説明

光ファイバ劣化診断装置および光ファイバ劣化診断方法

【課題】光ファイバの劣化診断にて、熟練度に頼らずに診断可能とする。
【解決手段】光ファイバ(2,3)に対して管理対象1と反対側からレーザ光を照射するレーザ光発生装置5a、管理対象1に到達して反射してくる反射光を分光するハーフミラー5b、分光された反射光を受光するCCDカメラ5c、レーザ光強度を調整するレーザ光調整装置および受光した反射光の強度を計測する反射光計測装置を備えた反射型測定器5を備える。光ファイバ(2,3)に対して管理対象1側から検査用の光を入射するLED発光器、入射した光を光ファイバ(2,3)のコネクタ4で受光するCCDカメラ、受光した光の強度を計測して劣化を診断するコンピュータを備えた透過型測定器とを備える。反射型測定器5における反射光計測装置では、レーザ光発生装置5aのレーザ光の強度と反射光の強度とが比例していない場合に透過型測定器によって検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラにおける炉内の燃焼を監視するために設けられた光ファイバなど、敷設後の劣化診断が必要な光ファイバに対する劣化診断装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所などのボイラや廃棄物処理の焼却炉などの燃焼炉において、バーナーの点火または消火、炉内の燃焼状況などを監視する必要がある。そのために、バーナーの火炎を検出するために光ファイバを用いた火炎検出装置が使用されている。その火炎検出装置には、火炎の状態を画像データとして取得するための光センサが設けられている。例えば、100万kWの火力発電所のボイラには、バーナーの数に合わせた約100個の光センサが設置されている。
従来の光センサの例を、図6〜8によって説明する。
【0003】
図6に示されているように、燃焼炉60内で燃焼する火炎の光、例えば赤外線61を検出する光センサとしては、光ファイバ51を設けたセンサ部52がロッド部53の先端に取り付けられた火炎検出装置である。そのロッド部53の中間までが燃焼炉60の中に挿入される。
【0004】
センサ部52の本体には、例えば直径約1mmの光ファイバ51を、上下方向に三本並べられて固定されている。それぞれの光ファイバ51の先端端面から、火炎の赤外線61を導き入れる。 各光ファイバ51の先端面から導かれた赤外線61は、ロッド部53の後方側に延伸された伝送用光ファイバ54を経てプロセス演算装置55に伝播される。そのプロセス演算装置55には、PHD(フォトディテクタ)、アンプ、演算回路等が内蔵されている。
光(赤外線61)は、PHDにより電流(抵抗値)に変更され、アンプで増幅されてから演算回路に入力する。そして、バーナーに火炎があるかどうかが判断(診断)される。判断の結果は、バーナーの制御やボイラのインターロックなどに使用される。
【0005】
なお、上下方向に並んだ三本の光ファイバ51のうち、一番上に位置する光ファイバ51aが水平方向を向き、その下に位置する光ファイバ51bは、約15°の角度で斜め下方向に傾けてあり、一番下の光ファイバ51cは水平方向から約30°の角度で斜め下方向に傾けて形成した「プローブ」と呼ばれる機器となっている。 これは、ひとつの火炎検出装置50にて炉内の上下方向の広い範囲を検知できるようにするためである。
【0006】
さて、図7(B)に示されているように、燃焼炉60の内部に晒されている光ファイバ51(プローブ)の先端面には、何らかの化学反応によって不純物が少しずつ蒸着してしまう。この不純物蒸着のため、センサの感度が時間経過に伴って低下することが経験的に知られている(この現象を以下、光ファイバ(プローブ)の「経年劣化」と記す)。 経年劣化が生じると光ファイバ51(プローブ)における光の透過率が低下するため、定期的に透過率の点検をする必要がある。完全燃焼ゆえに赤外線の入光量が少ないのか、経年劣化によって赤外線の入光量が少ないのかは、プロセス演算装置55などを用いても判断できないからである。
【0007】
光ファイバ51(プローブ)が経年劣化を生じているか否かの判断は、火炎検出装置50の保守員が、ボイラの炉壁からロッド部53を抜き出し、そのロッド部53の先端に取り付けられたセンサ部52の光ファイバ51(プローブ)の先端面を目視点検することによって行う。この目視点検では、その光ファイバ51(プローブ)が使用可能か否かを、熟練した判断によって決定している。先端面への不純物の蒸着は、その規則性が客観化されていないため、その先端面を見て経年劣化しているか否かを判断するには熟練が求められていた。
【0008】
光ファイバ51(プローブ)の目視点検は、保守員の技能によるところが大きく、劣化状況についての判断にばらつきがある、と考えられる。したがって、その劣化判断の精度は、必ずしも高くない可能性がある。すなわち、劣化判断の精度が良くないために、実際には使えるのに廃棄している可能性がある。この場合は、センサ部52に用いられる光ファイバ51(プローブ)は高価なものであるので、経済的に大きな損失が生じる。
一方、光ファイバ51(プローブ)の経年劣化が進行しているのに使用可能と判断されて継続使用された場合は、ボイラを運転しようとしても安全装置が働くなどして運転制約が発生するため、この場合も経済的な損失が生じる。
【0009】
本件の先行技術としては、特許文献1および特許文献2に示されているものが該当する。
これらの文献には、管理対象である光ファイバ(プローブ)に診断用光を入射し、その光の透過率を診断という手法にて、劣化診断とする技術が開示されている。
特許文献1では、診断用光を一端から入射し、他端から出射される光を診断する「透過型」の手法が開示されている。
特許文献2では、診断用光を一端から入射し、反射してくる光の有無を診断する「反射型」の手法が開示されている。すなわち、反射光が得られたプローブには異常があり、異常がないプローブは反射してくる光が無い、という診断方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−190754号公報
【特許文献2】特開2010−190755号公報
【0011】
特許文献2に開示された技術について、図8を用いて詳述する。
特許文献2に開示されたセンサ劣化診断装置20は、燃焼炉40の内部空間からの光41を燃焼炉40の外部に取り出すために前記燃焼炉40に装着するロッド部13と、 そのロッド部13に装着されるセンサ部12と、 そのセンサ部12に保持されて燃焼炉40内からの光41を導き入れて外部に取り出すための一本以上の光ファイバ11と、 その光ファイバ11にて導かれた光41を入力するプロセス演算装置15と、を備えた火炎検出装置10において、前記光ファイバ11の透過率を診断する。
そして、前記の燃焼炉40から抜き出したセンサ部12の後端側を取り付ける筒状体と、 その筒状体に取り付けたセンサ部12の先端に露出した光ファイバ11の先端面に診断用光22を入射する診断用光源21と、 前記センサ部12の後端面に露出した光ファイバ11の後端面から出射する診断用光22を撮像するとともに、前記光ファイバ11の透過率を診断するための診断画像34を表示する画像診断装置30とを備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1に開示されている技術には、以下のような問題点があった。
すなわち、管理対象であるプローブそのものは10センチメートル程度であるが、光ファイバ全体では100メートル前後の長さがあり、且つ、ボイラに至るまで、様々な場所を通っている。 更には、プローブの数は数十もあるため、全てを引き抜いて検査するのは、大変な時間と労力や、十分な安全対策が必要となる。
【0013】
一方、特許文献2に開示されている技術には、以下のような問題点があった。
すなわち、どのくらいの強さの診断用光41を入射すれば反射光が得られるのか、ということが、やってみないと分からないという場合があった。 たとえば、反射光が得られなければ強度を上げていくという診断を行うのであるが、診断用光41として入射する光の強さを上げすぎると異常が無くても反射光を得てしまうことがある。
結局、どのくらいの強さの診断用光41を入射すれば反射光が得られるのか、という点に関して、経験(熟練度)を依然として必要としてしまうという問題が残っていた。
【0014】
燃焼炉(ボイラ)の燃焼状態を監視するための光ファイバを例として説明してきたが、継続使用後の劣化診断が必要な光ファイバについては、光ファイバの長さとそれに伴う診断の手間や検診における熟練の必要性など、ほぼ同様の問題が存在していた。
耐用期間を定めてしまって機械的に交換してしまう、という方法で対応することが許容できるコストであればその方法を選択しても良い。 しかし容易には許容できないコストが掛かる場合には、採用しがたい。
【0015】
本発明が解決すべき課題は、光ファイバの劣化診断において、熟練度に頼らず安全に診断が可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(第一の発明)
本願における第一の発明は、 管理対象(例えばボイラ1)の内部空間からの光を管理対象(1)の外部へ取り出す光ファイバ(例えばプローブ2および光ファイバケーブル3)についての透過率を診断する光ファイバ劣化診断装置に係る。
前記光ファイバ(2,3)に対して管理対象(1)とは反対側からレーザ光を照射するレーザ光発生装置(5a)、 そのレーザ光発生装置(5a)が照射するレーザ光と管理対象(1)に到達して反射してくる反射光とを分光するハーフミラー(5b)、 そのハーフミラー(5b)によって分光された反射光を受光する受光装置(たとえばCCDカメラ5c)、前記レーザ光発生装置(5a)のレーザ光の強度を調整するレーザ光調整装置、および前記受光装置(5b)が受光した反射光の強度を計測する反射光計測装置を備えた反射型測定器(5)を備える。
また、前記の光ファイバ(2,3)に対して管理対象(1)側から検査用の光を入射する検査用光入射装置(たとえばLED発光器6a)、 その検査用光入射装置(6a)が入射した光を前記光ファイバ(2,3)の端部(たとえばコネクタ4)で受光する検査用光受光装置(たとえばCCDカメラ6b)、 およびその検査用光受光装置(6b)が受光した光の強度を計測して劣化を診断する検査用光計測装置(たとえばパーソナルコンピュータ6c)を備えた透過型測定器(6)と、を備える。
そして、反射型測定器(5)における反射光計測装置では、レーザ光発生装置(5a)のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例しているか否かを判断し、 比例していないと判断した場合に前記の透過型測定器(6)による検査を実行することとした光ファイバ劣化診断装置である。
【0017】
(作用)
まず、前記光ファイバ(2,3)に対して管理対象(1)とは反対側から、レーザ光発生装置(5a)がレーザ光を照射する。 そのレーザ光発生装置(5a)が照射するレーザ光と管理対象(1)に到達して反射してくる反射光とを、ハーフミラー(5b)が分光する。 そのハーフミラー(5b)によって分光された反射光を受光装置(たとえばCCDカメラ5c)が受光する。前記レーザ光発生装置(5a)のレーザ光の強度を、レーザ光調整装置が調整する。 受光装置(5b)が受光した反射光の強度を、反射光計測装置が計測する。 そして、レーザ光発生装置(5a)のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例しているか否かを判断する。
比例していないと判断した場合には、透過型測定器(6)による検査を実行する。すなわち、前記の光ファイバ(2,3)に対して管理対象(1)側から検査用の光を、検査用光入射装置(6a)が入射する。 その検査用光入射装置(6a)が入射した光を、前記光ファイバ(2,3)の端部(4)で検査用光受光装置(6b)が受光する。 その検査用光受光装置(6b)が受光した光の強度を、検査用光計測装置(6c)が計測する。 計測した光の強度が所定値よりも低い場合には、光ファイバ(2,3)が劣化していると判断できる。
【0018】
レーザ光発生装置(5a)のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例していると判断した場合には、光ファイバ(2,3)は劣化していないと判断できる。 反射型測定器(5)による検査は、光ファイバ(2,3)を設置したまま、短時間で安全に行える。 つまり、 レーザ光発生装置(5a)のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例していないと判断した場合は、光ファイバ(2,3)は劣化しているかもしれないし、劣化していないかもしれないので、詳細な検査を透過型測定器(6)によって行うのである。
使用限度のほぼ直前まで使用することができるので、光ファイバ(11)の交換時期を適切にすることができる。その結果、メンテナンス上のコスト削減を図ることができる。
【0019】
(第一の発明のバリエーション1)
第一の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、前記の反射光計測装置(5)におけるレーザ光調整装置は、照射するレーザ光の強度を時間に比例するように強めることとする。 そして、反射光計測装置(5)は、反射光の強度を時間で微分してゼロとなったらレーザ光発生装置(5a)のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例していないと判断することとしてもよい。
「比例している」か否かの判断については、厳密すぎても緩慢すぎても良い結果とならないので、他の請求項にて限定するように、データベース化して許容範囲を試行錯誤で探り、許容範囲を定めるようにすることが望ましい。
例えば、反射光の強度を時間で微分してゼロになる状態は、受光装置の受光限界を適切に設定して反射光の強度を飽和させることにより得ることができる。
光ファイバが劣化していると、劣化していない場合に比べて、反射光がレーザ光に対してより早く飽和する傾向があることを利用するのである。
【0020】
(作用)
前記の反射光計測装置(5)におけるレーザ光調整装置は、照射するレーザ光の強度を時間に比例するように強める。 反射光計測装置(5)の強度は、反射光の強度を時間で微分してゼロとなった場合において、レーザ光発生装置(5a)のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例していないと判断する。機械的に判断できるので、処理が早い。
【0021】
(第一の発明のバリエーション2)
第一の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記の透過型測定器(6)によって未劣化である旨または劣化した旨の判断をした結果データについて、前記の反射型測定器(5)における判断結果と対応づけた結果データベースを備え、 その結果データベースに蓄積された結果データに基づいて、前記の反射光計測装置(5)における比例しているか否かについての判断基準を修正することとしてもよい。
【0022】
(作用)
透過型測定器(6)によって未劣化である旨または劣化した旨の判断をした結果データについては、結果データベースに蓄積する。 そして、その結果データベースに蓄積された結果データに基づいて、前記の反射光計測装置(5)における比例しているか否かについての判断基準を修正する。
【0023】
(第一の発明のバリエーション3)
第一の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記の反射型測定器(5)による劣化診断の対象となる光ファイバ(3)を複数接続可能なマルチプレクサ(7)を備えてもよい。 そのマルチプレクサ(7)は、劣化診断の対象となる光ファイバ(3)とそれぞれひとつずつレーザ光を照射して反射光を受光可能であるように前記の反射型測定器(5)と接続するのである。
【0024】
劣化診断の対象となる光ファイバ(3)と反射型測定器(5)との接続作業を簡易化することができる。
【0025】
(第二の発明)
本願における第二の発明は、 管理対象の内部空間からの光を管理対象の外部へ取り出す光ファイバについての透過率を診断する光ファイバ劣化診断方法に係る。
すなわち、前記光ファイバ(2,3)に対して管理対象(ボイラ1)とは反対側からレーザ光発生装置(5a)にてレーザ光を照射するレーザ光発生手順と、 そのレーザ光発生装置(5a)が照射するレーザ光と管理対象(1)に到達して反射してくる反射光とをハーフミラー(5b)にて分光する分光手順と、 そのハーフミラー(5b)によって分光された反射光を受光装置(5c)にて受光する受光手順と、 前記受光装置(5c)が受光した反射光の強度を反射光計測装置にて計測する反射光計測手順と、 レーザ光発生装置(5a)のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例しているか否かを判断する反射光判断手順と、 その反射光判断手順にてレーザ光発生装置(5a)のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例していないと判断した場合に、前記光ファイバ(2,3)に対して管理対象(1)側から検査用の光を検査用光入射装置(たとえばLED発光器6a)にて入射する検査用光入射手順と、 入射した検査用光を前記光ファイバの端部で検査用光受光装置(6b)にて受光する検査用光受光手順と、 受光した検査用光の強度を検査用光計測装置(6c)にて計測する検査用光計測手順と、を実行することとした光ファイバ劣化診断方法である。
【発明の効果】
【0026】
第一の発明によれば、光ファイバの劣化診断において、熟練度に頼らずに診断が可能な光ファイバ劣化診断装置を提供することができた。
第二の発明によれば、光ファイバの劣化診断において、熟練度に頼らずに診断が可能な光ファイバ劣化診断方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る反射型測定器を示す概略図である。
【図2】反射型測定器における判断例を示すためのグラフである。
【図3】本発明の実施形態に係る透過型測定器を示す概略図である。
【図4】診断の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】マルチプレクサを用いた実施形態の概略図である。
【図6】従来の火炎検出装置を示す概略図である。
【図7】(A)は従来のプローブの平面図で、(B)はプローブの斜視図である。
【図8】特許文献2に開示された技術の主要部を示す概略図である。
【図9】反射型測定器における他の判断例を示すためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本願発明を実施形態によって更に詳しく説明する。ここで用いる図面は、図1から図5である。
本実施形態は、管理対象であるバーナーの火炎の状態を管理するための光ファイバについての劣化診断を示す。この劣化診断は、反射型測定器による簡易検査によって劣化診断を行い、その簡易検査にて劣化しているかもしれないと判断した場合に透過型測定器によって精密な検査を行う、というものである。
【0029】
(図4)
図4に基づいて、光ファイバの劣化診断の概要を説明する。
第一に、反射型測定器での測定を行う。反射型測定についての詳細は後述するが、管理対象であるバーナーの火炎状態を管理するための光ファイバの先端部分(プローブ)を取り出さなくても測定が可能である。
反射型測定器によって、ボイラとは反対側からレーザ光を入射する。 このレーザ光を時間に比例するように強度を高め、反射してきた光の強度を測定する。 続いて、反射してきた光の強度を時間で微分する。微分値がゼロとなる場合には、入射したレーザ光と反射してきた光とが比例関係にないので、異常がある(劣化している)可能性が大きいと判断できる。そのため、正確な判断が可能な透過型測定器での測定を行うのである。透過型測定器での測定は、正確な判断が可能な反面、管理対象であるボイラから劣化診断の対象である光ファイバの先端部分(プローブ)を引き抜き、取外して測定しなければならない。
【0030】
一方、入射したレーザ光と反射してきた光とが比例関係にある場合には、異常がない(劣化していない)と判断できる。
このように、簡単だが光ファイバケーブルから光ファイバ(プローブ)まで、一括診断する反射型測定器によって簡易判定を実行し、その簡易判定にて劣化しているかもしれない光ファイバ(プローブ)を透過型測定器にて劣化診断をすることで、手間と安全対策が必要な透過型測定器での劣化診断を少なくする。
【0031】
(図1)
図1に基づいて、反射型測定器での測定について説明する。
管理対象であるボイラ1に対しては、プローブ2と呼ばれる先端部位を備えた光ファイバケーブル3が接続されている。 光ファイバケーブル3は、直径が約1ミリメートルの光ファイバが3本あり、ボイラ1内で燃焼する火炎の赤外線を導光させるものである。
プローブ2は、その先端に向かって上の光ファイバは例えば15度の角度で斜め上方向に傾けており、中間の光ファイバは横方向に延びており、下の光ファイバは例えば15度の角度で斜め下方向に傾けている。このような配置は、ボイラ1内のバーナー火炎を上下方向で広範囲に検出することが目的である。なお、プローブ2の本体の直径は15ミリメートル、長さは70ミリメートルである。 また、光ファイバケーブル3は、50メートルから100メートル、といった長さがある。
【0032】
劣化診断をする前のプローブ2および光ファイバケーブル3は、ボイラ1のバーナー火炎検出を行っている。
プローブ2から光ファイバケーブル3を介して火炎の赤外線を観察することで、ボイラ1に火炎があるかどうかを判断(診断)できる。 すなわち、光ファイバケーブル3を伝播した赤外線は、PHD(フォトディテクタ)により電流(抵抗値)に変えられ、アンプで増幅されてから演算回路により火炎の光の状態を監視する。 その診断結果に基づいて、バーナーの制御やボイラの保護をすることができる。
【0033】
さて、劣化診断のために、光ファイバケーブル3の中途に設けられたコネクタ4を外すなどして、反射型測定器5に接続する。
この反射型測定器5は、光ファイバケーブル3におけるプローブ2とは反対側からレーザ光を照射するレーザ光発生装置5aと、 そのレーザ光発生装置5aが照射するレーザ光と管理対象(1)に到達して反射してくる反射光とを分光するハーフミラー5bと、 そのハーフミラー5bによって分光された反射光を受光する受光装置(CCDカメラ5c)と、前記レーザ光発生装置5aのレーザ光の強度を調整するレーザ光調整装置と、前記受光装置5cが受光した反射光の強度を計測する反射光計測装置(図示を省略)を備えている。
【0034】
(図2)
レーザ光調整装置によってレーザ光発生装置5aのレーザ光の強度を強くすると、反射光の強度は強くなる。 プローブ2に異常がない場合には、入射するレーザ光を強くすると、反射光の強度は比例して強くなる。 しかし、反射光の強度が入射するレーザ光とは比例せずに強くなる場合には、プローブ2に異常があると予想される。異常はないものの別の原因によって反射光の強度が入射するレーザ光とは比例せずに強くなることもあるが、入射するレーザ光と反射光の強度とが比例関係にある場合には、異常は無い。
したがって、レーザ光調整装置は、照射するレーザ光の強度を時間に比例するように強めることとする。プローブ2に異常がある場合は、異常がない場合に比べて、反射光の強度がレーザ光の強度に対してより高い(図2における傾きが大きい)傾向があるため、受光装置の受光限界を適切に設定しておけば、反射光はより早く飽和する。すなわち、反射光を時間で微分するとゼロとなる。このような状態になったらレーザ光発生装置5aのレーザ光の強度と反射光の強度とが比例していないと判断する。
【0035】
(図9)
図9は、反射型測定器における他の判断例を示すためのグラフである。
レーザ光発生装置5aから照射するレーザ光の強度は、時間に比例して連続的に高くなるようにするばかりでなく、図9(A)に示すように、所定の周期で、鋸歯状の波形が繰り返されるようにしてもよい。
レーザ光の強度をこのように変化させることにより、プローブ2に異常がある場合は、反射光の強度が飽和するため、反射光の強度を時間で微分して微分値がゼロとなることにより、異常がある(劣化している)と判断できる(図9(B)の状態)。
一方、プローブ2に異常がない場合は、反射光の強度がレーザ光の強度と比例関係にあることにより、異常がない(劣化していない)と判断できる(図9(C)の状態)。
【0036】
(図3)
反射型測定器5にて異常があるとされたプローブ2は、ボイラ1から引き抜き、透過型測定器6によって劣化診断を行う。この概略を図3に示す。
プローブ2には、3本の光ファイバが露出している。その露出した光ファイバ先端面に診断用光を入射する。 診断用光とは、光の照度が空間的に一定なフラット照明となる光を発生する構成であることが望ましい。そのために、例えば反射板などを用いて診断用光源の光を反射して均一な明るさの診断用光にする場合がある。3本の光ファイバに照射される明るさがばらついていると、3本の光ファイバの劣化状態を適切に比較できないためである。
【0037】
本実施形態では、診断用光の光源として、青色、赤色、白色等の光を発光するLED(発光ダイオード)を多数配置し、かつその裏面から反射板を用いて反射して均一な明るさにするLED発光器6aを採用した。 その理由としては、ハロゲンランプやメタルハライドランプは、使わなくても自然劣化してしまうが、LEDは寿命が長く、経年的な劣化が少ないためである。
プローブ2は、直径が15ミリメートルであるので、上記の診断用光のフラットな領域の中心付近の平行光だけが光るように、例えば他の領域をカバーなどで覆うようにして、約40ミリメートル四方が光るように小さくしても良い。
【0038】
上記の検査用光入射装置6aが入射した光は、光ファイバ3のコネクタ4を介して検査用光受光装置としてのCCDカメラ6bが受光する。 また、CCDカメラ6bにて受光した画像は、診断用の画像としてパーソナルコンピュータ6c(図中では「パソコン」と略記)に取り込む。 診断画像は、後の画像処理を確実に行うため、複数枚を重ね合わせてS/Nを上げる場合が多い。
詳細な図示は省略するが、前記のCCDカメラ6bとコネクタ4との間には、例えば拡大率が0.75倍のマクロレンズを介しており、カメラは撮像素子が1/2インチ〜1/3インチの大きさであり、その中に幾百ピクセルが入っている。
【0039】
取得した画像と過去のデータとを比較するなどして、プローブ2が劣化しているか否かを判断する。
たとえば、新品の光ファイバを購入し、その場合の診断画像の輝度を基準値とすることが理想的である。 現在使用中で比較的新しい状態の光ファイバにて代用して診断する方法を、本実施形態では採用している。
【0040】
検査用光入射装置6aに入射した光の強さを、予め設定したしきい値と比較することにより、劣化診断を行う。「しきい値」とは、プローブ2(光ファイバ)が使用不可能となる透過率に対応する診断画像の輝度をいう。
3本の光ファイバの各診断画像が「しきい値」を下回っているか否かで、プローブ2を含む光ファイバケーブル3を交換するか否かを判断する。例えば、3つのうちの2つの診断画像が使用できる輝度であれば、交換せずにそのまま使用できると診断(判断)する場合もある。
【0041】
判断は、パーソナルコンピュータ6c内の演算によって自動的に行われる。したがって、透過型測定器6の操作者が熟練者でなくても、容易にかつ精度良く診断することができる。
【0042】
なお、前述した「しきい値」に使用期限の余裕を持たせる(「しきい値」のレベルを上げる)ことによって、例えば測定した診断画像の輝度が「しきい値」を下回ったとしても使用できない状態ではなく、その時点で使用可能な状態の程度や範囲を判断することもできる。
また、前記の画像診断のアルゴリズムでは、パーソナルコンピュータ6c内演算装置により、診断画像の輝度が「しきい値」に対して何%の差があるかを計算し、この計算値が「しきい値」に到達するまでどれ位の使用期間の余裕があるかを予測し、プロセス演算装置にフィードバックする機能を持たせることとしてもよい。 その場合、メンテナンスの計画を立てたり、メンテナンス上の経済的なコスト削減に寄与したりする。
【0043】
(図5)
図5に示すのは、反射型測定器における測定を効率化するため、マルチプレクサ7を介在させた実施形態を示す。
すなわち、反射型測定器5による劣化診断の対象となる光ファイバ3,3,3,・・・を複数接続可能なマルチプレクサ7を備える。 そのマルチプレクサ7は、劣化診断の対象となる光ファイバ3,3,3,・・・に対して、それぞれひとつずつレーザ光を照射して反射光を受光可能であるように反射型測定器5と接続できる構造を備える。
このマルチプレクサ7によって、劣化診断の対象となる光ファイバ3,3,3,・・・と反射型測定器5との接続作業を簡易化することができる。その結果、多数存在する光ファイバ3,3,3,・・・の劣化診断に掛かる時間を短縮することに寄与する。
【0044】
本実施形態においては、火力発電所などのボイラのバーナー火炎を検出するための光ファイバを劣化診断するための装置として説明したが、これに限られない。廃棄物処理の焼却炉、鉄鋼や非鉄金属に関わる溶鉱炉、コークス炉、アルミ反射炉、ガラス溶解炉や各種焼成炉などのように、いわゆる燃焼火炎を発生する燃焼炉の燃焼を観察するための光ファイバの劣化診断に用いてもよい。
更には、様々な分野に用いられている光ファイバの劣化診断に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、光ファイバの劣化診断装置の製造業、光ファイバの劣化診断を代行するサービス業、光ファイバの劣化診断によって得られるデータの管理を行うデータサービス業などに利用可能性がある。
【符号の説明】
【0046】
1 ;ボイラ(燃焼炉) 2 ;プローブ(火炎検出装置)
3 ;光ファイバケーブル 4 ;コネクタ
5 ;反射型測定器 5a;レーザ光発生装置
5b;ハーフミラー 5c;CCDカメラ
6 ;透過型測定器 6a;LED発光器
6b;CCDカメラ 6c;パソコン
7 ;マルチプレクサ
10 火炎検出装置 11 光ファイバ
12 センサ部 13 ロッド部
14 伝送用光ファイバ 15 プロセス演算装置
20 センサ劣化診断装置 21 診断用光源
22 診断用光 23 ハーフミラー
24 フィルタ
30 画像診断装置 31 カメラ(撮像手段)
32 レンズ 33 画像処理装置
34 診断画像 35 制御装置
36 演算装置 37 比較判断装置
38 モニタ
40 燃焼炉 41 赤外線(火炎の光)
42 蒸着物
50 火炎検出装置 51 光ファイバ
52 センサ部 53 ロッド部
54 伝送用光ファイバ 55 演算装置
60 燃焼炉 61 赤外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理対象の内部空間からの光を管理対象の外部へ取り出す光ファイバについての透過率を診断する光ファイバ劣化診断装置であって、
前記光ファイバに対して管理対象とは反対側からレーザ光を照射するレーザ光発生装置、 そのレーザ光発生装置が照射するレーザ光と管理対象に到達して反射してくる反射光とを分光するハーフミラー、 そのハーフミラーによって分光された反射光を受光する受光装置、前記レーザ光発生装置のレーザ光の強度を調整するレーザ光調整装置、および前記受光装置が受光した反射光の強度を計測する反射光計測装置を備えた反射型測定器と、
前記光ファイバに対して管理対象側から検査用光を入射する検査用光入射装置、 その検査用光入射装置が入射した検査用光を前記光ファイバの端部で受光する検査用光受光装置、 およびその検査用光受光装置が受光した検査用光の強度を計測して劣化を診断する検査用光計測装置を備えた透過型測定器と、
を備え、
前記の反射型測定器における反射光計測装置では、レーザ光発生装置のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例しているか否かを判断し、 比例していないと判断した場合に前記の透過型測定器による検査を実行することとした光ファイバ劣化診断装置。
【請求項2】
前記の反射光計測装置におけるレーザ光調整装置は、照射するレーザ光の強度を時間に比例するように強めることとし、
反射光計測装置は、反射光の強度を時間で微分してゼロとなったらレーザ光発生装置のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例していないと判断することとした請求項1に記載の光ファイバ劣化診断装置。
【請求項3】
前記の透過型測定器によって未劣化である旨または劣化した旨の判断をした結果データについて、前記の反射型測定器における判断結果と対応づけた結果データベースを備え、
その結果データベースに蓄積された結果データに基づいて、前記の反射光計測装置における比例しているか否かについての判断基準を修正することとした請求項1または請求項2のいずれかに記載の光ファイバ劣化診断装置。
【請求項4】
前記の反射型測定器による劣化診断の対象となる光ファイバを複数接続可能なマルチプレクサを備え、
そのマルチプレクサは、劣化診断の対象となる光ファイバとそれぞれひとつずつレーザ光を照射して反射光を受光可能であるように前記の反射型測定器と接続した請求項1から請求項3のいずれかに記載の光ファイバ劣化診断装置。
【請求項5】
管理対象の内部空間からの光を管理対象の外部へ取り出す光ファイバについての透過率を診断する光ファイバ劣化診断方法であって、
前記光ファイバに対して管理対象とは反対側からレーザ光発生装置にてレーザ光を照射するレーザ光発生手順と、
そのレーザ光発生装置が照射するレーザ光と管理対象に到達して反射してくる反射光とをハーフミラーにて分光する分光手順と、
そのハーフミラーによって分光された反射光を受光装置にて受光する受光手順と、
前記受光装置が受光した反射光の強度を反射光計測装置にて計測する反射光計測手順と、
レーザ光発生装置のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例しているか否かを判断する反射光判断手順と、
その反射光判断手順にてレーザ光発生装置のレーザ光の強度と反射光の強度とが比例していないと判断した場合に、前記光ファイバに対して管理対象側から検査用の光を検査用光入射装置にて入射する検査用光入射手順と、
入射した検査用光を前記光ファイバの端部で検査用光受光装置にて受光する検査用光受光手順と、
受光した検査用光の強度を検査用光計測装置にて計測する検査用光計測手順と、
を実行することとした光ファイバ劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−247389(P2012−247389A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121591(P2011−121591)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】