光学デバイス、映像表示装置およびヘッドマウントディスプレイ
【課題】 ホログラムの特性を劣化させず、透明基材の接合面に気泡の混入がなく、透明基材同士の接着強度が高い光学デバイスを提供することである。
【解決手段】 光学デバイスは、ホログラム24を貼り付けた透明基材22と透明基材23とが、ホログラム24を挟むように接合され、その接合面を介して外界像がシースルーで観察されるものであって、ホログラム24と透明基材23との間は、ホログラム24側から粘着剤26、接着剤25の順で接合されている構成とする。
【解決手段】 光学デバイスは、ホログラム24を貼り付けた透明基材22と透明基材23とが、ホログラム24を挟むように接合され、その接合面を介して外界像がシースルーで観察されるものであって、ホログラム24と透明基材23との間は、ホログラム24側から粘着剤26、接着剤25の順で接合されている構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の透明基材の接合面を介してシースルーで外界像を観察することが可能な光学デバイスと、その光学デバイスを用いた映像表示装置と、その映像表示装置を用いたヘッドマウントディスプレイとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学素子の一つであるホログラムは、透明基材内に埋め込んで(2個の透明基材で挟み込んで)使用すれば、湿度や酸素などの外部環境の影響を受けることがないことから、例えばヘッドアップディスプレイやヘッドマウントディスプレイなどのコンバイナとして非常に有用である。
【0003】
ここで、ホログラムが挟み込まれる透明基材同士を接合する手段としては、一般的に粘着シートや接着剤が用いられている。例えば特許文献1では、ヘッドアップディスプレイの作製において、ホログラムを貼った基材ともう1つの基材とを粘着シートで接合するようにしている。また、例えば特許文献2では、複数のホログラム原版を貼った基材と他の基材とを接着剤で接着している。
【特許文献1】特開平7−234627号公報
【特許文献2】特開2002−40909号公報
【特許文献3】特許2505348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、透明基材同士の接合に粘着シートを用いる手法では、ホログラムに厚さがあるために、ホログラムと粘着シートとの界面に気泡が入りやすい。上記界面に気泡が入ると、その箇所で屈折率が変化するため、透明基材を介してシースルーで外界像を観察する際の視認性が低下する。また、透明基材の接合面同士の面間隔が一定でない場合や接合面の形状が複雑な場合には、粘着シートでは均一に接合することができない。したがって、透明基材同士の接合には接着剤を用いるのが有効である。
【0005】
一方、ホログラムを、例えばヘッドマウントディスプレイのコンバイナとして用いる場合、そのホログラムは湿度や温度など外部環境の影響を受けないよう2個の透明基材で挟まれた状態で観察者の眼前に配置することが望ましい。このため、各透明基材の剥離による観察者への危険を回避すべく、透明基材同士の接合強度を高くする必要がある。つまり、ホログラムをコンバイナとして用いる用途では、圧倒的に高い接合強度が必要となり、実使用上、接合強度不足とならないようにする必要がある。また、ホログラムをコンバイナとして用いる用途では、接着剤には、上記のように「強い接着力」が要求されることに加えて、さらに「ホログラムに悪影響を与えない」ことも要求される。ホログラムへの悪影響とは、接着剤の浸透により記録された干渉縞の間隔がくずれて意図するホログラム特性が得られない状態である。
【0006】
しかし、接着剤にこれらの両方の特性を充足させることは実際上難しく、強い接着力が必要な上記用途に用いることのできる接着剤はあまり存在しない。そのため、ホログラムに悪影響を与えずに透明基材同士を高い接着力で接着することができない。例えば特許文献3では、ホログラムと接着剤との間にポリビニルアルコールやポリエチレンテレフタレート等のバリア層を挿入することにより、接着剤のホログラムへの悪影響を防止しているが、これらの材料は一般的にホログラムとの密着性が弱く、ホログラムとバリア層との間の密着力が弱くなっている。従って、透明基材同士の接合面に加重が加わりにくい用途(車のフロントガラス等)でしか用いることができなかった。
【0007】
特に、ヘッドマウントディスプレイでは、比較的高い接合強度が必要で車のフロントガラスに埋め込まれたヘッドアップディスプレイやホログラムスクリーンなどと比較して、ホログラムおよび透明基材が非常に小型であり、その接合面積が小さく形状も複雑である。このため、透明基材同士を高い接着力で接着することが益々困難となっている。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであって、ホログラムの特性を劣化させず、透明基材の接合面に気泡の混入がなく、透明基材同士の接着強度が高い光学デバイスを提供することを目的とする。また、この光学デバイス備えた映像表示装置と、その映像表示装置を備えたヘッドマウントディスプレイとを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、ホログラムを貼り付けた一方の透明基材と他方の透明基材とが、前記ホログラムを挟むように接合され、その接合面を介して外界像がシースルーで観察される光学デバイスであって、前記ホログラムと前記他方の透明基材との間は、前記ホログラム側から粘着剤、接着剤の順で接合されていることを特徴とするものである。
【0010】
上記の構成によれば、一方の透明基材と他方の透明基材とがホログラムを挟むように接合される。このように一方の透明基材と他方の透明基材との接合面にホログラムが設けられていることにより、接合面を介して外界像をシースルーで観察者に提供しつつ、ホログラムの機能も併せ持つ光学デバイスを実現することができる。
【0011】
ここで、ホログラム上に粘着剤、接着剤の順に設けられていることにより、ホログラムの特性を劣化させず、透明基材の接合面に気泡の混入がなく、透明基材同士を高い接着強度で接合することができる。
【0012】
また、前記接合面の場所によって間隔の差が10μm以上である場合でも、透明基材の接合面に気泡が混入することがない。
【0013】
また、前記両透明基材の観察者の目に対向する面が同一面を形成することにより、外界像の光が一方の透明基材の楔状の下端部を透過するときの屈折を他方の透明基材でキャンセルすることができる。その結果、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0014】
また、前記両透明基材は、プラスチックであることが好ましい。透明基材の接合部が目の前に配置される構成とした場合に、接合部の剥離や破損を抑制し、目に対する安全性を確保できるからである。
【0015】
また、前記ホログラム、前記両透明基材、前記粘着剤、及び前記接着剤が、アクリル系材料であることが好ましい。同種の材料を用いることで密着力を高められる。
【0016】
また、前記粘着剤は透明なシート状であり、厚みが3〜100μmであることが好ましい。シート状の粘着剤を用いることにより、取り扱いが容易となりホログラムへ簡単に貼り付けることができる。また膜厚を3μm以上にすることで、接合時に仮に接着剤が粘着剤に浸透してもホログラムまで到達することがなく、ホログラムへのダメージを防ぐことができる。一方、膜厚を100μm以下にすることで、接合間隔を比較的狭くすることが可能となり、透過光の光学性能及び接合部の外観品質を向上させることができる。
【0017】
本発明の映像表示装置は、上述した本発明の光学デバイスと、映像を表示して前記光学デバイスに提供する映像表示素子とを備えていることを特徴とするものである。この構成により、観察者は、映像表示素子から提供される映像を光学デバイスを介して観察することができるのと同時に、光学デバイスを介してシースルーで外界像を観察することもできる。
【0018】
なお、前記透明基材の観察者の目に対向する面に対して、前記ホログラムが傾斜していることが好ましい。光学的な自由度が大きく、ホログラムでの反射を正反射に近い角度とすることができる。その結果、観察者は高効率で光学的によく収差補正された映像を観察することができる。
【0019】
前記ホログラムは、体積位相型の反射型ホログラムであることが望ましい。この場合、映像表示素子から提供される映像光を上記ホログラムにて観察者の方向に反射させることにより、観察者に虚像を観察させることができる。しかも、体積位相型の反射型ホログラムは、外界像の光の透過率が高いので、観察者は外界像を明瞭に観察することができる。
【0020】
また、前記ホログラムは、前記映像表示素子から提供される映像と外界像とを同時に観察者の目に導くコンバイナであってもよい。この場合、観察者は、上記ホログラムを介して、映像表示素子から提供される映像と外界像とを同時に観察することができる。
【0021】
また、上記光学デバイスは、上記映像表示素子に表示される映像を拡大して観察者の目に虚像として導く接眼光学系を構成していてもよい。この場合、観察者は、映像表示素子に表示される映像を虚像として十分に視認することができる。また、接眼光学系は、映像表示素子の表示映像を拡大虚像として観察者に提供するので、接眼光学系を構成する光学デバイスの小型化、軽量化が可能となり、映像表示装置の小型化、軽量化が可能となる。
【0022】
また、上記接眼光学系は、非軸対称な(正の)光学パワーを有していることが望ましい。この場合、接眼光学系を小型にしても、良好に収差補正された映像を観察者に提供することができる。
【0023】
また、上記光学デバイスの透明基材は、上記映像表示素子から提供される映像の光を内部で全反射させて上記ホログラムに導く構成が望ましい。この構成によれば、映像表示素子から提供される映像光を無駄なく利用して、観察者に明るい映像を提供することができる。また、映像表示素子を光学デバイスから離れた位置に配置することも可能となり、観察者の外界に対する視野を広く確保することができる。
【0024】
本発明のヘッドマウントディスプレイは、上述した映像表示装置と、上記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持手段とを備えていることを特徴としている。この構成によれば、映像表示装置が支持手段によって観察者の眼前で支持されるので、観察者は、ハンズフリーとなり、外界像と映像表示素子での表示映像を同時に観察しながら、空いた手で所望の作業を行うことができる。また、観察者の観察方向が一方向に定まるので、観察者は暗環境でも表示映像を探しやすいという利点もある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、一方の透明基材と他方の透明基材との接合面にホログラムが設けられていることにより、接合面を介して外界像をシースルーで観察者に提供しつつ、ホログラムの機能も併せ持つ光学デバイスが得られ、その接合面はホログラム側から粘着剤、接着剤の順で接合することにより、ホログラムの特性を劣化させず、透明基材の接合面に気泡の混入がなく、透明基材同士を高い接着強度で接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。図1(a)は、本実施形態に係るヘッドマウントディスプレイ(以下、HMDと略称する)の概略の構成を示す平面図であり、図1(b)は、HMDの側面図であり、図1(c)は、HMDの正面図である。HMDは、映像表示装置1と、それを支持する支持手段2とを有しており、全体として、一般の眼鏡から一方(例えば左目用)のレンズを取り除いたような外観となっている。
【0027】
映像表示装置1は、観察者に外界像をシースルーで観察させるとともに、映像を表示して観察者にそれを虚像として提供するものである。図1(c)で示す映像表示装置1において、眼鏡の右目用レンズに相当する部分は、後述する2つの透明基材22・23(図3参照)の貼り合わせによって構成されている。なお、映像表示装置1の詳細な構成については後述する。
【0028】
支持手段2は、映像表示装置1を観察者の眼前(例えば右目の前)で支持するものであり、ブリッジ3と、フレーム4と、テンプル5と、鼻当て6と、ケーブル7とを有している。なお、フレーム4、テンプル5および鼻当て6は、左右一対設けられているが、これらを左右で区別する場合は、右フレーム4R、左フレーム4L、右テンプル5R、左テンプル5L、右鼻当て6R、左鼻当て6Lのように表現するものとする。
【0029】
映像表示装置1の一端は、ブリッジ3に支持されている。このブリッジ3は、映像表示装置1のほかにも左フレーム4Lおよび鼻当て6を支持している。左フレーム4Lは、左テンプル5Lを回動可能に支持している。一方、映像表示装置1の他端は、右フレーム4Rに支持されている。右フレーム4Rにおいて映像表示装置1の支持側とは反対側の端部は、右テンプル5Rを回動可能に支持している。ケーブル7は、外部信号(例えば映像信号、制御信号)や電力を映像表示装置1に供給するための配線であり、右フレーム4Rおよび右テンプル5Rに沿って設けられている。
【0030】
観察者がHMDを使用するときは、右テンプル5Rおよび左テンプル5Lを観察者の右側頭部および左側頭部に接触させるとともに、鼻当て6を観察者の鼻に当て、一般の眼鏡をかけるようにHMDを観察者の頭部に装着する。この状態で、映像表示装置1にて映像を表示すると、観察者は、映像表示装置1の映像を虚像として観察することができるとともに、この映像表示装置1を介して外界像をシースルーで観察することができる。
【0031】
なお、HMDは、映像表示装置1を1個だけ備えたものには限られない。例えば、図2(a)は、HMDの他の構成を示す平面図であり、図2(b)は、上記HMDの側面図であり、図2(c)は、上記HMDの正面図である。これらの図に示すように、HMDは、観察者の両目の前に配置される2個の映像表示装置1を備えた構成であってもよい。この場合、左目の前に配置される映像表示装置1は、ブリッジ3と左フレーム4Lとによってその間で支持される。また、ケーブル7は、両方の映像表示装置1と接続され、ケーブル7を介して外部信号等が両方の映像表示装置1に供給される。
【0032】
次に、上述した映像表示装置1の詳細について説明する。図3は、映像表示装置1の概略の構成を示す断面図である。映像表示装置1は、映像表示素子11と、接眼光学系21とで構成されている。
【0033】
映像表示素子11は、光源12と、一方向拡散板13と、集光レンズ14と、LCD15とを有している。なお、光源12と、一方向拡散板13と、集光レンズ14とで、LCD15を照明する照明光学系が構成されている。
【0034】
光源12は、中心波長が例えば465nm、520nm、635nmとなる3つの波長帯域の光を発するRGB一体型のLEDで構成されている。なお、光源12は、白色光を発する白色光源であっても構わない。
【0035】
一方向拡散板13は、光源12からの照明光を拡散させるものであるが、その拡散度は、方向によって異なっている。より詳細には、一方向拡散板13は、HMDを観察者が装着したときの左右方向に対応する方向(図3の紙面に垂直な方向)には、入射光を約40゜拡散させ、HMDを観察者が装着したときの上下方向(図3の紙面に平行な方向)には、入射光を約2゜拡散させる。
【0036】
集光レンズ14は、一方向拡散板13にて拡散された光を集光するものである。集光レンズ14は、上記拡散光が効率よく光学瞳Eを形成するように配置されている。LCD15は、映像信号に基づいて入射光を変調することにより、映像を表示する表示手段である。
【0037】
一方、接眼光学系21は、2つの透明基材22・23と、ホログラム24とを有している。この接眼光学系21は、透明基材22・23の接合面を介して外界像がシースルーで観察される光学デバイスを構成しているとともに、映像表示素子11に表示される映像を拡大して観察者の目に虚像として導く光学デバイスを構成している。これにより、接眼光学系21を構成する光学デバイスの小型化、軽量化が可能となり、映像表示装置1の小型化、軽量化が可能となる。また、接眼光学系21は、非軸対称な正の光学パワーを有しており、内部に入射した映像光が良好に収差補正される。
【0038】
透明基材22・23は、プラスチック(例えばアクリル系樹脂やポリカーボネート)で構成されており、これらは粘着剤26と接着剤25(例えば図8参照)で接合されている。このときの透明基材22は、平行平板の下端部を下端に近くなるほど薄くして楔状にし、その上端部を上端に近くなるほど厚くした形状で構成されている。透明基材23は、平行平板の上端部を透明基材22の下端部に沿った形状とすることによって、透明基材22と一体となって略平行平板となるように構成されている。
【0039】
例えば、透明基材22に透明基材23を接合させない場合、外界像の光が透明基材22の楔状の下端部を透過するときに屈折するので、透明基材22を介して観察される外界像に歪みが生じる。しかし、透明基材22に透明基材23を接合させて、透明基材22・23の観察者の目に対向する面が同一面を形成するように、一体的な略平行平板を形成することで、外界像の光が透明基材22の楔状の下端部を透過するときの屈折を透明基材23でキャンセルすることができる。その結果、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0040】
なお透明基材22・23は、曲率を有する矯正眼鏡レンズとしてもよい。この場合も透明基材22・23の観察者の目に対向する面が同一面を形成するように一体的に形成する。
【0041】
ホログラム24は、特定の入射角で入射する例えば465±10nm、520±10nm、635±10nmの3つの波長帯域の光を回折させる体積位相型の反射型ホログラムで構成されている。反射型ホログラムは、外界光の透過率が高く、透明性も高い。ホログラム24は、透明基材22の下端部の傾斜面に貼り付けられており、この結果、透明基材22・23で挟まれている。このホログラム24の透過率は、10%以上に設定されている。
【0042】
このようにホログラム24は、透明基材22・23の観察者の目に対向する面に対して傾斜しているので、光学的な自由度が大きく、ホログラム24での反射を正反射に近い角度とすることができる。その結果、観察者は高効率で光学的によく収差補正された映像を観察することができる。
【0043】
ここで、体積位相型の反射型ホログラムは、例えば、フォトポリマーのような感光材料を透明基材22上に貼り付ける工程、これをレーザー光で露光する工程、紫外線照射による定着工程、ベイク処理工程、紫外線照射による接合工程などを経て形成される。
【0044】
このような映像表示装置1の構成により、映像表示素子11の光源12から出射された光は、一方向拡散板13にて拡散され、集光レンズ14にて集光されてLCD15に入射する。LCD15に入射した光は、映像信号に基づいて変調され、映像光として出射される。このとき、LCD15には、その映像自体が表示される。
【0045】
LCD15からの映像光は、接眼光学系21の透明基材22の内部にその上端面から入射し、対向する2つの面で複数回全反射されて、ホログラム24に入射する。ホログラム24に入射した光は、反射されて光学瞳Eに達する。光学瞳Eの位置では、観察者は、LCD15に表示された映像の拡大虚像を観察することができる。光学瞳Eから虚像までの距離は数m程度であり、また、虚像の大きさはLCD15に表示された映像の10倍以上である。
【0046】
一方、透明基材22・23およびホログラム24は、外界からの光をほとんど全て透過させるので、観察者は外界像を観察することができる。したがって、LCD15に表示された映像の虚像は、外界像の一部に重なって観察されることになる。以上のことから、ホログラム24は、映像表示素子11から提供される映像と外界像とを同時に観察者の目に導くコンバイナとして機能していると言える。
【0047】
以上のように、映像表示装置1では、LCD15から出射される映像光を、透明基材22内での全反射によってホログラム24に導く構成としている。これにより、映像表示素子11から提供される映像光を無駄なく利用して、観察者に明るい映像を提供することができる。また、映像表示素子11を観察者の眼の直前から大きく離れた位置に配置することができ、観察者の外界に対する視野を広く確保することができる。また、通常の眼鏡レンズと同様に透明基材22・23の厚さを3mm程度にすることができ、映像表示装置1を小型化、軽量化することができる。
【0048】
また、ホログラム24は、上述したように特定入射角の特定波長の光のみを回折させるので、透明基材22・23およびホログラム24を透過する外界像の光に影響を与えることがない。それゆえ、観察者は、透明基材22・23およびホログラム24を介して外界像を通常通り観察することができる。また、ホログラム24の透過率は、10%以上に設定されているので、観察者は透明基材22・23およびホログラム24を介して外界像を十分に観察することができる。
【0049】
次に、他の実施形態について説明する。図4は、本実施形態に係るHMDの概略の構成を示す平面図である。上記の実施の形態と同様の部材には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。HMDは、観察者の両目の横に配置される2個の映像表示装置1と、それを支持する支持手段2とを有している。
【0050】
支持手段2は、映像表示素子11を観察者の両目の横で支持し、接眼光学系21を観察者の眼前で支持するものであり、ブリッジ3と、フレーム4と、テンプル5とを有している。
【0051】
映像表示素子11はテンプル5に支持され、接眼光学系21の一端は、ブリッジ3に支持され、他端はフレーム4に支持されている。フレーム4は、テンプル5を回動可能に支持している。
【0052】
観察者がHMDを使用するときは、HMDを観察者の頭部に装着する。この状態で、映像表示装置1にて映像を表示すると、観察者は、映像表示装置1の映像を虚像として観察することができるとともに、この映像表示装置1を介して外界像をシースルーで観察することができる。
【0053】
次に、上述した映像表示装置1の詳細について説明する。映像表示素子11は、光源12と、反射型LCD16とを有している。反射型LCD16は、光源12からの光を半透過反射面16aで反射し、液晶で映像信号に基づいて入射光を変調し、像面16bに映像を表示する表示手段である。一方、接眼光学系21は、上記の実施形態と同様に2つの透明基材22・23と、ホログラム24とを有している。
【0054】
このような映像表示装置1の構成により、映像表示素子11の光源12から出射された光は、半透過反射面16aで反射し、液晶で映像信号に基づいて変調され、像面16bで映像光として反射され、半透過反射面16aを透過する。透過した映像光は、入射面22gに斜入射し、透明基材22で屈折し、ホログラム24に入射する。ホログラム24に入射した映像光は、光学瞳Eに向けて回折され、コリメートされる。光学瞳Eの位置では、観察者は、像面16bに表示された映像の拡大虚像を観察することができる。光学瞳Eから虚像までの距離は数m程度であり、また、虚像の大きさは像面16bに表示された映像の10倍以上である。なお、映像光は、入射面に対してP型偏光になるように偏光方向が設定されている。
【0055】
ホログラム24は、特定入射角の特定波長の光のみを回折させるので、透明基材22・23およびホログラム24を透過する外界像の光に影響を与えることがない。それゆえ、観察者は、透明基材22・23およびホログラム24を介して外界像を通常通り観察することができる。また、ホログラム24の透過率は、10%以上に設定されているので、観察者は透明基材22・23およびホログラム24を介して外界像を十分に観察することができる。
【0056】
なお図4の透明基材22・23は、曲率を有する矯正眼鏡レンズとしてもよい。図5に、矯正眼鏡レンズを採用した場合のHMDの光学系の平面図を示す。この場合も透明基材22・23の観察者の目に対向する面が同一面を形成するように一体的に形成する。透明基材22・23の曲率により、観察者の瞳に対して視力が矯正される。
【0057】
また図4の透明基材22・23の接合面は曲率を有してもよい。図6に、接合面が湾曲した透明基材22・23を採用した場合のHMDの光学系の平面図を示す。透明基材22の接合面が滑らかに膨らんだ曲面で構成され、これに対応して透明基材23の接合面が滑らかにへこんだ曲面で構成されている。この接合面に設けられたホログラム24も接合面に沿って湾曲している。これにより、映像光のホログラム24への入射角が小さくなる。特にホログラム24の端における入射角が小さくなることにより、観察される映像が端まで鮮明になる。
【0058】
次に、図3の接眼光学系21を例に透明基材22・23の接合部について説明する。図7(a)は、透明基材22の平面図を示し、図7(b)は、透明基材22の正面図を示している。また、図7(c)は、透明基材23の平面図を示し、図7(d)は、透明基材23の正面図を示している。さらに、図7(e)は、透明基材22・23を接合させた接眼光学系21の平面図を示している。
【0059】
透明基材22は、全体として略四角錐台の形状をしており、その上面および下面は、4つの側面で連結されている。この4つの側面は、図7(a)の平面図において、上面を中心として反時計回りに配置される面22a・22b・22c・22dで構成されている。これらの面22a・22b・22c・22dは、その法線方向が互いに異なっている。また、これらのうちの一側面(例えば面22d)には、上記上面よりも上方に突出する突出部22eが形成されている。また、ホログラム24は、透明基材22の例えば面22bに貼り付けられている。
【0060】
一方、透明基材23は、透明基材22が接合することで平行平板が形成されるような形状となっている。つまり、透明基材23は、平行平板から透明基材22の形状をくり抜いた形状をしている。ここで、透明基材23において、透明基材22と接合したときに、透明基材22の面22a・22b・22cと対向する面を、それぞれ23a・23b・23cと称することにする。これらの面23a・23b・23cは、その法線方向が互いに異なっている。
【0061】
このようにホログラム24を貼り付けた一方の透明基材22に他方の透明基材23を、ホログラム24を挟むように粘着剤26と接着剤25(図8参照)を介して接合することにより、図7(e)に示すように、接眼光学系21が形成される。この接眼光学系21を用いることにより、透明基材22・23の接合面(面22a・22b・22c、面23a・23b・23c)を介して、シースルーで外界像を観察することが可能となる。
【0062】
また、透明基材22の接合面は、法線方向の異なる複数の面(面22a・22b・22c)を含んでおり、透明基材23の接合面は、法線方向の異なる複数の面(面23a・23b・23c)を含んでいる。これにより、透明基材22の面22a・22b・22cには、互いに異なる方向に接着剤25の接着力が働く。また、透明基材23においても同様に、面23a・23b・23cには、互いに異なる方向に接着剤25の接着力が働く。その結果、透明基材22・23同士の接着強度をさらに高めて、破壊に対してより強くすることができる。
【0063】
このような接合面が複数面あるような複雑な形状の場合、それぞれの面間隔を数ミクロンオーダーで均一に保つことは透明基材22・23を成形或いは削り加工する上で非常にコストがかかる。そこで、透明基材22・23を安価で簡単に成形した場合、各接合面どうしの間隔が、例えば、面22aと面23a間で70μm、面22bと面23b間で100μm、面22cと面23c間で200μmのように、ばらつきが生じる。通常、接合面の場所によって間隔の差が10μm以上である場合、流動性のない粘着シートのみで気泡なく密着して接合させることは難しい。接着剤を用いれば、その流動性により容易に密着して接合することができるが、接着剤25とホログラム24とが直接接触することで、接着剤中の低分子がホログラム24へ浸透し、ホログラム24にダメージを与える可能性がある。なお、接着剤とは、貼り合わせ前は流動性のある液体であり、その後、光照射や加熱などにより化学反応して硬化し、固体となって強く密着するものである。
【0064】
そこで本発明では粘着剤を用いる。粘着剤とは、ゲル状の軟らかい固体であり、貼り合わせ前後において形態の変化を起こさず強く密着するものである。図8に図7(e)のA−A線断面図を示す。透明基材22の面22bに形成されたホログラム24上に、粘着剤26を貼り付け、更にその上及び接合面全体に接着剤25を塗布し、透明基材23を貼り合わせる。
【0065】
この構成によると、ホログラム24は粘着剤26で覆われるのでその特性が劣化することはない。また透明基材22・23の接合面は接着剤25で満たされるので気泡の混入がなくなる。更に、粘着剤26はホログラム24に強く密着するので透明基材22・23同士の接着強度が高い光学デバイスを提供することができる。
【0066】
ここで、粘着剤26はホログラム24の表面を全て覆うことが望ましい。図9に、粘着剤26でホログラム24の表面を全て覆った場合の図7(e)のA−A線断面図を示す。ホログラム24の側面まで粘着剤26で覆うことにより、ホログラム24が完全に粘着剤26で覆われるのでより確実にその特性が劣化することはない。
【0067】
なお、ホログラム24を設ける透明基材22・23の接合面は、透明基材に対して平行であってもよいし、垂直であってもよい。この場合でも図8や図9と同様の層構成とすることができる。
【0068】
粘着剤26は、シート状であり、膜厚が3〜100μmである。シート状の粘着剤26を用いることにより、取り扱いが容易となりホログラム24へ簡単に貼り付けることができる。また膜厚を3μm以上にすることで、接合時に仮に接着剤25が粘着剤26に浸透してもホログラム24まで到達することがなく、ホログラム24へのダメージを防ぐことができる。一方、膜厚を100μm以下にすることで、接合間隔を比較的狭くすることが可能となり、透過光の光学性能及び接合部の外観品質を向上させることができる。また接合部を通して外界像を観察する際、接合部による映像くずれを最小限に抑えることができる。また、透過率が98%以上の粘着剤26を用いることで、透明性が高い接合部を得ることができる。これにより、接合部を透過した光をロスなく利用でき、シースルーで明るさの低下が少ない外界像を観察することができる。
【0069】
勿論、粘着剤26としては、溶媒・モノマーのような低分子成分を含有しないものを用いる。溶媒・モノマーのような低分子成分がホログラム24に浸透すると、ホログラム24の体積や屈折率が変化し、記録された干渉縞の間隔がくずれることにより、光学特性が劣化するからである。
【0070】
また、接着剤25としては、紫外線硬化型接着剤を用いることが好ましい。一般的に、紫外線硬化型接着剤は、溶剤を含まず、収縮率が小さい接着剤であるので、ホログラム24に与えるダメージが非常に小さい。また、紫外線硬化型接着剤は、熱硬化型接着剤のように硬化時に熱を必要としないので、透明基材22・23が例えばプラスチックからなる場合には特に有利である。また、紫外線照射により即座に硬化するので作業性が良好である。
【0071】
また、透明基材22・23の屈折率と接着剤25の屈折率との差が、0.02以下であることが望ましい。接合に使用する接着剤25の屈折率を透明基材22・23の屈折率と限りなく近づけることにより、接着剤25と透明基材22・23との界面での光の屈折・散乱が少なくなり、観察者は接合部を通して外界像を問題なく視認することが可能となる。このような条件を満足する透明基材22・23と接着剤25との組み合わせとしては、例えば、三菱レイヨン製のアクリペット(屈折率1.49)と東亞合成社のLCR0628A(屈折率1.50)とがある。
【0072】
ところで、透明基材22・23としては、透明性・成型性に優れたアクリル系の材料を用い、ホログラム24としては、優れた屈折率変化を示すアクリル系材料(アクリレート誘導体)からなるフォトポリマーを用いることが望ましい。そこで、このような材料で透明基材22・23およびホログラム24を構成して光学デバイスを作製する場合、透明基材22・23を接合する接着剤25及び粘着剤26には、アクリル系の材料(アクリレート誘導体)を用いることが望ましい。
【0073】
より具体的には、透明基材22・23の材料としては、例えばメタクリル樹脂を含むもの(例えば三菱レイヨン製のアクリペット、旭化成社のデルペット)を用いることができる。また、ホログラム24の材料(感光材料)としては、例えばポリメチルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、クロロフェニルアクリレートを含むもの(例えばDuPont社のOmniDex)を用いることができる。この場合、接着剤25としては、例えばアクリル変性オリゴマーを含むもの(例えば東亞合成社のLCR0628A)、テトラヒドロフルヒルメタクリレートを含むもの(例えばNorland Optical社のNOA68)、テトラヒドロフルヒルメタクリレート、置換エチルアクリレート、置換ウレタンアクリレートを含むもの(例えばNorland Optical社のNOA76)を用いることができる。また粘着剤26としてはアクリル酸エステルポリマーを含むもの(例えば積水化学製両面テープ#5511、日東電工製両面テープCS9621)を用いることができる。
【0074】
一般的に、材料の密着性(接着力)は、異種材料同士よりも同種の材料同士のほうが強い。したがって、ホログラム24(感光材料)および透明基材22・23ともにアクリル系の材料を用いる場合には、接着剤25及び粘着剤26もアクリル系の材料を用いる方が、必然的にこれらをより強力に接合することが可能となる。
【0075】
ところで、各透明基材22・23の接合面が法線方向の異なる複数の面(面22a・22b・22c、面23a・23b・23c)を含んでいる構成について上述したが、接合面は1面のみであってもよい。
【0076】
例えば、図10(a)は、透明基材22の他の構成例を示す平面図であり、図10(b)は、透明基材23の他の構成例を示す平面図であり、図10(c)は、透明基材22・23を接合させた接眼光学系21の他の構成例を示す平面図である。透明基材22の接合面は、面22fの1面だけであり、透明基材23の接合面は、面23fの1面だけである。そして、透明基材22・23は、面22fと面23fとが対向するように接着剤25及び粘着剤26を介して接合され、これによって接眼光学系21が構成されている。
【0077】
この場合、面22fと面23f間の隙間は、部品精度により例えば中央部(ホログラム24付近)が約100μm、両端部が約50μmなど、同一面であっても場所によって異なる。このように接合面を有する構成でも、粘着剤26を用いることにより、強い密着力でホログラム24を劣化させずに均一に接合することができる。
【0078】
このように本発明は、2つの透明基材間の接合部間隔が異なっている場合でも強い密着力でホログラム24を劣化させずに均一に接合させることができるので、接合する2つの透明基材22・23の接合面の形状や面精度の自由度が増す。即ち、接合面の形状や面精度に制約が少ないため、透明基材22・23を射出成形や削り加工など様々な方法で成形可能となる。従って、非常に安価で容易に成形した材料を用いることができ、コストダウンという点でも有利である。上記の実施形態では透明基材22・23の接合面は、平面である場合について説明したが、これに限定されるわけではなく、例えば曲面であってもよい。
【0079】
次に、透明基材22・23の接合部の角度と応力との関係について説明する。図11は透明基材22・23の接合部の断面図である。図11(a)は透明基材22・23の観察者の目に対向する面と接合面との角度が小さい場合の断面図であり、図11(b)は透明基材22・23の観察者の目に対向する面と接合面との角度が大きい場合の断面図、図11(c)は透明基材22・23の観察者の目に対向する面と接合面とが垂直である場合の断面図、図11(d)は透明基材22・23の観察者の目に対向する面と接合面とが平行である場合の断面図である。図中の矢印は外部からの応力を示す。
【0080】
図11(a)において、透明基材22・23の観察者の目に対向する面22g、23gと接合面との角度は約30°である。ここで、例えば面23gに対して垂直方向に外部から応力Sが加わり、透明基材22の反対側面22hから応力Sを打ち消す応力S’が加わるとする。この応力Sは、ホログラム24の接合面に対して平行方向の成分S1とホログラム24の接合面に対して垂直方向の成分S2とに分けられる。
【0081】
この場合、成分S1は接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を滑らせる方向にはたらくので、成分S1よりも各層間の密着力が弱いと層間剥離が生じる。一方、成分S2は接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を引き剥がす方向にはたらくので、成分S2よりも各層間の密着力が弱いと層間剥離が生じる。
【0082】
図11(b)において、透明基材22・23の観察者の目に対向する面22g、23gと接合面との角度は約60°である。ここで図11(a)と同様に、面23gに応力Sが加わり、面22hに応力S’が加わるとすると、応力Sは、ホログラム24の接合面に対して平行方向の成分S3とホログラム24の接合面に対して垂直方向の成分S4とに分けられる。このとき、成分S3、S4と成分S1、S2との関係は、S3>S1、S4<S2である。
【0083】
また図11(c)において、図11(a)と同様に、面23gに応力Sが加わり、面22hに応力S’が加わるとする。この場合、応力Sが接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を滑らせる方向にはたらくので、応力Sよりも各層間の密着力が弱いと層間剥離が生じる。一方、接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を引き剥がす方向には作用しない。
【0084】
また図11(d)において、面22gに応力Sが加わり、面23hに応力S’が加わるとする。この場合、応力Sは接合面を押しつける方向に作用し、接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を滑らせる方向や接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を引き剥がす方向には作用しない。
【0085】
図11(a)〜(d)からわかるように、接合面の傾きが大きくなる程、接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を滑らせる方向に作用する力は大きくなる(S1<S3<S)。従って、各層間はこれらの滑らせる力よりも強く密着させなければならない。一方、接合面の傾きが小さくなる程、接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を引き剥がす方向に作用する力は大きくなる(S4<S2)。従って、各層間はこれらの引き剥がす力よりも強く密着させなければならない。但し、図11(d)のように接合面の傾きが0°であるか、0°に近い場合は、応力Sは接合面を押しつける方向に作用する。
【0086】
このことから、車のフロントガラス等にホログラムを埋め込むような場合、つまり図11(d)のような場合は、外部から応力を加えてもホログラムの接合面を滑らせたり引き剥がしたりする力が非常に弱いので、各層間の密着性をそれほど高める必要がない。また、フロントガラス等が枠にしっかりと固定されており、ホログラムの接合面に応力が加わりにくい用途であった。更に、ガラスを用いているので変形に強く、接合面を引き剥がすほどの大きな力が加わることは考えられない。従って、従来のようにホログラムと密着性の弱いバリア層などを用いることも可能である。
【0087】
これに対して、HMDやヘッドアップディスプレイ等、頭部搭載型装置にホログラムを埋め込むような場合、つまり図11(a)、(b)のような場合は、外部からの応力がホログラムの接合面を滑らせたり引き剥がしたりする方向に作用するので、各層間の密着性を高める必要がある。また、透明基材22・23はブリッジ3やフレーム4によって部分的に支持されているだけなので、頭部に装着した際にフレーム4やテンプル5や鼻当て6に加わる応力が、透明基材22・23の接合面にひねりや押しといった力として伝わる。更に、透明基材22・23の接合部が目の前に配置される構成となるため、目に対する安全性を確保しなければならず、接合部が剥離や破損してはならない。そこで、透明基材22・23としてはガラスよりもプラスチックが好まれる。しかし、プラスチックは変形や歪みが生じやすい。従って、頭部搭載型装置にホログラムを埋め込む場合は、本発明のように粘着剤26を用いてホログラム24/粘着剤26/接着剤25間の密着性を高くする必要がある。
【0088】
なお、上記の実施形態では、映像表示装置1をHMDに適用した例について説明したが、例えばヘッドアップディスプレイに適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】(a)は、本発明の実施の一形態に係るヘッドマウントディスプレイの概略の構成を示す平面図であり、(b)は、上記ヘッドマウントディスプレイの側面図であり、(c)は、上記ヘッドマウントディスプレイの正面図である。
【図2】(a)は、上記ヘッドマウントディスプレイの他の構成を示す平面図であり、(b)は、上記ヘッドマウントディスプレイの側面図であり、(c)は、上記ヘッドマウントディスプレイの正面図である。
【図3】上記ヘッドマウントディスプレイに用いられる映像表示装置の概略の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るヘッドマウントディスプレイの概略の構成を示す平面図である。
【図5】上記ヘッドマウントディスプレイに用いられる他の構成の矯正眼鏡レンズを採用した場合の光学系の平面図である。
【図6】上記ヘッドマウントディスプレイに用いられる他の構成の眼鏡レンズを採用した場合の光学系の平面図である。
【図7】(a)は、上記ヘッドマウントディスプレイに用いられる接眼光学系を構成する2種の透明基材のうちの一方の概略の構成を示す平面図であり、(b)は、上記透明基材の正面図であり、(c)は、他方の透明基材の概略の構成を示す平面図であり、(d)は、上記透明基材の正面図であり、(e)は、上記接眼光学系の平面図である。
【図8】図7(e)のA−A線断面図である。
【図9】粘着剤でホログラムの表面を全て覆った場合の図7(e)のA−A線断面図である。
【図10】(a)は、上記一方の透明基材の他の構成例を示す平面図であり、(b)は、上記他方の透明基材の他の構成例を示す平面図であり、(c)は、上記接眼光学系の他の構成例を示す平面図である。
【図11】(a)は、透明基材の観察者の目に対向する面と接合面との角度が小さい場合の断面図であり、(b)は、透明基材の観察者の目に対向する面と接合面との角度が大きい場合の断面図であり、(c)は、透明基材の観察者の目に対向する面と接合面とが垂直である場合の断面図であり、(d)は、透明基材の観察者の目に対向する面と接合面とが平行である場合の断面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 映像表示装置
2 支持手段
11 映像表示素子
21 接眼光学系(光学デバイス)
22 透明基材
22a 面(接合面)
22b 面(接合面)
22c 面(接合面)
23 透明基材
23a 面(接合面)
23b 面(接合面)
23c 面(接合面)
24 ホログラム
25 接着剤
26 粘着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の透明基材の接合面を介してシースルーで外界像を観察することが可能な光学デバイスと、その光学デバイスを用いた映像表示装置と、その映像表示装置を用いたヘッドマウントディスプレイとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学素子の一つであるホログラムは、透明基材内に埋め込んで(2個の透明基材で挟み込んで)使用すれば、湿度や酸素などの外部環境の影響を受けることがないことから、例えばヘッドアップディスプレイやヘッドマウントディスプレイなどのコンバイナとして非常に有用である。
【0003】
ここで、ホログラムが挟み込まれる透明基材同士を接合する手段としては、一般的に粘着シートや接着剤が用いられている。例えば特許文献1では、ヘッドアップディスプレイの作製において、ホログラムを貼った基材ともう1つの基材とを粘着シートで接合するようにしている。また、例えば特許文献2では、複数のホログラム原版を貼った基材と他の基材とを接着剤で接着している。
【特許文献1】特開平7−234627号公報
【特許文献2】特開2002−40909号公報
【特許文献3】特許2505348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、透明基材同士の接合に粘着シートを用いる手法では、ホログラムに厚さがあるために、ホログラムと粘着シートとの界面に気泡が入りやすい。上記界面に気泡が入ると、その箇所で屈折率が変化するため、透明基材を介してシースルーで外界像を観察する際の視認性が低下する。また、透明基材の接合面同士の面間隔が一定でない場合や接合面の形状が複雑な場合には、粘着シートでは均一に接合することができない。したがって、透明基材同士の接合には接着剤を用いるのが有効である。
【0005】
一方、ホログラムを、例えばヘッドマウントディスプレイのコンバイナとして用いる場合、そのホログラムは湿度や温度など外部環境の影響を受けないよう2個の透明基材で挟まれた状態で観察者の眼前に配置することが望ましい。このため、各透明基材の剥離による観察者への危険を回避すべく、透明基材同士の接合強度を高くする必要がある。つまり、ホログラムをコンバイナとして用いる用途では、圧倒的に高い接合強度が必要となり、実使用上、接合強度不足とならないようにする必要がある。また、ホログラムをコンバイナとして用いる用途では、接着剤には、上記のように「強い接着力」が要求されることに加えて、さらに「ホログラムに悪影響を与えない」ことも要求される。ホログラムへの悪影響とは、接着剤の浸透により記録された干渉縞の間隔がくずれて意図するホログラム特性が得られない状態である。
【0006】
しかし、接着剤にこれらの両方の特性を充足させることは実際上難しく、強い接着力が必要な上記用途に用いることのできる接着剤はあまり存在しない。そのため、ホログラムに悪影響を与えずに透明基材同士を高い接着力で接着することができない。例えば特許文献3では、ホログラムと接着剤との間にポリビニルアルコールやポリエチレンテレフタレート等のバリア層を挿入することにより、接着剤のホログラムへの悪影響を防止しているが、これらの材料は一般的にホログラムとの密着性が弱く、ホログラムとバリア層との間の密着力が弱くなっている。従って、透明基材同士の接合面に加重が加わりにくい用途(車のフロントガラス等)でしか用いることができなかった。
【0007】
特に、ヘッドマウントディスプレイでは、比較的高い接合強度が必要で車のフロントガラスに埋め込まれたヘッドアップディスプレイやホログラムスクリーンなどと比較して、ホログラムおよび透明基材が非常に小型であり、その接合面積が小さく形状も複雑である。このため、透明基材同士を高い接着力で接着することが益々困難となっている。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであって、ホログラムの特性を劣化させず、透明基材の接合面に気泡の混入がなく、透明基材同士の接着強度が高い光学デバイスを提供することを目的とする。また、この光学デバイス備えた映像表示装置と、その映像表示装置を備えたヘッドマウントディスプレイとを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、ホログラムを貼り付けた一方の透明基材と他方の透明基材とが、前記ホログラムを挟むように接合され、その接合面を介して外界像がシースルーで観察される光学デバイスであって、前記ホログラムと前記他方の透明基材との間は、前記ホログラム側から粘着剤、接着剤の順で接合されていることを特徴とするものである。
【0010】
上記の構成によれば、一方の透明基材と他方の透明基材とがホログラムを挟むように接合される。このように一方の透明基材と他方の透明基材との接合面にホログラムが設けられていることにより、接合面を介して外界像をシースルーで観察者に提供しつつ、ホログラムの機能も併せ持つ光学デバイスを実現することができる。
【0011】
ここで、ホログラム上に粘着剤、接着剤の順に設けられていることにより、ホログラムの特性を劣化させず、透明基材の接合面に気泡の混入がなく、透明基材同士を高い接着強度で接合することができる。
【0012】
また、前記接合面の場所によって間隔の差が10μm以上である場合でも、透明基材の接合面に気泡が混入することがない。
【0013】
また、前記両透明基材の観察者の目に対向する面が同一面を形成することにより、外界像の光が一方の透明基材の楔状の下端部を透過するときの屈折を他方の透明基材でキャンセルすることができる。その結果、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0014】
また、前記両透明基材は、プラスチックであることが好ましい。透明基材の接合部が目の前に配置される構成とした場合に、接合部の剥離や破損を抑制し、目に対する安全性を確保できるからである。
【0015】
また、前記ホログラム、前記両透明基材、前記粘着剤、及び前記接着剤が、アクリル系材料であることが好ましい。同種の材料を用いることで密着力を高められる。
【0016】
また、前記粘着剤は透明なシート状であり、厚みが3〜100μmであることが好ましい。シート状の粘着剤を用いることにより、取り扱いが容易となりホログラムへ簡単に貼り付けることができる。また膜厚を3μm以上にすることで、接合時に仮に接着剤が粘着剤に浸透してもホログラムまで到達することがなく、ホログラムへのダメージを防ぐことができる。一方、膜厚を100μm以下にすることで、接合間隔を比較的狭くすることが可能となり、透過光の光学性能及び接合部の外観品質を向上させることができる。
【0017】
本発明の映像表示装置は、上述した本発明の光学デバイスと、映像を表示して前記光学デバイスに提供する映像表示素子とを備えていることを特徴とするものである。この構成により、観察者は、映像表示素子から提供される映像を光学デバイスを介して観察することができるのと同時に、光学デバイスを介してシースルーで外界像を観察することもできる。
【0018】
なお、前記透明基材の観察者の目に対向する面に対して、前記ホログラムが傾斜していることが好ましい。光学的な自由度が大きく、ホログラムでの反射を正反射に近い角度とすることができる。その結果、観察者は高効率で光学的によく収差補正された映像を観察することができる。
【0019】
前記ホログラムは、体積位相型の反射型ホログラムであることが望ましい。この場合、映像表示素子から提供される映像光を上記ホログラムにて観察者の方向に反射させることにより、観察者に虚像を観察させることができる。しかも、体積位相型の反射型ホログラムは、外界像の光の透過率が高いので、観察者は外界像を明瞭に観察することができる。
【0020】
また、前記ホログラムは、前記映像表示素子から提供される映像と外界像とを同時に観察者の目に導くコンバイナであってもよい。この場合、観察者は、上記ホログラムを介して、映像表示素子から提供される映像と外界像とを同時に観察することができる。
【0021】
また、上記光学デバイスは、上記映像表示素子に表示される映像を拡大して観察者の目に虚像として導く接眼光学系を構成していてもよい。この場合、観察者は、映像表示素子に表示される映像を虚像として十分に視認することができる。また、接眼光学系は、映像表示素子の表示映像を拡大虚像として観察者に提供するので、接眼光学系を構成する光学デバイスの小型化、軽量化が可能となり、映像表示装置の小型化、軽量化が可能となる。
【0022】
また、上記接眼光学系は、非軸対称な(正の)光学パワーを有していることが望ましい。この場合、接眼光学系を小型にしても、良好に収差補正された映像を観察者に提供することができる。
【0023】
また、上記光学デバイスの透明基材は、上記映像表示素子から提供される映像の光を内部で全反射させて上記ホログラムに導く構成が望ましい。この構成によれば、映像表示素子から提供される映像光を無駄なく利用して、観察者に明るい映像を提供することができる。また、映像表示素子を光学デバイスから離れた位置に配置することも可能となり、観察者の外界に対する視野を広く確保することができる。
【0024】
本発明のヘッドマウントディスプレイは、上述した映像表示装置と、上記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持手段とを備えていることを特徴としている。この構成によれば、映像表示装置が支持手段によって観察者の眼前で支持されるので、観察者は、ハンズフリーとなり、外界像と映像表示素子での表示映像を同時に観察しながら、空いた手で所望の作業を行うことができる。また、観察者の観察方向が一方向に定まるので、観察者は暗環境でも表示映像を探しやすいという利点もある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、一方の透明基材と他方の透明基材との接合面にホログラムが設けられていることにより、接合面を介して外界像をシースルーで観察者に提供しつつ、ホログラムの機能も併せ持つ光学デバイスが得られ、その接合面はホログラム側から粘着剤、接着剤の順で接合することにより、ホログラムの特性を劣化させず、透明基材の接合面に気泡の混入がなく、透明基材同士を高い接着強度で接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。図1(a)は、本実施形態に係るヘッドマウントディスプレイ(以下、HMDと略称する)の概略の構成を示す平面図であり、図1(b)は、HMDの側面図であり、図1(c)は、HMDの正面図である。HMDは、映像表示装置1と、それを支持する支持手段2とを有しており、全体として、一般の眼鏡から一方(例えば左目用)のレンズを取り除いたような外観となっている。
【0027】
映像表示装置1は、観察者に外界像をシースルーで観察させるとともに、映像を表示して観察者にそれを虚像として提供するものである。図1(c)で示す映像表示装置1において、眼鏡の右目用レンズに相当する部分は、後述する2つの透明基材22・23(図3参照)の貼り合わせによって構成されている。なお、映像表示装置1の詳細な構成については後述する。
【0028】
支持手段2は、映像表示装置1を観察者の眼前(例えば右目の前)で支持するものであり、ブリッジ3と、フレーム4と、テンプル5と、鼻当て6と、ケーブル7とを有している。なお、フレーム4、テンプル5および鼻当て6は、左右一対設けられているが、これらを左右で区別する場合は、右フレーム4R、左フレーム4L、右テンプル5R、左テンプル5L、右鼻当て6R、左鼻当て6Lのように表現するものとする。
【0029】
映像表示装置1の一端は、ブリッジ3に支持されている。このブリッジ3は、映像表示装置1のほかにも左フレーム4Lおよび鼻当て6を支持している。左フレーム4Lは、左テンプル5Lを回動可能に支持している。一方、映像表示装置1の他端は、右フレーム4Rに支持されている。右フレーム4Rにおいて映像表示装置1の支持側とは反対側の端部は、右テンプル5Rを回動可能に支持している。ケーブル7は、外部信号(例えば映像信号、制御信号)や電力を映像表示装置1に供給するための配線であり、右フレーム4Rおよび右テンプル5Rに沿って設けられている。
【0030】
観察者がHMDを使用するときは、右テンプル5Rおよび左テンプル5Lを観察者の右側頭部および左側頭部に接触させるとともに、鼻当て6を観察者の鼻に当て、一般の眼鏡をかけるようにHMDを観察者の頭部に装着する。この状態で、映像表示装置1にて映像を表示すると、観察者は、映像表示装置1の映像を虚像として観察することができるとともに、この映像表示装置1を介して外界像をシースルーで観察することができる。
【0031】
なお、HMDは、映像表示装置1を1個だけ備えたものには限られない。例えば、図2(a)は、HMDの他の構成を示す平面図であり、図2(b)は、上記HMDの側面図であり、図2(c)は、上記HMDの正面図である。これらの図に示すように、HMDは、観察者の両目の前に配置される2個の映像表示装置1を備えた構成であってもよい。この場合、左目の前に配置される映像表示装置1は、ブリッジ3と左フレーム4Lとによってその間で支持される。また、ケーブル7は、両方の映像表示装置1と接続され、ケーブル7を介して外部信号等が両方の映像表示装置1に供給される。
【0032】
次に、上述した映像表示装置1の詳細について説明する。図3は、映像表示装置1の概略の構成を示す断面図である。映像表示装置1は、映像表示素子11と、接眼光学系21とで構成されている。
【0033】
映像表示素子11は、光源12と、一方向拡散板13と、集光レンズ14と、LCD15とを有している。なお、光源12と、一方向拡散板13と、集光レンズ14とで、LCD15を照明する照明光学系が構成されている。
【0034】
光源12は、中心波長が例えば465nm、520nm、635nmとなる3つの波長帯域の光を発するRGB一体型のLEDで構成されている。なお、光源12は、白色光を発する白色光源であっても構わない。
【0035】
一方向拡散板13は、光源12からの照明光を拡散させるものであるが、その拡散度は、方向によって異なっている。より詳細には、一方向拡散板13は、HMDを観察者が装着したときの左右方向に対応する方向(図3の紙面に垂直な方向)には、入射光を約40゜拡散させ、HMDを観察者が装着したときの上下方向(図3の紙面に平行な方向)には、入射光を約2゜拡散させる。
【0036】
集光レンズ14は、一方向拡散板13にて拡散された光を集光するものである。集光レンズ14は、上記拡散光が効率よく光学瞳Eを形成するように配置されている。LCD15は、映像信号に基づいて入射光を変調することにより、映像を表示する表示手段である。
【0037】
一方、接眼光学系21は、2つの透明基材22・23と、ホログラム24とを有している。この接眼光学系21は、透明基材22・23の接合面を介して外界像がシースルーで観察される光学デバイスを構成しているとともに、映像表示素子11に表示される映像を拡大して観察者の目に虚像として導く光学デバイスを構成している。これにより、接眼光学系21を構成する光学デバイスの小型化、軽量化が可能となり、映像表示装置1の小型化、軽量化が可能となる。また、接眼光学系21は、非軸対称な正の光学パワーを有しており、内部に入射した映像光が良好に収差補正される。
【0038】
透明基材22・23は、プラスチック(例えばアクリル系樹脂やポリカーボネート)で構成されており、これらは粘着剤26と接着剤25(例えば図8参照)で接合されている。このときの透明基材22は、平行平板の下端部を下端に近くなるほど薄くして楔状にし、その上端部を上端に近くなるほど厚くした形状で構成されている。透明基材23は、平行平板の上端部を透明基材22の下端部に沿った形状とすることによって、透明基材22と一体となって略平行平板となるように構成されている。
【0039】
例えば、透明基材22に透明基材23を接合させない場合、外界像の光が透明基材22の楔状の下端部を透過するときに屈折するので、透明基材22を介して観察される外界像に歪みが生じる。しかし、透明基材22に透明基材23を接合させて、透明基材22・23の観察者の目に対向する面が同一面を形成するように、一体的な略平行平板を形成することで、外界像の光が透明基材22の楔状の下端部を透過するときの屈折を透明基材23でキャンセルすることができる。その結果、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0040】
なお透明基材22・23は、曲率を有する矯正眼鏡レンズとしてもよい。この場合も透明基材22・23の観察者の目に対向する面が同一面を形成するように一体的に形成する。
【0041】
ホログラム24は、特定の入射角で入射する例えば465±10nm、520±10nm、635±10nmの3つの波長帯域の光を回折させる体積位相型の反射型ホログラムで構成されている。反射型ホログラムは、外界光の透過率が高く、透明性も高い。ホログラム24は、透明基材22の下端部の傾斜面に貼り付けられており、この結果、透明基材22・23で挟まれている。このホログラム24の透過率は、10%以上に設定されている。
【0042】
このようにホログラム24は、透明基材22・23の観察者の目に対向する面に対して傾斜しているので、光学的な自由度が大きく、ホログラム24での反射を正反射に近い角度とすることができる。その結果、観察者は高効率で光学的によく収差補正された映像を観察することができる。
【0043】
ここで、体積位相型の反射型ホログラムは、例えば、フォトポリマーのような感光材料を透明基材22上に貼り付ける工程、これをレーザー光で露光する工程、紫外線照射による定着工程、ベイク処理工程、紫外線照射による接合工程などを経て形成される。
【0044】
このような映像表示装置1の構成により、映像表示素子11の光源12から出射された光は、一方向拡散板13にて拡散され、集光レンズ14にて集光されてLCD15に入射する。LCD15に入射した光は、映像信号に基づいて変調され、映像光として出射される。このとき、LCD15には、その映像自体が表示される。
【0045】
LCD15からの映像光は、接眼光学系21の透明基材22の内部にその上端面から入射し、対向する2つの面で複数回全反射されて、ホログラム24に入射する。ホログラム24に入射した光は、反射されて光学瞳Eに達する。光学瞳Eの位置では、観察者は、LCD15に表示された映像の拡大虚像を観察することができる。光学瞳Eから虚像までの距離は数m程度であり、また、虚像の大きさはLCD15に表示された映像の10倍以上である。
【0046】
一方、透明基材22・23およびホログラム24は、外界からの光をほとんど全て透過させるので、観察者は外界像を観察することができる。したがって、LCD15に表示された映像の虚像は、外界像の一部に重なって観察されることになる。以上のことから、ホログラム24は、映像表示素子11から提供される映像と外界像とを同時に観察者の目に導くコンバイナとして機能していると言える。
【0047】
以上のように、映像表示装置1では、LCD15から出射される映像光を、透明基材22内での全反射によってホログラム24に導く構成としている。これにより、映像表示素子11から提供される映像光を無駄なく利用して、観察者に明るい映像を提供することができる。また、映像表示素子11を観察者の眼の直前から大きく離れた位置に配置することができ、観察者の外界に対する視野を広く確保することができる。また、通常の眼鏡レンズと同様に透明基材22・23の厚さを3mm程度にすることができ、映像表示装置1を小型化、軽量化することができる。
【0048】
また、ホログラム24は、上述したように特定入射角の特定波長の光のみを回折させるので、透明基材22・23およびホログラム24を透過する外界像の光に影響を与えることがない。それゆえ、観察者は、透明基材22・23およびホログラム24を介して外界像を通常通り観察することができる。また、ホログラム24の透過率は、10%以上に設定されているので、観察者は透明基材22・23およびホログラム24を介して外界像を十分に観察することができる。
【0049】
次に、他の実施形態について説明する。図4は、本実施形態に係るHMDの概略の構成を示す平面図である。上記の実施の形態と同様の部材には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。HMDは、観察者の両目の横に配置される2個の映像表示装置1と、それを支持する支持手段2とを有している。
【0050】
支持手段2は、映像表示素子11を観察者の両目の横で支持し、接眼光学系21を観察者の眼前で支持するものであり、ブリッジ3と、フレーム4と、テンプル5とを有している。
【0051】
映像表示素子11はテンプル5に支持され、接眼光学系21の一端は、ブリッジ3に支持され、他端はフレーム4に支持されている。フレーム4は、テンプル5を回動可能に支持している。
【0052】
観察者がHMDを使用するときは、HMDを観察者の頭部に装着する。この状態で、映像表示装置1にて映像を表示すると、観察者は、映像表示装置1の映像を虚像として観察することができるとともに、この映像表示装置1を介して外界像をシースルーで観察することができる。
【0053】
次に、上述した映像表示装置1の詳細について説明する。映像表示素子11は、光源12と、反射型LCD16とを有している。反射型LCD16は、光源12からの光を半透過反射面16aで反射し、液晶で映像信号に基づいて入射光を変調し、像面16bに映像を表示する表示手段である。一方、接眼光学系21は、上記の実施形態と同様に2つの透明基材22・23と、ホログラム24とを有している。
【0054】
このような映像表示装置1の構成により、映像表示素子11の光源12から出射された光は、半透過反射面16aで反射し、液晶で映像信号に基づいて変調され、像面16bで映像光として反射され、半透過反射面16aを透過する。透過した映像光は、入射面22gに斜入射し、透明基材22で屈折し、ホログラム24に入射する。ホログラム24に入射した映像光は、光学瞳Eに向けて回折され、コリメートされる。光学瞳Eの位置では、観察者は、像面16bに表示された映像の拡大虚像を観察することができる。光学瞳Eから虚像までの距離は数m程度であり、また、虚像の大きさは像面16bに表示された映像の10倍以上である。なお、映像光は、入射面に対してP型偏光になるように偏光方向が設定されている。
【0055】
ホログラム24は、特定入射角の特定波長の光のみを回折させるので、透明基材22・23およびホログラム24を透過する外界像の光に影響を与えることがない。それゆえ、観察者は、透明基材22・23およびホログラム24を介して外界像を通常通り観察することができる。また、ホログラム24の透過率は、10%以上に設定されているので、観察者は透明基材22・23およびホログラム24を介して外界像を十分に観察することができる。
【0056】
なお図4の透明基材22・23は、曲率を有する矯正眼鏡レンズとしてもよい。図5に、矯正眼鏡レンズを採用した場合のHMDの光学系の平面図を示す。この場合も透明基材22・23の観察者の目に対向する面が同一面を形成するように一体的に形成する。透明基材22・23の曲率により、観察者の瞳に対して視力が矯正される。
【0057】
また図4の透明基材22・23の接合面は曲率を有してもよい。図6に、接合面が湾曲した透明基材22・23を採用した場合のHMDの光学系の平面図を示す。透明基材22の接合面が滑らかに膨らんだ曲面で構成され、これに対応して透明基材23の接合面が滑らかにへこんだ曲面で構成されている。この接合面に設けられたホログラム24も接合面に沿って湾曲している。これにより、映像光のホログラム24への入射角が小さくなる。特にホログラム24の端における入射角が小さくなることにより、観察される映像が端まで鮮明になる。
【0058】
次に、図3の接眼光学系21を例に透明基材22・23の接合部について説明する。図7(a)は、透明基材22の平面図を示し、図7(b)は、透明基材22の正面図を示している。また、図7(c)は、透明基材23の平面図を示し、図7(d)は、透明基材23の正面図を示している。さらに、図7(e)は、透明基材22・23を接合させた接眼光学系21の平面図を示している。
【0059】
透明基材22は、全体として略四角錐台の形状をしており、その上面および下面は、4つの側面で連結されている。この4つの側面は、図7(a)の平面図において、上面を中心として反時計回りに配置される面22a・22b・22c・22dで構成されている。これらの面22a・22b・22c・22dは、その法線方向が互いに異なっている。また、これらのうちの一側面(例えば面22d)には、上記上面よりも上方に突出する突出部22eが形成されている。また、ホログラム24は、透明基材22の例えば面22bに貼り付けられている。
【0060】
一方、透明基材23は、透明基材22が接合することで平行平板が形成されるような形状となっている。つまり、透明基材23は、平行平板から透明基材22の形状をくり抜いた形状をしている。ここで、透明基材23において、透明基材22と接合したときに、透明基材22の面22a・22b・22cと対向する面を、それぞれ23a・23b・23cと称することにする。これらの面23a・23b・23cは、その法線方向が互いに異なっている。
【0061】
このようにホログラム24を貼り付けた一方の透明基材22に他方の透明基材23を、ホログラム24を挟むように粘着剤26と接着剤25(図8参照)を介して接合することにより、図7(e)に示すように、接眼光学系21が形成される。この接眼光学系21を用いることにより、透明基材22・23の接合面(面22a・22b・22c、面23a・23b・23c)を介して、シースルーで外界像を観察することが可能となる。
【0062】
また、透明基材22の接合面は、法線方向の異なる複数の面(面22a・22b・22c)を含んでおり、透明基材23の接合面は、法線方向の異なる複数の面(面23a・23b・23c)を含んでいる。これにより、透明基材22の面22a・22b・22cには、互いに異なる方向に接着剤25の接着力が働く。また、透明基材23においても同様に、面23a・23b・23cには、互いに異なる方向に接着剤25の接着力が働く。その結果、透明基材22・23同士の接着強度をさらに高めて、破壊に対してより強くすることができる。
【0063】
このような接合面が複数面あるような複雑な形状の場合、それぞれの面間隔を数ミクロンオーダーで均一に保つことは透明基材22・23を成形或いは削り加工する上で非常にコストがかかる。そこで、透明基材22・23を安価で簡単に成形した場合、各接合面どうしの間隔が、例えば、面22aと面23a間で70μm、面22bと面23b間で100μm、面22cと面23c間で200μmのように、ばらつきが生じる。通常、接合面の場所によって間隔の差が10μm以上である場合、流動性のない粘着シートのみで気泡なく密着して接合させることは難しい。接着剤を用いれば、その流動性により容易に密着して接合することができるが、接着剤25とホログラム24とが直接接触することで、接着剤中の低分子がホログラム24へ浸透し、ホログラム24にダメージを与える可能性がある。なお、接着剤とは、貼り合わせ前は流動性のある液体であり、その後、光照射や加熱などにより化学反応して硬化し、固体となって強く密着するものである。
【0064】
そこで本発明では粘着剤を用いる。粘着剤とは、ゲル状の軟らかい固体であり、貼り合わせ前後において形態の変化を起こさず強く密着するものである。図8に図7(e)のA−A線断面図を示す。透明基材22の面22bに形成されたホログラム24上に、粘着剤26を貼り付け、更にその上及び接合面全体に接着剤25を塗布し、透明基材23を貼り合わせる。
【0065】
この構成によると、ホログラム24は粘着剤26で覆われるのでその特性が劣化することはない。また透明基材22・23の接合面は接着剤25で満たされるので気泡の混入がなくなる。更に、粘着剤26はホログラム24に強く密着するので透明基材22・23同士の接着強度が高い光学デバイスを提供することができる。
【0066】
ここで、粘着剤26はホログラム24の表面を全て覆うことが望ましい。図9に、粘着剤26でホログラム24の表面を全て覆った場合の図7(e)のA−A線断面図を示す。ホログラム24の側面まで粘着剤26で覆うことにより、ホログラム24が完全に粘着剤26で覆われるのでより確実にその特性が劣化することはない。
【0067】
なお、ホログラム24を設ける透明基材22・23の接合面は、透明基材に対して平行であってもよいし、垂直であってもよい。この場合でも図8や図9と同様の層構成とすることができる。
【0068】
粘着剤26は、シート状であり、膜厚が3〜100μmである。シート状の粘着剤26を用いることにより、取り扱いが容易となりホログラム24へ簡単に貼り付けることができる。また膜厚を3μm以上にすることで、接合時に仮に接着剤25が粘着剤26に浸透してもホログラム24まで到達することがなく、ホログラム24へのダメージを防ぐことができる。一方、膜厚を100μm以下にすることで、接合間隔を比較的狭くすることが可能となり、透過光の光学性能及び接合部の外観品質を向上させることができる。また接合部を通して外界像を観察する際、接合部による映像くずれを最小限に抑えることができる。また、透過率が98%以上の粘着剤26を用いることで、透明性が高い接合部を得ることができる。これにより、接合部を透過した光をロスなく利用でき、シースルーで明るさの低下が少ない外界像を観察することができる。
【0069】
勿論、粘着剤26としては、溶媒・モノマーのような低分子成分を含有しないものを用いる。溶媒・モノマーのような低分子成分がホログラム24に浸透すると、ホログラム24の体積や屈折率が変化し、記録された干渉縞の間隔がくずれることにより、光学特性が劣化するからである。
【0070】
また、接着剤25としては、紫外線硬化型接着剤を用いることが好ましい。一般的に、紫外線硬化型接着剤は、溶剤を含まず、収縮率が小さい接着剤であるので、ホログラム24に与えるダメージが非常に小さい。また、紫外線硬化型接着剤は、熱硬化型接着剤のように硬化時に熱を必要としないので、透明基材22・23が例えばプラスチックからなる場合には特に有利である。また、紫外線照射により即座に硬化するので作業性が良好である。
【0071】
また、透明基材22・23の屈折率と接着剤25の屈折率との差が、0.02以下であることが望ましい。接合に使用する接着剤25の屈折率を透明基材22・23の屈折率と限りなく近づけることにより、接着剤25と透明基材22・23との界面での光の屈折・散乱が少なくなり、観察者は接合部を通して外界像を問題なく視認することが可能となる。このような条件を満足する透明基材22・23と接着剤25との組み合わせとしては、例えば、三菱レイヨン製のアクリペット(屈折率1.49)と東亞合成社のLCR0628A(屈折率1.50)とがある。
【0072】
ところで、透明基材22・23としては、透明性・成型性に優れたアクリル系の材料を用い、ホログラム24としては、優れた屈折率変化を示すアクリル系材料(アクリレート誘導体)からなるフォトポリマーを用いることが望ましい。そこで、このような材料で透明基材22・23およびホログラム24を構成して光学デバイスを作製する場合、透明基材22・23を接合する接着剤25及び粘着剤26には、アクリル系の材料(アクリレート誘導体)を用いることが望ましい。
【0073】
より具体的には、透明基材22・23の材料としては、例えばメタクリル樹脂を含むもの(例えば三菱レイヨン製のアクリペット、旭化成社のデルペット)を用いることができる。また、ホログラム24の材料(感光材料)としては、例えばポリメチルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、クロロフェニルアクリレートを含むもの(例えばDuPont社のOmniDex)を用いることができる。この場合、接着剤25としては、例えばアクリル変性オリゴマーを含むもの(例えば東亞合成社のLCR0628A)、テトラヒドロフルヒルメタクリレートを含むもの(例えばNorland Optical社のNOA68)、テトラヒドロフルヒルメタクリレート、置換エチルアクリレート、置換ウレタンアクリレートを含むもの(例えばNorland Optical社のNOA76)を用いることができる。また粘着剤26としてはアクリル酸エステルポリマーを含むもの(例えば積水化学製両面テープ#5511、日東電工製両面テープCS9621)を用いることができる。
【0074】
一般的に、材料の密着性(接着力)は、異種材料同士よりも同種の材料同士のほうが強い。したがって、ホログラム24(感光材料)および透明基材22・23ともにアクリル系の材料を用いる場合には、接着剤25及び粘着剤26もアクリル系の材料を用いる方が、必然的にこれらをより強力に接合することが可能となる。
【0075】
ところで、各透明基材22・23の接合面が法線方向の異なる複数の面(面22a・22b・22c、面23a・23b・23c)を含んでいる構成について上述したが、接合面は1面のみであってもよい。
【0076】
例えば、図10(a)は、透明基材22の他の構成例を示す平面図であり、図10(b)は、透明基材23の他の構成例を示す平面図であり、図10(c)は、透明基材22・23を接合させた接眼光学系21の他の構成例を示す平面図である。透明基材22の接合面は、面22fの1面だけであり、透明基材23の接合面は、面23fの1面だけである。そして、透明基材22・23は、面22fと面23fとが対向するように接着剤25及び粘着剤26を介して接合され、これによって接眼光学系21が構成されている。
【0077】
この場合、面22fと面23f間の隙間は、部品精度により例えば中央部(ホログラム24付近)が約100μm、両端部が約50μmなど、同一面であっても場所によって異なる。このように接合面を有する構成でも、粘着剤26を用いることにより、強い密着力でホログラム24を劣化させずに均一に接合することができる。
【0078】
このように本発明は、2つの透明基材間の接合部間隔が異なっている場合でも強い密着力でホログラム24を劣化させずに均一に接合させることができるので、接合する2つの透明基材22・23の接合面の形状や面精度の自由度が増す。即ち、接合面の形状や面精度に制約が少ないため、透明基材22・23を射出成形や削り加工など様々な方法で成形可能となる。従って、非常に安価で容易に成形した材料を用いることができ、コストダウンという点でも有利である。上記の実施形態では透明基材22・23の接合面は、平面である場合について説明したが、これに限定されるわけではなく、例えば曲面であってもよい。
【0079】
次に、透明基材22・23の接合部の角度と応力との関係について説明する。図11は透明基材22・23の接合部の断面図である。図11(a)は透明基材22・23の観察者の目に対向する面と接合面との角度が小さい場合の断面図であり、図11(b)は透明基材22・23の観察者の目に対向する面と接合面との角度が大きい場合の断面図、図11(c)は透明基材22・23の観察者の目に対向する面と接合面とが垂直である場合の断面図、図11(d)は透明基材22・23の観察者の目に対向する面と接合面とが平行である場合の断面図である。図中の矢印は外部からの応力を示す。
【0080】
図11(a)において、透明基材22・23の観察者の目に対向する面22g、23gと接合面との角度は約30°である。ここで、例えば面23gに対して垂直方向に外部から応力Sが加わり、透明基材22の反対側面22hから応力Sを打ち消す応力S’が加わるとする。この応力Sは、ホログラム24の接合面に対して平行方向の成分S1とホログラム24の接合面に対して垂直方向の成分S2とに分けられる。
【0081】
この場合、成分S1は接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を滑らせる方向にはたらくので、成分S1よりも各層間の密着力が弱いと層間剥離が生じる。一方、成分S2は接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を引き剥がす方向にはたらくので、成分S2よりも各層間の密着力が弱いと層間剥離が生じる。
【0082】
図11(b)において、透明基材22・23の観察者の目に対向する面22g、23gと接合面との角度は約60°である。ここで図11(a)と同様に、面23gに応力Sが加わり、面22hに応力S’が加わるとすると、応力Sは、ホログラム24の接合面に対して平行方向の成分S3とホログラム24の接合面に対して垂直方向の成分S4とに分けられる。このとき、成分S3、S4と成分S1、S2との関係は、S3>S1、S4<S2である。
【0083】
また図11(c)において、図11(a)と同様に、面23gに応力Sが加わり、面22hに応力S’が加わるとする。この場合、応力Sが接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を滑らせる方向にはたらくので、応力Sよりも各層間の密着力が弱いと層間剥離が生じる。一方、接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を引き剥がす方向には作用しない。
【0084】
また図11(d)において、面22gに応力Sが加わり、面23hに応力S’が加わるとする。この場合、応力Sは接合面を押しつける方向に作用し、接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を滑らせる方向や接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を引き剥がす方向には作用しない。
【0085】
図11(a)〜(d)からわかるように、接合面の傾きが大きくなる程、接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を滑らせる方向に作用する力は大きくなる(S1<S3<S)。従って、各層間はこれらの滑らせる力よりも強く密着させなければならない。一方、接合面の傾きが小さくなる程、接合部のホログラム24/粘着剤26/接着剤25の各層間を引き剥がす方向に作用する力は大きくなる(S4<S2)。従って、各層間はこれらの引き剥がす力よりも強く密着させなければならない。但し、図11(d)のように接合面の傾きが0°であるか、0°に近い場合は、応力Sは接合面を押しつける方向に作用する。
【0086】
このことから、車のフロントガラス等にホログラムを埋め込むような場合、つまり図11(d)のような場合は、外部から応力を加えてもホログラムの接合面を滑らせたり引き剥がしたりする力が非常に弱いので、各層間の密着性をそれほど高める必要がない。また、フロントガラス等が枠にしっかりと固定されており、ホログラムの接合面に応力が加わりにくい用途であった。更に、ガラスを用いているので変形に強く、接合面を引き剥がすほどの大きな力が加わることは考えられない。従って、従来のようにホログラムと密着性の弱いバリア層などを用いることも可能である。
【0087】
これに対して、HMDやヘッドアップディスプレイ等、頭部搭載型装置にホログラムを埋め込むような場合、つまり図11(a)、(b)のような場合は、外部からの応力がホログラムの接合面を滑らせたり引き剥がしたりする方向に作用するので、各層間の密着性を高める必要がある。また、透明基材22・23はブリッジ3やフレーム4によって部分的に支持されているだけなので、頭部に装着した際にフレーム4やテンプル5や鼻当て6に加わる応力が、透明基材22・23の接合面にひねりや押しといった力として伝わる。更に、透明基材22・23の接合部が目の前に配置される構成となるため、目に対する安全性を確保しなければならず、接合部が剥離や破損してはならない。そこで、透明基材22・23としてはガラスよりもプラスチックが好まれる。しかし、プラスチックは変形や歪みが生じやすい。従って、頭部搭載型装置にホログラムを埋め込む場合は、本発明のように粘着剤26を用いてホログラム24/粘着剤26/接着剤25間の密着性を高くする必要がある。
【0088】
なお、上記の実施形態では、映像表示装置1をHMDに適用した例について説明したが、例えばヘッドアップディスプレイに適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】(a)は、本発明の実施の一形態に係るヘッドマウントディスプレイの概略の構成を示す平面図であり、(b)は、上記ヘッドマウントディスプレイの側面図であり、(c)は、上記ヘッドマウントディスプレイの正面図である。
【図2】(a)は、上記ヘッドマウントディスプレイの他の構成を示す平面図であり、(b)は、上記ヘッドマウントディスプレイの側面図であり、(c)は、上記ヘッドマウントディスプレイの正面図である。
【図3】上記ヘッドマウントディスプレイに用いられる映像表示装置の概略の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るヘッドマウントディスプレイの概略の構成を示す平面図である。
【図5】上記ヘッドマウントディスプレイに用いられる他の構成の矯正眼鏡レンズを採用した場合の光学系の平面図である。
【図6】上記ヘッドマウントディスプレイに用いられる他の構成の眼鏡レンズを採用した場合の光学系の平面図である。
【図7】(a)は、上記ヘッドマウントディスプレイに用いられる接眼光学系を構成する2種の透明基材のうちの一方の概略の構成を示す平面図であり、(b)は、上記透明基材の正面図であり、(c)は、他方の透明基材の概略の構成を示す平面図であり、(d)は、上記透明基材の正面図であり、(e)は、上記接眼光学系の平面図である。
【図8】図7(e)のA−A線断面図である。
【図9】粘着剤でホログラムの表面を全て覆った場合の図7(e)のA−A線断面図である。
【図10】(a)は、上記一方の透明基材の他の構成例を示す平面図であり、(b)は、上記他方の透明基材の他の構成例を示す平面図であり、(c)は、上記接眼光学系の他の構成例を示す平面図である。
【図11】(a)は、透明基材の観察者の目に対向する面と接合面との角度が小さい場合の断面図であり、(b)は、透明基材の観察者の目に対向する面と接合面との角度が大きい場合の断面図であり、(c)は、透明基材の観察者の目に対向する面と接合面とが垂直である場合の断面図であり、(d)は、透明基材の観察者の目に対向する面と接合面とが平行である場合の断面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 映像表示装置
2 支持手段
11 映像表示素子
21 接眼光学系(光学デバイス)
22 透明基材
22a 面(接合面)
22b 面(接合面)
22c 面(接合面)
23 透明基材
23a 面(接合面)
23b 面(接合面)
23c 面(接合面)
24 ホログラム
25 接着剤
26 粘着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラムを貼り付けた一方の透明基材と他方の透明基材とが、前記ホログラムを挟むように接合され、その接合面を介して外界像がシースルーで観察される光学デバイスであって、
前記ホログラムと前記他方の透明基材との間は、前記ホログラム側から粘着剤、接着剤の順で接合されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
前記接合面の場所によって間隔の差が10μm以上であることを特徴とする請求項1記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記両透明基材の観察者の目に対向する面が同一面を形成することを特徴とする請求項1又は2記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記両透明基材は、プラスチックであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記ホログラム、前記両透明基材、前記粘着剤、及び前記接着剤が、アクリル系材料であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記粘着剤は透明なシート状であり、厚みが3〜100μmであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の光学デバイス。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の光学デバイスと、
映像を表示して前記光学デバイスに提供する映像表示素子とを備えていることを特徴とする映像表示装置。
【請求項8】
前記透明基材の観察者の目に対向する面に対して、前記ホログラムが傾斜していることを特徴とする請求項7記載の映像表示装置。
【請求項9】
前記ホログラムは、体積位相型の反射型ホログラムであることを特徴とする請求項7又は8記載の映像表示装置。
【請求項10】
前記ホログラムは、前記映像表示素子から提供される映像と外界像とを同時に観察者の目に導くコンバイナであることを特徴とする請求項7〜9の何れかに記載の映像表示装置。
【請求項11】
前記光学デバイスは、前記映像表示素子に表示される映像を拡大して観察者の目に虚像として導く接眼光学系を構成していることを特徴とする請求項7〜10の何れかに記載の映像表示装置。
【請求項12】
前記接眼光学系は、非軸対称な光学パワーを有していることを特徴とする請求項11に記載の映像表示装置。
【請求項13】
前記光学デバイスの透明基材は、前記映像表示素子から提供される映像の光を内部で全反射させて前記ホログラムに導くことを特徴とする請求項7〜12の何れかに記載の映像表示装置。
【請求項14】
請求項7〜13の何れかに記載の映像表示装置と、
前記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持手段とを備えていることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
【請求項1】
ホログラムを貼り付けた一方の透明基材と他方の透明基材とが、前記ホログラムを挟むように接合され、その接合面を介して外界像がシースルーで観察される光学デバイスであって、
前記ホログラムと前記他方の透明基材との間は、前記ホログラム側から粘着剤、接着剤の順で接合されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
前記接合面の場所によって間隔の差が10μm以上であることを特徴とする請求項1記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記両透明基材の観察者の目に対向する面が同一面を形成することを特徴とする請求項1又は2記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記両透明基材は、プラスチックであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記ホログラム、前記両透明基材、前記粘着剤、及び前記接着剤が、アクリル系材料であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記粘着剤は透明なシート状であり、厚みが3〜100μmであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の光学デバイス。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の光学デバイスと、
映像を表示して前記光学デバイスに提供する映像表示素子とを備えていることを特徴とする映像表示装置。
【請求項8】
前記透明基材の観察者の目に対向する面に対して、前記ホログラムが傾斜していることを特徴とする請求項7記載の映像表示装置。
【請求項9】
前記ホログラムは、体積位相型の反射型ホログラムであることを特徴とする請求項7又は8記載の映像表示装置。
【請求項10】
前記ホログラムは、前記映像表示素子から提供される映像と外界像とを同時に観察者の目に導くコンバイナであることを特徴とする請求項7〜9の何れかに記載の映像表示装置。
【請求項11】
前記光学デバイスは、前記映像表示素子に表示される映像を拡大して観察者の目に虚像として導く接眼光学系を構成していることを特徴とする請求項7〜10の何れかに記載の映像表示装置。
【請求項12】
前記接眼光学系は、非軸対称な光学パワーを有していることを特徴とする請求項11に記載の映像表示装置。
【請求項13】
前記光学デバイスの透明基材は、前記映像表示素子から提供される映像の光を内部で全反射させて前記ホログラムに導くことを特徴とする請求項7〜12の何れかに記載の映像表示装置。
【請求項14】
請求項7〜13の何れかに記載の映像表示装置と、
前記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持手段とを備えていることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−301229(P2006−301229A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121894(P2005−121894)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(303050159)コニカミノルタフォトイメージング株式会社 (1,066)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(303050159)コニカミノルタフォトイメージング株式会社 (1,066)
【Fターム(参考)】
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