焦点レンズ(42)を含み、前記方法はさらに、
制御信号(S)と予め規定された制御法則および/または予め規定されたテーブルとに基づいて、得られた光学系のパワーが所望のパワーに等しくなるよう、前記第3のレンズに送出される少なくとも第3の制御電圧(U3)を決定する一方、(a)同時に、2つの光学収差を補正するか、または(b)画像の所与の倍率を得、同時に1つの光学収差を補正するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
形成された画像の少なくとも一部を解析するステップと、
焦点合せを確実にするよう画像の品質基準を最適化するために前記制御信号(S)の値を決定するステップとをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
画像形成光学装置は2つの可変焦点レンズを含み、前記レンズの制御は、焦点合せをし、かつ少なくとも2つの光学収差を部分的に補正するよう決定される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
所与の光学収差を有する画像を得るために、第1および第2の制御電圧(U1,U2)を前記第1および第2のレンズ(12,14)にそれぞれ印加するステップと、
前記所与の光学収差を有して得られた画像の少なくとも一部の解析に基づいて前記制御信号(S)の値を決定し、焦点合せを可能にするステップとをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
所与の光学収差は色収差であり、画像の解析は、
前記色収差がある場合の複数の波長または複数の波長帯についての、光学系(10;40)が焦点合せされる際の極値に達している画像の品質関数の値を、前記色収差がない場合の前記波長または波長帯についての品質関数の予想値と比較するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
焦点合せを表す品質関数は、光学系(10;40)の伝達変調関数である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記可変焦点レンズの各々は、屈折率が異なる2つの液体を隔てる可動屈折界面を有し、界面の曲率は前記電圧の印加により修正され、一方、界面の形状は実質的に球形のまま
である、前述の請求項12から18のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−535012(P2008−535012A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503530(P2008−503530)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061244
【国際公開番号】WO2006/103290
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(505433895)
【Fターム(参考)】