説明

光音響顕微鏡

【課題】縦分解能が高く、S/Nの高い光音響波を短時間で検出でき、イメージングの場合に処理時間の短縮及び画質の向上が図れる光音響顕微鏡を提供する。
【解決手段】観察対象物の吸収波長域の励起光Lを標本21に照射させる対物レンズ11と、標本21に対する励起光Lの照射位置を走査させる走査部20と、光音響波を検出する光音響波検出部19と、励起光Lの照射により標本21から発生される光音響波Uを光音響波検出部19に導く超音波導波系と、を有し、超音波導波系は、対物レンズ11の焦点位置に略一致させた焦点位置を有する超音波レンズ16と、超音波レンズ16の像側で、対物レンズ11の焦点位置と略共役な位置に配置された共焦点絞り17と、を有し、共焦点絞り17を通過した標本21からの光音響波Uを光音響波検出部19に導く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光音響波とは、物質に吸収波長域の光を照射した際に生じる熱弾性過程において発生する弾性波の一種である。そのため、光音響波は、吸収特性をイメージングする手法として注目されている。また、弾性波は、超音波の一種で、光に比べて散乱の影響を受けにくい特徴を有していることから、生体内部のイメージング手段として適用されている。
【0003】
光音響波を検出信号としてイメージングに適用する光音響顕微鏡は、観察対象物の吸収波長域に合わせたパルス光を励起光として用い、対物レンズにより集光させたスポットを標本内で走査して、各スポットで発生した光音響波をトランスデューサ等で検出する手法が用いられている。かかる光音響顕微鏡によると、スポットを走査した際に、集光位置に吸収物質が存在すれば、光音響波が発生するので、その光音響波を検出することにより、標本内の吸収特性をイメージングすることができる。
【0004】
このような光音響顕微鏡として、空間分解能の向上を図ったものが知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。この光音響顕微鏡では、図6に要部の模式的構成を示すように、レーザパルス光源(図示せず)からの励起光Lが、集光レンズ101、ピンホール102、対物レンズ103、補正レンズ104、三角プリズム105、シリコンオイル106、三角プリズム107及び超音波レンズ108を経て標本(図示せず)の内部に集光される。なお、三角プリズム105及び107は、シリコンオイル106を介して結合されている。そして、標本から発生される光音響波Uは、超音波レンズ108により集波されて三角プリズム107へ入射され、三角プリズム107とシリコンオイル106との接合面で反射されて超音波トランスデューサ109により検出される。
【0005】
つまり、図6に示した光音響顕微鏡では、三角プリズム105及び107を用いて、励起用光学系と超音波導波系とを同軸に配置し、更に励起光の集光スポットと超音波検出スポットとが同じ位置に収束するように、集光用の対物レンズ103と超音波検出用の超音波レンズ108とを、それらの焦点位置が共役な関係となるように配置している。これにより、対物レンズ103の集光スポットによって決定されるサブミクロンオーダの横分解能を実現している。
【0006】
したがって、かかる構成によれば、例えば、励起光として、波長630nmのレーザパルス光を用い、対物レンズ103として、NA(開口数):0.1、回折限界:3.7μmのものを用いれば、約5μmの横分解能を実現することが可能となる。
【0007】
ところが、図6に示した構成の光音響顕微鏡は、縦分解能が励起光のスポットサイズに依らず、光音響波Uの検出に用いる超音波トランスデューサ109の周波数バンドによって決定される。例えば、超音波トランスデューサ109の検出周波数が100MHzで、標本110が生体(超音波の速度:1.5mm/μs)の場合、イメージング画像の縦分解能は15μmとなり、十分な分解能が得られない。
【0008】
一方、光音響顕微鏡の縦分解能を向上させる技術として、励起手法にポンプ−プローブ法を用いた光音響顕微鏡が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。この光音響顕微鏡では、図7に要部の模式的構成を示すように、レーザパルス光源201からの励起光Lが、ビームスプリッタ202により2つの光束に分離される。そして、一方の光束は、ポンプ光Puとしてビームスプリッタ203に入射される。また、他方の光束は、ミラー204,205により順次反射させてプローブ光Prとしてビームスプリッタ203に入射される。ビームスプリッタ203は、入射されるポンプ光Puとプローブ光Prとを同軸上に合成して射出する。これにより、プローブ光Prの光路に遅延を持たせて、時間的にずれたパルストレインを形成している。
【0009】
ビームスプリッタ203から射出されるポンプ光Pu及びプローブ光Prは、レンズ206,207及びミラー208,209,210を経て対物レンズ系211により標本212に集光される。そして、標本212から発生される光音響波Uは、超音波トランスデューサ213を有する光音響波検出系により検出される。なお、標本212と光音響波検出系との間には、水等の光音響波伝達媒質214が充填されている。
【0010】
この場合、標本211からは、ポンプ光Puとプローブ光Prとによる2光子吸収過程により光音響波が生じる。この光音響波は、高エネルギー密度領域でのみ発生するので、高いセクショニング効果が得られ、縦分解能を向上させることが可能となる。
【0011】
しかし、2光子吸収過程で発生する光音響波は、通常の1光子吸収過程で発生する光音響波と周波数が同一であるため、そのままでは区別して検出することができない。そこで、図7に示す光音響顕微鏡では、ビームスプリッタ202,203間のポンプ光Puの光路とプローブ光Prの光路とに、それぞれチョッパ215,216を配置して、ポンプ光Puとプローブ光Prとをそれぞれ異なる周波数(各変調周波数:ωpu、ωpr)で変調している。そして、超音波トランスデューサ212の出力信号から、ポンプ光−プローブ光の相互作用による周波数変調(±(ωpu±ωpr))を受けた光音響波の成分みを抽出することで、2光子吸収過程で発生した光音響波のみを分離して検出するようにしている。
【0012】
図8は、この場合の各変調波の周波数特性を示す図で、横軸は周波数、縦軸は強度の相対値を示している。ここでは、励起光の繰返し周波数ω1=10kHz、ポンプ光の変調周波数ωpu=1kHz、プローブ光の変調周波数ωpr=0.7kHzとしている。図8に示すように、ポンプ−プローブ法を用いることにより、励起光の繰返し周波数のピークPAのサイドに、ω1±ωpu(=10±1[kHz])、ωl±ωpr(=10±0.7[kHz])の周波数を有するピーク(Pu、Pr)が現れる。更に、ポンプ光及びプローブ光の相互作用が生じると、周波数ωl±(ωpu±ωpr)(10+(1±0.7)[kHz]、10−(1±0.7)[kHz])のピーク(PPd、PPs)が現れることになる。
【0013】
したがって、超音波トランスデューサ212の出力信号を周波数解析し、ポンプ光及びプローブ光の相互作用によって生じた成分(ωl±(ωpu±ωpr))のみを抽出すれば、2光子吸収過程により高エネルギー密度領域で生じた光音響波のみを検出することができるので、縦分解能を向上させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2011−519281号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Konstantin Maslov, Hao F. Zhang, Song Hu and Lihong V. Wang, Opt. Lett., 33(9), 929 (2008)
【非特許文献2】Ryan L. Shelton and Brian E. Applegate, Biomed. Opt. Express, 1(2), 676 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、図7に示した構成の光音響顕微鏡においては、検出される光音響波信号を周波数解析する必要がある。そのため、十分な時間で信号を検出する必要があることから、特にイメージングの場合に時間がかかることになる。また、2光子吸収過程で生じる光音響波は、1光子吸収過程で生じる光音響波に比べて微弱であり、信号のS/Nが低下する。そのため、特にイメージングの場合には、画質の低下を招くことになる。
【0017】
したがって、かかる観点に鑑みてなされた本発明の目的は、縦分解能が高く、かつS/Nの高い光音響波を短時間で検出でき、イメージングの場合に処理時間の短縮及び画質の向上が図れる光音響顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明に係る光音響顕微鏡の要旨構成は、以下の通りである。
(1)観察対象物の吸収波長域の励起光を標本に照射させる対物レンズと、
前記標本に対する前記励起光の照射位置を走査させる走査部と、
光音響波を検出する光音響波検出部と、
前記励起光の照射により前記標本から発生される光音響波を前記光音響波検出部に導く超音波導波系と、を有し、
前記超音波導波系は、前記対物レンズの焦点位置に略一致させた焦点位置を有する超音波レンズと、該超音波レンズの像側で、前記対物レンズの焦点位置と略共役な位置に配置された共焦点絞りと、を有し、前記共焦点絞りを通過した前記標本からの光音響波を前記光音響波検出部に導く、ことを特徴とするものである。
【0019】
(2)観察対象物の吸収波長域の励起光を標本に照射させる対物レンズと、
前記標本に対する前記励起光の照射位置を走査させる走査部と、
光音響波を検出する光音響波検出部と、
前記励起光の照射により前記標本から発生される光音響波を前記光音響波検出部に導く超音波導波系と、を有し、
前記超音波導波系は、前記対物レンズの焦点位置に略一致させた焦点位置を有する第1の超音波レンズと、該第1の超音波レンズを通過した光音響波を結像する第2の超音波レンズと、該第2の超音波レンズの像側で、前記対物レンズの焦点位置と略共役な位置に配置された共焦点絞りと、を有し、前記共焦点絞りを通過した前記標本からの光音響波を前記光音響波検出部に導く、ことを特徴とするものである。
【0020】
(3)上記(1)に記載の光音響顕微鏡において、
前記共焦点絞りは、前記超音波レンズの回折限界と略同じ大きさからなる、ことを特徴とするものである。
【0021】
(4)上記(2)に記載の光音響顕微鏡において、
前記共焦点絞りは、前記第2の超音波レンズの回折限界と略同じ大きさからなる、ことを特徴とするものである。
【0022】
(5)上記(1)又は(2)に記載の光音響顕微鏡において、
前記共焦点絞りは、可変絞りからなる、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、縦分解能が高く、かつS/Nの高い光音響波を短時間で検出することができる。これにより、例えば、イメージングの場合に処理時間の短縮が図れるとともに、画質の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る光音響顕微鏡の要部の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の第2実施の形態に係る光音響顕微鏡の要部の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第3実施の形態に係る光音響顕微鏡の要部の構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第4実施の形態に係る光音響顕微鏡の要部の構成を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第5実施の形態に係る光音響顕微鏡の要部の構成を模式的に示す図である。
【図6】従来の光音響顕微鏡の要部の模式的構成を示す図である。
【図7】従来の他の光音響顕微鏡の要部の模式的構成を示す図である。
【図8】図7の光音響顕微鏡の動作を説明する変調波の周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0026】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る光音響顕微鏡の要部の構成を模式的に示す図である。この光音響顕微鏡は、対物レンズ11、補正レンズ12、三角プリズム13、光音響波反射部材14、三角プリズム15、超音波レンズ16、ピンホール17、超音波レンズ18、超音波トランスデューサ19、走査部20を備える。
【0027】
三角プリズム13,15は、対物レンズ11と標本21との間に配置される。図1では、三角プリズム13,15は、直角三角プリズムからなっており、互いの斜面同士が光音響波反射部材14を介して結合されている。光音響波反射部材14は、励起光に対しては透明で、三角プリズム15に対しては、音響インピーダンスが異なる部材、例えばシリコンオイルで構成される。
【0028】
超音波レンズ16は、対物レンズ11の光軸と同軸となるように、三角プリズム15の励起光の射出面に接合して配置される。また、超音波レンズ16の焦点位置は、対物レンズ11の焦点位置と略一致している。補正レンズ12は、三角プリズム13,15、光音響波反射部材14、超音波レンズ16等による収差を補正するもので、例えば、三角プリズム13の励起光の入射面に接合して配置される。
【0029】
ピンホール17は、三角プリズム15の超音波レンズ16が接合された面とは異なる面に対向して、超音波レンズ16の像側焦点位置に配置される。したがって、ピンホール17は、対物レンズ11の焦点位置と共役な位置に配置される共焦点絞りを構成する。超音波レンズ18は、物体側焦点位置にピンホール17が位置するように配置される。超音波トランスデューサ19は、光音響波検出部を構成するもので、超音波レンズ18を経て入射する光音響波を検出するように配置される。
【0030】
走査部20は、標本21に対して励起光の照射位置を走査させるもので、ガルバノミラー等の公知の構成により標本21に対して励起光を移動させる、又は、標本21が載置される標本ステージ(図示せず)を移動させる、あるいは、励起光と標本ステージとの双方を移動させる。また、移動方向は、対物レンズ11の光軸方向と直交する平面内での2次元方向、対物レンズ11の光軸方向のみの1次元方向、あるいは両者の移動方向を含む3次元方向であってもよい。
【0031】
上記構成において、レーザパルス光源(図示せず)からの励起光(パルス光)Lは、対物レンズ11、補正レンズ12、三角プリズム13、光音響波反射部材14、三角プリズム15及び超音波レンズ16を経て標本21に照射されて、標本21の内部に集光される。なお、対物レンズ11と標本21との間には、光音響波が伝播し易い水等の光音響波伝達媒質22が充填される。
【0032】
ここで、励起光Lは、例えば、標本21が生体で、生体内の血管をイメージングする場合には、ヘモグロビンの吸収波長の光が用いられる。なお、観察対象は血管に限定するものではなく、メラニン等の内因性物質のイメージングに適用することが可能である。この際、励起光は対象となる物質の吸収波長域の光を用いればよい。また、蛍光体や金属ナノ粒子等の外因性物質のイメージングに適用することも可能である。この際、励起光は、蛍光体の場合には対象となる蛍光体の吸収波長域の光を、金属ナノ粒子の場合には対象となる金属ナノ粒子の共鳴波長域の光をそれぞれ用いればよい。また、標本21内に複数の吸収体が存在する場合には、観察対象物の特徴的な吸収スペクトルのピークの波長の光を用いるのが望ましい。
【0033】
標本21に照射された励起光Lは、対物レンズ11の集光位置を含む励起光Lの照射部位に、励起光Lを吸収する観察対象物が存在すると、該観察対象物によって吸収される。これにより、標本21から弾性波である光音響波Uが発生される。この発生した光音響波Uは、超音波レンズ16、三角プリズム15及びピンホール17を経て超音波トランスデューサ19により検出される。
【0034】
つまり、標本21から発生した光音響波Uは、超音波レンズ16により集波されて三角プリズム15内に集束波として入射され、その斜面において、光音響波反射部材14の音響インピーダンスによって反射される。なお、光音響波反射部材14は、励起光Lに対して、好適には、その屈折率を三角プリズム13,15の屈折率と略一致させ、また、厚みも極力薄くする。これにより、光音響波反射部材14による不所望な屈折や光吸収を防止でき、励起光Lの利用効率を高めることが可能となる。
【0035】
三角プリズム15の斜面で反射される光音響波Uは、三角プリズム15から射出されて、ピンホール17に入射される。ここで、ピンホール17は、対物レンズ11の焦点位置と共役な位置に配置されており、共焦点絞りとして作用する。したがって、対物レンズ11の焦点位置で発生された光音響波のみがピンホール17を通過し、焦点位置以外で発生した光音響波はピンホール17でカットされることになる。なお、ピンホール17の大きさは、超音波レンズ16の開口数で決まる光音響波の回折限界程度にすることが望ましい。
【0036】
ピンホール17を通過した光音響波は、超音波レンズ18により平行波に変換されて超音波トランスデューサ19により検出される。したがって、本実施の形態において、超音波レンズ16、三角プリズム15、ピンホール17、超音波レンズ18は、超音波導波系を構成している。
【0037】
なお、標本21の断層像を取得する場合は、走査部20により、対物レンズ11の光軸と直交する平面内で、標本21に対して励起光Lが2次元的に走査される。そして、図示しないプロセッサにより、励起光Lの照射タイミングと同期して超音波トランスデューサ19からの出力信号が処理されて、断層像が画像化される。また、標本21の深さ方向における観察対象物の分布を検出する場合は、走査部20により、標本21に対して励起光Lが対物レンズ11の光軸方向に走査される。そして、図示しないプロセッサにより、励起光Lの照射タイミングと同期して超音波トランスデューサ19からの出力信号が処理されて、標本21の深さ方向における観察対象物の分布が画像化される。
【0038】
本実施の形態に係る光音響顕微鏡では、標本21から発生される光音響波Uを超音波トランスデューサ19に導く超音波導波系に、対物レンズ11の焦点位置と略共役な位置で、超音波レンズ16による光音響波の回折限界と略同じ大きさのピンホール17を配置している。したがって、対物レンズ11の焦点位置で発生した光音響波のみを、ピンホール17を通過されて超音波トランスデューサ19で検出でき、焦点位置以外で発生した光音響波をピンホール17でカットすることができる。これにより、標本21の深さ方向である縦分解能を向上できるとともに、焦点位置での光音響波を高いS/Nで検出することができる。また、ポンプ−プローブ法を採用する必要がないので、焦点位置での光音響波を短時間で検出することができる。したがって、例えば、イメージングの場合に、処理時間の短縮が図れるとともに、画質の向上が図れる。
【0039】
また、本実施の形態に係る光音響顕微鏡では、超音波導波系を構成し、標本21から発生される光音響波Uを集波する超音波レンズ系を、1つの超音波レンズ16を有する有限補正系としている。したがって、超音波レンズ系を無限補正系で構成する場合と比較して、超音波レンズの枚数を少なくでき、それに伴って超音波レンズ境界での光音響波Uの反射成分を抑えることができるので、光音響波Uの損失を抑えることが可能となる。
【0040】
(第2実施の形態)
図2は、本発明の第2実施の形態に係る光音響顕微鏡の要部の構成を模式的に示す図である。本実施の形態に係る光音響顕微鏡は、図1に示した光音響顕微鏡において、超音波導波系を構成し、標本21から発生される光音響波Uを集波する超音波レンズ系を、無限補正系としたものである。そのため、図2においては、三角プリズム15の励起光Lの射出面に第1の超音波レンズ31が接合されており、三角プリズム15の光音響波の射出面に第2の超音波レンズ32が接合されている。また、ピンホール17は、対物レンズ11の焦点位置と略共役な第2の超音波レンズ32の像側焦点位置に配置している。その他の構成は、図1と同様であるので、同一作用をなす素子には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0041】
本実施の形態によると、励起光Lの照射により標本21から発生した光音響波Uは、第1の超音波レンズ31により集波されて三角プリズム15内に平行波として入射されて、その斜面で反射される。また、三角プリズム15の斜面で反射される平行波の光音響波Uは、三角プリズム15から射出されて、第2の超音波レンズ32により集束されてピンホール17に入射される。ここで、ピンホール17は、第1実施の形態の場合と同様に、対物レンズ11の焦点位置と共役な位置に配置されて、共焦点絞りとして作用する。
【0042】
したがって、本実施の形態においても、対物レンズ11の焦点位置で発生した光音響波のみがピンホール17を通過し、焦点位置以外で発生した光音響波はピンホール17でカットされるので、第1実施の形態の場合と同様の効果が得られる。また、本実施の形態においては、標本21から発生される光音響波Uを集波する超音波レンズ系が無限補正系からなるので、有限補正系からなる場合と比較して、標本21から発生される光音響波Uを効率的に取り込むことが可能となる。
【0043】
(第3実施の形態)
図3は、本発明の第3実施の形態に係る光音響顕微鏡の要部の構成を模式的に示す図である。本実施の形態に係る光音響顕微鏡は、図1に示した光音響顕微鏡において、超音波レンズ16を、対物レンズ11の光軸に対して傾けて配置して、励起光光学系と超音波導波系とを分離したものである。以下、図1と同一作用をなす素子には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0044】
すなわち、図3において、レーザパルス光源(図示せず)からの励起光(パルス光)Lは、対物レンズ11により標本21の内部に集光される。また、励起光Lの照射により標本21から発生した光音響波Uは、有限補正系を構成する超音波レンズ16により集束される。そして、超音波レンズ16の像側焦点位置で、対物レンズ11の焦点位置と共役な位置に配置されたピンホール17を通過した光音響波が、超音波レンズ18を経て超音波トランスデューサ19により検出される。
【0045】
したがって、本実施の形態においても、対物レンズ11の焦点位置で発生した光音響波のみがピンホール17を通過し、焦点位置以外で発生した光音響波はピンホール17でカットされるので、第1実施の形態の場合と同様の効果が得られる。また、励起光光学系と超音波導波系とを分離して配置することで、図1の補正レンズ12、三角プリズム13、光音響波反射部材14及び三角プリズム15を不要にできるので、対物レンズ11のワーキングディスタンスを短くすることができる。これにより、対物レンズ11を高開口数として、高強度の光音響波Uを発生されることが可能となり、コントラストの高い画像を取得することが可能となる。
【0046】
(第4実施の形態)
図4は、本発明の第4実施の形態に係る光音響顕微鏡の要部の構成を模式的に示す図である。本実施の形態に係る光音響顕微鏡は、図2に示した光音響顕微鏡において、第1の超音波レンズ31及び第2の超音波レンズ32を、第3実施の形態と同様に、対物レンズ11の光軸に対して傾けて配置して、励起光光学系と超音波導波系とを分離したものである。以下、図2と同一作用をなす素子には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0047】
すなわち、図4において、レーザパルス光源(図示せず)からの励起光(パルス光)Lは、対物レンズ11により標本21の内部に集光される。また、励起光Lの照射により標本21から発生した光音響波Uは、無限補正系を構成する第1の超音波レンズ31により平行波に変換された後、第2の超音波レンズ32により集束される。そして、第2の超音波レンズ32の像側焦点位置で、対物レンズ11の焦点位置と共役な位置に配置されたピンホール17を通過した光音響波が、超音波レンズ18を経て超音波トランスデューサ19により検出される。
【0048】
したがって、本実施の形態においても、対物レンズ11の焦点位置で発生した光音響波のみがピンホール17を通過し、焦点位置以外で発生した光音響波はピンホール17でカットされるので、第2実施の形態の場合と同様の効果が得られる。また、励起光光学系と超音波導波系とを分離して配置することで、第3実施の形態の場合と同様の効果が得られる。
【0049】
(第5実施の形態)
図5は、本発明の第5実施の形態に係る光音響顕微鏡の要部の構成を模式的に示す図である。本実施の形態に係る光音響顕微鏡は、図2のピンホール17を可変ピンホール(可変絞り)41としたものである。以下、図2と同一作用をなす素子には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0050】
光音響顕微鏡において、励起光Lの照射により発生する光音響波Uは、弾性波であるため、標本21の弾性率の周波数特性によって透過率が変化する。その透過率特性は、一般に、低周波成分よりも高周波成分の透過率が低くなる。そのため、標本21の内部に集光される励起光Lの深さに応じて周波数毎に透過率が異なり、発生する光音響波Uのスペクトルの形状が変化する。その結果、第2の超音波レンズ32で集光された際の光音響波Uのスポットサイズが変化する。一般に、観察位置が深くなるに従って、高周波成分が急激に減衰されてしまうため、スポットサイズは大きくなる。
【0051】
本実施の形態に係る光音響顕微鏡によると、図5に示すように、対物レンズ11の焦点位置と共役な第2の超音波レンズ32の像側焦点位置に可変ピンホール41が配置されている。これにより、標本21の内部に集光する励起光Lの深さに合わせて、可変ピンホール41の絞り径(ピンホールの大きさ)を変えることができる。したがって、第2実施の形態の効果に加えて、標本21の深さ方向の分解能を向上させつつ、光音響波の検出のS/Nを向上することが可能となる。
【0052】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、図1、図3又は図4に示した構成においても、ピンホール17を、図5と同様に可変ピンホールとして、同様の効果を得ることもできる。また、このように、可変ピンホールを用いる場合、励起光Lが集光される標本21の深さ位置に応じて、可変ピンホールの絞り径を自動的に調整するように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0053】
11 対物レンズ
12 補正レンズ
13,15 三角プリズム
14 光音響波反射部材
16 超音波レンズ
17 ピンホール(共焦点絞り)
18 超音波レンズ
19 超音波トランスデューサ
20 走査部
21 標本
22 光音響波伝達媒質
31 第1の超音波レンズ
32 第2の超音波レンズ
41 可変ピンホール(可変絞り)
L 励起光
U 光音響波


【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象物の吸収波長域の励起光を標本に照射させる対物レンズと、
前記標本に対する前記励起光の照射位置を走査させる走査部と、
光音響波を検出する光音響波検出部と、
前記励起光の照射により前記標本から発生される光音響波を前記光音響波検出部に導く超音波導波系と、を有し、
前記超音波導波系は、前記対物レンズの焦点位置に略一致させた焦点位置を有する超音波レンズと、該超音波レンズの像側で、前記対物レンズの焦点位置と略共役な位置に配置された共焦点絞りと、を有し、前記共焦点絞りを通過した前記標本からの光音響波を前記光音響波検出部に導く、ことを特徴とする光音響顕微鏡。
【請求項2】
観察対象物の吸収波長域の励起光を標本に照射させる対物レンズと、
前記標本に対する前記励起光の照射位置を走査させる走査部と、
光音響波を検出する光音響波検出部と、
前記励起光の照射により前記標本から発生される光音響波を前記光音響波検出部に導く超音波導波系と、を有し、
前記超音波導波系は、前記対物レンズの焦点位置に略一致させた焦点位置を有する第1の超音波レンズと、該第1の超音波レンズを通過した光音響波を結像する第2の超音波レンズと、該第2の超音波レンズの像側で、前記対物レンズの焦点位置と略共役な位置に配置された共焦点絞りと、を有し、前記共焦点絞りを通過した前記標本からの光音響波を前記光音響波検出部に導く、ことを特徴とする光音響顕微鏡。
【請求項3】
前記共焦点絞りは、前記超音波レンズの回折限界と略同じ大きさからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の光音響顕微鏡。
【請求項4】
前記共焦点絞りは、前記第2の超音波レンズの回折限界と略同じ大きさからなる、ことを特徴とする請求項2に記載の光音響顕微鏡。
【請求項5】
前記共焦点絞りは、可変絞りからなる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光音響顕微鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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