説明

光学的情報記録用媒体

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はレーザー光の照射により、高速かつ高密度に情報を記録、消去、再生可能な光学的情報記録用媒体に関するものである。さらに詳しくは、繰り返し記録・消去を行った場合の信頼性の向上に寄与するものである。
【0002】
【従来の技術】近年・情報量の増大、記録・再生の高密度・高速化の要求にこたえる記録媒体として、レーザー光線を利用した光ディスクが開発されている。光ディスクには、一度だけ記録が可能な追記型と、記録・消去が何度でも可能な書換え型がある。書換え型光ディスクとしては、光磁気効果を利用した光磁気記録媒体や、可逆的な結晶状態の変化を利用した相変化媒体があげられる。
【0003】相変化媒体は、外部磁界を必要とせず、レーザー光のパワーを変調するだけで、記録・消去が可能である。さらに、一つのレーザービームの照射強度を変調させながら前データの上から新データを重ね書きできる、いわゆる1ビームオーバーライトが可能であるという利点を有する。1ビームオーバーライト可能な相変化記録方式では、記録膜を非晶質化させることによって記録ビットを形成し、結晶化させることによって消去を行う場合が一般的である。このような、相変化記録方式に用いられる記録層材料としては、カルコゲン系合金薄膜を用いることが多い。例えばGe−Te系、Ge−Te−Sb系、In−Sb−Te系、Ge−Sn−Te系合金薄膜等があげられる。
【0004】一般に、書換え型の相変化記録媒体では、相異なる結晶状態を実現するために、2つの異なるレーザー光パワーを用いる。この方式を、非晶質ビットと結晶化された消去・初期状態で記録・消去を行う場合を例にとって説明する。結晶化は、記録層の結晶化温度より十分高く、融点よりは低い温度まで記録層を加熱することによってなされる。この場合、冷却速度は結晶化が十分なされる程度に遅くなるよう、記録層を誘電体層ではさんだり、ビームの移動方向に長い楕円形ビームを用いたりする。一方、非晶質化は記録層を融点より高い温度まで加熱し、急冷することによって行う。
【0005】この場合、上記誘電体層は十分な冷却速度(過冷却速度)を得るための放熱層としての機能も有する。さらに、上述のような、加熱・冷却過程における記録層の溶融・体積変化に伴う変形や、プラスチック基板への熱的ダメージを防いだり、湿気による記録層の劣化を防止するためにも、上記誘電体層からなる保護層は重要である。保護層の材質は、レーザー光に対して光学的に透明であること、融点・軟化点・分解温度が高いこと、形成が容易であること、適度な熱伝導性を有するなどの観点から選定される。十分な耐熱性および機械的強度を有する保護層としては、金属の酸化物や窒化物等の誘電体薄膜に限られる。
【0006】これらの誘電体薄膜とプラスチック基板とは熱膨張率や弾性的性質が大きくことなるため、記録・消去を繰り返すうちに、基板からはがれてピンホールやクラック等の欠陥を生じる原因となる。相変化媒体を実用化するためには、例えば107 回以上のオーバーライトに耐えることが望まれている。しかし、交代セクターを用意することで、媒体としては105 回以上の耐久性があれば良いという提案(福島、高木、佐藤、光メモリシンポジウム’90・プロシーディング)もあり、当面は105 回以上が相変化媒体に要求される耐久性の目安となると考えられる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】誘電体保護層が基板から剥離することを防止するためには、両者の間の付着力を強化することがまず重要である。本発明者らはすでに特願平2−149534において基板との密着性にすぐれる誘電体として酸化タンタルを提案している。また、基板表面をプラズマ処理するなどにより密着性を改善することも提案されている(特開昭63−46636)。さらに、誘電体保護層の内部応力が小さく基板との間に過剰な応力差が生じないようにすることも重要である。
【0008】上記密着性や応力バランスの改善を行う一方で、その均一性が問題となってくる。光ディスク基板には、あらかじめレーザービーム案内用の溝が設けられていることが多いが、溝のエッジ部においてはレーザー光照射時に生じる熱応力が大きい。また、溝の壁面やエッジ部では膜厚、付着力が小さくなるといういわゆるステップ・カバレッジの問題もある。このため繰り返し記録・消去を行ううちに溝のエッジ部からクラック発生・膜剥離が生じてくることがある。このような欠陥は数μm以上にわたって連続して生じる場合が多く、極めて重大なバースト欠陥となる。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記溝形状に起因するバースト欠陥を防止するため、種々の溝形状について検討を行い本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は、レーザー光ビームの案内用の溝を有する透明基板状に、少なくとも該レーザー光の照射によって光学定数が可逆的に変化する記録層と、該記録層の上下に設けた誘電体保護層とを有する相変化型の記録媒体を形成してなる光学的情報記録用媒体において、該案内用の溝形状を光学回折を用いて測定し、V型の溝形状を仮定して導出した場合の溝深さhと溝幅wとの比h/wを0.25未満としたことを特徴とする光学的情報記録用媒体に存する。
【0010】なお、上記溝形状は再生信号品質、例えばC/N比(Carrier toNoise ratio)にも影響を及ぼす。例えば通常用いられる1.6μmピッチのらせん状あるいは同心円状の溝においては、溝と溝との間(ランド部)に記録を行う場合、溝幅が狭い法がC/N比は高くとれる傾向がある。従って単純に溝幅を広くすることは好ましくなく、0.3〜0.7μmにとることが望ましい。
【0011】また溝深さが浅くなりすぎると、トラッキングサーボ用の信号が十分とれなくなるため、少なくとも100Åは必要である。従ってh/wの下限としては、0.014以上であることが望ましい。以下において、本発明光学的情報記録用媒体の構成についてさらに詳しく述べる。本発明の記録用媒体の基本構成は基板/保護層/記録層/保護層の構成からなる。基板1には、前述のようにポリカーボネート、アクリル、ポリオレフィンなどの透明樹脂、あるいはガラスを用いることができる。
【0012】レーザービーム案内用の溝は、プラスチック基板の場合には、射出成形時にあらかじめ形成され、ガラス基板の場合にはエッチングにより形成されるか、または別途設けた光硬化性樹脂層上に形成される。基板上には記録膜を挟んで誘電体からなる保護層が設けられる。保護層は各々100から5000Åの範囲であることが望ましい。誘電体からなる保護層の厚みが100Å以下であると、基板や記録膜の変形防止効果が不十分であり、保護層としての役目をなさない。
【0013】一方、プラスチック基板を用いた場合、5000Å以上では、誘電体自体の内部応力や基板との弾性特性の差が顕著になって、クラックが発生しやすくなる。記録層の厚みは100Åから1000Åの範囲に選ばれる。記録層の厚みが100Åより薄いと十分なコントラストがえられず、一方1000Åを越すとクラックが生じ易くなる。なお、記録層及び記録層の両側に設けられた両保護層の厚みは多層構成にともなう干渉効果も考慮して、レーザー光の吸収効率がよく、記録信号の振幅すなわち記録状態と未記録状態のコントラストが大きくなるように選ばれる。
【0014】基板から遠い側の保護層の上に熱変形防止のためのハードコート層を設けても良い。あるいは、接着層を設けて保護基板あるいは、もう一枚の記録媒体と貼りあわせてもよい。さらに他の例としては、基板から遠い側の保護層の上に光学的反射層やハードコート層等を設けることも考えられる。光学的反射層は反射率の高い、Al、Au、Ag、Ni等の金属薄膜が用いられる。この場合記録層及び保護層の厚みは、反射層を含めた干渉効果を考慮して決定される。また、反射層は、記録層が吸収した熱エネルギーの拡散を促進する効果もある。
【0015】記録層、保護層、反射層はスパッタ法などによって形成される。記録膜用ターゲット、保護膜用ターゲット、必要な場合には反射層材料用ターゲットのターゲットを同一真空チャンバー内に設置したインライン装置で膜形成を行うことが各層間の酸化や汚染を防ぐ点で望ましい。また、生産性の面からもすぐれている。ここで、溝の形状の定義及び測定法について述べておく。
【0016】図1のようなV形の溝2を仮定する。この時の回折光を測定し、測定値から溝のパラメーター(幅w、深さd)を計算により求める方法を以下に示す。He−Neレーザー(波長633nm)の光を図2のように基板1の溝2のついていない側から照射する。基板1の溝2によって回折した0次光IO 、1次光I+1 及びI-1、2次光I+2 及びI-2の強さを、ディテクターを用いて測定する。この時
【0017】
【数1】


【0018】の関係が成り立つ。但し、ここで、λは測定光の波長、Pは溝から溝の距離(ピッチ)であり通常1.6μm、α=πw/P、β=2π/λ×(n−1)×d、nは基板の屈折率、wは溝の幅である。
【0019】(1)式及び(2)式を連立して解くことによりw及びdが求まる。実際の溝形状は、必ずしも図1R>1に示すような鋭角的な形状をしていないが、本発明においては、上記の測定法により溝の幅及び深さを一義的に決定した値を用いている。従って、本発明における溝形状は、図1のような鋭角的なV型溝に限定されるものではない。
【0020】
【実施例】以下実施例をもって本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。本発明記載媒体の製造法の一例について述べる。同一チャンバー内に3つのターゲットを有する装置を用いる。ターゲットはそれぞれ、Taターゲット、SbGeTe3元合金ターゲット、アルミニウム合金ターゲットである。基板はこれら3つのターゲットの中心で公転させる。まず、チャンバー内にAr及び酸素をそれぞれ50ccm 、15ccm 導入し、全圧を0.5Paとする。Taターゲットに直流電圧を印加してグロー放電を生ぜしめ反応性スパッタにより酸化タンタル薄膜を形成する。
【0021】次に、酸素の導入をとめArのみを50ccm 導入して全圧を0.5PaとしGeSbTeターゲットに直流電圧を印加して同時スパッタによりGe11Sb34Te55からなる3元合金薄膜を700Åの厚みに形成する。さらに、再び酸素を導入し前述と同様にして酸化タンタル薄膜を形成し、その後Arガス中でアルミニウム合金薄膜からなる反射層を形成する。上記各層の膜厚は再生光の大きさ及びその振幅が適度な値となるように選ばれる。
【0022】最後に、上記記録媒体の変形を防止するため、紫外線硬化樹脂層を数μmの厚さに形成する。以上の工程により基板/保護層/記録層/保護層/反射層/ハードコート層の構成の光記録媒体を表1に示す種々の溝形状を有する基板上に形成した。なお、溝のピッチは1.6μmで螺旋状になっている。上記の記録媒体に対し、記録パワー15mW、消去パワー8mW、線速10m/s、4MHz 、duty50%で単一周波数にて繰り返しオーバーライトを行った。
【0023】いずれの場合も初期のC/N比は50〜52dBであった。表1に105 回オーバーライトを行った後にC/N比が45dB以上を維持しかつ欠陥発生がないものを◎、C/N比を維持したものの若干の欠陥が発生したものを○、C/N比が45dB以下にダウンし大量の欠陥が発生したものを×で示した。同表より溝深さhと溝幅wの比h/wが0.25未満であれば、C/N比の劣化、欠陥の発生が抑制され、105 回以上の耐久性があることがわかる。
【0024】
【表1】


【0025】
【図面の簡単な説明】
【図1】断面図
【図2】説明図
【符号の説明】
1 基板
2 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】 レーザー光ビームの案内用の溝を有する透明基板上に、少なくとも該レーザー光の照射によって光学定数が可逆的に変化する記録層と、該記録層の上下に設けた誘電体保護層とを有する相変化型の記録媒体を形成してなる光学的情報記録用媒体において、該案内用の溝形状を光学回折を用いて測定し、V型の溝形状を仮定して導出した場合の溝深さhと溝幅wとの比h/wを0.25未満としたことを特徴とする光学的情報記録用媒体。

【請求項2】 溝深さhと溝幅wとの比h/wを0.0
14以上0.25未満としたことを特徴とする請求項1記載の光学的情報記録用媒体。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】第2737401号
【登録日】平成10年(1998)1月16日
【発行日】平成10年(1998)4月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−403941
【出願日】平成2年(1990)12月19日
【公開番号】特開平4−219641
【公開日】平成4年(1992)8月10日
【審査請求日】平成7年(1995)8月4日
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【参考文献】
【文献】特開 昭62−229548(JP,A)
【文献】特開 昭64−25327(JP,A)
【文献】特開 平3−84748(JP,A)