説明

光学フィルタ

【目的】経年変化の極めて少ない光学フィルタを提供する。
【構成】基板上に、第1の屈折率を有する第1の物質と第2の屈折率を有する第2の物質とが交互に積層されたフィルタ本体、並びに該フィルタ本体上に形成された透過率を高めるための反射防止層が積層され、前記反射防止層の上に等価的な屈折率がほぼ1となるバッファ層を付加した構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光通信装置、特に高信頼性光ファイバ通信システムの光中継回路に用いられる光学フィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】図6は、従来の光学フィルタの例で、ある特定の波長帯域を透過させるバンドパスフィルタ(BPF)を示している。石英(SiO2 )基板101の上に、Hで示した第1の(高い)屈折率2. 25を有する第1の物質である酸化チタン(TiO2 )21,19,17,……5,3と、Lで示した第2の(低い)屈折率1. 45を有する第2の物質である石英(SiO2 )20,18,16……6,4を積層させることによりフィルタ本体、すなわちBPF本体を形成し、さらにその上に空気とフィルタ本体の間で起こる反射を防止するための反射防止層を積層させたものである。ここでは反射防止層にも同じ第1と第2の物質を用いており、酸化チタン2と石英1からなる。ただし、同図に示した膜厚については、光学膜厚(実際の物理的膜厚×膜の屈折率)で表わした場合の膜厚が、対象となる光の波長の1/4である膜厚を1. 00Hまたは1.00Lと記してある。例えば、SiO2 の場合を例に取って、実際の膜厚が1000Åであったとすると、屈折率が1. 45であるから光学膜厚は1450Åである。今、対象とする光の波長を1. 55μmとすると、その1/4は0. 3875μm、即ち3875Åである。従って、0.374(=1450/3875)Lとなる。同様に、TiO2 の実際の膜厚1000Åは0. 58Hに対応する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このようなフィルタの透過特性は図7のシミュレーション透過曲線201のようになる。また、図7の曲線202,203,204は、図6で最も外側の3つの層1,2,3の膜厚が水分の吸収などで大きくなった場合に相当している。実際、このような水分の吸収は2次イオン質量分析法などで確認されており、拡散の法則により、深さと共に減少すると考えられることから、層2では層1の半分、層3では層2の半分だけ変化したことを想定している。曲線202,203,204では層1の膜厚の変化がそれぞれ、3%,6%,9%である。曲線201と204を比較した場合、透過中心波長が1nm以上異なっている。中心波長の1nmの変動は、使用目的によっては、例えば長距離光ファイバ通信システムなどでは、非常に大きな値であり、このようなフィルタの小さな経年変化によってシステム特性が大きく劣化する結果を招く。前述のように、従来の光学フィルタでは、外側の層が水分を吸収するなどして変化した場合、透過特性、特に波長特性が変化するいう欠点があった。
【0004】本発明は、このような従来の光学フィルタの欠点を克服するためになされたもので、経年変化の極めて少ない光学フィルタを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために、本発明による光学フィルタは、反射防止層の上にさらに、等価的な屈折率がほぼ1となるバッファ層を付加した構成を有している。
【0006】
【作用】屈折率がほぼ1のバッファ層を付加する事により、バッファ層で水分の吸収などによる屈折率の変化が起こっても光学特性の変化がきわめて少ないことを本発明者らは確認した。従って、このような構成を取ることにより経年変化の極めて少ない光フィルタが実現される。また、バッファ層の屈折率が空気と同じであるため、バッファ層が無い場合と光フィルタの光学特性は同じである。
【0007】
【実施例1】図1は本発明による実施例を示す。反射防止層の上に、0. 90Lの酸化チタン膜31、1. 45Hの石英膜32、0. 90Lの酸化チタン膜33からなるバッファ層が付加されている。このように2種類以上の物質を用いて層構造を対称構造とすることにより、等価的な屈折率を容易にほぼ1とすることができる。図2は図1のバッファ層の部分の等価屈折率(バッファ層全体を等価的な1つの物質とみなした時の屈折率)を波長の関数として示したものである。すなわち、バッファ層の等価的な屈折率は1. 55μm付近で空気と同じくほぼ1となる。対象となる波長が1. 55μmでない場合には、バッファ層の0. 9Lと1. 45Hを変える事によって、その波長でほぼ1の等価屈折率を得ることができる。言うまでもないが、バッファ層の等価屈折率が1であれば、これがあっても無くても光学的な特性は同じである。図3のシミュレーション透過曲線205は図1のフィルタ特性を示しており、図7の曲線201と殆ど同じである。一方、図3の曲線206,207,208は図7と同様に、最も外側の3層の膜厚が変化した場合のシミュレーション結果である。想定した変化の程度は図7と同じである。同図から明らかなように本発明のフィルタでは透過中心波長の変化は殆ど無い。図1ではバッファ層を3層で構成したが、バッファ層の透過屈折率が1であるから、この3層を繰り返し積層してもフィルタ特性には影響を与えない。従って、光学特性に関して経年変化を起こさないようにするためには、水分の浸透などによって積層膜に変化が起こる可能性のある膜厚まで、31,32,33の3層を繰り返してバッファ層を厚くすれば良い。
【0008】
【実施例2】図4は、バッファ層の構成の異なる別の実施例を示す。高屈折率の物質をSiとし、その光学膜厚で1/4波長に相当する膜厚をSで示してある。この場合には厚さが2. 0SのSi膜を、膜厚が1. 0LのSiO2 膜ではさんだ構造にすれば、図2に対応する等価屈折率カーブが得られ、1. 55μmにおいて等価的な屈折率が1のバッファ層を得ることができる。本実施例の作用は図1の場合と同じである。
【0009】
【実施例3】図5は、バッファ層の構成の異なる別の実施例を示す。低屈折率の物質をAl2 3 とし、その光学膜厚で1/4波長に相当する膜厚をBで示してある。この場合には厚さが1. 72SのSi膜を、膜厚が0. 90BのAl2 3 膜ではさんだ構造にすれば、図2に対応する等価屈折率カーブが得られ、1. 55μmにおいて等価的な屈折率が1のバッファ層を得ることができる。本実施例の作用は図1の場合と同じである。本実施例ではバッファ層の構成が3層対称構造で説明したが、原理的には5層や7層の対称構造でも実現可能である。また、屈折率が等価的に1のバッファ層を実現することは、対称構造でない一般的な層構造でも可能ではあるが、理論的な設計が極めて困難となる。実際に図6と図1R>1に示す1. 55μm帯のバンドパスフィルタ(BPF)を作製し、85℃、85%の雰囲気に3000時間放置する実験を行った結果、図6の従来例では中心波長が0.4nm長波長側に変化したが、本発明による図1のサンプルでは、中心波長の変化は検出限界の0. 1nm以下であった。
【0010】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明による光学フィルタは、外側の積層膜が経年変化を起こしても光学的変化は極めて小さい。従って、長期に亙って、非常に安定な光学特性が要求される光ファイバ通信システムへ応用され、その効果は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す断面図である。
【図2】図1の実施例におけるバッファ層の等価屈折率を波長の関数として示した特性図である。
【図3】図1の実施例のシミュレーション透過曲線である。
【図4】本発明の他の実施例を示す断面図である。
【図5】本発明の更に他の実施例を示す断面図である。
【図6】従来の光学フィルタの積層構造を示す断面図である。
【図7】図6の従来例のシミュレーション透過曲線である。
【符号の説明】
101 石英(SiO2 )基板
1〜21,31〜39 積層膜
201〜208 シミュレーション透過曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に、第1の屈折率を有する第1の物質と第2の屈折率を有する第2の物質とが交互に積層されたフィルタ本体、並びに該フィルタ本体上に形成された透過率を高めるための反射防止層が積層された光学フィルタにおいて、前記反射防止層の上に等価的な屈折率がほぼ1となるバッファ層を付加したことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】 前記バッファ層が、2種類以上の物質からなり、積層構造が対称構造であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】 前記2種類以上の物質が、酸化チタン(TiO2 )と石英(SiO2 )であることを特徴とする請求項2に記載の光学フィルタ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【公開番号】特開平6−160622
【公開日】平成6年(1994)6月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−195868
【出願日】平成4年(1992)7月1日
【出願人】(000001214)国際電信電話株式会社 (10)
【出願人】(591266906)有限会社光伸光学 (2)