説明

光学素子成形方法および光学素子成形装置

【課題】プリフォーム内の残留応力による光学素子の転写不良を抑制した光学素子成形方法を提供する。
【解決手段】プリフォームPを下型5に形成された窪みに配置し、配置されたプリフォームPを所定の成形温度より高い温度で溶融するように加熱し、加熱されたプリフォームPを所定の成形温度まで冷却し、所定の成形温度に達したプリフォームPを上型6と下型5と胴型7とで囲まれる空間内で圧縮して光学素子を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学素子を成形する光学素子成形方法および光学素子成形装置に係り、特に、プリフォームを加熱圧縮して光学素子を成形する光学素子成形方法および光学素子成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズなどの光学素子を成形するためのプリフォームを射出成形により製造する場合、溶融樹脂を所定の射出圧力でキャビティ内に充填することでプリフォームが成形される。この射出圧力がキャビティ内に均一に拡散せずに圧力差を生じさせ、この圧力差が成形されたプリフォーム内に残って残留応力となる。
残留応力を有するプリフォームを加熱圧縮して光学素子を成形すると、プリフォームが金型内で加熱された時に残留応力が解放され、プリフォームの形状変化などの部分的な欠陥が生じる。このプリフォームの部分的な欠陥が、圧縮成形された光学素子に反映され、レンズのコバ転写不良を招く。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、プリフォームの残留応力等の部分的な欠陥が成形後の光学素子の光学有効径外に位置するように、プリフォームを金型内に配置させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−78470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プリフォームの欠陥部分が光学素子の光学有効径外に位置しても、その欠陥部分がコバ部に位置してしまうと光学素子のコバ転写不良を招き、コバ部で光学素子を位置決めできないおそれがある。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、プリフォーム内の残留応力による光学素子の転写不良を抑制した光学素子成形方法および光学素子成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る光学素子成形方法は、上型と下型と胴型とで囲まれる空間内で所定の成形温度にしたプリフォームを圧縮することにより光学面とフランジを有する光学素子を成形する光学素子成形方法であって、前記プリフォームを前記下型の窪みに配置し、配置された前記プリフォームを前記所定の成形温度より高い温度で溶融するように加熱し、加熱された前記プリフォームを前記所定の成形温度まで冷却し、前記所定の成形温度に達した前記プリフォームを前記上型と前記下型と前記胴型とで囲まれる空間内で圧縮して光学素子を成形するものである。
【0008】
ここで、前記プリフォームの加熱は、前記プリフォームの融点以上の温度まで行われることが好ましい。
また、前記プリフォームの加熱は、溶融した前記プリフォームの外周が前記下型の表面に沿って円状となるまで行うことができる。
また、加熱により溶融した前記プリフォームが前記胴型の内周面に到達しないように、前記プリフォームの加熱および冷却を行うことができる。
【0009】
また、溶融した前記プリフォームに対する前記下型の前記フランジを成形する部分の濡れ角は、所定値以上であることが好ましい。
また、前記プリフォームは、射出成形により製造することができる。
【0010】
また、本発明に係る光学素子成形装置は、上型と下型と胴型とで囲まれる空間内で所定の成形温度にしたプリフォームを圧縮することにより光学面とフランジを有する光学素子を成形する光学素子成形装置であって、前記上型と、前記プリフォームを配置する窪みが形成された前記下型と、前記胴型とで囲まれる空間内で前記プリフォームを圧縮する金型と、前記プリフォームを加熱するヒーターと、前記プリフォームを冷却する冷却装置と、前記ヒーターを制御して前記下型に配置された前記プリフォームを前記所定の成形温度より高い温度で溶融するように加熱させると共に、前記冷却装置を制御して加熱された前記プリフォームを前記所定の成形温度まで冷却させる温度制御部とを有するものである。
【0011】
ここで、前記温度制御部は、加熱により溶融した前記プリフォームが前記胴型の内周面に到達しないように、前記ヒーターおよび前記冷却装置を制御して前記プリフォームの加熱および冷却を行うことができる。
また、前記下型の前記フランジを成形する面は、溶融した前記プリフォームに対して所定値以上の濡れ角を有することが好ましい。
【0012】
また、前記下型に形成された窪みは、下方に向かってなだらかな凸面を有することができる。また、前記下型に形成された窪みは、水平な平面を有してもよい。また、前記下型に形成された窪みは、上方に向かってなだらかな凸面を有してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プリフォーム内の残留応力による光学素子の転写不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学素子成形装置の構成を示す側面断面図である。
【図2】本実施形態に係る光学素子成形装置の動作を表すフローチャートである。
【図3】(A)は本実施形態で用いられた金型内においてプリフォームが加熱された様子を示す側面断面図であり、(B)は金型内のプリフォームが融解された様子を示す側面断面図であり、(C)は金型内のプリフォームが圧縮成形された様子を示す側面断面図である。
【図4】下型においてプリフォームが溶融する様子を示す平面断面図である。
【図5】本実施形態の変形例に係る光学素子成形装置の構成を示す側面断面図である。
【図6】本実施形態の他の変形例に係る光学素子成形装置の構成を示す側面断面図である。
【図7】本実施形態のさらに他の変形例に係る光学素子成形装置の構成を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係る光学素子成形装置の構成を示す。光学素子成形装置は、プリフォームPをレンズ等の光学素子に成形する金型1と、金型1内のプリフォームPを加熱するための加熱部2と、金型1内のプリフォームPを冷却するための冷却部3と、加熱部2および冷却部3を制御する制御部4とを有する。
【0017】
金型1は、位置固定された下型5と、下型5に対して上下方向に移動自在に配置された上型6と、下型5および上型6の外周を囲むように配置された円筒形状の胴型7とを有する。
下型5の上面は、プリフォームPが配置されると共に光学素子の光学面を成形するために窪んだ素子本体成形面8aを中央部に有し、その素子本体成形面8aを囲んで光学素子のフランジを成形するための水平なフランジ成形面9aを有する。素子本体成形面8aの窪みは、下方に向かって湾曲した凹面部を有する。一方、上型6の下面は、光学面を成形するために窪んだ素子本体成形面8bを中央部に有し、その素子本体成形面8bを囲んで光学素子のフランジを成形するための水平なフランジ成形面9bを有する。素子本体成形面8bの窪みは、上方に向かって湾曲した凸面部を有する。胴型7の内周面は、光学素子のコバ部を成形するためのコバ成形面10を有する。
【0018】
加熱部2は、金型1内に配置されたプリフォームPを加熱できるように上型6および下型5の外周を囲んで配置されたヒーター11と、ヒーター11を駆動するヒーター駆動部12とを有する。
冷却部3は、金型1内に配置されたプリフォームPを冷却できるように上型6および下型5の外周を囲んで配置された冷却流路13と、冷却流路13にポンプ等により冷媒を供給する冷媒供給部14とを有する。冷媒としては、例えばエアー、窒素、または水などが利用できる。
制御部4は、ヒーター駆動部12および冷媒供給部14と電気的に接続されている。制御部4は、加熱部2および冷却部3を制御して金型1内に配置されたプリフォームPの温度制御を行う。
【0019】
次に、図2に示したフローチャートを参照して光学素子成形装置の動作を説明する。
【0020】
まず、図1に示すように、上型6の下面、下型5の上面、および胴型7の内周面によってプリフォームPを配置するための空間が形成される。その空間内の下型5の素子本体成形面8aの窪みに、図2のステップS1において、例えば熱可塑性樹脂を射出成形により成形して製造されたプリフォームPが配置される。次に、制御部4がヒーター駆動部12を介してヒーター11を駆動し、素子本体成形面8a上に配置されたプリフォームPが加熱される。
加熱によりプリフォームPの温度が上昇し、図3(A)に示すように、プリフォームP内の残留応力が解放されてその形状が変化する。さらに、図2のステップS2において、プリフォームPは所定の成形温度より高い温度まで加熱部2により加熱され、プリフォームPは溶融するようになる。
【0021】
溶融したプリフォームPは、下型5の素子本体成形面8aの窪みを充填していき、その外周が図4に示すように素子本体成形面8aの縁にならって欠陥のない円状となる。その後、溶融したプリフォームPは、図3(B)に示すように、素子本体成形面8a上において表面張力により欠陥のない球状となる。
【0022】
続いて、制御部4は、一部が溶融したプリフォームPの加熱をさらに続けることによって溶融したプリフォームPが素子本体成形面8a上からフランジ成形面9a側に流れて胴型7の内周面に到達しないうちに加熱部2および冷却部3を制御して、図2のステップS3において、プリフォームPを所定の成形温度まで冷却させると共にその温度を維持させる。
プリフォームPが所定の成形温度となると、図3(C)に示すように、上型6を下型5に向けて下降させてプリフォームPを圧縮し、下型5および上型6に形成された素子本体成形面8aおよび8bにより光学面がプリフォームPに成形されると共にフランジ成形面9aおよび9bによりフランジがプリフォームPに成形されていく。さらに、プリフォームPは上型6と下型5によって圧縮されて胴型7のコバ成形面10に当接してコバ部が成形されていき、図2のステップS4において、光学面、フランジ、およびコバ部が成形されたプリフォームPが圧縮成形される。
【0023】
このように、プリフォームPを溶融させることで残留応力により生じたプリフォームPの欠陥を解消し、欠陥のないプリフォームPで圧縮成形することで光学面、フランジ、およびコバ部の転写不良を抑制することができる。
【0024】
プリフォームPの圧縮成形が完了した後、制御部4が加熱部2によるプリフォームPの加熱を停止すると共に冷却部3によりプリフォームPを常温まで冷却させることで光学素子が製造される。
【0025】
本実施形態によれば、プリフォームPを溶融させることで残留応力により生じたプリフォームPの欠陥を解消し、欠陥のないプリフォームPで圧縮成形することで光学面、フランジ、およびコバ部の転写不良を抑制することができる。
【0026】
なお、本実施形態において、下型5の素子本体成形面8aは、下方に向かって湾曲する凹面部を有する窪みであったが、例えば、図5に示すような水平な平面部を有する窪みであってもよく、また、図6に示すような上方に向かって湾曲する凸面部を有する窪みであってもよい。これにより、光学素子の一方の面に凸面、平面、および凹面を成形することができる。
また、本実施形態において、上型6の素子本体成形面8bは、光学素子の他方の面に凸面を成形するように形成されていたが、平面または凹面を成形するように形成してもよい。これにより、光学素子の他方の面に凸面、平面、および凹面を成形することができる。
また、図7に示すように上型6の素子本体成形面8bが下方に向かって凸面部を有する場合など、プリフォームPの体積が下型5の素子本体成形面8aに形成されている窪みの容積よりも小さい場合は、溶融したプリフォームPが素子本体成形面8a上から胴型7の方へ流出するおそれがないのでプリフォームPの全てを融解させてもよい。
【0027】
また、制御部4は、溶融したプリフォームPが欠陥のない表面を形成した時点で冷却部3を制御して所定の成形温度に冷却してもよい。例えば、溶融したプリフォームPが表面張力により欠陥のない球状となった時点でプリフォームPを所定の成形温度に冷却してもよく、また、溶融したプリフォームPの外周が下型5の素子本体成形面8aに縁にならって欠陥のない円状となった時点でプリフォームPを所定の成形温度に冷却してもよい。また、溶融したプリフォームが素子本体成形面8aの縁にならう前であっても、その外周が素子本体成形面8aに沿って欠陥のない円状を形成した場合は、その時点でプリフォームPを所定の成形温度に冷却してもよい。
【0028】
また、下型5のフランジ成形面9aは、溶融したプリフォームPに対して所定値以上の濡れ角を有するようにしてもよい。例えば、フランジ成形面9aに微小な凹凸を形成する等の加工を施すことで溶融したプリフォームPに対する濡れ角を所定値以上にすることができる。また、溶融したプリフォームPに対する濡れ角が所定値以上の素材を利用し、フランジ成形面9a全体をその素材で構成してもよく、あるいは、フランジ成形面9aの表面をその素材でコーティングしてもよい。これにより、溶融したプリフォームPが、素子本体成形面8a上からフランジ成形面9a側に流れ、胴型7の内周面に到達するのを抑制することができる。
また、本実施形態において、プリフォームPの加熱は、所定の成形温度より高い温度において融解するように行われているが、プリフォームPの融点が規定されている場合はその融点以上の温度まで加熱することでプリフォームPを融解することができる。なお、プリフォームPの融点の温度に幅がある場合は、最も小さい融点の温度以上に加熱すればよい。
【符号の説明】
【0029】
1 金型、2 加熱部、3 冷却部、4 制御部、5 下型、6 上型、7 胴型、8a,8b 素子本体成形面、9a,9b フランジ成形面、10 コバ成形面、11 ヒーター、12 ヒーター駆動部、13 冷却流路、14 冷媒供給部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型と胴型とで囲まれる空間内で所定の成形温度にしたプリフォームを圧縮することにより光学面とフランジを有する光学素子を成形する光学素子成形方法であって、
前記プリフォームを前記下型に形成された窪みに配置し、
配置された前記プリフォームを前記所定の成形温度より高い温度で溶融するように加熱し、
加熱された前記プリフォームを前記所定の成形温度まで冷却し、
前記所定の成形温度に達した前記プリフォームを前記上型と前記下型と前記胴型とで囲まれる空間内で圧縮して光学素子を成形することを特徴とする光学素子成形方法。
【請求項2】
前記プリフォームの加熱は、前記プリフォームの温度が前記プリフォームの融点以上となるまで行われることを特徴とする請求項1に記載の光学素子成形方法。
【請求項3】
前記プリフォームの加熱は、溶融した前記プリフォームの外周が前記下型の表面に沿って円状となるまで行われることを特徴とする請求項1または2に記載の光学素子成形方法。
【請求項4】
加熱により溶融した前記プリフォームが前記胴型の内周面に到達しないように、前記プリフォームの加熱および冷却を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学素子成形方法。
【請求項5】
溶融した前記プリフォームに対する前記下型の前記フランジを成形する面の濡れ角は、所定値以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学素子成形方法。
【請求項6】
前記プリフォームは、射出成形により製造されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学素子成形方法。
【請求項7】
上型と下型と胴型とで囲まれる空間内で所定の成形温度にしたプリフォームを圧縮することにより光学面とフランジを有する光学素子を成形する光学素子成形装置であって、
前記上型と、前記プリフォームを配置する窪みが形成された前記下型と、前記胴型とで囲まれる空間内で前記プリフォームを圧縮する金型と、
前記プリフォームを加熱するヒーターと、
前記プリフォームを冷却する冷却装置と、
前記ヒーターを制御して前記下型に配置された前記プリフォームを前記所定の成形温度より高い温度で溶融するように加熱させると共に、前記冷却装置を制御して加熱された前記プリフォームを前記所定の成形温度まで冷却させる温度制御部と
を有することを特徴とする光学素子成形装置。
【請求項8】
前記温度制御部は、加熱により溶融した前記プリフォームが前記胴型の内周面に到達しないように、前記ヒーターおよび前記冷却装置を制御して前記プリフォームの加熱および冷却を行うことを特徴とする請求項7に記載の光学素子成形装置。
【請求項9】
前記下型の前記フランジを成形する面は、溶融した前記プリフォームに対して所定値以上の濡れ角を有することを特徴とする請求項7または8に記載の光学素子成形装置。
【請求項10】
前記下型に形成された窪みは、下方に向かって湾曲した凹面部を有することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の光学素子成形装置。
【請求項11】
前記下型に形成された窪みは、水平な平面部を有することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の光学素子成形装置。
【請求項12】
前記下型に形成された窪みは、上方に向かって湾曲した凸面部を有することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の光学素子成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−183581(P2011−183581A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48786(P2010−48786)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】