説明

光ファイバケーブルおよび光ファイバケーブル用スペーサ

【課題】 光ファイバ心線を効率良く収納可能な光ファイバケーブル等を提供する。
【解決手段】 光ファイバケーブル1は、主に、スペーサ3、光ファイバ心線7、押え巻き9および外被11等から構成される。スペーサ3は略円形の断面形状であり、外周に複数の溝5が形成される。溝5は、スペーサ3の外周から中心方向に向かって形成される。溝5には、光ファイバ心線7が収容される。スペーサ3は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのいずれか、またはこの複合材料であることが望ましい。スペーサ3にはテンションメンバが設けられず、このため、スペーサ3は単一構造である。スペーサ3および光ファイバ心線7を覆うように押え巻き9が形成される。さらに押さえ巻き9の外周には、外被11が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明は、効率良く複数の光ファイバ心線が収容可能な光ファイバケーブル等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、使用される光ファイバケーブルには、多くの情報を伝達するために、高密度で光ファイバ心線が配置される。光ファイバケーブルは、複数の光ファイバ心線と、張力に対抗するためのテンションメンバ等とが配置され、外周が被覆されることで形成される。
【0003】
このような光ファイバケーブルとしては、例えば、複数本の光ファイバ心線の外周を基材上に吸水ポリマー層を設けた吸水テープで押さえ巻きした光ファイバケーブルであって、中心にFiber Reinforced Plastics(以下「FRP」と称する)製のテンションメンバを設けたものがある(特許文献1)。
【0004】
また、長尺のスロットの外周にスロット溝が設けられ、スロット溝に光ファイバ心線が収められ、中心にテンションメンバが設けられた光ファイバケーブルがある(特許文献2)。また、断面が扁平樽型のまたは長円形のスロットの長径に沿った偏心位置に鋼線等のテンションメンバが設けられる光ファイバケーブルがある(特許文献3)。
【0005】
図3は、中央にテンションメンバを配置した光ファイバケーブル20を示す図である。光ファイバケーブル20は、中央にテンションメンバ31を有するスペーサ21の外周に、光ファイバ心線25が収納される溝23が形成され、スペーサ21および光ファイバ心線25を覆うように押さえ巻き27が形成され、さらにその外周に外被29が形成される。
【0006】
テンションメンバ31は、通常、鋼製であり、光ファイバケーブル20の中心にテンションメンバ31を配置することで、光ファイバケーブル20の曲げに対して方向性がなく、テンションメンバ31によって、光ファイバケーブル20の張力に対抗することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−282406号公報
【特許文献2】特開平7−270656号公報
【特許文献3】実開平6−50007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2、3いずれにおいても、テンションメンバが用いられるが、屋外から建物内部への引き込み部分では、鋼製のテンションメンバを用いると、落雷等の誘導の恐れがある。したがって、鋼製のテンションメンバにかわる繊維強化プラスチック製のテンションメンバを用いる必要がある。しかし、テンションメンバのみを繊維強化プラスチック製に置き換えてノンメタリック型の光ファイバケーブルとしたのでは、十分な強度を得るために、鋼製のものよりも太いテンションメンバが必要となり、このため、溝深さを深くできず、光ファイバ心線の収容効率が低くなり、逆に溝深さを維持しようとするとケーブルが太くなるという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、光ファイバ心線を効率良く収納可能な光ファイバケーブル等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達するために第1の発明は、樹脂製のスペーサと、前記スペーサの外周に形成された溝と、前記溝に収容された光ファイバ心線と、前記光ファイバ心線を収容した前記スペーサの外周に設けられた押さえ巻きと、前記押さえ巻きの外周に設けられた外被と、を具備し、前記スペーサは単一構造で構成されることを特徴とする光ファイバケーブルである。
【0011】
ここで、単一構造とは、断面において他の構造を有しておらず、断面全体において均質な構造であることを意味する。すなわち、断面において、テンションメンバ等の他の構成が埋め込まれていることがない。
【0012】
前記溝の深さが、前記スペーサの断面の半径よりも大きくてもよい。前記溝は、前記スペーサの外周に複数形成されてもよい。
【0013】
前記スペーサは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのいずれか、またはこれらの複合材料により構成されることが望ましい。
【0014】
第1の発明によれば、スペーサがテンションメンバを有さない単一構造で構成されるため、効率良く光ファイバ心線を収容することができる。
【0015】
特に、テンションメンバがないため、スペーサに設けられる溝の深さをスペーサの半径よりも大きくすることができ、さらに、溝を複数形成することで、光ファイバ心線の識別性に優れ、光ファイバ心線の高密度化を図ることができる。
【0016】
このようなスペーサとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのいずれか、またはこれらの複合材料が使用でき、スペーサの断面積にもよるが、例えばヤング率で7000MPa以上であれば、従来の繊維補強プラスチック製のテンションメンバを用いなくても、同等以上の強度を得ることができ、効率のよい光ファイバケーブルを得ることができる。
【0017】
第2の発明は、光ファイバケーブルに用いられるスペーサであって、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのいずれかまたはこれらの複合材料により形成され、外周に溝を有する単一構造であり、ヤング率が7000MPa以上であることを特徴とする光ファイバケーブル用スペーサである。
【0018】
第2の発明によれば、高い光ファイバ心線の収容効率と高い許容張力を有する光ファイバ用スペーサを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光ファイバ心線を効率良く収納可能な光ファイバケーブル等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は光ファイバケーブル1の断面図、(b)スペーサ3の断面図。
【図2】(a)はスペーサ3aの断面図、(b)はスペーサ3bの断面図。
【図3】従来の光ファイバケーブル20を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1(a)は、光ファイバケーブル1を示す断面図であり、図1(b)は光ファイバケーブル1に用いられるスペーサ3を示す断面図である。光ファイバケーブル1は、主に、スペーサ3、光ファイバ心線7、押え巻き9および外被11等から構成される。
【0022】
スペーサ3は略円形の断面形状であり、外周に複数の溝5が形成される。溝5は、スペーサ3の外周から中心方向に向かって形成される。溝5には、光ファイバ心線7が収容される。光ファイバ心線7は、図に示すようなテープ心線でも良いが、スペース効率の観点から、単心ファイバや、単心ファイバをバンドルしたユニット等であってもよい。なお、同一の溝5内に配置される光ファイバ心線7は、互いに識別可能な色分けやマーク等が施される。また、複数の溝5は、それぞれの溝同士を識別可能なように、溝毎に色分けやマーク等が施されてもよい。したがって、いずれの溝のどの光ファイバ心線を取り扱うのか容易に識別することができる。
【0023】
スペーサ3は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのいずれか、またはこの複合材料であることが望ましい。スペーサ3にはテンションメンバが設けられず、このため、スペーサ3は単一構造である。スペーサ3は、溝形状を設けて押し出した後、延伸加工が施される。このため、通常の材料よりもヤング率を高めることができる。
【0024】
このようにして形成されたスペーサ3は、ポリエチレンテレフタレートであればヤング率が7000MPa以上であり、ポリエチレンナフタレートであればヤング率がおおよそ14000MPa程度である。ヤング率が7000MPa以上であれば、スペーサ3の断面積にもよるが、0.3%許容伸びに対する光ファイバケーブルの許容張力を110N以上とすることができ、この際に十分な光ファイバ心線の収容空間を確保することができる。なお、光ファイバケーブルの許容張力としては、さらに望ましくは200N以上である。また、スペーサのヤング率は20000MPa以下であることが望ましい。ヤング率が高すぎると、光ファイバケーブルが硬く曲げにくくなるためである。
【0025】
スペーサ3の溝5に光ファイバ心線7が収容された状態で、スペーサ3および光ファイバ心線7を覆うように押え巻き9が形成される。押さえ巻き9としては、不織布等が使用される。
【0026】
押さえ巻き9の外周には、外被11が形成される。外被11は、例えばポリエチレンが使用でき、押え巻き9の外周に押出し被覆される。
【0027】
なお、溝5の大きさや個数、形状は、図1の例に限られず、溝5を1つとしてもよく、4つ以上の溝を形成してもよい。溝5の大きさおよび個数は、収容される光ファイバ心線の本数およびサイズに応じて適宜決定され、さらに、スペーサ3のヤング率および光ファイバケーブルの許容張力に応じて、スペーサ3の断面積を決定すれば良い。
【0028】
第1の実施の形態によれば、テンションメンバを用いず、スペーサ3を単一構造とし、スペーサ3全体によって光ファイバケーブルの抗張力を受け持つため、溝5の設計自由度が高く、テンションメンバと溝とが干渉することがないため、光ファイバ心線7を効率よく収容することができる。
【0029】
次に、他の実施の形態について説明する。図2(a)は、他の実施の形態に係るスペーサ3aを示す図である。なお、以下の実施形態において、図1と同様の機能を奏する構成については、重複した説明を省略する。スペーサ3aもスペーサ3と同様に使用される。
【0030】
スペーサ3aには、溝5aが一つ形成される。溝5aの深さDは、スペーサ3の断面の半径Rよりも大きい。したがって、溝5aはスペーサ3aの外周よりスペーサ3の中心方向に向かって形成され、スペーサ3の中心位置は溝5a内部に位置する。なお、溝の深さとは、スペーサの断面において、溝の両側面が外周と交差してできる2つの交点のそれぞれから測った溝の底面までの深さのうち、大きい方を指す。
【0031】
スペーサ3aによれば、溝5aの深さをスペーサ3aの半径よりも大きくすることができるので、高い光ファイバ心線の収容密度を得ることができる。
【0032】
図2(b)は、さらに異なる実施形態を示す図で、スペーサ3bの断面を示す図である。スペーサ3bの外周には、溝5bが複数形成される。溝5bの深さDは、それぞれ、スペーサ3bの半径Rよりも大きい。すなわち、溝5bはスペーサ3bの互いに対向する外周側から、互いに平行に形成される。
【0033】
なお、溝5bの数は、図の例に限られず、溝5bを3つ以上としてもよい。また、溝5bを一方の側から互いに平行に並列するように形成してもよい。また、溝の深さをすべて同じにする必要もない。
【0034】
スペーサ3bによれば、溝5bの深さをスペーサ3bの半径よりも大きくすることができるので、高い光ファイバ心線の収容密度を得ることができる。また、溝5bは複数形成されるため、光ファイバ心線の識別が容易であり、より高い収容効率を得ることができる。
【実施例】
【0035】
本発明にかかる光ファイバケーブルと従来のテンションメンバを有する光ファイバケーブルとで光ファイバケーブルの許容張力等を算出した。従来の光ファイバケーブルとしては、スペーサに高密度ポリエチレン(HDPE)を使用し、内部に繊維補強プラスチックからなるテンションメンバを設けたものについて評価した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
本発明1、本発明2は、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のスペーサを用いたものであり、本発明3は、ポリエチレンナフタレート(PEN)製のスペーサを用いたものである。溝断面積は、光ファイバ心線を収容可能なスペースとなる。なお、本発明1〜3は、図1に示した断面構造を有する光ファイバケーブルである。すなわち、3つの溝が、スペーサの周方向に一定間隔で形成されたものである。
【0038】
比較例1は、従来の高密度ポリエチレン(HDPE)製のスペーサを用い、スペーサ内部にガラス繊維‐繊維補強プラスチック(G−FRP)が設けられたものである。同様に、比較例2は、従来の高密度ポリエチレン(HDPE)製のスペーサを用い、スペーサ内部にケプラ繊維‐繊維補強プラスチック(K−FRP)が設けられたものである。なお、比較例1〜2は、図3に示した断面構造を有する光ファイバケーブルである。すなわち、3つの溝が、スペーサの周方向に一定間隔で形成されたものであり、図1に対しテンションメンバが設けられた構造である。また、PETのヤング率は約7000MPa、PENのヤング率は約14000MPa、HDPEのヤング率は約1300MPa、G−FRPのヤング率は約45000MPa、K−FRPのヤング率は約70000MPaである。
【0039】
許容伸びは、光ファイバケーブルに要求される伸びの許容量であり、光ファイバ心線の性能を確保するための最大伸び量である。総許容張力とは、スペーサの許容張力とテンションメンバの許容張力との和であり、光ファイバケーブルが0.3%弾性伸びをした際に付与される張力である。
【0040】
本発明1と比較例1、比較例2とを比較すると、比較例1、2ともには、総許容張力が本発明1よりも低い。すなわち、本発明1によれば、同一の張力が付与された場合でも光ファイバケーブルの伸びを少なくすることができる。
【0041】
本発明2は、比較例2と略同様な総許容張力、溝断面積とした場合の例である。すなわち、本発明2は、比較例2と同等以上の強度および光ファイバ心線の収容効率を有しながら、全体外径を比較例2に対して10%程度小さくすることができる。
【0042】
本発明3は、本発明2と同様の構成でありながら、より高強度なPENを用いたものであり、極めて高い許容張力を得ることができる。この場合、さらに溝断面積を大きくして、光ファイバ心線の収容効率を高くすることもできる。
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、スペーサ自体に高強度な樹脂を用いることで、テンションメンバを排除することができ、このため、十分な強度と高い光ファイバ心線の収容効率を得ることができる。このため、光ファイバケーブルの細径化を図ることができる。また、構造が簡易であるため製造性が良く、溝の設計の自由度も高い。
【0044】
なお、繊維補強プラスチックは、一度折曲げた部位が座屈して折れ曲がり、破断する恐れがあるが、PET、PENは、限界まで折曲げても、完全に折れることはない。
【0045】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0046】
1………光ファイバケーブル
3、3a、3b………スペーサ
5、5a、5b………溝
7………光ファイバ心線
9………押さえ巻き
11………外被
20………光ファイバケーブル
21………スペーサ
23………溝
25………光ファイバ心線
27………押さえ巻き
29………外被
31………テンションメンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のスペーサと、
前記スペーサの外周に形成された溝と、
前記溝に収容された光ファイバ心線と、
前記光ファイバ心線を収容した前記スペーサの外周に設けられた押さえ巻きと、
前記押さえ巻きの外周に設けられた外被と、
を具備し、
前記スペーサは単一構造で構成されることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記溝の深さが、前記スペーサの断面の半径よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記溝は、前記スペーサの外周に複数形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記スペーサは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのいずれか、またはこれらの複合材料により構成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の光ファイバケーブル。
【請求項5】
光ファイバケーブルに用いられるスペーサであって、
ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのいずれかまたはこれらの複合材料により形成され、
外周に溝を有する単一構造であり、
ヤング率が7000MPa以上であることを特徴とする光ファイバケーブル用スペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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