説明

免震建物、及び免震建物の設計方法

【課題】基礎免震層が支持する構造物の構造や規模等に起因して生じる、免震建物の構造設計の労力を軽減することが可能な免震建物、及び免震建物の設計方法を提供する。
【解決手段】基礎免震層12に支持された下部構造物14と、下部構造物14の上に設けられた中間免震層16に支持され、下部構造物14に対してセットバックして設けられた上部構造物18とを有する免震建物10により、免震建物の構造設計の労力を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎免震層を有する免震建物、及び基礎免震層を有する免震建物の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基礎免震層に構造物を支持させて、この構造物に伝播する地震動を低減する免震建物が普及している。例えば、特許文献1には、免震装置によって下部構造の上に上部構造が支持されている免震建物が開示されている。
【0003】
このような、構造物が基礎免震層に支持されている免震建物の構造設計は、一般的に、等価1質点系の構造モデルに免震建物を置き換えて行われる。しかし、この設計方法は、基礎免震層が支持する構造物の水平剛性が、基礎免震層の水平剛性に対して十分に大きいことを前提としている。
【0004】
例えば、基礎免震層が支持する構造物の水平剛性が小さい、鉄骨造、超高層、セットバック型などの免震建物においては、構造物に曲げ変形が支配的に生じることに起因してこの構造物に発生する、鞭振り現象やねじれ振動の影響が大きくなるので、等価1質点系の構造モデルに、鞭振り現象やねじれ振動の挙動を盛り込ませた設計が必要になる。
【0005】
しかし、鞭振り現象やねじれ振動の複雑な挙動は、設計において制御が難しい挙動であり、この制御に多大な設計労力を要してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−169241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は係る事実を考慮し、基礎免震層が支持する構造物の構造や規模等に起因して生じる、免震建物の構造設計の労力を軽減することが可能な免震建物、及び免震建物の設計方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、基礎免震層に支持された下部構造物と、前記下部構造物の上に設けられ、前記基礎免震層よりも水平剛性の小さい中間免震層と、前記下部構造物よりも質量が小さく、且つ前記下部構造物に対してセットバックして前記中間免震層に支持された上部構造物と、を有する免震建物である。
【0009】
請求項1に記載の発明では、中間免震層を介して免震建物を下部構造物と上部構造物とに分離することにより、鞭振り現象やねじれ振動の影響を排除して、免震建物(下部構造物と上部構造物)の挙動を等価2質点系の構造モデルの挙動に近似することができる。すなわち、免震建物の挙動を安定化することにより、免震建物を等価2質点系の構造モデルに置き換えることができるので、設計の労力を軽減することができ、設計の省力化を図ることができる。よって、基礎免震層が支持する構造物の構造や規模等に起因して生じる、免震建物の構造設計の労力を軽減することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、基礎免震層に支持された下部構造物と、前記下部構造物の上に設けられた中間免震層と、前記中間免震層に支持された上部構造物とを有する免震建物の設計方法において、前記基礎免震層の目標とする応答振動値と前記中間免震層の目標とする応答振動値とに基づいて1次振動モードを設定する工程と、前記免震建物全体の1次固有周期を設定する工程と、前記1次振動モードと前記1次固有周期とに基づいて前記基礎免震層の水平剛性と前記中間免震層の水平剛性とを求める工程と、を有する免震建物の設計方法である。
【0011】
請求項2に記載の発明では、基礎免震層に下部構造物が支持され、この下部構造物の上に設けられた中間免震層に上部構造物が支持された免震建物の設計方法において、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、基礎免震層に支持された構造物と、該構造物に設けられた複数の中間免震層とを有する免震建物の設計方法において、前記基礎免震層の目標とする応答振動値と前記複数の中間免震層の目標とする応答振動値とに基づいて1次振動モードを設定する工程と、前記免震建物全体の1次固有周期を設定する工程と、前記1次振動モードと前記1次固有周期とに基づいて前記基礎免震層の水平剛性と前記複数の中間免震層の水平剛性とを求める工程と、を有する免震建物の設計方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明では、基礎免震層に構造物が支持され、この構造物に複数の中間免震層が設けられた免震建物の設計方法において、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記構成としたので、基礎免震層が支持する構造物の構造や規模等に起因して生じる、免震建物の構造設計の労力を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る免震建物を示す立面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る免震建物の設計方法を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る免震建物の重心及び剛心を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る免震建物の建物高さに対するせん断力を示す線図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る免震建物に生じるねじれモーメントを示す斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る免震建物に生じるねじれモーメントを示す斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る免震建物の構造モデルを示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る免震建物を示す立面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る免震建物の設計方法を示す説明図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る免震建物の構造モデルを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図を参照しながら本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の第1の実施形態に係る免震建物について説明する。
【0017】
図1の立面図に示すように、免震建物10は、基礎免震層12、鉄筋コンクリート造の下部構造物14、中間免震層16、及び鉄筋コンクリート造の上部構造物18を有する超高層建築物である。
【0018】
下部構造物14は、地盤20に設けられた鉄筋コンクリート造の基礎22の上に設けられた基礎免震層12に支持されている。基礎免震層12は、免震支承としての積層ゴム支承24と、減衰装置としての油圧ダンパー(不図示)とを、基礎22の上面と下部構造物14の下面との間にそれぞれ複数配置することによって構成されている。
【0019】
上部構造物18は、下部構造物14の上に設けられた中間免震層16に支持されている。中間免震層16は、免震支承としての積層ゴム支承24と、減衰装置としての油圧ダンパー(不図示)とを、下部構造物14の上面と上部構造物18の下面との間にそれぞれ複数配置することによって構成されている。
【0020】
中間免震層16の水平剛性は、基礎免震層12の水平剛性よりも小さくなっている。また、上部構造物18は、下部構造物14よりも質量が小さく、下部構造物14に対してセットバックして配置されている。
【0021】
次に、本発明の第1の実施形態に係る免震建物の設計方法について説明する。
【0022】
本発明の第1の実施形態に係る免震建物の設計方法では、中間免震層16を介して免震建物10を下部構造物14と上部構造物18とに分離することにより、免震建物10(下部構造物14と上部構造物18)の挙動を等価2質点系の構造モデルの挙動に近似させて免震建物10を等価2質点系の構造モデルに置き換える。そして、1次振動モードと、免震建物10全体の1次固有周期とを設定し、設定した1次振動モード及び1次固有周期に基づいて、基礎免震層12の水平剛性及びねじれ剛性と、中間免震層16の水平剛性及びねじれ剛性とを求める。
【0023】
免震建物の設計方法では、図2のフローチャートに示すように、まず、免震建物10が振動したときの基礎免震層12の応答振動値としての応答変形量と中間免震層16の応答振動値としての応答変形量との目標値を設定し(ステップ100)、これらの目標値に基づいて1次振動モードを求める(ステップ102)。すなわち、基礎免震層12と中間免震層16とが位置する各建物高さにおける1次振動モードの振幅の比が、基礎免震層12の応答変形量と中間免震層16の応答変形量との比と等しくなる1次振動モードを規定する。
【0024】
次に、下部構造物14の質量、上部構造物18の質量、及び免震建物10全体の1次固有周期を設定し(ステップ104、106)、これらの値とステップ102で求めた1次振動モードに基づいて、基礎免震層12の水平剛性、基礎免震層12のねじれ剛性、中間免震層16の水平剛性、及び中間免震層16のねじれ剛性を求める(ステップ108)。
【0025】
次に、基礎免震層12の減衰、及び中間免震層16の減衰を設定し(ステップ110)、下部構造物14の応答振動加速度を求め(ステップ112)、この値が設計目標を満足する(設計許容範囲内に入る)まで、ステップ106、108、110、112を繰り返す。なお、ステップ112で求めるのは、下部構造物14の応答振動加速度に限らない。例えば、下部構造物14の応答振動速度であってもよいし、上部構造物18の応答振動加速度や応答振動速度であってもよい。
【0026】
そして、ステップ108で求められた、基礎免震層12の水平剛性、基礎免震層12のねじれ剛性、中間免震層16の水平剛性、及び中間免震層16のねじれ剛性の値に基づいて、基礎免震層12及び中間免震層16の設計を行う(例えば、基礎免震層12及び中間免震層16に配置される免震支承の仕様、配置、数等を決める)。
【0027】
次に、本発明の第1の実施形態に係る免震建物、及び免震建物の設計方法の作用と効果について説明する。
【0028】
本発明の第1の実施形態に係る免震建物10、及び免震建物の設計方法では、図1に示すように、基礎免震層12によって下部構造物14が免震支持されるので、地震時において下部構造物14に生じる応答振動加速度や、入力される地震力を低減することができる。
【0029】
また、上部構造物18が複数の免震層(基礎免震層12及び中間免震層16)により支持されているので、地震時において上部構造物18に生じる応答振動加速度や、入力される地震力を効果的に低減することができる。
【0030】
また、基礎免震層12の水平剛性よりも中間免震層16の水平剛性を小さくすることにより、中間免震層16の水平剛性を基礎免震層12の水平剛性以上にする場合よりも、中間免震層16の水平周期を大きくすることができる。これにより、地震時において上部構造物18に生じる応答振動加速度を効果的に小さくすることができる。
【0031】
また、中間免震層16を介して、免震建物10を下部構造物14と上部構造物18とに分離することによって、地震時における下部構造物14と上部構造物18との揺れは、下部構造物14と上部構造物18との剛体的な水平運動が主体となり、免震建物10にはせん断変形が支配的に生じることになる。これにより、地震時において免震建物10に曲げ変形が支配的に生じることに起因して免震建物10に発生する、鞭振り現象やねじれ振動を低減することができる。
【0032】
また、地震時において免震建物10に生じる曲げ変形に起因して増幅する、免震建物10のねじれ振動を低減することができる。このことについて詳しく説明すると、図3(a)に示すように、基礎免震層12のみが設けられている(中間免震層16が設けられていない)免震建物26では、セットバック形状により生じていた、下部構造部28の上面高さにおける免震建物26の重心32と剛心34とのずれ量が、地震時において免震建物26に生じる曲げ変形により大きくなって、ねじれ振動が増幅する(矢印36)ことが考えられる。図4(a)のグラフに示す値38は、図3(a)に示す免震建物26に地震力が作用したときの、免震建物26の建物高さ(縦軸)に対する、免震建物26に生じるせん断力の値(横軸)を示している。
【0033】
これに対して、第1の実施形態の免震建物10では、中間免震層16を介して免震建物10を下部構造物14と上部構造物18とに分離することにより、免震建物10に地震力が作用したときの、免震建物10の建物高さ(縦軸)に対する、免震建物10に生じるせん断力の値(横軸)は、図4(b)のグラフに示す値40のようになる。すなわち、免震建物10の上層(上部構造物18)に生じるせん断力(値40)が値38よりも小さくなるので、免震建物10にはせん断変形が支配的に生じるようになる。これによって、図3(b)に示すように、下部構造物14の上面高さにおける免震建物10の重心44と剛心46とのずれ量が小さくなり、地震時において免震建物10に生じる曲げ変形に起因して増幅する、免震建物10のねじれ振動を低減することができる(矢印42)。
【0034】
また、地震時において免震建物10に生じる曲げ変形に起因して増幅する、免震建物10のねじれ振動を低減することができるので、免震建物10のねじれ振動による基礎免震層12と中間免震層16との水平変形量を低減することができる。これにより、基礎免震層12及び中間免震層16の合理的な設計を行うことができる。例えば、免震クリアランスや免震装置の許容水平せん断変形量を小さくすることができる。
【0035】
また、複数の免震層(基礎免震層12及び中間免震層16)により、図4(a)、(b)に示すように、中間免震層16が設けられていない免震建物26に比べて、免震建物10の下部構造物14の上面高さにおいて地震時に免震建物10に生じる水平せん断力が小さくなる。ここで、図5(a)の斜視図に示すように、下部構造部28の上面高さにおいて地震時に免震建物26に発生するねじれモーメントMは、下部構造部28の上面高さにおける免震建物26の重心32から剛心34までの距離dに、下部構造部28の上面高さにおいて地震時に免震建物26に生じる水平せん断力Fを掛けた値になる。また、下部構造物14の上面高さにおいて地震時に免震建物10に発生するねじれモーメントMは、下部構造物14の上面高さにおける免震建物10の重心44から剛心46までの距離dに、下部構造物14の上面高さにおいて地震時に免震建物10に生じる水平せん断力Fを掛けた値になる。
【0036】
そして、先に述べたように、水平せん断力Fは水平せん断力Fよりも小さくなるので、ねじれモーメントMはねじれモーメントMよりも小さくなる。すなわち、免震建物10は、免震建物26に比べて、地震時に建物に発生するねじれ振動を低減することができる。
【0037】
また、図6(a)、(b)の斜視図に示すように、免震建物10では、複数の免震層(基礎免震層12及び中間免震層16)によって、地震時において免震建物26全体に生じるねじれモーメントM(免震建物26の基礎免震層12に生じるねじれモーメントM)を、各免震層に分散させることができる(ねじれモーメントMを分割したねじれモーメントM、Mを、免震建物10の基礎免震層12と中間免震層16とに生じさせることができる)。これにより、免震建物10に生じる曲げ変形が小さくなり、各免震層(免震建物10の基礎免震層12及び中間免震層16)のねじれ変形量を小さくできるので、免震建物10の基礎免震層12及び中間免震層16の合理的な設計を行うことができる(例えば、免震クリアランスや免震装置の許容水平せん断変形量を小さくすることができる)。
【0038】
また、中間免震層16を介して免震建物10を下部構造物14と上部構造物18とに分離することにより、地震時における下部構造物14と上部構造物18との揺れは、下部構造物14と上部構造物18との剛体的な水平運動が主体となる。これにより、地震時において免震建物10に生じる曲げ変形が小さくなるので、免震建物10に発生する鞭振り現象やねじれ振動の影響を排除して、免震建物10(下部構造物14と上部構造物18)の挙動を等価2質点系の構造モデルの挙動に近似することができる。すなわち、免震建物10の挙動を安定化することにより、図7のモデル図に示すように、免震建物10を等価2質点系の構造モデルに置き換え、基礎免震層12の水平剛性及びねじれ剛性と、中間免震層16の水平剛性及びねじれ剛性とを、1次振動モード及び免震建物10全体の1次固有周期に基づいて求めることができるので、設計の労力を軽減することができ、設計の省力化を図ることができる。よって、基礎免震層が支持する構造物の構造や規模等に起因して生じる、免震建物の構造設計の労力を軽減することができる。
【0039】
図7には、質量m及び慣性モーメントIを有する下部構造物14が、水平剛性k及びねじれ剛性Gを有する基礎免震層12を介して基礎22の上に支持され、質量m及び慣性モーメントIを有する上部構造物18が、水平剛性k及びねじれ剛性Gを有する中間免震層16を介して下部構造物14の上に支持されている、等価2質点系の構造モデルが示されている。
【0040】
また、本発明の第1の実施形態に係る免震建物の設計方法では、基礎免震層12及び中間免震層16の水平剛性だけでなく、基礎免震層12及び中間免震層16のねじれ剛性についても、1次振動モード及び免震建物10全体の1次固有周期に基づいて求めることができるので、ねじれ振動が大きな問題となるセットバック型の免震建物等の構造設計に特に有効となる。
【0041】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0042】
なお、本発明の第1の実施形態では、中間免震層16の水平剛性が基礎免震層12の水平剛性よりも小さく、上部構造物18の質量が下部構造物14の質量よりも小さく、上部構造物18が下部構造物14に対してセットバックして配置されている免震建物10を、第1の実施形態の免震建物の設計方法の対象とした例を示したが、基礎免震層12及び中間免震層16の水平剛性や、下部構造物14及び上部構造物18の質量が、他の構成になっている免震建物に対して第1の実施形態の免震建物の設計方法を適用してもよい。
【0043】
また、図2のステップ106では免震建物10全体の1次固有周期を設定したが、ステップ106で、基礎免震層12の周期、又は中間免震層16の周期を設定し、これらの周期、1次振動モード、下部構造物14の質量、及び上部構造物18の質量に基づいて、ステップ108で、基礎免震層12の水平剛性、基礎免震層12のねじれ剛性、中間免震層16の水平剛性、及び中間免震層16のねじれ剛性を求めるようにしてもよい。
【0044】
また、本発明の第1の実施形態の図3、5、6で示した、免震建物26の下部構造部28と免震建物10の下部構造物14、免震建物26の上部構造部30と免震建物10の上部構造物18とは、同じ形状、寸法及び質量となっている。
【0045】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本発明の第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0046】
まず、本発明の第2の実施形態に係る免震建物について説明する。
【0047】
図8の立面図に示すように、免震建物48は、基礎免震層12、構造物50、及び構造物50に設けられた複数の中間免震層52を有する超高層建築物である。構造物50は、中間免震層52を介して下方から上方へ複数配置された鉄筋コンクリート造の構造部54によって構成され、基礎22の上に設けられた基礎免震層12に支持されている。以下の説明において、下方から上方へ配置された構造部54をこの順に、第1構造部54、第2構造部54、第3構造部54、・・・、第n構造部54(第n構造部54は、最上部に配置された構造部54)とし、下方から上方へ配置された中間免震層52をこの順に、第1中間免震層52、第2中間免震層52、第3中間免震層52、・・・、第n−1中間免震層52とする。なお、nは2以上の自然数とする。
【0048】
すなわち、図8に示すように、免震建物48では、第1構造部54が、地盤20に設けられた鉄筋コンクリート造の基礎22の上に設けられた基礎免震層12に支持され、第2構造部54が、第1構造部54の上に設けられた第1中間免震層52に支持され、第n構造部54が、第n−1構造部54の上に設けられた第n−1中間免震層52に支持されている。第1〜第n−1中間免震層52は、免震支承としての積層ゴム支承24と、減衰装置としての油圧ダンパー(不図示)とを、第1〜第n−1構造部54の上面と第2〜第n構造部54の下面との間に複数配置することによって構成されている。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態に係る免震建物の設計方法について説明する。
【0050】
本発明の第2の実施形態に係る免震建物の設計方法では、複数の中間免震層52を介して免震建物48を複数の構造部54に分離することにより、免震建物48(構造部50)の挙動を等価多質点系の構造モデルの挙動に近似させて、免震建物48を等価多質点系の構造モデルに置き換える。そして、1次振動モードと、免震建物48全体の1次固有周期とを設定し、設定した1次振動モード及び1次固有周期に基づいて、基礎免震層12の水平剛性及びねじれ剛性と、各中間免震層52の水平剛性及びねじれ剛性とを求める。
【0051】
免震建物の設計方法では、図9のフローチャートに示すように、まず、免震建物48が振動したときの基礎免震層12の応答振動値としての応答変形量と第1〜第n−1中間免震層52の応答振動値としての応答変形量との目標値を設定し(ステップ120)、これらの目標値に基づいて1次振動モードを求める(ステップ122)。すなわち、基礎免震層12と第1〜第n−1中間免震層52とが位置する各建物高さにおける1次振動モードの振幅の比が、基礎免震層12の応答変形量と第1〜第n−1中間免震層52の応答変形量との比と等しくなる1次振動モードを規定する。
【0052】
次に、第1〜第n構造部54の質量、及び免震建物48全体の1次固有周期を設定し(ステップ124、126)、これらの値とステップ122で求めた1次振動モードに基づいて、基礎免震層12の水平剛性、基礎免震層12のねじれ剛性、第1〜第n−1中間免震層52の水平剛性、及び第1〜第n−1中間免震層52のねじれ剛性を求める(ステップ128)。
【0053】
次に、基礎免震層12の減衰、及び第1〜第n−1中間免震層52の減衰を設定し(ステップ130)、第1〜第n−1構造部54の応答振動加速度を求め(ステップ132)、この値が設計目標を満足する(設計許容範囲内に入る)まで、ステップ126、128、130、132を繰り返す。なお、ステップ132で求めるのは、第1〜第n−1構造部54の応答振動加速度に限らない。例えば、第1〜第n−1構造部54の応答振動速度であってもよいし、第n構造部54の応答振動加速度や応答振動速度であってもよい。
【0054】
そして、ステップ128で求められた、基礎免震層12の水平剛性、基礎免震層12のねじれ剛性、第1〜第n−1中間免震層52の水平剛性、及び第1〜第n−1中間免震層52のねじれ剛性の値に基づいて、基礎免震層12及び第1〜第n−1中間免震層52の設計を行う(例えば、基礎免震層12及び第1〜第n−1中間免震層52に配置される免震支承の仕様、配置、数等を決める)。
【0055】
次に、本発明の第2の実施形態に係る免震建物、及び免震建物の設計方法の作用と効果について説明する。
【0056】
本発明の第2の実施形態に係る免震建物48、及び免震建物の設計方法では、第1の実施形態に係る免震建物10、及び免震建物の設計方法と同様の効果を得ることができる。例えば、第1〜第n−1中間免震層52を介して、免震建物48を第1〜第n構造部54に複数分離することによって、地震時における第1〜第n構造部54の揺れは、第1〜第n構造部54の剛体的な水平運動が主体となり、免震建物48にはせん断変形が支配的に生じることになる。これにより、地震時において免震建物48に曲げ変形が支配的に生じることに起因して免震建物48に発生する、鞭振り現象やねじれ振動を低減することができる。また、地震時において免震建物48に生じる曲げ変形に起因して増幅する、免震建物48のねじれ振動を低減することができる。
【0057】
また、第1〜第n−1中間免震層52を介して、免震建物48を第1〜第n構造部54に複数分離することにより、地震時における構造物54の揺れは、構造部54の剛体的な水平運動が主体となる。これにより、地震時において免震建物48に生じる曲げ変形が小さくなるので、免震建物48に発生する鞭振り現象やねじれ振動の影響を排除して、免震建物48(構造物50)の挙動を等価多質点系の構造モデルの挙動に近似することができる。すなわち、免震建物48の挙動を安定化することにより、図10のモデル図に示すように、免震建物48を等価多質点系の構造モデルに置き換え、基礎免震層12の水平剛性及びねじれ剛性と、第1〜第n−1中間免震層52の水平剛性及びねじれ剛性とを、1次振動モードと免震建物48全体の1次固有周期とに基づいて求めることができるので、設計の労力を軽減することができ、設計の省力化を図ることができる。よって、基礎免震層が支持する構造物の構造や規模等に起因して生じる、免震建物の構造設計の労力を軽減することができる。
【0058】
図10には、質量m及び慣性モーメントIを有する第1構造部54が、水平剛性k及びねじれ剛性Gを有する基礎免震層12を介して基礎22の上に支持され、質量m及び慣性モーメントIを有する第2構造部54が、水平剛性k及びねじれ剛性Gを有する第1中間免震層52を介して第1構造部54の上に支持され、質量m及び慣性モーメントIを有する第3構造部54が、水平剛性k及びねじれ剛性Gを有する第2中間免震層52を介して第2構造部54の上に支持され、質量m及び慣性モーメントIを有する第n構造部54が、水平剛性kn−1及びねじれ剛性Gn−1を有する第n−1中間免震層52を介して第n−1構造部54の上に支持されている、等価多質点系の構造モデルが示されている。
【0059】
また、本発明の第2の実施形態に係る免震建物の設計方法では、基礎免震層12及び第1〜第n−1中間免震層52の水平剛性だけでなく、基礎免震層12及び第1〜第n−1中間免震層52のねじれ剛性についても、1次振動モードに基づいて求めることができるので、ねじれ振動が大きな問題となる超高層の免震建物等の構造設計に特に有効となる。
【0060】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
【0061】
なお、本発明の第2の実施形態の図8では、説明の都合上、構造物50を5つ以上の構造部54によって構成させた例を示したが、2つ以上の構造部54によって構成させた構造物50に対して、本発明の第2の実施形態の免震建物48及び免震建物の設計方法は適用可能である。すなわち、第1中間免震層52を介して配置された第1、第2構造部54により構造物50を構成してもよいし、第1、第2中間免震層52を介して配置された第1〜第3構造部54により構造物50を構成してもよいし、第1〜第3中間免震層52を介して配置された第1〜第4構造部54により構造物50を構成してもよい。
【0062】
また、図9のステップ126では免震建物48全体の1次固有周期を設定したが、ステップ126で、基礎免震層12の周期、又は中間免震層52の周期を設定し、これらの周期、1次振動モード、及び第1〜第n構造部54の質量に基づいて、ステップ128で、基礎免震層12の水平剛性、基礎免震層12のねじれ剛性、第1〜第n−1中間免震層52の水平剛性、及び第1〜第n−1中間免震層52のねじれ剛性を求めるようにしてもよい。
【0063】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明した。
【0064】
なお、本発明の第1及び第2の実施形態では、免震支承としての積層ゴム支承24と、減衰装置としての油圧ダンパーとをそれぞれ複数配置することによって、基礎免震層12及び中間免震層16、52を構成した例を示したが、基礎免震層12及び中間免震層16、52は、剛性と減衰とを有していれば、どのような構成であってもよい。
【0065】
また、本発明の第1の実施形態では、セットバックした超高層の免震建物10に本発明の第1の実施形態の免震構造の設計方法を適用した例を示したが、本発明の第1及び第2の実施形態で示した免震建物の設計方法は、さまざまな構造や規模の免震建物に適用可能である。例えば、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、CFT造(Concrete-Filled Steel Tube:充填形鋼管コンクリート構造)、それらの混合構造など、さまざまな構造や規模の建物に対して適用することができる。本発明の第1及び第2の実施形態で示した免震建物の設計方法は、基礎免震層が支持する構造物の水平剛性が小さい、鉄骨造、超高層、セットバック型などの免震建物において特に有効となる。
【0066】
また、本発明の第1及び第2の実施形態では、基礎免震層12、及び中間免震層16、52の応答振動値を応答変形量とした例を示したが、応答振動値を、応答振動加速度や応答振動速度にしてもよい。
【0067】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1及び第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
10、48 免震建物
12 基礎免震層
14 下部構造物
16、52 中間免震層
18 上部構造物
50 構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎免震層に支持された下部構造物と、
前記下部構造物の上に設けられ、前記基礎免震層よりも水平剛性の小さい中間免震層と、
前記下部構造物よりも質量が小さく、且つ前記下部構造物に対してセットバックして前記中間免震層に支持された上部構造物と、
を有する免震建物。
【請求項2】
基礎免震層に支持された下部構造物と、前記下部構造物の上に設けられた中間免震層と、前記中間免震層に支持された上部構造物とを有する免震建物の設計方法において、
前記基礎免震層の目標とする応答振動値と前記中間免震層の目標とする応答振動値とに基づいて1次振動モードを設定する工程と、
前記免震建物全体の1次固有周期を設定する工程と、
前記1次振動モードと前記1次固有周期とに基づいて前記基礎免震層の水平剛性と前記中間免震層の水平剛性とを求める工程と、
を有する免震建物の設計方法。
【請求項3】
基礎免震層に支持された構造物と、該構造物に設けられた複数の中間免震層とを有する免震建物の設計方法において、
前記基礎免震層の目標とする応答振動値と前記複数の中間免震層の目標とする応答振動値とに基づいて1次振動モードを設定する工程と、
前記免震建物全体の1次固有周期を設定する工程と、
前記1次振動モードと前記1次固有周期とに基づいて前記基礎免震層の水平剛性と前記複数の中間免震層の水平剛性とを求める工程と、
を有する免震建物の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−104231(P2013−104231A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249047(P2011−249047)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】