説明

光学補償シートおよびその製造方法、偏光板、ならびに液晶表示装置

【課題】透明支持体と、該支持体上に配置された配向膜と、該配向膜上に配置されかつ液晶性化合物を含有する光学異方性層とを含有する光学補償シートであって、光学補償機能に優れた光学補償シートの提供、及び該光学異方性層中の液晶性化合物の空気界面側傾斜角を調整可能な光学補償シートの製造方法。
【解決手段】 前記配向膜が0.01×10-4mol/m2〜0.5×10-4mol/m2の無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンを含有する光学補償シート、および前記配向膜の形成塗布液のpHを調整する工程を含む光学補償シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な光学補償シートならびに該光学補償シートを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。本発明はまた、光学補償シートにおける光学異方性層に含まれる液晶性化合物の空気界面側傾斜角を任意に制御可能な光学補償シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学補償シートは画像着色解消や視野角拡大のために、様々な液晶表示装置で用いられている。従来から光学補償シートとしては延伸複屈折フィルムが使用されていたが、近年、延伸複屈折フィルムに代えて、透明支持体上にディスコティック液晶性化合物からなる光学異方性層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。この光学異方性層は、通常、ディスコティック液晶性化合物を含む組成物を配向膜上に塗布し、配向温度よりも高い温度に加熱してディスコティック液晶性化合物を配向させ、その配向状態を固定することにより形成される。
一般に、ディスコティック液晶性化合物は、大きな複屈折率を有するとともに、多様な配向形態がある。ディスコティック液晶性化合物を用いることで、従来の延伸複屈折フィルムでは得ることができない光学的性質を有する光学補償シートを得ることが可能になった。
【0003】
ディスコティック液晶性化合物では多様な配向形態が存在するため、所望の光学特性を得るためには光学異方性層におけるディスコティック液晶性化合物の配向を制御する必要がある。特に光学補償性能を得るために、ディスコティック液晶性化合物の傾斜角が支持体面からの距離に伴って変化するように配向した、いわゆる「ハイブリッド配向」の状態にすることが重要であり、ハイブリッド配向の実現の程度は、光学補償シートの性能、すなわち、視野角拡大、視角変化によるコントラスト低下、階調反転、黒白反転、および色相変化等を決める最も重要な因子となる。このハイブリッド配向は、ディスコティック液晶性化合物の配向の方位角を規制する目的で支持体上に設けられる配向膜の表面における、ディスコティック液晶性化合物のチルト角と光学補償シートの最外面である空気側界面における、ディスコティック液晶性化合物のチルト角との差を利用して実現されている。ディスコティック液晶性化合物を用いて光学補償シートを塗設、乾燥した後、ディスコティック液晶性化合物は、空気界面と配向膜界面の両方でそれぞれ安定なチルト角でモノドメイン配向する。その結果、膜の厚み方向に連続的に傾斜角が変化した配向状態が形成される。
【0004】
所望の光学補償機能を得るためには、特に空気界面側のチルト角を精密に制御する必要がある。通常の空気界面で得られるチルト角である50°を凌ぐ角度を得る方法としてセルロース部分エステル化物を添加する方法(例えば、特許文献1参照)又はフッ素置換アルキル基と親水基(スルホ基が連結基を介してベンゼン環に結合した)を有する化合物を添加する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかし、本発明者がこれらの光学補償シートを実際に使用してみたところ、偏光板の斜め方向からの光漏れが認められ、視野角が充分に(理論的に期待できる程度まで)拡大しないものもあることが判明した。光学補償機能が不充分になる理由の一つとして、ディスコティック液晶性化合物の空気界面側の傾斜角が充分に制御できていないことが考えられる。
【特許文献1】特開平8−95030号公報
【特許文献2】特開2001−330725号公報(第7−10頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光学異方性層における液晶性化合物の空気界面側の傾斜角を制御可能な光学補償シートの製造方法を提供することを課題とする。本発明はまた、光学補償機能に優れ、かつ、画像表示装置に適用した場合に、広い視野角拡大性能を有する新規な光学補償シートを提供することを課題とする。本発明は特に、ハイブリッド配向したディスコティック液晶性化合物を光学異方性層に含有する光学補償シートであって、TNモード、OCBモード、IPSモード等の液晶表示装置の視野角改善に寄与する光学補償シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題の達成のために、液晶性化合物の配向の方位角を規制する目的で支持体上に設けられる配向膜の組成について検討し、配向膜形成塗布液のpHが光学異方性層における液晶性化合物の空気界面側の傾斜角に影響することを見い出した。具体的には、あるpH(pH(A))の配向膜形成塗布液から形成された配向膜上に配置された光学異方性層における液晶性化合物の空気界面側傾斜角をθair(A)とし、他のpH(pH(B))の配向膜形成塗布液から形成された配向膜上に配置された光学異方性層における液晶性化合物の空気界面側傾斜角をθair(B)とするとき、下記の関係:
pH(A)≦pH(B)ならばθair(A)≦θair(B)
を満たす傾向があること、すなわち、前記空気界面側傾斜角は配向膜形成塗布液のpH値が増大することで増加傾向にあること等を見出した。本発明はこの知見をもとに完成されたものである。
【0007】
すなわち、上記課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
[1]液晶化合物を含有する光学異方性層を含有する光学補償シートであって、該光学異方性層の空気界面側表面層に0.01×10-5mol/m2〜0.5×10-5mol/m2の無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンが存在する光学補償シート。
[2]透明支持体と、該支持体上に配置された配向膜と、該配向膜上に配置されかつ液晶性化合物を含有する光学異方性層とを含有する光学補償シートであって、前記配向膜が0.01×10-4mol/m2〜0.5×10-4mol/m2の無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンを含有する光学補償シート。
[3]前記配向膜がpH3.0以上の配向膜形成塗布液から形成される[2]に記載の光学補償シート。
[4]前記光学異方性層における該液晶化合物の空気界面側傾斜角が50度〜90度である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の光学補償シート。
[5]前記光学異方性層が親水性基を有するポリマーを含有する[1]〜[4]のいずれか1項に記載の光学補償シート。
[6]前記親水性基を有するポリマーが、セルロースエステルおよび下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むポリマー(「以下ポリマーA」)からなる群より選択される1種または2種以上のポリマーである[5]に記載の光学補償シート。
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し;Lは下記の連結基群から選ばれる2価の連結基または下記の連結基群から選ばれる2つ以上を組み合わせて形成される2価の連結基を表し、
(連結基群)
単結合、−O−、−CO−、−NR4−(R4は水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す)、−S−、−SO2−、−P(=O)(OR5)−(R5はアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す)、アルキレン基、およびアリーレン基;
Qはカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、またはホスホノキシ{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩を表す。)
【0010】
[7]前記ポリマーAが、少なくとも1つのフェニル基および/またはフェニレン基を含有する[6]に記載の光学補償シート。
[8]前記ポリマーAが、フルオロ脂肪族基を有するモノマーより誘導される繰り返し単位と一般式(1)で表される繰り返し単位を含む共重合体である[6]又は[7]に記載の光学補償シート。
[9]前記ポリマーAの一般式(1)で表される繰り返し単位の「−Q」が、前記光学異方性層に存在する該「−Q」の総mol/m2に対して1.0mol%以上、無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンと塩を形成している[6]〜[8]のいずれか1項に記載の光学補償シート。
[10]前記液晶性化合物が、ディスコティック液晶性化合物である[1]〜[9]のいずれか1項に記載の光学補償シート。
[11]前記光学異方性層中、前記液晶性化合物がハイブリッド配向し、かつ該ハイブリッド配向が固定されている[1]〜[10]のいずれか1項に記載の光学補償シート。
【0011】
[12]偏光膜と[1]〜[11]のいずれか1項に記載の光学補償シートとを含有する偏光板。
[13]液晶セルと、該液晶セルの両側にそれぞれ配置された一対の偏光膜と、前記一対の偏光膜の少なくとも一方と前記液晶セルとの間に[1]〜[11]のいずれか1項に記載の光学補償シートとを有する液晶表示装置。
[14]透明支持体と、該支持体上に配置された配向膜と、該配向膜上に配置されかつ液晶性化合物を含有する光学異方性層とを含有する光学補償シートの製造方法であって、下記の工程:
(1)0.01×10-4mol/m2〜0.5×10-4mol/m2の無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンを含有する配向膜形成塗布液を用いて配向膜を形成する工程
(2)工程(1)で得られた配向膜上に光学異方性層を形成する工程
を含む製造方法。
[15]透明支持体と、該支持体上に配置された配向膜と、該配向膜上に配置されかつ液晶性化合物を含有する光学異方性層とを含有する光学補償シートの製造方法であって、前記光学異方性層中の液晶性化合物の空気界面側傾斜角の調整のために前記配向膜形成塗布液のpHを調整する工程を含む光学補償シートの製造方法。
【0012】
[16]透明支持体と、該支持体上に配置された配向膜と、該配向膜上に配置されかつ液晶性化合物を含有する光学異方性層とを含有する光学補償シートの製造方法であって、
あるpH(pH(A))の配向膜形成塗布液から形成された配向膜上の光学異方性層における前記液晶性化合物の空気界面側傾斜角がθair(A)であったとき、θair(A)≦θair(B)である空気界面側傾斜角θair(B)を得るために該配向膜形成塗布液のpHをpH(A)≦pH(B)となるpH(B)に調整する工程を含む光学補償シートの製造方法。
[17]前記pHの調整が3.0≦pH≦12.5の範囲で行われる[15]又は[16]に記載の光学補償シートの製造方法。
[18]前記pHの調整が無機カチオンを含有するpH調整剤により行われる[15]〜[17]のいずれか1項に記載の光学補償シートの製造方法。
[19]前記光学異方性層が親水性基を有するポリマーを含有する[14]〜[18]のいずれか1項に記載の光学補償シートの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、光学異方性層における液晶性化合物の空気界面側の傾斜角を制御することができる光学補償シートの製造方法が提供される。さらに、本発明によって、光学補償機能に優れ、かつ画像表示装置に適用した場合に、広い視野角拡大性能を有する新規な光学補償シートを提供することができる。
【発明を実施の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS、INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。本明細書中に記載されているNzはNz=Re/Rth+0.5により算出される。
【0016】
また、本明細書において、「遅相軸」は、屈折率が最大となる方向を意味する。また、本明細書において「偏光板」とは、特に断らない限り、長尺の偏光板及び液晶装置に組み込まれる大きさに裁断された偏光板の両者を含む意味で用いられる。また、本明細書では、「偏光膜」及び「偏光板」を区別して用いるが、「偏光板」は「偏光膜」の少なくとも片面に該偏光膜を保護する透明保護膜を有する積層体のことを意味するものとする。
【0017】
本明細書において、「傾斜角」(「チルト角」ということもある)とは、光学異方性層の液晶性化合物の分子の長軸方向と界面(配向膜界面あるいは空気界面)の法線がなす角度を意味し、0〜90°の範囲で定義される。
また、本明細書において「空気界面側傾斜角」とは光学異方性層において空気界面に存在する液晶性化合物の分子の長軸方向が該空気界面となす傾斜角を意味する。なお、空気界面とは光学異方性層をある基板上に塗布したとき、空気に接している面を意味するが、該光学異方性層を含有する光学補償シートを後述の偏光板又は液晶表示装置等の部材として用いる場合にはもはや空気に接しない面となっていてもよい。
空気界面側傾斜角は40〜90°であるのが好ましく、後述のように配向膜形成塗布液のpHの調整によって調整が可能である。より好ましい空気界面側傾斜角は50〜90°、更に好ましくは50〜80°、特に好ましいのは60〜80°である。
【0018】
本発明の光学補償シートにおいて液晶性化合物がハイブリット配向している場合においては、配向膜側の傾斜角は3°〜30°であることが好ましい。配向膜側の傾斜角は小さすぎると、液晶性化合物、特にディスコティック液晶性化合物をモノドメイン配向させるのに要する時間が長くなるため大きい方が好ましいが、チルト角が大きくなりすぎると、光学補償シートとして好ましい光学性能が得られなくなるため逆に好ましくない。したがって、モノドメイン化時間の短縮と光学補償シートとしての好ましい光学性能の両立の観点から、好ましい配向膜側の傾斜角は5°〜30°、更に好ましくは10〜30°、特に好ましいのは20〜30°である。配向膜側の傾斜角は、配向膜のラビング密度を変える方法、あるいは前述の配向膜チルト角制御剤の添加などにより、数度〜数十度の範囲で制御可能である。
【0019】
傾斜角は、光学補償シートのレターデーションを観察角度を変えて測定し、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)pp.143−147に記載されている手法で算出することができる。
なお、円盤状化合物や棒状化合物を配向させた光学異方性層において、光学異方性層の一方の面におけるチルト角(円盤状化合物または棒状化合物における物理的な対象軸が光学異方性層の界面となす角度をチルト角とする)θ1および他方の面のチルト角θ2を、直接的にかつ正確に測定することは困難であるが、本明細書においては、θ1及びθ2としては、以下の手法で算出した値を用いる。本手法は実際の配向状態を正確に表現していないが、光学フィルムのもつ一部の光学特性の相対関係を表す手段として有効である。
【0020】
本手法では算出を容易にすべく、下記の2点を仮定し、光学異方性層の2つの界面におけるチルト角とする。
1.光学異方性層は円盤状化合物や棒状化合物を含む層で構成された多層体と仮定する。さらに、それを構成する最小単位の層(円盤状化合物または棒状化合物のチルト角は該層内において一様と仮定)は光学的に一軸と仮定する。
2.各層のチルト角は光学異方性層の厚み方向に沿って一次関数で単調に変化すると仮定する。
具体的な算出法は下記のとおりである。
(1)各層のチルト角が光学異方性層の厚み方向に沿って一次関数で単調に変化する面内で、光学異方性層への測定光の入射角を変化させ、3つ以上の測定角でレターデーション値を測定する。測定および計算を簡便にするためには、光学異方性層に対する法線方向を0°とし、−40°、0°、+40°の3つの測定角でレターデーション値を測定することが好ましい。このような測定は、KOBRA-21ADHおよびKOBRA-WR(王子計測器(株)製)、透過型のエリプソメーターAEP-100((株)島津製作所製)、M150およびM520(日本分光(株)製)、ABR10A(ユニオプト(株)製)で行うことができる。
【0021】
(2)上記のモデルにおいて、各層の常光の屈折率をno、異常光の屈折率をne(neは各々すべての層において同じ値、noも同様とする)、及び多層体全体の厚みをdとする。さらに各層におけるチルト方向とその層の一軸の光軸方向とは一致するとの仮定の元に、光学異方性層のレターデーション値の角度依存性の計算が測定値に一致するように、光学異方性層の一方の面におけるチルト角θ1および他方の面のチルト角θ2を変数としてフィッティングを行い、θ1およびθ2を算出する。
ここで、noおよびneは文献値、カタログ値等の既知の値を用いることができる。値が未知の場合はアッベ屈折計を用いて測定することもできる。光学異方性層の厚みは、光学干渉膜厚計、走査型電子顕微鏡の断面写真等により測定することができる。
【0022】
本発明の光学補償シートの製造方法は、透明支持体と、該支持体上に配置された配向膜と、該配向膜上に配置されかつ液晶性化合物を含有する光学異方性層とを含有する光学補償シートにおいて、前記光学異方性層中の液晶性化合物の空気界面側傾斜角を調整するために、前記配向膜形成塗布液のpHを調整する工程を含むことを特徴とする。具体的には、上述の本発明者が見い出した関係からわかるように、より高いpHの配向膜形成塗布液を用いることによって光学異方性層における液晶性化合物の空気界面側傾斜角が大きい(90度に近い)光学補償シートを得ることができ、より低いpHの配向膜形成塗布液を用いることによって光学異方性層における液晶性化合物の空気界面側傾斜角が小さい(0度に近い)光学補償シートを得ることができる。例えば、pH(pH(A))の配向膜形成塗布液から形成された配向膜上の光学異方性層における液晶性化合物の空気界面側傾斜角がθair(A)であったとき、θair(A)≦θair(B)である空気界面側傾斜角θair(B)を得るためには、該配向膜形成塗布液のpHをpH(A)≦pH(B)となるpH(B)に調整すればよい。ただし、上記A及びBで示される状態において、配向膜の膜厚及びpH調整のために添加される成分以外の組成ならびに光学異方性層の膜厚及び組成を含むその他の条件は実質的に同一であるとする。
【0023】
特に後述する親水性基を有するポリマーを含有する光学異方性層において、配向膜形成塗布液のpH値の増大による前記の空気界面側傾斜角の増大は顕著である。光学異方性層に含まれるポリマー化合物として後述する親水性基を有するポリマー等を適宜選択し、かつ配向膜形成塗布液のpHを調整することにより、液晶化合物の空気界面側傾斜角を0〜90°に任意に制御することが可能である。
pHの調整の方法は特に限定されないが、当業者に周知の配向膜形成塗布液はpHが3.0程度であることが多いことから、一般にpH調整剤として塩基を用いて調整されることが好ましい。pH調整剤については後述するが、無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンを含有するpH調整剤を用いることが好ましい。
この場合、配向膜形成塗布液ひいては配向膜における無機カチオンの濃度の調整によって、該配向膜上の光学異方性層における前記液晶性化合物の空気界面側傾斜角を制御していることとなる。通常の空気界面で得られるチルト角である50度を越える55度〜90度程度の前記空気界面側傾斜角を得るためには、配向膜における無機イオンおよび/またはアンモニウムイオンの濃度は0.01×10-4mol/m2〜0.5×10-4mol/m2であることが好ましく、0.01×10-4mol/m2〜0.1×10-4mol/m2であることがさらに好ましい。
【0024】
また、後述の実施例で示すように無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンを含むpH調整剤によりpH値を増大させることで該配向膜上の光学異方性層の空気界面側表面層の無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンの存在量が増大する。なお、空気界面側表面層とは光学異方性層をある基板上に塗布したとき、空気に接している側を意味し、該光学異方性層を含有する光学補償シートを後述の偏光板又は液晶表示装置等の部材として用いる場合には、もはや空気に接していなくてもよい。また空気界面側表面層および配向膜に含まれるカチオンの検出はION−TOF社製TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析計)を用いて行うことができる。測定方法は、光学異方性層、あるいは配向膜を含む光学異方性層を純水で洗浄したミクロトームにより約1°の角度で低角斜め切削し、膜内部を表面に露出させることにより行うことができる。この測定により光学補償シートに含まれる無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンは空気界面側表面、または配向膜で検出されることが分かった。
【0025】
空気界面側表面の無機カチオンまたはアンモニウムイオンの検出には、測定範囲を限定したTOF−SIMS測定(測定条件はION−TOF社製 TOF−SIMS IVを使用し、使用した一次イオンでAu3、 電流値は0.1pA−10kHzに設定し、測定範囲は200×200μm2で測定した。一次イオンドーズ量は2×1012とした。)を用いて定量した。配向膜の無機カチオン、またはアンモニウムイオンの検出は、無機カチオンまたはアンモニウムイオンが空気界面表面、または配向膜でのみ検出されることをTOF−SIMS測定で確認し、配向膜形成塗布液に加えた無機カチオンまたはアンモニウムイオンの添加量から空気界面表面に含まれる無機カチオンまたはアンモニウムイオンの量を差し引くことで算出した。
【0026】
後述の実施例で示すように、pH調整剤のカチオン種イオン半径が大きいほど空気界面側傾斜角は増大傾向にあるため、用いるpH調整剤を適宜選択することによってさらに精密な空気界面側傾斜角の制御が可能である。
本発明に用いられる配向膜形成塗布液のpHの調整は、3.0以上において行うことが好ましく、pH3.0〜12.5の範囲で行うことがさらに好ましい。配向膜形成塗布液のpHが3.0以下、12.5以上であると液晶化合物の配向性に影響を及ぼす可能性がある。
【0027】
[配向膜形成ポリマー]
本発明の光学補償シートにおける配向膜に使用される具体的なポリマーの種類については、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例として、例えば特開平8−338913号公報明細書中段落番号[0022]記載の化合物が挙げられる。好ましくは水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が挙げられ、この中でもゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。
【0028】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70乃至100%が好ましく、80乃至100%がさらに好ましく、85乃至95%が最も好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100乃至3000であることが好ましい。
【0029】
変性ポリビニルアルコールの変性基は、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば、特開2000−56310号公報明細書中の段落番号[0074]、同2000−155216号公報明細書中の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報明細書中の段落番号[0018]〜[022]に記載の化合物等が挙げられる。
【0030】
[配向膜形成塗布液pH調整]
配向膜形成塗布液にはpH調整のためのpH調整剤を含有させてもよい。pH調整剤としては、例えば、トリエチルアミン、ジエチルアミン、N,Nジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、アニリン、N,Nジメチルアニリン、NH3、ArO-(Arはアリール基を表し、アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、メトキシフェニル基等が挙げられる。例:フェノレートアニオン等)、ヒドロキリルアミン、SCN-、チオ尿素、OH-、I-、(R)3P(Rは炭化水素基又は−OR1基(R1は炭化水素基)を表す:炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、フェニル基、トリル基等が挙げられる)が挙げられる。さらに、例えばトリエチルフォスフィン、トリブチルフォスフィン、トリフェニルフォスフィン、トリメトキシフォスフィン、RS-(Rは炭化水素基を表し、例えばブチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、トリル基等が挙げられる。例:フェニルチオラートイオン等)、SO32-、S232-などが挙げられる。
【0031】
上記のうち、アニオンとして例示したpH調整剤は、無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンと塩を形成した化合物として用いることができる。該塩は水/メタノールに対しての溶解性がよい塩であることが好ましい。
無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンとしては特に限定されないが、下記の実施例で示すように液晶化合物の空気界面傾斜角がカチオン種で変わるため、空気界面側傾斜角を制御するために適宜選択することが好ましい。無機カチオンとして具体的には金属カチオン(金属としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の何れでもよい。例えば、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Ba、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Co、Cu、Ag、Zn、B、Al等)が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンが挙げられる。
また、本明細書におけるアンモニウムイオンとの用語は、NH4+で示されるアンモニウムイオンのほか、NH4+の水素をアルキル基などの他の基または元素によって置換した広義のアンモニウムイオンを意味し、アンモニウムイオンとして好ましくは、NH4+、トリエチルアンモニウムイオンなどが挙げられる。
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、トリエチルアミン、アンモニアが好ましい。
【0032】
[配向膜の形成]
配向膜は、上述の配向膜形成ポリマーを水又はメタノール等の溶媒に溶解して作製した溶液について上述のように適宜pH調整をした配向膜形成塗布液によりポリマー層を形成し、該ポリマー層をラビング処理することにより作成することができる。ラビング処理は、一般にはポリマー層の表面を、紙や布で一定方向に数回擦ることにより実施することができるが、特に本発明では「液晶便覧」(丸善(株))に記載されている方法により行うことが好ましい。配向膜の厚さは、0.01〜10μmであることが好ましく、0.05〜3μmであることがさらに好ましい。
【0033】
[配向膜のラビング密度]
配向膜のラビング密度を変える方法としては、「液晶便覧」(丸善(株))に記載されている方法を用いることができる。ラビング密度(L)は式(A)で定量化されている。
式(A) L=Nl{1+(2πrn/60v)}
式(A)中、Nはラビング回数、lはラビングローラーの接触長、rはローラーの半径、nはローラーの回転数(rpm)、vはステージ移動速度(秒速)である。ラビング密度を高くするためには、ラビング回数を増やす、ラビングローラーの接触長を長く、ローラーの半径を大きく、ローラーの回転数を大きく、ステージ移動速度を遅くすればよく、一方、ラビング密度を低くするためには、この逆にすればよい。ラビング密度と光学異方性層中の液晶性分子の配向膜側の傾斜角の間には、ラビング密度を高くすると傾斜角は小さくなり、ラビング密度を低くすると傾斜角は大きくなる関係がある。
【0034】
[親水性基を有するポリマー]
本発明の光学補償シートに用いられる親水性基を有するポリマーについて説明する。親水性基を有するポリマーとしては、下記のポリマーAの他、セルロースエステル、セルロースメチルエーテル、カルボキシメチルセルロースあるいはヒドロキシエチルセルロース等の親水性セルロース誘導体、ポリ酢酸ビニルの部分加水分解物、ポリビニルアルコールの部分ホルマール化物あるいはポリビニルアルコールの部分ベンザール化物等のポリビニルアルコール誘導体、ゼラチン、カゼインあるいはアラビアゴム等の天然の加工ポリマー、又はスルホン酸含有のポリエステル誘導体などを挙げることができるが、親水性基を有するポリマーとしては、下記一般式(1)で示される親水性基を有するポリマー(ポリマーA)またはセルロースエステルを用いることが好ましい。親水基を有するポリマーが光学異方性層中に存在することによって、配向膜形成塗布液のpH調整による光学異方性層における液晶性化合物の空気界面側傾斜角の制御が容易になる。
【0035】
[ポリマーA]
ポリマーAは、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)、ホスホノキシ基[−PO(OH)2]およびそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性基を有する下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むポリマーである。
【0036】
【化3】

【0037】
式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し;Lは下記の連結基群から選ばれる2価の連結基または下記の連結基群から選ばれる2つ以上を組み合わせて形成される2価の連結基を表し、
(連結基群)
単結合、−O−、−CO−、−NR4−(R4は水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す)、−S−、−SO2−、−P(=O)(OR5)−(R5はアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す)、アルキレン基、およびアリーレン基;Qはカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、またはホスホノキシ{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩を表す。
【0038】
ポリマーの種類としては、「改訂 高分子合成の化学」(大津隆行著、発行:株式会社化学同人、1968)1〜4ページに記載があるポリマー種のいずれであってもよく、例えば、ポリオレフィン類、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリウレタン類、ポリカーボネート類、ポリスルホン類、ポリカーボナート類、ポリエーテル類、ポリアセタール類、ポリケトン類、ポリフェニレンオキシド類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリアリレート類、PTFE類、ポリビニリデンフロライド類、セルロース誘導体などが挙げられる。前記ポリマーAは、ポリオレフィン類であることが好ましい。
【0039】
ポリマーAは、好ましくはフルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される繰り返し単位と一般式(1)で表される繰り返し単位とを含む共重合体である。フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される繰り返し単位としては、特開2004−333861号公報の一般式[1]に記載のフルオロ脂肪族基を側鎖に有するポリマーを用いることが好ましい。
配向速度を効果的に向上させるために、ポリマーAが少なくとも1つのフェニル基および/またはフェニレン基を含む場合も好ましい。
【0040】
次に前記ポリマーAに含まれる前記一般式(1)の繰り返し単位について説明する。
一般式(1)において、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。Qはカルボキシル基(−COOH)またはその塩、スルホ基(−SO3H)またはその塩、ホスホノキシ基{−OP(=O)(OH)2}またはその塩を表す。Lは下記の連結基群から選ばれる任意の基、またはそれらの2つ以上を組み合わせて形成される2価の連結基を表す。
(連結基群)
単結合、−O−、−CO−、−NR4−(R4は水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す)、−S−、−SO2−、−P(=O)(OR5)−(R5はアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す)、アルキレン基、およびアリーレン基。
【0041】
一般式(1)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子または下記に例示した置換基群から選ばれる置換基を表す。
(置換基群)
後述する−L−Qで表される基、置換されていてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリール基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアルキニル基であり、例えば、プロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えば、フェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる)、アラルキル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアラルキル基であり、例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基などが挙げられる)、置換もしくは無置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、特に好ましくは炭素数0〜6のアミノ基であり、例えば、無置換アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アニリノ基などが挙げられる)、
【0042】
アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは2〜10のアルコキシカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは2〜10のアシルオキシ基であり、例えば、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えば、メトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えば、フェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のスルホニルアミノ基であり、例えば、メタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、特に好ましくは炭素数0〜12のスルファモイル基であり、例えば、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のカルバモイル基であり、例えば、無置換のカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる)、
【0043】
アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えば、フェニルチオ基などが挙げられる)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のスルホニル基であり、例えば、メシル基、トシル基などが挙げられる)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のスルフィニル基であり、例えば、メタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のウレイド基であり、例えば、無置換のウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のリン酸アミド基であり、例えば、ジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基などが挙げられる)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12のヘテロ環基であり、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環基であり、例えば、イミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基などが挙げられる)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは、炭素数3〜24のシリル基であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)が含まれる。これらの置換基はさらにこれらの置換基によって置換されていてもよい。また、置換基を二つ以上有する場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに結合して環を形成していてもよい。
【0044】
1、R2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、または後述する−L−Qで表される基であることが好ましく、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、塩素原子、−L−Qで表される基であることがより好ましく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基であることがさらに好ましく、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基であることが特に好ましく、R2およびR3が水素原子で、R1が水素原子またはメチル基であることが最も好ましい。該炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。該アルキル基は、適当な置換基を有していてもよい。該置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、ヒドロキシル基、アシルオキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基、スルファモイル基、スルホンアミド基、スルホリル基、カルボキシル基などが挙げられる。なお、アルキル基の炭素数は、置換基の炭素原子を含まない。以下、他の基の炭素数についても同様である。
【0045】
Lは、上記連結基群から選ばれる2価の連結基、またはそれらの2つ以上を組み合わせて形成される2価の連結基を表す。上記連結基群中、−NR4−のR4は、水素原子、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表し、好ましくは水素原子またはアルキル基である。また、−PO(OR5)−のR5はアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表し、好ましくはアルキル基である。R4およびR5がアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表わす場合の炭素数は「置換基群」で説明したものと同じである。Lとしては、液晶化合物の配向速度を向上させるとともに、液晶化合物のハイブリッド配向における空気界面側の傾斜角を制御する点で、単結合、−O−、−CO−、−NR4−、−S−、−SO2−、アルキレン基またはアリーレン基を含むことが好ましく、単結合、−CO−、−O−、−NR4−、アルキレン基またはアリーレン基を含んでいることがより好ましく、アリーレン基、またはアラルキレン基(アルキレン基とアリーレン基を組み合わせて得られる2価の連結基)であることがさらに好ましく、Lがフェニレン基を含むことが最も好ましい。Lがアルキレン基を含む場合、アルキレン基の炭素数は好ましくは1〜10、より好ましくは1〜8、特に好ましくは1〜6である。特に好ましいアルキレン基の具体例として、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラブチレン、ヘキサメチレン基等が挙げられる。Lが、アリーレン基を含む場合、アリーレン基の炭素数は、好ましくは6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12である。特に好ましいアリーレン基の具体例として、フェニレン、ナフタレン基等が挙げられる。Lが、アルキレン基とアラルキレン基を含む場合、アラルキレン基の炭素数は、好ましくは7〜34、より好ましくは7〜26、特に好ましくは7〜16である。特に好ましいアラルキレン基の具体例として、フェニレンメチレン基、フェニレンエチレン基、メチレンフェニレン基等が挙げられる。Lとして挙げられた基は、適当な置換基を有していてもよい。このような置換基としては先にR1〜R3における置換基として挙げた置換基と同様なものを挙げることができる。
以下にLの具体的構造を例示するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0046】
【化4】

【0047】
【化5】

【0048】
前記式(1)中、Qはカルボキシル基、カルボキシル基の塩(例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩(例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、ジメチルフェニルアンモニウムなど)、ピリジニウム塩など)、スルホ基、スルホ基の塩(塩を形成するカチオンの例は上記カルボキシル基に記載のものと同じ)、ホスホノキシ基、ホスホノキシ基の塩(塩を形成するカチオンの例は上記カルボキシル基に記載のものと同じ)を表す。より好ましくはカルボキシル基、スルホ基、ホスホ基であり、特に好ましくはカルボキシル基またはスルホ基であり、最も好ましくはカルボキシル基である。
【0049】
本発明に使用可能な前記ポリマーAに含まれる前記一般式(1)に対応するモノマーの具体例を以下に挙げるが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
【0050】
【化6】

【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
前記ポリマーAは、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を1種含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。また前記ポリマーAは、前記フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される繰り返し単位を1種または2種以上有していてもよい。該フルオロ脂肪族基含有モノマーとしては、特開2004−333852号公報の一般式[1]で記載されているフルオロ脂肪族基含有モノマーが好ましい。さらに、前記ポリマーAはそれら以外の他の繰り返し単位を含んでいてもよい。前記他の繰り返し単位については特に制限されず、通常のラジカル重合反応可能なモノマーから誘導される繰り返し単位が好ましい例として挙げられる。例えば、前記ポリマーAは、特開2004−46038号公報[0026]〜[0033]記載のモノマー群から選ばれるモノマーから誘導される繰り返し単位を1種以上含有していてもよい。
【0054】
また、前記ポリマーAは、特開2004−333861号公報に記載の一般式[2]で表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0055】
前記ポリマーAにおけるフルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される繰り返し単位の含有量は、該ポリマーの構成モノマー総量の5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
前記ポリマーAにおいて、前記一般式(1)で表される繰り返し単位の量は、該ポリマーの構成モノマー総量の0.5質量%以上であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましい。
【0056】
本発明に用いる前記ポリマーAの質量平均分子量は1,000,000以下であることが好ましく、500,000以下であることがより好ましく、5,000以上50,000以下であることがさらに好ましい。質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて、ポリスチレン(PS)換算の値として測定可能である。
【0057】
前記ポリマーAを製造する際に採用される重合方法については、特に限定されるものではないが、特開2004−46038号公報の[0035]〜[0041]に記載の方法を用いることが好ましい。
【0058】
なお、前記ポリマーAは、ディスコティック液晶性化合物あるいは棒状液晶化合物の配向状態を固定化するために置換基として重合性基を有するものも好ましい。
【0059】
以下に、前記ポリマーAとして本発明に好ましく用いられる具体例を示すが、本発明はこれらの具体例によってなんら限定されるものではない。ここで式中の数値(a、b、c、d等の数値)は、それぞれ各モノマーの組成比を示す質量百分率であり、MwはTSK Gel GMHxL、TSK Gel G4000 HxL、TSK Gel G2000 HxL (いずれも東ソー(株)の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒THF、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した質量平均分子量である。
【0060】
【化9】

【0061】
【化10】

【0062】
【化11】

【0063】
【化12】

【0064】
【化13】

【0065】
【化14】

【0066】
【化15】

【0067】
【化16】

【0068】
【化17】

【0069】
【化18】

【0070】
【化19】

【0071】
【化20】

【0072】
本発明に用いられる前記ポリマーAは、上記した様に、公知慣用の方法で製造することができる。例えば先にあげたフルオロ脂肪族基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー等を含む有機溶媒中に、汎用のラジカル重合開始剤を添加し、重合させることにより製造できる。また、場合によりその他の付加重合性不飽和化合物を、さらに添加して上記と同じ方法にて製造することができる。各モノマーの重合性に応じ、反応容器にモノマーと開始剤を滴下しながら重合する滴下重合法なども、均一な組成のポリマーを得るために有効である。
【0073】
光学異方性層形成用組成物における前記ポリマーAの含有量の好ましい範囲は、光学補償シートの用途によって異なるが、組成物(塗布液である場合は溶媒を除いた組成物)総量の、0.005〜8質量%であることが好ましく、0.01〜5質量%であることがより好ましく、0.01〜1質量%であることがさらに好ましい。前記ポリマーAの添加量が0.005質量%未満では効果が不十分であり、また8質量%より多くなると、塗膜の乾燥が十分に行われなくなったり、光学フィルムとしての性能(例えばレターデーションの均一性等)に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0074】
なお、ポリマーAは、光学異方性層形成後に、その一部が、配向膜に含まれる無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンと塩を形成していることが好ましく、特にポリマーAに含まれる上記一般式(1)で表される繰り返し単位のQで示される親水性基のプロトンと配向膜に含まれる無機カチオンあるいはアンモニウムイオンがイオン交換した形態になっていることが好ましい。この場合、無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンと塩を形成している前記ポリマーAの一般式(1)で表される繰り返し単位の「−Q」が、光学異方性層に存在する該「−Q」の総mol/m2の1.0mol%以上であることが好ましい。
【0075】
[セルロースエステル]
親水性基を有するポリマーとしてはセルロースエステルを用いることも好ましい。また、前記光学異方性層中に、セルロースエステルを含有させると、空気界面側の液晶性化合物の分子の傾斜角をより増加させることができるので、親水性基を有するポリマーとして前述のポリマーAを用いる場合もセルロースエステルを含有させてもよい。なお、セルロースエステルは、組成物を支持体面上等に塗布した際のハジキの発生を軽減することにも寄与する。
本発明に使用可能なセルロースエステルの好ましい例には、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースが含まれる。中でも、セルロースアセテートブチレートが好ましい。前記セルロースエステルの添加量は、液晶性化合物の総量に対して質量百分率で、好ましくは0.01〜8%、より好ましくは0.01〜4%、さらに好ましくは0.01〜2%である。
【0076】
[液晶性化合物]
本発明の光学補償シートは、液晶性化合物の配向によって発現された光学異方性を有する。光学異方性層中において液晶性化合物の分子は、配向状態に固定されていることが好ましく、ハイブリッド配向状態に固定されていることがより好ましい。本発明に用いられる液晶性化合物については特に制限はなく、種々の化合物を用いることができる。棒状液晶性化合物またはディスコティック液晶性化合物を用いることが好ましく、ディスコティック液晶性化合物を用いることがより好ましい。また、液晶性化合物は、高分子液晶でも低分子液晶であってもよい。さらに、低分子液晶性化合物が層を形成する際に架橋され、もはや液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0077】
[棒状液晶性化合物]
棒状液晶性化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。なお、棒状液晶性化合物には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性化合物を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、本発明において棒状液晶性化合物として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性化合物は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。棒状液晶性化合物については、例えば、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載のものを採用できる。
棒状液晶性化合物の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
【0078】
棒状液晶性化合物は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基としては、不飽和重合性基またはエポキシ基が好ましく、不飽和重合性基がさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基が最も好ましい。
【0079】
[ディスコティック液晶性化合物]
ディスコティック液晶性化合物には、C.Destradeらの研究報告(Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年))に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告(Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990))に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告(Angew.Chem.96巻、70頁(1984年))に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告(J.Chem.Commun.,1794頁(1985年))、J.Zhangらの研究報告(J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年))に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0080】
ディスコティック液晶性化合物としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造の化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。ディスコティック液晶性化合物から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物がディスコティック液晶性化合物である必要はなく、例えば、低分子のディスコティック液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。ディスコティック液晶性化合物の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、ディスコティック液晶性化合物の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。
【0081】
ディスコティック液晶性化合物を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性化合物の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。従って、重合性基を有するディスコティック液晶性化合物は、下記式(III)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0082】
一般式(III)
D(−LQ)n
一般式(III)中、Dは円盤状コアであり、Lは二価の連結基であり、Qは重合性基であり、nは4〜12の整数である。
【0083】
円盤状コア(D)の例を以下に示す。以下の各例において、LQ(またはQL)は、二価の連結基(L)と重合性基(Q)との組み合わせを意味する。
【0084】
【化21】

【0085】
【化22】

【0086】
【化23】

【0087】
【化24】

【0088】
【化25】

【0089】
【化26】

【0090】
【化27】

【0091】
【化28】

【0092】
ハイブリッド配向では、液晶性化合物の長軸(ディスコティック液晶性化合物では円盤面)と支持体の面との角度、すなわち傾斜角が、光学異方性層の深さ(すなわち、透明支持体に垂直な)方向に増加または減少している。角度は、支持体面からの距離の増加と共に増加していることが好ましい。さらに、傾斜角の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。しかしながら、傾斜角は連続的に変化することが好ましい。
【0093】
液晶性化合物の長軸(ディスコティック液晶性化合物では円盤面)の平均方向(各分子の長軸方向の平均)は、一般に液晶性化合物あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法を選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の液晶性化合物の長軸(ディスコティック液晶性化合物では円盤面)方向は、液晶性化合物の種類を選択することによって、および液晶性化合物と共に使用するポリマーAの作用によって調整することができる。
【0094】
光学異方性層中には、液晶性化合物、ポリマーA、セルロースエステル以外に、他の添加剤を含有させてもよい。他の添加剤の例には、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマーなどが含まれる。これらの添加剤は、液晶性化合物等の必須成分に対し相溶性を有し、液晶性化合物の傾斜角の制御に寄与するか、または配向を阻害しないことが好ましい。
【0095】
[光学異方性層の製造方法]
本発明の光学補償シートは、液晶性化合物および所望により他の添加剤を含有する組成物(通常は塗布液)を、配向層表面に塗布して、液晶性化合物の分子を配向させ、該配向状態に固定することで作製することができる。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。均一性の高い光学フィルムを作製する場合には、塗布液の表面張力は、25mN/m以下であることが好ましく、22mN/m以下であることがさらに好ましい。
【0096】
塗布液の塗布は、公知の方法(例、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。ワイヤーバーコーティング法、ダイコーティング法による塗布が好ましい。
【0097】
前記塗布液の塗布後、乾燥工程と同時にまたは乾燥工程の後に、液晶性化合物を、所望の配向状態とした後、その配向状態に固定して光学異方性層を形成することができる。本発明では、配向膜形成塗布液のpH等の調整により、液晶性化合物を、水平配向を経てハイブリッド配向させることができる。水平配向からハイブリッド配向への移行は、例えば、配向温度を上昇させることにより促進される。
【0098】
固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。塗布液中には、液晶性化合物の固定化に寄与する、重合性モノマーや重合開始剤を含有させることが好ましい。重合性モノマーとしては、例えば、ビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基およびメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。上記化合物の添加量は、液晶性化合物に対して、一般に1〜50質量%であり、5〜30質量%であるのが好ましい。なお、重合性の反応性官能基数が3以上のモノマーを混合して用いると、配向層と光学異方性層間の密着性を高めることができる。
【0099】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号、米国特許4239850号の各明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分に対し0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0100】
液晶性分子の重合のための光照射には、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2の範囲にあることが好ましく、20mJ/cm2〜5000mJ/cm2の範囲にあることがより好ましく、100mJ/cm2〜800mJ/cm2の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
【0101】
この様にして形成された光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。また、光学異方性層上に、保護層を設けてもよい。
【0102】
なお、光学異方性層中の液晶性分子を配向させて、上述の重合等によりその状態を固定すれば、配向膜がなくてもその配向状態を維持することができる。従って前記光学異方性層を配向膜上に形成した後、透明支持体上に光学異方性層のみを転写することによって、配向膜の組成又はpHの調整によって得られた好ましい液晶性分子の配向状態を有する光学補償シートを得ることもできる。
【0103】
[透明支持体]
本発明の光学補償シートは、前記光学異方性層を支持する支持体を有する。支持体は、ガラスまたは透明なポリマーフイルムであることが好ましい。
支持体は、光透過率が80%以上であることが好ましい。ポリマーフイルムを構成するポリマーの例には、セルロースエステル(例、セルロースアセテート、セルロースジアセテート)、ノルボルネン系ポリマーおよびポリメチルメタクリレートが含まれる。市販のポリマー(ノルボルネン系ポリマーでは、アートンおよびゼオネックスいずれも商品名))を用いてもよい。
中でもセルロースエステルが好ましく、セルロースの低級脂肪酸エステルがさらに好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。とくに炭素原子数が2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)が好ましい。セルロースアセテートが特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
【0104】
なお、従来知られているポリカーボネートやポリスルホンのような複屈折の発現しやすいポリマーであっても、国際公開WO00/26705号公報に記載のように、分子を修飾することで複屈折の発現性を制御すれば、本発明の光学フィルムに用いることもできる。
偏光板保護フィルム、もしくは位相差フィルムに本発明の光学補償シートを使用する場合は、ポリマーフィルムとしては、酢化度が55.0〜62.5%であるセルロースアセテートを使用することが好ましい。酢化度は、57.0〜62.0%であることがさらに好ましい。
【0105】
酢化度とは、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算によって求められる。
セルロースアセテートの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。また、セルロースアセテートは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜1.7であることが好ましく、1.0〜1.65であることがさらに好ましく、1.0〜1.6であることが最も好ましい。
【0106】
セルロースアセテートでは、セルロースの2位、3位、6位のヒドロキシルが均等に置換されるのではなく、6位の置換度が小さくなる傾向がある。本発明に用いるポリマーフイルムでは、セルロースの6位置換度が、2位、3位に比べて同程度または多い方が好ましい。
2位、3位、6位の置換度の合計に対する、6位の置換度の割合は、30〜40%であることが好ましく、31〜40%であることがさらに好ましく、32〜40%であることが最も好ましい。6位の置換度は、0.88以上であることが好ましい。
各位置の置換度は、NMRによって測定することできる。
6位置換度が高いセルロースアセテートは、特開平11−5851号公報の段落番号0043〜0044に記載の合成例1、段落番号0048〜0049に記載の合成例2、そして段落番号0051〜0052に記載の合成例3の方法を参照して合成することができる。
【0107】
本発明の光学補償シートは、単独で液晶表示装置の部材に用いることができ、偏光板と一体化して、偏光板中の一部材として液晶表示装置に組み込むこともできる。本発明の光学補償シートが一体化された偏光板は、偏光機能を有するのみならず、液晶表示装置の視野角の拡大にも寄与する。さらに、偏光膜の保護フィルムとして本発明の光学補償シートを用いた偏光板を用いることは、液晶表示装置の薄型化にも寄与する。
以下、本発明の光学補償シートを付加した偏光板について詳細に説明する。
【0108】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光膜と前記光学補償シートとを有する。偏光板は一般に、基材フィルムに二色性物質を吸着、配向させて作製された偏光膜と、該偏光膜の少なくとも片面に貼合された保護膜とを有する。偏光膜の基材フィルムに使用されるポリマーとしては、ポリビニルアルコール(以下、PVA)系ポリマーが一般的である。二色性物質としてはヨウ素あるいは、二色性染料が単独、あるいは組み合わせて用いられる。保護膜としては、低複屈折性、透明性、適度な透湿性、寸度安定性等の物性が求められ、従来はセルロースアセテートフィルムが広く用いられ、その作製において塩素系有機溶媒であるメチレンクロライドを使用しており、環境保全の観点でその改良が望まれている。非塩素系有機溶媒を用いて作製されたセルロースアシレートフィルムは、その作製に際して非塩素系溶媒で流延しフィルム化することで、これらを改良したものである。
【0109】
ここで偏光膜に用いるPVAは、通常、ポリ酢酸ビニルをケン化したものであるが、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、オレフィン類、ビニルエーテル類のように酢酸ビニルと共重合可能な成分を含有しても構わない。また、アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等を含有する変性PVAも用いることができる。PVAのケン化度は特に限定されないが、溶解性、偏光性、耐熱、耐湿性等の観点から80〜100mol%が好ましく、90〜100mol%が特に好ましい。またPVAの重合度は特に限定されないが、フィルム強度や耐熱、耐湿性、延伸性などから1000〜10000が好ましく、1500〜5000が特に好ましい。また、PVAのシンジオタクチシチーについては特に限定されず、目的に応じ任意の値をとることもできる。
【0110】
PVAを染色、延伸して偏光膜を作製する手順には、原反となるPVAフィルムを乾式または湿式で延伸した後、ヨウ素あるいは二色性染料の溶液に浸漬する方法、ヨウ素あるいは二色性染料の溶液中でPVAフィルムを延伸し配向させる方法、ヨウ素あるいは二色性染料にPVAフィルムを浸漬後、湿式または乾式で延伸し配向させる方法などがある。また、PVA原反を溶液製膜法により製膜する際、PVA溶液中に二色性物質をあらかじめ含有させる手法もとることができる。
【0111】
代表的な偏光板の湿式延伸による製造法を以下に述べる。まず、原反PVAフィルムを水溶液で予備膨潤する。次いで二色性物質の溶液に浸漬し、二色性物質を吸着させる。さらにホウ酸等のホウ素化合物の水溶液中で進行方向に一軸延伸する。必要に応じ色味調整浴、硬化浴等をこの後に設けてもよい。ある程度乾燥したところでPVA等の接着剤を用い保護膜を貼合する。さらに乾燥して偏光板が得られる。
予備膨潤液中には、各種有機溶媒、無機塩、可塑剤、ホウ酸類等を水溶液中に添加してもよい。
【0112】
染色液は、二色性物質としてヨウ素を用いる場合を例にすると、ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液を用いる。ヨウ素は0.1〜20g/リットル、ヨウ化カリウムは1〜100g/リットル、ヨウ素とヨウ化カリウムの重量比は1〜100が好ましい。染色時間は30〜5000秒が好ましく、液温度は5〜50℃が好ましい。染色液中にホウ素化合物等PVAを架橋する化合物を含有させることも好ましい。延伸浴中のホウ素化合物は、ホウ酸が特に好ましい。ホウ酸濃度は、好ましくは1〜200g/リットルであり、さらに好ましくは10〜120g/リットルである。延伸浴には、ホウ素化合物の他にヨウ化カリウム等の無機塩、各種有機溶媒、あるいは二色性染料等を含むことができる。色味調整浴、硬化浴には二色性染料のほか、ヨウ化カリウム等の無機塩、ホウ素化合物等を必要に応じ含有させる。
【0113】
PVAの延伸工程としては、上に例示した如く連続フィルムの進行方向に張力を付与し、進行方向にフィルムを延伸、配向させる方法が一般的であるが、いわゆるテンター方式等の延伸手段でフィルムの幅手方向に張力を付与し、幅手方向に配向させる方法も適用可能である。延伸は一軸方向に3倍以上行うことが好ましく、4.5倍以上がより好ましい。偏光膜の使用目的により二軸延伸を行ってもよい。延伸後の膜厚は特に限定されないが、取り扱い性、耐久性、経済性の観点より、5〜100μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。延伸時の温度は延伸条件によって異なるが、通常10〜250℃である。100℃以上の温度で乾式延伸する場合は、窒素等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。また、予め延伸したフィルムを染色する前には、100℃以上の温度で結晶化処理を行うことが好ましい。
【0114】
染色方法としては上に例示した浸漬法だけでなく、ヨウ素あるいは染料溶液の塗布あるいは噴霧等、任意の手段が可能である。また、既に述べた液層吸着のみでなく、寄贈による吸着も必要に応じ行うことができる。二色性色素で染色することも好ましい。二色性色素の具体例としては、例えばアゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素、アントラキノン系色素等の色素系化合物をあげることができる。水溶性のものが好ましいが、この限りではない。又、これらの二色性分子にスルホン酸基、アミノ基、水酸基などの親水性置換基が導入されていることが好ましい。
【0115】
二色性分子の代表的なものとしては、例えばシー.アイ.ダイレクト.イエロー12、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ39、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ72、シー.アイ.ダイレクト.レッド28、シー.アイ.ダイレクト.レッド39、シー.アイ.ダイレクト.レッド79、シー.アイ.ダイレクト.レッド81、シー.アイ.ダイレクト.レッド83、シー.アイ.ダイレクト.レッド89、シー.アイ.ダイレクト.バイオレット48、シー.アイ.ダイレクト.ブルー67、シー.アイ.ダイレクト.ブルー90、シー.アイ.ダイレクト.グリーン59、シー.アイ.アシッド.レッド37等が挙げられ、さらに特開平1−161202号、特開平1−172906号、特開平1−172907号、特開平1−183602号、特開2000−48105号、特開2000−65205号、特開平7−261024号の各公報に記載の色素等を挙げることができる。特に、シー.アイ.ダイレクト.レッド28(コンゴーレッド)は古くよりこの用途に好ましいとして知られている。これらの二色性分子は遊離酸、あるいはアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン類の塩として用いられる。
【0116】
これらの二色性分子は2種以上を配合することにより、各種の色相を有する偏光子を製造することができる。偏光素子または偏光板として偏光軸を直交させた時に黒色を呈する化合物(色素)や黒色を呈するように各種の二色性分子を配合したものが単板透過率、偏光率とも優れており好ましい。
【0117】
偏光膜の耐熱、耐湿性を高める観点から、偏光膜の製造工程においてPVAに架橋させる添加物を含ませることが好ましい。架橋剤としては、米国再発行特許第232897号に記載のものが使用できるが、ホウ酸、ホウ砂が実用的に好ましく用いられる。また、亜鉛、コバルト、ジルコニウム、鉄、ニッケル、マンガン等の金属塩を偏光膜に含有させることも、耐久性を高めることが知られており好ましい。これら架橋剤、金属塩は、上に述べた予備膨潤浴、二色性物質染色浴、延伸浴、硬化浴、色調整浴等のいずれの工程に含有させてもよく、工程の順序は特に限定されない。保護膜と偏光膜を接着する接着剤としては特に限定はなく、PVA系、変性PVA系、ウレタン系、アクリル系等、知られているものを任意に用いることができる。接着層の厚みは0.01〜20μmが好ましく、0.1〜10μmがさらに好ましい。
【0118】
偏光膜の一方の表面には、本発明の光学補償シート(支持体表面が偏光膜と接する様に)貼合し、その反対側の表面には、セルロースアシレート等からなるポリマーフイルムを配置する(光学異方性層/偏光膜/ポリマーフイルムの配置とする)ことが好ましい。
【0119】
本発明の光学補償シートは、種々の液晶表示装置に用いることができる。本発明の光学補償シートを、液晶セルと、該液晶セルの両側にそれぞれ配置された一対の偏光膜とを有する液晶表示装置に配置する場合は、前記一対の偏光膜の少なくとも一方と前記液晶セルとの間に配置することが好ましい。本発明の光学補償シートは、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶性化合物を補償するように、光学異方性層の光学特性を決定することが好ましい。黒表示における液晶セル中の液晶性化合物の配向状態は、液晶表示装置のモードにより異なるので、前記光学異方性層の光学特性の好ましい範囲も、用途によって異なる。液晶セル中の液晶性化合物の配向状態に関しては、IDW’00、FMC7−2のP411〜414等に記載されている。
【0120】
本発明の光学補償シートの光学特性は、前記した様に、その用途、例えば、いずれのモードの液晶セルの光学補償に用いられるかによって、好ましい範囲が異なる。一般的には、光学異方性層のReは0〜70nmであることが好ましく、20〜70nmであることがより好ましく、Rthは50〜400nmであることが好ましく、100〜400nmであることがより好ましい。また、透明支持体のReは0〜70nmであることが好ましく、0〜50nmであることがより好ましく、Rthは、10〜400nmであることが好ましく、40〜250nmであることがより好ましい。但し、前記一例であり、本発明の光学補償シートの光学特性は、この範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0121】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1]
(ポリマー基材の作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、30℃に加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
<セルロースアセテート溶液組成(内層質量部 外層質量部)>
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部 0.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤)
3.9質量部 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 293質量部 314質量部
メタノール(第2溶媒) 71質量部 76質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 1.5質量部 1.6質量部
シリカ微粒子(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)
0質量部 0.8質量部
下記レターデーション上昇剤 1.4質量部 0質量部
【0122】
【化29】

【0123】
得られた内層用ドープおよび外層用ドープを三層共流延ダイを用いて、0℃に冷却したドラム上に流延した。残留溶剤量が70質量%のフィルムをドラムから剥ぎ取り、両端をピンテンターにて固定して搬送方向のドロー比を110%として搬送しながら80℃で乾燥させ、残留溶剤量が10%となったところで、110℃で乾燥させた。その後、140℃の温度で30分乾燥し、残留溶剤が0.3質量%のセルロースアセテートフィルム(外層:3μm、内層:74μm、外層:3μm)を製造した。作製したセルロースアセテートフィルム(CF−02)について、光学特性を測定した。
【0124】
得られたポリマー基材(PK−1)の幅は1340mmであり、厚さは、80μmであった。KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、波長630nmにおけるレターデーション値(Re)を測定したところ、8nmであった。また、波長630nmにおけるレターデーション値(Rth)を測定したところ、93nmであった。
作製したポリマー基材(PK−1)を2.0Nの水酸化カリウム溶液(25℃)に2分間浸漬した後、硫酸で中和し、純水で水洗、乾燥した。このPK−1の表面エネルギーを接触角法により求めたところ、63mN/mであった。
このPK−1上に、下記の組成の配向膜塗布液を#16のワイヤーバーコーターで28ml/m2の塗布量で塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。
【0125】
(配向層の形成)
50質量部のグルタルアルデヒドの水溶液を作製し、下記の変性ポリビニルアルコールを溶解した水/メタノール/クエン酸溶液に添加して、水酸化カリウムでpH3.5に調整し、下記の組成の配向層塗布液を作製した。
【0126】
<配向層塗布液組成>
下記の変性ポリビニルアルコール 20質量部
KOH 0.05質量部
グルタルアルデヒド 0.5質量部
水 360質量部
メタノール 120質量部
クエン酸エチルエステル 0.9質量部
【0127】
【化30】

【0128】
上記のアルカリ処理したフィルム表面上に、配向膜塗布液をロッドコーターで28ml/m2の塗布量で塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥し配向膜を作製した。
尚、乾燥後の塗布面の塗布幅方向での中央と左右両端の位置のpH値は6.0〜6.6の範囲であった。
【0129】
ポリマー基材(PK−1)の遅相軸(波長632.8nmで測定)と平行方向に配向膜にラビング処理を実施した。
【0130】
(光学異方性層の形成)
<光学異方性層形成液の組成>
下記のディスコティック液晶性化合物 41.01質量部
エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート
(V#360、大阪有機化学(株)製) 4.06質量部
セルロースアセテートブチレート
(CAB551−0・2、イーストマンケミカル社製) 0.20質量部
ポリマーA(P−94) 0.18質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製) 1.35質量部
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 0.45質量部
【0131】
上記組成の混合物を、102質量部のメチルエチルケトンに溶解し塗布液とし、これを配向膜上に、#3.6のワイヤーバーで連続的に塗布し、130℃の状態で2分間加熱し、ディスコティック液晶性化合物を配向させた。次に、100℃で120W/cm高圧水銀灯を用いて、1分間UV照射し、ディスコティック液晶性化合物を重合させた。その後、室温まで放冷して光学異方性層を形成し、光学補償シート(KH−1)を得た。波長546nmで測定した該光学異方性層のReレターデーション値は52nmであった。さらには、KH−1付偏光板(HB−1)を作製した。
【0132】
【化31】

【0133】
[実施例2、3]
配向膜塗布液に含まれる水酸化カリウムの添加量を変えて塗布液pHを5.5、7.5にした以外は、実施例1と同様にして光学補償シート(KH−2、KH−3)を作製した。波長546nmで測定した光学異方性層のReレターデーション値はそれぞれ45、62nmであった。さらに、KH−2、KH−3付偏光板(HB−2、HB−3)を作製した。
[比較例1、2]
配向膜塗布液に含まれる水酸化カリウムの添加量を変えて塗布液pHを13.0、2.5にした以外は、実施例1と同様にして光学補償シート(KH−H1)を作製したが、配向しにくいことが分かった。
【0134】
[実施例4〜9]
配向膜塗布液の塗布液pH5.5を水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸カリウム、水酸化セシウム、アンモニア水、トリエチルアミンで調整し、光学異方性層形成液の組成を下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして光学補償シート(KH−4〜9)を作製した。波長546nmで測定した光学異方性層のReレターデーション値はそれぞれ35、42、45、48、35、36nmであった。
(光学異方性層の形成)
<光学異方性層形成液の組成>
上記のディスコティック液晶性化合物 41.01質量部
エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート
(V#360、大阪有機化学(株)製) 4.06質量部
セルロースアセテートブチレート
(CAB551−0・2、イーストマンケミカル社製) 0.9質量部
セルロースアセテートブチレート
(CAB531−1、イーストマンケミカル社製) 0.23質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製) 1.35質量部
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 0.45質量部
下記フッ素系ポリマー 0.14質量部
【0135】
【化32】

【0136】
(液晶性化合物の傾斜角評価)
光学補償シートの光学異方性層における液晶性化合物の配向膜近傍の傾斜角および空気界面近傍の傾斜角は、KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて観察角度を変えてレターデーションを測定し、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)pp.143−147に記載されている手法で算出した。測定波長は632.8nmであった。結果を表1〜3に示す。
【0137】
[実施例10−1、10−2]
配向膜塗布液のpHを3.3、6.5に調整した以外は、実施例6と同様にして光学補償シート(KH−10−1、KH−10−2)を作製した。算出した空気界面側の傾斜角はそれぞれ61、70°であった。
[実施例11−1、11−2]
光学異方性層形成液の組成を下記のように変更した以外は、実施例10と同様にして光学補償シート(KH−11−1、KH−11−2)を作製した。算出した空気界面側の傾斜角はそれぞれ78、90°であった。
(光学異方性層の形成)
<光学異方性層形成液の組成>
上記のディスコティック液晶性化合物 41.01質量部
エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート
(V#360、大阪有機化学(株)製) 4.06質量部
セルロースアセテートブチレート
(CAB551−0・2、イーストマンケミカル社製) 0.34質量部
セルロースアセテートブチレート
(CAB531−1、イーストマンケミカル社製) 0.11質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製) 1.35質量部
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 0.45質量部
ポリマーA例示化合物(P−65) 0.03質量部
下記フッ素系ポリマー 0.14質量部
【0138】
【化33】

【0139】
[実施例12−1、12−2]
光学異方性層形成液を実施例1で用いた液に変更した以外は、実施例10と同様にして光学補償シート(KH−12−1、KH−12−2)を作製した。算出した空気界面側の傾斜角はそれぞれ30、55°であった。
[実施例13−1、13−2]
光学異方性層形成液に含まれるポリマーAおよびセルロースアセテートブチレート(CAB551−0・2、イーストマンケミカル社製)を除いた以外は、実施例12と同様にして光学補償シート(KH−H2−1、KH−H2−2)を作製した。算出した空気界面側の傾斜角はそれぞれ50、50°であった。
【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【0142】
【表3】

【0143】
(光学異方性層空気界面側表面層のイオン検出)
実施例1においてION−TOF社製TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析系)を用いて、光学異方性層空気界面側の表面層に存在するカチオンの検出を行った。配向膜塗布液のpH調整に用いた水酸化カリウムを用いため、配向膜層と空気界面表面層にカリウムイオンが存在することを確認した。実施例1〜3、実施例10〜12においても同様にカリウムイオンが存在することがわかった。配向膜形成塗布液のpH調整のために水酸化カリウムの量を増大させるほど空気界面側表面層に存在するカリウムイオンの量が増大傾向にあることがわかった。また実施例4〜8においても同様に配向膜層と空気界面表面層にpH調整剤に用いたカチオンが検出された。
【0144】
(光学異方性層空気界面側表面層及び配向膜のカチオンの定量)
実施例1において斜め切削TOF−SIMS測定を行った結果、配向膜と空気界面表面でのみカリウムイオンが存在することを確認した。さらに測定範囲を限定したTOF−SIMS測定(測定条件はION−TOF社製 TOF−SIMS IVを使用し、使用した一次イオンでAu3、 電流値は0.1pA−10kHzに設定し、測定範囲は200×200μm2で測定した。一次イオンドーズ量は2×1012とした。)から空気界面表面のカリウムイオン量を定量し、加えたカリウムイオンの量を差し引くことで算出した。
【0145】
上記表1に示した実施例1〜3、の結果から、配向膜形成液のpH値を上げることでディスコティック液晶化合物の空気界面側傾斜角が増大傾向にあることが分かり、また、アルカリ金属の含有量が0.001×10-5mol/m2〜0.5×10-5mol/m2である配向膜上の光学異方性層中の液晶性化合物の空気界面側傾斜角は50度〜90度に制御されていることが分かった。
比較例1の結果から、配向膜形成液のpHを3.0以下あるいは12.5以上にすると光学異方性層の配向性が悪化することが分かった。
実施例4〜9の結果から、pH調整剤でもあるアルカリ金属の水酸化物の種類を変えることでディスコティック液晶化合物の空気界面側傾斜角が変化することがわかった。実施例10〜13の結果から親水性ポリマーであるセルロースエステルのような水酸基を有するポリマーより、アクリル酸を含有するポリマーの方がpHに対する空気界面側傾斜角変化度合いが大きいことがわかり、さらに親水性基を有するポリマーを用いない場合は空気界面側傾斜角の増大効果は小さいことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶化合物を含有する光学異方性層を含有する光学補償シートであって、該光学異方性層の空気界面側表面層に0.01×10-5mol/m2〜0.5×10-5mol/m2の無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンが存在する光学補償シート。
【請求項2】
透明支持体と、該支持体上に配置された配向膜と、該配向膜上に配置されかつ液晶性化合物を含有する光学異方性層とを含有する光学補償シートであって、前記配向膜が0.01×10-4mol/m2〜0.5×10-4mol/m2の無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンを含有する光学補償シート。
【請求項3】
前記配向膜がpH3.0以上の配向膜形成塗布液から形成される請求項2に記載の光学補償シート。
【請求項4】
前記光学異方性層における該液晶化合物の空気界面側傾斜角が50度〜90度である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学補償シート。
【請求項5】
前記光学異方性層が親水性基を有するポリマーを含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学補償シート。
【請求項6】
前記親水性基を有するポリマーが、セルロースエステルおよび下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むポリマー(「以下ポリマーA」)からなる群より選択される1種または2種以上のポリマーである請求項5に記載の光学補償シート。
【化1】

(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し;Lは下記の連結基群から選ばれる2価の連結基または下記の連結基群から選ばれる2つ以上を組み合わせて形成される2価の連結基を表し、
(連結基群)
単結合、−O−、−CO−、−NR4−(R4は水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す)、−S−、−SO2−、−P(=O)(OR5)−(R5はアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す)、アルキレン基、およびアリーレン基;
Qはカルボキシル基(−COOH)もしくはその塩、スルホ基(−SO3H)もしくはその塩、またはホスホノキシ{−OP(=O)(OH)2}もしくはその塩を表す。)
【請求項7】
前記ポリマーAが、少なくとも1つのフェニル基および/またはフェニレン基を含有する請求項6に記載の光学補償シート。
【請求項8】
前記ポリマーAが、フルオロ脂肪族基を有するモノマーより誘導される繰り返し単位と一般式(1)で表される繰り返し単位を含む共重合体である請求項6又は7に記載の光学補償シート。
【請求項9】
前記ポリマーAの一般式(1)で表される繰り返し単位の「−Q」が、前記光学異方性層に存在する該「−Q」の総mol/m2に対して1.0mol%以上、無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンと塩を形成している請求項6〜8のいずれか1項に記載の光学補償シート。
【請求項10】
前記液晶性化合物が、ディスコティック液晶性化合物である請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学補償シート。
【請求項11】
前記光学異方性層中、前記液晶性化合物がハイブリッド配向し、かつ該ハイブリッド配向が固定されている請求項1〜10のいずれか1項に記載の光学補償シート。
【請求項12】
偏光膜と請求項1〜11のいずれか1項に記載の光学補償シートとを含有する偏光板。
【請求項13】
液晶セルと、該液晶セルの両側にそれぞれ配置された一対の偏光膜と、前記一対の偏光膜の少なくとも一方と前記液晶セルとの間に請求項1〜11のいずれか1項に記載の光学補償シートとを有する液晶表示装置。
【請求項14】
透明支持体と、該支持体上に配置された配向膜と、該配向膜上に配置されかつ液晶性化合物を含有する光学異方性層とを含有する光学補償シートの製造方法であって、下記の工程:
(1)0.01×10-4mol/m2〜0.5×10-4mol/m2の無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンを含有する配向膜形成塗布液を用いて配向膜を形成する工程
(2)工程(1)で得られた配向膜上に光学異方性層を形成する工程
を含む製造方法。
【請求項15】
透明支持体と、該支持体上に配置された配向膜と、該配向膜上に配置されかつ液晶性化合物を含有する光学異方性層とを含有する光学補償シートの製造方法であって、前記光学異方性層中の液晶性化合物の空気界面側傾斜角の調整のために前記配向膜形成塗布液のpHを調整する工程を含む光学補償シートの製造方法。
【請求項16】
透明支持体と、該支持体上に配置された配向膜と、該配向膜上に配置されかつ液晶性化合物を含有する光学異方性層とを含有する光学補償シートの製造方法であって、
あるpH(pH(A))の配向膜形成塗布液から形成された配向膜上の光学異方性層における前記液晶性化合物の空気界面側傾斜角がθair(A)であったとき、θair(A)≦θair(B)である空気界面側傾斜角θair(B)を得るために該配向膜形成塗布液のpHをpH(A)≦pH(B)となるpH(B)に調整する工程を含む光学補償シートの製造方法。
【請求項17】
前記pHの調整が3.0≦pH≦12.5の範囲で行われる請求項15又は16に記載の光学補償シートの製造方法。
【請求項18】
前記pHの調整が無機カチオンおよび/またはアンモニウムイオンを含有するpH調整剤により行われる請求項15〜17のいずれか1項に記載の光学補償シートの製造方法。
【請求項19】
前記光学異方性層が親水性基を有するポリマーを含有する請求項14〜18のいずれか1項に記載の光学補償シートの製造方法。

【公開番号】特開2007−86557(P2007−86557A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277137(P2005−277137)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】