説明

入浴用搬送車

【課題】
入浴者の乗り降りに際しての転倒危険性を軽減し、加えて搬送車本体の転倒を阻止する脚体操作の省力化を図った入浴用搬送車を提供すること。
【解決手段】
複数の車輪2を下部に有する台車枠部3上に着座部4が分離連結可能に載設され、着座部4のみを浴槽5内方に進入させて座位入浴を行うための入浴用搬送車であって、
少なくとも着座部4の座シート部6は入浴者が長座位の姿勢で入浴可能となるよう台車枠部3から前方に延在して構成されるとともに座シート部6の下方には転倒を阻止する脚体29が備えられ、脚体29は着座部4の浴槽5内方への進入時に当該進入の妨げにならない位置まで自動的に収納するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や身体障害者等の入浴者を搬送車の着座部に座らせた後、この着座部のみを浴槽内方に進入させて座位入浴を行うための入浴用搬送車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1に示すように、移動自在な台車部と、該台車部に分離可能に支持されるとともに昇降可能な座席部を有し、座席部を浴槽内に進入させて座位入浴を行う入浴用搬送車において、左右方向への横転防止のための支持装置を備えたものが知られている。
【0003】
しかし、この支持装置の有する横転防止機能は、座席部が所定の下降位置にない上昇位置にあるときにおいては発現されるものの、座席部が所定下降位置に至るとその機能が解消される構成であるが故に、当該下降位置での横転防止が実現できず、特に病気や事故等の原因により下肢を自在に屈曲伸展できない入浴者が座席部に対してフットレストを略水平状になした姿勢の搬送車上へ乗り移る際にフットレストないしは座席部に加わる外力の大きさや方向によっては、搬送車の転倒危険性を有しており、安全上の問題点が指摘されていた。
【0004】
一方、特許文献2には、高さ調整装置付き簡易ベッド、車椅子、特殊防水シート付き簡易風呂と、1台でその利用に応じた形態に簡単に変換できる構造をもつ多機能付き移動式簡易風呂において、座部を上部に有する本体部の四方に方向自由且つ前後方向に収納可能な転倒防止用固定足が設けられる構成が開示されているが、この座部は本体部から分離し浴槽内へ進入するものではなく、座部の進入に際し固定足が自動的に収納されるといった構成についても何ら記載がなされていない。
【0005】
よって、使用者は固定足の引き出し及び収納を手動操作にて逐一行わなければならず煩雑極まりなく、当該操作の省力化が切に望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3929167号公報
【特許文献2】特開2002−35079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、入浴者の乗り降りに際しての転倒危険性を軽減し、加えて搬送車本体の転倒を阻止する脚体操作の省力化を図った入浴用搬送車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現する為、請求項1記載の入浴用搬送車は、複数の車輪を下部に有する台車枠部上に着座部が分離連結可能に載設され、該着座部のみを浴槽内方に進入させて座位入浴を行うための入浴用搬送車であって、
少なくとも前記着座部の座シート部は入浴者が長座位の姿勢で入浴可能となるよう前記台車枠部から前方に延在して構成されるとともに前記座シート部の下方には転倒を阻止する脚体が備えられ、
該脚体は前記着座部の前記浴槽内方への進入時に当該進入の妨げにならない位置まで自動的に収納するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
この入浴用搬送車によれば、座シート部への入浴者の乗り降りに際し入浴用搬送車の転倒を阻止することができるとともに、浴槽内方へ着座部を進入させる際に脚体の収納操作が不要となり省力化に寄与でき、加えて、入浴介助者が脚体の収納操作を誤って忘却し脚体が浴槽底壁に衝突することにより脚体や浴槽が破損するという危険性も回避できる。
また、脚体を設けたことにより台車枠部のサイズをコンパクトにすることができ(搬送車本体の転倒を阻止するため台車枠部を前方に延ばす必要がなくなる)、入浴用搬送車の走行操作性を向上できる。さらに浴槽下部における台車枠部の占有スペースを小さくできるので、残りのスペースを部品配置等に有効活用することができる。
【0010】
請求項2記載の入浴用搬送車は、前記脚体は、その一方部位が前記座シート部に軸着されて引出端と収納端の所定区間を揺動可能であって、該所定区間における前記脚体の所定位置を境界線として、引出端及び収納端のいずれかの端位置に到達するようにその揺動が誘発されることを特徴とする。
【0011】
この入浴用搬送車によれば、脚体が引出端と収納端の間の中途半端な位置で保持されることはなく、入浴介助者は脚体が引出端と収納端のいずれの位置にあるのかを容易に視認判別することができ、しかも収納端以外の位置に脚体がある状態で入浴者の移乗を行い、搬送車本体が転倒してしまうという危険性を低減できる。
【0012】
請求項3記載の入浴用搬送車は、前記引出端の端位置において、少なくとも前記脚体の他方部位の端を前記座シート部に対する前記脚体の揺動中心よりも前方に位置させたことを特徴とする。
【0013】
この入浴用搬送車によれば、入浴者の座シート部への乗り移り時や座シート部からの降車時に、例えば、座シート部の前方に対して鉛直方向への外力が加わった場合であっても、脚体が不用意に収納端方向に揺動することを低減でき、この結果、搬送車本体が転倒する危険性を抑制することが可能となる。
【0014】
請求項4記載の入浴用搬送車は、前記脚体は、その一方部位が前記座シート部に軸着されて引出端と収納端の所定区間を揺動可能であり、且つ、前記着座部の前記浴槽内方からの退出時に転倒阻止機能を発揮できるように前記収納端から自動的に引き出されることを特徴とする。
【0015】
この入浴用搬送車によれば、着座部を浴槽から退出させる際に脚体が自動的に引き出されるので、より一層省力化に寄与できる。また、脚体の引き出し及び収納作業を腰を屈めて行う必要がなくなり、例えば、腰痛持ちの入浴介助者にとっては負担が軽減され、腰痛持ちでない入浴介助者にとっても腰痛を引き起こし難くなるというメリットを有する。
【0016】
請求項5記載の入浴用搬送車は、前記引出端の端位置において、前記脚体の揺動を自動的にロックするロック手段を前記脚体と前記座シート部にわたって付設し、該ロック手段によるロックを前記着座部の前記浴槽内方への進入時に自動的に解除するようにしたことを特徴とする。
【0017】
この入浴用搬送車によれば、搬送時において座シート部の下方付近が視認し難いために、無意識のうちに浴槽以外の障害物に脚体を当ててしまい脚体が収納端方向に少し倒れた状態で入浴者の移し乗せを行うという危険性を回避できる。また、着座部を浴槽内方へ進入させる際に都度、ロック手段を手動でロック解除する必要がなくなり、さらに、入浴介助者がロック解除操作を誤って忘却し脚体をロックしたままの状態で着座部を浴槽内方へ進入させる入浴動作を行った結果、脚体を浴槽底壁に衝突させてしまい脚体や浴槽が破損するという危険性も回避できる。
【0018】
請求項6記載の入浴用搬送車は、最前の前記車輪より前方に位置する前記座シート部の周囲側縁を前記座シート部面より上方に高くなるように形成したことを特徴とする。
【0019】
この入浴用搬送車によれば、最前の走行車輪より前方の座シート部への入浴者の移乗を規制することで、搬送車本体の転倒抑止効果が期待できる。
【0020】
請求項7記載の入浴用搬送車は、少なくとも前記座シート部の前側縁を入浴者の足裏部位を押し当てることができる程度に高くしたことを特徴とする。
【0021】
この入浴用搬送車によれば、座シート部の前側縁を足当てに兼用できるので、別途に足当てを設ける必要がなく、入浴中に入浴者が足先方向にずり込み浴中で溺れる心配もないというメリットを有する。
【0022】
請求項8記載の入浴用搬送車は、前記脚体の他方部位に転動輪を設けたことを特徴とする。
【0023】
この入浴用搬送車によれば、床面の凹凸を乗り越える時に脚体がつかえることもなく搬送を円滑に行うことができ、また搬送時における床面への創傷も低減できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、入浴者の乗り降りに際して座シート部の前方に外力が加わった場合であっても脚体の作用により搬送車本体が転倒してしまうという危険事態を阻止することができるとともに、浴槽内方へ着座部を進入させる際に都度脚体を手動で収納する操作が不要となるので、収納操作の省力化が図れる。また、着座部の浴槽内方からの退出時に転倒阻止機能を発揮できるように脚体を収納端から自動的に引き出すように構成したものでは、脚体を手動で引き出す操作も不要となり、より一層脚体操作の省力化が図れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る入浴用搬送車の平面図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る入浴用搬送車の右側面図である。
【図3】図1におけるA−A矢視断面図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る入浴用車椅子の背面斜視図である。
【図5】本発明の第一の実施形態に係る脚体の収納動作を説明する動作説明図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る入浴用搬送車の着座部を浴槽内方へ進入させた入浴状態を示す説明図である。
【図7】本発明の第一の実施形態に係る収納端にある脚体付近を示す底面斜視図である。
【図8】本発明の第二の実施形態に係る入浴用搬送車の脚体動作を説明する動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1ないし7を参照しつつ本発明の第一の実施形態について説明する。図2、5に示すように、入浴用搬送車1は、台車枠部3上に着座部4が分離連結機構22により分離連結可能に載設されて構成され、身体障害者等の入浴者が着座した着座部4のみを浴槽5の内方に進入させた後、浴槽5に併置される不図示の貯湯タンクから浴槽5内へ湯水を移送供給し入浴者を座位姿勢で入浴(座位入浴)をさせるために用いるものである。
【0027】
図4に示すように、台車枠部3は分離連結機構22を介して着座部4を分離連結可能に支持する。台車枠部3は前方が開口し平面視で略コ字状の骨格をしており、その前後左右の各位置に車輪2を備え、床面を走行可能に構成されている。また、台車枠部3内側の前後左右位置には後述する着座部4下面の前後左右の各位置に垂設されて鉛直方向に回動可能な連結支持体23を受ける受具24が配設される。
【0028】
図2、5に示すように、分離連結機構22は、受具24が連結支持体23を回動不自在に保持することで着座部4と台車枠部3との連結状態を保つ一方、着座部4の浴槽5内方への進入時には中間ローラ44が浴槽5の底壁5aと接触し押され連結支持体23が反時計回りに回動することで、着座部4と台車枠部3との分離が自動的になされるようになっている。
【0029】
図1〜3に示すように、着座部4は、入浴者の臀部から下肢におよぶ部位が載置される座シート部6と、座シート部6に対して起立・倒伏可能に設けられ入浴者の頭部から腰部におよぶ部位が載置される背シート部7との二分割構成とされ、座シート部6の左右両側にはサイドガード8が備えられる。
【0030】
座シート部6は、シートフレーム9上に受け材10が載設されてなる。受け材10の全長は平均的な身長の入浴者が下肢を伸展した座位姿勢(長座位姿勢)で入浴が行えるように台車枠部3の前端から前方(入浴者の足先方向)に延在するようにシートフレーム9に対して設けられている。シートフレーム9下面における前後左右の四箇所位置には連結支持体23が回動可能に軸着されており、各連結支持体23は不図示のバネによって図2中時計回り方向に付勢されており、台車枠部3と着座部4が連結状態にあるときは前連結支持体23aがフック片53により、後連結支持体23bが後述するフック片25によりそれぞれ回動不自在に各受具24上に載置される。
【0031】
着座部4前方を浴槽5内方へ進入させていくと、前後の連結支持体23a・23bが順次浴槽5の底壁5aに当接し反時計回りに回転し、これにより着座部4と台車枠部3とが分離可能となり、着座部4のみが浴槽5内方に進入する一方、台車枠部3はその一部分が底壁5aの下方に入り込む(図6参照)。
【0032】
また、後方側(図3中、右側)の受具24には、後連結支持体23bに係合し受具24上から開放される方向(図3中、反時計回り)への連結支持体23の回動をロックするフック片25が台車枠部3と受具24にわたり前後方向に延在するように設けられている。通常フック片25の基端は台車枠部3に取着されるコイルバネ26によって前方向(フック片25が後連結支持体23bに係合する方向)へ引張られている。
【0033】
従って、受具24上に後連結支持体23bが載置されているときはフック片25が係合し回動がロックされるが、台車枠部3が底壁5a下方の所定位置にまで入り込むと、底壁5a下面に固設される押圧子27によりフック片25基端の突起棒28が押圧される結果、フック片25が連結支持体23との係合が解除される(図6参照)。尚、台車枠部3が底壁5a下方の所定位置に至ると台車枠部3に設けられる台車ロックレバー49の先端49aが底壁5a下面に設けられる嵌入孔50に嵌入し、台車枠部3が浴槽5に対し自動的にロック固定される。
【0034】
図3、4に示すように座シート部6の受け材10の載置面10aは断面視でなだらかな略山形状に成形され、受け材10の前後略中央位置であって、台車枠部3の前側車輪2から前方(入浴者の足先方向)に位置する受け材10の周囲側縁は、この位置に相当する受け材10上への入浴者の移乗を規制し搬送車本体の転倒を抑止するために載置面10aより上方に壁面を形成する如く高くなるように形成されている。また、受け材10の前側縁10bは入浴者が足裏部位を押し当てることができる程度の高さに設計され、載置面10a全域にわたってマット材11が着脱自在に敷設されている。
【0035】
図2、3、4に示すように、背シート部7は、背シートフレーム46に背受け材48が固定して構成され、背シートフレーム46はシートフレーム9の基端側において回転支軸17により軸着され、シートフレーム9と背シートフレーム46にわたり介装される角度位置調節手段18により水平面に対する背シート部7の傾斜角度が起立位置と略水平位置の範囲で四段階に調整できるようになっている。
【0036】
角度位置調節手段18は、背シート部7の背面に設けられ一端が背シートフレーム46に軸着される操作レバー19と、一端が操作レバー19の中途位置に枢着されたリンク棒材20と、リンク棒材20の他端に一端が連結されるとともに背シートフレーム46に軸着される支持材15と、シートフレーム9基端側に設けられ支持材15の他端部分から側方に突出する係止ピン16が嵌入する複数の溝を有する板部材12とから構成される。操作レバー19は背シートフレーム46との間に介装されるバネ47により係止ピン16が溝に嵌入する方向に常時付勢される。図4中、51は背シート部7の傾斜角度を調整したり、入浴用搬送車1を搬送させたりする際に掴む操作ハンドルである。
【0037】
図3に示すように、板部材12には円弧溝13が刻設され、この円弧溝13の一方端13aから他方端13bにかけては順次弧外方向に形成される第一係止溝14a、第二係止溝14b、第三係止溝14cが設けられており、操作ハンドル51と操作レバー19を同時に把持して操作レバー19を操作し係止ピン16を第一係止溝14a、第二係止溝14b、第三係止溝14cのいずれかの溝に嵌入させることにより、背シート部7の傾斜角度を調整できるようになっている。また、係止ピン16を他方端13bに臨ませれば背シート部7の傾斜角度を略水平位置に設定できる。
【0038】
入浴者を着座部4へ移し乗せる際は主に背シート部7の傾斜角度を12°に設定し、その後、入浴者の病状や要介護度等に応じて傾斜角度を適宜設定し、続いて、入浴用搬送車1を浴槽5内方に進入させる入浴動作に移る。尚、図2中、21は背シート部7に対し所定範囲で移動自在に取着される枕部である。
【0039】
また、詳細な説明は省略するが、図2に示すようにシートフレーム9の左右後方側(基端側)においてサイドガード8が設けられ、このサイドガード8は機能位置(例えば、図2中実線で示す位置)と非機能位置(同図中二点鎖線で示す位置)とのいずれかの位置に切替え可能に構成されている。
【0040】
また、図2、3、7に示すように、シートフレーム9前端部には入浴者を着座部4へ移し乗せたり、着座部4から降下させる際に入浴用搬送車1の転倒を阻止するためパイプ状の脚体29が1本設けられている。脚体29は一方部位がシートフレーム9の前端部において左右に架け渡された横架フレーム9aに取着された取着部材30に揺動軸31を介して軸着され、図2中、実線で示す引出端と二点鎖線で示すシートフレーム9の延在方向と同方向となる収納端との所定区間を揺動可能になっている。脚体29の他方部位には床面を走行可能な転動輪32が二輪配設されている。
【0041】
脚体29の一方部位近傍には脚体29を手動で引き出し及び収納する際に把持する把持部材33が設けられている。この把持部材33と取着部材30にわたり引張バネ34が架け渡されていて、この引張バネ34により脚体29は引出端から収納端におよぶ揺動範囲における略中間の所定位置(図2中、Bで示す脚体29の位置)を境界線として、引出端及び収納端のいずれかの端位置に到達するようにその揺動が誘発される。即ち、脚体29がBで示す脚体29の位置よりも引出端寄りにあれば引出端方向への揺動が誘発される。逆に、Bで示す脚体29の位置よりも収納端寄りに脚体29があれば収納端方向への揺動が誘発される。
【0042】
従って、収納端にある脚体29を手動で引き出し、脚体29が前記境界線を越えると、脚体29の自重と引張バネ34の作用が相俟って脚体29はストッパー36が横架フレーム9a下面に当接する引出端まで揺動しこの端位置で保持される。図4に示すように、浴槽5の底壁5aとの当接位置に対応する脚体29の位置にはローラ35が設けられおり、浴槽5内方に向けて着座部4の押し込みを開始すると、ある段階でローラ35が底壁5a側面に当接し、脚体29が押され半時計方向に揺動し始める。
更に押し込みを続け、脚体29が境界線を越えると、引張バネ34の作用により収納端方向への揺動が誘発され、脚体29が略水平状態となる収納端まで揺動する。
【0043】
また、引出端の端位置において脚体29の揺動は機械的にロックされないが、入浴者の乗降に際し座シート部6に対し鉛直後方向への外力が作用しても脚体29が不用意に収納端の方向に揺動しないように引出端の端位置において脚体29の転動輪32の軸心を座シート部6に対する脚体29の揺動中心Cよりも前方に位置するように設定している(図2参照)。
【0044】
以下、入浴用搬送車1の動作について説明する。入浴介助者は入浴者を載せた他の搬送機器の近傍まで入浴用搬送車1を案内し停車させる。入浴者を着座部4上へ移し乗せるために、操作レバー19を操作し背シート部4を所望の角度、例えば略水平位置に調節する。必要に応じ、その他の角度に調節して移し乗せ動作を行っても勿論構わない。
【0045】
脚体29が収納端にあるときは把持部材33を把持し手動で脚体29を引き出す。このとき、脚体29は図2中Bで示す位置を越えると引張バネ34と自重の作用により揺動が誘発され引出端に到達するので、脚体29が引出端と収納端の間の中途半端な位置で保持されることはなく、よって、入浴介助者は脚体29が引出端と収納端のいずれの位置にあるのかを容易に視認判別することができ、収納端以外の位置に脚体29がある状態で入浴者の移し乗せ等の動作を行った結果、入浴用搬送車1が転倒してしまうという危険性も低減できる。
【0046】
また、引出端の端位置において、脚体29の転動輪32の軸心を座シート部6に対する脚体29の揺動中心Cよりも前方に位置するように設定しているため、入浴者の乗降に際し座シート部6に対し鉛直後方向への外力が作用しても脚体29が不用意に収納端の方向に揺動することを低減でき、この結果、入浴用搬送車1が転倒する危険性を抑制することが可能となる。
【0047】
続いて入浴者を移し乗せる側のサイドガード8を手動で非機能位置まで移動させ、着座部4上に入浴者を乗せた後、サイドガード8を機能位置までを元に戻し、背シート部7を所望角度に変更する。
【0048】
入浴用搬送車1を搬送し浴槽5の正面側にまで案内する。脚体29の他方部位には転動輪32が設けられているため、床面に多少の凹凸が存在した場合でも凹凸を転動輪32が容易に乗り越えることができ脚体29が搬送の障害になることはない。不図示の浴槽扉を開扉し、着座部4を前方から浴槽5内方に向けて押し込む。そのまま押し込みを続けると、浴槽5の底壁5a側面にローラ35が当接し、脚体29が反時計回り方向に揺動し始め、図2中Bで示す位置を脚体29が越えると引張バネ34の作用により脚体29の揺動が誘発され収納端まで到達する。従って、浴槽5内方へ着座部4を進入させる際に脚体29の収納操作が不要となり省力化に寄与でき、さらに、入浴介助者が脚体29の収納操作を誤って忘却し脚体29が浴槽5底壁5aに衝突することにより脚体29や浴槽5が破損するという危険性も回避できる。
【0049】
底壁5a下面から浴槽5の開口方向へ突き出るガイド部52に台車枠部3側方を沿わせながら入浴用搬送車1を更に押し込むと、まず、前連結支持体23aが底壁5aに当接し押され反時計回り方向に回動する。そして、台車ロックレバー49の先端49aが底壁5a下面に設けられる嵌入孔50に嵌入し、浴槽5に対し台車枠部3がロック固定されるとともに、台車枠部3の突起棒28が底壁5a下面の押圧子27により押されフック片25が後方に押される。この結果、後連結支持体23bが底壁5a側面に押され反時計回り方向に回動することにより、着座部4の台車枠部3からの分離が可能となり、台車枠部3の一部が底壁5aの下方へ残った状態で着座部4のみが浴槽5内方へ向けて進入可能となる。着座部4が図6で示す浴槽5内方の所定位置に進入したことを確認した後、浴槽扉を閉扉し不図示の貯湯タンクに予め貯湯していた湯水を浴槽5内へ移送供給し入浴者を入浴させる。
【0050】
入浴が完了したら、浴槽5内の湯水を貯湯タンクへ戻した後、浴槽扉を開扉し、着座部4を引き出し退出させる。このとき、脚体29は収納端に収納されたままの状態に保持される。
着座部4の引き出しに応じてシートフレーム9との軸着部に介装される不図示のバネ作用により連結支持体23が順次時計回り方向に回動し台車枠部3の受具24に載置され、着座部4と台車枠部3との連結が自動的になされる。
【0051】
次に、図8を参照して本発明の第二の実施形態を説明する。尚、図8において、図1ないし7と同一又は同等の構成要素については、同一符号を付記して、特に説明を要する場合を除いて構成要素の説明は省略する。
【0052】
第二の実施形態では、着座部4の浴槽5内方からの退出時に脚体29が転倒阻止機能を発揮できるように収納端から自動的に引出端まで引き出されるようにするとともに、引出端の端位置において、脚体29の揺動を機械的にロックするロック手段37を脚体29と座シート部6にかけて付設し、このロック手段37によるロックを着座部4の浴槽5内方への進入時に自動的に解除するように構成したものである。
【0053】
ロック手段37は、脚体29の側部に回動自在に軸着される回動片38の所定位置に側方に向けて突設されるピン状の係合突部材39と、一端がシートフレーム9に固着されるとともに他端に係合突部材39が係合する係合受部40aが形成される側面視略逆L字状の係合受部材40とから構成される。
係合突部材39の突設位置と略反対側の回動片38の位置には大径ローラ41が設けられ、大径ローラ41の描く円弧軌跡上であって脚体29前側面には小径ローラ42が設けられている。回動片38は不図示のバネにより図8中、時計回り方向に付勢されストッパー45により同方向への回動が制止されている。
【0054】
従って、浴槽5内方に向けて着座部4の押し込みを開始すると、ある段階で大径ローラ41が底壁5a側面に押され回動片38が図8中、半時計方向へ回動し小径ローラ42を押し、脚体29が同方向に揺動することによって、係合突部材39と係合受部40aとの係合が離脱される。よって、着座部4を浴槽5内方へ進入させる際に都度、ロック手段を手動でロック解除する手間が省け好適である。着座部4をさらに押し込むと、脚体29は底壁5aに押されながら収納端まで揺動し収納状態に至る。
【0055】
逆に、浴槽5内方から着座部4を退出させていくと、脚体29の自重と引張バネ43の作用により収納端方向に脚体29が揺動し、収納端位置において係合突部材39と係合受部40aが自動的に係合して脚体29の揺動が自動的にロックされる。脚体29は収納端位置でロック手段37により機械的にロックされ保持されるため、着座部4を退出させた後、脚体29の引き出し操作を手動により行う必要はなく、脚体操作をより一層省力化できることになる。
また、入浴用搬送車1の搬送時は、座シート部6の下方付近は視認し難くく、無意識のうちに浴槽5の底壁5a以外の障害物に脚体29を当ててしまい、脚体29が少し収納端側に揺動した状態で入浴者の移し乗せを行うという危険な事態が予測されるが、このような危険性も回避できることになる。
【0056】
その他、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、高齢者や身体障害者等の入浴者を搬送車の着座部に座らせた後、この着座部のみを浴槽内方に進入させて座位入浴を行うための入浴用搬送車に適用できるもので、産業上の利用可能性は高く有益なものである。
【符号の説明】
【0058】
1 入浴用搬送車
2 車輪
3 台車枠部
4 着座部
6 座シート部
10 受け材
10a 載置面
10b 前側縁
29 脚体
31 揺動軸
32 転動輪
34 引張バネ
35 ローラ
37 ロック手段
39 係合突部材
40 係合受部材
41 大径ローラ
42 小径ローラ
43 引張バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪を下部に有する台車枠部上に着座部が分離連結可能に載設され、該着座部のみを浴槽内方に進入させて座位入浴を行うための入浴用搬送車であって、
少なくとも前記着座部の座シート部は入浴者が長座位の姿勢で入浴可能となるよう前記台車枠部から前方に延在して構成されるとともに前記座シート部の下方には転倒を阻止する脚体が備えられ、
該脚体は前記着座部の前記浴槽内方への進入時に当該進入の妨げにならない位置まで自動的に収納するように構成されていることを特徴とする入浴用搬送車。

【請求項2】
前記脚体は、その一方部位が前記座シート部に軸着されて引出端と収納端の所定区間を揺動可能であって、該所定区間における前記脚体の所定位置を境界線として、引出端及び収納端のいずれかの端位置に到達するようにその揺動が誘発されることを特徴とする請求項1記載の入浴用搬送車。

【請求項3】
前記引出端の端位置において、少なくとも前記脚体の他方部位の端を前記座シート部に対する前記脚体の揺動中心よりも前方に位置させたことを特徴とする請求項2記載の入浴用搬送車。

【請求項4】
前記脚体は、その一方部位が前記座シート部に軸着されて引出端と収納端の所定区間を揺動可能であり、且つ、前記着座部の前記浴槽内方からの退出時に転倒阻止機能を発揮できるように前記収納端から自動的に引き出されることを特徴とする請求項1記載の入浴用搬送車。

【請求項5】
前記引出端の端位置において、前記脚体の揺動を自動的にロックするロック手段を前記脚体と前記座シート部にわたって付設し、該ロック手段によるロックを前記着座部の前記浴槽内方への進入時に自動的に解除するようにしたことを特徴とする請求項4記載の入浴用搬送車。

【請求項6】
最前の前記車輪より前方に位置する前記座シート部の周囲側縁を前記座シート部面より上方に高くなるように形成したことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の入浴用搬送車。

【請求項7】
少なくとも前記座シート部の前側縁を入浴者の足裏部位を押し当てることができる程度に高くしたことを特徴とする請求項6記載の入浴用搬送車。

【請求項8】
前記脚体の他方部位に転動輪を設けたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の入浴用搬送車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−218000(P2011−218000A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91334(P2010−91334)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000103471)オージー技研株式会社 (109)
【Fターム(参考)】