光透過性部材
【課題】高い防眩性能を発揮するだけでなく,輪郭の鮮明な透過像を表示できる光透過性部材を提供する。
【解決手段】光学的に透明な材質によって形成された光透過性部材,例えば板ガラスの反射面を,研磨材を噴射する等して切削して微細な凹凸を形成する。この微細な凹凸は,前記反射面を所定サイズ毎の微細な区画に分割して各区画における高さを測定して得た測定値に基づくヒストグラムを形成したとき,前記ヒストグラムにおける最頻値の確率密度が10〜30%であり,且つ,前記高さに基づいて算出した前記ヒストグラムにおける分散(σ2)が0.4(μm2)未満となるよう前記反射面の凹凸を形成する。
【解決手段】光学的に透明な材質によって形成された光透過性部材,例えば板ガラスの反射面を,研磨材を噴射する等して切削して微細な凹凸を形成する。この微細な凹凸は,前記反射面を所定サイズ毎の微細な区画に分割して各区画における高さを測定して得た測定値に基づくヒストグラムを形成したとき,前記ヒストグラムにおける最頻値の確率密度が10〜30%であり,且つ,前記高さに基づいて算出した前記ヒストグラムにおける分散(σ2)が0.4(μm2)未満となるよう前記反射面の凹凸を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光透過性部材に関し,より詳細には,光学的に透明な材料,例えばガラスや石英,アクリルやポリカーボネート(PC)等の透明な樹脂等によって形成された光透過性部材,例えばガラス板等の透明板の透視性を維持しつつ,表面における正反射を抑制することのできる表面構造に特徴を有する光透過性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の表面等で反射した反射光が視界に入り込むことによる不快感や視認性の低下等を改善するために,物品表面に入射した光を乱反射させることで,物品表面のギラツキを抑える防眩処理が各種の分野において行われている。
【0003】
このような防眩処理が施されている物品の一例として,テレビ画面やパーソナルコンピュータの表示画面,デジタルカメラ,デジタルビデオカメラ,携帯電話器,カーナビゲーションシステム等の各種の携帯型の電化製品にモニタとして搭載されている液晶ディスプレイを挙げることができる。
【0004】
このような液晶ディスプレイでは,その表面に室内の照明や太陽光等が映り込むと視認性の著しい低下が生じ,特に屋外で使用される携帯型の電化製品に搭載されている液晶ディスプレイでは,太陽光等の高輝度の光の下での視認性を確保するために,高輝度のバックライトの搭載が必要となり,バッテリーの消耗が激しくなる。
【0005】
そのため,このような光の映り込みを防止して画像の視認性を確保するために,液晶ディスプレイにあっては半透過型と呼ばれるディスプレイ装置が主流となっている。
【0006】
この半透過型のディスプレイ装置は,例えば透明なフィルムの表面に微細な凹凸を形成して半透明にした反射防止フィルムを,液晶を挟持するガラス基板の表面,又は,該ガラス基板の内側に貼着したものであり,反射防止フィルムの表面に形成した微細なに凹凸によって入射した光を乱反射させることで,画面に対する光の映り込みを防止したものである。
【0007】
なお,このような反射防止フィルムを用いることなく,光の反射方向を制御するために,透過性樹脂で形成された光を透過させる光学部品であって,その光入射面の少なくとも片面に,ナノメートルオーダーの凹凸を付けて粗した光透過性光学部品も提案されている(特許文献1の請求項1)。
【0008】
なお,前述した防眩対策を施した液晶ディスプレイであっても,反射防止フィルム等に形成した微細な凹凸が規則的に形成されている場合には,太陽光のような平行性を示す光源下では,凹凸による干渉現象により表面に虹色の干渉色が表れ,この干渉色の発生が更に視認性を低下させる原因となる。
【0009】
そこで,このような干渉現象に対する対策として,前述の反射防止フィルム等の反射面に形成する凹凸形状,乃至は反射防止フィルムの形状自体をランダムなものとすることや,干渉光をその前方に配置した散乱体で不規則な光に拡散させる方法等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−204706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで,前述したガラスや石英,アクリル樹脂やPC樹脂等によって形成された透明板の表面に,表面に微細な凹凸等を形成した前述した反射防止フィルムを貼着することにより,又は,透明板の表面に直接微細な凹凸を形成する等して乱反射を生じさせることにより防眩性を発揮させようとした場合,反射防止フィルムの表面に形成された凹凸により生じる乱反射は,照明光や太陽光等の正反射を低減させるのみならず,透明板を透過する光についても乱反射させることとなり,この構造を前述した液晶ディスプレイ等において採用する場合には,表示画像の輪郭等を不鮮明なものとし,ディスプレイ装置によって表示できる画質を低下させる。
【0012】
また,乱反射を生じさせるための凹凸の形成を,前述したように表面に微細な凹凸が形成された反射防止フィルムの貼着によって行う場合には,反射防止フィルムを透明板に空気の巻き込みが生じないように貼着する必要があり,この作業が煩雑であるというだけでなく,反射防止フィルムの材質と,透明板とで材質が相違することによる屈折率の相違等によって更に画像が不鮮明となる場合があり,ディスプレイ等によって表示できる画質が更に低下する。
【0013】
そこで,本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,高い防眩性能を発揮するものでありながら,鮮明な輪郭の透過像を表示でき,従って透過像の鮮明さを維持することができる光透過性部材の表面構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために,本発明の光透過性部材は,
光学的に透明な材質によって形成された光透過性部材の反射面に微細な凹凸が形成されており,
前記反射面を所定サイズ毎の微小な区画に分割して,各区画における高さ(凹凸表面に現れる谷の最深部の高さをゼロとしこれを基準とした高さ)を測定して得た測定値に基づくヒストグラムを形成したとき,前記ヒストグラムにおける最頻値の確率密度が10〜30%であり,且つ,前記高さに基づいて算出した前記ヒストグラムにおける分散(σ2)が0.4(μm2)未満となるよう前記反射面の凹凸が形成されていることを特徴とする(請求項1)。
【0015】
更に,前記区画は,前記反射面を撮影した1000倍画像における1ピクセルに対応した区画,一例として実際の反射面における0.2913μm四方の正方形の区画とすることができる(請求項2)。
【0016】
なお,前記反射面の表面粗さはRaで0.5μm以下,好ましくは0.3μm以下,より好ましくは0.23μm以下である(請求項3)。
【0017】
また,前記反射面の表面粗さはRzで3μm以下,好ましくは2μm以下,より好ましくは1.6μm以下である(請求項4)。
【0018】
ここで,表面粗さRa,RzはJIS(B0601-1994)による。実施例で使用した測定機器は,「サーフコム1400」(東京精密株式会社)であり,測定仕様は,測定子径5μm、カットオフ0.8mmである。
【0019】
前記光透過性部材は,これを透明板とすることができ,この場合,前記反射面を前記透明板の片面に形成することが好ましい(請求項5)。もっともこのことは前記反射面を両面に形成することを否定するものではない。
【0020】
以上説明した反射面が形成された光透過性部材は,平行透過率が20%以上,ヘイズ値20〜70%であると共に,反射率が全角度において7%以下である(請求項6)。
【発明の効果】
【0021】
以上説明した本発明の構成により,サーキュラーゾーンプレートを使用した視認性の確認試験において,いずれも黒色リングが7個以上全周に亘って確認できる透視性を維持していると共に,反射率の低下,ヘイズ値の上昇により防眩性が付与された光透過性部材を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の光透過性部材の表面形状を模式的に表した断面図。
【図2】本発明の光透過性部材の表面形状を模式的に表した断面図。
【図3】本発明の光透過性部材の表面形状を模式的に表した断面図。
【図4】実施例1のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図5】実施例2のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図6】実施例3のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図7】実施例4のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図8】実施例5のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図9】実施例6のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図10】実施例7のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図11】実施例8のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図12】実施例9のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図13】実施例10のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図14】実施例11のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図15】実施例12のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図16】比較例1のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図17】比較例2のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図18】比較例3のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図19】比較例4のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図20】比較例5のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図21】比較例6のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図22】比較例7のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図23】比較例8のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図24】比較例9のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図25】比較例10のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図26】比較例11のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図27】比較例12のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図28】比較例13のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図29】テストピースの高さの分布を示したヒストグラムであり,(A)は実施例1〜4,(B)は実施例5及び比較例2,3,(C)は比較例4,5の分布。
【図30】テストピースの高さの分布を示したヒストグラムであり,(A)は実施例6〜9,(B)は比較例6〜9の分布。
【図31】テストピースの高さの分布を示したヒストグラムであり,(A)は比較例13,(B)は比較例10〜12の分布。
【図32】テストピースの高さの分布を示したヒストグラムであり,(A)は実施例10〜12,(B)は比較例1の分布。
【図33】テストピースにおける高さの分散(σ2)を表したグラフ。
【図34】テストピースの表面粗さ(Ra)を表したグラフ。
【図35】テストピースの表面粗さ(Rz)を表したグラフ。
【図36】テストピースの平行透過率とヘイズ値を表したグラフ。
【図37】テストピースの30度傾斜光に対する反射率を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に,本発明の好適な実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0024】
〔物品の材質〕
本発明の対象となる部材は,光学的に透明な材料,例えばガラスや石英,透明性を有する樹脂(アクリルやポリカーボネート等)を原料として形成された部材である。
【0025】
〔表面形状〕
上記部材の反射面には,微細な凹凸が形成されており,この反射面を所定サイズ毎の微小な区画(本実施形態において0.2913μm四方の区画)に分割して,各区画における高さ(凹凸表面における谷の最深部である高さの最小値Hminをゼロとしこれを基準とした高さ)を測定して得た測定値に基づくヒストグラムを形成したとき,前記ヒストグラムにおける最頻値の確率密度が10〜30%であり,且つ,前記高さに基づいて算出した前記ヒストグラムにおける分散σ2が0.4(μm2)未満となるよう前記反射面の凹凸形状が形成されている。
【0026】
(1)表面凹凸形状の測定
(1-1) 前提
前述したように防眩処理が施された光透過性部材において,透過像の輪郭が不鮮明となる原因は,透過像(透過光)が表面の凹凸によって乱反射することが原因であると考えられる。
【0027】
そこで,本発明の発明者は反射面の表凹凸形状が一例として図1に断面形状を模式的に示すように,山頂に平坦部が形成されている場合,又は,図2に示すように,山間(谷)に平坦部が形成されている場合,更にはこれらが混在したものである場合等,一定の割合で平坦部を備えるものであれば,この平坦部においては透過像(透過光)の乱反射が抑制できる結果,透過像にある程度の輪郭の鮮明さを維持することが可能であり,これにより,光透過性部材に防眩性を付与しつつ,透過像の鮮明さを維持するという,相反する特性を同時に付与できるのではないかと予測した。
【0028】
また,反射面表面における反射率を低下させるためには,反射面に乱反射を生じさせることができれば形成する凹凸に大きな高低差を設ける必要が無い一方,必要以上に高低差の大きな凹凸を形成した場合,このような大きな高低差が透過像の画質を却って低下させるものとなることが予測される。
【0029】
以上の予測の下,このような平坦部がどの程度形成されている場合であって,且つ,反射面における高さがどのように分散している場合に,透過像の鮮明さが実現されるかを確認すると共に,このような形状を数値として限定すべく,以下の通りの測定を行った。
【0030】
(1-2) 測定方法
光透過性部材の反射面に,図1に示したような平坦部が形成されていると仮定すると,この反射面を細かい区画に分割して,各区画における高さ〔凹凸面における表面の高さの最小値Hmin(谷の最深部)をゼロとし,これを基準とした高さ〕を測定すると,平坦部に位置する区画の高さは,略同一の高さとして測定される筈である。
【0031】
従って,この測定データに基づいてヒストグラムを作成した場合,平坦部が反射面中に所定の割合で形成されていれば,平坦部の高さに対応する高さが最頻値として出現することとなり,この最頻値の確率密度を,反射面全体に対する平坦部の面積比に対応したものと捉えることができる。
【0032】
以上の前提の下,反射面を微小な区画(0.2913μm四方の矩形の点)に区画して,各区画毎の高さを測定して,最頻値の確率密度を求めた。
【0033】
但し,上記測定方法では前述した微小な区画(0.2913μm四方の矩形の点)の高さを測定して最頻値の確率密度を求めたものであり,同一高さの微小な区画が連続乃至は隣接して存在しているか否かの評価はしていない。その結果,図1〜3で示した「平坦部」の幅は,最小の場合,前述した区画の幅となり得る。
【0034】
また,前記予測より,透過像の良好な視認性が維持されている光透過性部材であれば,ヒストグラムにおけるデータの分散は,前述した最頻値の回りにある程度集中して表れる事となり,このような表面形状を分散(σ2)によって数値化できるものと考えた。
【0035】
(1-3) 測定方法(最頻値の確率密度及び分散)
そこで,上記の前提の下,各条件で加工したテストピースの表面を1000倍で撮影した画像における1ピクセルの範囲〔テストピース表面の0.2913μm四方(実寸)〕を1区画とし,前記画像を1,024列,768行の計786,432個の区画に分割して,各区画毎の高さを測定してヒストグラムを作成した。
【0036】
測定した区画毎の高さは,測定単位を「μm」とし,少数点第2位迄の数値として測定した。
【0037】
そして,X軸を0.1μm毎の高さ毎に区分し,各区分内に含まれる標本の出現数を全データ数で除して求めた確率密度をY軸としたヒストグラムを作成し,このヒストグラムにおける最頻値の確率密度を求めた。
【0038】
また,前述した各区画の高さX(μm)に基づき,次式によって分散σ2(μm2)を求めた。
【数1】
【0039】
(1-4) 測定結果と透視性
以上のようにして求めた最頻値の確率密度が10〜30%の範囲を示し,且つ分散(σ2)が0.4(μm2)未満を示したものは,いずれも表面凹凸の形成によって反射率を低下させた後においても像の輪郭が明確に確認できる,好適な透視性を有するものであることが確認できた。
【0040】
その一方で,上記最頻値の確率密度及び/又は分散(σ2)の数値範囲より外れたテストピースでは,反射率の低下が不十分であったり,透過像の輪郭が不鮮明となり透過像の視認性が著しく低下したりする等,前述した反射率の低下と透視性の維持という,相反する特性を両立させることができるものとはなっていなかった。
【0041】
(2)表面形状に関するその他の条件
(2-1) 反射面の表面粗さ
なお,ヒストグラムによって求めた上記数値範囲内に属する反射面全体の表面粗さは,Raで0.5μm以下,好ましくは0.3μm以下,より好ましくは0.23μm以下であり,また,Rzで3μm以下,好ましくは2μm以下,より好ましくは1.6μm以下であり,表面が粗くなる(凹凸の高低差が大きくなる)と透過像の鮮明さが失われるものとなっており,前述したように分散(σ2)が大きくなると透過像の鮮明さが失われることと一致する結果となった。
【0042】
(2-2) 形成面
なお,前述した光透過性部材が透明板である場合には,前記反射面(凹凸面)を前記透明板の片面にのみ形成するものとしても良く,又は,表裏面の双方に形成するものとしても良い。
【0043】
もっとも,片面にのみ凹凸を形成する場合には,前述したように反射面に形成された凹凸中に生じた平坦部が,透明板の他方の面と平行となり,その結果,この部分を通過する透過像の輪郭をより鮮明にすることができたものと考えられる。
【0044】
(2-3) 光学特性
反射面が上記のように形成された光透過性部材は,平行透過率を20%以上,ヘイズ値20〜70%であると共に,反射率が全角度において7%以下という光学特性を発揮するものであることが確認されており,凹凸が形成される前の例えばガラス板〔一例として平行透過率91%,ヘイズ値0%,反射率(30度傾斜光)7.5%〕に対して,平行透過率をある程度維持したまま,ヘイズ値の上昇と可視光反射率の大幅な低下が実現されていることが確認できた。
【0045】
このような光学特性を有する光透過性部材は,いずれも,サーキュラーゾーンプレートによる視認性の確認試験において,黒色リングが7個以上全周で識別できる視認性を有している。
【0046】
なお,全光の光学特性値(平行透過率、ヘイズ値)の測定機器は,曇り度計(「NDH5000W」日本電色工業株式会社)を使用し,反射率(30度傾斜光)の測定機器は,日立分光光度計(「U4100」株式会社日立ハイテクノロジーズ)を使用した。
【0047】
〔上記表面状態の形成方法〕
前述した表面凹凸形状は,如何なる方法によって形成するものとしても良いが,一例として既知のブラスト加工装置を使用した研磨材の投射によって形成することができる。
【0048】
なお,光透過性部材の反射面に対する前述した凹凸の形成は,光学透過性部材の表面に直接,前述したブラスト加工等を行うことにより凹凸を形成するものとしても良いが,例えば金属板やガラス板等の表面に対し前述したブラスト等によって凹凸を形成しておき,この凹凸の形成された金属板やガラス板等を型として使用して,この型の上に透明樹脂を流し込む等して,前述した凹凸形状が転写された光透過性部材を形成するものとしても良く,この場合,一例として型に形成された凹凸形状が図1に示すように山頂に平坦部を有するものである場合,この型を使用して得られる光透過性部材は,図2に示すように山間(谷)に前述した平坦部が形成された反転形状となり,このような形状によっても同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0049】
次に,本発明の光透過性部材の製造実施例及びこのようにして得られた光透過性部材の特性試験を行った結果を,以下に説明する。
【0050】
1.製造実施例
厚さ1.8mm,長さ90mm,幅90mmのガラス板〔平行透過利率91%,ヘイズ値0%,光(30度傾斜)に対する反射率7.5%〕の片面に対し,以下の表1に記載の処理条件によりブラスト加工を行い,凹凸を形成した。
【0051】
なお,下記の表1において,「加工2」に記載のあるものは,「加工1」として記載されている加工条件で加工を行った後,更に,「加工2」に記載の条件で加工を行ったことを示す。
【0052】
【表1】
【0053】
2.サーキュラーゾーンプレートによる視認性確認試験
上記のブラスト加工条件にて加工した各テストピースを,いずれもサーキュラーゾーンプレート上に接触させた状態に載置し,テストピースを透過した透過像(サーキュラーゾーンプレート)を撮影した。この撮影画像を,図4〜28に示す。
【0054】
なお,撮影はカメラにテストピースを取り付けた状態で行い,図4〜28中,10mm,20mm,0mmという寸法の表示は,サーキュラーゾーンプレートとテストピース間の距離を示す。
【0055】
このようにして撮影されたサーキュラーゾーンプレートの画像に基づき,サーキュラーゾーンプレートの黒色リングのうちの7個以上が全周で識別できるものを,視認性が良好なものとして選定し(実施例1〜12),その他のテストピース(比較例1〜13)との表面形状の相違を,前述したヒストグラムに基づいて比較した。
【0056】
3.ヒストグラムによる表面状態の確認
(1)ヒストグラムの作成及び分散(σ2)の算出
前述したヒストグラムの作成にあたり,各テストピースの表面をレーザ顕微鏡により1000倍像を撮影し,このレーザ顕微鏡のデータを下に,各種の数値を得た。
【0057】
本実施例にあっては,このようなレーザ顕微鏡,及び解析ソフトとして,株式会社キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡「VK-8500」,及びVK形状解析ソフト「VK-H1A7」を使用した。
【0058】
画像データを1ピクセル(実寸における0.21913μm四方)に分割して得た区画を,本実施例ではx(列)方向に1,024,y(行)方向に768個の計786,432個設け,各区画の高さを単位μmで少数点第2位まで測定して786,432個の標本を得た。
【0059】
この高さを,0.1μm毎の数値群にまとめてX軸を取り,各数値群に属する標本数を全標本数である786,432で割って得た確率密度をY軸としたヒストグラムを作成し,このヒストグラムより最頻値の確率密度を求めた。
【0060】
更に,前記高さXに基づき,以下の式より分散(σ2)を求めた。
【数2】
【0061】
(2)測定結果
(2-1) 最頻値の確率密度及び分散(σ2)の算出値
以上のようにして作成したヒストグラムを図29〜32に示す。また,前述した分散(σ2)を定義した式に基づき,テストピース毎に算出した分散(σ2)をまとめたグラフを図33に示す。
【0062】
図29〜32に示すように,最頻値の確率密度が10〜30%の範囲にあるもの(実施例1〜12)は,いずれも良好な透視性を発揮するものである一方(図4〜15参照),最頻値の確率密度が10%未満のもの(比較例2〜13)又は,比較例1のように最頻値の確率密度が10〜30%の範囲に入るものであっても〔図32(B)〕,分散(σ2)が0.4(μm2)を越えるもの(図33参照)にあっては,いずれも透過像の輪郭がぼやける等してサーキュラーゾーンプレートの黒いリング7個以上の全周を確認することが出来ず,透視性が不十分なものであった(図16〜28参照)。
【0063】
4.表面粗さの測定
以上のようにして得たテストピース中,代表なものについて表面粗さを測定した結果を図34,35に示す。
【0064】
良好な視認性を発揮したテストピース(実施例1〜9,11,13)は,いずれも表面粗さがRa及びRzのいずれにおいても低いものとなっており,Raで0.5μm以下,好ましくは0.3μm以下,より好ましくは0.23μm以下,Rzで3μm以下,好ましくは2μm以下,より好ましくは1.6μm以下である。
【0065】
なお,前述した分散(σ2)が本願で規定する0.4(μm2)未満という限定を越えて0.43(μm2)となっている比較例1では,実施例のものに比較して,表面粗さにおいても比較的粗いものとなっており,このような表面粗さの増大がヒストグラムにおける分散(σ2)を増大させる要因となっているものと考えられる。
【0066】
従って,光透過性部材の反射面に形成する凹凸の高低差が高くなるに従い,透過像の画像に低下が生じることが判り,表面粗さを上記数値範囲内とすることが有効であることが判る。
【0067】
5.光学特性の測定
上記各テストピースの平行透過率とヘイズ値を測定した結果を図36に,30度傾斜光に対する反射率を測定した結果を図37それぞれ示す。
【0068】
前述したテストピースのうち,本発明の構造を備えたテストピース(実施例1〜12)では,いずれも平行透過率が20%以上,ヘイズ値20〜70%であると共に(図36参照),反射率が全角度において7%以下であり(図37参照),反射率の低下による防眩性を有するものでありながら,明確な輪郭の透過像を認識できるものであることが,光学的な性質を示す数値によっても判る。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明した本発明の光透過性部材は,防眩処理が必要となる各種の分野において適用可能であり,一例として以下のような分野への応用が可能である。
【0070】
(1)各種のディスプレイパネルにおける防眩構造
本発明の防眩構造を液晶ディスプレイ,プラズマディスプレイ,有機EL,その他のディスプレイ装置の表面保護パネル等の透明基板に対して直接,又は,本発明の防眩構造を備えた透明基板を貼着等することにより,光の映り込みによる視認性の低下を防止しつつ,透過画像の輪郭が鮮明である上記ディスプレイを提供することができる。
【0071】
(2)温水器,太陽電池の表面保護パネル
また,太陽電池や温水器の保護パネルに対して本発明の防眩構造を適用することにより,反射光によるギラツキを抑えつつ,高い透過率で太陽光を太陽電池や温水器に透過させることのできる保護パネルを提供することができる。
【0072】
特にこのような防眩処理は,道路の中央分離体や空港等に設置される太陽電池の保護パネル等にあっては,車両や航空機の安全な運行の上でも要求される構造である。
【0073】
(3)温室等のパネル
防眩性を発揮しつつ,高い光透過性を維持することから,例えば農業,園芸用の温室等の壁面パネル等としても利用が可能であり,しかも,表面の加工状態により,透過率や反射率を調整することも可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は光透過性部材に関し,より詳細には,光学的に透明な材料,例えばガラスや石英,アクリルやポリカーボネート(PC)等の透明な樹脂等によって形成された光透過性部材,例えばガラス板等の透明板の透視性を維持しつつ,表面における正反射を抑制することのできる表面構造に特徴を有する光透過性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の表面等で反射した反射光が視界に入り込むことによる不快感や視認性の低下等を改善するために,物品表面に入射した光を乱反射させることで,物品表面のギラツキを抑える防眩処理が各種の分野において行われている。
【0003】
このような防眩処理が施されている物品の一例として,テレビ画面やパーソナルコンピュータの表示画面,デジタルカメラ,デジタルビデオカメラ,携帯電話器,カーナビゲーションシステム等の各種の携帯型の電化製品にモニタとして搭載されている液晶ディスプレイを挙げることができる。
【0004】
このような液晶ディスプレイでは,その表面に室内の照明や太陽光等が映り込むと視認性の著しい低下が生じ,特に屋外で使用される携帯型の電化製品に搭載されている液晶ディスプレイでは,太陽光等の高輝度の光の下での視認性を確保するために,高輝度のバックライトの搭載が必要となり,バッテリーの消耗が激しくなる。
【0005】
そのため,このような光の映り込みを防止して画像の視認性を確保するために,液晶ディスプレイにあっては半透過型と呼ばれるディスプレイ装置が主流となっている。
【0006】
この半透過型のディスプレイ装置は,例えば透明なフィルムの表面に微細な凹凸を形成して半透明にした反射防止フィルムを,液晶を挟持するガラス基板の表面,又は,該ガラス基板の内側に貼着したものであり,反射防止フィルムの表面に形成した微細なに凹凸によって入射した光を乱反射させることで,画面に対する光の映り込みを防止したものである。
【0007】
なお,このような反射防止フィルムを用いることなく,光の反射方向を制御するために,透過性樹脂で形成された光を透過させる光学部品であって,その光入射面の少なくとも片面に,ナノメートルオーダーの凹凸を付けて粗した光透過性光学部品も提案されている(特許文献1の請求項1)。
【0008】
なお,前述した防眩対策を施した液晶ディスプレイであっても,反射防止フィルム等に形成した微細な凹凸が規則的に形成されている場合には,太陽光のような平行性を示す光源下では,凹凸による干渉現象により表面に虹色の干渉色が表れ,この干渉色の発生が更に視認性を低下させる原因となる。
【0009】
そこで,このような干渉現象に対する対策として,前述の反射防止フィルム等の反射面に形成する凹凸形状,乃至は反射防止フィルムの形状自体をランダムなものとすることや,干渉光をその前方に配置した散乱体で不規則な光に拡散させる方法等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−204706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで,前述したガラスや石英,アクリル樹脂やPC樹脂等によって形成された透明板の表面に,表面に微細な凹凸等を形成した前述した反射防止フィルムを貼着することにより,又は,透明板の表面に直接微細な凹凸を形成する等して乱反射を生じさせることにより防眩性を発揮させようとした場合,反射防止フィルムの表面に形成された凹凸により生じる乱反射は,照明光や太陽光等の正反射を低減させるのみならず,透明板を透過する光についても乱反射させることとなり,この構造を前述した液晶ディスプレイ等において採用する場合には,表示画像の輪郭等を不鮮明なものとし,ディスプレイ装置によって表示できる画質を低下させる。
【0012】
また,乱反射を生じさせるための凹凸の形成を,前述したように表面に微細な凹凸が形成された反射防止フィルムの貼着によって行う場合には,反射防止フィルムを透明板に空気の巻き込みが生じないように貼着する必要があり,この作業が煩雑であるというだけでなく,反射防止フィルムの材質と,透明板とで材質が相違することによる屈折率の相違等によって更に画像が不鮮明となる場合があり,ディスプレイ等によって表示できる画質が更に低下する。
【0013】
そこで,本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,高い防眩性能を発揮するものでありながら,鮮明な輪郭の透過像を表示でき,従って透過像の鮮明さを維持することができる光透過性部材の表面構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために,本発明の光透過性部材は,
光学的に透明な材質によって形成された光透過性部材の反射面に微細な凹凸が形成されており,
前記反射面を所定サイズ毎の微小な区画に分割して,各区画における高さ(凹凸表面に現れる谷の最深部の高さをゼロとしこれを基準とした高さ)を測定して得た測定値に基づくヒストグラムを形成したとき,前記ヒストグラムにおける最頻値の確率密度が10〜30%であり,且つ,前記高さに基づいて算出した前記ヒストグラムにおける分散(σ2)が0.4(μm2)未満となるよう前記反射面の凹凸が形成されていることを特徴とする(請求項1)。
【0015】
更に,前記区画は,前記反射面を撮影した1000倍画像における1ピクセルに対応した区画,一例として実際の反射面における0.2913μm四方の正方形の区画とすることができる(請求項2)。
【0016】
なお,前記反射面の表面粗さはRaで0.5μm以下,好ましくは0.3μm以下,より好ましくは0.23μm以下である(請求項3)。
【0017】
また,前記反射面の表面粗さはRzで3μm以下,好ましくは2μm以下,より好ましくは1.6μm以下である(請求項4)。
【0018】
ここで,表面粗さRa,RzはJIS(B0601-1994)による。実施例で使用した測定機器は,「サーフコム1400」(東京精密株式会社)であり,測定仕様は,測定子径5μm、カットオフ0.8mmである。
【0019】
前記光透過性部材は,これを透明板とすることができ,この場合,前記反射面を前記透明板の片面に形成することが好ましい(請求項5)。もっともこのことは前記反射面を両面に形成することを否定するものではない。
【0020】
以上説明した反射面が形成された光透過性部材は,平行透過率が20%以上,ヘイズ値20〜70%であると共に,反射率が全角度において7%以下である(請求項6)。
【発明の効果】
【0021】
以上説明した本発明の構成により,サーキュラーゾーンプレートを使用した視認性の確認試験において,いずれも黒色リングが7個以上全周に亘って確認できる透視性を維持していると共に,反射率の低下,ヘイズ値の上昇により防眩性が付与された光透過性部材を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の光透過性部材の表面形状を模式的に表した断面図。
【図2】本発明の光透過性部材の表面形状を模式的に表した断面図。
【図3】本発明の光透過性部材の表面形状を模式的に表した断面図。
【図4】実施例1のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図5】実施例2のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図6】実施例3のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図7】実施例4のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図8】実施例5のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図9】実施例6のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図10】実施例7のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図11】実施例8のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図12】実施例9のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図13】実施例10のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図14】実施例11のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図15】実施例12のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図16】比較例1のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図17】比較例2のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図18】比較例3のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図19】比較例4のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図20】比較例5のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図21】比較例6のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図22】比較例7のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図23】比較例8のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図24】比較例9のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図25】比較例10のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図26】比較例11のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図27】比較例12のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図28】比較例13のテストピースを透過したサーキュラーゾーンプレートを撮影した画像を示す図。
【図29】テストピースの高さの分布を示したヒストグラムであり,(A)は実施例1〜4,(B)は実施例5及び比較例2,3,(C)は比較例4,5の分布。
【図30】テストピースの高さの分布を示したヒストグラムであり,(A)は実施例6〜9,(B)は比較例6〜9の分布。
【図31】テストピースの高さの分布を示したヒストグラムであり,(A)は比較例13,(B)は比較例10〜12の分布。
【図32】テストピースの高さの分布を示したヒストグラムであり,(A)は実施例10〜12,(B)は比較例1の分布。
【図33】テストピースにおける高さの分散(σ2)を表したグラフ。
【図34】テストピースの表面粗さ(Ra)を表したグラフ。
【図35】テストピースの表面粗さ(Rz)を表したグラフ。
【図36】テストピースの平行透過率とヘイズ値を表したグラフ。
【図37】テストピースの30度傾斜光に対する反射率を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に,本発明の好適な実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0024】
〔物品の材質〕
本発明の対象となる部材は,光学的に透明な材料,例えばガラスや石英,透明性を有する樹脂(アクリルやポリカーボネート等)を原料として形成された部材である。
【0025】
〔表面形状〕
上記部材の反射面には,微細な凹凸が形成されており,この反射面を所定サイズ毎の微小な区画(本実施形態において0.2913μm四方の区画)に分割して,各区画における高さ(凹凸表面における谷の最深部である高さの最小値Hminをゼロとしこれを基準とした高さ)を測定して得た測定値に基づくヒストグラムを形成したとき,前記ヒストグラムにおける最頻値の確率密度が10〜30%であり,且つ,前記高さに基づいて算出した前記ヒストグラムにおける分散σ2が0.4(μm2)未満となるよう前記反射面の凹凸形状が形成されている。
【0026】
(1)表面凹凸形状の測定
(1-1) 前提
前述したように防眩処理が施された光透過性部材において,透過像の輪郭が不鮮明となる原因は,透過像(透過光)が表面の凹凸によって乱反射することが原因であると考えられる。
【0027】
そこで,本発明の発明者は反射面の表凹凸形状が一例として図1に断面形状を模式的に示すように,山頂に平坦部が形成されている場合,又は,図2に示すように,山間(谷)に平坦部が形成されている場合,更にはこれらが混在したものである場合等,一定の割合で平坦部を備えるものであれば,この平坦部においては透過像(透過光)の乱反射が抑制できる結果,透過像にある程度の輪郭の鮮明さを維持することが可能であり,これにより,光透過性部材に防眩性を付与しつつ,透過像の鮮明さを維持するという,相反する特性を同時に付与できるのではないかと予測した。
【0028】
また,反射面表面における反射率を低下させるためには,反射面に乱反射を生じさせることができれば形成する凹凸に大きな高低差を設ける必要が無い一方,必要以上に高低差の大きな凹凸を形成した場合,このような大きな高低差が透過像の画質を却って低下させるものとなることが予測される。
【0029】
以上の予測の下,このような平坦部がどの程度形成されている場合であって,且つ,反射面における高さがどのように分散している場合に,透過像の鮮明さが実現されるかを確認すると共に,このような形状を数値として限定すべく,以下の通りの測定を行った。
【0030】
(1-2) 測定方法
光透過性部材の反射面に,図1に示したような平坦部が形成されていると仮定すると,この反射面を細かい区画に分割して,各区画における高さ〔凹凸面における表面の高さの最小値Hmin(谷の最深部)をゼロとし,これを基準とした高さ〕を測定すると,平坦部に位置する区画の高さは,略同一の高さとして測定される筈である。
【0031】
従って,この測定データに基づいてヒストグラムを作成した場合,平坦部が反射面中に所定の割合で形成されていれば,平坦部の高さに対応する高さが最頻値として出現することとなり,この最頻値の確率密度を,反射面全体に対する平坦部の面積比に対応したものと捉えることができる。
【0032】
以上の前提の下,反射面を微小な区画(0.2913μm四方の矩形の点)に区画して,各区画毎の高さを測定して,最頻値の確率密度を求めた。
【0033】
但し,上記測定方法では前述した微小な区画(0.2913μm四方の矩形の点)の高さを測定して最頻値の確率密度を求めたものであり,同一高さの微小な区画が連続乃至は隣接して存在しているか否かの評価はしていない。その結果,図1〜3で示した「平坦部」の幅は,最小の場合,前述した区画の幅となり得る。
【0034】
また,前記予測より,透過像の良好な視認性が維持されている光透過性部材であれば,ヒストグラムにおけるデータの分散は,前述した最頻値の回りにある程度集中して表れる事となり,このような表面形状を分散(σ2)によって数値化できるものと考えた。
【0035】
(1-3) 測定方法(最頻値の確率密度及び分散)
そこで,上記の前提の下,各条件で加工したテストピースの表面を1000倍で撮影した画像における1ピクセルの範囲〔テストピース表面の0.2913μm四方(実寸)〕を1区画とし,前記画像を1,024列,768行の計786,432個の区画に分割して,各区画毎の高さを測定してヒストグラムを作成した。
【0036】
測定した区画毎の高さは,測定単位を「μm」とし,少数点第2位迄の数値として測定した。
【0037】
そして,X軸を0.1μm毎の高さ毎に区分し,各区分内に含まれる標本の出現数を全データ数で除して求めた確率密度をY軸としたヒストグラムを作成し,このヒストグラムにおける最頻値の確率密度を求めた。
【0038】
また,前述した各区画の高さX(μm)に基づき,次式によって分散σ2(μm2)を求めた。
【数1】
【0039】
(1-4) 測定結果と透視性
以上のようにして求めた最頻値の確率密度が10〜30%の範囲を示し,且つ分散(σ2)が0.4(μm2)未満を示したものは,いずれも表面凹凸の形成によって反射率を低下させた後においても像の輪郭が明確に確認できる,好適な透視性を有するものであることが確認できた。
【0040】
その一方で,上記最頻値の確率密度及び/又は分散(σ2)の数値範囲より外れたテストピースでは,反射率の低下が不十分であったり,透過像の輪郭が不鮮明となり透過像の視認性が著しく低下したりする等,前述した反射率の低下と透視性の維持という,相反する特性を両立させることができるものとはなっていなかった。
【0041】
(2)表面形状に関するその他の条件
(2-1) 反射面の表面粗さ
なお,ヒストグラムによって求めた上記数値範囲内に属する反射面全体の表面粗さは,Raで0.5μm以下,好ましくは0.3μm以下,より好ましくは0.23μm以下であり,また,Rzで3μm以下,好ましくは2μm以下,より好ましくは1.6μm以下であり,表面が粗くなる(凹凸の高低差が大きくなる)と透過像の鮮明さが失われるものとなっており,前述したように分散(σ2)が大きくなると透過像の鮮明さが失われることと一致する結果となった。
【0042】
(2-2) 形成面
なお,前述した光透過性部材が透明板である場合には,前記反射面(凹凸面)を前記透明板の片面にのみ形成するものとしても良く,又は,表裏面の双方に形成するものとしても良い。
【0043】
もっとも,片面にのみ凹凸を形成する場合には,前述したように反射面に形成された凹凸中に生じた平坦部が,透明板の他方の面と平行となり,その結果,この部分を通過する透過像の輪郭をより鮮明にすることができたものと考えられる。
【0044】
(2-3) 光学特性
反射面が上記のように形成された光透過性部材は,平行透過率を20%以上,ヘイズ値20〜70%であると共に,反射率が全角度において7%以下という光学特性を発揮するものであることが確認されており,凹凸が形成される前の例えばガラス板〔一例として平行透過率91%,ヘイズ値0%,反射率(30度傾斜光)7.5%〕に対して,平行透過率をある程度維持したまま,ヘイズ値の上昇と可視光反射率の大幅な低下が実現されていることが確認できた。
【0045】
このような光学特性を有する光透過性部材は,いずれも,サーキュラーゾーンプレートによる視認性の確認試験において,黒色リングが7個以上全周で識別できる視認性を有している。
【0046】
なお,全光の光学特性値(平行透過率、ヘイズ値)の測定機器は,曇り度計(「NDH5000W」日本電色工業株式会社)を使用し,反射率(30度傾斜光)の測定機器は,日立分光光度計(「U4100」株式会社日立ハイテクノロジーズ)を使用した。
【0047】
〔上記表面状態の形成方法〕
前述した表面凹凸形状は,如何なる方法によって形成するものとしても良いが,一例として既知のブラスト加工装置を使用した研磨材の投射によって形成することができる。
【0048】
なお,光透過性部材の反射面に対する前述した凹凸の形成は,光学透過性部材の表面に直接,前述したブラスト加工等を行うことにより凹凸を形成するものとしても良いが,例えば金属板やガラス板等の表面に対し前述したブラスト等によって凹凸を形成しておき,この凹凸の形成された金属板やガラス板等を型として使用して,この型の上に透明樹脂を流し込む等して,前述した凹凸形状が転写された光透過性部材を形成するものとしても良く,この場合,一例として型に形成された凹凸形状が図1に示すように山頂に平坦部を有するものである場合,この型を使用して得られる光透過性部材は,図2に示すように山間(谷)に前述した平坦部が形成された反転形状となり,このような形状によっても同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0049】
次に,本発明の光透過性部材の製造実施例及びこのようにして得られた光透過性部材の特性試験を行った結果を,以下に説明する。
【0050】
1.製造実施例
厚さ1.8mm,長さ90mm,幅90mmのガラス板〔平行透過利率91%,ヘイズ値0%,光(30度傾斜)に対する反射率7.5%〕の片面に対し,以下の表1に記載の処理条件によりブラスト加工を行い,凹凸を形成した。
【0051】
なお,下記の表1において,「加工2」に記載のあるものは,「加工1」として記載されている加工条件で加工を行った後,更に,「加工2」に記載の条件で加工を行ったことを示す。
【0052】
【表1】
【0053】
2.サーキュラーゾーンプレートによる視認性確認試験
上記のブラスト加工条件にて加工した各テストピースを,いずれもサーキュラーゾーンプレート上に接触させた状態に載置し,テストピースを透過した透過像(サーキュラーゾーンプレート)を撮影した。この撮影画像を,図4〜28に示す。
【0054】
なお,撮影はカメラにテストピースを取り付けた状態で行い,図4〜28中,10mm,20mm,0mmという寸法の表示は,サーキュラーゾーンプレートとテストピース間の距離を示す。
【0055】
このようにして撮影されたサーキュラーゾーンプレートの画像に基づき,サーキュラーゾーンプレートの黒色リングのうちの7個以上が全周で識別できるものを,視認性が良好なものとして選定し(実施例1〜12),その他のテストピース(比較例1〜13)との表面形状の相違を,前述したヒストグラムに基づいて比較した。
【0056】
3.ヒストグラムによる表面状態の確認
(1)ヒストグラムの作成及び分散(σ2)の算出
前述したヒストグラムの作成にあたり,各テストピースの表面をレーザ顕微鏡により1000倍像を撮影し,このレーザ顕微鏡のデータを下に,各種の数値を得た。
【0057】
本実施例にあっては,このようなレーザ顕微鏡,及び解析ソフトとして,株式会社キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡「VK-8500」,及びVK形状解析ソフト「VK-H1A7」を使用した。
【0058】
画像データを1ピクセル(実寸における0.21913μm四方)に分割して得た区画を,本実施例ではx(列)方向に1,024,y(行)方向に768個の計786,432個設け,各区画の高さを単位μmで少数点第2位まで測定して786,432個の標本を得た。
【0059】
この高さを,0.1μm毎の数値群にまとめてX軸を取り,各数値群に属する標本数を全標本数である786,432で割って得た確率密度をY軸としたヒストグラムを作成し,このヒストグラムより最頻値の確率密度を求めた。
【0060】
更に,前記高さXに基づき,以下の式より分散(σ2)を求めた。
【数2】
【0061】
(2)測定結果
(2-1) 最頻値の確率密度及び分散(σ2)の算出値
以上のようにして作成したヒストグラムを図29〜32に示す。また,前述した分散(σ2)を定義した式に基づき,テストピース毎に算出した分散(σ2)をまとめたグラフを図33に示す。
【0062】
図29〜32に示すように,最頻値の確率密度が10〜30%の範囲にあるもの(実施例1〜12)は,いずれも良好な透視性を発揮するものである一方(図4〜15参照),最頻値の確率密度が10%未満のもの(比較例2〜13)又は,比較例1のように最頻値の確率密度が10〜30%の範囲に入るものであっても〔図32(B)〕,分散(σ2)が0.4(μm2)を越えるもの(図33参照)にあっては,いずれも透過像の輪郭がぼやける等してサーキュラーゾーンプレートの黒いリング7個以上の全周を確認することが出来ず,透視性が不十分なものであった(図16〜28参照)。
【0063】
4.表面粗さの測定
以上のようにして得たテストピース中,代表なものについて表面粗さを測定した結果を図34,35に示す。
【0064】
良好な視認性を発揮したテストピース(実施例1〜9,11,13)は,いずれも表面粗さがRa及びRzのいずれにおいても低いものとなっており,Raで0.5μm以下,好ましくは0.3μm以下,より好ましくは0.23μm以下,Rzで3μm以下,好ましくは2μm以下,より好ましくは1.6μm以下である。
【0065】
なお,前述した分散(σ2)が本願で規定する0.4(μm2)未満という限定を越えて0.43(μm2)となっている比較例1では,実施例のものに比較して,表面粗さにおいても比較的粗いものとなっており,このような表面粗さの増大がヒストグラムにおける分散(σ2)を増大させる要因となっているものと考えられる。
【0066】
従って,光透過性部材の反射面に形成する凹凸の高低差が高くなるに従い,透過像の画像に低下が生じることが判り,表面粗さを上記数値範囲内とすることが有効であることが判る。
【0067】
5.光学特性の測定
上記各テストピースの平行透過率とヘイズ値を測定した結果を図36に,30度傾斜光に対する反射率を測定した結果を図37それぞれ示す。
【0068】
前述したテストピースのうち,本発明の構造を備えたテストピース(実施例1〜12)では,いずれも平行透過率が20%以上,ヘイズ値20〜70%であると共に(図36参照),反射率が全角度において7%以下であり(図37参照),反射率の低下による防眩性を有するものでありながら,明確な輪郭の透過像を認識できるものであることが,光学的な性質を示す数値によっても判る。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明した本発明の光透過性部材は,防眩処理が必要となる各種の分野において適用可能であり,一例として以下のような分野への応用が可能である。
【0070】
(1)各種のディスプレイパネルにおける防眩構造
本発明の防眩構造を液晶ディスプレイ,プラズマディスプレイ,有機EL,その他のディスプレイ装置の表面保護パネル等の透明基板に対して直接,又は,本発明の防眩構造を備えた透明基板を貼着等することにより,光の映り込みによる視認性の低下を防止しつつ,透過画像の輪郭が鮮明である上記ディスプレイを提供することができる。
【0071】
(2)温水器,太陽電池の表面保護パネル
また,太陽電池や温水器の保護パネルに対して本発明の防眩構造を適用することにより,反射光によるギラツキを抑えつつ,高い透過率で太陽光を太陽電池や温水器に透過させることのできる保護パネルを提供することができる。
【0072】
特にこのような防眩処理は,道路の中央分離体や空港等に設置される太陽電池の保護パネル等にあっては,車両や航空機の安全な運行の上でも要求される構造である。
【0073】
(3)温室等のパネル
防眩性を発揮しつつ,高い光透過性を維持することから,例えば農業,園芸用の温室等の壁面パネル等としても利用が可能であり,しかも,表面の加工状態により,透過率や反射率を調整することも可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的に透明な材質によって形成された光透過性部材の反射面に微細な凹凸が形成されており,
前記反射面を所定サイズ毎の微小な区画に分割して,各区画における高さを測定して得た測定値に基づくヒストグラムを形成したとき,前記ヒストグラムにおける最頻値の確率密度が10〜30%であり,且つ,前記高さに基づいて算出した前記ヒストグラムにおける分散(σ2)が0.4(μm2)未満となるよう前記反射面の凹凸が形成されていることを特徴とする光透過性部材。
【請求項2】
前記区画が,前記反射面を撮影した1000倍画像における1ピクセルに対応した区画である請求項1記載の光透過性部材。
【請求項3】
前記反射面の表面粗さがRaで0.5μm以下である請求項1又は2記載の光透過性部材。
【請求項4】
前記反射面の表面粗さがRzで3μm以下である請求項1〜3いずれか1項記載の光透過性部材。
【請求項5】
前記光透過性部材が透明板であり,前記反射面を前記透明板の片面に形成したことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の光透過性部材。
【請求項6】
平行透過率が20%以上,ヘイズ値20〜70%であると共に,反射率が全角度において7%以下である請求項1〜5いずれか1項記載の光透過性部材。
【請求項1】
光学的に透明な材質によって形成された光透過性部材の反射面に微細な凹凸が形成されており,
前記反射面を所定サイズ毎の微小な区画に分割して,各区画における高さを測定して得た測定値に基づくヒストグラムを形成したとき,前記ヒストグラムにおける最頻値の確率密度が10〜30%であり,且つ,前記高さに基づいて算出した前記ヒストグラムにおける分散(σ2)が0.4(μm2)未満となるよう前記反射面の凹凸が形成されていることを特徴とする光透過性部材。
【請求項2】
前記区画が,前記反射面を撮影した1000倍画像における1ピクセルに対応した区画である請求項1記載の光透過性部材。
【請求項3】
前記反射面の表面粗さがRaで0.5μm以下である請求項1又は2記載の光透過性部材。
【請求項4】
前記反射面の表面粗さがRzで3μm以下である請求項1〜3いずれか1項記載の光透過性部材。
【請求項5】
前記光透過性部材が透明板であり,前記反射面を前記透明板の片面に形成したことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の光透過性部材。
【請求項6】
平行透過率が20%以上,ヘイズ値20〜70%であると共に,反射率が全角度において7%以下である請求項1〜5いずれか1項記載の光透過性部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
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【図29】
【図30】
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【図18】
【図19】
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【図27】
【図28】
【公開番号】特開2012−14051(P2012−14051A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151957(P2010−151957)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000154129)株式会社不二製作所 (46)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000154129)株式会社不二製作所 (46)
【Fターム(参考)】
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