光学絞り用NDフィルターの製造方法と絞り装置
【課題】 光量の均一性の向上した絞り装置、及び該絞り装置に使用される各濃度においては分光特性がフラットなグラデーションNDフィルターの製造方法を提供する。
【解決手段】 光量絞り装置の絞り羽根に設けられるNDフィルターの製造方法において、有機色素を含有するプラスチックからなるフィルムに、照射量を部分的に変化させながら高エネルギーの光を照射することにより、濃度分布をもったNDフィルターを作成することを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法、及び該方法により得られたNDフィルターが絞り羽根にが設けられている絞り装置。
【解決手段】 光量絞り装置の絞り羽根に設けられるNDフィルターの製造方法において、有機色素を含有するプラスチックからなるフィルムに、照射量を部分的に変化させながら高エネルギーの光を照射することにより、濃度分布をもったNDフィルターを作成することを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法、及び該方法により得られたNDフィルターが絞り羽根にが設けられている絞り装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ビデオカメラあるいはスチルビデオカメラ等の撮影装置に使用するのに適した光量絞り装置、及びそれに使用するNDフィルターの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】光量絞りは銀塩フィルムあるいはCCD等の固体撮像素子へ入射する光量を制御するために設けられており、被写界が明るい場合により小さく絞りこまれるようになっている。従って、快晴時や高輝度の被写体を撮影すると絞りは小絞りとなり、絞りのハンチング現象や光の回折の影響も受け易く、像性能の劣化を生ずる。これに対する対策として、絞り羽根にフィルム状のND(neutraldensity)フィルターを取り付けて被写界の明るさが同一でも絞りの開口が大きくなるような工夫をしている。
【0003】近年、撮像素子の感度が上昇するに従い、前記NDフィルターの濃度を濃くして、光の透過率を更に低下させ、被写界の明るさが同一でも絞りの開口を大きくするようになっている。しかしながら、このようにNDフィルターの濃度が濃くなると図12の示すような状態でフィルターを通過した光aと通過しない光bの光量差が大きく異なり解像度が低下してしまうという欠点が発生している。この欠点を解決するためには、NDフィルターの濃度を光軸中心に向かって順次透過率が大となるような構造をとる必要がでてきている。
【0004】因みに図12で、6A、6B、6C及び6Dは撮像光学系6を構成する成分レンズ、7は固体撮像素子で8はローパスフィルターである。また、11から14は絞り装置で、11がNDフィルター、12と13が対向的に移動する絞り羽根で、2枚の絞り羽根は略菱形の開口を形成する。NDフィルターは普通、絞り羽根の内の1枚に接着されている。14は絞り羽根支持板である。
【0005】一般的にNDフィルターの作成方法としては、フィルム状をなす材料(セルロースアセテート、PET、塩化ビニル等)中に光を吸収する有機色素または顔料を混ぜ、練り込むタイプのものと前記材料に光を吸収する染料または顔料を塗布するタイプのものがある。これらの製造方法では、濃度が均一なフィルターは作成可能であるが、濃度が変化するタイプのフィルター(グラデーションフィルター)はいずれも作成が著しく困難である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上の難点を鑑みてなされたもので、光量の均一性の向上した絞り装置の提供を課題とするもので、またそれに使用される各濃度においては分光特性がフラットなグラデーションNDフィルター及びその作成方法の提供を課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、光量絞り装置の絞り羽根に設けられるNDフィルターの製造方法において、有機色素を含有するプラスチックからなるフィルムに、照射量を部分的に変化させながら高エネルギーの光を照射することにより、濃度分布をもったNDフィルターを作成することを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法である。
【0008】また、本発明は、絞り羽根にNDフィルターが設けられている絞り装置において、NDフィルターが有機色素を含有するプラスチックからなるフィルムに、照射量を部分的に変化させながら高エネルギーの光を照射することにより、濃度分布をもったNDフィルターであることを特徴とする絞り装置である。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明においては、プラスチックフィルムに有機色素を練りこみ、このフィルムを部分的に高エネルギーの光を照射することにより、照射部分の有機色素を分解させ濃度を照射させない部分に比べ下げ、濃度分布をもったグラデーションNDフィルターを作成するものである。色素は有機物質のため分子構造によっては高エネルギーの光源で分子の一部が分解するが、顔料の場合無機物質のため光による褪色は全くない。一般的には太陽光等により有機色素が褪色することは好ましくないとされ、通常は褪色性のしない有機色素を用いることが一般的であるが、本発明では光の照射によって褪色する有機色素を用いている。また、褪色後も分光特性がNDとなるような考え方は本発明の最も特徴的なところである。従って、褪色前の分光特性がよりフラットでNDとなっており、なおかつ光の照射後も分光特性がよりフラットとなる有機色素及びベースプラスチックを選択することが好ましい。また、本発明では通常の太陽光では褪色が容易に進まないような有機色素を用いている。このため、本発明の照射する光源は通常の太陽光の照射にくらべ格段に高エネルギーの光源を用いていることも特徴としている。このように、本発明は有機色素の褪色性を制御するものである。
【0010】図1(A)は本発明の絞り装置の概略図である。2は図12で示した絞り羽根、1は本発明で得られたグラデーションNDフィルターである。濃度分布または透過率は図1(B)の如く3段階のグラデーション構造となっている。
【0011】
【実施例】以下、本発明を実施例により説明する。
[実施例1]前述したように、本発明の目的は、特に可視光の波長領域400〜700nmの濃度がフラットであり、かつ光照射を行った後も前記領域の波長において濃度がフラットなNDフィルターを製造することである。
【0012】このようなフィルターを有機色素の染料で得るためには、単一の有機化合物または複数の化合物の組み合わせる方法が考えられが、単一の有機色素でこのようなフィルターを得ることの困難性を考慮して、以下特に、複数の有機色素を組み合わせることを検討した。
【0013】まず、方向性を見い出すために、トルエン中に複数の有機色素を混入してその液の濃度を測定し、その後高エネルギーの光を前記液に照射して照射後の濃度を測定した。
【0014】検討した有機色素は、例示化合物No.1〜No.16の16種類である。その構造を以下に示す。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】各色素の吸光度の波長分布は全て異なっており、また各色素の褪色性は全て異なっている。図2に例示化合物の色素の代表例としてNo.8、9、10、11、12、13及び15の色素をトルエン中に単一に分散させた時の各波長における濃度を示した。図2から分かるように、No.10の色素は約450〜520nmの波長領域において最も吸光し易い性質があり、No.15の色素は520nm〜560nmの領域で最も吸光し易い性質がある。このように、各色素の最も吸光し易い波長及び吸光分布は各々異なっている。このために、各色素を適当に配合することにより400〜700nmの可視光範囲でより均一な濃度を得ることが可能となる。
【0019】例示化合物No.8、9、10、11、12、13及び15の色素を評価した結果、特定の割合でトルエン中に混入させることにより、図3のように各波長において濃度分布を均一にすることができた。図3における配合は重量基準で、No.8(5.39%)、 No.9(10.67%)、 No.10(23.36%)、 No.11(10.50%)、 No.12(16.90%)、 No.13(30.50%)、 No.15(2.61%) であった。その後このサンプルを高エネルギーの光で照射して評価した。
【0020】有機色素を分解して褪色させるためには、有機色素の化学結合エネルギー以上の解離のためのエネルギーを外部より与える必要がある。一般に、光のエネルギーは波長が短いほど高いため、赤外線より可視光線、可視光線より紫外線の方がエネルギーが高い。紫外線より波長が短いX線等も考えられるが、それらはいずれも人体への影響度が大きいことを考慮すれば、紫外線が最も適している。ランプには一般的なタングステンランプやキセノンランプやサンシャインカーボンランプ等があり、いずれも太陽光に近い波長である。紫外線の強いランプとしては紫外線カーボンランプ、紫外線蛍光ランプ等がある。図4にキセノンランプ、図5には紫外線カーボンアークの分光分布相対値を示す。紫外線カーボンアークは約380nmの波長部分の紫外線がほとんどであることが分かる。本実施例ではトルエン中に有機色素を混入させて評価しているが、後述するように最終的には塩化ビニル(PVC)等のプラスチック中に有機色素を混入させる必要がある。その場合にも、ランプの熱発生が低く、ベースの塩化ビニルを熱によって黄変させないことと共に熱変形によってフィルムの形状を変化させない紫外線ランプは適している。
【0021】次に、図3の有機色素を塩化ビニルフィルムに分散混練してNDフィルターを作成し、その分光特性を図6に示す。更に、このフィルターに紫外線カーボンアークにより100時間と200時間照射した後の分光特性を図6に示す。図6より、600〜700nmは褪色して濃度が低下しているが、600nm以下の波長は褪色せず、その結果として100時間後と200時間後で分光特性のフラット性が減少している。
【0022】[実施例2]実施例1の結果を改善するために有機色素の種類を変更した。例化合物No.1、2、3、4、5、6及び14の有機色素の配合割合を種々変更することによって図7に示すような分光特性を持つフィルターを作成した。図7における配合は重量基準で、No.1(4.26%)、 No.2(9.97%)、 No.3(7.96%)、 No.4(3.65%)、 No.5(6.32%)、 No.6(8.62%)、 No.14(59.50%) であった。図7では塩化ビニル(PVC)中に前記有機色素を分散させたものを用いた。更に、このフィルターに紫外線カーボンアークにより100時間と200時間照射した後の分光特性を図7に示す。
【0023】図7から分かるように、実施例1の組成に比べ本実施例の組成の場合、400〜700nmの波長の範囲においてある程度均一に褪色するが、反面フラット性は実施例1に比べ劣る。
【0024】[実施例3]実施例2のフラット性を更に改善するために有機色素の組成を変更した。例示化合物No.1、2、3、4、7、9、14、15及び16の有機色素の配合割合を種々変更することによって図8に示すような結果を得た。図8における配合は重量基準で、No.1(3.50%)、 No.2(5.25%)、 No.3(5.36%)、 No.4(5.38%)、 No.7(6.42%)、 No.9(16.90%)、 No.14(45.45%)、 No.15(2.41%)、 No.16(9.33%)であった。評価は実施例2と同様にPVCに分散混練されたフィルム形状で行った。更に、このフィルターに紫外線カーボンアークにより100時間照射した後の分光特性を図8に示す。図8から分かるように、実施例2に比べ均一な褪色性とフラット性が改善されている。
【0025】[実施例4]実施例3のフラット性を改善するためにまた更に有機色素の組成を変更した。例示化合物No.1、2、3、4、7、9、14、15及び16の有機色素の配合割合を種々変更することによって図9R>9に示すような結果を得た。図9における配合は重量基準で、No.1(6.0%)、 No.2(5.3%)、 No.3(5.2%)、 No.4(5.2%)、 No.7(5.8%)、 No.9(17.9%)、 No.14(45.5%)、 No.15(2.3%)、 No.16(7.8%) であった。更に、このフィルターに紫外線カーボンアークにより100時間と200時間照射した後の分光特性を図9に示す。図9から分かるように、実施例3に比べ褪色前も褪色後もフラットな分光特性が得られる。
【0026】この結果をもとに図10のように8cm×7cmのフィルムをエッチングにより作られたステンレスシートのシャドウをつける治具を用いて、濃度が4分布あるフィルムシートを作成した。次いで、プレス等で必要形状に切り抜き図11のようなグラデーションフィルターを作成した。
【0027】
【発明の効果】以上、本発明によれば、光量の均一性の向上した絞り装置が得られた。また、該絞り装置に使用される、各濃度においては分光特性がフラットなグラデーションNDフィルターの製造方法が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で得られたグラデーションNDフィルターであり、(A)はその概略図であり、(B)はその透過率である。
【図2】有機色素の分光特性図である。
【図3】有機色素の分光特性図である。
【図4】有機色素の分光特性図である。
【図5】有機色素の分光特性図である。
【図6】有機色素の分光特性図である。
【図7】有機色素の分光特性図である。
【図8】有機色素の分光特性図である。
【図9】有機色素の分光特性図である。
【図10】グラデーションNDフィルター用フィルムシートの概略図である。
【図11】グラデーションNDフィルターの概略図である。
【図12】絞り装置を有する撮影装置の概略図である。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ビデオカメラあるいはスチルビデオカメラ等の撮影装置に使用するのに適した光量絞り装置、及びそれに使用するNDフィルターの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】光量絞りは銀塩フィルムあるいはCCD等の固体撮像素子へ入射する光量を制御するために設けられており、被写界が明るい場合により小さく絞りこまれるようになっている。従って、快晴時や高輝度の被写体を撮影すると絞りは小絞りとなり、絞りのハンチング現象や光の回折の影響も受け易く、像性能の劣化を生ずる。これに対する対策として、絞り羽根にフィルム状のND(neutraldensity)フィルターを取り付けて被写界の明るさが同一でも絞りの開口が大きくなるような工夫をしている。
【0003】近年、撮像素子の感度が上昇するに従い、前記NDフィルターの濃度を濃くして、光の透過率を更に低下させ、被写界の明るさが同一でも絞りの開口を大きくするようになっている。しかしながら、このようにNDフィルターの濃度が濃くなると図12の示すような状態でフィルターを通過した光aと通過しない光bの光量差が大きく異なり解像度が低下してしまうという欠点が発生している。この欠点を解決するためには、NDフィルターの濃度を光軸中心に向かって順次透過率が大となるような構造をとる必要がでてきている。
【0004】因みに図12で、6A、6B、6C及び6Dは撮像光学系6を構成する成分レンズ、7は固体撮像素子で8はローパスフィルターである。また、11から14は絞り装置で、11がNDフィルター、12と13が対向的に移動する絞り羽根で、2枚の絞り羽根は略菱形の開口を形成する。NDフィルターは普通、絞り羽根の内の1枚に接着されている。14は絞り羽根支持板である。
【0005】一般的にNDフィルターの作成方法としては、フィルム状をなす材料(セルロースアセテート、PET、塩化ビニル等)中に光を吸収する有機色素または顔料を混ぜ、練り込むタイプのものと前記材料に光を吸収する染料または顔料を塗布するタイプのものがある。これらの製造方法では、濃度が均一なフィルターは作成可能であるが、濃度が変化するタイプのフィルター(グラデーションフィルター)はいずれも作成が著しく困難である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上の難点を鑑みてなされたもので、光量の均一性の向上した絞り装置の提供を課題とするもので、またそれに使用される各濃度においては分光特性がフラットなグラデーションNDフィルター及びその作成方法の提供を課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、光量絞り装置の絞り羽根に設けられるNDフィルターの製造方法において、有機色素を含有するプラスチックからなるフィルムに、照射量を部分的に変化させながら高エネルギーの光を照射することにより、濃度分布をもったNDフィルターを作成することを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法である。
【0008】また、本発明は、絞り羽根にNDフィルターが設けられている絞り装置において、NDフィルターが有機色素を含有するプラスチックからなるフィルムに、照射量を部分的に変化させながら高エネルギーの光を照射することにより、濃度分布をもったNDフィルターであることを特徴とする絞り装置である。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明においては、プラスチックフィルムに有機色素を練りこみ、このフィルムを部分的に高エネルギーの光を照射することにより、照射部分の有機色素を分解させ濃度を照射させない部分に比べ下げ、濃度分布をもったグラデーションNDフィルターを作成するものである。色素は有機物質のため分子構造によっては高エネルギーの光源で分子の一部が分解するが、顔料の場合無機物質のため光による褪色は全くない。一般的には太陽光等により有機色素が褪色することは好ましくないとされ、通常は褪色性のしない有機色素を用いることが一般的であるが、本発明では光の照射によって褪色する有機色素を用いている。また、褪色後も分光特性がNDとなるような考え方は本発明の最も特徴的なところである。従って、褪色前の分光特性がよりフラットでNDとなっており、なおかつ光の照射後も分光特性がよりフラットとなる有機色素及びベースプラスチックを選択することが好ましい。また、本発明では通常の太陽光では褪色が容易に進まないような有機色素を用いている。このため、本発明の照射する光源は通常の太陽光の照射にくらべ格段に高エネルギーの光源を用いていることも特徴としている。このように、本発明は有機色素の褪色性を制御するものである。
【0010】図1(A)は本発明の絞り装置の概略図である。2は図12で示した絞り羽根、1は本発明で得られたグラデーションNDフィルターである。濃度分布または透過率は図1(B)の如く3段階のグラデーション構造となっている。
【0011】
【実施例】以下、本発明を実施例により説明する。
[実施例1]前述したように、本発明の目的は、特に可視光の波長領域400〜700nmの濃度がフラットであり、かつ光照射を行った後も前記領域の波長において濃度がフラットなNDフィルターを製造することである。
【0012】このようなフィルターを有機色素の染料で得るためには、単一の有機化合物または複数の化合物の組み合わせる方法が考えられが、単一の有機色素でこのようなフィルターを得ることの困難性を考慮して、以下特に、複数の有機色素を組み合わせることを検討した。
【0013】まず、方向性を見い出すために、トルエン中に複数の有機色素を混入してその液の濃度を測定し、その後高エネルギーの光を前記液に照射して照射後の濃度を測定した。
【0014】検討した有機色素は、例示化合物No.1〜No.16の16種類である。その構造を以下に示す。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】各色素の吸光度の波長分布は全て異なっており、また各色素の褪色性は全て異なっている。図2に例示化合物の色素の代表例としてNo.8、9、10、11、12、13及び15の色素をトルエン中に単一に分散させた時の各波長における濃度を示した。図2から分かるように、No.10の色素は約450〜520nmの波長領域において最も吸光し易い性質があり、No.15の色素は520nm〜560nmの領域で最も吸光し易い性質がある。このように、各色素の最も吸光し易い波長及び吸光分布は各々異なっている。このために、各色素を適当に配合することにより400〜700nmの可視光範囲でより均一な濃度を得ることが可能となる。
【0019】例示化合物No.8、9、10、11、12、13及び15の色素を評価した結果、特定の割合でトルエン中に混入させることにより、図3のように各波長において濃度分布を均一にすることができた。図3における配合は重量基準で、No.8(5.39%)、 No.9(10.67%)、 No.10(23.36%)、 No.11(10.50%)、 No.12(16.90%)、 No.13(30.50%)、 No.15(2.61%) であった。その後このサンプルを高エネルギーの光で照射して評価した。
【0020】有機色素を分解して褪色させるためには、有機色素の化学結合エネルギー以上の解離のためのエネルギーを外部より与える必要がある。一般に、光のエネルギーは波長が短いほど高いため、赤外線より可視光線、可視光線より紫外線の方がエネルギーが高い。紫外線より波長が短いX線等も考えられるが、それらはいずれも人体への影響度が大きいことを考慮すれば、紫外線が最も適している。ランプには一般的なタングステンランプやキセノンランプやサンシャインカーボンランプ等があり、いずれも太陽光に近い波長である。紫外線の強いランプとしては紫外線カーボンランプ、紫外線蛍光ランプ等がある。図4にキセノンランプ、図5には紫外線カーボンアークの分光分布相対値を示す。紫外線カーボンアークは約380nmの波長部分の紫外線がほとんどであることが分かる。本実施例ではトルエン中に有機色素を混入させて評価しているが、後述するように最終的には塩化ビニル(PVC)等のプラスチック中に有機色素を混入させる必要がある。その場合にも、ランプの熱発生が低く、ベースの塩化ビニルを熱によって黄変させないことと共に熱変形によってフィルムの形状を変化させない紫外線ランプは適している。
【0021】次に、図3の有機色素を塩化ビニルフィルムに分散混練してNDフィルターを作成し、その分光特性を図6に示す。更に、このフィルターに紫外線カーボンアークにより100時間と200時間照射した後の分光特性を図6に示す。図6より、600〜700nmは褪色して濃度が低下しているが、600nm以下の波長は褪色せず、その結果として100時間後と200時間後で分光特性のフラット性が減少している。
【0022】[実施例2]実施例1の結果を改善するために有機色素の種類を変更した。例化合物No.1、2、3、4、5、6及び14の有機色素の配合割合を種々変更することによって図7に示すような分光特性を持つフィルターを作成した。図7における配合は重量基準で、No.1(4.26%)、 No.2(9.97%)、 No.3(7.96%)、 No.4(3.65%)、 No.5(6.32%)、 No.6(8.62%)、 No.14(59.50%) であった。図7では塩化ビニル(PVC)中に前記有機色素を分散させたものを用いた。更に、このフィルターに紫外線カーボンアークにより100時間と200時間照射した後の分光特性を図7に示す。
【0023】図7から分かるように、実施例1の組成に比べ本実施例の組成の場合、400〜700nmの波長の範囲においてある程度均一に褪色するが、反面フラット性は実施例1に比べ劣る。
【0024】[実施例3]実施例2のフラット性を更に改善するために有機色素の組成を変更した。例示化合物No.1、2、3、4、7、9、14、15及び16の有機色素の配合割合を種々変更することによって図8に示すような結果を得た。図8における配合は重量基準で、No.1(3.50%)、 No.2(5.25%)、 No.3(5.36%)、 No.4(5.38%)、 No.7(6.42%)、 No.9(16.90%)、 No.14(45.45%)、 No.15(2.41%)、 No.16(9.33%)であった。評価は実施例2と同様にPVCに分散混練されたフィルム形状で行った。更に、このフィルターに紫外線カーボンアークにより100時間照射した後の分光特性を図8に示す。図8から分かるように、実施例2に比べ均一な褪色性とフラット性が改善されている。
【0025】[実施例4]実施例3のフラット性を改善するためにまた更に有機色素の組成を変更した。例示化合物No.1、2、3、4、7、9、14、15及び16の有機色素の配合割合を種々変更することによって図9R>9に示すような結果を得た。図9における配合は重量基準で、No.1(6.0%)、 No.2(5.3%)、 No.3(5.2%)、 No.4(5.2%)、 No.7(5.8%)、 No.9(17.9%)、 No.14(45.5%)、 No.15(2.3%)、 No.16(7.8%) であった。更に、このフィルターに紫外線カーボンアークにより100時間と200時間照射した後の分光特性を図9に示す。図9から分かるように、実施例3に比べ褪色前も褪色後もフラットな分光特性が得られる。
【0026】この結果をもとに図10のように8cm×7cmのフィルムをエッチングにより作られたステンレスシートのシャドウをつける治具を用いて、濃度が4分布あるフィルムシートを作成した。次いで、プレス等で必要形状に切り抜き図11のようなグラデーションフィルターを作成した。
【0027】
【発明の効果】以上、本発明によれば、光量の均一性の向上した絞り装置が得られた。また、該絞り装置に使用される、各濃度においては分光特性がフラットなグラデーションNDフィルターの製造方法が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で得られたグラデーションNDフィルターであり、(A)はその概略図であり、(B)はその透過率である。
【図2】有機色素の分光特性図である。
【図3】有機色素の分光特性図である。
【図4】有機色素の分光特性図である。
【図5】有機色素の分光特性図である。
【図6】有機色素の分光特性図である。
【図7】有機色素の分光特性図である。
【図8】有機色素の分光特性図である。
【図9】有機色素の分光特性図である。
【図10】グラデーションNDフィルター用フィルムシートの概略図である。
【図11】グラデーションNDフィルターの概略図である。
【図12】絞り装置を有する撮影装置の概略図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 光量絞り装置の絞り羽根に設けられるNDフィルターの製造方法において、有機色素を含有するプラスチックからなるフィルムに、照射量を部分的に変化させながら高エネルギーの光を照射することにより、濃度分布をもったNDフィルターを作成することを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法。
【請求項2】 請求項1において前記有機色素が、例示化合物No.1〜No.16の中から選ばれる2種以上の有機色素を配合したものであることを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法。
【請求項3】 請求項1において前記有機色素が、例示化合物No.1、2、3、4、7、14及び15の有機色素を配合したものであることを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法。
【請求項4】 請求項1において前記プラスチックが塩化ビニルであることを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法。
【請求項5】 請求項1において照射用光源として紫外線を用いたことを特徴とした光学絞り用NDフィルターの製造方法。
【請求項6】 絞り羽根にNDフィルターが設けられている絞り装置において、NDフィルターが有機色素を含有するプラスチックからなるフィルムに、照射量を部分的に変化させながら高エネルギーの光を照射することにより、濃度分布をもったNDフィルターであることを特徴とする絞り装置。
【請求項7】 請求項6において前記有機色素が、例示化合物No.1〜16の中から選ばれる2種以上の有機色素を配合したものであることを特徴とする絞り装置。
【請求項8】 請求項6において前記有機色素が、例示化合物No.1、2、3、4、7、14及び15の有機色素を配合したものであることを特徴とする絞り装置。
【請求項1】 光量絞り装置の絞り羽根に設けられるNDフィルターの製造方法において、有機色素を含有するプラスチックからなるフィルムに、照射量を部分的に変化させながら高エネルギーの光を照射することにより、濃度分布をもったNDフィルターを作成することを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法。
【請求項2】 請求項1において前記有機色素が、例示化合物No.1〜No.16の中から選ばれる2種以上の有機色素を配合したものであることを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法。
【請求項3】 請求項1において前記有機色素が、例示化合物No.1、2、3、4、7、14及び15の有機色素を配合したものであることを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法。
【請求項4】 請求項1において前記プラスチックが塩化ビニルであることを特徴とする光学絞り用NDフィルターの製造方法。
【請求項5】 請求項1において照射用光源として紫外線を用いたことを特徴とした光学絞り用NDフィルターの製造方法。
【請求項6】 絞り羽根にNDフィルターが設けられている絞り装置において、NDフィルターが有機色素を含有するプラスチックからなるフィルムに、照射量を部分的に変化させながら高エネルギーの光を照射することにより、濃度分布をもったNDフィルターであることを特徴とする絞り装置。
【請求項7】 請求項6において前記有機色素が、例示化合物No.1〜16の中から選ばれる2種以上の有機色素を配合したものであることを特徴とする絞り装置。
【請求項8】 請求項6において前記有機色素が、例示化合物No.1、2、3、4、7、14及び15の有機色素を配合したものであることを特徴とする絞り装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図12】
【図2】
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【図7】
【図10】
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【図12】
【公開番号】特開平10−96971
【公開日】平成10年(1998)4月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−250240
【出願日】平成8年(1996)9月20日
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【出願人】(000003126)三井東圧化学株式会社 (49)
【公開日】平成10年(1998)4月14日
【国際特許分類】
【出願日】平成8年(1996)9月20日
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【出願人】(000003126)三井東圧化学株式会社 (49)
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