説明

光触媒体及びそれを用いた水の浄化方法

【構成】軽石、スコリアなどの無機多孔質粒子の表面及び該無機多孔質粒子が有する空孔壁に光半導体粒子を付着して成る光触媒体。
【効果】長期間に渡って安定した光触媒機能を有し、被処理水系からの分離操作が極めて容易であるため種々の光触媒反応に利用できる。特に、水の浄化に有用であり、水に含まれる藻類、菌類、細菌類などの有害生物の死滅、有害な物質の分解、さらには脱臭、脱色を簡便、且つ容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光触媒体及びその光触媒機能を利用した水の浄化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】生活排水、灌漑排水または産業排水には、窒素・リンなどの物質を多量に含むものがあり、これらは湖沼、河川、海湾における富栄養化現象を起こしている。富栄養化によってプランクトン、ピコプランクトン、アオコ、アカコなどの藻類が増殖すると、プランクトンの一種であるホルミディウムあるいはオシラトリアが作る臭気物質の2−メチルイソボルネオールなどにより水がかび臭くなり、生活環境、特に生活用水に悪影響を及ぼしたり、あるいは湖沼や河川の水を緑色、褐色に着色するいわゆる水の華や淡水赤潮を形成したり、また、海水を赤褐色、桃色、褐色に着色するいわゆる赤潮を形成し、景観を損ねたり、水中の酸素を消化して酸素不足の状態を引き起こしたり、発生したプランクトンが魚のえらにつまったりして水産に多大な被害を与える。さらに、増殖した藻類は、浄水場、ダムなどの濾過池や濾過用スクリーンをつまらせるなど浄水処理に支障をきたしたりする。また、生活排水、灌漑排水または産業排水には、カビなどの真菌類や放線菌などの菌類、大腸菌などの細菌類が含まれ、これらは湖沼、河川、海湾などで増殖する場合がある。菌類には、チフスや赤痢菌のような伝染病菌、腐食を促進する硫黄細菌、鉄細菌、硫酸塩還元菌、スライムを作る細菌類や真菌類、水に臭気をつける放線菌など有害なものも少なくなく、種々の被害が発生している。特に、魚類、貝類、カニ、エビ、カエルなどの水棲動物や海草、海藻などの水棲植物を養殖した池や水槽、魚類などを飼育した観賞用の池や水槽などの飼養域では、さらに、排泄物、餌の腐敗物などによっても、水が汚れ、悪臭が発散したり、排泄物、餌の腐敗物などから菌類や細菌類が発生する被害が頻繁に起こっている。さらに、生活排水、灌漑排水または産業排水には、上記以外に洗剤、油などの酸素要求物質、半導体製造工場などの排水に含まれる有機ハロゲン化合物や農薬などの有害な物質が含まれる場合があり、湖沼、河川、海湾を汚染し、生物に被害を及ぼす場合がある。
【0003】増殖した藻類、菌類、細菌類を殺藻あるいは殺菌するには、たとえば、塩素、オゾン、硫酸銅、紫外線などによって処理する方法が採用されている。また、藻類、菌類、細菌類により発生した臭気物質や着色物質を取り除くには、たとえば、活性炭などに吸着させる方法が採用されている。特に、汚染の進んだ湖沼、河川から取水する浄水場では、多量の活性炭を投与して水質の向上につとめている。一方、酸化チタンなどの光半導体粒子にそのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光を照射すると光励起により伝導帯に電子を、価電子帯に正孔を生じるが、この光励起して生じた電子の持つ強い還元力や正孔の持つ強い酸化力を利用して殺菌あるいは脱臭する方法が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前記の塩素やオゾンなどで処理する方法では藻類、菌類、細菌類を減少させることはできるものの、その効果は充分でなく、また、処理時間が長くかかったり、使用した薬剤やその薬剤から生じた化合物が被処理水中に残留するなどの問題がある。活性炭吸着法では、臭気や着色を減少できるものの、藻類、菌類、細菌類を死滅させるものではない。前記の光半導体粒子を用いた方法は、通常、照射する光の利用効率を良くし、高い光触媒機能を得るために、超微粒子の光半導体を個々に分散させた状態で処理を行っている。このため、光半導体粒子を被処理水系から分離する必要があるが、この分離操作が極めて困難なこともあり、未だ実用化されていない。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、光半導体粒子の持つ光触媒機能に着目し、被処理水に含まれる藻類、菌類、細菌類などの有害生物を死滅させ、有害な物質を分解して被処理水を浄化する方法を種々検討した結果、(1)光触媒として用いる光半導体粒子の分離操作を容易にするために、種々の担体表面に光半導体粒子を付着させた物質を用いたところ、物質同士の接触や被処理水との接触などにより物質の摩耗や破壊が起こり、物質表面から光半導体粒子が剥離したり、光半導体粒子が付着していない面が現れたりして、前記物質の光触媒機能が短期間に低下してしまうこと、一方、前記の担体として無機多孔質粒子を用いると、この無機多孔質粒子が有する空孔内に存在する光半導体粒子によって、その光触媒機能が長期間に渡って維持できること、(2)このような光触媒体を被処理水と接触しうる箇所に配置し、次いで、該光触媒体に紫外線を含有した光を照射すると、殺藻、殺菌、脱臭、脱色あるいは有害な物質の分解が簡便、且つ容易に行うことができ、被処理水を浄化することができること、(3)しかも、無機多孔質粒子には、光半導体粒子と水質浄化機能を有する微生物とを付着することができ、該光半導体粒子の光触媒機能と微生物の水質浄化機能によって被処理水を短時間に浄化することができることなどを見出した。これらの知見に基づき、さらに、研究して本発明を完成した。
【0006】すなわち、本発明は長期間に渡って安定した光触媒機能を有する光触媒体を提供することにある。また、本発明の光触媒体を用いて湖沼や河川の水、海水のほか、貯蔵タンクなどの貯水器の水、太陽エネルギーなどを利用した給水・給湯設備や冷暖房設備内の水、風呂水、プール用水、上水、飲料水などの生活用水あるいは生活用水に利用される水、水棲生物の飼養域の水、さらには、各家庭から排出される生活排水やゴルフ場から排出される産業排水などの排水などの被処理水の浄化に最適な方法を提供することにある。
【0007】本発明は、無機多孔質粒子の表面の少なくとも一部及び該無機多孔質粒子が有する空孔壁の少なくとも一部に光半導体粒子を付着して成る光触媒体である。特に、前記の無機多孔質粒子が有する空孔を光半導体粒子で充填して成る光触媒体が好ましい。本発明において、無機多孔質粒子とは、その粒子内に空孔を有する無機粒子を言い、天然鉱物あるいは人工に作られたのものを用いることができる。天然鉱物としては、たとえば、安山岩質、石英安山岩質、流紋岩質、頁岩質、砂岩質、レキ岩質などの材質の多孔質の岩石、軽石凝灰岩、泥岩、砂利、砂、シルト、粘土や火山灰、多孔質岩石などを含有する物質、スコリア、スコリア凝灰岩、スコリアを含有する物質、焼成パーライト、焼成黒曜石、焼成軽石、バーミュキュライト、ゼオライト、雲母、サンゴ砂、シーシェル、麦飯石(主成分:SiO2 約70%、Al2 3 約14%、Fe2 3 約2〜3%)などを用いることができる。また、人工の無機多孔質粒子としては、人工軽石、人工砂利、人工砂、メサライト(主成分:SiO2 約70%、Al2 3 約15%、Fe2 3約5%、日本メサライト工業社製)、クリスバール(主成分:SiO2 約86〜87%、Al2 3 約5〜7%、Fe2 3 約1〜3%)などの人工骨材、多孔質ガラス、中空ガラス、多孔質ブロック、陶磁器などを用いることができる。さらに、合成ゼオライト、発泡性シリカなどのセラミックス、活性炭、木炭、炭、コークス、フライアッシュ、高炉スラッグ、発砲コンクリート(ALC)、軽量コンクリートなどの無機多孔質粒子をそのまま或いは造粒・成形して用いることもできる。本発明においては、空孔の容積が大きく廉価であることから天然鉱物が好ましい。
【0008】光触媒機能を有する光半導体粒子は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄、チタン酸ストロンチウム、硫化モリブデン、硫化カドミウムなどの公知の光半導体を、単一または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、高い光触媒機能を有し、化学的に安定であり、かつ、無害である酸化チタンが好ましい。本発明において、酸化チタンとは、酸化チタンのほか、含水酸化チタン、水和酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸、水酸化チタンなどと一般に呼ばれているものを含み、その結晶型は問わない。前記の酸化チタンは種々の公知の方法で得ることができる。たとえば、■硫酸チタニル、塩化チタン、有機チタン化合物などのチタン化合物を、必要に応じて核形成用種子の存在下に、加水分解する方法、■必要に応じて核形成用種子の存在下に、硫酸チタニル、塩化チタン、有機チタン化合物などのチタン化合物にアルカリを添加し、中和する方法、■塩化チタン、有機チタン化合物などを気相酸化する方法、■前記■、■の方法で得られた酸化チタンを焼成する方法が挙げられる。特に、前記■、■の方法で得られた酸化チタンは光触媒機能が高いため好ましい。光半導体粒子の光触媒機能を向上させるために、該光半導体粒子の表面に白金、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの金属、酸化ルテニウム、酸化ニッケルなどの金属酸化物を被覆しても良い。
【0009】また、本発明は、無機多孔質粒子の表面及び該無機多孔質粒子が有する空孔壁に光半導体粒子と水質浄化機能を有する微生物とを付着してなる光触媒体である。水質浄化機能を有する微生物としては、亜硝酸菌、硝酸菌及び硫黄細菌からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。水質浄化機能を有する微生物を付着するには、該微生物を培養した溶液に無機多孔質粒子または光半導体粒子を付着した無機多孔質粒子を浸漬したり、或いは、該微生物を培養した溶液を無機多孔質粒子または光半導体粒子を付着した無機多孔質粒子に吹き付けたりする方法を用いることができる。水質浄化機能を有する微生物の付着量は適宜設定できる。
【0010】本発明の光触媒体は、無機多孔質粒子を適宜選択したり、光半導体粒子の付着量を適宜選定して、得られる光触媒体の見かけ比重を任意に調整することができる。光触媒体の見かけ比重が1より大きいと、光触媒体が水底に沈み固定化され、光触媒体の流出が少なくなることから好ましい。また、見かけ比重が1以下であると、光触媒体の流出を防止する手段を講ずる必要があるものの、光触媒体が被処理水の中を浮遊したり、浮上したりして、藻類などの処理物との接触が一層良くなり、光触媒機能を向上させることができる。本発明の光触媒体は、その平均粒径を0.1mm以上、特に0.1〜100mm、さらに1〜100mmとすることにより、光触媒体自身の流出が少なく、また、取扱易いことから好ましい。光半導体粒子の付着量は適宜設定できるが、無機多孔質粒子の重量に対して0.5〜70重量%程度が適当である。
【0011】本発明の光触媒体を得るには、前記の光半導体粒子を、たとえば、水、アルコール、トルエンなどの溶媒に懸濁させる。必要に応じて種々の分散剤や結着剤を加えても良い。得られた懸濁液に無機多孔質粒子を入れ、必要に応じて脱気処理を行い、含浸させる方法、ディップコーティングする方法などを用いて無機多孔質粒子に塗布し、あるいは懸濁液を無機多孔質粒子に吹き付け、次いで、乾燥して無機多孔質粒子の表面の少なくとも一部及び該無機多孔質粒子が有する空孔壁の少なくとも一部に光半導体粒子を付着し、さらには該空孔内に光半導体粒子を充填する。付着した光半導体粒子は必要に応じて焼成しても良く、この焼成により、光半導体粒子を無機多孔質粒子に強固に接着させることができる。前記の焼成は100℃以上、好ましくは200〜800℃、特に好ましくは300〜800℃の温度で焼成するのが適当である。特に、前記■、■の方法で得られた酸化チタンを溶媒に高度に分散させて酸化チタンゾルとし、この酸化チタンゾルを塗布あるいは吹き付けするのが好ましい。また、光半導体となりうる化合物を、無機多孔質粒子の存在下に、加水分解あるいは中和して、光半導体粒子を無機多孔質粒子に付着させ、次いで、乾燥あるいは焼成することもできる。さらには、光半導体粒子と無機多孔質粒子とを混合機などで混合して、次いで、得られた混合物を乾燥あるいは焼成しても良い。このようにして本発明の光触媒体が得られる。
【0012】本発明の光触媒体を用いて被処理水の浄化を行うには、湖沼、河川、海湾、湖岸、川岸、海岸、流水路、貯水器内、濾過器内あるいは水棲生物の飼養域内などの被処理水と接触しうる箇所に、前記の光触媒体を設置したり、あるいは前記の光触媒体を被処理水に投入したりして配置する。次に、配置した光触媒体に紫外線を含有した光を照射させ、光半導体粒子の光触媒機能を利用して被処理水を浄化する。紫外線を含有した光としては、たとえば、太陽光や蛍光灯、ブラックランプ、キセノンフラッシュランプ、水銀灯などの光が挙げられる。特に、300〜400nmの近紫外線を含有した光が好ましい。本発明においては、太陽光、蛍光灯の光ででも被処理水を浄化できる。紫外線を含有した光の照射量や照射時間などは被処理水の汚染の程度などによって適宜設定できる。光触媒体に紫外線を含有した光を照射させる方法は適宜選択できるが、たとえば、水面上部から照射したり、被処理水の中に光源を設置して照射したり、水槽内の被処理水を浄化する場合、水槽の側面部から照射したりすることもできる。また、本発明の光触媒体を、被処理水と接触しうる前記の箇所に配置し、次いで、該光触媒体に紫外線を含有した光を照射すると、照射を受ける箇所では、該光触媒体の光触媒機能によって該被処理水を浄化でき、しかも、紫外線を含有した光の照射を受けない同じ反応系内の箇所では、反応系内で発生した水質浄化機能を有する微生物が無機多孔質粒子に付着したり、予め水質浄化機能を有する微生物を光触媒体に付着させることによって、該微生物による浄化を行うことができる。
【0013】
【実施例】以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定させるものではない。
実施例1硫酸チタニルを加熱加水分解して得られた酸性チタニアゾル(石原産業社製、CS−C)をTiO2 基準で40g/lに水で希釈した。次に、この希釈液に園芸用軽石のひゅうが土(商品名、ひゅうが土販売株式会社製、平均粒子径15mm)を2時間含浸させた後、アンモニア水を添加してpH7に中和して、ひゅうが土の表面及びひゅうが土の空孔壁に酸化チタンを付着させた。引き続き、酸化チタンを付着させたひゅうが土を濾別分離し、水洗し、乾燥した後、大気中600℃の温度で2時間焼成した。次いで、焼成したひゅうが土を水洗し、乾燥して光触媒体A(見かけ比重1.0)を得た。この光触媒体Aの酸化チタンの付着量はひゅうが土100重量部に対して2.5重量部であった。
【0014】比較例実施例1において、酸化チタンを付着させていないひゅうが土を比較試料として用いた。
【0015】実施例1の光触媒体A2kg及び比較例1の試料2kgをそれぞれ水槽の底に敷き詰め、被処理水50リットルを入れて、水槽の外側から20W蛍光灯2本で光照射しながら金魚(和金)20匹を飼育した。なお、この水槽には0.5gの餌を1日2回投与した。実施例1及び比較例1の水槽から3週間後の被処理水を採取して、波長600nmにおける透過率を測定したところ、実施例1の被処理水は透過率95.0%であるのに対して、比較例1の被処理水の透過率は28.2%であり、実施例1において水の汚れを防止する顕著な効果が認められた。また比較例1の水槽中には1週間後に植物プランクトンの発生が認められたが、実施例1の水槽中には3週間後までは植物プランクトンの発生はほとんど認められなかった。その後、さらに2週間を経過した後、光触媒体Aの表面の一部に緑色の植物プランクトンの発生が認められたが、2〜3日経過すると緑色の植物プランクトンが黒化した。これは酸化チタンの光触媒機能により、植物プランクトンが枯死したものであった。このことにより、酸化チタンには殺藻機能があることが確認された。また、試験開始から4週間後の被処理水中の生菌数と大腸菌群数を下記の方法で調べたところ、実施例1の被処理水には生菌数6820個/ml、大腸菌群数3750個/mlが存在していたが、比較例1の被処理水には生菌数8000個/ml、大腸菌群数4700個/mlが存在しており、光触媒体Aにより菌類、細菌類の増殖を抑制できた。なお、光触媒体Aの光触媒機能は2年間ほとんど変化しないことを確認した。
【0016】<生菌類及び大腸菌群数の測定方法>採取した水を無菌水で10倍、100倍希釈し、滅菌したシャーレ5枚に1mlずつ分注し、次いで、培地を10ml添加し、攪拌した後、37℃で1晩培養させ、翌日、コロニー数を数えた。
<使用した培地>生菌数:ブレインハートインフュージョンブイヨン(ニッスイ社製)
大腸菌群数:デゾキシコレート培地(ニッスイ社製)
【0017】実施例2硫酸チタニルを加熱加水分解して得られた、TiO2 基準で400g/lの酸性チタニアゾル(石原産業社製、CS−C)に園芸用軽石のひゅうが土(商品名、ひゅうが土販売株式会社製、平均粒子径15mm)を2日含浸させた後、ひゅうが土を濾別分離し、水洗し、乾燥して、酸化チタンをひゅうが土の表面及このひゅうが土が有する空孔壁に付着させ、さらに、酸化チタンをひゅうが土の空孔内に充填させた。引き続き、酸化チタンを付着させたひゅうが土を大気中600℃の温度で2時間焼成した。次いで、焼成したひゅうが土を水洗し、乾燥し、光触媒体B(見かけ比重1.2)を得た。この光触媒体Bの酸化チタンの付着量はひゅうが土100重量部に対して35重量部であった。
【0018】実施例2の光触媒体B300gを生活用水に利用される琵琶湖の被処理水50リットルを入れた水槽の底に敷き詰め、水槽の外側からブラックライト2本で光照射しながらカビ臭さの成分である2−メチルイソボルネオールの濃度の変化を調べた。光照射前には27pptであった2−メチルイソボルネオールの濃度は、光照射後30分間でほとんどの人間がカビ臭さを感じない10pptに低下した。なお、光触媒体Bの光触媒機能は2年間ほとんど変化しないことを確認した。なお、前記の光触媒体Bを用いて、生活排水を同様に処理したところ、生活排水に含まれていた有機物を分解して、COD値が低下した。
【0019】比較実験として、実施例2において、光触媒体Bを用いないこと以外は同様に処理して、2−メチルイソボルネオールの濃度の変化を調べた。この結果、2−メチルイソボルネオールの濃度は変化しないことがわかった。なお、生活排水を同様に処理したところ、生活排水に含まれていた有機物は分解されず、COD値は変化しなかった。
【0020】実施例3硝酸菌としてNitrosomonasとTrobarorの培養液を2リットルの滅菌水に分散させた溶液に、実施例2で製造した光触媒体B1kgを1時間浸漬した後、光触媒体Bを分離し、常温で風乾して、水質浄化機能を有する微生物と光半導体粒子とを付着した、本発明の光触媒体Cを得た。
【0021】実施例2の光触媒体B1kg、実施例3の光触媒体C1kg、比較試料として比較例1の試料1kg、比較試料として市販のナイロンウール製フィルター(比較例2)をそれぞれ、容器(W320mm×L115mm×H100mm)に充填高さ80mmに充填した。これらの容器に水を流した時の溢流水面から50mmの高さに10Wのブラックライト(1本)と、水を送液するポンプを備えた。金魚20匹を飼育した水槽(水50リットル)の上に、前記の容器を置き、この容器に水槽内の水を送液し、水を循環して、魚類に有毒なNH4 、NO2 の濃度変化を調べた。NH4 の濃度変化を表1に、NO2 の濃度変化を表2に、さらに、NO2 が酸化されて生成する硝酸(NO3 )の濃度変化を表3に示す。実施例2及び実施例3の光触媒体B、Cを用いた場合、NH4 、NO2 の濃度は低い状態で保持されることがわかった。特に、水質浄化機能を有する微生物と光半導体粒子とを付着した光触媒体Cはその効果が一層顕著であった。これは、光半導体粒子の光触媒機能によりNH4 、NO2 が毒性の低い硝酸(NO3 )に酸化されたためである。また、光触媒体Cの場合は、紫外線を含有した光が照射されるところでは光触媒体の光触媒機能により、また、紫外線を含有した光の照射を受けない同じ反応系内の箇所では、光触媒体に付着した水質浄化機能を有する微生物により、NH4 、NO2 が硝酸(NO3 )に一層早く酸化されたためである。一方、比較試料として用いた比較例1の試料や比較例2のナイロンウール製フィルターを用いた場合には、NH4 、NO2 の濃度は高くなることがわかった。なお、これらの比較試料を用いた場合でも、実験開始3〜4週間目においてNH4 の濃度が低下するのは、徐々に増殖した微生物が水を浄化するためと推察される。
【0022】
【表1】


【0023】
【表2】


【0024】
【表3】


【0025】実施例4硫酸チタニルを加熱加水分解して得られた、TiO2 基準で400g/lの酸性チタニアゾル(石原産業株式会社製、CS−N)にメサライト(商品名、日本メサライト工業社製、平均粒子径5mm)400gを1時間含浸させた後、メサライトを濾別分離し、乾燥して酸化チタンをメサライトの表面及びメサライトが有する空孔壁に付着させ、さらに酸化チタンをメサライトの空孔内に充填させた。引き続き、酸化チタンを付着させたメサライトを大気中で500℃の温度で2時間焼成した。次いで、焼成したメサライトを水洗し、乾燥して本発明の光触媒体Dを得た。この光触媒体Dの酸化チタン付着量はメサライト100重量部に対して2.0重量部であった。25gの光触媒体Dを8リットルのガラス容器に入れた後、悪臭成分であるアセトアルデヒドを70ppmとなるように添加してガラス容器を密封した。次に、光触媒体Dの表面で紫外光強度が1.6mW/cm2 となるようにブラックライトを照射し続けたところ、ガラス容器中のアセトアルデヒドの濃度は1時間後には20ppmに、2時間後には6ppmに減少し、酸化チタンの光触媒機能によりアセトアルデヒドが効率良く分解された。
【0026】
【発明の効果】本発明は、無機多孔質粒子の表面の少なくとも一部及び該無機多孔質粒子が有する空孔壁の少なくとも一部に光半導体粒子を付着して成る光触媒体であって、長期間に渡って安定した光触媒機能を有し、被処理水系からの分離操作が極めて容易であるため、種々の光触媒反応、たとえば、悪臭ガスの分解・浄化、空気の浄化、硫黄酸化物や窒素酸化物などの酸化、土壌の殺菌、水の分解反応、二酸化炭素の固定化反応などに用いることができるなど有用なものである。特に、本発明の光触媒体を被処理水と接触しうる箇所に配置し、次いで、該光触媒体に紫外線を含有した光を照射すると、光半導体粒子の光触媒機能により被処理水に含まれる藻類、菌類、細菌類などの有害生物の死滅、有害な物質の分解、さらには脱臭、脱色を簡便、且つ容易に行えるので、産業用途ばかりでなく一般家庭用の水浄化方法として極めて有用なものである。さらに、魚類などの飼養域で発生するオグサレ病などの病原菌を殺菌でき、魚類などの死滅を防ぐことができる。また、本発明は、無機多孔質粒子の表面及び該無機多孔質粒子が有する空孔壁に光半導体粒子と水質浄化機能を有する微生物とを付着して成る光触媒体であって、紫外線を含有した光の照射を受ける箇所では、該光触媒体の光触媒機能によって被処理水を浄化でき、しかも、紫外線を含有した光の照射を受けない同じ反応系内の箇所では、光触媒体に付着した水質浄化機能を有する微生物によって、被処理水を浄化することができるため、被処理水の浄化を短時間で行うことができる。また、本発明の光触媒体は安全性が高く、適応できる有害な物質の範囲が広く、廃棄しても環境を汚さないため、産業的に極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】無機多孔質粒子の表面及び該無機多孔質粒子が有する空孔壁に光半導体粒子を付着して成る光触媒体。
【請求項2】無機多孔質粒子の表面及び該無機多孔質粒子が有する空孔壁に光半導体粒子と水質浄化機能を有する微生物とを付着して成る光触媒体。
【請求項3】その平均粒径が0.1〜100mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒体。
【請求項4】光半導体粒子が酸化チタンであることを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒体。
【請求項5】無機多孔質粒子が天然鉱物であることを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒体。
【請求項6】水質浄化機能を有する微生物が亜硝酸菌、硝酸菌及び硫黄細菌からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載の光触媒体。
【請求項7】請求項1または2に記載の光触媒体を被処理水と接触しうる箇所に配置し、次いで、該光触媒体に紫外線を含有した光を照射して該被処理水を浄化することを特徴とする水の浄化方法。
【請求項8】請求項1または2に記載の光触媒体を被処理水と接触しうる箇所に配置し、次いで、該光触媒体に紫外線を含有した光を照射して、該光触媒体の光触媒機能によって該被処理水を浄化し、しかも、紫外線を含有した光の照射を受けない同じ反応系内の箇所では、光触媒体に付着した水質浄化機能を有する微生物によって該被処理水を浄化することを特徴とする水の浄化方法。