説明

光学部材検査装置および検査方法

【課題】 有効径の境界ラインの近傍領域に含まれる2値化ノイズや汚れによるノイズを除去するためには、処理装置への負荷が高い複雑な画像処理が必要となり、検査時間が長くなる。
【解決手段】 CCDカメラ30により撮影された入力画像中の部品領域は、2値化されて欠陥、ノイズ等が図形として抽出される。良否判定手段47は、図形が設計上の有効径の境界ラインを含む帯状の最外周検出領域ROより内側に位置する場合には、比較的厳しい判定基準を用い、領域RO内に位置する場合にはより緩和された判定基準を用いて図形が欠陥に該当するか否かを判断する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、レンズ等の光学部材を検査する検査装置、および検査方法に関し、特に、検査対象領域と検査から除外される領域との境界の設定技術に関する。
【0002】
【従来の技術】レンズ等の光学部材は、実際に光を透過させるために用いられる領域が有効径として規定されているため、光学的な性能の検査は理論的には有効径の内側のみを対象とすれば足りる。
【0003】ただし、実際には、光学部材を製品としての組み付けた後の位置ズレ等を考慮し、設計値で定められた有効径より大きな範囲を検査対象領域としており、したがって、部品の外径の近傍までが検査対象に含まれる。
【0004】このように検査対象領域を周辺部にまで拡大すると、部品領域を背景から分離する際に発生した2値化のノイズや光学部材の周辺部分に付着した汚れによるノイズ等の外径近傍の周辺部に生じるノイズが検査対象領域に含まれる可能性が高くなる。このようなノイズは光学部材の欠陥ではないため、拡大された有効径内にこのようなノイズが存在する場合には、性状を検査する際にはこれらのノイズを除去する必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のように有効径の境界ラインの近傍領域に含まれる2値化ノイズや汚れによるノイズを除去するためには、処理装置への負荷が高い複雑な画像処理が必要となり、検査時間が長くなるという問題を有している。
【0006】この発明は、上述した従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、設計上の有効径より広い範囲を検査対象として含めつつ、ノイズ除去のような複雑な画像処理を必要としない光学部材検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】光学部材の性能は、光軸近傍の中心部では高く要求されるものの、周辺部に向かうにしたがって要求レベルが緩和され、有効径を規定する境界ラインの近傍ではかなり緩和された判定基準で検査しても光学部材の良否の判定が可能である。この発明は、この判定基準の相違に着目してなされたものであり、設計上の有効径を規定する境界ラインを含む帯状の最外周検査領域を設定すると共に、この最外周領域内の検査には他の検査対象領域の判定基準より緩和された判定基準を用いて検査することを特徴とする。
【0008】上記の構成によれば、有効径のラインを含む最外周検査領域においては、面積が大きい致命的な欠陥のみが検出され、微小な欠陥やノイズは検出されない。したがって、被検物の位置ズレを考慮して有効径より大きい領域を検査対象としつつ、検査装置に対する負荷が高いノイズ除去処理を不要とすることができ、検査速度を向上させることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、この発明にかかる光学部材検査装置の実施の形態を説明する。まず、図1にしたがってこの発明にかかる光学部材検査装置の光学系の原理について説明する。
【0010】被検物を撮影する撮影手段としてのCCDカメラ30からの出力信号は、画像処理装置40に入力されて処理され、抽出された情報はモニタディスプレイ50に表示される。また、画像処理装置40には、部品番号入力手段60から入力された検査対象となる光学部材の部品番号に関連づけて、判定基準の境界となる検査領域の設計値が登録された検査領域メモリ61と、有効径の設計値が登録された有効径メモリ62と、領域毎の判定基準値が登録された判定基準メモリ63とが接続されている。
【0011】CCDカメラ30により撮影された入力画像は、画像処理装置40に設けられた部品領域分離手段41により被検物が存在する部品領域と背景領域とに分離され、2値化抽出手段42により分離された部品領域が2値化されて欠陥、ノイズ等が図形として抽出される。抽出された図形は、それぞれ位置、面積、輝度の情報を有する。
【0012】前述したよう光学部材は光束が多く透過する光軸付近において最も高い性能が要求され、周辺に向かうにしたがって要求される性能が緩和される。例えば、光軸近傍では不良と判定される大きさの欠陥であっても、光軸から離れた領域では許容される場合がある。そこで、この装置は、光学部材を光軸からの距離により複数の検査領域に分割し、欠陥等として抽出された図形がいずれの領域に属するかにより異なる判定基準を用いて良否を判定する。
【0013】検査領域設定手段43は、部品番号入力手段60から入力された部品番号に基づいて検査領域メモリから読み出された検査領域を設定する。例えば、この例では図2に示されるように光軸が通る中心部を規定する第1の検査領域ラインL1に囲まれる領域として第1の検査領域が設定され、その外側の中間部を第2の検査領域ラインL2に囲まれる領域として第2の検査領域が設定される。LOは、光学部材の外径である。
【0014】一方、最外周領域計算手段44は、部品番号に応じて有効径メモリ62から設計上の有効径ラインLEを読み込み、このラインを含む帯状の領域として図中斜線で示したように最外周検査領域ROを計算により求める。最外周検査領域ROは、有効径ラインLEより内側のラインと外側のラインとに挟まれる領域として設定され、第2の検査領域ラインL2の外側で最外周検査領域ROより内側の領域は第3の検査領域となる。
【0015】領域判定手段45は、2値化抽出手段42により抽出された図形の座標が、検査領域設定手段43と最外周検査領域計算手段44とにより定められる検査領域のいずれに含まれるかを判定する。判定基準設定手段46は、部品番号に応じて各検査領域毎の判定基準を判定基準メモリ63から読み込んで設定する。良否判定手段47は、抽出された図形のそれぞれについて、その図形が位置する領域の判定基準に基づいて図形が欠陥に該当するか否かを判断し、判定結果をモニタディスプレイ50に表示する。
【0016】次に、上記の検査装置の光学系について説明する。光学系は、図3に示されるように、光源10と、この光源10から発した光束を拡散させる第1、第2の拡散板21,22から構成される拡散手段20と、拡散手段20を透過して被検物である正レンズ1を透過した光束、および被検レンズ1の周囲を通過した光束を取り込んで撮影するCCDカメラ30とを備える。
【0017】光源10および被検レンズ1は、CCDカメラ30の光軸上に配置されている。CCDカメラ30は、撮影レンズ31とCCDセンサ32とから構成され、被検レンズ1の厚さ方向の中心付近をピント面Pとするよう調整されている。すなわち、ピント面PとCCDセンサ32の受像面とは撮影レンズ31を介して光学的に共役であり、ピント面P上の被検レンズ1の像は、CCDセンサ上の符号Oで示す範囲に形成される。
【0018】第1、第2の拡散板21,22は、共に被検レンズ1の平面形状とほぼ相似形状であり、第2の拡散板22の方が第1の拡散板21より面積が小さい。これらの拡散板21,22は、光軸がそれぞれの中心を通るように、光軸に対して垂直に設けられている。また、これらの拡散板は、同一、あるいは互いに異なる拡散透過率を有しており、したがって拡散手段20を全体として考えると、第1、第2の拡散板が重なる中心領域は拡散透過率が低く、重ならない周辺領域は拡散透過率が相対的に高くなる。
【0019】第2の拡散板22のサイズは、第2の拡散板22から垂直に射出する光の範囲が被検レンズ1にほぼ一致するよう定められている。これにより、中心領域からの垂直射出成分は全て被検レンズ1に入射し、第1の拡散板21を垂直に透過して第2の拡散板22を通らない成分、すなわち周辺領域からの垂直射出成分は被検レンズ1に入射しない。また、第1拡散板21の平面形状を被検物の形状と相似に形成するのは、周辺領域からの斜射出成分を被検物にあらゆる方向から均一に入射させるためである。
【0020】図4は、被検レンズと拡散板21,22との平面形状の例を示す。図4(A-1)に示されるように被検レンズが平面形状が矩形であるファインダー用レンズ1aである場合には、第1、第2の拡散板21a,22aの平面形状は図4(A-2)に示す通りの矩形とすることが望ましい。また、図4(B-1)に示されるように被検レンズが一般的な円形レンズ1bである場合には、各拡散板21b,22bの平面形状は図4(B-2)に示される通りの円形とすることが望ましい。
【0021】なお、実施例の検査装置は、多数個取り金型により成形されたプラスチックレンズをランナから切り放さずに検査する構成であるため、被検レンズには図4に示されるようにゲートGを介してランナRが連結している。
【0022】撮影された画像には、図5に示されるように、第2の拡散板22を透過せずに達する周辺領域の輝度の高い成分により主として形成される高輝度の背景領域Bと、2つの拡散板を透過した中心領域の輝度の低い成分により主として形成される被検レンズの像(部品領域)Sとが含まれる。
【0023】第2の拡散板22の形状を被検レンズ1の平面形状とを相似形とすることにより、上記のように画像内で被検レンズが配置された部品領域と背景領域とを明瞭に区分することができ、後述の画像処理における対象領域の分離処理がきわめて容易となる。
【0024】ここで、被検レンズ1の表面または内部に光を吸収する欠陥、例えば光学部材中に含まれる黒いゴミが存在すると、レンズ像を形成する中心領域からの透過光の一部が吸収されてCCDセンサ32に光が達しないため、図6に示されるように中間輝度の部品領域S内に部品領域より輝度が低い欠陥像DLが発生する。
【0025】また、被検レンズ1の表面に光を散乱させる欠陥、例えば光学部材の表面に白いゴミやキズが存在すると、この欠陥により光が散乱し、欠陥がなければCCDセンサ32上のレンズ像の範囲Oに達しない周辺領域からの高輝度の斜射出成分の一部がレンズ像の範囲Oに達し、図7に示されるように中間輝度の部品領域S内に部品領域より輝度が高い欠陥像DHが発生する。
【0026】例えば、あるX軸方向の走査線上に吸収性の欠陥に基づく低輝度像DLと散乱性の欠陥に基づく高輝度像DHとが存在する場合、この走査線に沿った画素列の出力は図8(A)に示すとおりとなる。画像処理装置40は、2つの閾値SH1,SH2を用いて2値化することにより、図8(B)(C)に示されるように性状の異なる2種類の欠陥をそれぞれ独立して抽出することができる。
【0027】レンズの検査をする場合、欠陥の性状、大きさ、発生位置により良品、不良品を判別する際の判定基準が相違するため、性状の判定は必要である。実施例のように一回の検査で欠陥の性状が判断できれば、欠陥を検出した後にさらにその性状を特性するために検査するより検査の手順を簡略化することができる。
【0028】続いて、上記の装置を利用した検査の手順を図9および図10に示したフローチャートにしたがって説明する。ステップA-1において検査対象の部品の種類が前回の検査と異なると判断されると、入力される部品番号に応じて各検査領域、有効径を各メモリ61、62から読み込み(ステップA-2〜A-4)、有効径に基づいて最外周検査領域を計算し(ステップA-5)、判定基準を判定基準メモリ63から読み込む(ステップA-6)。
【0029】検査対象となる光学部品の種類に応じた設定後、CCDカメラから画像を入力し(ステップA-7)、輝度の分布に基づいて被検レンズの像に対応する部品領域を分離する(ステップA-8)。部品領域の画像は、動的2値化処理により2値化され、この2値画像から欠陥等の特徴量が抽出される(ステップA-9)。
【0030】画像処理装置40は、抽出された結果に基づいて被検レンズの良否を判定し(ステップA-10、サブルーチンは図10)、判定結果をモニタディスプレイ50に表示する(ステップA-11)。ステップA-12では、次に検査対象となる部品があるか否かを判断し、部品があれば部品を交換して(ステップA-13)ステップA-1からの処理を繰り返し、部品がなければ検査を終了する。
【0031】検査フローのステップA-10で実行される判定処理は、図10に示されるフローチャートにしたがって実行される。ここでは、ステップB-1でカウンタiを0にリセットし、このカウント値が抽出物(図形)の個数に達するまでカウンタをインクリメントしつつ2値化抽出された図形が欠陥と認められるか否かを図形毎に判定する(ステップB-2,B-8)。
【0032】判定は、図形の位置する検査領域に応じた判定基準で判定され(ステップB-3〜B-6)、1つでも欠陥が認められると後の図形については検査することなく検査フローにリターンする(ステップB-7)。
【0033】すなわち、ステップB-3で図形が最外周検査領域よりも内側に位置すると判断される場合には、それが第1、第2、第3のいずれの検査領域内に位置するのかに応じて判定基準が選択され、選択された判定基準に基づいて欠陥か否かが判定される(ステップB-3,B-4)。図形が最外周検査領域よりも内側にない場合、最外周領域内にあれば上記の3つの検査領域内よりも緩和された判定基準により欠陥か否かが判定される(ステップB-5,B-6)。図形が最外周検査領域より外側に位置する場合には、欠陥判定の必要がないため、判定せずに次の図形の検査に進む。
【0034】判定基準は、面積については、例えば第1の検査領域では4画素分の以上の図形が欠陥として判定されるよう設定され、第2の検査領域では6画素分以上、第3の検査領域では8画素分以上、最外周検査領域では30画素分以上の図形が欠陥と判定されるよう設定される。
【0035】全ての抽出物について欠陥と判定されなければ、ステップB-2から検査フローにリターンし、検査フローでは欠陥なしとの表示がなされる。いずれかの図形が欠陥と判定されてステップB-7からリターンした場合には、欠陥ありとの表示がなされ、当該光学部材は不良品と判定される。
【0036】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、位置ズレを考慮して検査が必要な有効径の設計値より大きな範囲を検査対象としつつ、この有効径のラインを含む最外周検査領域の判定基準を有効径内の他の判定基準より緩和することにより、最外周検査領域についてはかなり大きい抽出物のみが欠陥として検出され、ノイズ等を欠陥として検出されないよう設定することができる。したがって、欠陥として認識する必要のないノイズ等の抽出物を検査前に除去する必要がなく、検査の速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施形態として説明した光学部材検査装置の処理系を示すブロック図である。
【図2】 この発明の実施形態として説明した光学部材検査装置の最外周検査領域の設定を示す説明図である。
【図3】 この発明の実施形態として説明した光学部材検査装置の光学系を示す説明図である。
【図4】 実施形態として説明した装置における被検物の形状と拡散手段の形状とを対比して示す説明図である。
【図5】 実施形態として説明した装置により撮影される被検レンズに欠陥がない場合の画像を示す説明図である。
【図6】 実施形態として説明した装置により撮影される被検レンズに吸収性の欠陥がある場合の画像を示す説明図である。
【図7】 実施形態として説明した装置により撮影される被検レンズに散乱性の欠陥がある場合の画像を示す説明図である。
【図8】 実施形態として説明した装置により撮影された画像の1走査線上の輝度分布の例を示し、(A)が原画像の信号、(B)が低輝度成分を2値化した信号、(C)が高輝度成分を2値化した信号である。
【図9】 実施形態として説明した装置の検査処理全体を示すフローチャートである。
【図10】 実施形態として説明した装置の判定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 被検レンズ
10 光源
20 拡散手段
30 CCDカメラ
40 画像処理装置
41 部品領域分離手段
42 2値化抽出手段
43 検査領域設定手段
44 最外周領域計算手段
45 領域判定手段
46 判定基準設定手段
47 良否判定手段
50 モニタディスプレイ
60 部品番号入力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】被検物である光学部材を光軸方向から撮影する撮影手段と、撮影された前記光学部材の画像中に、前記光学部材の設計上の有効径を規定する境界ラインを含む帯状の最外周検査領域を含む複数の検査対象領域を設定する領域設定手段と、該領域設定手段により設定された領域毎に異なる判定基準を設定し、前記最外周検査領域には他の検査対象領域における判定基準より緩和された基準を設定する判定基準設定手段と、該判定基準設定手段により設定された判定基準を用いて前記各検査対象領域の欠陥を判定する判定手段とを備えることを特徴とする光学部材検査装置。
【請求項2】被検物である光学部材を光軸方向から撮影した画像中に光軸からの距離に応じて複数の検査対象領域を設定し、各検査対象領域毎に異なる判定基準を用いて前記光学部材の性状を検査する光学部材検査方法において、前記光学部材の設計上の有効径を規定する境界ラインを含む帯状の最外周検査領域を設定すると共に、前記最外周領域内の検査には他の検査対象領域の判定基準より緩和された判定基準を用いて検査することを特徴とする光学部材検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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