説明

光学フィルム、光学フィルム用樹脂材料及び画像表示装置

【課題】光学フィルムとして液晶表示装置に組み込んだ際に、像質の悪化を十分に防止できるような低い複屈折性を有し、且つ、耐熱性及び耐屈曲性をバランス良く兼ね備えた光学フィルムを提供すること。
【解決手段】メチルメタクリレート20〜90質量%と、下記式(1)で表されるtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート10〜70質量%と、前記メチルメタクリレート及び前記tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート以外のモノマー0〜20質量%との共重合体を含有する樹脂材料からなり、前記樹脂材料を溶融押出して成形された未延伸フィルムを、面積比で1.4〜6.0倍に延伸してなる、光学フィルム。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、光学フィルム用樹脂材料及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PMMA(ポリメチルメタクリレート)に代表されるアクリル系重合体は、高い光透過率を有し、成形加工性にも優れることから、光学材料として従来種々の用途に適用されている。また、熱可塑性アクリル樹脂を用いたフィルムは、近年、液晶表示装置やプラズマディスプレイ、有機EL表示装置等の画像表示装置の光学部材としての使用が増大している。
【0003】
例えば、特許文献1には、ガラス転移温度が120℃以上のラクトン環構造を有するアクリル系樹脂90〜99.9質量%と、ガラス転移温度が10℃以下の柔軟性樹脂10〜0.1質量%からなるアクリル系透明性フィルムが記載され、当該アクリル系透明性フィルムが耐熱性が高く、可とう性に優れることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、光弾性係数が正でかつ固有複屈折が負の単量体に由来する単位(a)5質量%以上85質量%未満と、光弾性係数が負でかつ固有複屈折が負の単量体に由来する単位(b)5質量%以上85質量%未満と、5又は6員環構造を有する単位(c)10質量%を超えて50質量%以下、を含む共重合体(1)を含む光学材料用樹脂組成物が記載され、当該光学材料用樹脂組成物によれば、面内レタデーション(Re)を厳密にコントロールすることが可能で、光弾性係数が小さい光学フィルム等の光学素子を製造できると記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、40℃〜90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに40〜100ppm/℃であること特徴とするアクリルフィルムであって、液晶表示装置に組み込んだ際に温度変動による色味変化が小さいアクリルフィルムを提供することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−100044号公報
【特許文献2】特開2008−255149号公報
【特許文献3】特開2009−292869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱可塑性樹脂を画像表示装置用等の光学フィルムとして使用する場合に、考慮しなければならない重要な光学的特性の一つに複屈折性がある。光学フィルムが示す複屈折には、その主因がポリマー主鎖の配向にある「配向複屈折」とフィルムにかかる応力に起因する「光弾性複屈折」がある。配向複屈折と光弾性複屈折の符号はポリマーの化学構造に由来し、それぞれのポリマーに固有の性質である。
【0008】
配向複屈折は、一般に鎖状のポリマーの主鎖が配向することによって発現する複屈折であり、この主鎖の配向は、例えばポリマーフィルム製造時の押し出し成形や延伸のプロセスなど材料の流動を伴うプロセスで生じ、それがフィルムに固定されて残る。
【0009】
一方、光弾性複屈折は、フィルムの弾性的な変形に伴って引き起こされる複屈折である。例えばポリマーのガラス転移温度付近からそれ以下の温度に冷却された際に生じる体積収縮により、弾性的な応力がフィルム内に残存して、それが光弾性複屈折の原因となる。また、光学フィルムが通常温度で機器に固定した状態で受ける外力によってもフィルムに応力が発生し、光弾性複屈折が発現する。
【0010】
液晶表示装置などに使用される光学フィルムが大きな複屈折性を有することは、表示される像質が悪化するため好ましくない場合が多く、複屈折性の小さなフィルムが求められている。また、画像表示装置の大画面化にともなって、これらのフィルムの大面積化が強く求められているが、そのためには光学フィルムの強度、耐屈曲性などの機械的特性の向上が望まれている。さらに、画像表示装置の薄型化にともなって、光源などの発熱部に近接した設置にも耐え得るよう、光学フィルムの耐熱性の向上も望まれている。
【0011】
特許文献1には、配向複屈折率の大きさを示すフィルム位相差値や光弾性係数といった複屈折値に関する記載はなく、液晶表示装置等に使用される光学フィルムとして、低複屈折性を満足しているかは詳細な検討がなされていない。
【0012】
また、特許文献2に記載された光学フィルムには、スチレン単位に代表される光弾性係数が正で固有複屈折率が負である単位(a)を含む共重合体が耐屈曲性が非常に悪いという問題がある。また、特許文献2の実施例を参照するに、配向複屈折値を示す面内レタデーション(Re)と厚み方向レタデーション(Rth)の絶対値のどちらかは6(nm)以上あり、十分に小さい配向複屈折率を有しているとは言いがたい。
【0013】
また、特許文献3に記載されたアクリルフィルムについて、温度変動に対するフィルムの寸法変化量を小さく抑えたところで、そのフィルムの光弾性係数が大きければ、色味の変化を完全に抑えることはできない。さらに、色味以外の像質として、視野角によるコントラストの低下も問題となるが、特許文献3にはそれに関する記載はなく、詳細な検討はなされていない。
【0014】
本発明は、光学フィルムとして液晶表示装置に組み込んだ際に、像質の悪化を十分に防止できるような低い複屈折性を有し、且つ、耐熱性及び耐屈曲性をバランス良く兼ね備えた光学フィルムを提供することを目的とする。また本発明は、上記光学フィルムを得るための樹脂材料、上記光学フィルムの製造方法、及び上記光学フィルム備える液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一側面は、メチルメタクリレート20〜90質量%と、下記式(1)で表されるtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート10〜70質量%と、前記メチルメタクリレート及び前記tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート以外のモノマー0〜20質量%との共重合体を含有する樹脂材料からなり、上記樹脂材料を溶融押出して成形された未延伸フィルムを面積比で1.4〜6.0倍に延伸してなる、光学フィルムに関する。
【0016】
【化1】

【0017】
このような光学フィルムは、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、且つ、耐屈曲性及び耐熱性に優れる。そのため、上記光学フィルムは、液晶表示装置等の光学関連機器に用いられる光学部材として、好適に使用することができる。
【0018】
本発明の他の側面は、メチルメタクリレート20〜90質量%と、下記式(1)で表されるtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート10〜70質量%と、上記メチルメタクリレート及び上記tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート以外のモノマー0〜20質量%との共重合体を含有する樹脂材料からなり、面内位相差値Reの絶対値及び厚み方向位相差値Rthの絶対値がいずれも5.0nm以下であり、光弾性係数の絶対値が5.0×10−12(/Pa)以下である、光学フィルムに関する。
【0019】
【化2】

【0020】
このような光学フィルムは、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さいため、液晶表示装置に組み込んだ際に像質の悪化を十分に防止することができる。また上記光学フィルムは、耐熱性及び耐屈曲性をバランス良く兼ね備えた光学フィルムとすることができる。
【0021】
本発明の一態様において、上記樹脂材料のガラス転移温度は105℃以上であってよい。このような樹脂材料からなる光学フィルムは耐熱性に特に優れるため、画像表示装置の光源などの発熱部に近接した設置箇所に一層好適に使用できる。
【0022】
また本発明の一態様において、JIS P8115に準拠したMIT耐屈度試験回数は100回以上であってよい。このような光学フィルムは耐屈曲性に特に優れるため、大面積化が要求される用途に一層好適に使用できる。
【0023】
また、本発明の他の側面は、メチルメタクリレート20〜90質量%と、下記式(1)で表されるtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート10〜70質量%と、前記メチルメタクリレート及び前記tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート以外のモノマー0〜20質量%との共重合体を含有する、光学フィルム用樹脂材料に関する。
【0024】
【化3】

【0025】
このような光学フィルム用樹脂材料によれば、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、且つ、耐屈曲性及び耐熱性に優れる光学フィルムを容易に得ることができる。
【0026】
また、本発明の他の側面は、上記光学フィルム用樹脂材料を溶融押出して未延伸フィルムを得る溶融押出工程と、上記未延伸フィルムを面積比で1.4〜6.0倍に延伸して光学フィルムを得る延伸工程と、を備える、光学フィルムの製造方法に関する。
【0027】
このような製造方法によれば、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、且つ、耐屈曲性及び耐熱性に優れる光学フィルムを容易に得ることができる。
【0028】
また、本発明の他の側面は、上記光学フィルムを備える画像表示装置に関する。上記光学フィルムは、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さいため、像質の悪化を十分に防止することができる。そのため、このような画像表示装置によれば、良好な像質が実現される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、光学フィルムとして液晶表示装置に組み込んだ際に、像質の悪化を十分に防止できるような低い複屈折性を有し、且つ、耐熱性及び耐屈曲性をバランス良く兼ね備えた光学フィルムが提供される。また本発明によれば、上記光学フィルムを得るための樹脂材料、上記光学フィルムの製造方法、及び上記光学フィルム備える液晶表示装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の好適な実施形態について以下に説明する。
【0031】
(樹脂材料)
本実施形態に係る樹脂材料は、メチルメタクリレート20〜90質量%と、下記式(1)で表されるtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート10〜70質量%と、これら以外のモノマー(a)0〜20質量%との共重合体を含有する。
【0032】
【化4】

【0033】
ここでモノマー(a)が0質量%とは、上記共重合体がメタクリレートとtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートとの共重合体であることを示す。
【0034】
tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートには、シス体とトランス体という幾何異性体が存在する。本実施形態において、tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートはシス体であってもトランス体であっても両者の混合物であってもよい。
【0035】
ここで、tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートとしてトランス体の比率を多くすることで、共重合体のガラス転移温度をより高くすることができる。但し、トランス体の比率の多いモノマーを得るためには、精密精製などが必要となるため、合成コストが増加してしまう。tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートのシス体の比率は、10〜50質量%とすることができ、20〜40質量%としてもよい。このようなtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートによれば、光学フィルムとしての好適な耐熱性と合成コストとを十分に両立させることができる。
【0036】
tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートとしては、2−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、3−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートが挙げられる。本実施形態において、tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートはこれらのいずれか一種であってもよく、これらの混合物であってもよい。また、本実施形態において、tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートは、3−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート及び4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートのうち少なくとも一種を含むことが好ましく、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートを含むことがより好ましい。
【0037】
モノマー(a)は、メチルメタクリレート及びtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートと共重合が可能なモノマーであればよい。モノマー(a)は、例えば、(メタ)アクリレートモノマーであってよい。
【0038】
モノマー(a)が(メタ)アクリレートモノマーであるとき、モノマー(a)としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、ビフェニルアクリレート、ビフェニルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、ペンタフルオロベンジルアクリレート、ペンタフルオロベンジルメタクリレート、トリフルオロフェニルアクリレート、トリフルオロフェニルメタクリレート、トリハイドロパーフルオロプロピルアクリレート、トリハイドロパーフルオロプロピルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、エチルアダマンチルアクリレート、エチルアダマンチルメタクリレート、メチルアダマンチルアクリレート、メチルアダマンチルメタクリレート、等が挙げられる。
【0039】
ここで、特開2001−233912号公報に記載されているように、メタクリル系樹脂にアルキルアクリレートを1〜5質量%の範囲で共重合させると、熱分解が抑制されることが知られている。そのため、モノマー(a)として、アルキルアクリレートを少なくとも1種類採用することができ、アルキルアクリレート1〜5質量%を採用することもできる。
【0040】
共重合体の重量平均分子量は、5.0×10以上であることが好ましく、1.0×10以上であることがより好ましい。このような共重合体では、樹脂材料の溶融押出においてポリマー主鎖がより配向し易くなるため、一層優れた耐屈曲性を有する光学フィルムが得られる。
【0041】
また、共重合体の重量平均分子量は、4.0×10以下であることが好ましく、3.0×10以下であることがより好ましい。このような共重合体は、溶融粘度が十分に低いため、より容易にフィルム形成を行うことができる。
【0042】
なお、共重合体の重量平均分子量は、東ソー株式会社製のHLC−8220 GPCにより測定される。カラムは東ソー株式会社製のSuper−MultiporeHZ−Mを使用し、測定条件は流量0.35ml/min、カラム温度40℃とし、標準ポリスチレン分子量換算により求めた。
【0043】
共重合体を得るための共重合方法は特に制限されず、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合のいずれも適用できる。ここで共重合方法の一例として、懸濁重合法を適用したときの一態様について詳細に説明する。
【0044】
本態様ではまず、所望の質量比率となるようにメチルメタクリレート、tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート及びモノマー(a)を計量し、懸濁重合装置に投入する。次いで、重合開始剤として日本油脂(株)社製のパーロイルTCPを1質量部、連鎖移動剤として1−オクタンチオールを0.1質量部、脱イオン水を400質量部、分散剤としてポリビニルアルコール(株式会社クラレ社製クラレポバール)を0.6質量部を合わせて投入する。ここで投入量の単位「質量部」は、メチルメタクリレート、tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート及びモノマー(a)の総量100質量部に対する各添加剤の重量比率である。また、上述の重合開始剤、連鎖移動剤、分散剤及び緩衝液の種類や投入量は一例であって、上記に限定されるものではない。
【0045】
次いで、懸濁重合装置の中でモノマー相と水相が懸濁するように攪拌しながら、65℃で2時間、その後さらに85℃で1時間重合させることにより、重量平均分子量が5.0×10以上4.0×10以下の共重合体を得ることができる。なお、共重合体の重量平均分子量は、重合開始剤や連鎖移動剤の種類や投入量、懸濁重合装置での反応温度や反応時間を変更することで、適宜調整することができる。
【0046】
本態様で得られる共重合体は粉体又は粒体であり、ろ過した後十分に洗浄して、後述する溶融押出工程に用いることができる。
【0047】
樹脂材料は、共重合体以外の成分を含有していてもよい。このような成分としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、安定剤等が挙げられる。
【0048】
樹脂材料における共重合体の含有量は、樹脂材料全量に対して、95〜100質量%であることが好ましく、99〜100質量%であることがより好ましい。
【0049】
樹脂材料のガラス転移温度は、105℃以上であることが好ましい。このような樹脂材料からなる光学フィルムは、液晶表示装置に組み込んだときに光源の熱で光学フィルムが収縮することを防ぐことができる。また、樹脂材料のガラス転移温度は、より好ましくは110℃以上であり、さらに好ましくは115℃以上である。
【0050】
ここで、ガラス転移温度は、株式会社パーキングエルマー社製の示差走査熱量測定装置DSC8000を使用し、昇温速度10℃/分で昇温させたときのガラス転移点のオンセット温度から求めた値である。なお、試料重量は10mg〜15mgとする。
【0051】
(光学フィルム)
本実施形態に係る光学フィルムは、上記樹脂材料からなるフィルムである。
【0052】
光学フィルムは、面内位相差値Reの絶対値及び厚み方向の位相差値Rthの絶対値がいずれも5.0nm以下であり、光弾性係数の絶対値が5.0×10−12(/Pa)以下であることが好ましい。このような光学フィルムは、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さいため、液晶表示装置に組み込んだ際に像質の悪化を十分に防止することができる。
【0053】
また、光学フィルムは、JIS P8115に準拠したMIT耐屈度試験回数が100回以上であることが好ましい。このような光学フィルムは、耐屈曲性に特に優れるため、大面積化が要求される用途に一層好適に使用できる。
【0054】
また、光学フィルムを構成する樹脂材料のガラス転移温度は、105℃以上であることが好ましい。このような樹脂材料からなる光学フィルムは耐熱性に特に優れるため、画像表示装置の光源などの発熱部に近接した設置箇所に一層好適に使用できる。
【0055】
以下、光学フィルムの諸特性について詳述する。
【0056】
光学フィルムの配向複屈折性は、Axometrics社製Axoscan装置にてフィルムの面内位相差値であるレタデーション(Re)と厚み方向位相差値であるRthを測定して評価することができる。
【0057】
Reは、フィルム面内の1方向の屈折率をnx、それと直行する方向の屈折率をny、フィルムの厚みをd(nm)としたとき次式(2)で表される。
Re=(nx−ny)×d (nm) …(2)
【0058】
Rthは、フィルム面内の1方向の屈折率をnx、それと直行する方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをd(nm)としたとき次式(3)で表される。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (nm) …(3)
【0059】
フィルムの位相差値の符号は、ポリマー主鎖の配向方向に屈折率が大きいものを正とし、延伸方向と直行する方向に屈折率が大きいものを負とする。
【0060】
液晶表示装置の偏光板保護フィルムなどに用いられる、低複屈折性の光学フィルムとしては、ReとRthの絶対値が小さいほど像質が向上する。ReとRthの絶対値は、ともに5.0nm以下とするとよく、より好ましくは4.0nm以下であり、さらに好ましくは3.0nm以下である。
【0061】
光学フィルムの光弾性複屈折は、配向複屈折性と同じくAxometrics社製Axoscan装置にてフィルムの位相差値であるレタデーション(Re)のフィルムにかけた応力による変化量を測定し、光弾性係数C[1/Pa]として求められる。具体的な光弾性係数Cの算出方法は次式(4)のとおりである。
C=ΔRe/(Δσ×t) …(4)
【0062】
Δσはフィルムにかかった応力の変化量で単位は[Pa]、tはフィルムの膜厚で単位は[m]、ΔReはΔσの応力の変化量に対応した面内位相差値の変化量で単位は[m]である。光弾性係数Cの符号は、応力をかけた方向に屈折率が大きくなるものを正とし、応力をかけた方向と直行する方向に屈折率が大きくなるものを負とする。
【0063】
液晶表示装置の偏光板保護フィルムなどに用いられる、低複屈折性の光学フィルムとしては、光弾性係数Cの絶対値が小さいほど像質が向上する。光弾性係数Cは、5.0×10−12[1/Pa]以下であるとよく、より好ましくは4.0×10−12[1/Pa]以下であり、さらに好ましくは3.0×10−12[1/Pa]以下である。
【0064】
光学フィルムの耐屈曲性の試験方法としては、JIS P8115に準拠したMIT耐屈度試験を行うことができる。本実施形態におけるMIT耐屈度試験回数は、テスター産業株式会社製のBE−201 MIT耐屈度試験機を使用して測定される。なお、テスター産業株式会社製のBE−201 MIT耐屈度試験機は、MIT耐折度試験機とも呼ばれている。測定条件は加重200g、折り曲げ点先端Rは0.38、屈曲速度は175回/分、屈曲角度は左右135°とし、フィルムサンプルの幅は15mmとする。そして、光学フィルムの搬送方向に繰り返し屈曲させたときに破断した屈曲回数と、幅方向に繰り返し屈曲させたときに破断した屈曲回数との平均値をMIT耐屈度試験回数とする。
【0065】
MIT耐屈度試験回数が100回以上であれば、延伸工程後の光学フィルムを搬送して巻き取る工程で破断したり、偏光板等に張り合わせるなどの工程で破断するのを防ぐことができる。また、偏光板保護フィルムの耐ヒートショック性の試験方法として、ガラス基盤にのりを介しフィルムを張り合わせ、−20℃から60℃の範囲で昇温、降温を30分間隔で500サイクル繰り返すヒートショック試験が知られているが、上述のMIT耐屈度試験回数が100回以上であれば、ヒートショック試験中にフィルムにクラックが入るのを防ぐことができる。よって、光学フィルムのMIT耐屈度試験回数は、100回以上であるとよく、より好ましくは120回以上であり、さらに好ましくは150回以上である。
【0066】
本実施形態において、光学フィルムは、上記樹脂材料を溶融押出して成形された未延伸フィルムを面積比で1.4〜6.0倍に延伸してなるフィルムである。
【0067】
このようにして得られた光学フィルムは、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さく、且つ、耐屈曲性及び耐熱性に優れる。そのため、この光学フィルムは、液晶表示装置等の光学関連機器に用いられる光学部材として好適に使用することができる。
【0068】
光学フィルムの膜厚は、10μm以上150μm以下とすることができ、15μm以上120μm以下とすることもできる。膜厚が10μm以上であると、フィルムの取り扱い性が良好となり、150μm以下であると、ヘイズの増加や、単位面積あたりの材料コストの増加等の問題が生じ難くなる。
【0069】
以下、本発明における光学フィルムの製造方法の一態様について詳述する。
【0070】
本態様において、光学フィルムの製造方法は、上記樹脂材料を溶融押出して未延伸フィルムを得る溶融押出工程と、上記未延伸フィルムを面積比で1.4〜6.0倍に延伸して光学フィルムを得る延伸工程と、を備える。
【0071】
溶融押出工程は、例えば、ダイリップを備える押出製膜機により行うことができる。このとき、樹脂材料は、押出製膜機内で加熱溶融され、ダイリップから連続的に吐出されることでフィルム状を成す。
【0072】
溶融押出の押し出し温度は、130℃以上300℃以下であることが好ましく、150℃以上280℃以下であることがさらに好ましい。押し出し温度が130℃以上であると、樹脂材料中の共重合体が十分に溶融混錬されるため、未溶融物のフィルムへの残存が十分に防止される。また、300℃以下であると、熱分解によるフィルムの着色や、分解物のダイリップへの付着等の問題が生じることが十分に防止される。
【0073】
延伸工程では、溶融押出工程で得られた未延伸フィルム(原反フィルム)を延伸して、光学フィルムを得る。延伸方法としては、例えば、周速差を利用したロール間縦延伸や、テンター装置による横延伸があり、これらを組み合わせた逐次2軸延伸法も適用できる。また、テンター延伸装置において、フィルム端部を把持するクリップ間隔がフィルムの搬送方向にも拡がる同時2軸延伸装置を用いてもよい。延伸装置は、押出製膜機と一貫ラインであってよい。また、押出製膜機により巻き取った原反フィルムをオフラインで延伸装置に送り出して延伸する方法でもよい。
【0074】
延伸温度としては、原反フィルムのガラス転移温度をTg(℃)としたときにTg+2℃以上、Tg+20℃以下が好ましく、Tg+5(℃)以上、Tg+15℃以下がさらに好ましい。延伸温度がTg+2℃以上であると、延伸中のフィルムの破断や、フィルムのヘイズの上昇等の問題の発生を十分に防止することができる。また、Tg+20℃以下であると、ポリマー主鎖が配向しやすく、一層良好なポリマー主鎖配向度が得られる傾向にある。
【0075】
本態様において、延伸倍率は、面積比で1.4〜6.0倍の範囲とする。延伸倍率面積比が1.4倍よりも小さいと、ポリマー主鎖を配向させてフィルムの耐屈曲性を向上させる効果がほとんどない。延伸倍率面積比が6.0倍よりも大きいと、フィルムが白濁したり、フィルムが破断するなどの問題が生じる。
【0076】
溶融製膜法で製膜された原反フィルムを延伸することで、ポリマー主鎖が配向してフィルムの耐屈曲性を向上させることができる一方で、複屈折率が小さなポリマー材料からなるフィルムでなければ、フィルムの位相差値が上昇してしまい、液晶表示装置に組み込んだときに像質が悪化してしまう。本態様においては、上述の樹脂材料を用い、且つ延伸倍率を上記範囲に調整することで、優れた光学特性と耐屈曲性とを両立した光学フィルムが得られる。
【0077】
(画像表示装置)
本実施形態に係る画像表示装置は、上記光学フィルムを備える。上記光学フィルムは、配向複屈折及び光弾性複屈折がともに小さいため、像質の悪化を十分に防止することができる。そのため、このような画像表示装置によれば、良好な像質が実現される。画像表示装置は、例えば、上記光学フィルムを張り合わせた偏光板を備えるものであってよい。
【0078】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例では、シス体の比率が25〜33質量%の4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート(日油株式会社製 ブレンマーTBCHMA)を使用した。
【0080】
[実施例1]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート70質量%及び4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート30質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−1)」という。)を得た。得られたポリマー(A−1)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、130℃であった。
【0081】
この粒子状のポリマー(A−1)をテクノベル社製の2軸スクリュー式押し出し機KZW−30MGにてフィルムとした。2軸押し出し機のスクリュー径は15mm、スクリュー有効長(L/D)は30であり、押し出し機にはアダプタを介し、ハンガーコートタイプのTダイが設置されている。Tダイのリップ部には、押し引きボルトにより、リップ間クリアランスを20(μm)から1000(μm)の範囲で任意に調整できる機構が備わっている。Tダイリップよりポリマーの溶融体がカーテン状となり冷却ロール上に吐出され、室温まで冷却されながら搬送され、巻き取りロールに巻き取られてフィルムとなる。押し出し温度Tp(℃)に関しては、一般的にガラス転移温度がTg(℃)である非結晶性ポリマーの場合、式(5)が最適となることが知られているため、これに習い250℃とした。
Tp=5(Tg+70)/4 …(5)
【0082】
得られたフィルムについて、井本製作所(株)社製のフィルム延伸機IMC−190Aにて2軸延伸を施し、延伸フィルムを得た。延伸倍率は搬送方向、幅方向ともに1.2倍(−)とし、フィルムの面積比が1.44倍となるようにした。延伸速度は2.9倍/分、延伸温度は(ガラス転移温度)+9℃となるように139℃とした。延伸後のフィルム膜厚は40μmであった。
【0083】
得られた延伸フィルムの面内位相差Reは−1.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−5.0(nm)であった。光弾性係数Cは−2.9×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、110回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−1)と同じ130℃であった。
【0084】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであり、フィルムのReとRthの絶対値がともに5.0(nm)以下かつ光弾性係数Cも5.0×10−12(1/Pa)以下であるため、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用しても、像質の悪化は認められなかった。また、フィルムのMIT耐屈度試験回数が100(回)以上であったため、フィルムを偏光板等に張り合わせるなどの工程で破断せずに、取り扱い性に優れたフィルムであった。また、偏光板保護フィルムのヒートショック試験に耐え得るものであった。さらに、フィルムのガラス転移温度が105℃以上であったため、フィルムを張り合わせた偏光板を液晶表示装置に組み込んだ際に、偏光板がそってしまう等の問題は生じなかった。すなわち、得られたフィルムはアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0085】
[実施例2]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート60質量%及び4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート40質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−2)」という。)を得た。得られたポリマー(A−2)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、135℃であった。
【0086】
ポリマー(A−1)にかえてポリマー(A−2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。
【0087】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−0.5(nm)、厚み方向位相差Rthは−2.0(nm)であった。光弾性係数Cは−1.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、103回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−2)と同じ135℃であった。
【0088】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0089】
[実施例3]
フィルムの延伸倍率を、搬送方向、幅方向ともに2.2倍(−)とし、フィルムの面積比が4.84倍となるように延伸したこと以外は、実施例2と同じ方法で、ポリマー(A−2)を用いた光学フィルムを製造した。
【0090】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−0.5(nm)、厚み方向位相差Rthは−4.7(nm)であった。光弾性係数Cは−1.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、450回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−2)と同じ135℃であった。
【0091】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0092】
[実施例4]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート50質量%及び4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート50質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−3)」という。)を得た。得られたポリマー(A−3)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、140℃であった。
【0093】
この粒子状のポリマー(A−3)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.4倍(−)とし、フィルムの面積比が1.96倍となるように延伸した。
【0094】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは−0.1(nm)であった。光弾性係数Cは−0.1×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、110回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−3)と同じ140℃であった。
【0095】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0096】
[実施例5]
フィルムの延伸倍率を、搬送方向、幅方向ともに2.4倍(−)とし、フィルムの面積比が5.76倍となるように延伸したこと以外は、実施例4と同じ方法で、ポリマー(A−3)を用いた光学フィルムを製造した。
【0097】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは−1.1(nm)であった。光弾性係数Cは0.1×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、445回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−3)と同じ140℃であった。
【0098】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0099】
[実施例6]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート40質量%及び4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート60質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−4)」という。)を得た。得られたポリマー(A−4)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、145℃であった。
【0100】
この粒子状のポリマー(A−4)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.6倍(−)とし、フィルムの面積比が2.56倍となるように延伸した。
【0101】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは0.3(nm)であった。光弾性係数Cは1.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、105回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−4)と同じ145℃であった。
【0102】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0103】
[実施例7]
フィルムの延伸倍率を、搬送方向、幅方向ともに2.4倍(−)とし、フィルムの面積比が5.76倍となるように延伸したこと以外は、実施例6と同じ方法で、ポリマー(A−4)を用いた光学フィルムを製造した。
【0104】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは1.4(nm)であった。光弾性係数Cは1.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、393回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−4)と同じ145℃であった。
【0105】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0106】
[実施例8]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート30質量%及び4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート70質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−5)」という。)を得た。得られたポリマー(A−5)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、150℃であった。
【0107】
この粒子状のポリマー(A−5)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.8倍(−)とし、フィルムの面積比が3.24倍となるように延伸した。
【0108】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは1.0(nm)、厚み方向位相差Rthは4.8(nm)であった。光弾性係数Cは2.5×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、105回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−5)と同じ150℃であった。
【0109】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性と耐屈曲性、及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0110】
[実施例9]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート85質量%、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート10質量%及びフェノキシエチルアクリレート5質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−6)」という。)を得た。得られたポリマー(A−6)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、108℃であった。
【0111】
この粒子状のポリマー(A−6)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.2倍(−)とし、フィルムの面積比は1.44倍である。
【0112】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは−1.0(nm)であった。光弾性係数Cは0.5×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、104回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−6)と同じ108℃であった。
【0113】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0114】
[実施例10]
フィルムの延伸倍率を、搬送方向、幅方向ともに2.4倍(−)とし、フィルムの面積比が5.76倍となるように延伸したこと以外は、実施例9と同じ方法で、ポリマー(A−6)を用いた光学フィルムを製造した。
【0115】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは−3.2(nm)であった。光弾性係数Cは0.5×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、494回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−6)と同じ108℃であった。
【0116】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0117】
[実施例11]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート75質量%、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート20質量%及びフェノキシエチルアクリレート5質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−7)」という。)を得た。得られたポリマー(A−7)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、120℃であった。
【0118】
この粒子状のポリマー(A−7)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率を、搬送方向、幅方向ともに2.4倍(−)とし、フィルムの面積比が5.76倍となるように延伸した以外は、実施例1と同じ方法で光学フィルムを製造した。
【0119】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは4.0(nm)であった。光弾性係数Cは1.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、421回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−7)と同じ120℃であった。
【0120】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0121】
[実施例12]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート70質量%、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート20質量%及びフェノキシエチルアクリレート10質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−8)」という。)を得た。得られたポリマー(A−8)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、107℃であった。
【0122】
この粒子状のポリマー(A−8)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.8倍(−)とし、フィルムの面積比が3.24倍となるように延伸した。
【0123】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは4.5(nm)であった。光弾性係数Cは2.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、150回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−8)と同じ107℃であった。
【0124】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0125】
[実施例13]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート25質量%、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート70質量%及びメチルアクリレート5質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−9)」という。)を得た。得られたポリマー(A−9)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、145℃であった。
【0126】
この粒子状のポリマー(A−9)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.8倍(−)とし、フィルムの面積比が3.24倍となるように延伸した。
【0127】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは0.8(nm)、厚み方向位相差Rthは4.0(nm)であった。光弾性係数Cは3.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、105回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−9)と同じ145℃であった。
【0128】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0129】
[実施例14]
フィルムの延伸倍率を、搬送方向、幅方向ともに2.4倍(−)とし、フィルムの面積比が5.76倍となるように延伸したこと以外は、実施例13と同じ方法で、ポリマー(A−9)を用いた光学フィルムを製造した。
【0130】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは0.8(nm)、厚み方向位相差Rthは5.0(nm)であった。光弾性係数Cは3.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、234回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−9)と同じ145℃であった。
【0131】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0132】
[実施例15]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート20質量%、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート60質量%及びメチルアクリレート20質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(A−10)」という。)を得た。得られたポリマー(A−10)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、120℃であった。
【0133】
この粒子状のポリマー(A−10)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.6倍(−)とし、フィルムの面積比が2.56倍となるように延伸した。
【0134】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは0.1(nm)であった。光弾性係数Cは1.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、100回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−10)と同じ120℃であった。
【0135】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0136】
[実施例16]
フィルムの延伸倍率を、搬送方向、幅方向ともに2.4倍(−)とし、フィルムの面積比が5.76倍となるように延伸したこと以外は、実施例15と同じ方法で、ポリマー(A−10)を用いた光学フィルムを製造した。
【0137】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは0.5(nm)であった。光弾性係数Cは1.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、259回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−10)と同じ120℃であった。
【0138】
得られたフィルムは、実施例1と同様にアクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えたフィルムであった。
【0139】
実施例1から実施例16に記載したように、本発明の一態様によれば、アクリル樹脂本来の透明性を維持しており、低複屈折性、耐屈曲性及び耐熱性をバランスよく兼ね備えた光学フィルムを製造することが可能である。
【0140】
[比較例1]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート100質量%からなる粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−1)」という。)を得た。得られたポリマー(B−1)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、105℃であった。
【0141】
この粒子状のポリマー(B−1)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.2倍(−)とし、フィルムの面積比は1.44倍である。
【0142】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−3.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−11.0(nm)であった。光弾性係数Cは−5.1×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、80回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(B−1)と同じ105℃であった。
【0143】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであったが、フィルムの厚み方向位相差Rthの絶対値が5.0(nm)よりも大きく、光弾性係数Cの絶対値も5.0×10−12(1/Pa)よりも大きかったため、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用した場合に像質の悪化が認められた。また、フィルムのMIT耐屈度試験回数が100(回)よりも低いため、フィルムを偏光板等に張り合わせるなどの工程で破断しやすく、取り扱い性に優れたフィルムであるとは言えなかった。
【0144】
[比較例2]
フィルムの延伸倍率を、搬送方向、幅方向ともに2.2倍(−)とし、フィルムの面積比が4.84倍となるように延伸したこと以外は、比較例1と同じ方法で、ポリマー(B−1)を用いた光学フィルムを製造した。
【0145】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−3.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−21.0(nm)であった。光弾性係数Cは−5.1×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、320回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(B−1)と同じ105℃であった。
【0146】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであり、フィルムの延伸倍率を高めた効果によりMIT耐屈度試験回数が100(回)以上となったため、フィルムを偏光板等に張り合わせるなどの工程での取り扱い性は改善されたが、フィルムの厚み方向位相差Rthの絶対値が5.0(nm)よりも約4倍大きくなってしまったため、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用した場合に像質の大幅な悪化が認められた。
【0147】
[比較例3]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート91質量%及び4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート9質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−2)」という。)を得た。得られたポリマー(B−2)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、109℃であった。
【0148】
この粒子状のポリマー(B−2)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.2倍(−)とし、フィルムの面積比は1.44倍である。
【0149】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−2.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−9.0(nm)であった。光弾性係数Cは−3.5×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、102回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(B−2)と同じ109℃であった。
【0150】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであったが、フィルムの厚み方向位相差Rthの絶対値が5.0(nm)よりも大きかったため、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用した場合に像質の悪化が認められた。
【0151】
[比較例4]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート86質量%、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート9質量%及びフェノキシエチルアクリレート5質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−3)」という。)を得た。得られたポリマー(B−3)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、103℃であった。
【0152】
この粒子状のポリマー(B−3)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに2.4倍(−)とし、フィルムの面積比が5.76倍となるように延伸した。
【0153】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−0.2(nm)、厚み方向位相差Rthは−3.0(nm)であった。光弾性係数Cは0.5×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、454回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(B−3)と同じ103℃であった。
【0154】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐屈曲性を兼ね備えたフィルムであったが、フィルムのガラス転移温度が105℃よりも低かったため、フィルムを張り合わせた偏光板を液晶表示装置に組み込んだ際に、光源の熱により偏光板がそってしまうという問題が生じた。
【0155】
[比較例5]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート86質量%、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート9質量%及びメチルアクリレート5質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−4)」という。)を得た。得られたポリマー(B−4)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、104℃であった。
【0156】
この粒子状のポリマー(B−4)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.2倍(−)とし、フィルムの面積比は1.44倍である。
【0157】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−2.2(nm)、厚み方向位相差Rthは−10.0(nm)であった。光弾性係数Cは−4.5×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、100回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(B−4)と同じ103℃であった。
【0158】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであったが、厚み方向位相差Rthの絶対値が5.0(nm)よりも大きかったため、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用した場合に像質の悪化が認められた。さらにフィルムのガラス転移温度が105℃よりも低かったため、フィルムを張り合わせた偏光板を液晶表示装置に組み込んだ際に、光源の熱により偏光板がそってしまうという問題が生じた。
【0159】
[比較例6]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート25質量%及び4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート75質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−5)」という。)を得た。得られたポリマー(B−5)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、153℃であった。
【0160】
この粒子状のポリマー(B−5)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.8倍(−)とし、フィルムの面積比が3.24倍となるように延伸した。
【0161】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは1.3(nm)、厚み方向位相差Rthは5.5(nm)であった。光弾性係数Cは2.9×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、95回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(B−5)と同じ153℃であった。
【0162】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであったが、フィルムの厚み方向位相差Rthの絶対値が5.0(nm)よりも大きかったため、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用した場合に像質の悪化が認められた。さらに、フィルムのMIT耐屈度試験回数が100(回)よりも低いため、フィルムを偏光板等に張り合わせるなどの工程で破断しやすく、取り扱い性に優れたフィルムであるとは言えなかった。
【0163】
[比較例7]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート20質量%、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート75質量%及びメチルアクリレート5質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−6)」という。)を得た。得られたポリマー(B−6)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、150℃であった。
【0164】
この粒子状のポリマー(B−6)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.8倍(−)とし、フィルムの面積比が3.24倍となるように延伸した。
【0165】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは1.1(nm)、厚み方向位相差Rthは5.0(nm)であった。光弾性係数Cは3.2×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、70回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(B−6)と同じ150℃であった。
【0166】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであったが、フィルムのMIT耐屈度試験回数が100(回)よりも低いため、フィルムを偏光板等に張り合わせるなどの工程で破断しやすく、取り扱い性に優れたフィルムであるとは言えなかった。
【0167】
[比較例8]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート5質量%、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート75質量%及びメチルアクリレート20質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−7)」という。)を得た。得られたポリマー(B−7)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、140℃であった。
【0168】
この粒子状のポリマー(B−7)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに2.4倍(−)とし、フィルムの面積比が5.76倍となるように延伸した。
【0169】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは1.1(nm)、厚み方向位相差Rthは5.0(nm)であった。光弾性係数Cは3.7×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、75回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(B−7)と同じ140℃であった。
【0170】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであったが、フィルムのMIT耐屈度試験回数が100(回)よりも低いため、フィルムを偏光板等に張り合わせるなどの工程で破断しやすく、取り扱い性に優れたフィルムであるとは言えなかった。
【0171】
[比較例9]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート20質量%、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート75質量%及びフェノキシエチルアクリレート5質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−8)」という。)を得た。得られたポリマー(B−8)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、149℃であった。
【0172】
この粒子状のポリマー(B−8)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.2倍(−)とし、フィルムの面積比は1.44倍である。
【0173】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは4.0(nm)、厚み方向位相差Rthは22.0(nm)であった。光弾性係数Cは4.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、33回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(B−8)と同じ149℃であった。
【0174】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであったが、フィルムの厚み方向位相差Rthの絶対値が5.0(nm)よりも4倍以上大きかったため、液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして使用した場合に像質の大幅な悪化が認められた。さらに、フィルムのMIT耐屈度試験回数が100(回)よりも低いため、フィルムを偏光板等に張り合わせるなどの工程で破断しやすく、取り扱い性に優れたフィルムであるとは言えなかった。
【0175】
[比較例10]
上述の懸濁重合法により、メチルメタクリレート90質量%及びフェノキシエチルアクリレート10質量%を共重合して、粒子状のポリマー(以下、場合により「ポリマー(B−9)」という。)を得た。得られたポリマー(B−9)の重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、1.8×10であった。また、ガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定した結果、93℃であった。
【0176】
この粒子状のポリマー(B−9)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに2.4倍(−)とし、フィルムの面積比は5.76倍である。
【0177】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは−0.3(nm)であった。光弾性係数Cは1.1×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、468回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(B−9)と同じ93℃であった。
【0178】
得られたフィルムのガラス転移温度は93℃と非常に低く、フィルムを張り合わせた偏光板を液晶表示装置に組み込んだ際に、光源の熱により偏光板が大きくそってしまうという問題が生じた。
【0179】
[参考例1]
実施例1で使用した粒子状のポリマー(A−1)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに1.1倍(−)とし、フィルムの面積比が1.21倍となるように延伸した。
【0180】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは−1.0(nm)、厚み方向位相差Rthは−4.0(nm)であった。光弾性係数Cは−2.9×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、74回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−1)と同じ130℃であった。
【0181】
得られたフィルムの目視検査では白濁なく、透明性に優れたものであり、低複屈折性と耐熱性を兼ね備えたものであった。一方で、延伸倍率が面積比で1.4倍よりも小さいために、フィルムのMIT耐屈度試験回数が100(回)よりも低く、フィルムを偏光板等に張り合わせるなどの工程で破断しやすく、取り扱い性に優れたフィルムであるとは言えなかった。
【0182】
[参考例2]
実施例6で使用した粒子状のポリマー(A−4)を、実施例1と同様の方法でフィルムとした。このとき、フィルムの延伸倍率は、搬送方向、幅方向ともに2.5倍(−)とし、フィルムの面積比が6.25倍となるように延伸した。
【0183】
得られた延伸フィルムの膜厚は40μmであり、面内位相差Reは0.1(nm)、厚み方向位相差Rthは1.5(nm)であった。光弾性係数Cは1.0×10−12(1/Pa)であった。MIT耐屈度試験回数は、583回であった。得られたフィルムのガラス転移温度は、粒子状のポリマー(A−4)と同じ145℃であった。
【0184】
延伸倍率が面積比で6.0倍よりも大きいために、得られたフィルムが白濁しており、光学フィルムとしての使用が困難であった。
【0185】
実施例のモノマー共重合比率と延伸倍率、及び評価結果を表1、表2に示す。また、比較例及び参考例のモノマー共重合比率と延伸倍率、及び評価結果を表3、表4に示す。なお、得られたフィルムの目視評価で透明性に優れているものをA、白濁により透明性が損なわれているものをBとした。
【0186】
【表1】

【0187】
【表2】

【0188】
【表3】

【0189】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメタクリレート20〜90質量%と、下記式(1)で表されるtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート10〜70質量%と、前記メチルメタクリレート及び前記tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート以外のモノマー0〜20質量%との共重合体を含有する樹脂材料からなり、
前記樹脂材料を溶融押出して成形された未延伸フィルムを、面積比で1.4〜6.0倍に延伸してなる、光学フィルム。
【化1】

【請求項2】
メチルメタクリレート20〜90質量%と、下記式(1)で表されるtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート10〜70質量%と、前記メチルメタクリレート及び前記tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート以外のモノマー0〜20質量%との共重合体を含有する樹脂材料からなり、
面内位相差値Reの絶対値及び厚み方向位相差値Rthの絶対値がいずれも5.0nm以下であり、
光弾性係数の絶対値が5.0×10−12(/Pa)以下である、光学フィルム。
【化2】

【請求項3】
前記樹脂材料のガラス転移温度が105℃以上である、請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
JIS P8115に準拠したMIT耐屈度試験回数が100回以上である、請求項2又は3に記載の光学フィルム。
【請求項5】
メチルメタクリレート20〜90質量%と、下記式(1)で表されるtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート10〜70質量%と、前記メチルメタクリレート及び前記tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート以外のモノマー0〜20質量%との共重合体を含有する、光学フィルム用樹脂材料。
【化3】

【請求項6】
請求項5に記載の光学フィルム用樹脂材料を溶融押出して未延伸フィルムを得る溶融押出工程と、前記未延伸フィルムを面積比で1.4〜6.0倍に延伸して光学フィルムを得る延伸工程と、を備える、光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルムを備える、画像表示装置。

【公開番号】特開2013−114198(P2013−114198A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262426(P2011−262426)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】