説明

免疫調節剤

【課題】ガングリオシドGD3の免疫機能に関する新規の作用機序及びそれを利用した医薬用途を見出し、種々の免疫疾患の予防剤または治療剤として有効な医薬並びにそれを配合した飲食品及び飼料を提供することを課題とする。
【解決手段】ガングリオシドGD3を有効成分とする免疫機能調節剤。ガングリオシドGD3は乳由来であることが好ましい。前記免疫機能調節剤を飲食品または飼料に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガングリオシドGD3を有効成分とする免疫機能調節剤、並びにそれを配合した飲食品及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
ガングリオシドは、シアル酸を含有する糖脂質の総称で、生体では脳や赤血球中に多く含まれていることが知られている。また、種々の食品中にも含まれており、特に牛乳の中に多く含まれていることが知られている。また、ガングリオシドについては、種々のウイルスや毒性細菌に対する阻害活性、脳虚血障害やパーキンソン病による脳障害に対する治療効果、単球やマクロファージ系細胞の分化促進作用、上皮成長因子レセプターの機能調節作用等、様々な生理作用が報告されている。乳中には主にGD3とGM3の2種類のガングリオシドが含まれており、これら乳由来のガングリオシドを経口投与した場合においても、学習能の向上や、口腔内細菌叢改善作用、大腸菌の感染予防作用などが報告されている(特許文献1〜3)。また、ガングリオシド、特にGM3については、乳児の腸間粘膜細胞を成熟化させることが開示されており(特許文献4)、成熟化により、アレルゲン物質が粘膜上皮細胞の間隙から通過するのを防止したり、粘膜上でアレルゲンと結合して、その侵入を防止するIgAの産生を増加させることができることが開示されている。
【特許文献1】特開平11−246418号公報
【特許文献2】特開2005−320275号公報
【特許文献3】特開2001−2704号公報
【特許文献4】特開平8−109133号公報
【0003】
サイトカインは、主として免疫系の細胞から産生されるタンパク質性因子であり、免疫系細胞だけでなく多くの細胞に対して多彩な生理作用を及ぼすことが知られている。サイトカインの中でも、TNF−αは、生体防御、炎症反応などにおいて中心的な役割を果たす炎症性サイトカインの代表である。TNF−αの産生能に影響する因子は、生体防御能や炎症反応を調節する作用を有することが期待されている。また、インターフェロンガンマ(IFN-γ)は、細胞性免疫を制御するサイトカインの代表であり、Th0タイプのT細胞のTh1型への分化を促進することが知られている。また、IL−4は、体液性免疫を制御するサイトカインの代表であり、Th2細胞の増殖を促進すると考えられている。したがって、免疫系の組織において、IFN-γとIL−4の産生能の変化を解析することによって、存在するT細胞がTh1型優位、すなわち細胞性免疫が優位な状況にあるか、Th2型優位、すなわち体液型免疫が優位な状況にあるかを推測することが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ガングリオシドGD3の免疫機能に関する新規の作用機序及びそれを利用した医薬用途を見出し、種々の免疫疾患の予防剤として有効な医薬並びにそれを配合した飲食品及び飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、課題を解決するために、ガングリオシドGD3のサイトカインに対する機能を種々検討したところ、ガングリオシドGD3がTNF−α、IFN−γの産生を抑制し、またIL−4の産生を促進することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、ガングリオシドGD3を有効成分とする免疫機能調節剤である。本発明はまた、ガングリオシドGD3が乳由来であることを特徴とする前記免疫機能調節剤である。本発明はまた、前記免疫機能調節剤を配合する飲食品及び飼料である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の免疫機能調節剤を用いることにより、ガングリオシドGD3を用いてTNF−α、IFN−γの産生を抑制し、IL−4の産生を促進することにより、免疫機能を調節することができる。本発明の免疫機能調節剤は、食品アレルギーやアトピー性皮膚炎等の免疫機能に関与する疾患の予防に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において有効成分として使用されるガングリオシドGD3は、いかなる方法により得られるものであってもよい。すなわち、従来法により畜獣の脳等から分離精製されたものを用いてもよく、また、牛乳から効率よく回収する方法(特開昭63−269992号公報)を利用して得られたものを用いてもよい。同公報に記載の方法によれば、工業規模で大量に生産することも可能である。なお、同公報に記載の乳からガングリオシドを分離抽出する方法を、参考までに示すと下記の通りである。すなわち、牛乳、バターミルク、ホエー、脱脂乳等の乳原料に、塩酸や乳酸等の酸、またはトリプシン、ペプシン等のタンパク質分解酵素を作用させてタンパク質を分解し、得られたタンパク質分解溶液を限外濾過法、ゲル濾過法または透析法により処理し、ガングリオシドを濃縮して調製する。このようにして調製されたガングリオシドは、GM3とGD3から構成されるが、本発明においては、ガングリオシドGD3を有効成分とする。
【0009】
本発明の免疫機能調節剤は、ガングリオシドGD3を有効成分とするものであるが、種々の剤型を有する製剤として用いることができ、剤型は特に限定されない。したがって、有効成分であるガングリオシドGD3を、種々の賦形剤や担体等とともに用いて、錠剤、カプセル剤、粉剤、液剤等種々の剤型の製剤に配合することができる。また、本発明の免疫機能調節剤は、免疫機能を調節する作用を有するほかの医薬を含むものであってもよい。また、本発明の飲食品の種類も特に限定されず、牛乳、加工乳、乳飲料、ヨーグルト、清涼飲料水、コーヒー飲料、ジュース、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食、さらには、栄養補給用組成物に配合することができる。また、本発明の飼料の種類も特に限定されるものではない。なお、本発明の免疫機能調節剤、飲食品及び飼料は、ガングリオシドGD3を含有すること以外は、常法により製造することができる。
【0010】
本発明において、免疫機能調節効果を発揮させるためには、ガングリオシドGD3を1日当たり一般的に0.1〜5mg程度摂取できるように医薬、飲食品や飼料への配合量等を調整すればよい。なお、ガングリオシドGD3を有効成分とする場合は、投与対象は限定されないが、消化管が十分に成熟した人に用いるとより効果的である。
【0011】
以下、本発明を実施例および試験例によりさらに詳しく説明する。実施例及び試験例において、「%」は特に断らない限り、「重量%」を意味するものとする。
【実施例1】
【0012】
(ガングリオシドGD3の調製)
チーズを製造する際に排出されるホエー 1.5kLに対し、1%の蛋白質分解酵素を添加して、pH8.0、55℃で2時間の酵素反応を行うことによりホエー中の蛋白質を加水分解した。この反応液を限外濾過膜(Cefilt 10kDaNG:フィルテック社製)で処理することにより蛋白質加水分解物及び乳糖を除去し、エバポレーターで30%濃度となるまで濃縮した後、凍結乾燥して、ガングリオシド含有粉末1.5kgを得た。なお、このガングリオシド含有粉末中のガングリオシド量は、約1%であった。次に、アニオン交換樹脂 Dowex-1 (酢酸型:ダウケミカル社製)をカラム(直径10cm×高さ100cm)に充填し、クロロホルム:メタノール:水(60:30:8)からなる溶液で平衡化した後、上記のガングリオシド含有粉末をクロロホルム:メタノール:水(60:30:8)からなる溶液 30Lに懸濁した懸濁液を通液して、ガングリオシド等の酸性物質をカラムに吸着させた後、クロロホルム:メタノール:水(60:30:8)からなる溶液20Lでカラムを洗浄し、2M酢酸ナトリウムを含むクロロホルム:メタノール:水(60:30:8)からなる溶液20Lで溶出してガングリオシドを含有する溶出液を回収した。このガングリオシドを含有する溶出液を減圧乾固して溶媒を除去した後、1N水酸化ナトリウム溶液を加え、40℃で2時間の反応を行うことによりリン脂質を分解した。その後、この反応液を限外濾過膜(Cefilt 10kDaNG:フィルテック社製) で処理して脱塩濃縮し、凍結乾燥した後、クロロホルム:メタノール (85:15) からなる溶液200mLで溶解し、シリカゲルカラム (直径5cm×高さ40cm)に通液してガングリオシドをシリカゲルに吸着させた。そして、ガングリオシドをクロロホルム:メタノール溶液で勾配溶出し、濃縮及び凍結乾燥して、ガングリオシドGD3粉末15.2gを得た。なお、このガングリオシドGD3の純度は、高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、97%以上であった。
【0013】
以下、試験例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。試験例においては、すべてBalb/C雄マウスを用いた。また、ガングリオシドGD3は実施例1で得られたものを10μg/mlの濃度で10%の牛胎児血清を添加したRPMI1640培地に溶解し、30分間超音波処理することによりミセル形成させたものを使用した。
[試験例1]
(ガングリオシドGD3の脾臓マクロファージのTNF−α産生能への影響)
10週齢のBalb/C雄マウスを屠殺し脾臓を採取した。脾臓を培養皿内で細切し、注射筒で細かく押しつぶし、メッシュを通すことにより、脾細胞を分離した。分離した脾細胞をRPMI1640培地に10%となるよう牛胎児血清を添加した培地(10%FCS/RPMI1640)で2時間培養した後、同培地で2回洗うことにより、接着したマクロファージを単離した。単離した脾臓マクロファージに実施例1のガングリオシドGD3を10μg/mlとなるように添加した10%FCS/RPMI1640培地、または何も添加していないRPMI1640培地(対照)を加え、2時間培養した。その後LPSを1μg/mlとなるように添加し、さらに3時間培養した。培養終了後、培地を採取するとともに、細胞を0.1%SDS溶液で可溶化した。採取した培地中のTNF−α濃度は、L929マウス線維芽細胞を用いたバイオアッセイ法により測定した。可溶化した細胞内のDNA量をDAPIによる蛍光光度法で測定し、DNA量当たりのTNF−α分泌を求めた。結果を図1に示す。
【0014】
この結果、ガングリオシドGD3添加群では、対照(無添加)群に比べて、TNF−α産生能が著明に低下していた。ガングリオシドGD3を培地に直接添加することによりTNF−α産生能が抑制されたことは、ガングリオシドGD3が抗炎症的に作用することを示唆するものである。
【0015】
[試験例2]
(ガングリオシドGD3の脾細胞によるIL−4及びIFN−γ産生能への影響)
細胞の分離は試験例1と同様に行った。すなわち採取した脾臓は、試験例1と同様に細切後、強く押しつぶしてバラバラにした後、メッシュを通すことで細胞を分離した。細胞は、10%FCS/RPMI1640培地もしくは実施例1のガングリオシドGD3を10μg/mlとなるように添加した10%FCS/RPMI1640培地に播種した。培養開始2日目にマイトジェンであるConcanavallinAを5μg/mlの濃度となるように添加し、さらに3日間培養した。培養終了後、培地を回収するとともに、細胞を溶解した。培地中のIL−4、IFN−γ濃度は、それぞれサンドイッチELISA法により測定した。細胞中のDNA濃度を測定し、DNA量当たりのサイトカイン分泌量を求めた。結果を図2、3に示す。
【0016】
図2、3に示されるように、脾細胞において、IL−4産生能が増加する傾向を示し、IFN−γ産生能が著しく低下した。これらの結果は、ガングリオシドGD3の添加により、脾臓内においてTh1抑制が誘導されていることを示唆している。体内のTh1/Th2バランスをみると、食品アレルギーやアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の初期段階においてはTh1優位な状態になるといわれている。従ってTh1を抑制することでアレルギー疾患の進行を抑えることができる、すなわちアレルギー疾患の予防に有効であると考えられる。本試験例において、ガングリオシドGD3が、Th1型抑制作用を示したことは、ガングリオシドGD3を日常的に摂取することによって生体の免疫系においてTh1型、すなわち細胞性免疫が抑制方向に誘導されることを示唆しており、ガングリオシドGD3がアレルギー発症の初期段階を抑制することによりアレルギー予防作用を有する食品素材として利用できる可能性を示している。
【実施例2】
【0017】
(ガングリオシドGD3含有粉末の調製)
バターミルク粉20kgを水180Lに溶解した溶液に、0.5kgの枯草菌プロテアーゼを添加し、pH7.6、温度40℃で15時間反応させ、タンパク質を分解した後、90℃で10分間加熱殺菌し、酵素を失活させた。次いで、この溶液を膜面積0.36平方mの濾過膜を装着した限外濾過膜装置(LAB-20型モジュール:DDS社製)を用いて、温度40℃、流量15L/分、平方圧力0.6MPaで濾過し、ガングリオシドを濃縮した。この溶液を凍結乾燥してガングリオシドGD3を約7.5g含有するガングリオシドGD3含有粉末1kgを得た。このようにして得られたガングリオシドGD3含有粉末は、そのまま本発明の免疫調節剤として利用可能である。
【実施例3】
【0018】
(ガングリオシドGD3を用いた粉乳の調製)
実施例2で調製したガングリオシドGD3含有粉末200gを、カゼイン6.8kg、ホエー粉70.0kg、ビタミン及びミネラル成分1kgと共に、水700kgに溶解した。さらに、植物油脂23.0kgを混合して、均質化した後、殺菌・濃縮・乾燥工程を経て、本発明の免疫機能調節剤を配合した粉乳100kgを得た。得られた粉乳100g中のガングリオシドGD3含量は約1.0mgであった。
【実施例4】
【0019】
(ガングリオシドGD3を含有するドリンク剤の調製)
実施例2で調製したガングリオシドGD3含有粉末を用い、表1の配合により本発明の免疫機能調節剤であるドリンク剤を調製した。表1の成分を、水に溶解して5Lとした。この溶液を、圧力160kg/cmで均質化した後、プレート式殺菌機により、120℃で3秒間保持して殺菌し、次いで5℃に冷却した。得られたドリンク剤を200ml入り紙容器に充填した。このドリンク剤は、100ml当り約2.4mgのGD3を含有していた。
【0020】
【表1】

【実施例5】
【0021】
(ガングリオシドGD3含有粉末を用いた錠剤の調製)
実施例1で調製したガングリオシド粉末を、常法により、ゼラチンよりなるソフトカプセル中に一錠当り100mgとなるように充填して、本発明の免疫機能調節剤(錠剤)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のガングリオシドGD3を有効成分とする免疫機能調節剤またはそれを配合した飲食品もしくは飼料は、免疫機能に関与する種々の疾患の予防に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】試験例1の結果を示すグラフである。
【図2】試験例2の結果を示すグラフである。
【図3】試験例2の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガングリオシドGD3を有効成分とする免疫機能調節剤。
【請求項2】
ガングリオシドGD3が乳由来であることを特徴とする請求項1の免疫機能調節剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の免疫機能調節剤を配合した飲食品。
【請求項4】
請求項1または2記載の免疫機能調節剤を配合した飼料。


















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−214241(P2008−214241A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52519(P2007−52519)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】