説明

光学用粘着剤組成物

【課題】タッチパネルやプラズマディスプレイパネルなどに使用する粘着剤組成物であって、厚塗り塗工乾燥した場合でも、高温高湿条件にさらされた後、室温に戻した際に、白化が発生しない光学用粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステルモノマー(a)100質量部、水酸基を含有する共重合可能なモノマー(b)0.1〜10質量部、及び、ジアルキル置換アクリルアミドモノマー(c)5〜30質量部を含むモノマーからなる、重量平均分子量が30万〜200万の共重合体であるアクリル樹脂(A)を100質量部と、架橋剤(B)を0.01〜3.0質量部とを含有してなることを特徴とする光学用粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルやプラズマディスプレイパネルなどにおける光学部材同士の貼り合わせに用いる厚膜塗工可能な粘着剤組成物であって、環境の変化に影響を受けない光学用粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両搭載用、屋外計器用およびパソコンなどのディスプレイまたはテレビなどの表示装置の軽量化および薄型化により、液晶表示装置が広く使用されるようになり、その需要はますます増加傾向にある。そして、特に最近では、銀行などの金融機関のATM、自動販売機、携帯電話、携帯情報端末、デジタルオーディオプレーヤー、携帯ゲーム機、電子辞書、コピー機、ファックス、カーナビなどのデジタル情報機器には、液晶表示装置を用いたタッチパネルが多く使用されている。
【0003】
タッチパネルは、表示装置と位置入力装置を組み合わせた電子部品であり、外部から受けた画像情報を液晶ディスプレイに表示するとともに、触れられた画面位置情報を感知し、外部へ情報信号として出力する機能を有する。タッチパネルの位置入力装置には主に、抵抗膜法、静電容量法、電磁誘導法、光学法、音響法などの制御方式がある。これらの一般的なタッチパネルは、フィルムやガラスなどのパネルに酸化インジウム(以下、ITOと記載)膜などの透明導電層を貼り合わせた電極同士を、その間にスペーサーを設けるようにして、上下に配置した構造を有している。これをパネルの上から指やペンでタッチすることで、加圧された部分の上部および下部の透明導電層が電気的に接触し、タッチした部分の検知ができる構造をしている。
【0004】
上記の静電容量方式のタッチパネルにおいて、フィルムやガラスなどのパネルに透明導電層を貼り合わせる場合や、透明導電層をLCDなどの表示装置や機能性シートに貼り合わせる場合に光学用粘着剤が用いられる。また、上部および下部に配置された透明導電層同士の貼り合わせにも用いられており、最近では、静電容量方式においても透明導電層同士の貼り合わせにも光学用粘着剤が用いられている。さらに、透明導電層を用いるその他の光学部材として、エレクトロルミネッセンスディスプレイもあり、これらの用途にも光学用粘着剤が用いられる。
【0005】
上記の通り、タッチパネル用途に使用される光学用粘着剤は、透明導電層とパネルとの貼り合わせや、透明導電層同士の貼り合わせなどに用いられるため、透明性や耐候性などの光学的性能が求められる。また、液晶表示装置を用いたタッチパネルの使用環境も、近年、屋内外を問わず非常に過酷になってきている。
【0006】
このような状況下、タッチパネルの耐衝撃性を向上させるため、上記の静電容量方式のタッチパネルなどでは、これまでは空間層であった上部透明導電層と下部透明導電層との間を粘着剤層とすることが必要とされている。このため、従来よりも厚い100μm以上の粘着剤層が求められるようになってきている。
【0007】
これに対し、本発明者らの検討によれば、100μm以上の粘着剤層にした場合には下記の特有の課題がある。すなわち、従来の光学用粘着剤で100μm以上の粘着剤層を形成した場合、高温高湿条件(例えば60℃90%RH)にさらされた後に室温に戻した際に、粘着剤皮膜が白化(白濁)するという問題があった。この白化現象は、湿熱下で粘着剤中に吸湿した水分が室温に戻した際に結露することによって発生しているものと考えられる。
【0008】
一般的な、常温乾燥により架橋が進む粘着剤の場合、該粘着剤を吸湿性の高いものにすることにより、白化現象を抑えることが可能であるが、光学用粘着剤のような熱架橋型粘着剤の場合は、粘着剤の吸湿性を高くするだけでは、白化を抑制できない。
【0009】
上記の問題点を解決するものとして、特許文献1には、プラズマディスプレイ用フィルタの直貼り用粘着剤として、60℃90%RHでの飽和吸湿率が0.7重量%以上である粘着剤が提案されており、該粘着剤は、上記白化の問題を回避することができると記載されている。また、実施例として、共重合体の成分に水酸基を含有する共重合可能なモノマーを20部以上使用したものが挙げられている。しかしながら、架橋剤を使用した熱架橋型粘着剤の場合、共重合体の官能基に水酸基の量が多いと、ポットライフが短くなり、実用に即さない。また、タッチパネルに用いた場合、ITOの表面に貼り合わせ後の、表面抵抗値の変化率が大きくなりすぎるという新たな課題があった。
【0010】
また、特許文献2には、エチレンビニルアセテートを耐衝撃層として含む、光学フィルタが提案され、該耐衝撃層は、60℃95%RHで1000時間暴露した後の耐衝撃層のヘイズ値が、3.0以下になり白濁化が防止できることが開示されている。しかしながら、耐衝撃層を有する光学フィルタとしては良好であるものの、上記技術を粘着剤層へと応用することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−263084号公報
【特許文献2】特開2006−47687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って本発明の目的は、タッチパネルやプラズマディスプレイパネルなどに適用できる光学用途に必要な特性を満足することに加えて、厚塗り塗工乾燥した粘着剤層を形成した場合でも、高温高湿条件にさらされた後、室温に戻した際に、白化現象が発生しない光学用粘着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステルモノマー(a)100質量部、水酸基を含有する共重合可能なモノマー(b)0.1〜10質量部、及び、ジアルキル置換アクリルアミドモノマー(c)5〜30質量部を含むモノマーからなる、重量平均分子量が30万〜200万の共重合体であるアクリル樹脂(A)を100質量部と、架橋剤(B)を0.01〜3.0質量部とを含有してなることを特徴とする光学用粘着剤組成物を提供する。
【0014】
上記本発明において、さらに、上記粘着剤組成物によって形成した粘着剤層が、塗工厚175μmの時のヘイズ値が1.0以下であること;粘着剤層を60℃90%RHで200時間放置した後、室温環境下に取り出した際の、該粘着剤層のヘイズ値が4.0以下であること;粘着剤層の吸湿率が0.5%以上であることが好ましい。また、本発明の粘着剤組成物は特に限定されるものではないが、タッチパネル用として特に有用である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、タッチパネルやプラズマディスプレイパネルなどに適用できる光学用途に必要な特性を満足することに加えて、厚塗り塗工乾燥した粘着剤層を形成した場合でも、高温高湿条件にさらされた後、室温に戻した際に、白化現象の発生が抑制されたものとなる光学用粘着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に発明を実施するための形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明の明細書および特許請求の範囲における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
【0017】
本発明の粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステルモノマー(a)(以下、単に「モノマーa」という)と、水酸基を含有する共重合可能なモノマー(b)(以下、単に「モノマーb」という)、ジアルキル置換アクリルアミドモノマー(c)(以下、単に「モノマーc」という)とからなる、重量平均分子量が30万〜200万の共重合体であるアクリル樹脂(A)と、架橋剤(B)とを含むことを特徴とし、特には、アクリル樹脂(A)が、モノマーcを一定量含むことに特徴がある。
【0018】
前記モノマーaは、(メタ)アクリル酸の炭素数が1〜18のアルキルエステルモノマーであり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独でも或いは組み合わせてもよい。
【0019】
前記モノマーbは、水酸基を含有する共重合可能なモノマーであり、例えば、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシルヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどの水酸基含有モノマーなどが挙げられる。好ましくは、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレートであり、これらは単独でも或いは組み合わせてもよい。
【0020】
モノマーbの使用量は、モノマーaを100質量部としたときに0.1〜10質量部である。前記モノマーbの使用割合が0.1質量部未満であると、アクリル樹脂(A)を架橋剤(B)で架橋させたときに、架橋後のゲル分率が低く、粘着剤層の耐久性が劣り、粘着剤層の剥がれが発生し、光学用粘着剤として不十分である。一方、前記モノマーbの使用割合が10質量部を超えると、架橋剤添加後のアクリル樹脂(A)のゲル化を促進してしまうためゲル分率が高くなり、粘着剤層の耐久性試験において剥がれ易くなる。
【0021】
本発明の特徴である前記モノマーcは、ジアルキル置換アクリルアミドモノマーであり、共重合することにより、光学用粘着剤としての耐久性を向上させ、さらに、本発明の目的である、皮膜の白化を抑える効果が得られる。前記モノマーcとしては、例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。好ましくは、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メチル(メタ)アクリルアミドであり、これらは単独でも或いは組み合わせてもよい。
【0022】
モノマーcの使用量は、モノマーaを100質量部としたときに5〜30質量部である。前記モノマーcの使用割合が5質量部未満であると、粘着剤層を形成し、高温高湿条件に一定時間放置した後、室温へと取り出した際に、塗膜が白化してしまう。一方、前記モノマーcの使用割合が30質量部を超えると、皮膜の白化は抑えられるものの、粘着剤層の凝集力が上がりすぎてしまうため、耐衝撃性が劣る。
【0023】
上記本発明で使用するアクリル樹脂(A)は、さらに、芳香族モノマー単位を含有し得る。芳香族モノマーとは、構造中に芳香族基を含むモノマーであり、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。これら芳香族モノマーを共重合することにより、形成した粘着剤層の屈折率を調整でき、光学部材間の屈折率差を少なくして、全反射を低減し透過率を向上させることができるため、特に光学部材に用いた際に、表示性能を向上させることが可能となる。芳香族モノマーを使用する場合の芳香族モノマーの使用量は、前記モノマーaを100質量部としたときに5〜30質量部の範囲が好ましい。
【0024】
上記モノマーa〜cおよびその他のモノマーを共重合して得られるアクリル樹脂(A)の重量平均分子量(GPC測定、標準ポリスチレン換算)は30万〜200万である。アクリル樹脂の重量平均分子量が30万未満であると、形成される粘着剤層の耐久性が不十分となる。一方、アクリル樹脂の重量平均分子量が、200万を超えると、粘度が高くなり、粘度調整のための溶剤量が粘着剤中に増えてしまい、必然的に粘着剤の蒸発残分が低くなるため発泡しやすく、厚塗り塗工に適さない。
【0025】
本発明で使用するアクリル樹脂(A)は、溶液重合でも乳化重合のいずれでも製造できるが、溶液重合が好ましい。重合方法としては、例えば、ラジカル共重合、イオン共重合、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合などが挙げられるが、これに限定されない。
【0026】
上記本発明で使用する架橋剤(B)は、アクリル樹脂(A)を構成するモノマーbの反応性官能基と反応し、架橋構造を形成し得るものであり、例えば、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物、1分子中にアジリジニル基を2個以上有するポリアジリジン化合物、1分子中にオキサゾリン基を2個以上有するポリオキサゾリン化合物および金属キレート化合物から選ばれる少なくとも1種である。
【0027】
具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどとトリメチロールプロパンなどとのアダクト体、イソシアヌレート化合物、ビュレット型化合物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどのポリイソシアネート化合物、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、N,N’−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートなどのポリグリシジル化合物、2,2’−p−フェニレン−ビス−(1,3−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(1,3−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)などの低分子量ポリ(1,3−オキサゾリン)化合物、2−イソプロペニル−1,3−オキサゾリンなどの1,3−オキサゾリン基含有ビニル系単量体の単独重合体、または該1,3−オキサゾリン基含有ビニル系単量体を共重合可能な各種のビニル系単量体と共重合させた、1,3−オキサゾリン基を含有するビニル系重合体、アルミニウムキレート、ジルコニウムキレート、チタニウムキレートなどの金属キレート化合物などが挙げられ、特に、ポリイソシアネート化合物、ポリグリシジル化合物、金属キレート化合物が好ましい。これらの架橋剤は、1種類もしくは2種類以上の併用で使用することが可能である。
【0028】
架橋剤(B)の使用量は、アクリル樹脂(A)100質量部に対して0.01〜3.0質量部であるのが好ましい。架橋剤(B)の使用量が0.01質量部未満であると、粘着剤(樹脂)の架橋密度が下がり、耐久性が劣るので好ましくない。また、架橋剤(B)の使用量が3.0質量部を超えると、形成した粘着剤層が剥がれなどを起こし、耐久性が悪くなる。
【0029】
本発明の粘着剤組成物は、さらにシランカップリング剤を用いることができ、粘着剤の分野において公知のシランカップリング剤であれば、いずれも使用することができる。
【0030】
また、本発明の粘着剤組成物は、さらに粘着力を調整する目的など、必要な特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の添加剤を配合してもよい。例えば、テルペン系、テルペン−フェノール系、クマロンインデン系、スチレン系、ロジン系、キシレン系、フェノール系または石油系などの粘着付与樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料などを配合することができる。また、本発明の粘着剤組成物の製造方法自体は公知の方法でよく特に限定されない。
【0031】
本発明のアクリル樹脂(A)は、通常の溶液重合、塊状重合、乳化重合または懸濁重合などにより製造することができるが、上記アクリル樹脂(A)が溶液として得られる溶液重合により製造することが好ましい。上記アクリル樹脂(A)が溶液として得られることにより、そのまま本発明の粘着剤組成物の製造に使用することができる。この溶液重合に使用する溶剤としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、n−ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を挙げることができる。
【0032】
また、重合に使用する重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物または高分子アゾ重合開始剤などを挙げることができ、これらは単独でもまたは組み合わせても使用することができる。また、上記重合においては、アクリル樹脂(A)の分子量を調整するために従来公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0033】
本発明の粘着剤組成物は、通常使用されている塗布装置、例えば、ロール塗布装置などを用いて、シリコーン樹脂などの剥離剤を表面にコートしたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)などの保護フィルムの片面或いは両面に塗工し、塗工層を乾燥することにより粘着剤層を形成するのに使用する。また、必要に応じて、粘着剤層を加熱架橋または紫外線などの光による硬化をすることもできる。
【0034】
本発明の粘着剤組成物は、その塗布量を、乾燥後の粘着剤層の厚さが、100〜200μmとなる程度で厚塗りした場合であっても下記の効果が得られる。すなわち、上記粘着剤層の厚さを上記範囲内とした場合にも、気泡の発生のない粘着剤層の形成が可能である。また、本発明の粘着剤組成物は、175μmの膜厚に塗工しても、その粘着剤層のヘイズ値は1.0以下に保持される。
【0035】
また、本発明の粘着剤組成物は、塗工厚175μmの粘着剤層を60℃90%RHに200時間(以下、単に高温高湿条件という)放置した後、室温に取り出した際の皮膜のヘイズ値が4.0以下に保持され、このような厚塗り塗工乾燥した場合でも、高温高湿条件にさらされた後、室温に戻った際に白化現象の発生が抑制されるという顕著な効果が得られる。
【0036】
本発明の粘着剤組成物は、塗工厚175μmの粘着剤層の皮膜の吸湿率が0.5%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.5%〜3.0%である。皮膜の吸湿率が、少なくとも0.5%以上あれば白化現象の発生が抑制される。本発明者らは、この理由を、皮膜に適宜な吸湿率があることで、高温高湿条件下に放置した後、室温に戻した場合でも皮膜が吸湿するため、表面に付着した水分を結露させることなく、白化が抑えられると考えている。ここでいう「皮膜の吸湿率」とは、一定サイズの試料片を高温高湿条件に7日間放置し、その前後において、それぞれ質量を測定し、以下の式1より算出した値である。
[式1]
皮膜の吸湿率(%)=((W2−W1)/W1)×100
W1:高温高湿条件放置前の試料の質量
W2:高温高湿条件放置後の試料の質量
【0037】
また、「室温」とは、20℃±15℃であり、「取り出した際」とは、高温高湿条件から取り出した後、1時間以内をいう。従来の粘着剤組成物の場合、上記高温高湿条件に放置した後、室温に取り出した際の皮膜のヘイズ値は高く、皮膜が白化してしまい、光学用粘着剤として不十分であった。本発明の粘着剤組成物は、上記問題を解決するものである。特に、上記高温高湿条件から室温に取り出した際の皮膜のヘイズ値を4.0以下とし、上記皮膜の吸湿率を0.5%以上とすることで、白化現象が起こらない粘着剤層を提供することができる。
【0038】
本発明の粘着剤組成物は、種々の光学部材の貼り合わせに有効であるが、特にタッチパネルにおける各種部材の貼り合わせに有用である。例えば、静電容量方式の場合は、上部透明導電層と導電層がパターニングされた下部透明導電層とを、直接貼り合わせる用途や、下部透明導電層とLCDパネルとの貼り合わせの用途に粘着剤層を用いる場合がある。これらの粘着剤層には高度な光学的性能が要求されるが、本発明の粘着剤組成物を用いることで、上記したような高度な光学的性能を満たすことが可能となる。
【実施例】
【0039】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0040】
<共重合体1〜7の作成>
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後、この反応装置中に、ブチルアクリレートを100部、2−ヒドロキシエチルアクリレートを1.0部、N,N−ジエチルアクリルアミドを10部とともに、酢酸エチル60部を加えた。その後、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリルを0.1部加え、これを攪拌させながら、窒素ガス気流中において、65℃で5時間反応させ、重量平均分子量80万のアクリル共重合体1の溶液を得た。同様にして表1に記載の単量体および溶剤組成で共重合体2〜7を得た。表1中の略語については、下記に示す。
【0041】

【0042】
BA:ブチルアクリレート
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
MA:メチルアクリレート
EA:エチルアクリレート
BZA:ベンジルアクリレート
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
4HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタアクリレート
DEAA:N,N−ジエチルアクリルアミド
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
EMAA:N−エチル−N−メチルアクリルアミド
DMMA:N,N−ジメチルメタクリルアミド
DBAA:N,N−ジブチルアクリルアミド
DEMA:N,N−ジエチルメタクリルアミド
【0043】
上記表1における、重量平均分子量(Mw)の値は、GPC(GEL Permeation Chromatography)法により測定したポリスチレン換算分子量である。詳しくは、共重合体を常温で乾燥させて得られた塗膜をテトラヒドロフランに溶解し、高速液体クロマトグラフ(島津製作所製、LC−10ADvp、カラムKF−G+KF−806×2本)で測定し、ポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0044】
[実施例1〜5、比較例1〜2]
表1の共重合体1の固形分100部に対して、コロネートLを0.1部混合して実施例1の粘着剤組成物とした。この粘着剤組成物をシリコーン樹脂コートされたPETフィルム上に塗布後、90℃で乾燥することによって溶媒を除去し、粘着剤層の厚さが175μmであるシートを得た。該実施例1と同様にして、表2に記載の成分を混合して塗工することで、実施例1〜5および比較例1、2の粘着剤組成物と、粘着剤層を形成したシートを得た。なお、表2中の略語については、下記に示す。
【0045】

【0046】
コロネートL:日本ポリウレタン工業(株)製 ポリイソシアネート
D−110N:三井化学(株)製 タケネートD−110N キシリレンジイソシアネート化合物
D−120N:三井化学(株)製 タケネートD−120N 水添キシリレンジイソシアネート化合物
【0047】
<試験方法および評価基準>
実施例および比較例における粘着剤層を形成したシートを23℃50%RHの雰囲気下で7日間エージングした後、PETフィルム上の片面にアンダーコート層、その上に非晶質ITO層、反対面にハードコート層を設けた総厚125μmのITOフィルムのハードコート層に貼り合わせ、それぞれ200mm×300mmに断裁し、フィルムセパレーターを剥離した後、ガラス基板上に貼り付け、オートクレーブ処理を行い、評価用サンプルを作製した。得られた評価用サンプルについて、それぞれ下記項目の試験を行った。
[ヘイズ値]
(1)塗工時
上記評価用サンプルをガラス上に貼り合わせ、日本電色工業製 NDH5000Wヘーズメーターにて、JIS K7136に準拠した方法で、ヘイズ値を測定した。
(2)湿熱後
上記塗工時のヘイズ値を測定後、60℃90%RH条件下に200時間放置した後、室温環境下に取り出し、1時間室温に置いた試料を用いて、日本電色工業製 NDH5000Wヘーズメーターにて、JIS K7136に準拠した方法で、ヘイズ値を測定した。
【0048】
[吸湿率]
実施例および比較例における粘着剤層を形成し、剥離力の異なるフィルムセパレーターに貼り合わせ、エージングが終了した後、200mm×300mmに断裁し、片面のフィルムセパレーターを剥がしたものを試料とした。該試料を、100℃で1時間乾燥した後、正確に質量を測定した(W1)。その後上記試料を、60℃90%RHの雰囲気下(高温高湿条件)に7日間放置した後、該試料を取り出し、再度正確に質量を測定した(W2)。得られた測定値を用いて、以下の式1より皮膜の吸湿率を算出した。
[式1]
皮膜の吸湿率(%)=((W2−W1)/W1)×100
W1:高温高湿条件放置前の試料の質量
W2:高温高湿条件放置後の試料の質量
【0049】
[耐久性試験]
(1)80℃
上記評価用サンプルを、80℃(DRY)の雰囲気下に500時間放置した後、発泡および剥がれについて目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
(2)60℃90%RH
上記評価用サンプルを、60℃90%RHの雰囲気下に500時間放置した後、発泡および剥がれについて目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
【0050】
<評価基準>
○:シートに発泡、剥がれが確認されない。
△:シートに発泡、剥がれが僅かに確認された。
×:シートに発泡、剥がれが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、タッチパネルやプラズマディスプレイパネルなどに使用する粘着剤組成物であって、厚塗り塗工乾燥した場合でも、高温高湿条件にさらされた後、室温に戻した際に、白化が発生しない光学用粘着剤組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステルモノマー(a)100質量部、水酸基を含有する共重合可能なモノマー(b)0.1〜10質量部、及び、ジアルキル置換アクリルアミドモノマー(c)5〜30質量部を含むモノマーからなる、重量平均分子量が30万〜200万の共重合体であるアクリル樹脂(A)を100質量部と、架橋剤(B)を0.01〜3.0質量部とを含有してなることを特徴とする光学用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記粘着剤組成物によって形成した粘着剤層が、塗工厚175μmの時のヘイズ値が1.0以下である請求項1に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記粘着剤組成物によって形成した粘着剤層を60℃90%RHで200時間放置した後、室温環境下に取り出した際の、該粘着剤層のヘイズ値が4.0以下である請求項1または2に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項4】
前記粘着剤組成物によって形成した粘着剤層の吸湿率が0.5%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項5】
タッチパネル用である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学用粘着剤組成物。

【公開番号】特開2011−195651(P2011−195651A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61997(P2010−61997)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000105877)サイデン化学株式会社 (39)
【Fターム(参考)】