説明

光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体

【構成】 式〔I〕
【化1】


〔式中、R1はC1-C8アルキル、C3-C7シクロアルキル、C7-C11アラルキル又はC6-C10アリル基を示し、R2は水素原子、C1-C8アルキル、C3-C7シクロアルキル又はC7-C11アラルキル基を示す。又、R1及びR2は一体となって(CH2)n(式中nは3又は4を示す)を形成してもよい。Arは、1〜3個のハロゲン原子、ニトロ、C1-C6アルキル、C3-C7シクロアルキル、C2-C6アルケニル、C2-C6アルキニル、C7-C11アラルキル、C6-C10アリル、C1-C6アルコキシ基若しくはスチレンポリマー置換基で任意に置換されていてもよいナフチル基、アンスリル基又はフェナンスリル基を意味する。〕で表される光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体。
【効果】 本発明化合物は1,3-ジカルボニル化合物を簡便な操作で還元することにより、高不斉収率及び高syn選択性で光学活性1,3-syn-ジオール化合物を合成できる。さらに、種々のカルボニル化合物に応用し、高不斉収率で光学活性アルコール化合物を製造することに有効である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は新規な光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体及びこれを還元剤としてカルボニル化合物に用いる光学活性アルコールの製法に関する。特に、このボラン錯体を1,3-ジカルボニル類に用いる光学活性1,3-syn-ジオール化合物の製法に関する。
【0002】
【従来の技術】医薬、農薬あるいはコスメティックスなど多くの生理活性物質は、1,2-あるいは1,3-syn-ジオール構造を有している。例えば、抗高脂血症剤の一種である一連のHMG-CoAリダクターゼ阻害剤は、そのメバロン酸鎖部位に共通の部分構造である1,3-syn-ジオールを有しており、酵素阻害活性発現の上で必須構造となっている。
【0003】又、天然の生理活性物質の中にも1,3-syn-ジオール構造を有する物が多く存在する。例えば、子宮収縮作用や血圧上昇作用を有するプロスタグランジンF1α及びF2α、ポリエンマクロライド抗生物質のペンタマイシン、ポリエン系抗カビ物質のアムホテリシンB、抗腫瘍性マクロライドのミサキノリドA、強心配糖体のG-ストロファンチン、テンニンギクに含まれるセスキテルペンの一種プルケリンなどが挙げられる。
【0004】これまで化学的な手法を用いて、この1,3-syn-ジオールの合成法が種々開発されてきた Tetrahedron Lett., 28, 155(1987), 同誌 26, 2951(1985) 。しかしこれらの方法は、1番目のキラル中心を導入し、それを基にして2番目のキラル中心の構築を行うため、多工程を必要とし、かつ、目的とする1,3-syn-ジオールを高い光学収率及びsyn選択性で得るために、極低温の反応条件を要するなど多くの工業的制約を有していた。
【0005】これまでに光学活性な試薬を用いてカルボニル化合物を不斉還元し、光学活性アルコール化合物を製造する方法は数多く知られている。例えば、Coreyらによる光学活性なボラン錯体を用いる方法 E. J. Corey and A. V. Gavai, Tetrahedron Lett., 29, 3201(1988) 、Meerwein-Ponndolf-Verley(MPV)型不斉還元法 M.M. Midland, D. C. McDowell and Gabriel, J. Org. Chem., 54, 159(1989) 、酵素や微生物を用いる方法 G. Frater, Helv. Chim. Acta, 62, 2815, 2829(1979)など多数の方法がある。
【0006】芳香族カルボニル類の不斉還元では、数多くの高選択性を示す試薬が開発されてきているが、これらの試薬でもジアルキルカルボニルの不斉還元では、高選択性が難しいとされており、たかだか50%ee の不斉収率しか得られていない。一般に芳香族カルボニルなどの不飽和基のπ電子は、不斉還元の遷移状態において大きな影響力をもつと言われており、この大きな電子的効果の期待できないジアルキルカルボニルでは、単に立体的な効果の差を認識し得る能力が試薬に要求されており〔有機合成化学、第45巻第2号101頁(1987)〕、2-ヘキサノンの様な基質の場合には、この様な能力を十分に発現し得る還元試薬はいまだに知られていない。更に、上記に掲げた不斉還元試薬は、すべてモノカルボニル化合物類の不斉還元に用いられているだけでジカルボニル化合物類への応用例はほとんど知られていない。
【0007】一方、山崎らによる光学活性ボラン錯体を用いる方法 (特開昭57-146786)も知られている。すなわち(S)-1-ベンジル-2-ピロリジンメタノールとボランから製造した光学活性ボラン錯体によるアセトフェノン類の不斉還元であるが、最高69%の光学純度しか得られておらず、60時間という長時間を要するため実用的な方法とは言い難い。伊津野らは、この(S)-1-ベンジル-2-ピロリジンメタノールのベンジル部位にスチレンポリマーを導入したボラン錯体によるカルボニル化合物の不斉還元 S. Itsuno, K. Ito, T. Maruyama, A. Hirao and S. Nakahama, Bull. Chem. Soc. Jpn., 59, 3329 (1986) を試みているが、満足する光学純度は得られていない。山崎らによる方法、伊津野らの方法のいづれにしてもモノカルボニル化合物類の還元に用いられているだけで、ジカルボニル化合物類の還元には利用されていない。ジカルボニル化合物類への応用として、野依らによるBINAP-Ru錯体を用いる方法 野依良治、高谷秀正、化学, 43, 146(1988) 及びR. Noyori, Chem. Soc. Rev., 18, 187(1988) が知られており、1,2-ジカルボニル及び1,3-ジカルボニル化合物類の直接的還元にも応用されているが、いづれの場合も得られる光学活性ジオールは、anti型である。
【0008】最近の桧山らによる不斉エステル基を導入した1,3-ジカルボニル化合物類の直接的不斉還元法(欧州公開特許第475627号公報)や光学活性ボラン試薬を用いた1,3-ジカルボニル化合物類の不斉還元法 Tetrahedron Lett., 29, 6467(1988)では目的とするsyn選択的な不斉還元により1,3-syn-ジオール化合物が得られているが、不斉収率について満足する結果が得られていない。このように、ジカルボニル化合物類を直接還元して、光学活性syn-ジオール化合物を得る製法は未だ確立されていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、カルボニル化合物類を不斉還元し、光学活性アルコールを高い不斉収率で得ること、特にジカルボニル化合物類の2つのカルボニル基を同時に還元することにより光学活性1,3-syn-ジオール化合物を高い不斉収率、高syn生成率で得ることにあり、これを実現できる優れた還元触媒及びそれを用いた光学活性1,3-syn-ジオール化合物を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、不斉収率及びsyn選択性が共に高く、また反応条件にも広い適応性を持つ優れた還元試薬ならびに光学活性1,3-syn-ジオール化合物の製造方法を見出すべく鋭意研究した結果、光学活性β-(N-ナフチルメチル)アミノアルコール化合物とボランにより調製される光学活性β-(N-ナフチルメチル)アミノアルコキシボラン錯体を用いて1,3-ジカルボニル化合物類を還元することにより、100%eeという最高の不斉収率及び99%の高syn選択性で光学活性1,3-syn-ジオール化合物が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0011】即ち、本発明は、式〔I〕
【0012】
【化11】


【0013】〔式中、R1はC1-C8アルキル、C3-C7シクロアルキル、C7-C11アラルキル又はC6-C10アリル基を示し、R2は水素原子、C1-C8アルキル、C3-C7シクロアルキル又はC7-C11アラルキル基を示す。又、R1及びR2は一体となって(CH2)n(式中nは3又は4を示す)を形成してもよい。Arは、1〜3個のハロゲン原子、ニトロ、C1-C6アルキル、C3-C7シクロアルキル、C2-C6アルケニル、C2-C6アルキニル、C7-C11アラルキル、C6-C10アリル、C1-C6アルコキシ基若しくはスチレンポリマー置換基で任意に置換されていてもよいナフチル基、アンスリル基又はフェナンスリル基を意味する。〕で表される光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体及びその製造原料である式〔II〕
【0014】
【化12】


【0015】〔式中、R1、R2及びArは、前記と同じ。〕で表される光学活性β−アミノアルコール化合物に関する。
【0016】さらに、式〔III〕
【0017】
【化13】


【0018】(式中、R3及びR4は互いに相異なり、C1-C10アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、C2-C10アルケニル基、C2-C10アルキニル基、C3-C10シクロアルケニル基、C7-C11アラルキル基、C6-C14アリル基を示す。また、R3及びR4は一体となって環状構造をとってもよい)で表されるカルボニル化合物を式〔I〕で表される光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体により還元することを特徴とする式〔IV〕
【0019】
【化14】


【0020】(式中、R3及びR4は、前記と同じ。*は光学活性中心を示す)で表される光学活性アルコール化合物の製法に関する。又、式〔V〕
【0021】
【化15】


【0022】[式中、Xが結合を表すとき、R5は、CHO 、CH(OR9)(OR10)(R9、R10はそれぞれ独立に水素、C1-C3アルキル基を示すか又は一緒になってC2-C5アルキレンを意味する)、CH2OR11(R11は水素、C1-C3アルキル基、メチル基若しくはメトキシ基で置換されていてもよいベンジル、トリチル、テトラヒドロピラニル、メトキシメチル、トリメチルシリル、ジメチル-tert-ブチルシリル、ジフェニル-tert-ブチルシリルを意味する。) 、CH2R12(R12はフルオロ、クロロ、ブロム又はヨードを意味する) 、CN、CO2R13(R13は、水素、C1-C4アルキル基、メチル基若しくはメトキシ基で置換されていてもよいベンジルを意味する。) 、CONR14R15(R14、R15はそれぞれ独立に水素、C1-C3アルキル基、ベンジル、1-メチルベンジルメチル基若しくはメトキシ基で置換されていてもよいフェニルを意味する) を意味する。Xが、-CH2-、-CH2CH2-、-CH=CH- 、-(CH3)C=CH- 、-CH=C(CH3)- 又は-C≡C-を表すとき、R5は水素原子、トリアルキルシリル基、炭素環脂肪族基、炭素環芳香族基、複素環芳香族基、縮合複素環芳香族基、鎖状不飽和脂肪族基、環状不飽和脂肪族基を表す。
【0023】Y及びZは各々独立に-CO-又は-CH(OH)-を意味し、両者が共に-CH(OH)-を表すことはない。R6は水酸基、C1-C10アルコキシ基、OM基(Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、NHR'3(R'は水素原子、C1-C3アルキル、C3-C7シクロアルキル、C2-C5アルケニル、フェニル、ベンジルを表わす))又はC0-C7アミノ基を示す。]で表されるカルボニル化合物を、式〔I〕で表される光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体により還元することを特徴とする式〔VI〕
【0024】
【化16】


【0025】(式中、R5、R6及びXは前記に同じ。*は光学活性中心を示し、両者は互いにsyn の立体構造をとる)で表される光学活性1,3-syn-ジオール化合物の製法に関する。
【0026】特に式〔V-1〕
【0027】
【化17】


【0028】(式中、R6は前記に同じ。R7は、C1-C7アルキル又はC3-C7シクロアルキル基を示す。R8は、C1-C7アルキル基、フロオロ、クロロ又はブロモにより任意に置換されていてもよいフェニルを意味する。) で表される1,3-ジカルボニル化合物を、式〔I〕で表される光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体により還元することを特徴とする式〔VI-1〕
【0029】
【化18】


【0030】(式中、R6、R7及びR8は前記に同じ。*は光学活性中心を示し、両者は互いにsynの立体構造をとる)の製法及び式〔V-2〕
【0031】
【化19】


【0032】(式中、R5及びR6は前記に同じ。)で表される1,3-ジカルボニル化合物を、式〔I〕で表される光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体により還元することを特徴とする式〔VI-2〕
【0033】
【化20】


【0034】(式中、R5及びR6は前記に同じ。*は光学活性中心を示し、両者は互いにsyn の立体構造をとる)で表される光学活性1,3-syn-ジオール化合物の製法に関する。
【0035】本明細書中、nはノルマル、iはイソ、secはセカンダリー、tertはターシャリ、Meはメチル、Etはエチル、Buはブチル、Phはフェニル、THFはテトラヒドロフランをそれぞれ表す。
【0036】本発明化合物について具体的に説明する。式〔I〕及び〔II〕のR1の置換基として、以下のものが挙げられる。C1-C8アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル及びn-オクチル基等が挙げられる。
【0037】C3-C7シクロアルキルとしては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチル基等が挙げられる。
【0038】C7-C11アラルキルとしては、ベンジル、o-メチルベンジル、m-メチルベンジル、p-メチルベンジル、p-クロロベンジル、1-メチルベンジル、フェネチル、o-メチルフェネチル、m-メチルフェネチル、p-メチルフェネチル、3-フェニルプロピル、3-(o-メチルフェニル)プロピル、3-(m-メチルフェニル)プロピル、3-(p-メチルフェニル)プロピル、4-フェニルブチル、α−ナフチルメチル及びβ−ナフチルメチル等が挙げられる。
【0039】C6-C10アリル基としては、フェニル、o-トリル、m-トリル、p-トリル、2,3-ジメチルフェニル、2,4-ジメチルフェニル、2,5-ジメチルフェニル、2,6-ジメチルフェニル、3,4-ジメチルフェニル、3,5-ジメチルフェニル、2,3,4-トリメチルフェニル、2,3,5-トリメチルフェニル、2,3,6-トリメチルフェニル、3,4,5-トリメチルフェニル、3,4,6-トリメチルフェニル、2,4,6-トリメチルフェニル、α−ナフチル及びβ−ナフチル基等が挙げられる。
【0040】R2の置換基のC1-C8アルキル、C3-C7シクロアルキル及びC7-C11アラルキルは、R1の置換基と同意義である。
【0041】Arは、1〜3個のハロゲン原子、ニトロ、C1-C6アルキル、C3-C7シクロアルキル、C2-C6アルケニル、C2-C6アルキニル、C7-C11アラルキル、C6-C10アリル、C1-C6アルコキシ基若しくはスチレンポリマー置換基で任意に置換されていてもよいナフチル基、アンスリル基又はフェナンスリル基を意味するが、各置換基を以下に説明する。
【0042】ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0043】C1-C6アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル及びn-ヘキシル基等を挙げることができる。
【0044】C3-C7シクロアルキルは、R1の置換基と同意義である。C2-C6アルケニルとしては、ビニル、2-プロペニル、3-ブテニル、4-ペンテニル及び5-ヘキセニル等が挙げられる。
【0045】C2-C6アルキニルとしては、エチニル、2-プロピニル、3-ブチニル、4-ペンチニル及び5-ヘキシニル基等が挙げられる。
【0046】C1-C6アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、i-プロポキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペントキシ及びn-ヘキソキシ基等が挙げられる。
【0047】式〔I〕及び〔II〕で表される本発明化合物としては、第1表に記載する化合物を例示することができるが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。なお、Meはメチル基を、t-Buはターシャリブチル基を、Phはフェニル基を表わす。
【0048】
【表1】


【0049】
【表2】


【0050】
【表3】


【0051】
【表4】


【0052】
【表5】


【0053】
【表6】


【0054】
【表7】


【0055】
【表8】


【0056】
【表9】


【0057】
【表10】


【0058】
【表11】


【0059】
【表12】


【0060】
【表13】


【0061】
【表14】


【0062】
【表15】


【0063】
【表16】


【0064】
【表17】


【0065】
【表18】


【0066】
【表19】


【0067】
【表20】


【0068】
【表21】


【0069】
【表22】


【0070】
【表23】


【0071】
【表24】


【0072】
【表25】


【0073】
【表26】


【0074】
【表27】


【0075】
【表28】


【0076】次にボラン錯体〔I〕の合成法及びこれを用いたカルボニル化合物類の不斉反応について詳細に説明する。
【0077】本発明により提供される光学活性β−アミノアルコール化合物〔II〕及びそのボラン錯体〔I〕は、公知の方法〔実験化学講座17有機化合物の反応(下)P25、P. Karrer, P. Portmann and M. Suter, Helv. Chim. Acta, 31, 1617 (1948); P. Karrer and P. Portmann, ibid., 32, 1034 (1949); P. Karrer, P. Portmann and M. Suter, ibid., 32, 1156 (1949); R. R. Gebhard and P. Karrer, ibid., 38, 915 (1955); Synthetic Methods of Organic Chemistry Vol. 11, 52; H. Bauer, E. Adams and H. Tabor, Biochem. Prep. 4, 46 (1955) 〕によりアミノ酸エステルより容易に得られる光学活性β−アミノアルコール〔VIII〕を原料に用いて2〜3工程で容易に高収率で製造することができる。
【0078】次の反応式は、式〔I〕で表される光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体及び式〔II〕で表される光学活性β−アミノアルコール化合物の合成ルートを示したものである。式中、R1、R2及びArは前記と同じ意味を表す。
【0079】
【化21】


【0080】A工程は、アミノ酸エステル〔VII〕のエステル部分のアルコール〔VIII〕への還元反応である。還元剤としては、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ジアルコキシアルミニウムナトリウム又は水素化ホウ素リチウム等を用いることができ、好ましくは、水素化アルミニウムリチウムを用いるのがよい。反応溶媒は、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-又は1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒を用いることができ、好ましくは、ジエチルエーテル又はテトラヒドロフランを用いるのがよい。反応温度は、−78℃〜60℃までの範囲内で行うことができ、好ましくは、−10℃〜20℃の範囲で行うのがよい。
【0081】B工程は、A工程で得られたβ−アミノアルコール〔VIII〕と芳香族アルデヒドとの脱水縮合反応によるオキサゾリジン環の形成反応である。反応溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール又はi-プロパノール等のアルコール系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、ジクロロメタン、1,1-及び1,2-ジクロロエタン、クロロホルム又は四塩化炭素等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-又は1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒を用いることができ、好ましくは、メタノール、アセトニトリル又はテトラヒドロフランを用いるのがよい。反応温度は、−78℃〜60℃までの範囲内で行うことができ、好ましくは、−10℃〜30℃の範囲で行うのがよい。
【0082】C工程は、B工程で得られたオキサゾリジン体〔IX〕を還元的に開環することによってN−(アリル)メチル−β−アミノアルコール体〔II〕を得る反応である。還元剤としては、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ジアルコキシアルミニウムナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム又は水素化ホウ素ナトリウム等を用いることができ、好ましくは、水素化ホウ素カリウム又は水素化ホウ素ナトリウムを用いるのがよい。反応溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール又はi-プロパノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-又は1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒を用いることができ、好ましくは、メタノール、エタノール又はテトラヒドロフランを用いるのがよい。反応温度は、−78℃〜60℃までの範囲内で行うことができ、好ましくは、−10℃〜20℃の範囲で行うのがよい。
【0083】D工程は、N−(アリル)メチル−β−アミノアルコール体〔II〕の別途合成ルートである。すなわち、β−アミノアルコール体〔VIII〕と相当するスルホン酸のアリルメチルエステルとの反応により、N−(アリル)メチル−β−アミノアルコール体〔II〕を得ようとするものである。アリルメチル基を有するスルホネートとしては、メシレート、ベンゼンスルホネート、p−クロロベンゼンスルホネート、p−トルエンスルホネート、p−ニトロベンゼンスルホネート又はトリフルオロメタンスルホネート等を用いることができる。好ましくは、メシレートを用いるのがよい。塩基としては、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ピリジン、DBU(1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕−7−ウンデセン)やDBN(1,5−ジアザビシクロ〔4.3.0〕−5−ノネン)等の3級又は不飽和アミンを用いることができる。好ましくは、トリエチルアミンを用いるのがよい。反応溶媒は、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-又は1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、ジクロロメタン、1,1-及び1,2-ジクロロエタン、クロロホルム又は四塩化炭素等のハロゲン系溶媒を用いることができる。好ましくは、ジクロロメタン又はクロロホルムを用いるのがよく、より好ましくはジクロロメタンを用いるのがよい。反応温度は、−78℃〜60℃までの範囲内で行うことができ、好ましくは、−10℃〜30℃の範囲で行うのがよい。
【0084】E工程は、C工程又はD工程で得られたN−(アリル)メチル−β−アミノアルコール体〔II〕とボラン試薬との反応により、β−アミノアルコキシボラン錯体〔I〕を合成する反応である。ボラン試薬としては、ボラン・テトラヒドロフラン錯体、ボラン・ジエチルエーテル錯体、ボラン・ピリジン錯体、ボラン・アンモニア錯体、ボラン・tert-ブチルアミン錯体、ボラン・N,N-ジエチルアニリン錯体、ボラン・N,N-ジイソプロピルエチルアミン錯体、ボラン・ジメチルアミン錯体、ボラン・4-ジメチルアミノピリジン錯体、ボラン・4-エチルモルホリン錯体、ボラン・メチルスルフィド錯体、ボラン・トリメチルアミン錯体、ボラン・トリフェニルホスフィン錯体、ボラン・トリフェニルホスファイト錯体等を用いることができる。好ましくは、ボラン・テトラヒドロフラン錯体又はボラン・ジエチルエーテル錯体を用いるのがよく、より好ましくは、ボラン・テトラヒドロフラン錯体を用いるのがよい。反応溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール又はi-プロパノール等のアルコール系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、ジクロロメタン、1,1-及び1,2-ジクロロエタン、クロロホルム又は四塩化炭素等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-又は1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒を用いることができる。好ましくは、メタノール、ジクロロメタン、ジエチルエーテル又はテトラヒドロフランを用いるのがよく、より好ましくはテトラヒドロフランを用いるのがよい。反応温度は、−100℃〜80℃までの範囲内で行うことができ、好ましくは、−78℃〜40℃の範囲で行うのがよい。
【0085】又、β−アミノアルコキシボラン錯体〔I〕は、光、水、熱的に安定であり、加えて種々の溶媒に対する溶解性もよく、実験操作上極めて取り扱いやすい利点を有している。更に場合によっては、β−アミノアルコキシボラン錯体〔I〕は、単離して使用しなくとも、カルボニル化合物の還元反応の際に、N−(アリル)メチル−β−アミノアルコール体〔II〕とボラン試薬を反応系に加え、系内で錯体を生成させて用いることもできる。
【0086】E工程で得られた光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体〔I〕を用いてカルボニル化合物〔III〕あるいは〔V〕を立体選択的に還元し、それぞれ対応する光学活性アルコール化合物〔IV〕あるいは〔VI〕を得ることができる。
【0087】
【化22】


【0088】式〔III〕、〔IV〕、〔V〕あるいは〔VI〕で表される化合物の各置換基を以下に説明する。
【0089】R3及びR4は互いに相異なり、C1-C10のアルキル基、C3-C10のシクロアルキル基、C2-C10のアルケニル基、C2-C10のアルキニル基、C3-C10のシクロアルケニル基、C7-C11のアラルキル基、C6-C14のアリル基を示す。また、R3及びR4は一体となって環状構造をとってもよい。
【0090】C1-C10アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デカニル基等を挙げることができる。
【0091】C3-C10シクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデカニル基等が挙げられる。
【0092】C2-C10アルケニル基としては、ビニル、1-プロペニル、1-メチルエテニル、2-プロペニル、1,2-ジメチル-1-プロペニル、1-ブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニル基等が挙げられる。
【0093】C2-C10アルキニル基としては、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、3-メチル-1-ブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニニル、1-デシニル基等が挙げられる。
【0094】C3-C10シクロアルケニル基としては、2-シクロプロペニル、1-シクロブテニル、3-シクロペンテニル、1-シクロヘキセニル、2-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0095】C7-C11アラルキル基としては、R1の置換基と同意義である。
【0096】C6-C14アリル基としては、フェニル、o-トリル、m-トリル、p-トリル、2,3-ジメチルフェニル、2,4-ジメチルフェニル、2,5-ジメチルフェニル、2,6-ジメチルフェニル、3,4-ジメチルフェニル、3,5-ジメチルフェニル、2,3,4-トリメチルフェニル、3,4,6-トリメチルフェニル、2,4,6-トリメチルフェニル、2-クロロフェニル、3-クロロフェニル、4-クロロフェニル、3,4-ジクロロフェニル、2-メトキシフェニル、3-メトキシフェニル、4-メトキシフェニル、3,4-ジメトキシフェニル、3-ニトロフェニル、α- ナフチル、β- ナフチル、(2-メチル)-1-ナフチル、(3-メチル)-1-ナフチル、(4-メチル)-1-ナフチル、(5-メチル)-1-ナフチル、(6-メチル)-1-ナフチル、(7-メチル)-1-ナフチル、(8-メチル)-1-ナフチル、(1-メチル)-2-ナフチル、(3-メチル)-2-ナフチル、(4-メチル)-2-ナフチル、(5-メチル)-2-ナフチル、(6-メチル)-2-ナフチル、(7-メチル)-2-ナフチル、(8-メチル)-2-ナフチル、(2-エチル)-1-ナフチル、(3-エチル)-1-ナフチル、(4-エチル)-1-ナフチル、(5-エチル)-1-ナフチル、(6-エチル)-1-ナフチル、(7-エチル)-1-ナフチル、(8-エチル)-1-ナフチル、(1-エチル)-2-ナフチル、(3-エチル)-2-ナフチル、(4-エチル)-2-ナフチル、(5-エチル)-2-ナフチル、(6-エチル)-2-ナフチル、(7-エチル)-2-ナフチル、(8-エチル)-2-ナフチル、(2-プロピル)-1-ナフチル、(3-プロピル)-1-ナフチル、(4-プロピル)-1-ナフチル、(5-プロピル)-1-ナフチル、(6-プロピル)-1-ナフチル、(7-プロピル)-1-ナフチル、(8-プロピル)-1-ナフチル、(1-プロピル)-2-ナフチル、(3-プロピル)-2-ナフチル、(4-プロピル)-2-ナフチル、(5-プロピル)-2-ナフチル、(6-プロピル)-2-ナフチル、(7-プロピル)-2-ナフチル、(8-プロピル)-2-ナフチル、1-アンスリル、2-アンスリル9-アンスリル、1-フェナンスリル、2-フェナンスリル、3-フェナンスリル、4-フェナンスリル、9-フェナンスリル基等が挙げられる。
【0097】又、R3及びR4が一体となった環状構造としては、1-メチルシクロブタノン、2,2-ジメチルシクロブタノン、2,2-ジエチルシクロブタノン、2,2-ジ-n-プロピルシクロブタノン、2,2-ジ-i-プロピルシクロブタノン、2,2-ジ-n-ブチルシクロブタノン、2,2-ジ-i-ブチルシクロブタノン、2,2-ジ-sec-ブチルシクロブタノン、2,2-ジ-tert-ブチルシクロブタノン、2,2-ジ-n-ペンチルシクロブタノン、2,2-ジ-n-ヘキシルシクロブタノン、1-メチルシクロペンタノン、2,2-ジメチルシクロペンタノン、2,2-ジエチルシクロペンタノン、2,2-ジ-n-プロピルシクロペンタノン、2,2-ジ-i-プロピルシクロペンタノン、2,2-ジ-n-ブチルシクロペンタノン、2,2-ジ-i-ブチルシクロペンタノン、2,2-ジ-sec-ブチルシクロペンタノン、2,2-ジ-tert-ブチルシクロペンタノン、2,2-ジ-n-ペンチルシクロペンタノン、2,2-ジ-n-ヘキシルシクロペンタノン、トリメチルシクロヘキサノン、2,2-ジメチルシクロヘキサノン、2,2-ジエチルシクロヘキサノン、2,2-ジ-n-プロピルシクロヘキサノン、2,2-ジ-i-プロピルシクロヘキサノン、2,2-ジ-n-ブチルシクロヘキサノン、2,2-ジ-i-ブチルシクロヘキサノン、2,2-ジ-sec-ブチルシクロヘキサノン、2,2-ジ-tert-ブチルシクロヘキサノン、2,2-ジ-n-ペンチルシクロヘキサノン、2,2-ジ-n-ヘキシルシクロヘキサノン、シクロブテノン、2-シクロペンテノン、2-シクロヘキセノン、2-シクロインダノン、1-テトラロン等が挙げられる。
【0098】Xは結合、-CH2- 、-CH2CH2-、-CH=CH- 、-(CH3)C=CH- 、-CH=C(CH3)- 又は-C≡C-を表す。
【0099】Xが結合を表すとき、R5は、CHO 、CH(OR9)(OR10)(R9、R10はそれぞれ独立に水素、C1-C3アルキル基を示すか又は一緒になってC2-C5アルキレンを意味する)、CH2OR11(R11は水素、C1-C3アルキル基、メチル基若しくはメトキシ基で置換されていてもよいベンジル、トリチル、テトラヒドロピラニル、メトキシメチル、トリメチルシリル、ジメチル-tert-ブチルシリル、ジフェニル-tert-ブチルシリルを意味する。) 、CH2R12(R12はフルオロ、クロロ、ブロム又はヨードを意味する) 、CN、CO2R13(R13は、水素、C1-C4アルキル基、メチル基若しくはメトキシ基で置換されていてもよいベンジルを意味する。) 、CONR14R15(R14、R15はそれぞれ独立に水素、C1-C3アルキル基、ベンジル、1-メチルベンジル、メチル基若しくはメトキシ基で置換されていてもよいフェニルを意味する) を意味する。
【0100】R9及びR10としては、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基が挙げられ、又R9及びR10が一緒になってエチレン、トリメチレン、2,2-ジメチル-1,3-トリメチレンを挙げることができる。R11としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、o-メチルベンジル、m-メチルベンジル、p-メチルベンジル、o-メトキシベンジル、m-メトキシベンジル、p-メトキシベンジル、トリチル、テトラヒドロピラニル、メトキシメチル、トリメチルシリル、ジメチル-tert-ブチルシリル、ジフェニル-tert-ブチルシリルが挙げられる。R12としては、フルオロ、クロロ、ブロム又はヨードが挙げられる。R13としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、o-メチルベンジル、m-メチルベンジル、p-メチルベンジル、o-メトキシベンジル、m-メトキシベンジル、p-メトキシベンジルが挙げられる。R14及びR15としては、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、ベンジル、1-メチルベンジル、o-メチルフェニル、m-メチルフェニル、p-メチルフェニル、o-メトキシフェニル、m-メトキシフェニル、p-メトキシフェニルが挙げられる。
【0101】Xが、-CH2-、-CH2CH2-、-CH=CH- 、-(CH3)C=CH- 、-CH=C(CH3)- 又は-C≡C-を表すとき、R5は、水素原子、トリアルキルシリル基、炭素環脂肪族基、炭素環芳香族基、複素環芳香族基、縮合複素環芳香族基、鎖状不飽和脂肪族基、又は環状不飽和脂肪族基を表す。
【0102】トリアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリ-n-プロピルシリル、トリ-i-プロピルシリル、トリ-n-ブチルシリル、トリ-i-ブチルシリル、トリ-n-ヘキシルシリル、ジメチルエチルシリル、ジメチル-n-プロピルシリル、ジメチル-n-ブチルシリル、ジメチル-i-ブチルシリル、ジメチル-tert-ブチルシリル、ジメチル-n-ペンチルシリル、ジメチル-n-オクチルシリル、ジメチルシクロヘキシルシリル、ジメチルテキシルシリル、ジメチル-2,3- ジメチルプロピルシリル、ジメチル-2-(ビシクロヘプチル) シリル、ジメチルベンジルシリル、ジメチルフェニルシリル、ジメチル-p-トリルシリル、ジメチルフロフェメシルシリル、メチルジフェニルシリル、トリフェニルシリル、ジフェニル-tert-ブチルシリル、トリベンジルシリル、ジフェニルビニルシリル、ジフェニル-n-ブチルシリル、フェニルメチルビニルシリル等を挙げることができる。
【0103】炭素環脂肪族基としては、例えばR7から選ばれた1〜2個、C2-C6アシルオキシ、ヒドロキシ基によって置換されていてもよいヘキサヒドロナフチル基、テトラヒドロナフチル基等が挙げられ、特に
【0104】
【化23】


【0105】等を挙げることができる。
【0106】炭素環芳香族基としては、例えばそれぞれR7から選ばれた1〜3個及び/又はR8から選ばれた1〜2個の置換基によって置換されていてもよいフェニル基及びナフチル基が挙げられ、特に
【0107】
【化24】


【0108】等を挙げることができる。
【0109】複素環芳香族基としては、例えばそれぞれR7から選ばれた1〜3個、C1-C3 アルコキシメチル、フェニルカルバモイル及び/又はR8から選ばれた1〜2個の置換基によって置換されていてもよいピリジル基、ピリミジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、ピロリル基、チエニル基及びフラニル基等が挙げられ、特に
【0110】
【化25】


【0111】等を挙げることができる。
【0112】縮合複素環芳香族基としては、例えばそれぞれR7から選ばれた1〜3個、C1-C3 アルコキシメチル、フェニルカルバモイル及び/又はR8から選ばれた1〜2個の置換基によって置換されていてもよいインドリル基、キノリル基、ピラゾロピリジル、チエノピリジル基、ピロロピリジル基及びイソキノリノニル基等が挙げられ、特に
【0113】
【化26】


【0114】等を挙げることができる。
【0115】鎖状不飽和脂肪族基としては、例えばR7から選ばれた1個、R8から選ばれた1〜2個及び/又はテトラゾリル基によって置換されていてもよいエテニル基やエチニル基等が挙げられ、特に
【0116】
【化27】


【0117】等を挙げることができる。
【0118】環状不飽和脂肪族基としては、例えばR7から選ばれた1〜4個及び/又はR8から選ばれた1〜2個の置換基によって置換されていてもよいシクロヘキセニル基等が挙げられ、特に
【0119】
【化28】


【0120】等を挙げることができる。
【0121】Y及びZは各々独立に-CO-又は-CH(OH)-を意味し、両者が共に-CH(OH)-を表すことはない。R6は水酸基、C1-C10アルコキシ基、金属オキシ基又はC0-C7アミノ基を表す。
【0122】C1-C10アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、i-プロポキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキシルオキシ、n-ヘプチルオキシ、n-オクチルオキシ、n-ノニルオキシ、n-デカニルオキシ、シクロプロピルオキシ、シクロブチルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロヘプチルオキシ、シクロオクチルオキシ、シクロノニルオキシ、シクロデカニルオキシ、2-プロペニルオキシ、cis-2-ブテニルオキシ、trans-2-ブテニルオキシ、β-メタクリルオキシ、ベンジルオキシ、o-メチルベンジルオキシ、m-メチルベンジルオキシ、p-メチルベンジルオキシ、フェノキシ、o-メチルフェノキシ、m-メチルフェノキシ、p-メチルフェノキシ、2,3-ジメチルフェノキシ、2,4-ジメチルフェノキシ、2,5-ジメチルフェノキシ、2,6-ジメチルフェノキシ、3,4-ジメチルフェノキシ、3,5-ジメチルフェノキシ、α-ナフチルオキシ及びβ-ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0123】OM基はカルボン酸塩基を表わし、Mとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、NHR'3(R'は水素原子、C1-C3アルキル、C3-C7シクロアルキル、C2-C5アルケニル、フェニル、ベンジル)を表わし、特にナトリウム、カルシウム、アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリ-n-プロピルアンモニウム、トリベンジルアンモニウム、トリフェニルアンモニウム、トリシクロヘキシルアンモニウム及びトリビニルアンモニウム等を挙げることができる。
【0124】C0-C7アミノ基としては、アミノ、メチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、n-プロピルアミノ、i-プロピルアミノ、メチルエチルアミノ、n-ブチルアミノ、i-ブチルアミノ、sec-ブチルアミノ、tert-ブチルアミノ、メチル-n- プロピルアミノ、メチル-i-プロピルアミノ、ジエチルアミノ、n-ペンチルアミノ、メチル-n-ブチルアミノ、メチル-i-ブチルアミノ、メチル-sec-ブチルアミノ、メチル-tert-ブチルアミノ、エチル-n-プロピルアミノ、エチル-i-プロピルアミノ、n-ヘキシルアミノ、メチル-n-ペンチルアミノ、エチル-n-ブチルアミノ、エチル-i-ブチルアミノ、エチル-sec-ブチルアミノ、エチル-tert-ブチルアミノ、ジ-n-プロピルアミノ、n-プロピル-i-プロピルアミノ、ジ-i-プロピルアミノ、シクロプロピルアミノ、シクロブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、ジシクロヘキシルアミノ、N-メチル-N- フェニルアミノ、α-メチルベンジルアミノ、1-アジリジニル、1-アゼチジニル、1 、ピロリジニル、1-ピペリジニル、1-ピロリル基等を挙げることができる。
【0125】R7は、C1-C8アルキル基又はC3-C7シクロアルキル基を示し、C1-C8アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル及びn-ヘプチル基等が挙げられ、C3-C7シクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチル等が挙げられる。
【0126】R8は、C1-C7アルキル基、フロオロ、クロロ又はブロモにより任意に置換されていてもよいフェニルを意味し、フェニル、3-メチルフェニル、4-メチルフェニル、3,5-ジメチルフェニル、3-エチルフェニル、4-エチルフェニル、3,5-ジエチルフェニル、3-メチル-5- エチルフェニル、3-n-プロピルフェニル、4-n-プロピルフェニル、3,5-ジ-n-プロピルフェニル、3-i-プロピルフェニル、4-i-プロピルフェニル、3,5-ジ-i-プロピルフェニル、3-フルオロフェニル、4-フルオロフェニル、3,5-ジフルオロフェニル、3-クロロフェニル、4-クロロフェニル、3,5-ジクロロフェニル、3-フルオロ-4-クロロフェニル、3-ブロモフェニル、4-ブロモフェニル、3,5-ジブロモフェニル等が挙げられる。
【0127】この反応の反応溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール又はi-プロパノール等のアルコール系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、ジクロロメタン、1,1-及び1,2-ジクロロエタン、クロロホルム又は四塩化炭素等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-又は1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒を用いることができ、好ましくは、メタノール、ジクロロメタン、ジエチルエーテル又はテトラヒドロフランを用いるのがよく、より好ましくはテトラヒドロフランを用いるのがよい。反応温度は、−100℃〜80℃までの範囲内で行うことができ、好ましくは、−78℃〜40℃の範囲で行うのがよく、より好ましくは−10℃〜30℃の範囲内で行うのがよい。
【0128】又、この反応を化学量論的に行う場合は、β−アミノアルコキシボラン錯体〔I〕をカルボニル化合物〔III〕に対して1〜2等量、〔V〕に対しては2〜3等量を用いる。一方、この反応を触媒的に行う場合は、β−アミノアルコール〔II〕を0.1 〜20mol%、好ましくは1 〜10mol%用い、ボラン試薬としては、ボラン・テトラヒドロフラン錯体、ボラン・ジエチルエーテル錯体、ボラン・ピリジン錯体、ボラン・アンモニア錯体、ボラン・tert-ブチルアミン錯体、ボラン・N,N-ジエチルアニリン錯体、ボラン・N,N-ジイソプロピルエチルアミン錯体、ボラン・ジメチルアミン錯体、ボラン・4-ジメチルアミノピリジン錯体、ボラン・4-エチルモルホリン錯体、ボラン・メチルスルフィド錯体、ボラン・トリメチルアミン錯体、ボラン・トリフェニルホスフィン錯体、ボラン・トリフェニルホスファイト錯体等を用いることができる。好ましくは、ボラン・テトラヒドロフラン錯体又はボラン・ジエチルエーテル錯体を用いるのがよく、より好ましくは、ボラン・テトラヒドロフラン錯体を用いるのがよい。又、触媒反応を進行させるために、メタノール、エタノール、n-プロパノール又はi-プロパノール等のアルコール系溶媒、好ましくはメタノール又はエタノール、より好ましくはメタノールを3〜10等量、より好ましくは、3〜6等量の範囲で用いるのがよい。
【0129】1,3-ジカルボニル化合物の不斉還元反応において、syn選択性を向上させるために、ボラン試薬、アルミニウム試薬、ケイ素試薬、スズ試薬、リン試薬、チタン試薬、亜鉛試薬、マグネシウム試薬、カルシウム試薬等の金属試薬を用いることができる。
【0130】ボラン試薬としては、ジエチルメトキシボラン、トリメトキシボラン、トリ-n-ブトキシボラン、カテコールボラン等のアルコキシボラン試薬、トリエチルボラン、トリフェニルボラン、トリ-n-ブチルボラン、トリ-sec-ブチルボラン、トリ-tert-ブチルボラン等のトリアルキルボラン試薬、サイアミルボラン、ビシクロ[3.3.1]ノナ-9-ボラン(9-BBN)等のジアルキルボラン試薬などが挙げられる。
【0131】アルミニウム試薬としては、アルミニウムトリ-i-プロポキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリ-n-ブトキシド、アルミニウムトリ-sec-ブトキシド等のアルミニウムトリアルコキシド試薬、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジ-n-プロピルアルミニウムエトキシド、ジ-i-プロピルアルミニウムエトキシド等のアルキルアルミニウムアルコキシド試薬などが挙げられる。
【0132】ケイ素試薬としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラフェノキシシラン等のテトラアルコキシラン試薬、トリメトキシ(メチル)シラン、トリエトキシ(メチル)シラン、トリメトキシ(フェニル)シラン、トリエトキシ(フェニル)シラン、トリエトキシ(ビニル)シラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシラン試薬、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシ(メチル)ビニルシラン、ジエトキシ(メチル)シラン、ジメトキシ(エチル)ビニルシラン、ジエトキシ(メチル)ビニルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、等のジアルコキシラン試薬、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、メトキシ(ジメチル)ビニルシラン、エトキシ(ジメチル)ビニルシラン等のモノアルコキシラン試薬、ジヒドロキシジメチルシラン、ジヒドロキシジエチルシラン、ジヒドロキシジ-n-プロピルシラン、ジヒドロキシジ-i-プロピルシラン、ジヒドロキシジフェニルシラン等のジヒドロキシシラン試薬などが挙げられる。
【0133】スズ試薬としては、酢酸トリ-n-ブチルスズ、二酢酸ジ-n-ブチルスズ、二酢酸ジオクチルスズ等の酢酸(アルキル)スズ試薬、ジメチルジメトキシスズ、ジエチルジメトキシスズ、ジ-n-プロピルジメトキシスズ、ジ-i-プロピルジメトキシスズ、ジ-n-ブチルジメトキシスズ、ジ-i-ブチルジメトキシスズ、ジ-sec-ブチルジメトキシスズ、ジ-tert-ブチルジメトキシスズ等のアルキル(アルコキシ)スズ試薬などが挙げられる。
【0134】リン試薬としては、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリ-i-プロピル、亜リン酸トリ-n-ブチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸トリエステルを挙げることができる。
【0135】チタン試薬としては、テトラエチルオルトチタナート、クロロトリ-i-プロピルオルトチタナート、テトラ-n-プロピルオルトチタナート、チタニウムテトラ-i-プロポキシド、チタニウムテトラ-n-ブトキシド等のチタニウムアルコキシドを挙げることができる。
【0136】亜鉛試薬としては、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、安息香酸亜鉛等のカルボン酸亜鉛、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等のハロゲン化亜鉛、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジ-n-プロピル亜鉛、ジ-i-プロピル亜鉛等のアルキル亜鉛試薬を挙げることができる。
【0137】マグネシウム試薬としては、マグネシウムジメトキシド、マグネシウムジエトキシド、マグネシウムジ-n-プロポキシド、マグネシウム-i-プロポキシド等のマグネシウムアルコキシド試薬を挙げることができる。
【0138】カルシウム試薬としては、カルシウムジメトキシド、カルシウムジエトキシド、カルシウムジ-n-プロポキシド、カルシウム-i-プロポキシド等のカルシウムアルコキシド試薬を挙げることができる。
【0139】これらの金属試薬の中で、より好ましくはジエチルメトキシボラン、アルミニウムトリ-i-プロポキシド、クロロトリ-i-プロピルオルトチタナートを挙げることができ、さらに好ましくはジエチルメトキシボラン及びアルミニウムトリ-i-プロポキシドを挙げることができる。
【0140】金属試薬は、1,3-ジカルボニル化合物に対し、1〜3当量用いることができる。より好ましくは1〜1.2 である。
【0141】
【発明の効果】式〔I〕で表される光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体を用いて式〔V〕で表される1,3-ジカルボニル化合物を簡便な操作で還元することにより、高不斉収率及び高syn選択性で目的とする式〔VI〕で表される光学活性1,3-syn-ジオール化合物を合成することができた。光学活性1,3-syn-ジオールは、高脂血症治療薬(HMG-CoAリダクターゼ阻害剤)の重要な部分構造である。従って、本発明の光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体〔I〕は、代表的なHMG-CoAリダクターゼ阻害剤であるLovastatin, Simvastatin, Pravastatin等の製造に有用である。さらに、本発明の化合物は、種々のカルボニル化合物(式〔III〕)に応用し、高不斉収率で光学活性アルコール化合物(式〔IV〕)を製造することに有効である。
【0142】
【実施例】
実施例1光学活性β−アミノアルコール化合物〔II〕の合成(A,B,C,D工程)(S)-N-(β-ナフチル)メチル-2-ピロリジンメタノール〔(S)-II-1〕の合成
【0143】
【化29】


【0144】(A工程)市販のプロリンエチルエステル〔VII-1〕をエーテル中、氷冷下で水素化アルミニウムリチウムを用いて還元することにより、プロリノール〔VIII-1〕を得た。光学活性な出発原料をもちいることにより、各々対応する光学活性プロリノール〔VIII-1〕を得た。
(B・C工程)(S)-プロリノール〔(S)-VIII-1〕1.000g(9.89mmol)を乾燥アセトニトリル25mlに溶解し、攪拌しながらβ−ナフトアルデヒド1.545g(9.89mmol)を加え24時間攪拌した。アセトニトリルを減圧下留去し、オキサゾリジン体〔(S)-IX-1〕(粗生成物2.55g)を定量的に得た。さらに、このオキサゾリジン体をメタノール20mlに溶解し氷冷後、水素化ホウ素ナトリウム374mg(9.89mmol)を加え、4時間攪拌した。メタノールを減圧下留去し、残査をクロロホルムより再結晶し、S-N-(β-ナフチル)メチル-2-ピロリジンメタノール〔(S)-II-1〕(2.40g) を定量的に得た。
【0145】
【化30】


【0146】[α]D20 -49.8°(C=0.1, CH3OH)IRスペクトル(KBr)νmax cm-1:3200, 3030, 2950, 2850, 1600, 1580, 1420, 1340, 1180, 1020, 850, 820, 7401H-NMR(CDCl3)δppm:7.30-7.83(7H, m, aromatic-H), 2.28-4.23(8H, m, other-H), 1.66-1.90(4H, m, C-CH2CH2-C)
【0147】(R)-N-(β-ナフチル)メチル-2-ピロリジンメタノール〔(R)-II-1〕の合成(R)-プロリノール〔(R)-VIII-1〕を原料として、同様の操作を行い、R-N-(β-ナフチル)メチル-2-ピロリジンメタノール〔(R)-II-1〕を得た。
【0148】
【化31】


【0149】[α]D20 +50.7°(C=0.1, CH3OH)IRスペクトル(KBr)νmax cm-1:3200, 3030, 2950, 2850, 1600, 1580, 1420, 1340, 1180, 1020, 850, 820, 7401H-NMR(CDCl3)δppm:7.30-7.83(7H, m, aromatic-H), 2.28-4.23(8H, m, other-H), 1.66-1.90(4H, m, C-CH2CH2-C)
【0150】(S)-N-(α-ナフチル)メチル-2-ピロリジンメタノール〔(S)-II-2〕の合成同様の操作を、(S)-プロリノール〔(S)-VIII-1〕及びα-ナフトアルデヒドを原料として行い、(S)-N-(α-ナフチル)メチル-2-ピロリジンメタノール〔(S)-II-2〕を得た。
【0151】
【化32】


【0152】[α]D20 -65.6°(C=0.16, CH3OH)IRスペクトル(NaCl)νmax cm-1:3400, 3040, 2950, 2870, 1600, 1500, 1460,1350, 1170, 1040, 800, 790, 7801H-NMR(CDCl3)δppm:7.25-8.30(7H, m, aromatic-H), 2.60-4.55(7H, m, other-H), 2.35(1H, br, OH), 1.65-2.01(4H, m, C-CH2CH2-C)
【0153】(R)-N-(β-ナフチル)メチル-2-フェニルグリシノール〔(R)-II-3〕の合成(R)-フェニルグリシノール〔(R)-VIII-2〕1.00g(7.29mmol)及びβ-ナフトアルデヒドを用いて、同様な操作を行い、(R)-N-(β-ナフチル)メチル-2-フェニルグリシノール(2.01g)〔(R)-II-3〕を定量的に得た。
【0154】
【化33】


【0155】[α]D20 +3.1°(C=0.1, CH3OH)1H-NMR(CDCl3)δppm:7.30-7.80(12H, m, aromatic-H), 3.50-4.30(5H, m, other-H), 2.30(1H, br, OH), 2.02(1H, br s, NH)
【0156】実施例2光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体〔I〕の合成(E工程)
(S)-N-(β-ナフチル)メチル-2-ピロリジンメトキシボラン〔(S)-I-1〕の合成
【0157】
【化34】


【0158】(S)-N-(β-ナフチル)メチル-2-ピロリジンメタノール〔(S)-II-1〕2.41g(10mmol)を乾燥THF50mlに溶解し、攪拌しながら1.0Mボラン・テトラヒドロフラン錯体のテトラヒドロフラン溶液(以下、BH3・THF溶液と略す)を10mlを滴下し、水素ガスの発生が止まってからさらに10分間攪拌した。このボラン錯体をTHF溶液のままカルボニル類の還元に用いた。また、THFを室温で減圧下で留去して、粘性な油状目的物質2.53g(100%)を得た。この物質の物性値は次の通りである。
【0159】IRスペクトル(KBr)νmax cm-1:3030, 2950, 2850, 2350(B-H), 1600, 1450, 1420, 1360, 1280, 1180, 1030, 850, 820, 7501H-NMR(CDCl3)δppm:7.30-7.83(7H, m, aromatic-H), 1.00-5.80(13H, m, other-H)
【0160】化合物〔(R)-II-1〕、〔(S)-II-2〕及び〔(R)-II-3〕を原料として用い、同様の操作を行い、第2表に記載の光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体〔I〕を得た。
【0161】
【表29】


【0162】参考例1(E) 7-[2'-シクロプロピル-4'-(p-フルオロフェニル)キノリン-3'-イル]-3,5-ジオキソ-6-ヘプテン酸エチルの合成窒素気流下で60%水素化ナトリウム2.35g(63.1mmol)を乾燥THF 300mlに懸濁させ、5分間攪拌後氷冷した。アセト酢酸エチル7.47g(57.4mmol)を注射器でゆっくりと滴下し、水素の発生が終わってから15分間攪拌した。ついで、1.6M n-ブチルリチウム37.8ml(60.3mmol)を注射器でゆっくりと滴下後15分間攪拌した。反応液の色が黄色〜橙赤色を呈したことを確認し、(E) 3-[2'-シクロプロピル-4'-(p-フルオロフェニル)キノリン-3'-イル]-2-プロペン酸-N-メチル-N-メトキシアミド6.00g(15.9mmol) [G.B.Reddy, T.Minami, T.Hanamoto, T.Hiyama, J.Org.Chem.,56, 5754, 1991]を乾燥THF100mlに溶かし反応液に滴下後、反応温度を室温まで上げ24時間攪拌した。反応液を氷冷し、1M酢酸水溶液200mlを加えて反応を停止した。水層を分離し、酢酸エチル200mlで2回抽出した後、有機層と合わせ飽和食塩水50mlで2回洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10:1)により精製後、酢酸エチルより再結晶し、標題化合物3.11gを得た。
【0163】MSスペクトル(EI)m/e: 445(M+), 400, 358, 330, 316, 2881H-NMR(CDCl3) δppm :7.97-7.19(8H, m, aromatic-H), 7.71(1H, d, J=16Hz,COCH=C), 6.03(1H, d, J=16Hz, COC=CH), 5.51(1H, s, enol-olefinic-H), 4.21(2H, q, J=7Hz, COOCH2), 3.40(2H, s, COCH2COO), 2.35-2.40(1H, m, CH-c-propyl), 1.39-1.41, 1.07-1.09(4H, m, -CH2CH2-), 1.28(3H, t,J=7Hz, COOCCH3)
【0164】実施例3光学活性N-ナフチルメチル-2-ピロリジンメタノール(化合物〔II〕/BH3)によるモノカルボニル化合物の触媒的不斉還元カルボニル化合物(1mmol)をTHF5mlに溶解し、メタノール192mg(6mmol)および光学活性N-ナフチルメチル-2-ピロリジンメタノール(化合物〔II〕) 23mg(0.1mmol)を加えた後、1MBH3・THF溶液3ml又は10ml(3mmol又は10mmol)を加え、20℃又は30℃の温度条件下で6〜19時間攪拌した。反応液に1N HCl13mlを加え塩析した後、酢酸エチル100mlで抽出後、飽和食塩水10mlで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下で留去して得られた液体を分取用薄層クロマトグラフィーにより精製して、目的とする光学活性アルコールを定量的に得た。
【0165】第3表に光学活性N-ナフチルメチル-2-ピロリジンメタノール(化合物〔II-1〕及び化合物〔II-2〕)を用いた種々のモノカルボニル化合物の不斉還元の結果を示した。得られたアルコール体の不斉収率および絶対配置については、ダイセル化学工業(株)CHIRALCEL OD カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー分析、あるいはラメドらの方法[E. Keinan E. K. Hafeli, K. K. Seth, and R. Lamed, J. Am. Chem. Soc., 108, 162 (1986)]に従い、ウレタン体のジアステレオマーに誘導し、シリカゲルを用いた高速液体クロマトグラフィー分析により、光学活性標品との比較により行った。
【0166】
【表30】


【0167】本発明の化合物〔I〕は、単離するまでもなく、〔II〕より反応系内で生成させることにより、モノカルボニル化合物〔III〕の不斉還元において、触媒量で高い不斉収率を与えた。2-ヘキサノンを基質とした従来技術による不斉還元[J.Chem. Soc. Perkin Trans. I. 2887 (1984), J. Org. Chem. 49, 555 (1984)]では、化学量論量のボラン錯体を用いてもたかだか25%ee[(S)-プロリンの窒素上にポリマー置換基を導入したボラン錯体] 、55%ee[(S)-2-アミノ-3- メチル-1,1-ジフェニルブタン-1-オールボラン錯体] しか得られておらず、本発明化合物の優位性が示された。
【0168】実施例4各種光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体〔I〕による1,3-ジカルボニル化合物〔V〕の不斉還元1,3-ジカルボニル化合物〔V〕1mmol(445.5mg)をTHF30mlに溶解し、攪拌しながら1.0Mジエチルメトキシボラン・THF のTHF 溶液1ml又はアルミニウムトリ-i-プロポキシド1mmol(204.3mg)を加え、窒素ガス気流下で−78℃又は20℃に設定する。この1,3-ジカルボニル化合物〔V〕溶液に実施例2で得られた(S)-N-(β−ナフチル)メチル-2-ピロリジンメトキシボラン錯体〔(S)-I-1〕を滴下し、3時間攪拌する。又、反応系内でボラン錯体を生成させる場合は、実施例1で得られた(S)-N-(β−ナフチル)メチル-2-ピロリジンメタノール〔(S)-I-1〕若しくは各種光学活性β−アミノアルコール(0.1〜3mmol)THF 溶液に1.0MBH3・THF 溶液2〜10ml(2〜10mmol) を1滴づつ滴下する。この溶液を上記1,3-ジカルボニル化合物〔V〕溶液に滴下し、3〜28時間攪拌する。触媒量のβ−アミノアルコールを用いる場合は、さらにメタノール192mg(6mmol)を加える。その後、反応液に酢酸(9mmol,540.5mg)を加え、酢酸エチル300mlで希釈し、飽和食塩水20mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。溶媒を減圧下で留去して得られる橙赤色の液体にメタノール1lを加え、50〜60℃で1時間加熱後メタノールを減圧下で留去する。得られる黄色の液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して目的とする光学活性1,3-syn-ジオール化合物〔VI-1〕を得る。不斉収率(%ee) の算出はダイセル化学工業(株)CHIRALCEL OD カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー分析により行う。第4表に示した還元剤は、実験1〜3ではβ−アミノアルコキシボラン錯体〔(S)-I-1〕を用いた。実験4〜9ではβ−アミノアルコールより反応系内で生成したβ−アミノアルコキシボラン錯体を用いた。実験5及び6では触媒量のβ−アミノアルコール〔(S)-II-1〕を用いた。又、実験6では溶媒としてジクロロメタンを用いた。
【0169】
【表31】


【0170】比較例1従来技術のボラン錯体を用い、実施例4と同様の操作を行った。(第5表)
【0171】
【表32】


【0172】実施例53,5-ジオキソ-6-ヘプチン酸エチル〔V-2〕50mg(0.27mmol)をTHF5ml及びメタノール52mlに溶解し、金属試薬としてアルミニウムトリ-i-プロポキシドを加えるか、あるいは無添加で、1.0MBH3・THF溶液5.4mlおよび実施例1で得られた(S)-N-(β-ナフチル)メチル-2-ピロリジンメタノール〔化合物(S)-II-1〕6.2mg(0.027mmol)を用い、20℃で20時間反応させて、油状の目的物質3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプチン酸エチル〔VI-2〕を得た。
【0173】1H-NMR(CDCl3)δppm:4.81(1H, br, ≡-CH-OH), 4.17(2H, q, J=7Hz, COOCH2),3.60(1H, m, C-CH(OH)-C), 3.04(1H, s, C≡C-H), 1.50-1.65(6H, m, other-H),1.3(3H, t, J=7Hz, COOCH2CH3).IR(NaCl) cm-1:3400(OH), 2220(C≡C), 1720(C=O).
【0174】
【表33】


【0175】本発明の化合物は、1,3-ジカルボニル化合物〔V-1〕及び〔V-2〕の不斉還元において、触媒量で従来技術のボラン錯体触媒より高い不斉収率及び高ジアステレオ選択性(高syn生成率) を与えた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 式〔I〕
【化1】


〔式中、R1はC1-C8アルキル、C3-C7シクロアルキル、C7-C11アラルキル又はC6-C10アリル基を示し、R2は水素原子、C1-C8アルキル、C3-C7シクロアルキル又はC7-C11アラルキル基を示す。又、R1及びR2は一体となって(CH2)n(式中nは3又は4を示す)を形成してもよい。Arは、1〜3個のハロゲン原子、ニトロ、C1-C6アルキル、C3-C7シクロアルキル、C2-C6アルケニル、C2-C6アルキニル、C7-C11アラルキル、C6-C10アリル、C1-C6アルコキシ基若しくはスチレンポリマー置換基で任意に置換されていてもよいナフチル基、アンスリル基又はフェナンスリル基を意味する。〕で表される光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体。
【請求項2】 式〔II〕
【化2】


〔式中、R1はC1-C8アルキル、C3-C7シクロアルキル、C7-C11アラルキル又はC6-C10アリル基を示し、R2は水素原子、C1-C8アルキル又はC7-C11アラルキル基を示す。又、R1及びR2は一体となって(CH2)n(式中nは3又は4を示す)を形成してもよい。Arは、1〜3個のハロゲン原子、ニトロ、C1-C6アルキル、C3-C7シクロアルキル、C2-C6アルケニル、C2-C6アルキニル、C7-C11アラルキル、C6-C10アリル、C1-C6アルコキシ基若しくはスチレンポリマー置換基で任意に置換されていてもよいナフチル基、アンスリル基又はフェナンスリル基を意味する。〕で表される光学活性β−アミノアルコール化合物。
【請求項3】 請求項2記載の式〔II〕で表される光学活性β−アミノアルコール化合物とボラン試薬を反応させ、請求項1記載の式〔I〕で表される光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体を製造する方法。
【請求項4】 式〔III〕
【化3】


(式中、R3及びR4は互いに相異なり、C1-C10アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、C2-C10アルケニル基、C2-C10アルキニル基、C3-C10シクロアルケニル基、C7-C11アラルキル基、C6-C14アリル基を示す。また、R3及びR4は一体となって環状構造をとってもよい)で表されるカルボニル化合物を請求項1記載の光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体により還元することを特徴とする式〔IV〕
【化4】


(式中、R3及びR4は、前記と同じ。*は光学活性中心を示す)で表される光学活性アルコール化合物の製法。
【請求項5】 式〔V〕
【化5】


[式中、Xが結合を表すとき、R5は、CHO 、CH(OR9)(OR10)(R9、R10はそれぞれ独立に水素、C1-C3アルキル基を示すか又は一緒になってC2-C5アルキレンを意味する)、CH2OR11(R11は水素、C1-C3アルキル基、メチル基若しくはメトキシ基で置換されていてもよいベンジル、トリチル、テトラヒドロピラニル、メトキシメチル、トリメチルシリル、ジメチル-tert-ブチルシリル、ジフェニル-tert-ブチルシリルを意味する。) 、CH2R12(R12はフルオロ、クロロ、ブロム又はヨードを意味する) 、CN、CO2R13(R13は、水素、C1-C4アルキル基、メチル基若しくはメトキシ基で置換されていてもよいベンジルを意味する。) 、CONR14R15(R14、R15 はそれぞれ独立に水素、C1-C3アルキル基、ベンジル、1-メチルベンジルメチル基若しくはメトキシ基で置換されていてもよいフェニルを意味する) を意味する。Xが、-CH2-、-CH2CH2-、-CH=CH- 、-(CH3)C=CH- 、-CH=C(CH3)- 又は-C≡C-を表すとき、R5は水素原子、トリアルキルシリル基、炭素環脂肪族基、炭素環芳香族基、複素環芳香族基、縮合複素環芳香族基、鎖状不飽和脂肪族基、環状不飽和脂肪族基を表す。Y及びZは各々独立に-CO-又は-CH(OH)-を意味し、両者が共に-CH(OH)-を表すことはない。R6は水酸基、C1-C10アルコキシ基、OM基(Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、NHR'3(R'は水素原子、C1-C3アルキル、C3-C7シクロアルキル、C2-C5アルケニル、フェニル、ベンジルを表わす))又はC0-C7アミノ基を示す。]で表されるカルボニル化合物を請求項1記載の光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体により還元することを特徴とする式〔VI〕
【化6】


(式中、R5、R6及びXは前記に同じ。*は光学活性中心を示し、両者は互いにsyn の立体構造をとる)の製法。
【請求項6】 式〔V-1〕
【化7】


[式中、R6は水酸基、C1-C10アルコキシ基、OM基(Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、NHR'3(R'は水素原子、C1-C3アルキル、C3-C7シクロアルキル、C2-C5アルケニル、フェニル、ベンジルを表わす))又はC0-C7アミノ基を示す。R7は、C1-C7アルキル又はC3-C7シクロアルキル基を示す。R8は、C1-C7アルキル基、フロオロ、クロロ又はブロモにより任意に置換されていてもよいフェニルを意味する。]で表される1,3-ジカルボニル化合物を請求項1記載の光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体により還元することを特徴とする式〔VI-1〕
【化8】


(式中、R6、R7及びR8は前記に同じ。*は光学活性中心を示し、両者は互いにsynの立体構造をとる)の製法。
【請求項7】 式〔V-2〕
【化9】


[式中、R5は水素原子、トリアルキルシリル基、炭素環脂肪族基、炭素環芳香族基、複素環芳香族基、縮合複素環芳香族基、鎖状不飽和脂肪族基、又は環状不飽和脂肪族基を表す。R6は水酸基、C1-C10アルコキシ基、OM基(Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、NHR'3(R'は水素原子、C1-C3アルキル、C3-C7シクロアルキル、C2-C5アルケニル、フェニル、ベンジルを表わす))又はC0-C7アミノ基を示す。]で表される1,3-ジカルボニル化合物を請求項1記載の光学活性β−アミノアルコキシボラン錯体により還元することを特徴とする式〔VI-2〕
【化10】


(式中、R5及びR6は前記に同じ。*は光学活性中心を示し、両者は互いにsyn の立体構造をとる)で表される光学活性1,3-syn-ジオール化合物の製法。

【公開番号】特開平6−329679
【公開日】平成6年(1994)11月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−332498
【出願日】平成5年(1993)12月27日
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)