説明

光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体の立体選択的な製造方法

【課題】キラルビルディングブロックとして種々の医薬品化合物等の合成の中間体として、特に糖尿病合併症の治療剤として期待されるラニレスタットの合成中間体として有用な、光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体を、立体選択的かつ高収率に調製しうる新規製造方法、及び該方法において有用な新規化合物を提供する。
【解決手段】式I:


で表されるピロリル−コハク酸イミド誘導体又はその光学活性体の製造方法であって、ピロリル−コハク酸誘導体又はその光学活性体を加水分解することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラルビルディングブロックとして種々の医薬品化合物等の合成に有用な、、特に糖尿病合併症の治療剤として期待されるラニレスタット(Ranirestat)の合成中間体として有用な、光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体を、立体選択的かつ高収率に調製しうる新規製造方法、及び該方法において有用な新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト又は動物のための医薬として使用される種々の薬理活性物質の多くは、その分子構造中にキラル中心を含有し、光学活性を有する。そして一般的には、その光学活性体の1つのみが最適な薬理活性を示し、その他の光学活性体は薬理活性が不十分であるか、ときにはヒト又は動物に望ましくない副作用を引き起こす。したがって、医薬は、最適な薬理活性を示す、純粋な光学活性体(鏡像異性体)の形態で投与することが望ましい。
【0003】
ラセミ体を各々の鏡像異性体に分離する操作を光学分割という。光学分割には、ラセミ体を光学活性な固定相を用いるカラムクロマトグラフィーなどにより直接分割する方法;ラセミ体に光学分割剤を作用させジアステレオマーに導き、ジアステレオマー同士の物理的性質の差を利用して分割する方法(例えば、溶解度差を利用する分別結晶法);又は酵素の立体選択性を利用して、ラセミ体の一方の鏡像異性体のみを改質(例えば、脱エステル化)することにより分割する方法などが知られている。
【0004】
これらの方法は、いずれも必要な一方の鏡像異性体のみを回収し、不要な他方の異性体を廃棄しなければならず、環境的にも経済的にも不利である。したがって、当初から必要な化学物質の絶対配置が明らかである場合、キラルビルディングブロックを利用し、予め所望の光学活性を有する化合物のみを合成しうる反応スキームを構築することが有利である。
【0005】
本発明の製造方法により得られるピロリル−コハク酸イミド誘導体は、例えば、糖尿病合併症の治療剤として期待されるラニレスタットの合成中間体として有用である。ラニレスタットは、アルドースリダクターゼ阻害剤として臨床開発中の化合物である。アルドースリダクターゼ阻害剤は、ポリオール代謝経路の主要酵素であり、グルコースをソルビトールに変換するアルドースリダクターゼを阻害することにより、組織内でのソルビトールの蓄積を抑制し、結果として細胞機能の障害を防止することにより、糖尿病合併症の発症や進展の阻止を企図するものである。一般名ラニレスタットの化合物名は、(R)−(−)−2−(4−ブロモ−2−フルオロベンジル)−1,2,3,4−テトラヒドロピロロ[1,2−a]ピラジン−4−スピロ−3’−ピロリジン−1,2’,3,5’−テトロンであり、その化学構造式は下記のとおりである。
【0006】
【化20】

【0007】
ラニレスタットは、その分子中に1個の不斉炭素原子を有するが、上記に示すエナンチオマーが、他方のエナンチオマーよりも強いアルドースリダクターゼ阻害活性を示す(例えば、非特許文献1参照)。そのため、アルドースリダクターゼ阻害作用のより強いエナンチオマーの工業的規模での製造に適した方法の開発が検討されている。
【0008】
ラニレスタットの不斉合成に有用な中間体として光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体が注目されており、そのような中間体として(−)−2−エトキシカルボニル−2−(ピロール−1−イル)コハク酸イミドが報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1では、かかる中間体は、その前駆体である2−ベンジルオキシカルボニルアミノ−2−エトキシカルボニルコハク酸イミドをシンコニジンで分別結晶することにより光学分割したものに、常法によりピロリル基を導入することにより製造される。したがって、上述の欠点を回避しうるものではない。
【0009】
一方、東京大学の柴崎正勝教授らのグループにより、(−)−2−エトキシカルボニル−2−(ピロール−1−イル)コハク酸イミドの新たな不斉合成方法が報告された(例えば、非特許文献2参照)。それは新規なランタン含有不斉合成触媒の存在下に、β−ケトエステル(2−エトキシカルボニルコハク酸イミド)をアゾジカルボン酸ジエステルにより不斉アミノ化した後、常法によりピロリル基を導入するものであり、エナンチオ選択性の高い合成方法として注目される。しかしながら、かかる方法は、触媒として重金属(ランタン)の使用が必須であることに加え、アミノ化試薬であるアゾジカルボン酸ジエステルが高価であり、かつ熱、衝撃、摩擦などにより爆発の危険性があるため、工業的な合成方法として採用するには問題があるであろう。
【非特許文献1】J. Med. Chem. 1998, 41, 4118-4129
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 129, 11342-11343
【特許文献1】特開平6−192222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる現状を踏まえ、キラルビルディングブロックとして種々の医薬品化合物等の合成の中間体として、特に糖尿病合併症の治療剤として期待されるラニレスタットの合成中間体として有用な、光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体を、立体選択的かつ高収率に調製しうる新規製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、該方法において有用な新規化合物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、式Ia:
【0012】
【化21】

【0013】
(式中、R1は、C1-6−アルキル又はアラルキルであり、*は、(R)又は(S)体であるキラル中心を示す)で表される光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体の製造方法であって、
a)式VI:
【0014】
【化22】

【0015】
(式中、R1は、上記と同義である)で表される化合物又はその塩を、2,5−ジメトキシテトラヒドロフランと反応させ、式III:
【0016】
【化23】

【0017】
(式中、R1は、上記と同義である)で表されるピロール誘導体を得る工程、
b)式IIIで表されるピロール誘導体を、溶媒中、塩基性条件下、丸岡触媒の存在下に、式IV:
【0018】
【化24】

【0019】
(式中、R2は、C1-6−アルキル又はアラルキルであり、そしてXは、脱離基である)で表される化合物と反応させ、式IIa:
【0020】
【化25】

【0021】
(式中、R1、R2及び*は、上記と同義である)で表される光学活性ピロリル−コハク酸誘導体を得る工程、及び
c)次いで、式IIaで表される光学活性ピロリル−コハク酸誘導体を加水分解する工程を含むことを特徴とする方法に関する。
【0022】
同様に本発明は、前記工程b)及びc)を含むことを特徴とする、式Iaで表される光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体の製造方法、及び工程a)〜c)の各々を特徴とする式I〜IIIの製造方法にも関する。かかる方法において、丸岡触媒は、式Va:
【0023】
【化26】

【0024】
〔式中、R及びR’は、3,5−ジトリフルオロメチルフェニル又は3,5−ビス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)フェニルである〕で表される化合物であるのが好ましい。
【0025】
また本発明は、式II:
【0026】
【化27】

【0027】
(式中、R1及びR2は、独立して、C1-6−アルキル又はアラルキルである)で表される、ピロリル−コハク酸誘導体又はその光学活性体に関する。さらに本発明は、その前駆体である、式III:
【0028】
【化28】

【0029】
(式中、R1は、C1-6−アルキル又はアラルキルである)で表されるピロール誘導体にも関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明により提供される、式Iaの光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体の製造方法は、キラルビルディングブロックとして種々の医薬品化合物等の合成、特に糖尿病合併症の治療剤として期待されるラニレスタットの合成に有用な中間体を、立体選択的且つ高収率に合成することができる。またその製造方法は、環境への負荷が課題である金属触媒や高価で取り扱いに注意を要する試薬を用いることなく、光学活性相間移動触媒と、安価で安全な試薬とを用いるものであるから、工業的合成方法としても優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本明細書及び特許請求の範囲で用いられる用語の意味を、以下に説明する。別に記載のない限り、本明細書及び特許請求の範囲で用いられる用語は、以下の意義を有する。
【0032】
本明細書において「C1-6−アルキル」とは、単独で又は他の基との組み合わせで、1〜6個の炭素原子を有する、直鎖状又は分岐鎖状の一価の飽和炭化水素基を意味する。C1-6−アルキルの例として、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどが挙げられる。メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルのようなC1-4−アルキルが好ましい。
【0033】
本明細書において「アリール」とは、6〜10個の炭素原子を有する、一価の芳香族炭化水素基を意味する。そのようなアリールの例として、フェニル、ナフチル、トリル、キシリルなどが挙げられる。フェニル又はナフチルが好ましい。
【0034】
本明細書において「アラルキル」とは、前記アルキル基の水素原子のひとつが、前記アリール基で置き換えられたアリールC1-6−アルキル基を意味する。そのようなアラルキルの例として、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチルなどが挙げられる。ベンジルが好ましい。
【0035】
本明細書において「ヘテロシクリル」とは、窒素、酸素又は硫黄から選択される、1、2又は3個のヘテロ原子を含む、5又は6個の環員を有する、飽和又は不飽和の単環式ヘテロ環の一価の基、あるいは前記単環式ヘテロ環がベンゼン又はシクロヘキサンと縮合した二環式ヘテロ環の一価の基を意味する。そのようなヘテロシクリルの例としては、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、フリル、チエニル、チアゾリル、オキサゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピペリジル、モルホリニルなどの単環式ヘテロ環の基、あるいはインドリル、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、キノリン、イソキノリン、テトラヒドロキノリン、テトラヒドロイソキノリンなどの二環式ヘテロ環の基が挙げられる。
【0036】
本明細書において「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味し、好ましくは、フッ素又は塩素である。
【0037】
本明細書において「C1-6−アルコキシ」とは、基−O−R(ここで、Rは、前記アルキル基である)を意味する。C1-6−アルコキシの例として、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブチルオキシ、sec−ブチルオキシ、tert−ブチルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシなどが挙げられる。メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブチルオキシ、sec−ブチルオキシ、tert−ブチルオキシのようなC1-4−アルコキシが好ましい。
【0038】
本明細書において「ハロ−C1-6−アルキル」とは、前記C1-6−アルキルの水素原子の1個以上が、同一又は異なる、前記ハロゲンで置換されているものを意味する。ハロ−C1-6−アルキルの例として、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、2−フルオロエチル、2,2,2−トリフルオロエチルなどが挙げられる。前記C1-4−アルキルの1〜3個の水素原子が、前記ハロゲンで置換されているハロ−C1-4−アルキルが好ましい。
【0039】
本明細書において「ハロ−C1-6−アルコキシ」とは、前記C1-6−アルコキシの水素原子の1個以上が、同一又は異なる、前記ハロゲンで置換されているものを意味する。ハロ−C1-6−アルコキシの例として、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、クロロメトキシ、ジクロロメトキシ、トリクロロメトキシ、2−フルオロエトキシ、2,2,2−トリフルオロエトキシなどが挙げられる。前記C1-4−アルコキシの1〜3個の水素原子が、前記ハロゲンで置換されているハロ−C1-4−アルコキシが好ましい。
【0040】
以下に、本発明の各製造方法を、より具体的に説明する。本発明における式Iaの光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体は、公知の化合物である式VIのα−アミノシアノ酢酸エステル又はその塩から、式IIIのピロール酸誘導体及び式IIaの光学活性ピロリル−コハク酸誘導体を経る、以下のような反応スキームに従って合成することができる。以下に示す反応スキームに沿って、本発明の各誘導体の製造方法について概説する。なお、各工程で得られた化合物は、必要に応じて、適宜慣用の精製工程(例えば、濾過、抽出、蒸留、結晶化、カラムクロマトグラフィーなど)に付して精製される。
【0041】
【化29】


(式中、R1、R2、X及び*は、上記と同義であり、触媒Vは、丸岡触媒であり、具体的には下記に示すとおりである。)
【0042】
まず工程c)より説明する。本発明は式I:
【0043】
【化30】

【0044】
(式中、R1は、C1-6−アルキル又はアラルキルである)で表されるピロリル−コハク酸イミド誘導体又はその光学活性体の製造方法であって、式II:
【0045】
【化31】

【0046】
(式中、R1は、上記と同義であり、R2は、C1-6−アルキル又はアラルキルである)で表されるピロリル−コハク酸誘導体又はその光学活性体を、加水分解することを特徴とする方法に関する。
【0047】
工程c)は、ニトリルの加水分解による酸アミドの合成と、続く分子内環化反応によるコハク酸イミドの生成に基づく。ニトリルの加水分解は、例えば、二酸化マンガンによる中性加水分解、塩酸、硫酸、ポリリン酸などによる酸性加水分解、塩基性イオン交換樹脂などによるアルカリ加水分解、又はアルカリ性過酸化水素による変換など、当業者に公知のいずれかの方法を適宜選択すればよい。
【0048】
本発明の式IIのコハク酸誘導体の加水分解としては、アルカリ性過酸化水素による変換が好ましい。アルカリ性過酸化水素によるニトリルから酸アミドへの変換は、一般に、水又はアルコール、アセトンなどの水溶性有機溶媒中、塩基性条件下に過酸化水素で処理することにより実施することができる。かかる反応に使用される塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどの無機塩基を挙げることができる。また反応は、0〜100℃、好ましくは0〜60℃、特には室温(約25℃)で、0.5〜48時間、好ましくは1〜24時間実施すればよい。また反応の速度を上げるため、少量のDMSOを反応系に添加してもよい。
【0049】
得られた式Iのピロリル−コハク酸イミド誘導体は、出発原料である式IIのピロリル−コハク酸誘導体の光学活性と光学純度を保持している。したがって、工程c)の好ましい実施態様は、式Ia:
【0050】
【化32】

【0051】
(式中、R1は、C1-6−アルキル又はアラルキルであり、*は、(R)又は(S)体であるキラル中心を示す)で表される光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体の製造方法であって、式IIa:
【0052】
【化33】

【0053】
(式中、R1及び*は、上記と同義であり、R2は、C1-6−アルキル又はアラルキルである)で表される光学活性ピロリル−コハク酸誘導体を、加水分解することを特徴とする方法に関する。なお、所望により、得られた式Iのピロリル−コハク酸イミド誘導体は、R1の定義の範囲内で公知のエステル交換反応に付すこともできる。
【0054】
次いで工程b)について説明する。本発明は、式II:
【0055】
【化34】

【0056】
(式中、R1、R2及び*は、上記と同義である)で表される光学活性ピロリル−コハク酸誘導体の製造方法であって、式III:
【0057】
【化35】

【0058】
(式中、R1は、上記と同義である)で表されるピロール誘導体を、溶媒中、塩基性条件下、丸岡触媒の存在下に、式IV:
【0059】
【化36】

【0060】
(式中、R2は、上記と同義であり、そしてXは、脱離基である)で表される化合物と反応させることを特徴とする方法にも関する。
【0061】
工程b)で使用される式IVの化合物:X−CH2−CO22(式中、R2及びXは上記と同義である)は、市販されているか、あるいは当業者に公知の方法に従って調製することができる。なお、脱離基Xとしては、ハロゲン、−SO2R、−OCOR又は−OSO2R(ここで、Rは、前記アルキル基又は前記アリール基である)などが挙げられる。好ましくはハロゲン、特には塩素又は臭素である。式IVの化合物である、ブロモ酢酸エチル、ブロモ酢酸tert−ブチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸tert−ブチルなどが、シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich Corporation)などの試薬会社より入手することができる。
【0062】
工程b)の式IIIのピロール誘導体と、式IVの化合物との反応は、溶媒中、塩基の存在下、丸岡触媒を用いて実施することができる。丸岡触媒は、京都大学の丸岡啓二教授らによって開発された光学活性相間移動触媒であり、代表的には、式V:
【0063】
【化37】

【0064】
〔式中、R及びR’は、独立して、水素、C1-6−アルキル、ハロ−C1-6−アルキル若しくはアリールであるか;又はハロゲン、C1-4−アルキル、ハロ−C1-4−アルキル、C1-4−アルコキシ、ハロ−C1-4−アルコキシ、非置換及び置換アリール(ここで、置換アリールの置換基は、ハロゲン、C1-4−アルキル、ハロ−C1-4−アルキル、C1-4−アルコキシ及びハロ−C1-4−アルコキシから選択される1〜3個の置換基である)から選択される1〜3個の置換基で置換されているアリールであり、R、R、R、R’、R’及びR’は、独立して、水素、C1-6−アルキル、ハロ−C1-6−アルキル、C1-6−アルコキシ、ハロ−C1-6−アルコキシ若しくはアリールであるか;又はハロゲン、C1-4−アルキル、ハロ−C1-4−アルキル、C1-4−アルコキシ、ハロ−C1-4−アルコキシ、非置換及び置換アリール(ここで、置換アリールの置換基は、ハロゲン、C1-4−アルキル、ハロ−C1-4−アルキル、C1-4−アルコキシ及びハロ−C1-4−アルコキシから選択される1〜3個の置換基である)から選択される1〜3個の置換基で置換されているアリールであるか;あるいは
隣接するRとR及びR’とR’の各々は、一緒になってそれらが結合している芳香環に縮合するベンゼン環を形成してもよく、
Ar1及びAr2は、独立して、C1-6−アルキル、ハロ−C1-6−アルキル、C1-6−アルコキシ、ハロ−C1-6−アルコキシ、アリール若しくはヘテロシクリルであるか;又はハロゲン、C1-4−アルキル、ハロ−C1-4−アルキル、C1-4−アルコキシ、ハロ−C1-4−アルコキシ、非置換及び置換アリール(ここで、置換アリールの置換基は、ハロゲン、C1-4−アルキル、ハロ−C1-4−アルキル、C1-4−アルコキシ及びハロ−C1-4−アルコキシから選択される1〜3個の置換基である)から選択される1〜3個の置換基で置換されているアリール若しくはヘテロシクリルであり、
-は、ハロゲン化物アニオン、SCN-又はHSO4-であり、
Y及びZは、独立して、水素、ハロゲン、C1-4−アルキル又はC1-4−アルコキシであるか;あるいは
Y及びZは、一緒になって単結合を形成してもよい〕
で表される、光学活性4級アンモニウム塩である。
【0065】
好ましい式Vの触媒は、R及びR’が、独立して、アリールであるか;又はハロゲン、C1-4−アルキル、ハロ−C1-4−アルキル、非置換及び置換アリール(ここで、置換アリールの置換基は、ハロゲン、C1-4−アルキル及びハロ−C1-4−アルキルから選択される1〜3個の置換基である)から選択される1〜3個の置換基で置換されているアリールである化合物であり、、特に好ましくは、R及びR’が、同一であって、β−ナフチル、3,5−ビストリフルオロメチルフェニル、3,4,5−トリフルオロメチルフェニル又は3,5−ビス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)フェニルである化合物である。
【0066】
また好ましい式Vの触媒は、R、R、R、R’、R’及びR’が、独立して、水素、C1-6−アルキル、C1-6−アルコキシ若しくはアリールであるか;又はハロゲン、C1-4−アルキル及びハロ−C1-4−アルキルから選択される1〜3個の置換基で置換されているアリールであるか;あるいは隣接するRとR及びR’とR’の各々が、一緒になってそれらが結合している芳香環に縮合するベンゼン環を形成する化合物であり、特に好ましくは、R及びR’が、水素であり、そして隣接するRとR及びR’とR’の各々が、一緒になってそれらが結合している芳香環に縮合するベンゼン環を形成する化合物である。
【0067】
また好ましい式Vの触媒は、Ar1及びAr2が、独立して、C1-4−アルキル、フェニル若しくはナフチルであるか;又はハロゲン、C1-4−アルキル及びハロ−C1-4−アルキルから選択される1〜3個の置換基で置換されているフェニル若しくはナフチルであり、そしてY及びZが、一緒になって単結合を形成している化合物であり、より好ましくは、Ar1、Ar2、Y及びZが、互いのオルト位で結合したビフェニル又は互いのα位で結合した2,2’−ビナフチルである化合物であり、特に好ましくは、互いのα位で結合した2,2’−ビナフチルである化合物である。
【0068】
本発明の工程b)で用いられる式Vの触媒の好ましい態様であって、より好ましい丸岡触媒としては、式Va:
【0069】
【化38】

【0070】
〔式中、R及びR’は、3,5−ジトリフルオロメチルフェニル又は3,5−ビス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)フェニルである〕で表される、ビナフチル骨格を有する光学活性4級アンモニウム塩が挙げられる。これらは、当業者に公知の方法、例えば特開2001−48866号公報、特開2003−327566号公報などの公知の文献に記載された方法に従って調製することができる。また和光純薬工業(株)などの試薬会社から、例えば(R,R)−3,5−ビストリフルオロメチルフェニル−NASブロミドとして入手することもできる。
【0071】
工程b)の反応に使用される溶媒としては、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、エチルエーテル、イソプロピルエーテル(IPE)などのエーテル系溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。またこれらの溶媒と共に水を使用し、反応を液−液二相系で実施してもよい。さらにメチルセロソルブ、エチルセロソルブのようなセロソルブ類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジオキサン、アセトニトリル、フェノール、ベンジルアルコールのような極性溶媒、好ましくはメチルセロソルブのようなセロソルブ類を、反応溶媒に対して、0.1〜10%の割合で添加してもよい。
【0072】
工程b)の反応に使用される塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどの無機塩基を好適に用いることができる。反応は、−50℃〜室温で、特には−20℃〜0℃で、0.5〜72時間、好ましくは2〜24時間実施すればよい。本発明の製造方法により、本発明の式IIaの光学活性ピロリル−コハク酸誘導体が立体選択的かつ高収率に得られる。
【0073】
さらに工程a)について説明する。本発明はまた、式III:
【0074】
【化39】

【0075】
(式中、R1は、上記と同義である)で表されるピロール誘導体の製造方法であって、式VI:
【0076】
【化40】

【0077】
(式中、R1は、上記と同義である)で表される化合物又はその塩を、2,5−ジメトキシテトラヒドロフランと反応させることを特徴とする方法にも関する。
【0078】
式VIのα−アミノシアノ酢酸エステル又はその塩は、市販されているか、または当業者に公知の方法に従って調製することができる(例えば、後述する参考例1を参照)。工程a)の反応は、THFなどの有機溶媒中に、式VIのα−アミノシアノ酢酸エステル又はその塩と、2,5−ジメトキシテトラヒドロフランとを加え、0〜100℃、とりわけ0〜室温(約25℃)で、0.5〜48時間、好ましくは1〜24時間攪拌することにより実施すればよい。
【0079】
本発明は、式II:
【0080】
【化41】

【0081】
(式中、R1及びR2は、上記と同義である)で表される、ピロリル−コハク酸誘導体又はその光学活性体にも関する。さらに本発明は、その前駆体である、式III:
【0082】
【化42】

【0083】
(式中、R1は、上記と同義である)で表されるピロール誘導体にも関する。
【0084】
本発明の好適な実施態様は、R1がC1-4−アルキルである、式IIのピロリル−コハク酸誘導体に関する。好ましくは、R1が、メチル、エチル又はtert−ブチルである、式IIのピロリル−コハク酸誘導体又はその光学活性体に関する。
【0085】
またR2がC1-4−アルキルである、式IIのピロリル−コハク酸誘導体又はその光学活性体もまた、本発明の好適な実施態様である。
【0086】
本発明の特に好適な実施態様は、R1及びR2が、独立して、C1-4−アルキルである、式IIのピロリル−コハク酸誘導体又はその光学活性体である。
【0087】
本発明の好適な実施態様はまた、R1がC1-4−アルキルである、式IIIのピロール誘導体に関する。好ましくは、R1が、メチル、エチル又はtert−ブチルである、式IIIのピロール誘導体に関する。
【実施例】
【0088】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらに限定されるものではない。
なお、化合物の光学純度は、HPLC装置(東ソー製、UV検出器:UV−8010、カラムオーブン:CO−8010、送液ポンプ:CCPD、キラルカラム:下記記載)を用いて測定した。測定条件は、以下の通りである。
溶離液 :イソプロピルアルコール(IPA)/ヘキサン
流量 :500μl/分
カラム温度 :40℃
注入量 :2μl
測定波長 :254nm
なお、サンプル調整:試料を展開溶媒に1mg/mlの割合で溶解し、試料溶液とした。
【0089】
参考例1:α−アミノシアノ酢酸tert−ブチルエステル・p−トルエンスルホン酸塩の合成
【0090】
【化43】

【0091】
水340mlに化合物1を50g(0.35モル)懸濁させ、亜硝酸ナトリウム73.3g(1.06モル)を溶解させた。酢酸88.5mlを滴下し、室温にて2時間反応させた。その後、氷冷下にて結晶を析出させ、淡黄色結晶をろ過し、オキシム体を68.5gで得た。これをエタノール500mlに溶解させ、2%−Pt/C(50%含水)3g添加した。水素を3.3kg/cm2の圧力で吹き込み、5時間反応させた。反応液をろ過し、溶媒を減圧下で留去した。その残査にトルエン700mlを注入し、p−トルエンスルホン酸67.3g(0.35モル)添加した。析出した結晶をろ過、乾燥することで、標記化合物2を23.4g得た。収率20.1%。
【0092】
1H-NMR (400MHz, DMSO-d6) δ: 7.47 (2H, d, J = 7.8 Hz), 7.11 (2H, d, J = 7.8 Hz), 3.45 (1H, s), 2.29 (3H, s), 1.28 (9H, s).
【0093】
実施例1:α−(ピロール−1−イル)シアノ酢酸tert−ブチルエステルの合成
【0094】
【化44】

【0095】
THF50mlに化合物2を10g(30ミリモル)懸濁させ、2,5−ジメトキシテトラヒドロフランを6g(50ミリモル)加えた。室温下にて一晩反応後、酢酸エチル50ml、水50mlを加え有機層を分取し、5%重曹水40mlで洗浄した。有機層を硫酸ナトリウム2gで乾燥し、濃縮することにより油状物質を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル;3/1)にて精製し、ヘキサンにて再結晶を行うと、標記化合物3を3.3g得た。収率53.2%。
【0096】
融点 67.3〜67.6℃。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 6.78 (2H, dd, J = 2.0, 2.1 Hz), 6.27 (2H, dd, J = 2.0, 2.1 Hz), 5.46 (1H, s), 1.51 (9H, s).
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ: 161.06, 120.64, 113.07, 110.70, 86.30, 53.06, 27.74.
MS(ESI) m/z 205 [M-H]-.
【0097】
実施例2:(R)−2−シアノ−2−(ピロール−1−イル)コハク酸1−tert−ブチル4−エチルエステルの合成
【0098】
【化45】

【0099】
IPE12.5mlに化合物3を2g(9.7ミリモル)、触媒1〔前記式Vaの化合物において、Ra及びRa’が、3,5−ビス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)フェニルである、丸岡触媒〕を26mg(化合物3に対して0.25モル%)、50%炭酸セシウム水溶液を12.5ml加えた。−20℃に冷却し、ブロモ酢酸エチル1.9g(11.8ミリモル)を滴下し、一晩反応させた。反応終了後室温まで昇温し、有機層を分取した後、水洗した。その有機層を硫酸ナトリウム2gで乾燥し、濃縮すると標記化合物4aを3g得た。粗収率107%。得られた標記化合物4aの光学純度をHPLC(ダイセル製;CHIRALCEL OJ ヘキサン/IPA;9/1)で測定した結果、52.2%eeであった。
【0100】
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 6.90 (2H, dd, J = 2,0, 2.1 Hz), 6.24 (2H, dd, J = 2.0, 2.1 Hz), 4.23 (2H, q, J = 7.2 Hz), 3.60 (1H, d, J = 16.8 Hz), 3.26 (1H, d, J = 16.8 Hz), 1.50 (9H, s), 1.22 (3H, t, J = 7.2 Hz).
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ: 167.17, 162.34, 118.82, 115.48, 110.55, 86.26, 61.90, 41.93, 27.54, 22.94, 14.08.
MS(ESI) m/z 291 [M-H]-.
【0101】
比較例1:(±)−2−シアノ−2−(ピロール−1−イル)コハク酸1−tert−ブチル4−エチルエステルの合成
【0102】
【化46】

【0103】
キラル相間移動触媒である触媒1に代えて、アキラルな4級アンモニウム塩を用いて実施例2と同様な反応を行った。
すなわち、IPE12.5mlに化合物3を0.5g(2.4ミリモル)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)を80mg、50%炭酸セシウム水溶液を12.5ml加えた。室温にてブロモ酢酸エチル0.5g(2.82ミリモル)を滴下し、一晩反応させた。反応終了後、有機層を分取した後、水洗した。その有機層を硫酸ナトリウム1gで乾燥し、濃縮すると標記化合物4を0.62g得た。粗収率89%。得られた標記化合物4の光学純度をHPLC(ダイセル製;CHIRALCEL OJ ヘキサン/IPA;9/1)で測定した結果、1対1の割合で出現するピークを観測した。
【0104】
実施例3:(R)−2−シアノ−2−(ピロール−1−イル)コハク酸ジ−tert−ブチルエステルの合成
【0105】
【化47】

【0106】
IPE1.25mlに化合物3を50mg(0.24ミリモル)、触媒1〔前記式Vaの化合物において、Ra及びRa’が、3,5−ビス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)フェニルである、丸岡触媒〕を4mg(化合物3に対して1モル%)、50%炭酸セシウム水溶液を1.25ml加えた。−20℃に冷却し、ブロモ酢酸t−ブチル55mg(0.29ミリモル)を滴下し、三日間反応させた。反応の終了を確認後室温まで昇温し、分取用の薄層プレート(PLC)にて目的とする化合物4bを分取した。得られた標記化合物4bの光学純度をHPLC(ダイセル製;CHIRALCEL OJ ヘキサン/IPA;9/1)で測定した結果、68.6%eeであった。
【0107】
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 6.89 (2H, dd, J = 2.1, 2.3 Hz), 6.24 (2H, dd, J = 2.1, 2.3 Hz), 3.51 (1H, d, J = 16.6 Hz), 3.20 (1H, d, J = 16.6 Hz), 1.48 (9H, s), 1.47 (9H, s).
【0108】
実施例4:(R)−2−シアノ−2−(ピロール−1−イル)コハク酸ジ−tert−ブチルエステルの合成
【0109】
【化48】

【0110】
文献(Synlett, 2007, 4, 547-550)に記載の方法に準じて以下の合成を行った。
ジエチルエーテル3mlに化合物3を30mg(0.15ミリモル)、触媒1〔前記式Vaの化合物において、Ra及びRa’が、3,5−ビス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)フェニルである、丸岡触媒〕を2mg(化合物3に対して1モル%)、水酸化セシウム109mg(0.73ミリモル)を加えた。−40℃に冷却し、ブロモ酢酸t−ブチル71mgを滴下し、一昼夜反応させた。反応の進行度をTLCで確認し(約5割)、PLCにて目的とする化合物4bを分取した。得られた標記化合物4bの光学純度をHPLC(ダイセル製;CHIRALCEL OJ ヘキサン/IPA;9/1)で測定した結果、71.2%eeであった。
【0111】
実施例5:(R)−2−エトキシカルボニル−2−(ピロール−1−イル)コハク酸イミドの合成
【0112】
【化49】

【0113】
1)(R)−2−tert−ブトキシカルボニル−2−(ピロール−1−イル)コハク酸イミドの合成
水13mlに、炭酸ナトリウム2.9g(27ミリモル)、ジメチルスルホキシド0.5ml、30%過酸化水素水3.6mlを加え、アセトン15mlに溶解させた化合物4aの3gを室温にて滴下した。一晩同温度で反応させ、冷却下、7%塩酸で中和した。その後、酢酸エチル20mlで抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下にて有機溶媒を留去した。油状残渣にヘキサンを添加し、結晶を析出させた。さらに、酢酸エチル/ヘキサンで再結晶を2回繰り返すことによりt−ブチルエステルのイミド体5aを0.12g得た。収率4.8%。
【0114】
融点 137.8〜146.7℃。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 8.43 (1H, s), 6.96 (2H, dd, J = 2.0, 2.1 Hz), 6.27 (2H, dd, J = 2.0, 2.1 Hz), 3.54 (1H, d, J = 18.0 Hz), 3.37 (1H, d, J = 18.0 Hz), 1.45 (9H, s).
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ: 171.68, 170.09, 165.27, 119.96, 109.87, 85.53, 69.02, 41.95, 27.62.
MS(ESI) m/z 263 [M-H+].
【0115】
2)(R)−2−エトキシカルボニル−2−(ピロール−1−イル)コハク酸イミドの合成
得られた化合物5aの結晶50mgを、エタノール1mlに溶解し、塩化チオニル150mgを滴下した。室温にて一晩反応後さらに、150mg添加し、2時間撹拌後、冷却下酢酸エチルを20ml加え、水を20ml加えて反応を終了させた。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮後シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、油状の標記化合物5bを3mg得た。収率6.7%。
【0116】
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 8.35 (1H, s), 6.95 (2H, dd, J = 2.3, 2.1 Hz), 6.28 (2H, dd, J = 2.3, 2.1 Hz), 4.30 (2H, q, J = 7.1 Hz), 3.62 (1H, d, J = 18.0 Hz), 3.37 (1H, d, J = 18.0 Hz), 1.28 (3H, t, J = 7.1 Hz).
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ: 172.20, 170.19, 166.70, 119.97, 110.09, 68.71, 63.87, 42.06, 13.92.
MS(ESI) m/z 235 [M-H]-.
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明により提供される、式Iのピロリル−コハク酸イミド誘導体の製造方法は、キラルビルディングブロックとして種々の医薬品化合物等の合成に有用な中間体を、立体選択的かつ高収率に合成することができる。またその製造方法は、環境への負荷が課題である金属触媒を用いることなく、光学活性相間移動触媒と、安価で安全な試薬を用いるものであるから、工業的合成方法への応用にも適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】


(式中、
1は、C1-6−アルキル又はアラルキルである)
で表されるピロリル−コハク酸イミド誘導体又はその光学活性体の製造方法であって、
式II:
【化2】


(式中、
1は、上記と同義であり、
2は、C1-6−アルキル又はアラルキルである)
で表されるピロリル−コハク酸誘導体又はその光学活性体を加水分解することを特徴とする方法。
【請求項2】
式IIa:
【化3】


(式中、
1及びR2は、独立して、C1-6−アルキル又はアラルキルであり、
*は、(R)又は(S)体であるキラル中心を示す)
で表される光学活性ピロリル−コハク酸誘導体の製造方法であって、
式III:
【化4】


(式中、R1は、上記と同義である)
で表されるピロール誘導体を、溶媒中、塩基性条件下、丸岡触媒の存在下に、式IV:
【化5】


(式中、R2は、上記と同義であり、そしてXは、脱離基である)
で表される化合物と反応させることを特徴とする方法。
【請求項3】
式Ia:
【化6】


(式中、
1は、C1-6−アルキル又はアラルキルであり、
*は、(R)又は(S)体であるキラル中心を示す)
で表される光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体の製造方法であって、
b)式III:
【化7】


(式中、R1は、上記と同義である)
で表されるピロール誘導体を、溶媒中、塩基性条件下、丸岡触媒の存在下に、式IV:
【化8】


(式中、
2は、C1-6−アルキル又はアラルキルであり、そして
Xは、脱離基である)
で表される化合物と反応させ、式IIa:
【化9】


(式中、R1、R2及び*は、上記と同義である)
で表される光学活性ピロリル−コハク酸誘導体を得る工程、及び
c)次いで、式IIaで表される光学活性ピロリル−コハク酸誘導体を加水分解する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
式III:
【化10】


(式中、R1は、C1-6−アルキル又はアラルキルである)
で表されるピロール誘導体の製造方法であって、式VI:
【化11】


(式中、R1は、上記と同義である)
で表される化合物又はその塩を、2,5−ジメトキシテトラヒドロフランと反応させることを特徴とする方法。
【請求項5】
式Ia:
【化12】


(式中、
1は、C1-6−アルキル又はアラルキルであり、
*は、(R)又は(S)体であるキラル中心を示す)
で表される光学活性ピロリル−コハク酸イミド誘導体の製造方法であって、
a)式VI:
【化13】


(式中、R1は、上記と同義である)
で表される化合物又はその塩を、2,5−ジメトキシテトラヒドロフランと反応させ、式III:
【化14】


(式中、R1は、上記と同義である)
で表されるピロール誘導体を得る工程、
b)式IIIで表されるピロール誘導体を、溶媒中、塩基性条件下、丸岡触媒の存在下に、式IV:
【化15】


(式中、
2は、C1-6−アルキル又はアラルキルであり、そして
Xは、脱離基である)
で表される化合物と反応させ、式IIa:
【化16】


(式中、R1、R2及び*は、上記と同義である)
で表される光学活性ピロリル−コハク酸誘導体を得る工程、及び
c)次いで、式IIaで表される光学活性ピロリル−コハク酸誘導体を加水分解する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
丸岡触媒が、式Va:
【化17】


〔式中、
及びR’は、3,5−ジトリフルオロメチルフェニル又は3,5−ビス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)フェニルである〕
で表される化合物である、請求項2、3又は5記載の方法。
【請求項7】
式II:
【化18】


(式中、
1及びR2は、独立して、C1-6−アルキル又はアラルキルである)
で表される、ピロリル−コハク酸誘導体又はその光学活性体。
【請求項8】
式III:
【化19】


(式中、R1は、C1-6−アルキル又はアラルキルである)
で表されるピロール誘導体。

【公開番号】特開2011−26201(P2011−26201A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270024(P2007−270024)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】