説明

光情報記録再生装置用対物レンズおよび光情報記録再生装置

【課題】規格の異なる光ディスクに対し、高精度な情報の記録または再生を実現することができ、収差を抑えて良好なスポットを記録面上に形成することができる光情報記録再生装置用対物レンズを提供する。
【解決手段】光情報記録再生装置用対物レンズは、異なる材料で構成された二つの光学部材が接合面で接合された接合レンズであり、第一の波長の光に対する第一の光学部材の屈折率をnB1、第二の光学部材の屈折率をnB2、第二の波長の光に対する第一の光学部材の屈折率をnR1、第二の光学部材の屈折率をnR2、接合面に関する曲率半径をr2、円錐係数をk2、4次の非球面係数をA42、第一の波長の光使用時の前記対物レンズの焦点距離をf1とすると、以下の条件(1)、


を満たすように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、記録密度や保護層の厚みが異なる複数種類の光ディスクに対する情報の記録または再生を行う光情報記録再生装置のように、波長が異なる複数種類の光を使用する装置および該装置に搭載される対物レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクには、従来、CDやDVDといった、記録密度や保護層の厚みが異なる複数の規格が存在する。また近年、情報記録のさらなる高容量化を実現すべく、DVDよりも一層記録密度の高い光ディスクが実用化されつつある。該光ディスクとしては、例えばHD DVDやBD(Blu-ray Disc)等がある。このような新規格の光ディスクは、DVDの保護層厚と同等もしくはそれ以下の保護層厚を有する。このように規格の異なる複数の光ディスクが存在するためユーザの利便性に鑑み、近年、光情報記録再生装置、より厳密には装置内に設けられる対物レンズは、上記の各光ディスクに対して互換性を持つことが要求される。なお、本文において、光情報記録再生装置と記した場合には、情報の記録専用装置、情報の再生専用装置、情報の記録および再生兼用装置、の全てを含むものとする。また、互換性を持つとは、使用する光ディスクを切り替えたとしても部品を交換したりすることなく情報の記録または再生が保証されることをいう。
【0003】
装置が規格の異なる複数の光ディスクに対して互換性を持つためには、規格が異なる光ディスクの切り替え時に、保護層の厚みによって変化してしまう球面収差を補正しつつ、情報の記録または再生に使用する光の開口数(NA)を変化させて記録密度の違いに対応したビームスポットが得られるようにする必要がある。一般にスポット径は波長が短いほど小さくできる。そこで従来、記録密度に応じて、光情報記録再生装置では、複数の波長のレーザー光が使用される。例えば、CD使用時には約790nmの比較的長い波長の光(いわゆる近赤外レーザー光)が用いられる。またDVD使用時には、近赤外レーザー光より短い約660nmの波長のレーザー光(いわゆる赤色レーザー光)が用いられる。また、新規格の光ディスク使用時には、その記録密度の高さから赤色レーザー光よりもさらに短波長の光(例えば405nmあたりのいわゆる青色レーザー光)が用いられる。
【0004】
複数種類の光ディスクに対する互換性を持たせた対物レンズは、例えば以下の特許文献1〜3に開示される。
【0005】
【特許文献1】特開2002−6210号公報
【特許文献2】特開2004−288346号公報
【特許文献3】特開2005−513701号公報
【0006】
特許文献1は、互いの光学特性が異なる二種類のレンズを接合した接合型対物レンズを開示する。そして、近赤外レーザー光と赤色レーザー光を使い分け、平行光束として該接合型対物レンズに入射させることにより、CDとDVDの二種類に対する互換性を実現している。
【0007】
特許文献2は、一面に所定の回折構造を設けた単玉の対物レンズを開示する。詳しくは、所定の回折構造は、各レーザー光における回折効率が最大となる回折次数(以下、正規回折次数という。)の比が、青色レーザー光、赤色レーザー光、近赤外レーザー光の順に2:1:1になるように構成される。そして、青色レーザー光と赤色レーザー光は平行光束として、また近赤外レーザー光は発散光束として、該対物レンズに入射させることにより、三種類の光ディスクに対する互換性を実現している。
【0008】
特許文献3は、ほぼ球面を接合面として構成した、DVDとHD DVDの二種類の光ディスクに対して互換性を有する接合型対物レンズを開示する。
【0009】
しかし、特許文献1に記載の接合型対物レンズは、DVDとCD使用時のみ好適に使用されるように構成されており、各光ディスクよりもさらに高密度で記録される新規格の光ディスクに対する情報の記録または再生時に使用することは不可能である。
【0010】
また、特許文献2に記載の対物レンズは、上述したような特性を持つ回折構造を採用しているため、該回折構造において、青色レーザー光使用時の球面収差と近赤外レーザー光使用時の球面収差の双方を良好に補正することはできない。一般に記録密度が高いほど収差に対する許容度が低くなることを踏まえると、回折構造は、青色レーザー光使用時の球面収差がより良好に補正されるように設計される。すると、近赤外レーザー光使用時の球面収差を良好に補正するためには、発散度の強めにした状態で対物レンズに入射させなくてはならない。そのため、レンズがトラッキングシフトした場合にコマ収差等の軸外収差が大きく発生してしまい好ましくない。
【0011】
また、特許文献3に記載の対物レンズは、接合面を略球面として構成するため、収差補正作用に限界が生じる。具体的には、DVDとHD DVDいずれか一方を使用する際に発生する収差をより良好に補正しようとすると他方を使用する際に発生する収差を十分に補正できなくなってしまうという問題が残存している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、波長が異なる複数種類の光束のいずれかを使用して規格の異なる少なくとも二種類の光ディスクのいずれに対する情報の記録または再生を行った時であっても、高い回折効率を確保して高精度な情報の記録または再生を実現することができ、さらには各光ディスクの記録面上において球面収差をはじめとする諸収差を抑えて良好なスポットを形成することができる光情報記録再生装置用の対物レンズおよび該装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明にかかる光情報記録再生装置用対物レンズは、記録密度の異なる第一と第二の各光ディスクに対して第一と第二の波長を持つ二種類の略平行光束のいずれかを使うことにより、各光ディスクに対する情報の記録または再生を行う光情報記録再生装置に用いられる対物レンズであって、第一の波長をλ1、第二の波長をλ2(各単位:nm)、とすると、
λ1<λ2
であり、対物レンズは、異なる材料で構成された第一の光学部材と第二の光学部材が接合面で接合された接合レンズであり、第一の波長の光に対する第一の光学部材の屈折率をnB1、第二の光学部材の屈折率をnB2、第二の波長の光に対する第一の光学部材の屈折率をnR1、第二の光学部材の屈折率をnR2、接合面に関する曲率半径をr2、円錐係数をk2、4次の非球面係数をA42、第一の波長の光使用時の前記対物レンズの焦点距離をf1とすると、以下の条件(1)を満たすことを特徴とする。
【0014】
【数1】

【0015】
請求項1に記載の光情報記録再生装置用対物レンズによれば、材料に応じて、接合面を適切な非球面形状にすることにより、対物レンズに略平行光束を入射させた場合でも、各光ディスクの記録面上で発生する球面収差を良好に抑えることができる。
【0016】
請求項2に記載の光情報記録再生装置用対物レンズによれば、さらに、以下の条件(2)、
【数2】

を満たすことが望ましい。
【0017】
請求項3に記載の光情報記録再生装置用対物レンズによれば、第二の光学部材は、第二の光学部材のd線におけるアッベ数をνd2とすると、以下の条件(3)、
40≦νd2≦80…(3)
を満たすことが望ましい。
【0018】
また、請求項4に記載の光情報記録再生装置用対物レンズによれば、第一の光学部材の第一面の曲率半径をr1、円錐係数をk1、有効半径をh1、接合面の有効半径をh2、とすると、以下の条件(4)および(5)、
【数3】

【数4】

を満たすことが望ましい。
【0019】
上記特徴を持つ光情報記録再生装置用対物レンズにおいて、接合面以外の二つの面のうちいずれか一方が、複数の同心状に連続して分割された屈折面で構成された位相シフト構造を有するように構成することが望ましい。これにより、特に軸上色収差を良好に補正することができる。
【0020】
この場合、当該位相シフト構造は、互いに隣り合う屈折面において、第一の波長の光束に対して付与される光路長が略2波長(請求項5)または略10波長(請求項6)となるように設計される。
【0021】
請求項5に記載の光情報記録再生装置用対物レンズによれば、第一の光学部材の中心厚をd1、第二の光学部材の中心厚をd2とすると、以下の条件(6)、
0.01<d1/d2<0.20…(6)
を満たすことが望ましい。
【0022】
請求項6に記載の光情報記録再生装置によれば、記録密度の異なる第一から第三の各光ディスクに対して、第一から第三の波長を持つ三種類の光束のいずれかを使うことにより、各光ディスクに対する情報の記録または再生を行う光情報記録再生装置であって、上述した種々の特徴を有する光情報記録再生装置用対物レンズを備え、第一の波長をλ1(nm)、第二の波長をλ2(nm)、第三の波長をλ3(nm)とすると、
λ1<λ2<λ3
であり、第一の波長の光束を用いて情報の記録または再生が行われる第一の光ディスクの保護層厚をt1、第二の波長の光束を用いて情報の記録または再生が行われる第二の光ディスクの保護層厚をt2、第三の波長の光束を用いて情報の記録または再生が行われる第三の光ディスクの保護層厚をt3、とすると、
t1≒0.6mm
t2≒0.6mm
t3≒1.2mm
であり、第一の光ディスクに対する情報の記録または再生に必要な開口数をNA1、第二の光ディスクに対する情報の記録または再生に必要な開口数をNA2、第三の光ディスクに対する情報の記録または再生に必要な開口数をNA3、とすると、
NA1>NA3かつNA2>NA3
であり、第一の波長の光束および第二の波長の光束は略平行光として、第三の波長の光束は発散光として対物レンズに入射し、第一の光ディスクに対する情報の記録または再生における、結像倍率をM1、焦点距離をf1、第二の光ディスクに対する情報の記録または再生における、結像倍率をM2、焦点距離をf2、第三の光ディスクに対する情報の記録または再生における、結像倍率をM3、焦点距離をf3とすると、以下の条件(7)、(8)、(9)、
−0.02<f1×M1<0.02・・・(7)
−0.02<f2×M2<0.02・・・(8)
−0.24<f3×M3<−0.14・・・(9)
を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明にかかる光情報記録再生装置用対物レンズは、接合される二つの光学部材に応じて、接合面を所定の非球面形状にする。これにより、いずれの光ディスクを使用するときであっても、球面収差をはじめとする諸収差を良好に抑えてより高精度な情報の記録または再生を行う装置に好適な対物レンズが提供される。
【0024】
また本発明にかかる光情報記録再生装置によれば、上記の対物レンズを備えると共に、比較的記録密度が高い第一や第二の光ディスク使用時には略平行光束を用いる。これにより、球面収差のみならず該対物レンズをトラッキングシフトした場合であっても軸外収差の発生を抑え、より高精度な情報の記録または再生を実現している。さらに、上述したように接合面を非球面形状とした対物レンズを搭載しているため、CDに例示されるような比較的記録密度の低い第三の光ディスク使用時に用いる光束の発散度を小さくしている。これにより、第三の光ディスク使用時であっても収差劣化を低減することができる。
【0025】
すなわち、本発明によれば、いずれの光ディスク使用時であっても、諸収差を良好に抑えて精度の高い情報の記録または再生を実現可能な、三種類の光ディスクに対する互換性を持つ光情報記録再生装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の光情報記録再生装置用対物レンズについて説明する。本実施形態の対物レンズは、光情報記録再生装置に搭載される。光情報記録再生装置は、該対物レンズを構成要素とすることにより、保護層厚、記録密度等といった規格がそれぞれ異なる三種類の光ディスクについて互換性を有している。
【0027】
以下では説明の便宜上、上記三種類の光ディスクのうち、記録密度が最も高い光ディスク(例えばHD DVDやBD等の光ディスク)を第一の光ディスクD1、第一の光ディスクD1に比べて相対的に記録密度が低い(例えばDVDやDVD−R等)を第二の光ディスクD2、記録密度が最も低い光ディスク(例えばCDやCD−R等)を第三の光ディスクD3、と記す。
【0028】
各光ディスクD1〜D3の保護層厚をそれぞれt1〜t3とすると、各保護層厚には、以下のような関係がある。
t1≦t2<t3
【0029】
また、各光ディスクD1〜D3のそれぞれに対して情報の記録または再生を行う場合、記録密度の違いに対応したビームスポットが得られるように、必要とされるNAの値を変化させる必要がある。ここで、各光ディスクD1〜D3に対する情報の記録または再生時に必要とされる最適な設計開口数を、それぞれNA1、NA2、NA3とすると、各NAには以下のような関係がある。
NA1>NA3かつNA2>NA3
【0030】
つまり、記録密度の高い第一の光ディスクD1および第二の光ディスクD2に対する情報の記録または再生時には、より小径なスポットの形成が要求されるため、必要なNAが高くなる。これに対し、最も記録密度の低い第三の光ディスクD3に対する情報の記録または再生時には、必要とされるNAは比較的小さい。なお、どの光ディスクも、情報の記録または再生時には、図示しないターンテーブル上に載置され回転駆動される。
【0031】
上記のように記録密度が異なる各光ディスクD1〜D3を使用する場合、各記録密度に対応したビームスポットが得られるように、光情報記録再生装置内において、それぞれ異なる波長のレーザー光が用いられる。具体的には、第一の光ディスクD1に対して情報の記録または再生を行う際には、最も小径のビームスポットを第一の光ディスクD1の記録面上において形成するために、最も短波長(第一の波長)であるレーザー光(以下、第一のレーザー光という)を光源から照射する。また、第三の光ディスクD3に対して情報の記録または再生を行う際には、最も大きな径のビームスポットを第三の光ディスクD3の記録面上において形成するために、最も長波長(第三の波長)であるレーザー光(以下、第三のレーザー光という)を光源から照射する。そして第二の光ディスクD2に対して情報の記録または再生を行う際には、第二の光ディスクD2の記録面上において比較的小径のスポットを形成するために、第一のレーザー光よりは長波長であってかつ第三のレーザー光よりは短波長(第二の波長)であるレーザー光(以下、第二のレーザー光という)を光源から照射する。
【0032】
図1は、本実施形態の対物レンズ10を有する光情報記録再生装置100の概略構成を表す模式図である。また、図2(A)〜図2(C)は、対物レンズ10および各光ディスクD1〜D3を各光ディスク使用時における光路ごとに分けて示した図である。図1、図2(A)〜(C)において、光情報記録再生装置100の基準軸AXは、図中一点鎖線で表示されている。図2(A)〜(C)に示す状態では、対物レンズの光軸は光学系の基準軸AXと一致しているが、トラッキング動作などにより対物レンズの光軸が光学系の基準軸AXから外れる状態もある。
【0033】
光情報記録再生装置100は、第一のレーザー光を照射する光源1A、第二のレーザー光を照射する光源1B、第三のレーザー光を照射する光源1C、回折格子2A、2B、2C、カップリングレンズ3A、3B、3C、ビームスプリッタ41、42、ハーフミラー5A、5B、5C、受光部6A、6B、6Cを有する。なお、光情報記録再生装置100では、上記の各光ディスク使用時に必要とされるNAが各々異なることに対応する必要がある。そのため、光情報記録再生装置100では、図示しないが、光源1C〜対物レンズ10間に第三のレーザー光の光束径を規定する開口制限素子が配設されていてもよい。
【0034】
図1に示すように、各光源1A〜1Cから照射された第一〜第三の各レーザー光束は、各回折格子2A〜2C、各カップリングレンズ3A〜3C、ビームスプリッタ41、42を介して共通の光路に導かれ、対物レンズ10に入射する。対物レンズ10を透過した各光束は、情報の記録または再生の対象となる各光ディスクD1〜D3の記録面近傍に収束する。
【0035】
図2(A)〜(C)に示すように、各光ディスクD1〜D3は、それぞれ保護層21、記録面22を有する。なお、実際の光ディスクD1〜D3において、記録面22は、保護層21と図示しないレーベル層によって挟持されている。記録面22で反射した各レーザー光は、ハーフミラー5A〜5Cを透過し、受光部6A〜6Cにより検出される。
【0036】
光情報記録再生装置100のように、各光ディスクD1〜D3使用時においてそれぞれ適切な波長のレーザー光を用いる場合、対物レンズの屈折率の変化や、各光ディスクD1〜D3の保護層21の厚さの違いに起因して、記録面22上での球面収差が変化する。従って光情報記録再生装置100には、三種類の光ディスクD1〜D3をそれぞれ使用する時に発生する球面収差を補正して各光ディスクD1〜D3に対する互換性を持たせる必要がある。
【0037】
そこで、本実施形態の光情報記録再生装置100では、対物レンズ10を構成する二つの光学部材10A、10Bを、互いに異なる光学性能を持つ材料によって構成するとともに、対物レンズ10の各面形状、特に接合面13の非球面形状を適切に設定している。そして、対物レンズ10の光学性能のみでは十分に補正しきれない収差については、光源から照射されるレーザー光の発散度を変えることにより補正している。つまり本実施形態の対物レンズ10、さらには該レンズ10を備える光情報記録再生装置100は、光学部材10Aと光学部材10Bの屈折率差、対物レンズ10の各面(特に接合面)の非球面形状、各レーザー光により異なる値に設定される倍率によって、三種類の光ディスクD1〜D3のいずれを使用した場合であっても球面収差をはじめとする諸収差の発生を良好に抑えて高精度な情報の記録または再生を実現している。
【0038】
さらに説明を加えると、一般に光ディスクの記録密度が高くなればなるほど、該光ディスクに対する情報の記録または再生時における収差の許容度は低くなることが知られている。そこで、本実施形態では、記録密度が比較的高い第一の光ディスクD1、第二の光ディスクD2使用時には、対物レンズ10の光学性能によって球面収差をはじめとする軸上の収差を抑えるとともに、略平行光束を用いることにより、非点収差やコマ収差といった軸外収差の発生も良好に抑えている。そして、他の光ディスクに比べて記録密度が低い第三の光ディスクD3使用時は、発散光を使用することにより、対物レンズ10の光学性能のみでは十分に補正しきれない収差成分を良好に低減している。以下、この特徴について詳述する。
【0039】
図3は、対物レンズ10を拡大して示す模式図である。対物レンズ10は、互いに材料が異なる二つの光学部材10A、10Bを接合面13で接合することにより形成される両凸のプラスチック製接合レンズである。対物レンズ10は、接合面13のほかに最も光源側にある第一面11と、最も記録面側にある第二面12を有する。対物レンズ10は、接合面13を非球面として構成している。さらに言えば、本実施形態の対物レンズ10は、収差の発生をより効果的に抑制して情報の記録または再生に好適なスポットが記録面22上で形成されるようにするため、接合面13のみならず、第一面11、第二面12も非球面として構成している。非球面の形状は光軸からの高さがhとなる非球面上の座標点の該非球面の光軸上での接平面からの距離(サグ量)をX(h)、非球面の光軸上での曲率(1/r)をC、円錐係数をK、四次、六次、八次、十次、十二次…の非球面係数をA2i(ただし、iは1以上の整数)として、以下の式で表される。
【0040】
【数5】

【0041】
ここで対物レンズ10は、第一または第二の光ディスクD1、D2に対する情報の記録または再生時において平行光束を入射させた場合に球面収差を抑え、各ディスクの記録面22上に良好なスポットを形成すべく、以下の条件(1)を満たすように構成される。
【数1】

ただし、nB1は第一のレーザー光に対する第一の光学部材10Aの屈折率を、
nB2は第一のレーザー光に対する第二の光学部材10Bの屈折率を、
nR1は第二のレーザー光に対する第一の光学部材10Aの屈折率を、
nR2は第二のレーザー光に対する第二の光学部材10Bの屈折率を、
r2は接合面13の曲率半径を、
k2は接合面13の円錐係数を、
A42は接合面13の4次の非球面係数を、
f1は第一のレーザー光使用時の対物レンズ10の焦点距離を、それぞれ表す。
【0042】
条件(1)は、各光学部材10A、10Bについて好適な材料の選択、および接合面の好適な非球面形状に関する条件である。条件(1)の下限以下の値を採ると、特に第二の光ディスクD2使用時に発生する球面収差に対する補正が過剰となり、球面収差がアンダーになってしまう。条件(1)の上限以上の値を採ると、特に第二の光ディスクD2使用時に発生する球面収差に対する補正が不足し、球面収差がオーバーのまま残存してしまう。
【0043】
なお、より一層良好な球面収差を得るには、以下の条件(2)を満たせばよい。
【数2】

【0044】
また、第二の光学部材10Bは、特に収差に対する許容度が低い第一の光ディスクD1使用時における軸上色収差を良好に抑えるため、d線でのアッベ数νd2が以下の条件(3)を満たすように構成される。
40≦νd2≦80…(3)

【0045】
さらに、本実施形態の対物レンズ10は、各面11〜13、特に接合面13の非球面量を抑えて、レンズ成形時に第一と第二の光学部材の間に偏心が生じた場合であってもコマ収差の発生を良好に低減するように構成される。具体的には、対物レンズ10は、以下の条件(4)または条件(5)、
【数3】

【数4】

また、r1は、第一の光学部材10Aの第一面、つまり面11の曲率半径を、
k1は、面11の円錐係数を、
h1は、面11の有効半径を、
h2は、接合面13の有効半径を、それぞれ表す、
の少なくとも一方を満たすように構成される。
【0046】
条件(4)の値が下限以下になる、つまり第一のレーザー光使用時と第二のレーザー光使用時の屈折率差が小さくなると、第一の光ディスクD1使用時の球面収差および第二の光ディスクD2使用時の球面収差の双方が良好に補正できるようにするためには、接合面13の非球面量を大きく設定せざるを得なくなる。つまり、偏心時にコマ収差が大きく発生してしまう。条件(5)の値が範囲外であった場合も同様である。
【0047】
なお、対物レンズ10は、製造の容易性を確保するため、以下の条件(6)を満たすように構成される。
0.01<d1/d2<0.20…(6)
ただし、d1は第一の光学部材10Aの中心厚(単位:mm)を、
d2は第二の光学部材10Bの中心厚(単位:mm)を、それぞれ表す。
【0048】
以上のように構成される対物レンズ10を使用する光情報記録再生装置100では、図1、図2(A)、(B)に示すように、光源1Aから照射された第一のレーザー光および光源1Bから照射された第二のレーザー光は、各光路中のカップリングレンズ3A、3Bによって平行光束に変換される。つまり本実施形態では、各カップリングレンズ3A、3Bは、コリメートレンズとして機能する。
【0049】
より詳しくは、光情報記録再生装置100は、以下の条件(7)、(8)を満たすように設計される。
−0.02<f1×M1<0.02・・・(7)
−0.02<f2×M2<0.02・・・(8)
ただし、M1、f1は、それぞれ第一の光ディスクD1使用時における対物レンズ10の結像倍率と焦点距離を、
M2、f2は、それぞれ第二の光ディスクD2使用時における対物レンズ10の結像倍率と焦点距離を表す。
【0050】
上記のように、対物レンズ10に入射する第一、第二の各レーザー光を平行光束にすることにより、対物レンズ10をトラッキングした時におけるコマ収差等の軸外収差の発生を抑えることができる。これにより、収差に対する許容度が低いとされる記録密度が高い光ディスクD1、D2使用時であっても、収差の影響を受けることなく高精度な情報の記録または再生を行うことができる。
【0051】
なお、厳密には、各光源1A、1Bの個体差や設置位置、さらには光情報記録再生装置100のおかれた環境の変化等の理由によって、各カップリングレンズ2A、2Bから射出される光束は必ずしも平行光束にはならない場合もある。しかし、上記の理由による光束の発散角は、非常に小さいため、トラッキングシフト時に生じる収差も小さい。よって、実使用上問題ないと言える。
【0052】
また、収差に対する許容範囲が狭い各光ディスクD1、D2使用時の収差を有効に抑えるように対物レンズ10を配設した場合、既述したように、第三の光ディスクD3に対する情報の記録または再生時に球面収差が残存してしまう。そこで、第三の光ディスクD3使用時に発生する球面収差は、図2(C)に示すように対物レンズ10に入射する光束を発散光にすることにより補正する。具体的には、光情報記録再生装置100は、以下の条件(9)も満たすように設計される。
−0.24<f3×M3<−0.14・・・(9)
ただし、M3、f3は、それぞれ第三の光ディスクD3使用時における対物レンズ10の結像倍率と焦点距離を表す。
【0053】
条件(8)の値が上限以上になると、第三の光ディスク使用時に、オーバーな球面収差が残存してしまう。また、同条件の値が下限以下になると、アンダーな球面収差が発生してしまい好ましくない。
【0054】
さらに、本実施形態の対物レンズ10において、接合面13以外の面11、12の少なくとも一方には、位相シフト構造が設けられている。位相シフト構造とは、光学系の基準軸AX(換言すれば対物レンズ10の光軸)を中心とした同心状に複数に分割された屈折面と各屈折面の境界に形成される複数の微小な段差からなる構造である。
【0055】
ここで、上記位相シフト構造を回折構造として捉えた場合、該構造は、光路差関数φ(h)により表すことができる。光路差関数φ(h)は、対物レンズ10の回折レンズとしての機能を光軸からの高さhにおける光路長付加量の形で表現したものである。より詳しくは、光路差関数φ(h)は、該構造における段差の設置位置と高さを規定する関数である。光路差関数φ(h)は、数6に示す式によって表される。
【0056】
【数6】

【0057】
数6に示す光路差関数φ(h)において、P2iはそれぞれ2i次(ただしiは自然数)の係数である。mは使用するレーザー光の光利用効率(回折効率)が最大となる回折次数を、λは使用する(入射する)レーザー光の設計波長を、それぞれ表す。
【0058】
本実施形態の対物レンズ10に設けられる位相シフト構造は、第一のレーザー光に対して略2波長分または略10波長分の光路長差を付与するように構成される。すなわち本実施形態の位相シフト構造は、λは第一の波長に、mは2または10に設定される数6によって表される。このように設定することにより、特に収差に対する許容度が低い第一の光ディスクD1使用時に発生する軸上色収差を良好に補正することができる。特に、位相シフト構造を、第一のレーザー光に対して略2波長分の光路長差を付与するように構成すれば、いずれのレーザー光使用時における該位相シフト構造での光利用効率も高く維持するとともに、波長変化時に生じる光利用効率の低下も抑えることができる。
【0059】
以下、上述した特徴を有する対物レンズ10および光情報記録再生装置100の具体的な実施例を4例説明する。
【0060】
各実施例1〜4の光情報記録再生装置100は、図1および図2(A)〜(C)に示される。なお、各実施例に関して、第三の光ディスクD3使用時は、情報の記録または再生に好適な開口数を得るために図示しない開口制限素子を用いて光束径を規定している。そのため、図2(A)〜(C)に示すように、第三の光ディスクD3使用時は、第一、第二の光ディスクD1、D2使用時に比べて有効光束径が小さくなる。
【0061】
また各実施例において使用される光ディスクとしては、保護層厚0.6mmの最も記録密度の高い第一の光ディスクD1、保護層厚0.6mmであり第一の光ディスクD1よりは記録密度の低い第二の光ディスクD2、保護層厚1.2mmの最も記録密度の低い第三の光ディスクD3を想定する。
【実施例1】
【0062】
実施例1の対物レンズ10の各レーザー光に対する具体的仕様は表1に示される。
【0063】
【表1】

【0064】
表1中、倍率の値が示すように、光ディスクD1〜D2使用時には、レーザー光は平行光束として、光ディスクD3使用時には、レーザー光は発散光束として、対物レンズ10に入射する。より詳しくは、実施例1の光情報記録再生装置100は、表1より、f1×M1およびf2×M2がどちらも0.000、f3×M3が−0.197となる。つまり、実施例1の光情報記録再生装置100は、条件(7)〜(9)を全て満たしている。
【0065】
表1に示す対物レンズ10を備える光情報記録再生装置100の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表2〜表4に示される。
【0066】
【表2】

【表3】

【表4】

【0067】
表2〜表4中の備考に示すように、面番号0が各光源1A〜1C、面番号1、2が各回折格子2A〜2C、面番号3、4が各カップリングレンズ3A〜3C、表2〜表3の面番号5、6がビームスプリッタ41、表2〜3の面番号7、8および表4の面番号5、6がビームスプリッタ42、表2〜3の面番号9、10および表4の面番号7、8が対物レンズ10、表2〜3の面番号11、12および表4の面番号9、10が媒体である各光ディスクD1〜D3の保護層21および記録面22を示している。表2〜表4中、rはレンズ各面の曲率半径(単位:mm)、dは情報の記録または再生時におけるレンズ厚またはレンズ間隔(単位:mm)、n(Xnm)は波長Xnmでの屈折率である。以下の各実施例2、3においても同様である。
【0068】
また、各カップリングレンズ3A〜3Cの第二面、および対物レンズ10の各面11〜13は非球面である。第一の光ディスクD1、第二の光ディスクD2、第三の光ディスクD3に対する情報の記録または再生時における各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、順に表5〜7に示される。なお各表における表記Eは、10を基数、Eの右の数字を指数とする累乗を表している。
【0069】
【表5】

【表6】

【表7】

【0070】
実施例1について、上述した各条件を検証する。上記で示した各表に示す数値より、条件(1)、(2)の値は0.018となり、実施例1の装置100は該条件(1)および(2)を満たす。また、実施例1の対物レンズ10の第二の光学部材のアッベ数νd2は58に設定されるため、条件(3)も満たす。また、実施例1は、条件(5)に関する値RK1、RK2がそれぞれ1.078、0.567である(h1=1.950、h2=1.849)。従って、RK2/RK1は0.525となり、条件(5)を満たす。さらに、d1/d2は0.043となり、条件(6)も満たす。
【0071】
図4(A)〜(C)は、実施例1の光情報記録再生装置100において、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。図4(A)が第一のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図4(B)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図4(C)が第三のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。以下に示す各実施例での収差図においても同様である。
【0072】
図4(A)〜(C)に示すように、実施例1の対物レンズ10を搭載した光情報記録再生装置100は、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、球面収差を良好に補正していることが分かる。従って実施例1の光情報記録再生装置100では、いずれの光ディスク使用時であっても、情報の記録または再生に好適なスポットを記録面22上に形成することができる。以上が実施例1の光情報記録再生装置100の説明である。
【実施例2】
【0073】
実施例2の対物レンズ10の各レーザー光に対する具体的仕様は表8に示される。
【0074】
【表8】

【0075】
表8に示すように、実施例2の光情報記録再生装置100も、f1×M1およびf2×M2がどちらも0.000、f3×M3が−0.180となる。つまり、実施例1と同様に、実施例2の光情報記録再生装置100は、条件(7)〜(9)を全て満たしている。
【0076】
表8に示す対物レンズ10を備える光情報記録再生装置100の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表9〜表11に示される。
【0077】
【表9】

【表10】

【表11】

【0078】
実施例2も実施例1と同様に、各カップリングレンズ3A〜3Cの第二面、および対物レンズ10の各面11〜13を非球面として設計している。第一の光ディスクD1、第二の光ディスクD2、第三の光ディスクD3に対する情報の記録または再生時における各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、順に表12〜14に示される。
【0079】
【表12】

【表13】

【表14】

【0080】
実施例2について、上述した各条件を検証する。上記で示した各表に示す数値より、条件(1)、(2)の値は0.024となるため、実施例2の装置100は該条件(1)および(2)を満たす。また、実施例2の対物レンズ10の第二の光学部材のアッベ数νd2は58に設定されるため、条件(3)も満たす。また、実施例2は、条件(4)の値が0.008となり、該条件(4)を満たす。さらに、条件(5)に関する値RK1、RK2がそれぞれ1.153、0.921である(h1=1.950、h2=1.864)。従って、RK2/RK1は0.799となり、条件(5)を満たす。さらに、d1/d2は0.043となり、条件(6)も満たす。つまり、実施例2の光情報記録再生装置100は、条件(1)〜(9)を全て満たす。
【0081】
図5(A)〜(C)は、実施例2の光情報記録再生装置100において、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。図5(A)〜(C)に示すように、実施例2の対物レンズ10を搭載した光情報記録再生装置100は、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、球面収差を良好に補正していることが分かる。従って実施例2の光情報記録再生装置100では、いずれの光ディスク使用時であっても、情報の記録または再生に好適なスポットを記録面22上に形成することができる。以上が実施例2の光情報記録再生装置100の説明である。
【実施例3】
【0082】
実施例3の対物レンズ10の各レーザー光に対する具体的仕様は表15に示される。
【0083】
【表15】

【0084】
表15に示すように、実施例3の光情報記録再生装置100は、f1×M1およびf2×M2がどちらも0.000、f3×M3が−0.171となる。つまり、実施例1、2と同様に、実施例3の光情報記録再生装置100は、条件(7)〜(9)を全て満たしている。
【0085】
表15に示す対物レンズ10を備える光情報記録再生装置100の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表16〜表18に示される。
【0086】
【表16】

【表17】

【表18】

【0087】
実施例3も実施例1、2と同様に、各カップリングレンズ3A〜3Cの第二面、および対物レンズ10の各面11〜13を非球面として設計している。第一の光ディスクD1、第二の光ディスクD2、第三の光ディスクD3に対する情報の記録または再生時における各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、順に表19〜表21に示される。
【0088】
【表19】

【表20】

【表21】

【0089】
実施例3について、上述した各条件を検証する。上記で示した各表に示す数値より、条件(1)、(2)の値は0.033となるため、実施例3の対物レンズ10を備えた光情報記録再生装置100は該条件(1)を満たす。また、実施例3の対物レンズ10の第二の光学部材のアッベ数νd2は64に設定されるため、条件(3)も満たす。また、実施例3は、条件(4)の値が0.028となり、該条件(4)を満たす。さらに、条件(5)に関する値RK1、RK2がそれぞれ1.126、1.051である(h1=1.950、h2=1.858)。従って、RK2/RK1は0.934となり、条件(5)を満たす。さらに、d1/d2は0.043となり、条件(6)も満たす。
【0090】
図6(A)〜(C)は、実施例3の光情報記録再生装置100において、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。図6(A)〜(C)に示すように、実施例3の対物レンズ10を搭載した光情報記録再生装置100は、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、球面収差を良好に補正していることが分かる。従って実施例3の光情報記録再生装置100では、いずれの光ディスク使用時であっても、情報の記録または再生に好適なスポットを記録面22上に形成することができる。以上が実施例3の光情報記録再生装置100の説明である。
【実施例4】
【0091】
実施例4の対物レンズ10は、他の実施例とは異なり第一面11に位相シフト構造が設けられている。実施例4の対物レンズ10の各レーザー光に対する具体的仕様は表22に示される。
【0092】
【表22】

【0093】
表22に示すように、実施例4の光情報記録再生装置100は、f1×M1およびf2×M2がどちらも0.000、f3×M3が−0.160となる。つまり、他の実施例と同様に、実施例4の光情報記録再生装置100は、条件(7)〜(9)を全て満たしている。
【0094】
表22に示す対物レンズ10を備える光情報記録再生装置100の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表23〜表25に示される。
【0095】
【表23】

【表24】

【表25】

【0096】
実施例4も他の実施例と同様に、各カップリングレンズ3A〜3Cの第二面、および対物レンズ10の各面11〜13を非球面として設計している。第一の光ディスクD1、第二の光ディスクD2、第三の光ディスクD3に対する情報の記録または再生時における各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、順に表26〜表28に示される。
【0097】
【表26】

【表27】

【表28】

【0098】
実施例4の対物レンズ10の第一面11に形成される位相シフト構造を規定するための光路差関数における係数P…は表29に示される。また、各レーザー光の回折効率が最大になる回折次数mは表30に示される。表30に示すように、回折次数mは使用するレーザー光によって異なる値が設定されている。
【0099】
【表29】

【表30】

【0100】
実施例4について、上述した各条件を検証する。上記で示した各表に示す数値より、条件(1)、(2)の値は0.030となるため、実施例4の対物レンズを備えた光情報記録再生装置装置100は条件(1)を満たす。また、実施例4の対物レンズ10の第二の光学部材のアッベ数νd2は41に設定されるため、条件(3)も満たす。また、実施例4は、条件(4)の値が0.007となり、該条件(4)を満たす。さらに、条件(5)に関する値RK1、RK2がそれぞれ0.911、0.720である(h1=1.950、h2=1.858)。従って、RK2/RK1は0.791となり、条件(5)を満たす。さらに、d1/d2は0.118となり、条件(6)も満たす。
【0101】
図7(A)〜(C)は、実施例4の光情報記録再生装置100において、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。図7(A)〜(C)において、実線が設計波長での球面収差を、破線が設計波長から+5nm変化した波長での球面収差を、それぞれ表す。なお、図7(A)〜(C)での線種の定義は、次に提示する比較例の球面収差図に関しても同様とする。図7(A)〜(C)に示すように、実施例4の対物レンズ10を搭載した光情報記録再生装置100は、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、球面収差を良好に補正していることが分かる。
【0102】
図8は、比較例の光情報記録再生装置100において、第一のレーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。比較例は、位相シフト構造を有しない以外は実施例4の対物レンズ10と同一仕様のレンズを対物レンズとして使用した例である。
【0103】
図7(A)および図8を比較すると、実施例4の対物レンズ10を搭載した光情報記録再生装置100は、比較例の構成に比べ、光ディスクD1に対する情報の記録または再生時に生じる軸上色収差を良好に補正していることが分かる。加えて、実施例4の対物レンズ10に設けられる位相シフト構造は、第一のレーザー光使用時における効率が最大となる回折次数mを2に設定している。従って、第一から第三の各レーザー光使用時における光利用効率は、順に、100%、93%、99%と非常に高くなっている。
【0104】
つまり、実施例4の対物レンズ10を備える光情報記録再生装置100では、対物レンズ10に位相シフト構造を設けたとしても、光量損失が小さく、いずれの光ディスク使用時であっても、情報の記録または再生に好適なスポットを記録面22上に形成することができる。加えて、上記位相シフト構造を設けたことにより、微小な波長変動に起因して発生する軸上色収差も良好に補正することができる。以上が実施例4の対物レンズ10を備える光情報記録再生装置100の説明である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の実施形態の光情報記録再生装置の概略構成を表す模式図である。
【図2】本発明の実施形態の光情報記録再生装置を各光ディスク使用時における光路ごとに分けて示す図である。
【図3】本発明の実施形態の対物レンズの拡大図である。
【図4】実施例1の、第一から第三のレーザー光を使用した際に発生する球面収差を表す収差図である。
【図5】実施例2の、第一から第三のレーザー光を使用した際に発生する球面収差を表す収差図である。
【図6】実施例3の、第一から第三のレーザー光を使用した際に発生する球面収差を表す収差図である。
【図7】実施例4の、第一から第三のレーザー光を使用した際に発生する球面収差を表す収差図である。
【図8】比較例の、第一のレーザー光を使用した際に発生する球面収差を表す収差図である。
【符号の説明】
【0106】
1A、2A、3A 光源
10 対物レンズ
13 接合面
D1〜D3 光ディスク
100 光情報記録再生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録密度の異なる第一と第二の各光ディスクに対して第一と第二の波長を持つ二種類の略平行光束のいずれかを使うことにより、各光ディスクに対する情報の記録または再生を行う光情報記録再生装置に用いられる対物レンズであって、
前記第一の波長をλ1、前記第二の波長をλ2(各単位:nm)、とすると、
λ1<λ2
であり、
前記対物レンズは、異なる材料で構成された第一の光学部材と第二の光学部材が接合面で接合された接合レンズであり、
前記第一の波長の光に対する前記第一の光学部材の屈折率をnB1、前記第二の光学部材の屈折率をnB2、前記第二の波長の光に対する前記第一の光学部材の屈折率をnR1、前記第二の光学部材の屈折率をnR2、前記接合面に関する曲率半径をr2、円錐係数をk2、4次の非球面係数をA42、前記第一の波長の光使用時の前記対物レンズの焦点距離をf1とすると、以下の条件(1)、
【数1】

を満たすことを特徴とする光情報記録再生装置用対物レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の光情報記録再生用対物レンズにおいて、
さらに、以下の条件(2)
【数2】

を満たすことを特徴とする光情報記録再生装置用対物レンズ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光情報記録再生装置用対物レンズにおいて、
前記第二の光学部材は、前記第二の光学部材のd線におけるアッベ数をνd2とすると、以下の条件(3)、
40≦νd2≦80…(3)
を満たすことを特徴とする光情報記録再生装置用対物レンズ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の光情報記録再生装置用対物レンズにおいて、
前記第一の光学部材の第一面の曲率半径をr1、円錐係数をk1、有効半径をh1、前記接合面の有効半径をh2、とすると、以下の条件(4)または条件(5)、
【数3】

【数4】

を満たすことを特徴とする光情報記録再生装置用対物レンズ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光情報記録再生装置用対物レンズにおいて、
前記接合面以外の二つの面のうちいずれか一方は、複数の同心状に連続して分割された屈折面で構成された位相シフト構造を有しており、
前記位相シフト構造は、互いに隣り合う前記屈折面において、前記第一の波長の光束に対して付与される光路長が略2波長であることを特徴とする光情報記録再生装置用対物レンズ。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光情報記録再生装置用対物レンズにおいいて、
前記接合面以外の二つの面のうちいずれか一方は、複数の同心状に連続して分割された屈折面で構成された位相シフト構造を有しており、
前記位相シフト構造は、互いに隣り合う前記屈折面において、前記第一の波長の光束に対して付与される光路長が略10波長であることを特徴とする光情報記録再生装置用対物レンズ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の光情報記録再生装置用対物レンズにおいて、
前記第一の光学部材の中心厚をd1、前記第二の光学部材の中心厚をd2とすると、以下の条件(6)、
0.01<d1/d2<0.20…(6)
を満たすことを特徴とする光情報記録再生装置用対物レンズ。
【請求項8】
記録密度の異なる第一から第三の各光ディスクに対して、第一から第三の波長を持つ三種類の光束のいずれかを使うことにより、各光ディスクに対する情報の記録または再生を行う光情報記録再生装置であって、
請求項1から請求項7のいずれかに記載の光情報記録再生装置用対物レンズを備え、
前記第一の波長をλ1(nm)、前記第二の波長をλ2(nm)、前記第三の波長をλ3(nm)とすると、
λ1<λ2<λ3
であり、
前記第一の波長の光束を用いて情報の記録または再生が行われる前記第一の光ディスクの保護層厚をt1、前記第二の波長の光束を用いて情報の記録または再生が行われる前記第二の光ディスクの保護層厚をt2、前記第三の波長の光束を用いて情報の記録または再生が行われる前記第三の光ディスクの保護層厚をt3、とすると、
t1≒0.6mm
t2≒0.6mm
t3≒1.2mm
であり、
前記第一の光ディスクに対する情報の記録または再生に必要な開口数をNA1、前記第二の光ディスクに対する情報の記録または再生に必要な開口数をNA2、前記第三の光ディスクに対する情報の記録または再生に必要な開口数をNA3、とすると、
NA1>NA3かつNA2>NA3
であり、
前記第一の波長の光束および前記第二の波長の光束は略平行光として、前記第三の波長の光束は発散光として、前記対物レンズに入射し、
前記第一の光ディスクに対する情報の記録または再生における、結像倍率をM1、焦点距離をf1(mm)、前記第二の光ディスクに対する情報の記録または再生における、結像倍率をM2、焦点距離をf2(mm)、前記第三の光ディスクに対する情報の記録または再生における、結像倍率をM3、焦点距離をf3(mm)とすると、以下の条件(7)、(8)、(9)、
−0.02<f1×M1<0.02・・・(7)
−0.02<f2×M2<0.02・・・(8)
−0.24<f3×M3<−0.14・・・(9)
を満たすことを特徴とする光情報記録再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−123659(P2008−123659A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269064(P2007−269064)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】