説明

光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール及び有害生物防除剤

【課題】顕著に優れた有害生物防除活性を有するトリアゾール化合物を提供する。
(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールを提供する。
【解決手段】下記式(I)で表わされる、光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール。1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールのラセミ体を光学分割して得られる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール及びそれを有効成分として含有する有害生物防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有害生物に対して使用される有害生物防除剤は、一般的に、有害生物、有用植物若しくは有用作物、または、有用植物若しくは有用作物が植生する土壌若しくは近傍等に施用し、低薬量で、広範囲な有害生物に十分な防除効果を示し、さらに一定期間その効果を持続できる薬剤であることが望まれている。特に、近年は、環境問題から、より安全で、且つ低薬量で優れた有害生物防除活性を有する有害生物防除剤の開発が望まれている。
一方、特許文献1及び特許文献2には、1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールが開示され、そこには当該化合物が、有害生物防除剤として有用であることが記載されている。しかし、当該化合物は不斉硫黄原子を有し、光学異性体の存在が予測されるものの、これらの特許文献1及び2には光学異性体に関しては何ら記載がなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO99/55668号国際公報明細書
【特許文献2】WO2009/100822号国際公報明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる状況に鑑み成されたものであり、低薬量で優れた有害生物防除活性を有する、光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、鋭意検討した結果、前記の特許文献1に記載の化合物において、特定の光学異性体(エナンチオマー)である、(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールは、予想外のことに、もう一方の対応する光学異性体(エナンチオマー)や、対応するラセミ体に比べて、はるかに優れた有害生物防除活性を示すことを見出した。
本発明は、かかる知見に基づくものであり、以下を要旨とするものである。
【0006】
(1)式(I):
【化1】

で表わされる光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール。
【0007】
(2)前記(1)に記載の(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールを有効成分として含有することを特徴とする有害生物防除剤。
(3)前記有害生物が、バッタ目害虫、アザミウマ目害虫、カメムシ目害虫、コウチュウ目害虫、ハエ目害虫、チョウ目害虫、ハチ目害虫、トビムシ目害虫、シミ目害虫、ゴキブリ目害虫、シロアリ目害虫、チャタテムシ目害虫、ハジラミ目害虫、シラミ目害虫、植物寄生性ダニ類、植物寄生性線虫類、植物寄生性軟体動物、不快動物、衛生害虫、又は寄生虫である、前記(2)に記載の有害生物防除剤。
(4)前記有害生物が、植物寄生性ダニ類である、前記(2)に記載の有害生物防除剤。
(5)前記(1)に記載の光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールを使用する有害生物防除方法。
(6)光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールの製造方法であって、1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールのラセミ体を光学分割することを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る、光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールは、その光学異性体である、光学活性(−)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールや、ラセミ体である、1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールに比べて、低薬量で顕著に優れた有害生物防除活性を示すことから、有害生物防除剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、「(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール」と表記した場合、(+)体のみであることが望ましい。しかし、光学分割の方法によっては、その光学異性体である(−)体を完全に分離できないこともあり、このような場合、1〜20%程度の(−)体を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール(以下、単に、本発明化合物ともいう。)は、一般に、式(II):
【0011】
【化2】

で表わされるラセミ体を光学分割することにより製造できる。その光学分割方法としては、例えば、光学異性体分離用高速液体クロマトグラフィー用カラムを利用することにより、(+)光学異性体と(−)光学異件体とに分割することができる。光学異性体分離用高速液体クロマトグラフィー用カラムは一般に市販されており、例えば、ダイセル化学工業株式会社が製造・販売するキラルパックエーディー(CHIRAL PAK AD)を使用することができる。
【0012】
光学分割で使用される溶媒としては、例えば、へキサン又はヘプタン等の脂肪族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール又はブタノール等のアルコール類;ジクロロメタン又はクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;酢酸、水、或いはこれらの混合溶媒を例示することができる。
【0013】
光学分割における温度及び時間は、広範囲に変化することができる。一般的には温度は−20〜60℃であって、好ましくは5〜50℃である。時間は、0.01時間〜50時間であって、好ましくは、0.1時間〜2時間である。
【0014】
本発明化合物を有害生物防除剤の有効成分として使用するに際しては、本発明化合物それ自体で用いてもよいが、農薬補助剤として製剤化に一般的に用いられる担体、界面活性剤、又はその他補助剤を配合して、乳剤、粉剤、粒剤、錠剤、水和剤、水溶剤、液剤、フロアブル剤、顆粒水和剤、エアゾール剤、ペースト剤、油剤、くん煙剤等の種々の形態に製剤する。
これらの場合における本発明化合物の配合割合は通常、有害生物防除剤の全体量(100質量%)に対して、有効成分が0.1〜90質量%、好ましくは1〜70質量%であり、農薬補助剤が10〜99.9質量%、好ましくは20〜90質量%である。
【0015】
製剤化に際して用いられる担体としては、固体担体と液体担体に分けられる。固体担体としては、例えば澱粉、活性炭、大豆粉、小麦粉、木粉、魚粉、粉乳等の動植物性粉末、タルク、カオリン、ベントナイト、炭酸カルシウム、ゼオライト、珪藻土、ホワイトカーボン、クレー、アルミナ、硫安、尿素等の無機物粉末が挙げられる。液体担体としては、例えば水;イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、イソホロン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ケロシン、軽油等の脂肪族炭化水素類;キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、メチルナフタリン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルアセトアミド等の酸アミド類;脂肪酸のグリセリンエステル等のエステル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等の含硫化合物類等が挙げられる。
【0016】
界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸金属塩、ジナフチルメタンジスルホン酸金属塩、アルコール硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキレート、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩等が挙げられる。
【0017】
その他の補助剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、トラガントガム、ポリビニルアルコール等の固着剤あるいは増粘剤;金属石鹸等の消泡剤;脂肪酸、アルキルリン酸塩、シリコーン、パラフィン等の物性向上剤;着色剤等を用いることができる。
【0018】
これらの製剤の実際の使用に際しては、そのまま使用するか、又は水等の希釈剤で所定濃度に希釈して使用することができる。
【0019】
本発明化合物を含有する種々の製剤、又はその希釈物の施用は、通常一般に行なわれている施用方法、即ち、散布(例えば、噴霧、ミスティング、アトマイジング、散粉、散粒、水面施用、箱施用等)、土壌施用(例えば混入、潅注等)、表面施用(例えば塗布、粉衣、被覆等)、浸漬、毒餌、くん煙施用等により行うことができる。
【0020】
また、家畜に対して前記有効成分を飼料に混合して与え、その排泄物での有害虫、特に有害昆虫の発生、成育を防除することも可能である。
【0021】
また、いわゆる超高濃度少量散布法により施用することもできる。超高濃度少量散布法における有害生物防除剤中の有効成分の配合割合は必要に応じ適宜選ばれるが、粉剤、又は粒剤とする場合は0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%であり、また、乳剤及び水和剤とする場合は1〜80質量%、好ましくは10〜50質量%である。
【0022】
本発明の有害生物防除剤の施用は、希釈剤で希釈して使用する場合には一般に0.1〜5000ppmの有効成分濃度で行う。製剤をそのまま使用する場合の単位面積あたりの施用量は、有効成分化合物として1ha当り0.1〜5000g、好ましくは5〜2000gで使用されるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
なお、本発明化合物は単独でも十分有効であることはいうまでもないが、必要に応じて他の農薬や、肥料、例えば、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、殺菌剤、抗ウイルス剤、誘引剤、除草剤、植物生長調整剤などと混用、併用することができ、この場合に一層優れた効果を示すこともある。
【0024】
本発明化合物は、バッタ目害虫、アザミウマ目害虫、カメムシ目害虫、コウチュウ目害虫、ハエ目害虫、チョウ目害虫、ハチ目害虫、トビムシ目害虫、シミ目害虫、ゴキブリ目害虫、シロアリ目害虫、チャタテムシ目害虫、ハジラミ目害虫、シラミ目害虫、植物寄生性ダニ類、植物寄生性線虫類、植物寄生性軟体動物、その他の有害動物、不快動物、衛生害虫、寄生虫等の有害生物に対して、優れた防除効果を示し、特に植物寄生性ダニ類には優れた活性を有する。
植物寄生性ダニ類の例としては、例えばハシリダニ科のムギダニ(Penthaleus major)等、ホコリダニ科のシクラメンホコリダニ(Phytonemus pallidus)、チャノホコリダニ(Polyphagotarsonemus latus)等、シラミダニ科のシラミダニの一種(Siteroptes sp.)等、ヒメハダニ科のブドウヒメハダニ(Brevipalpus lewisi)等、ケナガハダニ科のナミケナガハダニ(Tuckerella pavoniformis)等、ハダニ科のアンズアケハダニ(Eotetranychus boreus)、ミカンハダニ(Panonychus citri)、リンゴハダニ(Panonychus ulmi)、ナミハダニ(Tetranychus urticae)、カンザワハダニ(Tetranychus kanzawai)等、ナガクダフシダニ科のマツフシダニ(Trisetacus pini)等、フシダニ科のミカンサビダニ(Aculops pelekassi)、ナシサビダニ(Epitrimerus pyri)、シトラスラストマイト(Phyllocoptruta oleivora)等、ハリナガフシダニ科のイヌツゲフシダニ(Diptacus crenatae)等、コナダニ科のムギコナダニ(Aleuroglyphus ovatus)、ケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)、ロビンネダニ(Rhizoglyphus robini)等を例示できる。
【0025】
本発明の化合物は、既存の有害生物防除剤に抵抗性を獲得した前記に例示した有害生物等にも防除効果を示す。
【0026】
本発明の化合物は、遺伝子組換え、人工交配等で害虫耐性、病害耐性、除草剤耐性等の特性を獲得した植物に使用することができ、さらに、有機リン系化合物、カーバメート系化合物、合成ピレスロイド系化合物、アシルウレア系化合物等の既存の殺虫・殺ダニ剤に抵抗性を示す有害生物に対しても有効である。
【0027】
次に、実施例により、本発明化合物の製造方法、製剤法及び用途を具体的に説明するが、これらに限定して解釈されるものではない。
【実施例】
【0028】
本発明化合物である光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールは以下の実施例に示す方法により製造することができる。
(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール(化合物番号I)の製造
ラセミ体1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール(化合物番号II)0.3gをアセトン(10mL)に溶解させた。溶媒を滅圧留去し、結晶が析出する直前にn−へキサン/2−プロパノール=90/10の混合溶媒(1000mL)を加えた。
【0029】
キラルパックエーディー(CHIRAL PAK AD;ダイセル化学工業社の製造・販売)(内径2cm×長さ25cm)をカラムに使用し、n−へキサン/2−プロパノール=90/10の混合溶媒を移動相に用いて流速7.0mL/分、室温の条件で高速液体クロマトグラフィーに付し、紫外線吸収検出器(270nm)で分析したところ、保持時問30分のピーク(ピーク1)と、35分のピーク(ピーク2)とが得られた。
【0030】
各々のピーク成分を繰り返し分取し、分取した溶液を60℃で滅圧濃縮したところ、ピーク1及びピーク2に対応する結晶をそれぞれ0.101g及び0.100gを得た。それぞれの旋光度を測定すると、ピーク1の成分は〔α〕25=+94.0°(C=0.20/メタノール)、ピーク2の成分は〔α〕25=−95.6°(C=0.20/メタノール)の比施光度をそれぞれ示した。
【0031】
前記ピーク1のものは目的の(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール(化合物番号I)であり、
前記ピーク2のものは(−)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール(化合物番号III)である。
【0032】
化合物番号IのH−NMRデータ(CDCl/TMS δ(ppm)値):
2.32(3H,s),2.45(3H,s),3.43−3.51(2H,m),7.33(1H,s),7.96(1H,s),8.39(1H,s)
【0033】
化合物番号IIIのH−NMRデータ(CDCl/TMS δ(ppm)値):
2.32(3H,s),2.45(3H,s),3.43−3.51(2H,m),7.33(1H,s),7.96(1H,s),8.39(1H,s)
【0034】
(ラセミ体の製造法)
<参考例1>
1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールの製造:
(1)5−アセチルチオ−2,4−ジメチルアセトアニリドの製造
クロロスルホン酸168gに2,4−ジメチルアセトアニリド78.4gを、50℃以下で加え、さらに70℃で1時間攪拌した。反応混合物を氷水−酢酸エチルの混合物に注加し、有機層を水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去し、固体の残渣72gを得た。得られた固体の残渣を酢酸550mlに溶解し、赤リン25.6g、ヨウ素4.0gを加え、4時間加熱還流した。室温冷却後、不溶物を濾別し、酢酸を減圧下濃縮し、水を注加し、酢酸エチルで抽出した。有機層を水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去し、5−アセチルチオ−2,4−ジメチルアセトアニリド47.5gを得た。
【0035】
(2)2,4−ジメチル−5−メルカプトアニリンの製造
10%水酸化カリウム水溶液700mlを70℃に加熱し、5−アセチルチオ−2,4−ジメチルアセトアニリド47.5gを加え、さらに10時間加熱還流した。得られた反応混合物を冷却し、濃塩酸とクエン酸を加えpH5にし、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去して、2,4−ジメチル−5−メルカプトアニリン30gを得た。
【0036】
(3)2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)アニリンの製造
2,4−ジメチル−5−メルカプトアニリン20g、炭酸カリウム24g、ロンガリット(Rongalit;formaldehyde sodium sulfoxylate)4.0g、N,N−ジメチルホルムアミド150mlの混合物にヨウ化2,2,2−トリフルオロエチル41gを滴下した後、室温で24時間攪拌した。反応混合物を水に注加し、酢酸エチルで抽出し、有機層を水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去して2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)アニリン29gを得た。
【0037】
H−NMRデータ(CDCl/TMS δ(ppm)値):2.13(3H,s),2.34(3H,s),3.32(2H,q),3.52(2H,s),6.84(1H,s),6.91(1H,s)
【0038】
(4)トリフルオロアセトアルデヒド [2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]ヒドラゾンの製造
40%硫酸96g中に、亜硝酸ナトリウム8.8gを30℃以下で少しずつ加え、次いで酢酸46mlを30℃以下で滴下した。この混合物に、2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)アニリン27.4gの酢酸50ml溶液を5℃以下で30分かけて滴下し、さらに0℃で2時間攪拌した。この反応液を、塩化スズ44gの6N塩酸200ml溶液に−30〜0℃で注ぎ、さらに10℃で30分間攪拌した。この反応液に、トリフルオロアセトアルデヒドメチルヘミアセタール22.6g、水300ml、ジイソプロピルエーテル100mlを加え、50℃で1時間撹拌した。反応混合物をジイソプロピルエーテルで抽出し、有機層を水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、トリフルオロアセトアルデヒド [2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]ヒドラゾン32.7gを得た。
【0039】
(5)N−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]トリフルオロアセトヒドラゾノイルブロミドの製造
トリフルオロアセトアルデヒド [2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]ヒドラゾン5.5gをN,N−ジメチルホルムアミド50mlに溶解し、0℃でN−ブロモスクシンイミド3.0gを加え、さらに室温で1時間攪拌した。反応混合物を水に注加し、ジイソプロピルエーテルで抽出し、有機層を水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去して、N−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]トリフルオロアセトヒドラゾノイルブロミド6.5gを得た。
【0040】
(6)1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5−アミンの製造
N−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]トリフルオロアセトヒドラゾノイルブロミド4.1g、S−メチルイソチオ尿素ヨウ化水素塩3.3g、テトラヒドロフラン20mlの混合物に、トリエチルアミン3.1gを滴下し、さらに60℃で8時間攪拌した。反応混合物を水に注加し、酢酸エチルで抽出し、有機層を水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、淡黄色結晶(融点176〜178℃)の1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5−アミン3.2gを得た。
【0041】
(7)1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールの製造
1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−5−アミン1.0gをテトラヒドロフラン20mlに溶解し、加熱還流下で亜硝酸t−ブチル1.6gを滴下し、さらに3時間加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、淡黄色結晶(融点85〜86℃)の1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール0.82gを得た。
【0042】
(8)1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールの製造
1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルチオ)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール0.52gをクロロホルム10mlに溶解し、0℃で、m−クロロ過安息香酸0.34g(純度75%)を加え、さらに0℃で1時間攪拌した。有機層をチオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄し、次いで炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し、淡黄色結晶(融点149〜150℃)の1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール0.48gを得た。
H−NMRデータ(CDCl/TMS δ(ppm)値):2.32(3H,s),2.45(3H,s),3.39−3.55(2H,m),7.33(1H,s),7.96(1H,s),8.39(1H,s)
【0043】
次に代表的な製剤例を挙げて製剤方法を具体的に説明する。化合物、添加剤の種類及び配合比率は、これのみに限定されることなく広い範囲で変更可能である。以下の説明において「部」は質量部を意味する。
【0044】
[製剤例1] 乳剤
化合物番号Iの化合物 30部
シクロヘキサノン 20部
ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル 11部
アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム 4部
メチルナフタリン 35部
以上を均一に溶解して乳剤とした。
【0045】
[製剤例2] 水和剤
化合物番号Iの化合の化合物 10部
ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩 0.5部
ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル 0.5部
珪藻土 24部
クレー 65部
以上を均一に混合粉砕して水和剤とした。
【0046】
[製剤例3] 粉剤
化合物番号Iの化合の化合物 2部
珪藻土 5部
クレー 93部
以上を均一に混合粉砕して粉剤とした。
【0047】
[製剤例4] 粒剤
化合物番号Iの化合の化合物 5部
ラウリルアルコール硫酸エステルのナトリウム塩 2部
リグニンスルホン酸ナトリウム 5部
カルボキシメチルセルロース 2部
クレー 86部
以上を均一に混合粉砕した。この混合物に水20部相当量を加えて練合し、押出式造粒機を用いて14〜32メッシュの粒状に加工したのち、乾燥して粒剤とした。
【0048】
次に本発明化合物を有効成分とする有害生物防除剤の奏する効果について試験例をもって説明する。
【0049】
[試験例1]ナミハダニ(感受性系統)に対する殺成虫活性(リーフディスク散布試験)
容量60mLのプラスチックカップに半分程度水を入れ、孔あきの蓋をし、この孔に脱脂綿を入れて水をしみ込ませ、その上に濾紙を2枚重ねて置いた。その上に直径2cmの円形に切り取ったインゲン(Phaseolus vulgaris)の葉を2枚のせ、感受性系統ナミハダニ(Tetranychus urticae)の雌成虫を10頭ずつ接種し、25℃恒温室(光周期条件:明期16時間/暗期8時間)に一晩置いた。異常虫および死亡虫を取り除いた後、製剤例2に準じて製剤された試験化合物を表1に記載した希釈調整した薬剤を自動散布装置で散布した(2mg/cm)。処理2日後に死亡虫数を数え、式1により殺成虫率を計算出した。試験は2連制で行った。
【式1】
【0050】

【0051】
〔表1〕
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験化合物 濃度(ppm) 殺成虫率(%)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
化合物番号I (+)‐エナンチオマー 0.39 100
化合物番号II ラセミ体 0.39 6.3
化合物番号III (−)‐エナンチオマー 50 0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0052】
[試験例2]ナミハダニ(複合抵抗性系統)に対する浸透移行活性(土壌潅注カップ試験)
プラスチックカップ植えのダイズ(Glycine max)に複合抵抗性系統ナミハダニ(Tetranychus urticae)の雌成虫を35頭接種し25℃の恒温室光周期条件:明期16時間/暗期8時間)に一晩置いた。製剤例2に準じて製剤された試験化合物を表2に記載した所定濃度に希釈調整した供試薬剤を土壌潅注処理(5mL/株)し、13日後に生存虫数を数え、式2により防除価を算出した。試験は2連制で行った。
【式2】
【0053】

【0054】
〔表2〕
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験化合物 濃度(ppm) 防除価
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
化合物番号I (+)‐エナンチオマー 50 100
化合物番号II ラセミ体 50 0
化合物番号III (−)‐エナンチオマー 50 0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0055】
[試験例3]ナミハダニ(複合抵抗性系統)に対する浸達活性(ダイズ:カップ試験)
製剤例2に準じて製剤された試験化合物を表3に記載した所定濃度に希釈し、プラスチックカップ植えのダイズ(Glycine max)苗初生葉の葉表にこの希釈液を塗布し、葉裏に複合抵抗性系統ナミハダニ(Tetranychus urticae)の雌成虫を10頭接種した。処理6日後に死亡虫数を数え、式1により殺成虫率を算出した。試験は25℃の恒温室で行った。試験は2連制で行った。
【0056】
〔表3〕
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験化合物 濃度(ppm) 殺成虫率(%)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
化合物番号I (+)‐エナンチオマー 50 100
化合物番号II ラセミ体 50 25
化合物番号III (−)‐エナンチオマー 100 20
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0057】
[試験例4]ミカンハダニ(複合抵抗性系統)に対する浸達活性(カンキツ:温室内ポット試験)
製剤例2に準じて製剤された試験化合物を表4に記載した所定濃度に希釈し、素焼きポット植えのカンキツ(Citrus unshiu)の葉表にこの希釈液を塗布し、葉裏に複合抵抗性系統ミカンハダニ(Panonychus citri)の雌成虫をを10頭接種し、温室に静置した。処理6日後に死亡虫数を数え、式1により殺成虫率を算出した。試験は2連制で行った。
【0058】
〔表4〕
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験化合物 濃度(ppm) 殺成虫率(%)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
化合物番号I (+)‐エナンチオマー 3.13 100
化合物番号II ラセミ体 3.13 0
化合物番号III (−)‐エナンチオマー 50 11.1
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールは、低薬量で顕著に優れた有害生物防除活性を示すことから、有害生物防除剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):

で表わされる、光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール。
【請求項2】
請求項1に記載の光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールを有効成分として含有することを特徴とする有害生物防除剤。
【請求項3】
有害生物が、バッタ目害虫、アザミウマ目害虫、カメムシ目害虫、コウチュウ目害虫、ハエ目害虫、チョウ目害虫、ハチ目害虫、トビムシ目害虫、シミ目害虫、ゴキブリ目害虫、シロアリ目害虫、チャタテムシ目害虫、ハジラミ目害虫、シラミ目害虫、植物寄生性ダニ類、植物寄生性線虫類、植物寄生性軟体動物、不快動物、衛生害虫、又は寄生虫である、請求項2に記載の有害生物防除剤。
【請求項4】
有害生物が、植物寄生性ダニ類である、請求項2に記載の有害生物防除剤。
【請求項5】
請求項1に記載の光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールを使用する有害生物防除方法。
【請求項6】
光学活性(+)−1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールの製造方法であって、1−[2,4−ジメチル−5−(2,2,2−トリフルオロエチルスルフィニル)フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールのラセミ体を光学分割することを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2011−219419(P2011−219419A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90779(P2010−90779)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【出願人】(000102049)イハラケミカル工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】