説明

光拡散体、及びその製造方法、並びに立体映像システム

【課題】モアレの発生を抑制可能な略円錐殻形状の光拡散体を提供する。
【解決手段】光透過性を有し、内周面と、外周面と、を有する略円錐殻形状の光拡散体1であって、内周面又は外周面の少なくとも一方の表面に、非周期的な表面凹凸部を有する光拡散体1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散体、及びその製造方法、並びに立体映像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人間が視覚において立体感を感じる生理的要因として、両眼視差、調節、輻輳、及び運動視差があるが、これらのうちで立体感に最も強く作用するものが、左右の眼に見える水平方向の画像の違いから立体情報を得る両眼視差である。
【0003】
両眼視差を生じさせ立体画像を表示する方式としては、両眼が交互に視認可能となるシャッターを設けたメガネなどの特別な装置を必要とする二眼式立体表示方式と、特別な装置を必要としない多眼式立体表示方式がある。
【0004】
例えば、特許文献1には多眼式立体表示方式の立体映像システムが記載されている。この立体映像システムにおいては、略円錐殻形状の光拡散体の周囲に複数の映像投影装置が配置され、光拡散体の外周面に映像投影装置から発生した光線群が照射される。光拡散体は、入射した光線群を、円錐殻の母線方向(以下、単に「母線方向」ともいう。)には拡散させて透過し、円錐殻の円周方向(以下、単に「円周方向」ともいう。)には拡散させずに透過させる異方拡散性を有する。映像投影装置から発生した光線群が円周方向には拡散しないことにより、右眼と左眼にはそれぞれ異なる映像投影装置から発生した光線が入る。これにより両眼視差が生じ、観察者は映像を立体映像として認知する。
【0005】
ここで、特許文献1においては、異方性拡散機能を発現する観点から、光拡散体の表面が、円周方向に一続きの突起が母線方向に繰り返し並ぶように形成された凹凸形状を有することが開示されている。また、特許文献1には、このような光拡散体が、ある屈折率を有する透明な樹脂から成る円錐殻を回転切削する方法、立体造形法、略円錐殻形状を有する透明素材の表面をエッチングする方法、略円錐殻形状を有する透明素材の表面をレーザー加工又は放電加工する方法、及び略円錐殻形状を有する透明素材の表面に紫外線硬化樹脂を塗布し、円周方向に延びる一定幅の環状領域ごとに紫外線を照射する方法、により作製されることが開示されている。なお、この光拡散体は、引用文献1によれば、同心円状の凹凸形状を有する扇形シート状透明素材から形成することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−32952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された立体映像システムにおいては、光拡散体は光を母線方向には拡散させて透過し、円周方向には拡散せずに透過させる性質を有する。このような異方拡散性を実現するためには、円錐殻の表面に、円周方向に沿った一続きの突起が母線方向に繰り返し並ぶような凹凸構造を付与すればよい。しかし、特許文献1に記載の光拡散体の表面形状は周期的な、例えばレンチキュラーレンズ様の形状を有している。そのため、表示される立体映像にモアレが生じる場合がある。なお、「モアレ」とは、周期的な模様を複数重ね合わせた時に、それらの周期のずれにより視覚的に発生する縞模様のことを意味する。
【0008】
そこで、本発明は、モアレの発生を抑制可能な略円錐殻形状の光拡散体、及びその製造方法、並びに該光拡散体を有する立体映像システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、本発明者は、立体映像にモアレを生じさせないためには、略円錐殻形状の光拡散体を形成すると共に、その表面に凹凸構造を非周期的に設けることが効果的であることを見出した。
【0010】
しかし、特許文献1に記載されている光拡散体の製造方法では、略円錐殻形状の光拡散体の表面に非周期的な凹凸構造を付与することは難しい。
【0011】
そこで、本発明者は、略円錐殻形状を有する透明基材の少なくとも一方の面に、母線方向と、円周方向と、に透過光拡散角度の異方性を生じせしめるような非周期的な表面凹凸構造を付与可能な製造方法を見出すと共に、当該製造方法により、モアレの発生を抑制可能な、立体スクリーンとして有用な光拡散体を実現し得ることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の態様は、以下の光拡散体、及びその製造方法、並びに立体映像システムであることを要旨とする。
1.光透過性を有し、内周面と外周面とを有する略円錐殻形状の光拡散体であって、内周面又は外周面の少なくとも一方の表面に、非周期的な表面凹凸部を有する光拡散体。
2.表面凹凸部の少なくとも一部が独立した島部であると共に、略円錐殻形状の円周方向に沿った島部のピッチが、当該島部の輪郭の重心を起点とした円周方向の周長よりも短い上記1に記載の光拡散体。
3.円周方向に沿った島部のピッチが、略円錐殻形状の母線方向に沿った島部のピッチよりも長い上記2に記載の光拡散体。
4.複数の島部の輪郭がなす面積の総和が凹凸部の配置面積に占める割合が、50%以上である上記2又は3に記載の光拡散体。
5.円周方向に沿った島部の平均ピッチが、100μm以上、20mm以下である上記2〜4のいずれかに記載の光拡散体。
6.母線方向に沿った島部の平均ピッチが、1μm以上、50μm以下である上記2〜5のいずれかに記載の光拡散体。
7.母線方向の拡散角度が10度以上100度以下である上記1〜6のいずれかに記載の光拡散体。
8.円周方向の拡散角度が1度以下である上記1〜7のいずれかに記載の光拡散体。
9.母線方向に拡散角度に分布がある上記1〜8のいずれかに記載の光拡散体。
10.略円錐殻形状の基材層と、基材層上に設けられた表面凹凸部を有する表層と、を有する上記1〜9のいずれかに記載の光拡散体。
11.少なくとも一部が着色された、上記1〜10のいずれかに記載の光拡散体。
12.上記1〜11のいずれかに記載の光拡散体と、少なくとも2台以上の映像投影装置と、を有する立体映像システム。
13.上記1〜11のいずれかに記載の光拡散体の製造方法であって、非周期的な表面凹凸構造を有する型に樹脂を充填して成形体を作製する工程と、当該成形体を型から脱離する工程を有する製造方法。
14.非周期的な表面凹凸構造を有する型と、略円錐体と、の間に紫外線硬化樹脂を充填し、紫外線照射により紫外線硬化樹脂を硬化させて成形体を作製する上記13に記載の製造方法。
15.さらに、外周面に感光性媒体を塗布した円錐形状のマスタを回転させながら線状のスペックルパターンに露光させることで、非周期的な表面凹凸構造を有する型を製造する工程を有する上記13又は14に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モアレの発生を抑制可能な略円錐殻形状の光拡散体、及びその製造方法、並びに該光拡散体を有する立体映像システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る立体映像システムの概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る光拡散体の概略斜視図である。
【図3】図3(a)は、実施の形態に係る表面凹凸部を有する光拡散体の概略断面図であり、図3(b)は、表面凹凸部の形状の一例を示す上面図及び側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る光拡散体の表面凹凸部をレーザー顕微鏡で観察した画像である。図4(a)は円錐殻の外周面における頂部付近を撮影した画像であり、図4(b)は円錐殻の外周面における底部付近の表面凹凸部を撮影した画像である。
【図5】本発明の実施の形態に係る立体映像システムにおける、光拡散体と、映像投影装置と、の位置関係を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る光拡散体の製造方法の工程図である。図6(a)は外周面に凹凸構造を有する円錐殻形状マスタの模式図であり、図6(b)は円錐殻形状マスタの外側に、円錐殻形状を有する透明基材を設置し、マスタと透明基材の間に紫外線硬化樹脂を充填した状態を表した模式図であり、図6(c)は硬化した紫外線硬化樹脂と透明基材との複合体からマスタを剥離した状態を表した模式図である。
【図7】本発明の他の実施の形態に係る光拡散体の製造方法の工程図である。図7(a)は内周面に凹凸構造を有する円錐殻形状マスタの模式図であり、図7(b)は円錐殻形状マスタの内側に、円錐殻形状を有する透明基材を設置し、マスタと透明基材の間に紫外線硬化樹脂を充填した状態を表した模式図であり、図7(c)は硬化した紫外線硬化樹脂と透明基材との複合体からマスタを剥離した状態を表した模式図である
【図8】本発明の実施の形態に係る立体映像システムにおける、光拡散体と、観測者の視点と、の位置関係、並びに拡散体の寸法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について図面を適宜参照しつつ詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
[光拡散体、及び立体映像システム]
図1は実施の形態に係る立体映像システムの概略断面図である。図1において立体映像システムは、略円錐殻形状の光拡散体1と、光拡散体1の周囲に配置され、光拡散体1の外表面側から映像を投影する複数の映像投影装置2a,2b,2cと、を有する。ここで、光拡散体1と、複数の映像投影装置2a,2b,2cと、は、相対位置を固定するためにテーブル3に設けられている。また、図1において、3台の映像投影装置2a,2b,2cが示されているが、立体映像装置2は少なくとも2台あればよく、4台以上あってもよい。なお、映像投影装置2の数は多いほど、映像が立体的に見える観測点が増加するため、観測者が移動した際の立体映像の変化の平滑化が可能となる。
【0017】
図2は、光拡散体1を示す概略斜視図であり、図3(a)は、略円錐殻形状の光拡散体1の頂点を通り、かつ光拡散体1の底面と直角に交わる線に沿った、光拡散体1の概略断面図であり、図3(b)は、島部4の形状の一例を示す上面図及び側面図である。なお、島部4の上面図とは、略円錐殻形状の光拡散体1を展開した場合の側面上の島部4の上面図を意味する。また、島部4の側面図とは、略円錐殻形状の光拡散体1を展開した場合の側面上の島部4の側面図を意味する。
【0018】
光拡散体1は、光透過性を有し、内周面と、外周面と、を有する略円錐殻形状を有する。さらに、略円錐殻形状の光拡散体1は、内周面又は外周面の少なくとも一方の表面に、略円錐殻形状の母線方向と、円周方向と、に透過光拡散角度の異方性を生じせしめる非周期的な表面凹凸部を有している。ここで、非周期的とは、凹凸構造の形状、ピッチ、及び配置の少なくとも一つがランダムであることを意味し、「ピッチ」とは島部のピーク間又はボトム間の距離をいう。なお、「島部」については後述する。表面凹凸部の凹凸構造は、略円錐殻形状の母線方向又は円周方向の少なくとも一つの方向に関してランダムであればよいが、両方の方向に関してランダムであることが好ましい。
【0019】
図4は、実施の形態に係る光拡散体1の表面凹凸部をレーザー顕微鏡で観察した画像である。図4(a)は光拡散体1の外周面における頂部付近の、図4(b)は光拡散体1の外周面における底部付近の表面凹凸部を撮影した画像である。
【0020】
ここで、略円錐殻には、中空の円錐、楕円錐、円錐台、楕円錐台、円錐に近い形状の多角錐及び多角錐台等の錐体形状が含まれる。円錐に近い形状の多角錐及び多角錐台とは、6角錐以上の多角錐及び多角錐台を意味するものとする。また、異方性とは、方向によって性質が異なる状態を指す。例えば、ある光拡散体に断面が円形の光を入射して、断面が楕円形に拡散された光が出射されたとき、この拡散体は光拡散性に異方性を有することとなる。
【0021】
図4において光拡散体1は、表面凹凸部をその外周面に有している。また、表面凹凸部は、光拡散体の外周面上に、非周期的、即ち、母線方向に断続的に、また、円周方向にも断続的に、更に、頂部付近と底部付近とで円周方向のピッチを変化させて配置されている。
【0022】
例えば島部4は、上面図で楕円形状(図3(b)参照)を有すると共にある一定ではない高さを有し、その側面図(図3(b)参照)の外縁は、上に凸の曲線形状を有する。そして、図3に示す光拡散体1はそのような島部4を有することにより、母線方向と、円周方向と、に透過光拡散角度の異方性を生じることができ、好ましい例では、母線方向に所定の透過光拡散角度を持たせた上で、円周方向の透過光拡散角度を1度以下とすることができる。このような光拡散体を図1に記載の立体映像システムに使用した場合、観測者の右目に第一の映像投影装置2から投影された映像、左目に第二の映像投影装置2から投影された映像を届けることができ、第一の映像投影装置2と、第二の映像投影装置2と、から投影された映像が混在して単一の目に入ることで生じる映像のぼやけ(クロストーク)を低減させることができる。
【0023】
実施の形態に係る光拡散体において、例えば表面凹凸部は、独立した島形状を有する表面凹部又は凸部(以下、「島部」ともいう。)である。島部の円周方向ピッチは、例えば、当該島部が配置される表面の円周方向の周長よりも短く形成されている。このような形状とすることは、表面凹凸部に非周期性を持たせることによるモアレ低減の観点から好適である。なお、島形状とは、略円錐殻形状の光拡散体1を展開した場合に、凹凸に関わらず、基準面に対しその輪郭が閉じた形状に観察される形状をいう。ここで、基準面とは円錐を展開することでできる平面に平行な面を指す。
【0024】
島部の円周方向のピッチは、母線方向のピッチよりも長く形成されていることが好ましい。このようなピッチとすることは、光拡散性の異方度の向上の観点から好適である。ここで、異方度とは異方性の程度の大きさを指す。
【0025】
なお、表面凹凸部は内周面、又は外周面の少なくとも一方の表面に形成されればよいが、立体映像システムに用いる場合、クロストーク低減及び表面反射による光損失の低減の観点から、表面凹凸部は略円錐殻の外周面に形成されることが好ましい。
【0026】
島部は、略円錐殻の表面の一部分に形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。また、島部の輪郭がなす面積が凹凸部の配置面積の全体に占める割合としては、島部のない平坦部を通過したために拡散されずに透過する光線を減少させ、光拡散体1をスクリーンとして用いた際、どの視点からも明るい像を観察できるという観点から、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上であり、100%であってもよい。
【0027】
円周方向に沿った島部のピッチとしては、後述する好ましい拡散角度の観点から、好ましくは50μm以上、より好ましくは1mm以上であり、好ましくは50mm以下、より好ましくは10mm以下である。また、その平均ピッチとしては、好ましくは100μm以上、より好ましくは1mm以上であり、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下である。
【0028】
一方、母線方向に沿った島部のピッチとしては、後述する好ましい拡散角度の観点から、好ましくは0.7μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。また、その母線方向の平均ピッチとしては、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0029】
光拡散体1の光の拡散角度(母線方向)としては、視野角向上の観点から好ましくは10度以上、より好ましくは40度以上であり、映像の明るさを確保する観点から好ましくは100度以下である。
【0030】
また、光拡散体1の光の拡散角度(円周方向)としては、好ましくは0.2度以上であり、好ましくは1度以下、より好ましくは0.6度以下である。このような拡散角度とすることは、立体映像のクロストーク低減、又はモアレを低減する観点から好ましい。
【0031】
更に、母線方向に拡散角度の分布があることが、視野角特性及び映像の明るさの均一性向上の観点から好ましい。なお、この拡散角度の分布は、観測者視点の位置、図1に示す光拡散体1の配置や形状、光拡散体を用いる立体映像システムの寸法及び複数の画像投影装置2a,2b,2cの位置により最適化されることが好ましい。例えば、これらが図5に示す配置にあるとき、光拡散体1の頂点付近における必要な拡散角度aは、底部付近における必要な拡散角度bよりも小さく設定することが好ましい。
【0032】
光拡散体1の層構成としては、基材層と、基材層上に設けられた表面凹凸部を有する表層と、を有することが、光拡散体1の強度及び表面凹凸部の加工性の観点から好ましい。また、一般に白色光を拡散体に照射すると色の分離が生じることがある。これを回避するため、例えば赤、青、緑の三色など複数の色の画像を合成することでカラー画像を表示する方法がある。この観点から、光拡散体1は少なくとも一部が着色されていてもよい。なお、着色部の位置については特に限定されず、個々の映像投影装置2の投影範囲に対応した位置であってもよいし、使用する色の種類の数の領域に側面を適当な割合で分割した位置であってもよい。
【0033】
実施の形態に係る立体映像システムは、図1に示すように、少なくとも2台以上の映像投影装置2a,2b,2cを有する。複数の映像投影装置2a,2b,2cのそれぞれとしては、例えば、走査型プロジェクタ等を使用することができる。このようにして形成される立体映像システムは、光拡散体1が母線方向に好ましくは光を10度以上拡散し、円周方向には好ましくは光を1度以下に拡散させて光を透過させることができるため、人間の左右の目に異なる映像投影装置から射出された映像を到達させることができる(両眼視差を感じさせることができる)。さらに、実施の形態に係る立体映像システムは、画像にモアレが発生することを抑制することが可能となる。
【0034】
[光拡散体の製造方法]
光拡散体1の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、非周期的な表面凹凸構造を有する型に樹脂を充填して成形体を作製する工程と、当該成形体を型から脱離する工程と、を有する製造方法が挙げられる。
【0035】
図6は、実施の形態に係る光拡散体9の製造方法を示す工程図である。図6(a)は外周面に凸部を有する円錐殻形状マスタ6の模式図である。図6(b)に示すように、円錐殻形状マスタ6を覆うように、円錐殻形状を有し、透明素材からなる中空の基材7を設置し、円錐殻形状マスタ6と、基材7と、の間に紫外線硬化樹脂8を充填した後、紫外線照射により紫外線硬化樹脂8を硬化させる。その後、図6(c)に示すように、硬化した紫外線硬化樹脂8と、透明基材7と、の複合体から、円錐殻形状マスタ6を剥離して、内周面に表面凹凸部が設けられた光拡散体9が製造される。
【0036】
一方、図7は、他の実施の形態に係る光拡散体12の製造方法を示す工程図である。図7(a)は内周面に凹構造を有する円錐殻形状マスタ10の模式図である。図7(b)に示すように、円錐殻形状マスタ10の内側に、円錐殻形状を有し、透明素材からなる基材11を設置し、円錐殻形状マスタ10と、基材11、との間に紫外線硬化樹脂8を充填した後、紫外線照射により紫外線硬化樹脂8を硬化させる。その後、図7(c)に示すように、硬化した紫外線硬化樹脂8と、基材11と、の複合体から、円錐殻形状マスタ10を剥離して、外周面に表面凹凸部が設けられた光拡散体12が製造される。
【0037】
なお、このような非周期的かつ母線方向と円周方向とで形状が異方的な表面凹凸構造を有する円錐形状マスタは、例えば円錐形状を有する基材に感光性樹脂を塗布し、ホログラフ拡散体を通して拡散された干渉光によって得られる異方性スペックルパターンにより感光性樹脂を露光し、現像することによって形成することができる。スペックルパターンの寸法、形状及び方向の調節方法については、例えば特許第3390954号公報に開示されている公知の方法を用いることができる。
【0038】
母線方向と、円周方向と、で形状が異方的な表面凹凸構造を得る方法としては、以下に説明する方法がある。まず、特許第3413519号公報に記載のホログラフ拡散体を通して拡散された干渉光で、線状のスペックルパターンを形成する。次に、外周面に感光性媒体を塗布した円錐形状のアクリル樹脂製マスタの頂点から底面に下ろした垂線に直交する方向から、形成した線状のスペックルパターンを照射する。なお、線状のスペックルパターンの長手方向が、円錐形状のマスタの円周方向に沿うよう、線状のスペックルパターンを形成する。さらに、線状のスペックルパターンを照射しながら、円錐形状のマスタを頂点から底面に下ろした垂線を回転軸として回転させることで、円錐形状のマスタの一部又は全体を線状のスペックルパターンに露光させる。その後、マスタの感光性媒体を現像することにより、母線方向と、円周方向と、で形状が異方的な表面凹凸構造を有する円錐形状マスタが得られる。
【0039】
また、図6及び図7を用いて説明した方法で製造した光拡散体9,12を、新たな光拡散体を製造するための円錐形状マスタとして用いることもできる。
【0040】
光拡散体の基材の材質としては、有機材料、無機材料、並びに有機材料と無機材料との複合材料のいずれも用いることができる。特に有機高分子材料などの有機材料は、切断、溶接、曲げ、切削等の加工性に優れており、好ましい基材である。有機高分子としては、例えば、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリスルホン、セルロース、トリアセチルセルロース、セルロースアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフルオロクロロビニル、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、ポリエーテル−ポリアミドブロックコポリマー、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、及びシクロオレフィンポリマー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
図8に示すように、実施の形態に係る光拡散体1が、例えば立体映像システムに使用される場合、略円錐殻形状の光拡散体1が、頂点が下方になるよう配置され、高さがhであり、底面の直径がr1であり、頂点側の小径の上面の直径がr2であり、側面と底面とがなす傾斜角がcであるとする。また、観測者の視点が、略円錐殻形状の光拡散体1の底面から高さz、かつ、光拡散体1の上面端部から水平方向に長さxの位置にあるとする。この場合、略円錐殻形状の光拡散体1の傾斜角cはtan-1{(z+h)/x}以下であることが好ましく、またtan-1{(z+h)/(x+r2)}以上であることが好ましい。また光拡散体の大きさは、使用する立体映像システムの大きさ、使用環境及び使用目的に合わせてさまざまに決定することができる。例えば図8に示すような立体映像システムにおいて、xが50cmである場合、r1は20cm、hは11cm程度であることが好ましい。また略円錐殻の厚みは1mm以上、5mm以下であることが好ましい。
【0042】
なお、上記各種パラメータについては特に記載のない限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定される。
【実施例】
【0043】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(1)円周方向拡散角度
1センチメートル角の試料を切り出し、円周方向の拡散角度をフォトン・インク(photon Inc.)製のビームプロファイラ(NanoScan)を用い、JDS Uniphase社のヘリウムネオン(He−Ne)レーザー1107Pを拡散体の表面凹凸構造を有する面から照射して測定した。拡散角度は、レーザーを試料表面の法線方向から照射し、拡散シートの表面凹凸構造を有する表層に入射した光の出射角度に対する透過光強度の分布を測定し、出射光強度の最大値の半分以上の値となる拡散角度の範囲(半値幅)を求めることによって測定した。
【0045】
(2)母線方向拡散角度
(1)と同様の試料に対し、母線方向の拡散角度を日本電色工業株式会社製の変角光度計(GC−5000L)を用いて測定した以外は、(1)と同様にして母線方向拡散角度を測定した。
【0046】
(3)平均ピッチ
1センチメートル角の試料を切り出し、キーエンス社製の超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK−9500)を用い、10倍の対物レンズを使用して観察して図4に示したような、表面凹凸構造のレーザー顕微鏡画像を得た。その画像を解析することにより、円周方向の平均ピッチ及び母線方向の平均ピッチを算出した。
【0047】
[実施例]
実施例に係る光拡散体1は、以下のように製造した。まず、特許第3413519号公報に記載のホログラフ拡散体を通して拡散された干渉光で線状のスペックルパターンを形成した。次に、外周面に感光性媒体を塗布した円錐形状のアクリル樹脂製基材Aの頂点から底面に下ろした垂線に直交する方向から、形成した線状のスペックルパターンを照射した。なお、線状のスペックルパターンの長手方向が、円錐台形状の基材Aの円周方向に沿うよう、線状のスペックルパターンを形成した。さらに、線状のスペックルパターンを照射しながら、円錐台形状の基材Aを頂点から底面に下ろした垂線を回転軸として回転させることで、円錐台形状の基材Aの一部又は全体を線状のスペックルパターンに露光させた。その後、基材Aの感光性媒体を現像することによって、母線方向と、円周方向と、で形状が異方的であり、非周期的な表面凹凸構造を外周面に有する円錐台形状マスタAを作製した。
【0048】
このマスタAは、スペックルパターンの寸法、形状及び方向を調節することにより、母線方向に拡散角度の分布を有した。この凹凸構造の形成された円錐台形状マスタAの外周面を覆うように円錐台殻形状のエポキシ樹脂製透明基材Bを設置し、円錐台形状マスタAと、該透明基材Bと、の間を紫外線硬化樹脂で充填し、紫外線照射により硬化させた後、円錐台形状マスタAを剥離することで、母線方向と、円周方向と、で形状が異方的であり、非周期的な表面凹凸構造を内周面に有する円錐台殻形状マスタBを作成した。
【0049】
この内周面に表面凹凸構造を有するマスタBの内側に円錐台殻形状のアクリル樹脂製透明基材Cを設置し、円錐台殻形状マスタBと、該透明基材Cと、の間を紫外線硬化樹脂で充填し、硬化させた後、円錐台殻形状マスタBを剥離することで、円錐台殻形状を有する光拡散体1を得た。この光拡散体1は大径の底面の直径が200mm、頂点側の小径の上面の直径が20mm、高さ110mmの略円錐台殻形状を有していた。得られた光拡散体1について、頂部(円錐台殻形状の大径の底面から高さ80mmの位置)及び底部(円錐台殻形状の大径の底面から高さ10mmの位置)についての各種物性を評価した。なお、必要に応じて、マスタA及び/又はマスタBの表面を離型剤で処理してもよい。結果を表1及び表2に示す。
【0050】
ここで、20台の映像投影装置と、得られた光拡散体1と、を有する図1に示す立体映像システムを構築して画像を投影したところ、クロストークのない立体映像が観察され、またモアレは観察されなかった。
【表1】

【表2】

【0051】
[比較例]
円錐殻形状を有するアクリル基材に、直径約100マイクロメートルの透明なナイロン糸を密にまきつけ、比較例に係る略円錐殻の光拡散体を作製した。比較例に係る光拡散体は、円柱状の突起が約100マイクロメートル間隔で周期的に並んだ表面凹凸構造を有していた。比較例に係る光拡散体を用いて、図1に示すような立体映像システムを構築して画像を投影したところ、モアレが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、立体映像を表示するスクリーンとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1,9,12 光拡散体
2 映像投影装置
3 テーブル
4,5 表面凸部
6,10 円錐殻形状マスタ
7,11 基材
8 紫外線硬化樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有し、内周面と、外周面と、を有する略円錐殻形状の光拡散体であって、前記内周面又は前記外周面の少なくとも一方の表面に、非周期的な表面凹凸部を有する光拡散体。
【請求項2】
前記表面凹凸部の少なくとも一部が独立した島部であると共に、前記略円錐殻形状の円周方向に沿った前記島部のピッチが、当該島部の輪郭の重心を起点とした前記円周方向の周長よりも短い、請求項1に記載の光拡散体。
【請求項3】
前記円周方向に沿った前記島部のピッチが、前記略円錐殻形状の母線方向に沿った前記島部のピッチよりも長い、請求項2に記載の光拡散体。
【請求項4】
複数の前記島部の輪郭がなす面積の総和が前記凹凸部全体の配置面積に占める割合が、50%以上である、請求項2又は3に記載の光拡散体。
【請求項5】
前記円周方向に沿った前記島部の平均ピッチが、100μm以上、20mm以下である請求項2〜4のいずれか1項に記載の光拡散体。
【請求項6】
前記母線方向に沿った前記島部の平均ピッチが、1μm以上、50μm以下である請求項2〜5のいずれか1項に記載の光拡散体。
【請求項7】
母線方向の拡散角度が10度以上100度以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の光拡散体。
【請求項8】
円周方向の拡散角度が1度以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の光拡散体。
【請求項9】
母線方向に拡散角度の分布がある請求項1〜8のいずれか1項に記載の光拡散体。
【請求項10】
略円錐殻形状の基材層と、前記基材層上に設けられた前記表面凹凸部を有する表層と、を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の光拡散体。
【請求項11】
少なくとも一部が着色された、請求項1〜10のいずれか1項に記載の光拡散体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の光拡散体と、少なくとも2台の映像投影装置とを有する立体映像システム。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の光拡散体の製造方法であって、
非周期的な表面凹凸構造を有する型に樹脂を充填して成形体を作製する工程と、
前記成形体を前記型から脱離する工程と、
を有する光拡散体の製造方法。
【請求項14】
前記非周期的な表面凹凸構造を有する型と、略円錐体と、の間に紫外線硬化樹脂を充填し、紫外線照射により前記紫外線硬化樹脂を硬化させて前記成形体を作製する、請求項13に記載の光拡散体の製造方法。
【請求項15】
さらに、外周面に感光性媒体を塗布した円錐形状のマスタを回転させながら線状のスペックルパターンに露光させることで、前記非周期的な表面凹凸構造を有する型を製造する工程を有する請求項13又は14に記載の光拡散体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−173688(P2012−173688A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38163(P2011−38163)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】