説明

光学的測定室

【課題】光学窓をもつ気密性光学的測定室を利用する偏光解析測定及び反射測定等の光学分析法において、入射光及び反射光、それぞれの透過光路となる特定角度の個別の光学面をもつ、単一の光学窓を設けた光学的測定室を提供する。
【解決手段】本願発明による光学窓を備える光学的測定室は、試料(5)を配置する台(4)を備えた筐体(光学的測定室:6)に光学窓(1)が結合されており、当該光学窓は、入射光の光軸(線分7−8)、及び、試料面での反射光の光軸(線分8−9)、それぞれが垂直に通過するように設置された個別の光学面(2及び3)から構成されている。当該光学窓(1)に設けられた光学面(2及び3)は、入射光及び反射光が対応する光学面に対して直交するように、試料面の法線に対する入射光の光軸の角度θ及び試料面の法線に対する反射光の光軸の角度θと同じ試料面に対する角度θw1をもつ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、光学的測定などに用いられる単一の光学窓を備えた気密な光学的測定室、さらに詳しく言えば、試料面に対して0度以上90度未満の範囲で特定の角度で傾斜した光学面を2つ以上もつ光学窓が設置可能な光学的測定室に関する。半導体産業、バイオ産業、光学フィルター産業などの先端薄膜材料分野において薄膜の膜厚及び屈折率を評価するための偏光解析法並びに反射法等の光学的分析法に使用する光学的測定室に関する。
【背景技術】
【0002】
光干渉計、反射測定装置や偏光解析測定装置を用いる測定において、測定対象となる試料の環境を真空条件又は大気とは異なる特定の雰囲気条件とすることが求められることが多い。当該条件を実現するために、外部の雰囲気から隔絶し、閉鎖した光学的測定室内に当該試料を配置したいという要請がある。
【0003】
また、当該条件を実現した上に、さらに、冷却器又は加熱器を使用して試料及び周辺の温度を変えながら測定を行いたいという要請がある。
【0004】
一方、当該光学測定においては、図5又は図6に示すように、光源からの入射光をプローブ光として、試料面の法線に対して特定の角度θにて試料面に到達させる必要がある。
【0005】
前記測定条件を実現した測定では、試料(16)が光学的測定室内の試料台(17)上に設置されるため、入射光を外部から光学的測定室内部へ透過させることを目的として、さらに、試料の影響を受けた反射光を光学的測定室外部へ透過させることを目的として、光学的測定室の一部分もしくは複数部分に開口部(14)を設ける(下記特許文献1参照)。
【0006】
当該開口部には気密性を保持することを目的として、入射光及び反射光が透過できるような光学面を有する光学窓(15)をとりつける。
【0007】
これにより入射する光は光学窓を介して試料に投射され、試料の影響を受けた光は、同一、又は別の光学面を有する光学窓を介して取り出される。光学窓本体以外の、光学窓支持枠を含む光学的測定室の構成部材にはアルミ合金及びステンレスなどの金属などが用いられ、光学窓(15)を構成する部材には石英ガラス板等が用いられる。
【特許文献1】特開2003−322611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光干渉計、反射測定装置や偏光解析測定装置を用いる測定では、光源からの入射光をプローブ光として、試料面の法線に対して特定の角度θにて試料面に到達させる必要がある。
【0009】
図5に示した先行技術においては、光学窓(15)の光学面が入射光の光軸に対して傾いており、光学窓を入射光が透過するときに光学窓の屈折率に応じて光路が光学面の法線に対して屈折率に依存した角度Δの方向に曲げられる。光学窓の屈折率は波長に依存しているため、紫外光及び可視光の領域で波長を変化させながら分光測定を行うと波長に依存して屈折率及びΔが変化するため、試料上の同一点を測定できないという問題があった。
【0010】
この問題を解決するために、図6に示される先行技術のように、光学窓(18及び19)を二つ設けることにより入射光の光軸及び反射光の光軸が光学面に対し直交するような方策がとられた。この場合、試料を設置する光学的測定室に2つの開口部(20及び21)を設け、それぞれの開口部に一つずつ光学窓が組み込まれている。
【0011】
一方、偏光解析測定においては、試料表面の測定点に入射する光の試料面の法線に対する角度θを0度以上90度未満の範囲で変更したいという要請がある。入射角θを上記範囲で変更して測定するためには、入射光の透過する光学面の試料面に対する角度及び反射光の透過する光学面の試料面に対する角度をともにθとするように光学的測定室の開口部(20及び21)を再加工する必要があり、同じ光学的測定室を利用して異なる角度の条件で測定することは困難であるいう問題があった。
【0012】
より深刻には、常温付近で組み立てられた、異なる膨張係数をもつ部材で構成された光学窓が設けられた光学的測定室は、試料温度を変化するために液体窒素温度(−196℃)以上の低温又は600℃までの高温におかれた場合、光学窓の熱膨張率と光学窓の支持枠を構成する部材の熱膨張率の差に起因する内部応力が光学窓内に発生する。
【0013】
当該内部応力は、光学窓変形による光学面の角度変化の原因及び光路内に生ずる歪みによる複屈折の原因等になるため、入射光の光軸の角度が変化するために正常な光学的測定ができないという問題があった。特に、偏光解析測定においては、光学窓内部の歪みは、入射光の偏光状態を改変させるために正常な測定ができないという問題があった。
【0014】
さらに、ヒートショックなどにより、より大きな内部応力が光学窓内に発生した場合、光学窓自体が破損するという問題があった。
【0015】
したがって、本願発明の目的は、前記問題を解決するために、広い温度範囲で変化させた条件下での正確な光学的測定を可能にすること、及び、光学的測定室の再加工の必要がなく、角度可変測定を可能にすることが可能である光学窓を有する光学的測定室を提供することである。

【課題を解決するための手段】
【0016】
図1に示すように、本願発明による光学窓を備える光学的測定室は、試料(5)を載置する試料台(4)を備えた筐体(光学的測定室:6)に光学窓(1)が結合されており、当該光学窓は、入射光の光軸(線分7−8)及び試料面からの反射光の光軸(線分8−9)が、それぞれ垂直に通過するように設置された光学面(2及び3)から構成されている。
【0017】
該光学窓(1)に設けられた光学面(2及び3)は、入射光及び反射光が対応する光学面に対してそれぞれ90度で透過するために、試料面の法線に対する入射光の光軸の角度θ及び試料面の法線に対する反射光の光軸の角度θに応じて、試料面に対する角度θw1をもつ。
【0018】
光学面を含む当該光学窓(1)は、単一材質の部材により構成されており、測定試料周辺を液体窒素温度(−196℃)以上の低温から600℃までの高温に維持して光学窓を使用した際に生じる、光学窓と支持枠との間の熱膨張率の差に起因する光学面の変形や歪みの問題は発生しない。
【0019】
図2に示すように、光学窓に付属する光学面は、各辺が該光学面と同材質からなる平面部材で連結され、さらに、該光学面と同材質の円形ベースプレート(10)は、接合面において隙間無く連結されている。2mm以上の十分な厚みを有する円形ベースプレート(10)の周縁部は、光学的測定室(6)の開口部に連結される。
【0020】
該ベースプレート周縁部と光学的測定室開口部の接触部は、各種シール材、Oリング、真空グリスなどを利用して気密を維持する工夫を施すことができ、これにより、本願発明による光学窓と光学的測定室を結合することにより得た光学的測定室内部の気密性を確保することができる。
【0021】
また、図3に示すように、光学面(11)は、光学窓ベースプレート下部に設置することも可能である。
【0022】
より好ましくは、異なる入射角θの条件で測定ができるように、入射角及び反射角に応じた角度の光学面をもつ光学窓を複数、又は、図4に示すように、試料面に対する角度θw1をもつ光学面と試料面に対する角度θw2をもつ光学面を組み合わせた、単一の光学窓のいずれかを用意する。これにより、光学的測定室開口部の再加工の必要はなく、適切な角度の光学面をもった光学窓を選択、又は、光学窓に設けられた、所定の入射角及び反射角に適切な角度をもつ光学面が光軸上に位置するように、当該光学窓を光学的測定室に設置することにより、最適な入射角で測定を行うことができる。
【0023】
本願発明による光学窓の製作方法を以下に説明する。
【0024】
本願発明による光学窓の部材は、熱膨張率がきわめて小さく、かつ、紫外光から可視光での波長領域における光の吸収がなく、かつ、偏光状態に影響を与える複屈折の原因となる微細構造に歪みをもたない石英ガラスなどの物質を利用した加工部材が好ましい。
【0025】
本願発明による光学窓を設置した光学的測定室の内部を減圧、もしくは、高真空にして用いる場合には、大気圧との差が原因となり光学窓部分に荷重がかかる。これに伴う内部応力の発生を抑制するために、光学窓は、十分に強固である必要があり、また、光学窓の部品点数を最小化することにより、接合部において生じる歪みを低減することができる。
【0026】
本願発明による光学窓は、光学窓を形成する各面に応じた部材の切り出し、成形、洗浄、研磨、及び、組立の各工程を経て作製する。本願発明による光学窓を構成する各部材の切り出し工程においては、後工程での成形、研磨工程を正しく行うため、必要な大きさに対して余裕をもった大きさで切り出すのが好ましい。
【0027】
本願発明による光学窓を構成する各部材の成形工程においては、光学窓の光学面の角度あわせを行い、光学面を含む部材の各接合面同士を完全に密着させるための研磨工程のために余裕を持った成形を行うことが好ましい。また、ベースプレートの外周及びベースプレートのスリット部は、力学的衝撃を原因としたひび割れが発生しにくい処理を行うことが好ましい。
【0028】
本願発明による光学窓を構成する各部材の洗浄工程においては、後工程である接合工程において、接合面に不純物が残存しないように、(1)5分以上の有機溶剤による超音波洗浄、(2)5分以上の水による超音波洗浄、(3)5分以上の純水による超音波洗浄、(4)5分以上のエタノールによる超音波洗浄、の(1)から(4)の各手順を経て、十分な洗浄、脱脂を行う。
【0029】
本願発明による光学窓を構成する各部材の研磨工程においては、各部材を接合するための接合面同士が完全に密着するように、各接合面が平行になるように研磨を行う。
【0030】
本願発明による光学窓を構成する各部材の組立工程においては、始めに各部材の接合面研磨を行い、加熱温度1200℃以上、保持時間10分以上の条件で、研磨された面同士を接合した後、1時間以上をかけて徐冷を行うことにより接合を完了する。
【0031】
各部材を接合する際に生じた微小歪み及び内部応力は、接合された各部材を加熱温度1210℃以上、保持時間1時間以上の条件で焼鈍することにより解消、消滅させることができる。
【0032】
以上述べたように、光干渉計、反射測定装置や偏光解析測定装置を用いた光学的測定のための、適切な角度の光学面を設けた光学窓、及び、当該光学窓を設置可能な気密性光学的測定室をそれぞれ設計し、さらに、当該光学窓の作製工程を確立することにより、本願発明を成就することができる。

【発明の効果】
【0033】
試料面の法線に対する入射光の光軸の角度を変更しても試料面に対して適切な角度をもつ光学面を設けた光学窓を選択することにより、試料上のビーム位置は、常に同一点に保つことができる。入射角度に応じた光学面を用いることにより、光学面が透過する際に光軸がずれ、試料面上での入射角度が変わることなく、かつ、試料面上の測定点を同様に常に同一点に保つことができる。
【0034】
極めて低い温度、例えば、液体窒素温度(−196℃)以上の低温から極めて高い温度、例えば、600℃以下の高温といった広い温度範囲の中の所定温度に維持した試料の測定を、光学的測定室を構成する部分の大規模な改修をすること無く、単一の光学窓を交換するだけで任意の角度で測定を行うことが可能になった。光学窓が備える光学面が入射光の光軸及び反射光の光軸に対して垂直に調整されているため、光学的測定を行っても入射角度に影響を受けることなく試料面上のプローブ光の反射点位置は常に同一に保たれる。
【0035】
単一材質の部材で作製することにより光学窓の耐熱性を向上させたため、液体窒素温度(−196℃)から600℃というこれまで実現不可能であった温度範囲において温度可変光学測定を目的にした光学的測定室として適用する場合でも、可能な限り当該光学的測定室の大きさを減少させることができ、温度制御の精度を向上させることが可能となる。
【0036】
光学窓に設けられた光学面の角度は、任意の角度で作製することができ、さまざまな角度の光学面を設けた光学窓への取り替えが可能であり、偏光解析測定のみならず、反射測定、その他に広く利用できる。また、ビームが集光されている場合、光学面は、波面を保持するようレンズ形状になっている場合にも利用できる。この場合光軸に平行な平面との光路が垂直になるように調整される。

【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0038】
<特定の角度の光学面をもつ光学窓と光学的測定室を組み合わせた例>
【0039】
図1は、本願発明による光学窓を備える光学的測定室の実施例を示す概略図である。光学的測定室(6)中の試料台(4)に測定対象の試料(5)を載置してある。光学的測定室(6)上部には開口部が設けられており、入射用の光学面(2)と反射用の光学面(3)を設けた光学窓(1)が設置できる。光源から発生させた入射光(線分7−8)は、光学面を透過し、試料面の法線に対する入射角度θで試料面に到達し、その後、試料の影響、干渉や偏光を受けた反射光(線分8−9)は、光学面を透過し、測定装置の検出部(図示せず)へ入射させる。
【0040】
光学窓の二つの光学面の試料面に対する角度(θw1)は、入射光の光軸及び反射光の光軸と直交するように設定されている。入射角度(θ)に適応した試料面に対する角度θw1(=θ)をもつ光学面を設けた光学窓を光学的測定室に組み合わせることにより、光学測定に用いることができる。図2は、本願発明による特定の角度θw1の光学面を設けた光学窓の実施例の概略図である。
【実施例2】
【0041】
<特定の角度の光学面をもつ光学窓の例>
【0042】
図3は、本願発明による光学的測定室において使用する光学窓の他の実施例の概略図である。光学面(11)は、光学窓ベースプレート(12)下部に設置することも可能である。光学的測定室内の死容積を低減させることができる。
【実施例3】
【0043】
<異なる角度の光学面の組み合わせの例>
【0044】
図4は、本願発明による光学的測定室で使用する光学窓のさらに他の実施例の概略図である。図2に示したθw1の光学面の組み合わせに、さらに、θw2の角度をもつ光学面を設置することにより、入射角及び反射角を変えて測定することが可能である。

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本願発明による特定の角度θw1の光学面をもつ光学窓と光学的測定室を組み合わせた例を示す概略図である。図面上ではθw1=75度としている。
【図2】本願発明による特定の角度θw1の光学面を設けた光学窓の実施例を示した概略図である。図面上ではθw1=75度としている。
【図3】本願発明による特定の角度θw1の光学面を設けた光学窓の他の実施例を示した概略図である。図面上ではθw1=75度としている。
【図4】本願発明による特定の角度θw1の光学面及び特定の角度θw2の光学面の複数の入射角に対応する光学窓の実施例を示した概略図である。図面上ではθw1=75度、θw2=55度としている。
【図5】従来の方法による光学窓を設けた光学的測定室を示す概略図である。
【図6】従来の方法による入射角及び反射角それぞれに対応する二つの光学窓を設けた光学的測定室を示す概略図である。
【符号の説明】
【0046】
1:光学窓
2:入射光を透過させるための光学面
3:反射光を透過させるための光学面
4:試料台
5:測定試料
6:光学的測定室
7:入射光
8:試料面上の測定点
9:反射光
10:光学窓を形成するベースプレート
11:光学面
12:光学窓を形成するベースプレート
13:光学窓を形成するベースプレート
14:光学的測定室の開口部
15:光学窓
16:測定試料
17:試料台
18:入射光を透過させるための光学窓
19:反射光を透過させるための光学窓
20:入射光を透過させるための光学窓を固定するためのフランジ
21:反射光を透過させるための光学窓を固定するためのフランジ
22:測定試料
23:試料台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的測定室であって、該光学的測定室の内部には、試料を載置するための試料台を備え、該光学的測定室は、外界に対して気密であるとともに光学窓を除き外界から光学的に遮断されており、該窓は単一であり、同一の材料により形成されており、入射光は、該窓を通して該光学的測定室に入射し、該試料により反射した反射光は、該窓を通して該光学的測定室から外界へ出射することを特徴とする光学的測定室。
【請求項2】
上記光学窓は、少なくとも2つの光学面を有し、第1の光学面は、試料面の法線に対する角度が0度以上90度未満の範囲の特定の角度である第1の入射光の光軸と直交しており、第2の光学面は、該入射光が試料により反射した第1の反射光の光軸と直交していることを特徴とする請求項1に記載の光学的測定室。
【請求項3】
上記光学窓は、上記特定の角度とは異なる角度で入射する第2の入射光の光軸と直交する第3の光学面及び該第2の入射光が試料により反射した第2の反射光の光軸と直交している第4の光学面を備えていることを特徴とする請求項2に記載の光学的測定室。
【請求項4】
液体窒素温度以上600℃以下の温度範囲で、波長範囲が紫外から可視光領域である入射光及び反射光に対して、上記光学窓を単一の素材で構築し、構成部材の熱膨張率の差によるゆがみ及び内部応力に起因した複屈折性の発生並びに屈折率の変化がない光学面を備えた光学窓を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光学的測定室。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−42018(P2009−42018A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206125(P2007−206125)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)/ナノ計測基盤技術」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(300072163)有限会社幕張理化学硝子製作所 (2)
【Fターム(参考)】