説明

光電変換材料用半導体

【構成】半導体と分光増感色素とを含有した液体を加熱還流して、該半導体表面に該分光増感色素を吸着させてなる光電変換材料用半導体である。
【効果】半導体表面に分光増感色素が強固に吸着するため、優れた光電変換効率を有する。太陽電池などの種々の光電変換材料に有用である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光電変換材料に用いる半導体に関する。また、その半導体を用いた太陽電池に関する。
【0002】
【従来の技術】光電変換材料とは、電極間の電気化学反応を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する材料である。光電変換材料に光を照射すると、一方の電極側で電子が発生し、対電極に移動する。対電極に移動した電子は、電解質中をイオンとして移動して一方の電極にもどる。すなわち、光電変換材料は光エネルギーを電気エネルギーとして連続して取り出せる材料であり、たとえば、太陽電池などに利用されている。この光電変換材料は、半導体表面に可視光領域に吸収を持つ分光増感色素を吸着させたものが用いられている。たとえば、特開平1−220380号には、金属酸化物半導体の表面に、遷移金属錯体などの分光増感色素層を有する太陽電池を記載している。また、特許出願公表平5−504023号には、金属イオンでドープした酸化チタン半導体層の表面に、遷移金属錯体などの分光増感色素層を有する太陽電池を記載している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記の特開平1−220380号や特許出願公表平5−504023号には、半導体の表面に分光増感色素を吸着する方法として、半導体を分光増感色素の水溶液に室温下で浸漬する方法を記載している。しかしながら、この方法では、必要な量の分光増感色素を吸着し難く、また、強固に吸着することができない。このため、吸着処理に長い時間が必要になったり、また、半導体の光電変換効率が低下するなどの問題がある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記の問題を解決するために、種々の開発研究を行った結果、(1)半導体と分光増感色素とを含有した液体を加熱還流して、該半導体表面に該分光増感色素を吸着させると、優れた光電変換効率を有する光電変換材料用半導体が効率よく得られること、(2)本発明の光電変換材料用半導体は、太陽電池などの光電変換材料に有用であることなどを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の目的は、優れた光電変換効率を有する光電変換材料用半導体を提供することにある。さらに、この光電変換材料用半導体を用いた太陽電池などの光電変換材料を提供することにある。
【0005】本発明は、半導体と分光増感色素とを含有した液体を加熱還流して、該半導体表面に該分光増感色素を吸着させた光電変換材料用半導体である。本発明において、半導体としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウムなどの公知の半導体の一種または二種以上を用いることができる。特に、安定性、安全性の点から酸化チタンが好ましい。本発明において、酸化チタンとはアナタース型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸などの各種の酸化チタンあるいは水酸化チタン、含水酸化チタンを意味する。前記の半導体は、粒子状または膜状の半導体を用いることができる。膜状の半導体、特に、酸化チタン膜を用いるのが好ましく、導電性支持体上に形成した膜状の半導体を用いるのが好ましい。
【0006】また、本発明において、分光増感色素は、可視光領域および/または赤外光領域に吸収を持つものであり、種々の金属錯体や有機色素の一種または二種以上を用いることができる。本発明においては、分光増感色素の分子中にカルボキシル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシル基、スルホン基、カルボキシアルキル基の官能基を有するものが半導体への吸着が早いため、好ましい。また、分光増感の効果や耐久性に優れているため、金属錯体が好ましい。金属錯体としては、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンなどの金属フタロシアニン、クロロフィル、ヘミン、特開平1−220380号や特許出願公表平5−504023号に記載のルテニウム、オスミウム、鉄、亜鉛の錯体を用いることができる。有機色素としては、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン色素を用いることができる。シアニン系色素としては、具体的には、NK1194、NK3422(いずれも日本感光色素研究所製)が挙げられる。メロシアニン系色素としては、具体的には、NK2426、NK2501(いずれも日本感光色素研究所製)が挙げられる。キサンテン系色素としては、具体的には、ウラニン、エオシン、ローズベンガル、ローダミンB、ジブロムフルオレセインが挙げられる。トリフェニルメタン色素としては、具体的には、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレットが挙げられる。
【0007】前記の半導体と前記の分光増感色素とを含有した液体を加熱還流して、該半導体表面に該分光増感色素を吸着させる。前記の液体としては、使用する分光増感色素を溶解するものであればよく、具体的には、水、アルコール、トルエン、ジメチルホルムアミドを用いることができる。前記の液体に半導体と分光増感色素とを含有させ、次いで、該液体の(沸点−10℃)〜沸点、好ましくは(沸点−5℃)〜沸点の温度範囲に加熱し、還流下、該温度を保持する。加熱還流の時間は適宜設定することができるが、5分〜48時間程度が適当である。半導体と分光増感色素の含有量は、用途に応じて適宜設定できる。このようにして、本発明の光電変換材料用半導体を得る。必要に応じて、本発明の光電変換材料用半導体を加熱還流した液体から分離したり、乾燥したり、あるいは焼成したりしてもよい。
【0008】本発明の光電変換材料用半導体が粒子状の場合には、光電変換材料用半導体を導電性支持体に塗布あるいは吹き付けて、該導電性支持体上に該光電変換材料用半導体の膜を形成して、光電変換材料に用いるのがよい。また、本発明の光電変換材料用半導体が膜状であって、導電性支持体上に保持していない場合には、光電変換材料用半導体を導電性支持体上に付けて、光電変換材料に用いるのがよい。
【0009】本発明の光電変換材料用半導体は太陽電池に用いることができる。すなわち、透明性導電膜をコートしたガラス板などの支持体上に光電変換材料用半導体の膜を形成して電極とし、次に、対電極として別の透明性導電膜をコートしたガラス板などの支持体を備え、これらの電極間に電解質を封入して太陽電池とすることができる。本発明の光電変換材料用半導体に吸着した分光増感色素に太陽光を照射すると、分光増感色素は可視領域の光を吸収して励起する。この励起によって発生する電子は半導体に移動し、次いで、透明導電性ガラス電極を通って対電極に移動する。対電極に移動した電子は、電解質中の酸化還元系を還元する。一方、半導体に電子を移動させた分光増感色素は、酸化体の状態になっているが、この酸化体は電解質中の酸化還元系によって還元され、元の状態に戻る。このようにして、電子が流れ、本発明の光電変換材料用半導体を用いた太陽電池を構成することができる。
【0010】
【実施例】本発明を以下の実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0011】実施例11.半導体の調製80g/lの硫酸チタニル溶液1リットルを85℃に加熱し、この温度で3時間保持し、硫酸チタニルを加水分解して酸化チタン微粒子を得た。このようにして得られた酸化チタン微粒子を濾過し、洗浄した後、水に分散させて、TiO2基準で200g/lの懸濁液とした。次いで、この懸濁液に硝酸水溶液を添加し、該懸濁液のpHを1.0にした後、オートクレーブに入れ、180℃の温度で13時間、飽和蒸気圧下で水熱処理を行った。次に、この懸濁液に、懸濁液中のTiO2 基準に対してポリエチレングリコール(平均分子量20000)40重量%を添加し、60℃の温度に加熱した後、フッ素をドープした酸化スズをコートした透明導電性ガラス板に塗布し、自然乾燥し、引き続き、600℃の温度で30分間焼成して、支持体上に膜状の酸化チタンを形成した。
【0012】2.分光増感色素の吸着シス−(SCN- 2 −ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)で表される分光増感色素をエタノール液に溶解した。この分光増感色素の濃度は3×10-4モル/lであった。次に、このエタノールの液体に、膜状の酸化チタンを形成した前記の支持体を入れ、加熱し、沸点の温度で加熱還流を15分間して、本発明の光電変換材料用半導体(試料A)を得た。この試料Aの分光増感色素の吸着量は、酸化チタン膜の比表面積1cm2あたり61μgであった。
【0013】3.光電変換材料の作成前記の試料Aを一方の電極として備え、対電極として、フッ素をドープした酸化スズをコートし、さらにその上に白金を担持した透明導電性ガラス板を用いた。2つの電極の間に電解質を入れ、この側面を樹脂で封入した後、リード線を取付けて、本発明の光電変換材料(試料B)を作成した。なお、前記の電解質は、体積比が1:4であるアセトニトリル/炭酸エチレンの混合溶媒に、テトラプロピルアンモニウムアイオダイドとヨウ素とを、それぞれの濃度が0.46モル/l、0.06モル/lとなるように溶解したものを用いた。前記の試料Bに、ソーラーシュミレーターで100W/m2 の強度の光を照射したところ、Voc(開回路状態の電圧)は0.62Vであり、Joc(回路を短絡したとき流れる電流の密度)は1.22mA/cm2 であり、FF(曲線因子)は0.70であり、η(変換効率)は5.3%であり、太陽電池として有用であることがわかった。
【0014】比較例1前記実施例1の2.において、シス−(SCN- 2 −ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)で表される分光増感色素を溶解したエタノール液に、室温下、膜状の酸化チタンを形成した前記の支持体を入れ、15分間保持すること以外は実施例1の2.と同様に処理して、光電変換材料用半導体(試料C)を得た。この試料Cの分光増感色素の吸着量は、酸化チタン膜の比表面積1cm2 あたり10μgであった。
【0015】比較例2前記実施例1の2.において、シス−(SCN- 2 −ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)で表される分光増感色素を溶解したエタノール液に、室温下、膜状の酸化チタンを形成した前記の支持体を入れ、16時間保持すること以外は実施例1の2.と同様に処理して、光電変換材料用半導体(試料D)を得た。この試料Dの分光増感色素の吸着量は、酸化チタン膜の比表面積1cm2 あたり65μgであった。前記実施例1の3.において、前記の試料Dを用いること以外は実施例1の3.と同様に処理して、光電変換材料(試料E)を得た。前記の試料Eに、ソーラーシュミレーターで100W/m2 の強度の光を照射したところ、Voc(開回路状態の電圧)は0.57Vであり、Joc(回路を短絡したとき流れる電流の密度)は1.09mA/cm2 であり、FF(曲線因子)は0.68であり、η(変換効率)は4.3%であった。
【0016】前記の実施例および比較例から明らかなように、半導体と分光増感色素とを含有した液体を加熱還流して、該半導体表面に該分光増感色素を吸着させると、分光増感色素が強固に吸着するため、優れた光電変換効率を有する光電変換材料用半導体が得られた。
【0017】
【発明の効果】本発明は、半導体と分光増感色素とを含有した液体を加熱還流して、該半導体表面に該分光増感色素を吸着させてなる光電変換材料用半導体であって、優れた光電変換効率を有するため、種々の光電変換材料に有用である。また、本発明は、前記の光電変換材料用半導体を用いた太陽電池であって、廉価であって、しかも、優れた光電変換効率を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】半導体と分光増感色素とを含有した液体を加熱還流して、該半導体表面に該分光増感色素を吸着させてなることを特徴とする光電変換材料用半導体。
【請求項2】膜状の半導体を用いてなることを特徴とする請求項1に記載の光電変換材料用半導体。
【請求項3】半導体が酸化チタンであることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換材料用半導体。
【請求項4】分光増感色素が金属錯体であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換材料用半導体。
【請求項5】請求項1に記載の光電変換材料用半導体を用いてなることを特徴とする太陽電池。