説明

光遅延干渉計

【課題】光路長の可変時の光軸ずれを抑制して安定な干渉強度が得られるようにする。
【解決手段】ビームスプリッタ22と第1の直交ミラー23との間の第1の折り返し光路に挿入された光路長可変器30の可動部としての可動透光体32が、その折り返し光路がなす面と直交し且つ第1の直交ミラー23の一対の反射面23a、23bが交わる境界線23cを含む平面に沿ってその位置を変化させ、第1の折り返し光路を伝搬する光の伝搬長を可変させるから、その可動により直交ミラー30側への出射光軸のシフトが生じても、そのシフト方向は直交ミラー30の反射面の境界線23cに沿った方向となり、その入射軸と平行な光軸で折り返されて可動透光体32に再入射され、光軸シフトが相殺された状態でビームスプリッタ22に戻される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相変調光を、その位相変化に応じて強度が変化する強度変調光に変換するために用いる光遅延干渉計を小型化し且つ安定動作させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の通信トラフィックの大容量化に伴い、分散耐力が高く、周波数効率の良い変調方式してDPSKやDQPSK等の位相変調方式が注目されている。これらの変調方式における伝送信号のシンボルレートは様々であり、例えば40Gbps−DPSK方式では40Gbpsのシンボルレートが用いられ、20Gbps−DQPSK方式では20Gbpsのシンボルレートが用いられており、今後もさらに高速化されると予想される。
【0003】
これらの位相変調光の評価を行う方法として、その光の位相変化を検出することが必要となり、その一つの方法として、光遅延干渉計を用いて、位相変調光を、その位相変化に応じて強度が変化する強度変調光に変換し、その強度の変化に基づいて位相変調特性を把握する方法が知られている。
【0004】
光遅延干渉計は、入力光を2つの光に分岐し、その分岐した2つの光の間に遅延を与えて合波するマイケルソン型のものが一般的であり、その遅延量を位相変調の1シンボル分に設定することで、シンボル間の位相変化を強度変化に変換するものである。
【0005】
このようなマイケルソン型の光遅延干渉計を用いて、異なるシンボルレートの位相変調光を強度変調光に変換して評価を行う技術は、特許文献1、2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4443559号公報
【特許文献2】特許第4437822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1、2で用いられているマイケルソン型の光遅延干渉計は、干渉計の一方光路上に配置した光遅延器により光路長差を与えているが、光遅延器で光路長差を与える際に、その遅延器側のビームの光軸ずれが生じやすく、その光軸ずれによって干渉強度が変化してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、この課題を解決して、光路長の可変時の光軸ずれを抑制して、安定な干渉強度が得られるようにした光遅延干渉計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の光遅延干渉計は、
位相が所定シンボルレートで変調された位相変調光を入射させるための光入射部(21)と、
前記光入射部から入射された位相変調光を、異なる2方向に分波するとともに、該2方向から入射する光を合波するビームスプリッタ(22)と、
互いに直交する一対の反射面(23a、23b)を有し、前記ビームスプリッタで分波された一方の光を一方の反射面に非直交の入射角で受けて他方の反射面へ反射させ、該他方の反射面から入射光軸と平行な光軸に沿って前記ビームスプリッタに折り返す第1の直交ミラー(23)と、
互いに直交する一対の反射面(24a、24b)を有し、前記ビームスプリッタで分波された他方の光を一方の反射面に非直交の入射角で受けて他方の反射面へ反射させ、該他方の反射面から入射光軸と平行な光軸に沿って前記ビームスプリッタに折り返す第2の直交ミラー(24)と、
前記ビームスプリッタから前記第1の直交ミラーを経由して前記ビームスプリッタに戻る第1の折り返し光路に挿入され、該第1の折り返し光路と交わる範囲内で透光性を有する可動部(32、32′)の位置または姿勢を可変させて、当該第1の折り返し光路を伝搬する光の伝搬長を可変させる光路長可変器(30)と、
前記位相変調光のシンボルレート情報を受けて、前記第1の折り返し光路と、前記ビームスプリッタから前記第2の直交ミラーを経由して前記ビームスプリッタに戻る第2の折り返し光路との間に、前記位相変調光の1シンボルに相当する光路長差が生じるように前記光路長可変器を制御する制御部(40)とを備え、
前記第1の折り返し光路を通過した光と、前記第2の折り返し光路を通過した光を前記ビームスプリッタで合波干渉させて、前記位相変調光をその位相変化に応じて強度が変調される強度変調光に変換する光遅延干渉計において、
前記光路長可変器の可動部は、
前記第1の折り返し光路の往路と復路に交わる幅を持ち、該往路に沿って一面側から入射されて反対面側から出射される光と、復路に沿って前記反対面側に入射されて前記一面側から出射される光に対する伝搬長が等しくなる外形形状を有し、さらに、前記往路と復路がなす面と直交し、且つ前記第1の直交ミラーの前記一対の反射面が交わる境界線(23c)を含む平面に沿って位置あるいは姿勢を変化させて、前記折り返し光路の往路と復路の長さを共に可変させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2の光遅延干渉計は、請求項1記載の光遅延干渉計において、
前記光路長可変器は、
前記第1の折り返し光路の往路と復路に交わる幅を有し、前記第1の直交ミラーの一対の反射面が交わる境界線に沿った方向に厚みが漸増するくさび型に形成された透光性を有する固定部(31)と、
前記固定部と等しい形状のくさび型に形成され、前記第1の折り返し光路の往路と復路に交わる前記固定部の一面側に、その頂部と底部が反転した状態で対向配置され、前記直交ミラーの一対の反射面が交わる境界線に沿った方向に移動自在な透光性を有する可動部(32)とを有し、
前記可動部の位置変化により、前記第1の折り返し光路を通過する光の伝搬長を可変させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3の光遅延干渉計は、請求項1記載の光遅延干渉計において、
前記光路長可変器の可動部は、
前記第1の折り返し光路の往路と復路に交わる幅と所定厚とを有する透光性の板状に形成され、前記往路と復路に直交する軸を中心に回動自在に形成され、
前記可動部の角度変化により、前記第1の折り返し光路を通過する光の伝搬長を可変させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項4の光遅延干渉計は、請求項1〜3のいずれかに記載の光遅延干渉計において、
前記光入射部と前記ビームスプリッタの間に挿入され、前記位相変調光を2分岐してその一方の位相変調光と他方の位相変調光とを平行な光軸で前記ビームスプリッタへ入射させ、前記一方の位相変調光に対して前記ビームスプリッタで分波された2つの光がそれぞれ前記第1の折り返し光路と前記第2の折り返し光路を経て前記ビームスプリッタに戻り合波され、前記他方の位相変調光に対して前記ビームスプリッタで分波された2つの光がそれぞれ前記第1の折り返し光路と前記第2の折り返し光路を経て前記ビームスプリッタに戻り合波されるようする分岐入射部(50)と、
前記第1の折り返し光路または第2の折り返し光路のいずれかに挿入され、前記一方の位相変調光の前記ビームスプリッタへの戻り光と、前記他方の位相変調光の前記ビームスプリッタへの戻り光との間にπの位相差を付与する位相差付与部(60)とを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明の光遅延干渉計は、第1の折り返し光路に挿入された光路長可変器の可動部が、その折り返し光路がなす面と直交し且つ第1の直交ミラーの一対の反射面が交わる境界線を含む平面に沿ってその位置あるいは姿勢を変化させて、第1の折り返し光路を伝搬する光の伝搬長を可変させる構造を有しているから、その可動により、たとえ第1の直交ミラーへの出射光軸のシフトが生じても、そのシフト方向は、第1の直交ミラーの一対の反射面が交わる境界線に沿った方向となり、その入射軸と平行な光軸で折り返されて可動部に再入射され、可動部において逆方向の光軸シフトが生じるから、光路長可変器の可動による光軸シフトは相殺された状態でビームスプリッタに戻される。
【0014】
このため、入射する位相変調光のシンボルレートに応じて遅延量を可変しても、それによる光軸ずれが抑制されて、それによる干渉強度の変化も抑制することができ、位相変調光の位相変化に正確に対応して強度が変調される光を得ることができる。
【0015】
また、請求項4のように、位相変調光を2分岐してビームスプリッタに入射させるとともに、その分岐した一方の位相変調光と他方の位相変調光のビームスプリッタへの戻り光の間に位相差πを付与するように構成した場合には、1シンボル分の遅延に加えて、合波する光位相がπ異なる2種類の強度変調光を得ることができ、0とπの2値の位相変調がなされた位相変調光の場合に、その位相変化に対して強度の変化が互いに反転した2種類の強度変調光を得ることができ、それらを受光して得られる反転信号を解析する場合に便利である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態の全体構成図
【図2】第1の実施形態に用いた光路長可変器の動作を説明するための図
【図3】第1の実施形態の動作を説明するための図
【図4】本発明の第2の実施形態の全体構成図
【図5】第2の実施形態に用いた光路長可変器の動作を説明するための図
【図6】本発明の第3の実施形態の全体構成図
【図7】第3の実施形態の要部の構成例を示す図
【図8】第3の実施形態の動作を説明するための図
【図9】本発明の第4の実施形態の全体構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、図面に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した光遅延干渉計20の全体構成を示している。なお、図1における各部の方向を規定するために、XYZの直交三次元空間を定義している。
【0018】
図1において、所定のシンボルレートで位相変調された位相変調光Px(ここでは直線偏光とする)は、ファイバコネクタ21aやコリメートレンズ21b等からなる光入射部21を経て、X軸に平行な光軸に沿ってビームスプリッタ22に入射される。
【0019】
ビームスプリッタは22は偏光無依存型のものであり、X軸、Y軸に対して45°の傾きをもつ分波の基準となる境界面22aに対して45°の角度でX軸に平行な光軸に沿って入射された位相変調光Px′を、互いに直交する異なる2方向(X軸方向およびY軸方向)に分波し、その2方向から入射する光を合波する。
【0020】
ここで、ビームスプリッタ22からX軸に平行な光軸に沿って出射された光Pxa1 は、後述する光路長可変器30に入射されて遅延を受け、その遅延された光Pxa2 が、第1の直交ミラー23の一方の反射面23aに45°の入射角(実際には直交ミラーの原理から90°以外の任意の角度であればよい)で入射する。
【0021】
ここで、第1の直交ミラー23の互いに直交した一対の反射面23a、23bが交わる境界線23cはZ軸に平行で、反射面23a、23bはXY平面上に直立している。
【0022】
したがって、反射面23aに入射した光Pxa2 は、90°の角度で反射してY軸に平行な光軸に沿って他方の反射面23bへ入射し、さらに90°の角度で反射する。この反射面23bで反射した光Pxa3
は、光Pxa2 と平行な光軸で折り返され、前記光路長可変器30に入射されて再度遅延を受け、その遅延された光Pxa4 が、ビームスプリッタ22に再入射される。
【0023】
一方、ビームスプリッタ22からY軸に平行な光軸に沿って出射された光Pxb1 は、第2の直交ミラー24の一方の反射面24aに45°の入射角(実際には直交ミラーの原理から90°以外の任意の角度であればよい)で入射する。
【0024】
ここで、第2の直交ミラー24の互いに直交した一対の反射面24a、24bが交わる境界線24cはZ軸に平行であり、反射面24a、24bはXY平面上に直立している。
【0025】
したがって、反射面24aに入射した光Pxb1 は、90°の角度で反射してX軸に平行な光軸に沿って他方の反射面24bへ入射し、さらに90°の角度で反射する。この反射面24bで反射した光Pxb2
は、光Pxb1 と平行な光軸で折り返され、ビームスプリッタ22に再入射される。
【0026】
上記した各部の配置や向関係が適正であれば、ビームスプリッタ22と第1の直交ミラー23との間に形成される第1の折り返し光路を経た光Pxa4 と、ビームスプリッタ22と第2の直交ミラー24との間に形成される第2の折り返し光路を経た光Pxb1 の光軸は、ビームスプリッタ22の境界面22aの一点で互いに直交し、ビームスプリッタ22の可逆性により、互いの光が合波された第1の合波光Pam1
と第2の合波光Pam2 とが、それぞれX軸、Y軸に沿って出射される。
【0027】
ここで、ビームスプリッタ22と第1の直交ミラー23との間に形成される第1の折り返し光路の光路長L1と、ビームスプリッタ22と第2の直交ミラー24との間に形成される第2の折り返し光路の光路長L2との間に、位相変調光Pxの1シンボルに相当する時間Ts(単純な2値変調方式の場合には1ビット相当時間)に光速cを乗じて得られる距離ΔLsの差があれば、前後のシンボルの光信号の位相変化に応じて強度が変調される強度変調光を得ることができる。
【0028】
最も単純な例で言えば、データの0、1に対してそれぞれ変調位相を0、πを割り当てた2相変調方式であれは、前後のシンボル位相が同一のときには、それらが同相合波されて光強度は最大となり、逆に前後のシンボル位相が逆相のときには、それらが相殺合波されて光強度は最小となり、大小2つの強度の間を変化する強度変調光となる。
【0029】
前記した1シンボル相当の距離差ΔLsは、位相変調光のシンボルレートに依存するので、入射する位相変調光のシンボルレートに応じて光路長可変器30による遅延量を制御する必要がある。
【0030】
その遅延量可変のために、この実施形態では、ガラス等の透光性のある材質で、断面が2等辺三角形のくさび型に形成された一組の固定透光体31と可動透光体32を用いている。
【0031】
これら固定透光体31、可動透光体32は、第1の折り返し光路の往路と復路に交わる幅を有しており、固定透光体31は、底面がXY平面と平行で頂部稜線がY軸に平行で且つ上(Z軸方向の)に凸の状態で固定されている。
【0032】
また、可動透光体32は、固定透光体31と同一形状で、固定透光体31のビームスプリッタ側に上下反対向きに配置されており、駆動装置33によってZ軸に沿って昇降可能になっている。この駆動装置33は、シンボルレート情報を受けた制御部40からの制御により可動透光体32を所定距離昇降させる。
【0033】
図2は、上記のくさび型の透光体31、32による光の伝搬長の変化を説明するための図であり、(a)のように、入射光がある基準点Raを通過して、可動透光体32の一方の傾斜面32aのa点に入射角α1で入射すると、光はそれより小さい屈折角β1で内部を進み、他方の傾斜面32bの点bに入射角α2で入射し、それより大きい屈折角β2で外部へ出射する。
【0034】
可動透光体32から出射された光は、固定透光体31の一方の傾斜面31aの点cにβ2と等しい入射角α3で入射し、それより小さい屈折角β3(=α2)で内部を進み、他方の傾斜面31bの点dに入射角α4(=β1)で入射し、それより大きい屈折角β4(=α1)で出射し、出射側の基準点Rbを入射光と平行な光軸で通過する。
【0035】
ここで、基準点Raから基準点Rbまでの光路長Laは、
線分(Ra,a)+(a,b)+(b,c)+(c,d)+(d,Rb)
となる。
【0036】
これに対し、(b)のように、可動透光体32を上方に所定距離移動すると、入射角や屈折角の関係は不変であるが、可動透光体32への光の入射位置が点aから点a′に移動し、出射位置が点bから点b′に移動する。
【0037】
なお、二つの透光体31、32の断面形状が2等辺三角形で同一であれば、幾何学的にみて、可動透光体32が上下に移動しても固定透光体31への光入射点cは変化せず、したがって、固定透光体31の光出射点dの位置も変わらず、光軸シフトは生じない。
【0038】
また、部品精度上の問題でZ方向の光軸シフトが生じる場合もあるが、このZ方向の光軸シフトは、戻り光については逆方向のシフトになって相殺されるので、合波される際に問題にならない。
【0039】
ここで、基準点Raから基準点Rbまでの光路長Lbは、
線分(Ra,a′)+(a′,b′)+(b′,c)+(c,d)+(d,Rb)
となる。
【0040】
したがって、光路長La、Lbの差は、線分(a,b)の長さと、線分(a,a′)+(a′,b′)+(b′,b)の長さの差であり、線分(a,a′)、(b′,b)の傾きが線分(a,b)と異なるので、光路長LaよりLbの方が長くなり、その差は可動透光体32が上方に移動する程大きくなる。
【0041】
したがって、予め、可動透光体32を基準位置に固定した状態で第1の折り返し光路の長さと第2の折り返し光路の長さの差ΔLsを、対象となる位相変調光のうち最もシンボルレートが高い場合の1シンボル相当の遅延時間に合わせて設定しておき、それよりシンボルレートが低い位相変調光が入射する場合には、可動透光体32を基準位置から所定位置まで上昇させて、そのシンボルレートに対応させればよい。
【0042】
図3は、光路長可変器30により適正な遅延が与えられた状態における動作説明図であり、ビームスプリッタ22で分波された光Pxa1 、Pxb1 のシンボル位相が、(a)、(b)のように、0→π→π→0→π→…と同相で変化しているとすると、第1の折り返し光路を経由してビームスプリッタ22に戻ってきた光Pxa4
は、元の光に対して光路の往復の基本長に対応した遅延To と1シンボル相当分の遅延Tsの合計の時間だけ遅れる。
【0043】
一方、第2の折り返し光路を経由してビームスプリッタ22に戻って来た光Pxb2 は、前記基本長に対応した遅延To だけ遅れるので、ちょうど1シンボル分ずれた光同士が合波されることになり、その合波されるシンボル位相が同相のときは互いに強め合い、逆相のときは互いに弱め合うので、(e)のように、強度が2通りの値の間を遷移する強度変調光Pam1
、Pam2 が得られる。
【0044】
このように、実施形態の光遅延干渉計20は、光路長可変器30の可動部である可動透光体32を第1の直交ミラー23の一対の反射面23a、23bが交わる境界線23cに沿って移動させることで、第1の折り返し光路を伝搬する光の伝搬長を可変しているので、たとえその移動方向に光軸がシフトしても、第1の直交ミラー23での光軸ずれは発生せずにそのシフトした光軸のまま光路長可変器30に折り返されて、逆方向の光軸シフトによりその光軸シフトが相殺された状態でビームスプリッタ22に戻され、種々のシンボルレートの位相変調光を、その位相変化に強度が正しく追従変化する強度変調光に安定に変換することができる。
【0045】
なお、この実施形態では、断面形状が等しい2等辺三角形のくさび型の透光体31、32を組合せて用いるとともに、直交ミラー23側を固定し、ビームスプリッタ22側をZ軸方向に可動させていたが、反対に、直交ミラー23側をZ軸方向に可動し、ビームスプリッタ22側を固定してもよい。
【0046】
また、2つの透光体の形状を等しくしていることで、一方を移動しても第1の直交ミラー23との間の光軸シフトが原理上生じないようにしていたが、形状が異なる透光体を組合せた場合には、その透光体の移動に伴って第1の直交ミラー23との間の光軸シフトが生じるが、その場合でも、透光体の移動方向が直交ミラー23の一対の反射面23a、23bが交わる境界線23cに沿った方向であれば、そのシフトした光軸のまま光路長可変光器30に折り返されるので、その光軸シフトを相殺することができる。したがって、くさび型の透光体を組合せて用いる場合には、第1の直交ミラー23の一対の反射面が交わる境界線23cに沿った方向に厚みが漸増する断面形状であればよい。
【0047】
(第2の実施形態)
前記実施形態の光路長可変器30は、くさび型の一組の透光体31、32を用い、その一方を第1の直交ミラー23の一対の反射面23a、23bが交わる境界線23cに沿って移動させることで、第1の折り返し光路を伝搬する光の伝搬長を可変していたが、図4に示すように、折り返し光路に交わる幅と所定の厚さ(ここでは一定とするが厚さが徐々に変化する形状でもよい)を有する板状透光体32′を駆動装置33′によって回動させて、第1の折り返し光路を伝搬する光の伝搬長を可変することもできる。
【0048】
この場合、図5の(a)に示すように、入射光がある基準点Raを通過して、可動透光体32′の一面32aのa点に入射角α1で入射すると、光はそれより小さい屈折角β1で内部を進み、反対面32bの点bに入射角α2で入射し、それより大きい屈折角β2で出射し、出射側の基準点Rbを入射光と平行な光軸で通過する。
【0049】
ここで、基準点Raから基準点Rbまでの光路長Laは、
線分(Ra,a)+(a,b)+(b,Rb)
となる。
【0050】
これに対し、(b)のように、可動透光体32′を時計回りに回転させると、一面32aの点a′に入射角α1′で入射し、それより小さいβ1′の屈折角で内部を通過し、反対面32bの点b′に入射角α2′で入射して、それより大きい屈折角β2′で外部へ出射される。ここで、入射角、屈折角は(a)の状態より大きくなるので、基準点間の光路長Lbは、(a)の光路長Laより長くなる。
【0051】
ただし、この場合、出射点の高さ位置(Z軸方向の位置)が点bから点b′のように上下方向にずれ、第1の直交ミラー23に対してΔZの光軸シフトが発生するが、前記したように、その光軸シフト方向が一対の反射面23a、23bの境界線23cの方向であるから、そのシフト状態が維持されて折り返され、可動透光体32′でその光軸シフトが相殺されて、ビームスプリッタ22へ戻される。
【0052】
なお、光路長可変器30としては、上記のくさび型や厚さ一定の板型以外の外形であってもよく、第1の折り返し光路の往路と復路に交わる幅を持ち、往路に沿って一面側から入射されて反対面側から出射される光と、復路に沿って反対面側に入射されて一面側から出射される光に対する伝搬長が等しく、入出射の光軸が平行(段差があってもよい)となる形状、構造を有し、その可動部は、往路と復路がなす面と直交し、且つ第1の直交ミラー23の一対の反射面23a、23bが交わる境界線23cを含む平面に沿って位置あるいは姿勢を変化させるものであればよい。
【0053】
(第3の実施形態)
前記実施形態では、位相変調光と、その位相変調光に1シンボル相当の遅延を与えた光とを合波して強度変調光に変換していたが、1シンボル相当の遅延に加えて、光位相でπの位相差を付与して合波することで、位相変化に対して強度変化が互いに反転する2種類の強度変調光を得ることができ、それらを受光して得られる反転信号を解析する場合に便利である。
【0054】
図6はその一例を示すものであり、光入射部21とビームスプリッタ22の間に分岐入射部50を設けるとともに、ビームスプリッタ22と第2の直交ミラー24の間に位相差付与部60を設けている。
【0055】
分岐入射部50は、入射された位相変調光Px′を等しい光路長で2分岐して、その一方の位相変調光Pxxと他方の位相変調光Pxyとを平行な光軸でビームスプリッタ22へ入射させ、一方の位相変調光Pxxに対してビームスプリッタ22で分波された2つの光Pxxa1、Pxxb1が、それぞれ第1の折り返し光路と第2の折り返し光路を経てビームスプリッタ22に戻り合波され、他方の位相変調光Pxyに対してビームスプリッタ22で分波された2つの光Pxya1、Pxyb1が、それぞれ第1の折り返し光路と第2の折り返し光路を経てビームスプリッタ22に戻り合波されるようにする。
【0056】
この分岐入射部50は、例えば図7のように、入射光Px′を45°の入射角でハーフミラー51に入射して2分岐し、その一方を平面ミラー52に45°の入射角で入射して入射光Px′と平行な光軸の一方の分岐光Pxxを出射する。また、ハーフミラー51で分岐された他方の光を平面ミラー53に45°の入射角で入射し、その反射光をさらに平面ミラー54に45°の入射角で入射させ、入射光Px′と平行な光軸の他方の分岐光Pxyを出射する。ここで、ハーフミラー51から平面ミラー52までの距離と、平面ミラー53、54の間の距離とを一致させておけば、分岐光Pxx、Pxyの間に光路長の差は生じない。
【0057】
また、位相差付与部60は、第2の折り返し光路(第1の折り返し光路でもよい)に挿入され、一方の位相変調光Pxxについてのビームスプリッタ22への戻り光Pxxb3と、他方の位相変調光Pxyについてのビームスプリッタ22への戻り光Pxyb3との間にπの位相差を付与する。なお、位相差付与部60としては、光の位相でπの位相差を与えることができるものであればよく、ここでは薄いガラス板を両方の光軸に挿入して、光軸に対する傾きを調整することで、両方の光に相対的にπの位相差を与えている。なお、このように2つの光軸にガラス板等を挿入して相対的に位相差を付与する場合、厳密には、両方の共通の光遅延量を見込んで光路長可変器30側の遅延量を設定する必要があるが、通常は1シンボル分の遅延量に比べて小さいので無視してもよい。
【0058】
このように構成した光遅延干渉計20では、ビームスプリッタ22で分波された光Pxxa1、Pxya1、Pxxb1、Pxyb1のシンボル位相が、図8の(a)〜(d)のように、0→π→π→0→π→…と同相で変化しているとすると、第1の折り返し光路を経由してビームスプリッタ22に戻ってきた光Pxxa4、Pxya4は、(e)、(f)に示すように、元の光に対して光路の往復の基本長に対応した遅延To
と1シンボル相当分の遅延Tsの合計の時間だけ遅れる。
【0059】
一方、第2の折り返し光路を経由してビームスプリッタ22に戻って来た光Pxxb3、Pxyb3は、図8の(g)、(h)のように、元の光に対して前記基本長に対応した遅延To だけ遅れ、しかも、一方の光Pxyb3の位相は他方の光Pxxb3に対して反転している。
【0060】
したがって、ビームスプリッタ22に戻って来て互いの光軸が交わる光Pxxa4、Pxxb3は、ちょうど1シンボル分ずれた状態で合波されることになり、その合波されるシンボル位相が同相のときは互いに強め合い、逆相のときは互いに弱め合うので、(i)のように、強度が2通りの値の間を遷移する強度変調光Pam1
、Pam2 が得られる。
【0061】
また、ビームスプリッタ22に戻って来て互いの光軸が交わる光Pxya4、Pxyb3は、ちょうど1シンボル分ずれ、且つ一方のシンボル位相が反転した状態で合波されることになり、(j)のように、(i)に示した強度変調光と逆の強度変化を示す強度変調光Pam3
、Pam4 が得られる。
【0062】
なお、ここでは、光路長可変器30をくさび型の固定透光体31と昇降移動式の可動透光体32とで構成した場合について説明したが、図9のように、光路長可変器30を前記した板状の回動式の可動透光体32′で構成してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、位相差付与部60を第2の折り返し光路の復路側に挿入していたが、往路側に挿入してもよく、また、第1の折り返し光路の往路または復路に挿入してもよい。
【符号の説明】
【0064】
20……光遅延干渉計、21……光入射部、22……ビームスプリッタ、23……第1の直交ミラー、24……第2の直交ミラー、30……光路長可変器、31……固定透光体、32、32′……可動透光体、33、33′……駆動装置、40……制御部、50……分岐入射部、60……位相差付与部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相が所定シンボルレートで変調された位相変調光を入射させるための光入射部(21)と、
前記光入射部から入射された位相変調光を、異なる2方向に分波するとともに、該2方向から入射する光を合波するビームスプリッタ(22)と、
互いに直交する一対の反射面(23a、23b)を有し、前記ビームスプリッタで分波された一方の光を一方の反射面に非直交の入射角で受けて他方の反射面へ反射させ、該他方の反射面から入射光軸と平行な光軸に沿って前記ビームスプリッタに折り返す第1の直交ミラー(23)と、
互いに直交する一対の反射面(24a、24b)を有し、前記ビームスプリッタで分波された他方の光を一方の反射面に非直交の入射角で受けて他方の反射面へ反射させ、該他方の反射面から入射光軸と平行な光軸に沿って前記ビームスプリッタに折り返す第2の直交ミラー(24)と、
前記ビームスプリッタから前記第1の直交ミラーを経由して前記ビームスプリッタに戻る第1の折り返し光路に挿入され、該第1の折り返し光路と交わる範囲内で透光性を有する可動部(32、32′)の位置または姿勢を可変させて、当該第1の折り返し光路を伝搬する光の伝搬長を可変させる光路長可変器(30)と、
前記位相変調光のシンボルレート情報を受けて、前記第1の折り返し光路と、前記ビームスプリッタから前記第2の直交ミラーを経由して前記ビームスプリッタに戻る第2の折り返し光路との間に、前記位相変調光の1シンボルに相当する光路長差が生じるように前記光路長可変器を制御する制御部(40)とを備え、
前記第1の折り返し光路を通過した光と、前記第2の折り返し光路を通過した光を前記ビームスプリッタで合波干渉させて、前記位相変調光をその位相変化に応じて強度が変調される強度変調光に変換する光遅延干渉計において、
前記光路長可変器の可動部は、
前記第1の折り返し光路の往路と復路に交わる幅を持ち、該往路に沿って一面側から入射されて反対面側から出射される光と、復路に沿って前記反対面側に入射されて前記一面側から出射される光に対する伝搬長が等しくなる外形形状を有し、さらに、前記往路と復路がなす面と直交し、且つ前記第1の直交ミラーの前記一対の反射面が交わる境界線(23c)を含む平面に沿って位置あるいは姿勢を変化させて、前記折り返し光路の往路と復路の長さを共に可変させることを特徴とする光遅延干渉計。
【請求項2】
前記光路長可変器は、
前記第1の折り返し光路の往路と復路に交わる幅を有し、前記第1の直交ミラーの一対の反射面が交わる境界線に沿った方向に厚みが漸増するくさび型に形成された透光性を有する固定部(31)と、
前記固定部と等しい形状のくさび型に形成され、前記第1の折り返し光路の往路と復路に交わる前記固定部の一面側に、その頂部と底部が反転した状態で対向配置され、前記直交ミラーの一対の反射面が交わる境界線に沿った方向に移動自在な透光性を有する可動部(32)とを有し、
前記可動部の位置変化により、前記第1の折り返し光路を通過する光の伝搬長を可変させることを特徴とする請求項1記載の光遅延干渉計。
【請求項3】
前記光路長可変器の可動部は、
前記第1の折り返し光路の往路と復路に交わる幅と所定厚とを有する透光性の板状に形成され、前記往路と復路に直交する軸を中心に回動自在に形成され、
前記可動部の角度変化により、前記第1の折り返し光路を通過する光の伝搬長を可変させることを特徴とする請求項1記載の光遅延干渉計。
【請求項4】
前記光入射部と前記ビームスプリッタの間に挿入され、前記位相変調光を2分岐してその一方の位相変調光と他方の位相変調光とを平行な光軸で前記ビームスプリッタへ入射させ、前記一方の位相変調光に対して前記ビームスプリッタで分波された2つの光がそれぞれ前記第1の折り返し光路と前記第2の折り返し光路を経て前記ビームスプリッタに戻り合波され、前記他方の位相変調光に対して前記ビームスプリッタで分波された2つの光がそれぞれ前記第1の折り返し光路と前記第2の折り返し光路を経て前記ビームスプリッタに戻り合波されるようする分岐入射部(50)と、
前記第1の折り返し光路または第2の折り返し光路のいずれかに挿入され、前記一方の位相変調光の前記ビームスプリッタへの戻り光と、前記他方の位相変調光の前記ビームスプリッタへの戻り光との間にπの位相差を付与する位相差付与部(60)とを設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光遅延干渉計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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