説明

光線路特性測定システム及び光線路特性測定方法

【課題】本発明は、波長フィルタを用いることなく、背景光のある条件下でOTDR測定を正常に行うことを目的とする。
【解決手段】本発明は、PONと、波長フィルタ94_1〜94_N、95と、OTDR101と、を備え、OTDR101が、波長フィルタ94_1〜94_N、95の反射波長の光をランダム符号で変調した試験光を光カプラ92に向けて入射し、試験光が波長フィルタ94_1〜94_N、95又は光線路91、93_1〜93_Nで反射又は散乱された戻り光を、波長フィルタを介さずに受光してランダム符号との相関処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OTDR(Optical Time−Domain Reflectometer)を用いた光線路特性測定システム及び光線路特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光アクセスネットワークの現場では、多種多様な方式が用いられており、代表的なものにはPON(Passive Optical Network)やCATVの光アクセスネットワークがある。特にPONを採用した光アクセスネットワークでは、OLT(Optical Line Terminal)とONU(Optical Network Unit)とで1対N(Nは正数)の構成を採っており、あるユーザの光ファイバ線路に不具合が発生した場合であっても他の正常なユーザの通信を阻害するわけにはいかないため、OLT側からの信号を停止することはできない。
【0003】
OLT側からの信号光が光線路中に存在している状況でOTDR試験を行うケースがある。こうしたケースでは、OLT側からの信号光が背景光となってOTDR試験に影響を及ぼすため、OTDR内部に、信号光をカットしかつOTDR信号を透過する特性をもった波長フィルタを搭載し、OTDR測定を行う。
【0004】
一方で、OTDR測定を行うための装置が提案されている(例えば、特許文献1乃至3参照。)。特許文献1のOTDRは、相関符号で変調された試験光を被測定光ファイバに入射し、後方散乱光である戻り光を受光する。このときに、試験光のパルス幅を被測定光ファイバの伝送路中の光増幅器の過渡応答の利得飽和時間より短くすることによって、信号光の伝送特性が劣化することを防ぐ。
特許文献2のOTDRは、擬似ランダム符号で変調した試験光を被測定光ファイバに入射し、その後方散乱光である戻り光を受光する。
特許文献3のOTDRは、2種のゴーレー符号を用いて変調した試験光を被測定光ファイバに入射し、その後方散乱光である戻り光を受光する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−32420号公報
【特許文献2】特開平9−26376号公報
【特許文献3】特開平4−54429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光アクセスネットワークでは多数の測定機会があるため、OTDRを多く配備する必要があり、OTDRに求められる低コスト化の要求は大きくなっている。しかし、OTDR内部に搭載されている波長フィルタは、それ自体が高額である上に搭載時のコストもかかるため、OTDRのコスト低下を妨げる問題があった。さらに、波長フィルタを搭載すると、OTDRの小型化が困難になる問題があった。
【0007】
一方で、OTDRの解像度を高めるためには微弱な信号を検出する必要があるため、高い増幅率で増幅しなければならない。このため、波長フィルタを用いずに増幅すると、背景光によって機器が飽和してしまい、正常に測定することが困難になる問題があった。
【0008】
特許文献1では、試験光のパワーを低くしても信号対雑音比が劣化しないように相関符号で変調する旨の記載はあるが、波長の異なる戻り光と信号光とは波長フィルタを用いて分離している。
特許文献2では、雑音レベルの内からでも戻り光を見出すためにランダム符号で変調する旨の記載はあるが、インサービス時のOTDR測定や戻り光と信号光との分離については考慮されていない。
特許文献3では、ダイナミックレンジを改良するためにゴーレー符号を用いて変調する旨の記載はあるが、インサービス時のOTDR測定や戻り光と信号光との分離については考慮されていない。
【0009】
これら特許文献1乃至3に記載されているように、従来は、波長の異なる戻り光と信号光とを分離する手段としては波長フィルタが用いられており、波長の異なる戻り光と信号光とを波長フィルタを用いずに分離する手段は提案されていない。このため、仮に特許文献1乃至3に記載された発明を組み合わせたとしても、波長フィルタを搭載することによって戻り光と信号光とを分離する発明しか構成することはできず、波長フィルタを搭載することによる問題を解決することはできなかった。
【0010】
そこで、本発明は、波長フィルタを用いることなく、背景光のある条件下でOTDR測定を正常に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明の光線路特性測定システムは、1本の光線路(91)が光カプラ(92)によって複数の光線路(93_1〜93_N)に分岐されたPONと、前記1本の光線路及び前記複数の光線路の端部に配置され、前記PONで伝送される信号光を通過させて前記信号光以外の光を反射する波長フィルタ(94_1〜94_N、95)と、前記1本の光線路及び前記複数の光線路の端部のいずれかに配置され、前記波長フィルタの反射波長の光をランダム符号で変調した試験光を前記光カプラに向けて入射し、前記試験光が前記波長フィルタ又は前記光線路で反射又は散乱された戻り光を、前記波長フィルタを介さずに受光して前記ランダム符号との相関処理を行うOTDR(101)と、を備える。
【0012】
本願発明の光線路特性測定システムは、ランダム符号で変調された試験光を用いるため、OTDRにおいて、波長フィルタを用いて背景光を除去することなく、戻り光の受光信号から背景光による信号を除去することができる。これにより、本願発明の光線路特性測定システムは、波長フィルタを用いることなく、背景光のある条件下でOTDR測定を正常に行うことができる。
【0013】
本願発明の光線路特性測定システムでは、前記OTDRは、前記1本の光線路の端部から前記複数の光線路の端部までの光線路を光が伝搬するのに要する時間以上の所定時間にわたる符号長を有するランダム符号で前記試験光を変調してもよい。
本発明により、戻り光の波形を、あるオフセットレベルを中心に周期的な波形にすることができる。これにより、戻り光を電気信号に変換後、AC結合することによって、背景光を除去することができる。
【0014】
本願発明の光線路特性測定方法は、1本の光線路(91)が光カプラ(92)によって複数の光線路(93_1〜93_N)に分岐されたPONの前記1本の光線路及び前記複数の光線路の端部のいずれかから前記光カプラに向けて、前記1本の光線路及び前記複数の光線路の端部に配置された波長フィルタ(94_1〜94_N、95)の反射波長の光をランダム符号で変調した試験光を入射する試験光入射手順と、前記試験光が前記波長フィルタ又は前記光線路で反射又は散乱された戻り光を、前記波長フィルタを介さずに受光して電気信号に変換する受光手順と、前記電気信号から前記ランダム符号による交流成分を抽出する周期信号抽出手順と、前記ランダム符号と前記周期信号との相関処理を行う相関処理手順と、を順に有する。
【0015】
本願発明の光線路特性測定方法は、試験光入射手順においてランダム符号で変調された試験光を用いるため、受光手順において波長フィルタを用いて背景光を除去することなく、周期信号抽出手順及び相関処理手順において戻り光の受光信号から背景光による信号を除去することができる。これにより、本願発明の光線路特性測定方法は、波長フィルタを用いることなく、背景光のある条件下でOTDR測定を正常に行うことができる。
【0016】
本願発明の光線路特性測定方法では、前記試験光入射手順において、前記1本の光線路の端部から前記複数の光線路の端部までの光線路を光が伝搬するのに要する時間以上の所定時間にわたる符号長を有するランダム符号で前記試験光を変調してもよい。
本発明により、戻り光の波形を、あるオフセットレベルを中心に周期的な波形にすることができる。これにより、戻り光を電気信号に変換後、AC結合することによって、背景光を除去することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、本願発明の光線路特性測定システム及び光線路特性測定方法は、波長フィルタを用いることなく、背景光のある条件下でOTDR測定を正常に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る光線路特性測定システムの一例を示す。
【図2】本実施形態に係るOTDRの一例を示す。
【図3】ランダム符号で変調された試験光の一例を示す。
【図4】被測定光ファイバの特性の一例を示す。
【図5】受光器16から出力される電気信号の一例を示す。
【図6】相関器20からの出力波形の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施の例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0020】
図1に、本実施形態に係る光線路特性測定システムの一例を示す。本実施形態に係る光線路特性測定システムは、PONと、波長フィルタ94_1〜94_Nと、波長フィルタ95と、OTDR101と、を備える。PONは、1本の光線路91が光カプラ92によって複数の光線路93_1〜93_Nに分岐されている。これにより、OLT96と複数のONU97_1〜97_Nとの間で通信を行う。波長フィルタ94_1〜94_N及び波長フィルタ95は、光線路91及び光線路93_1〜93_Nの端部に配置され、PONで伝送される信号光Sを通過させて信号光S以外の光を反射する。
【0021】
OTDR101は、光線路91及び光線路93_1〜93_Nの端部のいずれかに配置され、波長フィルタ94_1〜94_N、95の反射波長の光をランダム符号で変調した試験光を光カプラ92に向けて入射する。そして、試験光が波長フィルタ94_1〜94_N、95又は光線路91、93_1〜93_Nで反射又は散乱された戻り光を、波長フィルタを介さずに受光してランダム符号との相関処理を行う。例えば、OTDR101は、光線路93_3に接続される。
【0022】
図2に、本実施形態に係るOTDRの一例を示す。OTDRは、ランダム符号発生器11と、電流制御器12と、光源13と、光カプラ14と、ポート15と、受光器16と、コンデンサ17と、増幅器18と、A/Dコンバータ19と、相関器20と、を備える。本実施形態では、ポート15が光線路93_3に接続され、波長フィルタ95、光カプラ92、光線路93_3及び光線路91を含む被測定光ファイバの光ファイバ特性を測定する場合について説明する。
【0023】
本実施形態に係る光線路特性測定方法は、試験光入射手順と、受光手順と、周期信号抽出手順と、相関処理手順と、を順に有する。
【0024】
試験光入射手順では、光線路93_3のONU97_3側の端部から光カプラ92に向けて、試験光を入射する。具体的には、ランダム符号発生器11は、ランダム符号を発生する。ランダム符号は、例えばM系列符号である。電流制御器12は、ランダム符号発生器11からのランダム符号に合わせて光源13へ供給する電流を変化させる。光源13は、例えばLD(Laser Diode)であり、波長フィルタ94_1〜94_N、95の反射波長である1.65μmの光を発生させる。また光源13は、電流制御器12からの電流に応じた出力強度で光を発生させて出射する。これにより、ランダム符号で変調した試験光を光源13から出射させることができる。光カプラ14は、試験光をポート15に導く。これにより、試験光が光線路93_3に入射される。図3に、ランダム符号で変調された試験光の一例を示す。
【0025】
ここで、本実施形態では、光源13は、光線路91のOLT96側の端部から光線路93_3のONU97_3側の端部までの光線路を光が伝搬するのに要する時間以上の所定時間にわたり連続して試験光を出力する。この光線路91のOLT96側の端部は波長フィルタ95であってもよく、光線路93_3のONU97_3側の端部は波長フィルタ94_3であってもよい。
【0026】
この場合、ランダム符号発生器11は、当該所定時間にわたる符号長を有するランダム符号を有する。例えば、ランダム符号の符号長Nは、パルス幅Pwと被測定光ファイバ長Lfiberと光ファイバ中の光の伝搬速度vを用いて次式で表される。
N>(2/v)・(Lfiber/Pw)
ただし、Nは2−1を満たす。
このため、本実施形態において被測定光ファイバ長Lfiberが500mであり、ランダム符号の1bitのパルス幅Pwが10nsecである場合、符号長Nは511bit以上となる。
【0027】
また、本実施形態では、ランダム符号発生器11が当該所定時間にわたる符号長を有するランダム符号を4回連続して発生させ、光源13が当該所定時間の4倍の時間にわたり連続して試験光を出力する。
【0028】
受光手順では、試験光が波長フィルタ又は光線路で反射又は散乱された戻り光を、波長フィルタを介さずに受光して電気信号に変換する。具体的には、試験光は光カプラ92を通過して光線路91に入射され、波長フィルタ95で反射される。ポート15には、波長フィルタ95、光カプラ92、光線路93_3及び光線路91を含む被測定光ファイバで反射又は散乱された戻り光が入射される。光カプラ14は、戻り光を受光器16に導く。受光器16は、戻り光を受光し、電気信号に変換する。
【0029】
被測定光ファイバからは、背景光及び出力したランダム符号に応じた後方散乱光が受光器16で受光される。ランダム符号により変調された後方散乱光はあるレベルを中心に変調された信号となる。一方背景光は通信信号により変調されているが、ビットレートは光源13の変調周波数に比べて非常に高いため、受光器16で電気信号に変換する際にはOTDRの受信帯域に制限されることとなる。このため、被測定光ファイバが図4で示すような光ファイバ特性を有する場合、受光器16から出力される電気信号は図5のようになる。
【0030】
周期信号抽出手順では、電気信号からランダム符号による交流成分を抽出する。具体的には、コンデンサ17を用いて受光器16からの電気信号をAC結合させ、背景光となる信号光Sを除去する。増幅器18は、コンデンサ17からのアナログ信号を増幅する。A/Dコンバータ19は、増幅器18からのアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0031】
相関処理手順では、ランダム符号と周期信号との相関処理を行う。具体的には、相関器20は、増幅器18からのデジタル信号とランダム符号発生器11からのランダム符号との相関をとる。
【0032】
周期信号抽出手順において、低域の背景光はコンデンサ17によりカットされることとなる。一部の変調された背景光は、ランダム符号により変調された後方散乱光と共にA/Dコンバータ19によりデジタル信号に変換される。しかし、相関処理手順を行うため、デジタル信号とランダム符号発生器11により発生されたランダム符号との相関を取得することにより、ランダム符号により変調された後方散乱光のみを取り出すことができる。この際に、一部の変調された背景光はランダム符号と相関をもたないため、相関を持つ後方散乱光特性のみが抽出されることとなる。このため、背景光が入った環境下であっても、背景光の影響なくOTDR測定を行うことが可能となる。
【0033】
図6に、相関器20からの出力波形の一例を示す。ランダム符号を4回連続して発生させたうちの、最初と最後を除く2回において、図4に示す被測定光ファイバの特性が再現できている。このように、ランダム符号を3回以上連続して発生させた試験光を用いることにより、強い背景光が存在した場合であっても、AC結合した後に信号増幅を行うため、波長フィルタを用いずにインサービス時におけるOTDR試験を行うことが可能となる。
【0034】
なお、本実施形態では、ONU側からOLT側に向けて試験光を入射する例について説明したが、OLT側からONU側に試験光を入射してもよい。この場合、光カプラ92と波長フィルタ95の間にOTDR101を挿入する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
11:ランダム符号発生器
12:電流制御器
13:光源
14:光カプラ
15:ポート
16:受光器
17:コンデンサ
18:増幅器
19:A/Dコンバータ
20:相関器
91、93_1〜93_N:光線路
92:光カプラ
94_1〜94_N、95:波長フィルタ
101:OTDR
96:OLT
97_1〜97_N:ONU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の光線路(91)が光カプラ(92)によって複数の光線路(93_1〜93_N)に分岐されたPON(Passive Optical Network)と、
前記1本の光線路及び前記複数の光線路の端部に配置され、前記PONで伝送される信号光を通過させて前記信号光以外の光を反射する波長フィルタ(94_1〜94_N、95)と、
前記1本の光線路及び前記複数の光線路の端部のいずれかに配置され、前記波長フィルタの反射波長の光をランダム符号で変調した試験光を前記光カプラに向けて入射し、前記試験光が前記波長フィルタ又は前記光線路で反射又は散乱された戻り光を、前記波長フィルタを介さずに受光して前記ランダム符号との相関処理を行うOTDR(Optical Time−Domain Reflectometer)(101)と、
を備える光線路特性測定システム。
【請求項2】
前記OTDRは、
前記1本の光線路の端部から前記複数の光線路の端部までの光線路を光が伝搬するのに要する時間以上の所定時間にわたる符号長を有するランダム符号で前記試験光を変調する
ことを特徴とする請求項1に記載の光線路特性測定システム。
【請求項3】
1本の光線路(91)が光カプラ(92)によって複数の光線路(93_1〜93_N)に分岐されたPONの前記1本の光線路及び前記複数の光線路の端部のいずれかから前記光カプラに向けて、前記1本の光線路及び前記複数の光線路の端部に配置された波長フィルタ(94_1〜94_N、95)の反射波長の光をランダム符号で変調した試験光を入射する試験光入射手順と、
前記試験光が前記波長フィルタ又は前記光線路で反射又は散乱された戻り光を、前記波長フィルタを介さずに受光して電気信号に変換する受光手順と、
前記電気信号から前記ランダム符号による交流成分を抽出する周期信号抽出手順と、
前記ランダム符号と前記周期信号との相関処理を行う相関処理手順と、
を順に有する光線路特性測定方法。
【請求項4】
前記試験光入射手順において、
前記1本の光線路の端部から前記複数の光線路の端部までの光線路を光が伝搬するのに要する時間以上の所定時間にわたる符号長を有するランダム符号で前記試験光を変調する
ことを特徴とする請求項3に記載の光線路特性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−21664(P2013−21664A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155962(P2011−155962)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】