説明

全体評価値推定式の導出方法、評価方法、全体評価値推定式の導出装置、評価装置、全体評価値推定式の導出プログラム、及び評価プログラム

【課題】複数の対象が集合した全体の質を客観的且つ総合的に評価する。
【解決手段】全体評価値推定式の導出処理において、入力部6は、騒音計2が測定した各エンジン音の音圧を入力する。部分評価値決定部7は、各エンジン音の心理音響評価値を決定し、運転条件毎に、燃料噴射量及び回転数と心理音響評価値との関係を表す実測値マップを作成する。第1分析部8は、運転条件毎に、実測値マップの最小二乗平面を作成する。物理量決定部9は、運転条件毎に、実測値マップと最小二乗平面とに基づいて第1〜第3物理量を決定する。第2分析部10は、各運転条件における複数のエンジン音の全体の質の主観的な評価値である予め決定された全体評価値と第1〜第3物理量とを用いて、全体評価値推定式を導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体評価値推定式の導出方法、評価方法、全体評価値推定式の導出装置、評価装置、全体評価値推定式の導出プログラム、及び評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003−279400号公報には、例えばエンジンがローアイドルで運転されるときのエンジン音など、産業機器が発する音の質を、人の聴感に適合するように物理量化する音質評価装置及び音質評価方法が記載されている。この装置及び方法では、音の騒音レベルと音の周波数分析によって算出される累積変動レベルとを算出し、算出した騒音レベルと累積変動レベルとに対応させて音の質を表す評価点を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−279400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に搭載されるエンジンは、所望の出力を得るために回転数や燃料噴射量などの運転状態が変化されて運転されるので、運転状態によって音圧や周波数などの音の要素が異なり且つ質の評価が異なる多様なエンジン音を発生する。また、車両のユーザーは、エンジンから発生するエンジン音の質を評価するとき、当該エンジンがある運転状態で運転されるときのエンジン音のみを評価するのではなく、当該エンジンから発生する多様なエンジン音を総合的に評価する。
【0005】
このため、車両のメーカーがユーザーの嗜好にあったエンジンを開発するためには、エンジン音の全体的な質を客観的に評価できることが好ましい。
【0006】
しかし、上記従来の装置は、音の質の評価点を騒音レベルと累積変動レベルとに対応して求めているため、1つのエンジンから発生する特定の音の質を客観的に評価するものであって、多様な複数の音の総合的な質を客観的に評価するものではない。
【0007】
そこで、本発明は、複数の対象が集合した全体の質を客観的且つ総合的に評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明の第1の態様の全体評価値推定式の導出方法は、1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する全体評価値を推定するために、複数の全体対象の各々に共通して用いることが可能な全体評価値推定式を導出する導出方法であって、標本となる複数の全体対象を上記複数の全体対象の中から標本全体対象として抽出し、抽出した標本全体対象の各々について、全体評価値を主観評価によって決定し、標本全体対象が有する全ての部分対象の各々について、質の評価に影響を与える部分評価値を客観評価によって決定し、標本全体対象の各々において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と部分評価値とを用いた回帰分析によって、上記複数の部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出し、標本全体対象の各々において、部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定し、全体評価値と第1〜第3物理量とを用いた回帰分析によって、上記複数の全体対象のうち任意の1つの全体対象の第1〜第3物理量から当該全体対象の全体評価推定値を算出する全体評価値推定式を導出する。
【0009】
また、本発明の全体評価値推定式の導出装置は、1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する全体評価値を推定するために、複数の全体対象の各々に共通して用いることが可能な全体評価値推定式を導出する導出装置であって、全体評価値記憶手段と部分評価値記憶手段と第1分析手段と物理量決定手段と第2分析手段とを備える。
【0010】
全体評価値記憶手段は、上記複数の全体対象のうち標本となる複数の全体対象である標本全体対象の各々についての全体評価値であって、主観評価によって予め決定された全体評価値を記憶する。部分評価値記憶手段は、標本全体対象が有する全ての部分対象の各々についての質の評価に影響を与える部分評価値であって、客観評価によって予め決定された部分評価値を記憶する。第1分析手段は、標本全体対象の各々において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と部分評価値記憶手段に記憶された部分評価値とを用いた回帰分析によって、上記複数の部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する。物理量決定手段は、標本全体対象の各々において、第1分析手段が導出した部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定する。第2分析手段は、全体評価値記憶手段に記憶された全体評価値と物理量決定手段が決定した第1〜第3物理量とを用いた回帰分析によって、上記複数の全体対象のうち任意の1つの全体対象の第1〜第3物理量から当該全体対象の全体評価推定値を算出する全体評価値推定式を導出する。
【0011】
また、本発明の全体評価値推定式の導出プログラムは、1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する全体評価値を推定するために、複数の全体対象の各々に共通して用いることが可能な全体評価値推定式を導出する導出装置であって、上記複数の全体対象のうち標本となる複数の全体対象である標本全体対象の各々についての全体評価値であって主観評価によって予め決定された全体評価値を記憶する全体評価値記憶手段と、標本全体対象が有する全ての部分対象の各々についての質の評価に影響を与える部分評価値であって客観評価によって予め決定された部分評価値を記憶する部分評価値記憶手段とを備えた導出装置のコンピュータを、標本全体対象の各々において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と部分評価値記憶手段に記憶された部分評価値とを用いた回帰分析によって、上記複数の部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する第1分析手段、標本全体対象の各々において、第1分析手段が導出した部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定する物理量決定手段、及び、全体評価値記憶手段に記憶された全体評価値と物理量決定手段が決定した第1〜第3物理量とを用いた回帰分析によって、上記複数の全体対象のうち任意の1つの全体対象の第1〜第3物理量から当該全体対象の全体評価推定値を算出する全体評価値推定式を導出する第2分析手段、として機能させる。
【0012】
一般に、複数の対象が集合した全体の質の主観的な評価には、複数の対象の各々の評価の他に、これらの評価のばらつきや変動具合などが影響する。
【0013】
上記方法、構成及びプログラムでは、複数の全体対象のうち標本となる複数の標本全体対象の各々において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と、客観評価によって決定された部分対象の各々の部分評価値とを用いた回帰分析によって、任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式が導出され、導出された部分評価値推定式によって算出される部分対象の各々の部分評価推定値を用いて、第1〜第3物理量が決定される。第1物理量は、部分評価推定値からの部分評価値の散らばり具合を示し、第2物理量は、部分評価推定値の変動具合を示し、第3物理量は、部分評価推定値を代表する値である。標本全体対象の各々において第1〜第3物理量が決定されると、決定された第1〜第3物理量と、主観評価によって決定された標本全体対象の各々の全体評価値とを用いた回帰分析によって、任意の1つの全体対象における第1〜第3物理量から当該全体対象の全体評価推定値を算出する全体評価値推定式が導出される。
【0014】
このように、全体評価値を説明する変数として第1物理量及び第2物理量が用いられるので、各部分対象の評価のばらつきや変動具合を考慮して、全体対象の質の評価値を推定することが可能な全体評価値推定式を導出することができる。
【0015】
また、全体評価値を説明する変数として第3物理量が用いられるので、各部分対象の評価を考慮して、全体対象の質の評価値を推定することが可能な全体評価値推定式を導出することができる。
【0016】
また、第1〜第3物理量は、標本全体対象の各々が有する全ての部分対象の部分評価値に基づいて決定されるので、全ての部分対象の評価を考慮した総合的な質の評価値を推定することが可能な全体評価値推定式を導出することが可能である。
【0017】
また、複数の標本全体対象を適切に選択することによって、全体対象の質の評価値を高い精度で推定することが可能な全体評価値推定式を導出することができる。
【0018】
また、本発明の第2の態様の全体評価値推定式の導出方法は、上記第1の態様の全体評価値推定式の導出方法であって、第2物理量は、部分評価値推定式が線形式であるとき、パラメータのうち予め決定された1つ又は複数のパラメータの各々に対する部分評価値推定値の変化の割合であってもよい。
【0019】
上記方法では、部分評価値推定式が直線や平面を表す線形式である場合、第2物理量は、パラメータのうち予め決定された1つ又は複数のパラメータの各々に対する部分評価推定値の変化の割合、すなわち、部分評価値推定式によって表される図形に含まれる直線の傾きとされる。このように、全体対象の全領域において不変である直線の傾きを第2物理量とすることによって、部分評価値の変動を適切に表すことができ、全体対象の質の評価値を高い精度で推定することが可能な全体評価値推定式を導出することができる。
【0020】
また、本発明の第3の態様の全体評価値推定式の導出方法は、上記第1及び第2の態様の全体評価値推定式の導出方法であって、第3物理量は、上記部分対象のうち予め決定された1つの部分対象の部分評価推定値であってもよい。
【0021】
上記方法では、部分対象のうち予め決定された1つの部分対象の部分評価推定値が、部分対象の全ての部分評価推定値を代表する第3物理量とされる。これにより、特定の部分対象の部分評価値が全体対象の質の主観評価に大きく影響する場合には、全体対象の質の評価値を高い精度で推定することが可能な全体評価値推定式を導出することができる。
【0022】
また、本発明の第4の態様の全体評価値推定式の導出方法は、上記第1又は第2の態様の全体評価値推定式の導出方法であって、第3物理量は、部分評価値推定値の平均値であってもよい。
【0023】
上記方法では、全ての部分対象の部分評価推定値の平均値が、部分対象の全ての部分評価推定値を代表する第3物理量とされる。これにより、全ての部分対象の各々の部分評価値が全体対象の質の主観評価に同等に影響する場合には、全体対象の質の評価値を高い精度で推定することが可能な全体評価値推定式を導出することができる。
【0024】
また、本発明の第5の態様の全体評価値推定式の導出方法は、上記第1〜第4の態様の全体評価値推定式の導出方法であって、パラメータは、エンジン回転数と燃料噴射量又はエンジン負荷とであり、部分対象は、エンジン回転数と燃料噴射量又はエンジン負荷との各々の所定の値によって規定される領域におけるエンジン音であり、全体対象は、エンジン回転数と燃料噴射量又はエンジン負荷との各々の変動範囲の全ての領域におけるエンジン音であってもよい。
【0025】
上記方法では、全体対象は、エンジン回転数と燃料噴射量又はエンジン負荷との各々の変動範囲の全ての領域におけるエンジン音とされ、部分対象は、エンジン回転数と燃料噴射量又はエンジン負荷との各々の所定の値によって規定される領域におけるエンジン音とされる。このため、1つのエンジンから発生する多様な複数のエンジン音の各々における評価やこれら評価のばらつきや変動具合を考慮して、全体対象の質の評価値を推定することが可能な全体評価値推定式を導出することができる。
【0026】
本発明の第1の態様の評価方法は、第1〜第5の態様の全体評価値推定式の導出方法によって導出された全体評価値推定式を用いて、複数の全体対象の各々の質を評価する評価方法であって、評価する1つの全体対象を上記複数の全体対象の中から評価全体対象として抽出し、抽出した評価全体対象が有する全ての部分対象の各々について、部分評価値を客観評価によって決定し、評価全体対象において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と部分評価値とを用いた回帰分析によって、上記部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出し、評価全体対象において、部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定し、決定した第1〜第3物理量を全体評価値推定式に代入することによって、評価全体対象の全体評価推定値を算出する。
【0027】
また、本発明の第1の態様の評価装置は、第1〜第5の態様の全体評価値推定式の導出方法によって導出された全体評価値推定式を用いて、複数の全体対象の各々の質を評価する評価装置であって、記憶手段と分析手段と因数決定手段と全体評価値算出手段とを備える。
【0028】
記憶手段は、複数の全体対象のうち評価する1つの全体対象である評価全体対象が有する全ての部分対象の各々についての質の評価に影響を与える部分評価値であって、客観評価によって予め決定された部分評価値を記憶する。分析手段は、評価全体対象において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と記憶手段に記憶された部分評価値とを用いた回帰分析によって、部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する。因数決定手段は、評価全体対象において、分析手段が導出した部分評価値推定式によって算出される部分評価値からの部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定する。全体評価値算出手段は、因数決定手段が決定した第1〜第3物理量を全体評価値推定式に代入することによって、評価全体対象の全体評価推定値を算出する。
【0029】
また、本発明の第1の態様の評価プログラムは、第1〜第5の態様の全体評価値推定式の導出方法によって導出された全体評価値推定式を用いて、複数の全体対象の各々の質を評価する評価装置であって、複数の全体対象のうち評価する1つの全体対象である評価全体対象が有する全ての部分対象の各々についての質の評価に影響を与える部分評価値であって、客観評価によって予め決定された部分評価値を記憶する記憶手段を備えた評価装置のコンピュータを、評価全体対象において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と記憶手段に記憶された部分評価値とを用いた回帰分析によって、部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する分析手段、評価全体対象において、分析手段が導出した部分評価値推定式によって算出される部分評価値からの部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定する因数決定手段、及び、因数決定手段が決定した第1〜第3物理量を全体評価値推定式に代入することによって、評価全体対象の全体評価推定値を算出する全体評価値算出手段、として機能させる。
【0030】
上記方法、構成及びプログラムでは、複数の全体対象のうち評価する1つの評価全体対象において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と、客観評価によって決定された部分対象の各々の部分評価値とを用いた回帰分析によって、任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式が導出され、導出された部分評価値推定式によって算出される部分対象の各々の部分評価推定値を用いて、第1〜第3物理量が決定される。第1〜第3物理量が決定されると、決定された第1〜第3物理量を、上記第1〜第5の態様の全体評価値推定式の導出方法によって導出された全体評価値推定式に代入することによって、評価全体対象の全体評価推定値が算出される。このため、評価全体対象の総合的な質の評価値を推定して、評価全体対象の質を客観的且つ総合的に評価することができる。
【0031】
本発明の第2の態様の評価方法は、1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する評価方法であって、評価する1つの全体対象を複数の全体対象の中から評価全体対象として抽出し、抽出した評価全体対象が有する全ての部分対象の各々について、質の評価に影響を与える部分評価値を客観評価によって決定し、評価全体対象において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と部分評価値とを用いた回帰分析によって、部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出し、評価全体対象において、部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量を決定する。
【0032】
また、本発明の第2の態様の評価装置は、1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する評価装置であって、記憶手段と分析手段と評価値決定手段とを備える。
【0033】
記憶手段は、複数の全体対象のうち評価する1つの全体対象である評価全体対象が有する全ての部分対象の各々についての質の評価に影響を与える部分評価値であって、客観評価によって予め決定された部分評価値を記憶する。分析手段は、評価全体対象において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と記憶手段に記憶された部分評価値とを用いた回帰分析によって、部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する。評価値算出手段は、評価全体対象において、分析手段が導出した部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量を決定する。
【0034】
また、本発明の第2の態様の評価プログラムは、1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する評価装置であって、複数の全体対象のうち評価する1つの全体対象である評価全体対象が有する全ての部分対象の各々についての質の評価に影響を与える部分評価値であって、客観評価によって予め決定された部分評価値を記憶する記憶手段を備えた評価装置のコンピュータを、評価全体対象において、部分対象の各々を規定するパラメータの値と記憶手段に記憶された部分評価値とを用いた回帰分析によって、部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する分析手段、及び、評価全体対象において、分析手段が導出した部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量を決定する評価値決定手段として機能させる。
【0035】
上記方法、構成及びプログラムでは、複数の全体対象のうち評価する1つの評価全体対象、部分対象の各々を規定するパラメータの値と、客観評価によって決定された部分対象の各々の部分評価値とを用いた回帰分析によって、任意の1つの部分対象を規定するパラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式が導出され、導出された部分評価値推定式によって算出される部分対象の各々の部分評価推定値を用いて、第1物理量が決定される。このように、評価全体対象が有する部分対象の部分評価値のばらつきを表す第1物理量を決定することによって、複数の対象が集合した全体の質の評価に影響を与える全ての部分対象の評価のばらつきを把握することができ、評価全体対象の質を評価することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、複数の対象が集合した全体の質を客観的且つ総合的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施形態における全体評価値推定式の導出装置を示すブロック構成図である。
【図2】本実施形態の実測値マップを示す図である。
【図3】図2の最小二乗平面を示す図である。
【図4】本実施形態における導出処理を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態における評価装置を示すブロック構成図である。
【図6】本実施形態における評価処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施形態の全体評価値推定式の導出装置及び評価装置について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態における全体評価値推定式の導出装置を示すブロック構成図である。図2は、本実施形態の実測値マップを示す図である。図3は、図2の最小二乗平面を示す図である。図4は、本実施形態における導出処理を示すフローチャートである。図5は、本実施形態における評価装置を示すブロック構成図である。図6は、本実施形態における評価処理を示すフローチャートである。
【0039】
図1に示すように、本実施形態の全体評価値推定式の導出装置1は、騒音計2と導出処理装置3とを備え、ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンと称する)から発生する複数のエンジン音の全体の質の主観的な評価値の推定において、様々なエンジンに共通して用いることが可能な全体評価値推定式を、様々なエンジンの中から予め1つを選択して選択したエンジンを試験エンジンとし、試験エンジンから発生する複数のエンジン音の客観的な評価に基づいて導出するものである。
【0040】
騒音計2は、マイクロホン(図示省略)を有し、導出処理装置3に接続される。騒音計2は、マイクロホンに入力されたエンジン音の音圧を測定して導出処理装置3に出力する。マイクロホンには、試験エンジンから発生する複数のエンジン音が入力される。
【0041】
試験エンジンは、所定の複数の運転条件のそれぞれにおいて、所定の複数の燃料噴射量及び回転数の組み合わせで運転される。複数の運転条件は、燃料の噴射タイミングや噴射圧等がそれぞれ異なり、設定可能な全ての運転条件の中から、偏りなく且つ可能な限り多く設定される。また、所定の複数の燃料噴射量及び回転数の組み合わせは、設定可能な全ての組み合わせの中から、偏りなく且つ可能な限り多く設定される。なお、複数のエンジン音のそれぞれは部分対象に対応し、各運転条件における全てのエンジン音は標本全体対象に対応する。また、燃料噴射量及び回転数は、各エンジン音を規定するパラメータである。
【0042】
導出処理装置3は、記憶部4とCPU(Central Processing Unit)5と表示部12とを有する。導出処理装置3は、専用の装置であってもよく、汎用のパーソナルコンピュータであってもよい。
【0043】
記憶部4は、例えばRAM(Random Access Memory)などの記録媒体によって構成される。記憶部4には、CPU5が導出処理を実行するための導出処理実行プログラム(導出プログラム)が記憶されている。また、記憶部4には、エンジン音データ記憶テーブルや各種算出式及び各種データが記憶される。エンジン音データ記憶テーブルは、運転条件毎に設定され、各エンジン音における燃料噴射量及び回転数が予め記憶されて、各エンジン音の各種測定値や各種算出値などの評価値が燃料噴射量及び回転数に対応して記憶される。各種算出式には、人が聞いたときにどう感じるかを定量化した所定の心理音響評価値を決定するための所定の算出式が含まれる。各種データには、心理音響評価値を決定するための所定のデータや、各運転条件において予め決定された全体評価値などが含まれる。全体評価値は、各運転条件における複数のエンジン音の全体の質の評価値であって、主観評価によって決定される。また、記憶部4は、各種データなどが読み書き自在に記憶される記憶領域を有する。すなわち、記憶部4は、各運転条件における全体評価値を記憶する全体評価値記憶手段と、各エンジン音における心理音響評価値を記憶する部分評価値記憶手段として機能する。
【0044】
CPU5は、導出処理実行プログラムに従って導出処理を実行することによって、入力部6、部分評価値決定部7、第1分析部8、物理量決定部9、第2分析部10、表示制御部11として機能する。
【0045】
入力部6は、騒音計2が測定した各エンジン音の音圧を入力し、入力した音圧を記憶部4に記憶する。
【0046】
部分評価値決定部7は、各エンジン音の音圧と所定の算出式及び算出データを用いて、各エンジン音の心理音響評価値を決定する。各エンジン音の心理音響評価値を決定した部分評価値決定部7は、運転条件毎に、燃料噴射量及び回転数と心理音響評価値との関係を表す実測値マップを作成する。実測値マップの一例を、図2に示す。部分評価値決定部7は、各エンジン音の心理音響評価値と各運転条件における実測値マップとを記憶部4に記憶する。
【0047】
第1分析部8は、運転条件毎に、最小二乗法によって、部分評価値決定部7が作成した実測値マップの最小二乗平面(回帰平面)を表す重回帰式(部分評価値推定式)を導出し、最小二乗平面を作成する。最小二乗法では、説明変数と目的変数とのデータを用いて、説明変数と目的変数との関係を表す適切なモデル式が設定され、設定されたモデル式の係数及び定数が、回帰値(推定値)と実測値との差の平方和(残差平方和)が最小となるように決定されて、回帰式が導出される。部分評価値推定式の導出において、第1分析部8は、各運転条件における全てのエンジン音の燃料噴射量及び回転数と心理音響評価値とを用いてモデル式を設定する。ここでは、実測値マップを平面近似するので、設定されるモデル式は、平面を表す式であり、全ての運転条件において、燃料噴射量をX、回転数をX、心理音響評価値をYとすると、次式(1)によって表される。
【0048】
Y=α+α+a・・・(1)
上式(1)において、α(α,α)は係数、aは定数である。
【0049】
第1分析部8は、モデル式を設定すると、運転条件毎に、各運転条件における全てのエンジン音の燃料噴射量及び回転数と心理音響評価値とを用いて、係数α及び定数aを算出する。係数α及び定数aを算出した第1分析部8は、算出した係数α及び定数aを、上式(1)に当てはめて、各運転条件における部分評価値推定式を導出する。
【0050】
第1分析部8は、部分評価値推定式を導出すると、部分評価値推定式に各エンジン音の燃料噴射量及び回転数を代入することによって、各エンジン音の心理音響評価推定値を算出し、最小二乗平面を作成する。図2の最小二乗平面を、図3に示す。第1分析部8は、各エンジン音の心理音響評価推定値と各運転条件における最小二乗平面とを記憶部4に記憶する。すなわち、第1分析部8は、運転条件毎に、各エンジン音における燃料噴射量及び回転数と心理音響評価値とを用いた回帰分析によって、任意のエンジン音における燃料噴射量及び回転数から当該エンジン音の心理音響評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する第1分析手段として機能する。
【0051】
物理量決定部9は、部分評価値決定部7が作成した実測値マップと第1分析部8が作成した最小二乗平面とを用いて、運転条件毎に、第1〜第3物理量を決定する。第1物理量は、最小二乗平面からの実測値マップの乖離量、つまり、心理音響評価推定値からの心理音響評価値の散らばり具合を示し、部分評価値推定式の導出において第1分析部8によって算出される残差平方和を、各運転条件におけるエンジン音の数で除して決定される。第2物理量は、最小二乗平面の傾き、つまり、心理音響評価推定値の変動具合を示し、本実施形態では、最小二乗平面のうち回転数と心理音響評価推定値との関係を示す直線の傾きとする。第3物理量は、心理音響評価推定値を代表する値であり、本実施形態では、所定のエンジン音における心理音響評価推定値とする。所定のエンジン音は、頻繁に運転される燃料噴射量及び回転数におけるエンジン音が設定される。物理量決定部9は、各運転条件における第1〜第3物理量を記憶部4に記憶する。すなわち、物理量決定部9は、運転条件毎に、第1〜第3物理量を決定する物理量決定手段として機能する。
【0052】
第2分析部10は、最小二乗法によって、第1〜第3物理量から全体評価値を推定するための重回帰式(全体評価値推定式)を導出する。全体評価値推定式の導出において、第2分析部10は、物理量決定部9が決定した第1〜第3物理量と記憶部4に記憶された全体評価値とを用いて、第1〜第3物理量と全体評価値との関係を表すモデル式を設定する。ここでは、第1〜第3物理量と全体評価値との関係をより適切に表すため、モデル式は複数設定される。設定される複数のモデル式は、第1物理量をx1、第2物理量をx2、第3物理量をx3、全体評価値値をyとすると、例えば、次式(2)〜(5)で表される。
【0053】
y=β+β+β+b・・・(2)
y=β+β+β+β+b・・・(3)
y=β+β+β+β+b・・・(4)
y=β+β+β+b・・・(5)
上式(2)〜(5)において、β(β〜β)は係数、bは定数である。
【0054】
第2分析部10は、モデル式を設定すると、物理量決定部9が決定した第1〜第3物理量と記憶部4に記憶された全体評価値とを用いて、各モデル式の係数β及び定数bを算出する。係数β及び定数bを算出した第2分析部10は、算出した係数β及び定数bを、上式(2)〜(5)などの各モデル式に当てはめて、複数の重回帰式を導出する。複数の重回帰式を導出した第2分析部10は、各重回帰式において、重回帰式の当てはまりの良さを表す決定係数(相関係数)を算出し、決定係数の最も高い重回帰式を全体評価値推定式とする。すなわち、第2分析部10は、各運転条件における全体評価値と第1〜第3物理量とを用いた回帰分析によって、任意の運転条件における第1〜第3物理量から当該運転条件の全体評価推定値を算出する全体評価値推定式を導出する第2分析手段として機能する。
【0055】
表示制御部11は、部分評価値決定部7が作成した実測値マップと、第1分析部8が作成した最小二乗平面と、物理量決定部9が決定した第1〜第3物理量と、第2分析部10が導出した全体評価値推定式とを表示部12に出力する。
【0056】
表示部12は、表示制御部11から入力された実測値マップと最小二乗平面と第1〜第3物理量と全体評価値推定式とを表示する。
【0057】
次に、CPU5が実行する導出処理について、図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0058】
入力部6は、騒音計2が測定した各エンジン音の音圧を入力する(ステップS1)。
【0059】
部分評価値決定部7は、各エンジン音の心理音響評価値を決定し、運転条件毎に、燃料噴射量及び回転数と心理音響評価値との関係を表す実測値マップを作成する(ステップS2)。
【0060】
第1分析部8は、運転条件毎に、部分評価値推定式を導出し、導出した部分評価値推定式を用いて各エンジン音の心理音響評価推定値を算出し、燃料噴射量及び回転数と心理音響評価推定値との関係を表す最小二乗平面を作成する(ステップS3)。
【0061】
物理量決定部9は、運転条件毎に、第1〜第3物理量を決定する(ステップS4)。
【0062】
第2分析部10は、全体評価値推定式を導出する(ステップS5)。
【0063】
表示制御部11は、実測値マップと最小二乗平面と第1〜第3物理量と全体評価値推定式とを表示部12に表示させる(ステップS6)。
【0064】
本実施形態の全体評価値推定式の導出装置によれば、全体評価値を説明する変数として第1物理量及び第2物理量が用いられるので、各エンジン音の質の評価のばらつきや変動具合を考慮して、複数のエンジン音の全体の質の評価値を推定することが可能な全体評価値推定式を導出することができる。
【0065】
また、全体評価値を説明する変数として第3物理量が用いられるので、各エンジン音の評価を考慮して、複数のエンジン音の全体の質の評価値を推定することが可能な全体評価値推定式を導出することができる。
【0066】
また、第3物理量は、頻繁に運転される燃料噴射量及び回転数におけるエンジン音の心理音響評価推定値であるので、複数のエンジン音の全体の質の評価値を高い精度で推定することが可能な式を導出することができる。
【0067】
なお、導出処理装置3から独立して騒音計2を備え、各エンジン音の音圧を騒音計で測定することに限定されず、エンジン音が入力されるマイクロホンを含む音入力手段を備え、音入力手段を導出処理装置3に接続し、導出処理装置3のCPU5を音圧測定部として更に機能させることによって、各エンジン音の音圧を導出処理装置3において測定する構成であってもよい。
【0068】
また、各エンジン音を規定するパラメータは、燃料噴射量ではなくエンジン負荷であってもよい。
【0069】
また、第3物理量は、所定のエンジン音の心理音響評価推定値ではなく、各運転条件における全てのエンジン音の心理音響評価推定値の平均値であってもよい。
【0070】
また、全体評価値推定式の導出装置は、エンジンから発生する複数のエンジン音の全体の質の全体評価値の推定に用いる全体評価値推定式の導出に限定されず、パラメータ及び各種評価値を適切に設定することによって、複数の対象が集合した全体の質の主観的な評価値の推定に用いる評価値推定式の導出に適用することが可能である。
【0071】
次に、評価装置について説明する。図4に示すように、本実施形態の評価装置13は、騒音計2と評価処理装置14とを備え、上記全体評価値推定式の導出装置1によって導出された全体評価値推定式を用いて、評価するエンジン(評価対象エンジン)から発生する複数のエンジン音の全体の質を評価するものである。なお、上記全体評価値推定式の導出装置1と同様の構成には、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0072】
騒音計2は、評価処理装置14に接続される。騒音計2は、評価対象エンジンが、評価する運転条件において所定の燃料噴射量及び回転数の組み合わせで運転されたときの複数のエンジン音の音圧をそれぞれ測定して評価処理装置14に出力する。
【0073】
評価処理装置14は、記憶部15とCPU(Central Processing Unit)16と表示部23とを有する。評価処理装置14は、専用の装置であってもよく、汎用のパーソナルコンピュータであってもよい。
【0074】
記憶部15は、例えばRAM(Random Access Memory)などの記録媒体によって構成される。記憶部15には、CPU16が評価処理を実行するための評価処理実行プログラム(評価プログラム)が記憶されている。また、記憶部15には、エンジン音データ記憶テーブルや各種算出式及び各種データが記憶される。エンジン音データ記憶テーブルは、各エンジン音における燃料噴射量及び回転数が予め記憶されて、各エンジン音の評価値が燃料噴射量及び回転数に対応して記憶される。各種算出式には、上記全体評価値推定式の導出装置1によって導出された全体評価値推定式や、心理音響評価値を決定するための所定の算出式が含まれる。各種データには、心理音響評価値を決定するための所定のデータが含まれる。また、記憶部15は、各種データなどが読み書き自在に記憶される記憶領域を有する。すなわち、記憶部15は、評価対象エンジンから発生する各エンジン音における心理音響評価値を記憶する記憶手段として機能する。
【0075】
CPU16は、評価処理実行プログラムに従って評価処理を実行することによって、入力部17、部分評価値決定部18、分析部19、因数決定部20、全体評価値算出部21、表示制御部22として機能する。
【0076】
入力部17は、騒音計2が測定した各エンジン音の音圧を入力し、入力した音圧を記憶部15に記憶する。
【0077】
部分評価値決定部18は、各エンジン音の音圧と所定の算出式及び算出データを用いて、各エンジン音の心理音響評価値を決定する。各エンジン音の心理音響評価値を決定した部分評価値決定部18は、燃料噴射量及び回転数と心理音響評価値との関係を表す実測値マップを作成する。部分評価値決定部18は、各エンジン音の心理音響評価値と実測値マップとを記憶部15に記憶する。
【0078】
分析部19は、最小二乗法によって、部分評価値決定部が作成した実測値マップの最小二乗平面を表す重回帰式(部分評価値推定式)を導出する。部分評価値推定式の導出において、分析部19は、モデル式を設定する。設定されるモデル式は、平面を表す式であり、燃料噴射量をX、回転数をX、心理音響評価値をYとすると、次式(6)によって表される。
【0079】
Y=γ+γ+c・・・(6)
上式(6)において、γ(γ,γ)は係数、cは定数である。
【0080】
分析部19は、モデル式を設定すると、全てのエンジン音の燃料噴射量及び回転数と心理音響評価値とを用いて、係数γ及び定数cを算出する。係数γ及び定数cを算出した分析部19は、算出した係数γ及び定数cを、上式(6)に当てはめて、部分評価値推定式を導出する。
【0081】
分析部19は、部分評価値推定式を導出すると、部分評価値推定式に各エンジン音の燃料噴射量及び回転数を代入することによって、各エンジン音の心理音響評価推定値を算出し、最小二乗平面を作成する。分析部19は、各エンジン音の心理音響評価推定値と最小二乗平面とを記憶部15に記憶する。すなわち、分析部19は、各エンジン音における燃料噴射量及び回転数と心理音響評価値とを用いた回帰分析によって、任意のエンジン音における燃料噴射量及び回転数から当該エンジン音の心理音響評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する分析手段として機能する。
【0082】
因数決定部20は、部分評価値決定部18が作成した実測値マップと分析部19が作成した最小二乗平面とを用いて、第1〜第3物理量を決定し、記憶部15に記憶する。すなわち、因数決定部20は、第1〜第3物理量を決定する因数決定手段として機能する。
【0083】
全体評価値算出部21は、記憶部15に記憶された全体評価値推定式に因数決定部20が決定した第1〜第3物理量を代入することによって、評価対象エンジンから発生した複数のエンジン音の全体の質を評価する全体評価推定値を算出する。すなわち、全体評価値算出部21は、因数決定部20が決定した第1〜第3物理量を記憶部に記憶された全体評価値推定式に代入することによって全体評価値を算出する全体評価値算出手段として機能する。
【0084】
表示制御部22は、部分評価値決定部18が作成した実測値マップと、分析部19が作成した最小二乗平面と、因数決定部20が決定した第1〜第3物理量と、全体評価値算出部21が算出した全体評価値とを表示部23に出力する。
【0085】
表示部23は、表示制御部22から入力された実測値マップと最小二乗平面と第1〜第3物理量と全体評価値とを表示する。
【0086】
次に、CPU16が実行する評価処理について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0087】
入力部17は、騒音計2が測定した各エンジン音の音圧を入力する(ステップS21)。
【0088】
部分評価値決定部18は、各エンジン音の心理音響評価値を決定し、燃料噴射量及び回転数と心理音響評価値との関係を表す実測値マップを作成する(ステップS22)。
【0089】
分析部19は、部分評価値推定式を導出し、導出した部分評価値推定式を用いて各エンジン音の心理音響評価推定値を算出し、燃料噴射量及び回転数と心理音響評価推定値との関係を表す最小二乗平面を作成する(ステップS23)。
【0090】
因数決定部20は、第1〜第3物理量を決定する(ステップS24)。
【0091】
全体評価値算出部21は、全体評価推定値を算出する(ステップS25)。
【0092】
表示制御部22は、実測値マップと最小二乗平面と第1〜第3物理量と全体評価値とを表示部23に表示させる(ステップS26)。
【0093】
本実施形態の評価装置13によれば、評価対象エンジンから発生する複数のエンジン音の全体の総合的な質の評価値を推定して、評価対象エンジンから発生する複数のエンジン音の全体の質を客観的且つ総合的に評価することができる。
【0094】
なお、評価装置は、エンジンから発生する複数のエンジン音の全体の質の評価に限定されず、パラメータ及び各種評価値と全体評価値推定式とを適切に設定することによって、複数の対象が集合した全体の質の評価に適用することが可能である。
【0095】
また、評価装置は、全体評価値推定式の導出装置1によって導出された全体評価値推定式を用いて全体評価推定値を算出し、算出した全体評価推定値によって、複数のエンジン音の全体の質を評価する構成に限定されず、第1物理量によって評価する構成であってもよい。この場合、評価処理装置のCPUを、入力部、部分評価値決定部、分析部、第1物理量決定部、表示制御部として機能させ、第1物理量決定部が、第1物理量を決定する。このような評価装置では、評価対象エンジンから発生する複数のエンジン音の全体の質の評価に影響を与える全てのエンジン音のばらつきを的確に把握することができ、評価対象エンジンから発生する複数のエンジン音の全体の質を、各エンジン音のばらつきから評価したい場合に有効である。
【0096】
上記実施形態は、本発明の一例であり、本発明を逸脱しない範囲において変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、複数の対象が集合した全体の質の評価に有効である。
【符号の説明】
【0098】
1:全体評価値推定式の導出装置
2:騒音計
3:導出処理装置
4:記憶部(全体評価値記憶手段、部分評価値記憶手段)
5:CPU
6:入力部
7:部分評価値決定部
8:第1分析部(第1分析手段)
9:物理量決定部(物理量決定手段)
10:第2分析部(第2分析手段)
11:表示制御部
12:表示部
13:評価装置
14:評価処理装置
15:記憶部(記憶手段)
16:CPU
17:入力部
18:部分評価値決定部
19:分析部(分析手段)
20:因数決定部(因数決定手段)
21:全体評価値算出部(全体評価値算出手段)
22:表示制御部
23:表示部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する全体評価値を推定するために、前記複数の全体対象の各々に共通して用いることが可能な全体評価値推定式を導出する導出方法であって、
標本となる複数の全体対象を前記複数の全体対象の中から標本全体対象として抽出し、抽出した標本全体対象の各々について、前記全体評価値を主観評価によって決定し、
前記標本全体対象が有する全ての前記部分対象の各々について、前記質の評価に影響を与える部分評価値を客観評価によって決定し、
前記標本全体対象の各々において、前記部分対象の各々を規定する前記パラメータの値と前記部分評価値とを用いた回帰分析によって、前記部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定する前記パラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出し、
前記標本全体対象の各々において、前記部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの前記部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、前記部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、前記部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定し、
前記全体評価値と前記第1〜第3物理量とを用いた回帰分析によって、前記複数の全体対象のうち任意の1つの全体対象の前記第1〜第3物理量から当該全体対象の前記全体評価推定値を算出する前記全体評価値推定式を導出する
ことを特徴とする全体評価値推定式の導出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の全体評価値推定式の導出方法であって、
前記第2物理量は、部分評価値推定式が線形式であるとき、前記パラメータのうち予め決定された1つ又は複数のパラメータの各々に対する前記部分評価値推定値の変化の割合である
ことを特徴とする全体評価値推定式の導出方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の全体評価値推定式の導出方法であって、
前記第3物理量は、前記部分対象のうち予め決定された1つの部分対象の前記部分評価値推定値である
ことを特徴とする全体評価値推定式の導出方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の全体評価値推定式の導出方法であって、
前記第3物理量は、前記部分評価値推定値の平均値である
ことを特徴とする全体評価値推定式の導出方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載の全体評価値推定式の導出方法であって、
前記パラメータは、エンジン回転数と燃料噴射量又はエンジン負荷とであり、
前記部分対象は、前記エンジン回転数と前記燃料噴射量又は前記エンジン負荷との各々の所定の値によって規定される領域におけるエンジン音であり、
前記全体対象は、前記エンジン回転数と前記燃料噴射量又は前記エンジン負荷との各々の変動範囲の全ての領域におけるエンジン音である
ことを特徴とする全体評価値推定式の導出方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れかに記載の全体評価値推定式の導出方法によって導出された全体評価値推定式を用いて、前記複数の全体対象の各々の質を評価する評価方法であって、
評価する1つの全体対象を前記複数の全体対象の中から評価全体対象として抽出し、抽出した評価全体対象が有する全ての前記部分対象の各々について、前記部分評価値を客観評価によって決定し、
前記評価全体対象において、前記部分対象の各々を規定する前記パラメータの値と前記部分評価値とを用いた回帰分析によって、前記部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定する前記パラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出し、
前記評価全体対象において、前記部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの前記部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、前記部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、前記部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定し、
前記決定した第1〜第3物理量を前記全体評価値推定式に代入することによって、前記評価全体対象の全体評価推定値を算出する
ことを特徴とする評価方法。
【請求項7】
1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する評価方法であって、
評価する1つの全体対象を前記複数の全体対象の中から評価全体対象として抽出し、抽出した評価全体対象が有する全ての前記部分対象の各々について、前記質の評価に影響を与える部分評価値を客観評価によって決定し、
前記評価全体対象において、前記部分対象の各々を規定する前記パラメータの値と前記部分評価値とを用いた回帰分析によって、前記部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定する前記パラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出し、
前記評価全体対象において、前記部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの前記部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量を決定する
ことを特徴とする評価方法。
【請求項8】
1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する全体評価値を推定するために、前記複数の全体対象の各々に共通して用いることが可能な全体評価値推定式を導出する導出装置であって、
前記複数の全体対象のうち標本となる複数の全体対象である標本全体対象の各々についての前記全体評価値であって、主観評価によって予め決定された前記全体評価値を記憶する全体評価値記憶手段と、
前記標本全体対象が有する全ての前記部分対象の各々についての前記質の評価に影響を与える部分評価値であって、客観評価によって予め決定された前記部分評価値を記憶する部分評価値記憶手段と、
前記標本全体対象の各々において、前記部分対象の各々を規定する前記パラメータの値と前記部分評価値記憶手段に記憶された前記部分評価値とを用いた回帰分析によって、前記部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定する前記パラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する第1分析手段と、
前記標本全体対象の各々において、前記第1分析手段が導出した前記部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの前記部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、前記部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、前記部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定する物理量決定手段と、
前記全体評価値記憶手段に記憶された前記全体評価値と前記物理量決定手段が決定した前記第1〜第3物理量とを用いた回帰分析によって、前記複数の全体対象のうち任意の1つの全体対象の前記第1〜第3物理量から当該全体対象の前記全体評価推定値を算出する前記全体評価値推定式を導出する第2分析手段と、を備えた
ことを特徴とする全体評価値推定式の導出装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項5の何れかに記載の全体評価値推定式の導出方法によって導出された全体評価値推定式を用いて、前記複数の全体対象の各々の質を評価する評価装置であって、
前記複数の全体対象のうち評価する1つの全体対象である評価全体対象が有する全ての前記部分対象の各々についての前記質の評価に影響を与える部分評価値であって、客観評価によって予め決定された前記部分評価値を記憶する記憶手段と、
前記評価全体対象において、前記部分対象の各々を規定する前記パラメータの値と前記記憶手段に記憶された前記部分評価値とを用いた回帰分析によって、前記部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定する前記パラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する分析手段と、
前記評価全体対象において、前記分析手段が導出した前記部分評価値推定式によって算出される部分評価値からの前記部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、前記部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、前記部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定する因数決定手段と、
前記因数決定手段が決定した第1〜第3物理量を全体評価値推定式に代入することによって、前記評価全体対象の全体評価推定値を算出する全体評価値算出手段と、を備えた
ことを特徴とする評価装置。
【請求項10】
1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する評価装置であって、
前記複数の全体対象のうち評価する1つの全体対象である評価全体対象が有する全ての前記部分対象の各々についての前記質の評価に影響を与える部分評価値であって、客観評価によって予め決定された前記部分評価値を記憶する記憶手段と、
前記評価全体対象において、前記部分対象の各々を規定する前記パラメータの値と前記記憶手段に記憶された前記部分評価値とを用いた回帰分析によって、前記部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定する前記パラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する分析手段と、
前記評価全体対象において、前記分析手段が導出した前記部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの前記部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量を決定する評価値決定手段と、を備えた
ことを特徴とする評価装置。
【請求項11】
1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する全体評価値を推定するために、前記複数の全体対象の各々に共通して用いることが可能な全体評価値推定式を導出する導出装置であって、前記複数の全体対象のうち標本となる複数の全体対象である標本全体対象の各々についての前記全体評価値であって主観評価によって予め決定された前記全体評価値を記憶する全体評価値記憶手段と、前記標本全体対象が有する全ての前記部分対象の各々についての前記質の評価に影響を与える部分評価値であって客観評価によって予め決定された前記部分評価値を記憶する部分評価値記憶手段とを備えた前記導出装置のコンピュータを、
前記標本全体対象の各々において、前記部分対象の各々を規定する前記パラメータの値と前記部分評価値記憶手段に記憶された前記部分評価値とを用いた回帰分析によって、前記部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定する前記パラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する第1分析手段、
前記標本全体対象の各々において、前記第1分析手段が導出した前記部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの前記部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、前記部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、前記部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定する物理量決定手段、及び
前記全体評価値記憶手段に記憶された前記全体評価値と前記物理量決定手段が決定した前記第1〜第3物理量とを用いた回帰分析によって、前記複数の全体対象のうち任意の1つの全体対象の前記第1〜第3物理量から当該全体対象の前記全体評価推定値を算出する前記全体評価値推定式を導出する第2分析手段、
として機能させることを特徴とする全体評価値推定式の導出プログラム。
【請求項12】
請求項1〜請求項5の何れかに記載の全体評価値推定式の導出方法によって導出された全体評価値推定式を用いて、前記複数の全体対象の各々の質を評価する評価装置であって、前記複数の全体対象のうち評価する1つの全体対象である評価全体対象が有する全ての前記部分対象の各々についての前記質の評価に影響を与える部分評価値であって、客観評価によって予め決定された前記部分評価値を記憶する記憶手段を備えた前記評価装置のコンピュータを、
前記評価全体対象において、前記部分対象の各々を規定する前記パラメータの値と前記記憶手段に記憶された前記部分評価値とを用いた回帰分析によって、前記部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定する前記パラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する分析手段、
前記評価全体対象において、前記分析手段が導出した前記部分評価値推定式によって算出される部分評価値からの前記部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量と、前記部分評価推定値の変動具合を示す第2物理量と、前記部分評価推定値を代表する第3物理量とを決定する因数決定手段、及び
前記因数決定手段が決定した第1〜第3物理量を前記全体評価値推定式に代入することによって、前記評価全体対象の全体評価推定値を算出する全体評価値算出手段、
として機能させることを特徴とする評価プログラム。
【請求項13】
1つ又は複数の共通のパラメータによって規定される複数の部分対象を各々が有する複数の全体対象の各々の質を評価する評価装置であって、前記複数の全体対象のうち評価する1つの全体対象である評価全体対象が有する全ての前記部分対象の各々についての前記質の評価に影響を与える部分評価値であって、客観評価によって予め決定された前記部分評価値を記憶する記憶手段を備えた評価装置のコンピュータを、
前記評価全体対象において、前記部分対象の各々を規定する前記パラメータの値と前記記憶手段に記憶された前記部分評価値とを用いた回帰分析によって、前記部分対象のうち任意の1つの部分対象を規定する前記パラメータの値から当該部分対象の部分評価推定値を算出する部分評価値推定式を導出する分析手段、及び
前記評価全体対象において、前記分析手段が導出した前記部分評価値推定式によって算出される部分評価推定値からの前記部分評価値の散らばり具合を示す第1物理量を決定する評価値算出手段
として機能させることを特徴とする評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−76596(P2013−76596A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215873(P2011−215873)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】