説明

内燃機関の点火時期制御方法

【課題】ノック発生時に全気筒を一律に遅角制御するとノックの発生していない気筒も点火時期を同じだけ遅角させるため、燃焼効率の良かった気筒の効率が低下する。また、気筒毎にノック検出をしてノックが発生した気筒のみの点火時期を遅角させるとエンジンの負荷や運転状態によっては複数の気筒からノックが発生するため、ノックの発生から遅角制御までの動作を気筒毎に繰り返してしまい、複数回に亘ってノックが発生し、ユーザが不快感を抱く場合がある。
【解決手段】ノック検出手段がノッキングを検出した気筒を1番目の気筒として、ECUは当該1番目の気筒に対して次回の燃焼時からノッキングの発生を抑制する点火信号の遅角量を演算し、内燃機関が加速運転時には、ECUからの1番目の気筒以外の気筒に対しての点火信号は1番目の気筒の遅角量の30〜50パーセントの範囲の遅角量を反映させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等の内燃機関の燃焼状態に対する点火時期制御方法において、特に、ノッキングに対する点火制御方法に対するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関が発する金属性の音や振動する現象をノッキング(以下「ノック」)といい、ノックの原因としては点火時期が早過ぎることや内燃機関の圧縮比が高過ぎること、極端に薄い混合気による燃焼等が上げられ、エンジンブローに繋がる恐れがある。ノック対策においては、ノック発生が検出された場合に、ノックが発生した気筒の点火時期を遅角側に補正し、ノックの発生を抑制することが知られているが、この他にも複数の気筒の各々を最適点火時期で制御し、また、いずれかの気筒のノック発生に応答してすべての気筒を一律に遅角側に制御するものが提案されており、例えば特開2007−327346号公報(以下「特許文献1」)が知られている。
【0003】
特許文献1において、複数の気筒を有する内燃機関の点火時期制御装置であって、複数の気筒のいずれかのノック発生を検出するノック検出手段と、複数の気筒のすべてに対して共通の基準点火時期を設定する基準点火時期制御手段と、複数の気筒の各々に対して個別に異なる気筒別点火時期を設定する気筒別点火時期設定手段とを備え、基準点火時期制御手段は、ノック発生の検出状態に応じて基準点火時期を補正する基準点火時期補正手段を含み、基準点火時期補正手段は、ノック発生が検出された場合には基準点火時期を遅角側に補正し、ノック発生が検出されなかった場合には基準点火時期を進角側に補正し、気筒別点火時期設定手段は、複数の気筒の各々の気筒別最適点火時期のばらつきを補償するための気筒別補正値を設定する気筒別補正値設定手段を含み、気筒別補正値に応じて基準点火時期に基づいた気筒別点火時期を設定し、気筒別補正値設定手段は、気筒別補正値を複数の気筒の数と同数だけ設定し、複数の気筒のいずれかで今回のノック発生が検出されてから、複数の気筒のいずれにもノック発生が検出されない期間を経て、複数の気筒のいずれかで次回のノック発生が検出されるまでのノック−ノック発生期間において、複数の気筒別補正値のうち、今回のノック発生までに所定のノック発生回数に達していない気筒に対応する少なくとも1 つの気筒別補正値を進角側の値に設定する内燃機関の点火時期制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−327346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の内燃機関の点火時期制御装置では次のような問題が生じている。即ち、特許文献1において、ノック発生時は、連続してノックが発生しないように全気筒一律で遅角制御し、ノック発生回数が所定回数以上となった気筒以外の気筒の気筒別補正値を進角側となるように設定しているが、ノック発生時に全気筒を一律に遅角制御するとノックの発生していない気筒も点火時期を同じだけ遅角させるため、燃焼効率の良かった気筒の効率が低下する問題が生じる。
【0006】
しかし、気筒毎にノック検出をしてノックが発生した気筒のみの点火時期を遅角させるとエンジンの負荷や運転状態によっては複数の気筒からノックが発生するため、ノックの発生から遅角制御までの動作を気筒毎に繰り返してしまい、エンジンが破損することや、複数回に亘ってノックが発生し、ユーザが不快感を抱く場合がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、内燃機関の気筒に発生するノックを抑制し、エンジンの保護及び出力トルクのロスを防ぐとともに内燃機関のノック発生時に燃焼効率が低下することを防ぐことができる内燃機関の点火時期制御方法を提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は次のような構成とする。即ち、複数の気筒を有する内燃機関と、当該内燃機関の電気的制御を行うECUと、前記内燃機関の点火を行う1次コイルと2次コイルとからなる点火コイルと、前記内燃機関のノックの発生を検出するノック検出手段とから構成され、当該ノック検出手段が前記内燃機関の何れかの気筒からノッキングを検出した際に、前記ECUからの前記点火コイルの点火信号を遅角させてノッキングの発生を抑制する内燃機関の点火時期制御方法において、前記ノック検出手段がノッキングを検出した前記気筒を1番目の気筒として、前記ECUは当該1番目の気筒に対して次回の燃焼時からノッキングの発生を抑制する点火信号の遅角量を反映し、前記1番目の気筒以外の気筒に対しての点火信号は前記1番目の気筒の遅角量から前記内燃機関の運転状態に応じた比率の遅角量を反映することを特徴とする内燃機関の点火時期制御方法とする。
【0009】
上記構成においては、前記ノック検出手段は前記内燃機関の振動を検知するノックセンサ又は前記内燃機関の燃焼時に発生するイオン電流を検出するイオン電流検出装置としてもよい。また、前記内燃機関の運転状態は前記内燃機関の回転数又はアクセルの開閉率、前記内燃機関への吸気圧等から決定してもよい。さらに、前記内燃機関が加速運転時には、前記ECUからの前記1番目の気筒以外の気筒に対しての点火信号は前記1番目の気筒の遅角量の30〜50パーセントの範囲の遅角量を反映させてもよいし、前記内燃機関が定速運転時には、前記ECUからの前記1番目の気筒以外の気筒に対しての点火信号は前記1番目の気筒の遅角量の0パーセントの遅角量を反映させてもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記の通り、ノック検出手段がノッキングを検出した気筒を1番目の気筒として、ECUは当該1番目の気筒に対して次回の燃焼時からノッキングの発生を抑制する点火信号の遅角量を反映し、内燃機関が加速運転時には、ECUからの1番目の気筒以外の気筒に対しての点火信号は1番目の気筒の遅角量の30〜50パーセントの範囲の遅角量を反映させることで、内燃機関の気筒に発生するノックを抑制し、エンジンの保護及び出力トルクのロスを防ぐとともに内燃機関のノック発生時に燃焼効率が低下することを防ぐことができる内燃機関の点火時期制御方法が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施例とする内燃機関の構成を示す図である。
【図2】第1の実施例とする急加速運転時における内燃機関の各気筒の燃焼期間及び各気筒に対して行う点火時期制御を示すタイムチャートである。
【図3】第1の実施例とする加速運転時における内燃機関の各気筒の燃焼期間及び各気筒に対して行う点火時期制御を示すタイムチャートである。
【図4】第1の実施例とする定速運転時における内燃機関の各気筒の燃焼期間及び各気筒に対して行う点火時期制御を示すタイムチャートである。
【図5】第1の実施例とする内燃機関のノックに対する点火時期制御を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を示す実施例を図1乃至図5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
本発明の第1の実施例とする内燃機関の構成を示す図を図1に、急加速運転時における内燃機関の各気筒の燃焼期間及び各気筒に対して行う点火時期制御を示すタイムチャートを図2に、加速運転時における内燃機関の各気筒の燃焼期間及び各気筒に対して行う点火時期制御を示すタイムチャートを図3に、定速運転時における内燃機関の各気筒の燃焼期間及び各気筒に対して行う点火時期制御を示すタイムチャートを図4に、内燃機関のノックに対する点火時期制御を表すフローチャートを図5にそれぞれ示す。
【0014】
図1において、内燃機関は3つの気筒30からなる3気筒エンジンであり、当該気筒30毎に1個ずつ形成されるシリンダ32内にガソリンと空気からなる混合気を供給するためのインテークマニホールド36を備え、当該インテークマニホールド36内に燃料を噴射するためのインジェクション50を備え、当該シリンダ32内からの排気ガスを排出するためのエキゾーストマニホールド42を備えている。また、当該インテークマニホールド36には当該シリンダ32内への吸気量を調整する吸気バルブ38を備え、当該エキゾーストマニホールド42には当該シリンダ32内からの排気量を調整する排気バルブ44を備えている。さらに、当該吸気バルブ38及び当該排気バルブ44の開閉動作を行うために、当該吸気バルブ38側には吸気カム40が備えられ、当該排気バルブ44側には排気カム46が備えられている。
【0015】
また、前記内燃機関には前記シリンダ32内の混合気を圧縮するためのピストン34と、当該ピストン34に伝わる前記シリンダ32内の燃焼による上下運動を回転運動に変換するクランク48を備えている。さらに、当該クランク48及び前記吸気カム40、前記排気カム46はタイミングベルトによって連動して駆動している。
【0016】
また、前記内燃機関にはエンジンルーム内に備えられたバッテリの電圧を昇圧する点火コイル10と前記シリンダ32内の混合気に点火を行う点火プラグ20を備え、当該点火コイル10は1次巻線を巻き回した1次コイルと2次巻線を巻き回した2次コイル、鉄芯、当該点火コイル10に点火信号を供給するFETからなるイグナイタとで構成されている。さらに、前記エンジンルームに前記内燃機関の電気的制御を行うECU54が備えられ、当該ECU54は前記インジェクション50から噴射する燃料の量を制御するとともに、当該ECU54は当該点火コイル10と接続されていて、前記内燃機関の燃焼サイクルに応じて当該ECU54から当該点火コイル10へ点火信号を供給している。
【0017】
また、前記内燃機関には前記点火コイル10からの点火が早過ぎる場合や前記シリンダ32内の圧縮比が高過ぎる場合、希薄燃料による燃焼の場合等での運転時に起こる前記内燃機関が発する金属性の音や振動するノッキング(以下「ノック」)を検出するノックセンサ52が備えられており、当該ノックセンサ52は前記ECU54と接続されている。さらに、当該ノックセンサ52は前記内燃機関のエンジンブロックに直接取り付けられ、ノックが発生すると当該ノックセンサ52内にある圧電素子が振動し、前記ECU54にセンサ信号を伝達している。
【0018】
次に、図2において、急加速運転時の前記内燃機関を構成する気筒♯1及び気筒♯2、気筒♯3の燃焼期間と当該気筒♯1に対する点火信号及び当該気筒♯2に対する点火信号、当該気筒♯3に対する点火信号は実線に示すような波形となり、前記内燃機関は当該気筒♯1の燃焼期間(A)、当該気筒♯2の燃焼期間(B)、当該気筒♯3の燃焼期間(C)、当該気筒♯1の燃焼期間(A’)・・・の順に燃焼行程がサイクルされている。また、当該気筒♯1及び当該気筒♯2、当該気筒♯3の各TDC(上死点)以降に燃焼が開始されるように当該♯1点火信号及び当該♯2点火信号、当該♯3点火信号をTON時間前記点火コイル10に供給している。さらに、前記内燃機関の回転数が上昇すると当該気筒♯1及び当該気筒♯2、当該気筒♯3のサイクルが進角され、当該気筒♯1の燃焼期間(A)及び当該気筒♯2の燃焼期間(B)、当該気筒♯3の燃焼期間(C)も短くなるため、当該♯1点火信号及び当該♯2点火信号、当該♯3点火信号も合わせて進角され、当該♯1点火信号及び当該♯2点火信号、当該♯3点火信号の通電時間TONも短くなる。
【0019】
また、前記内燃機関が急加速運転時に前記気筒♯1の燃焼期間(A)に対してTDC以前に前記気筒♯1の燃焼が開始され、前記気筒♯1でノックが発生した場合、前記気筒♯1の燃焼期間(A’)に対する前記♯1点火信号を破線で示すように矢印方向に遅角させ、前記気筒♯1に発生したノックを抑制している。さらに、前記気筒♯1の燃焼期間(A’)に対する前記♯1点火信号の遅角量を100パーセントとした場合、前記気筒♯2の燃焼期間(B)に対する前記♯2点火信号及び前記気筒♯3の燃焼期間(C)に対する前記♯3点火信号を破線で示すように前記気筒♯1の燃焼期間(A’)に対する前記♯1点火信号の遅角量の50パーセントにあたる遅角量で矢印方向に遅角させている。
【0020】
また、前記気筒♯2の燃焼期間(B)及び前記気筒♯3の燃焼期間(C)、前記気筒♯1の燃焼期間(A’)に対してノックを抑制する遅角制御を行った後、前記気筒♯1でノックが検出されなくなった場合、前記気筒♯2の燃焼期間(B)及び前記気筒♯3の燃焼期間(C)、前記気筒♯1の燃焼期間(A’)に対する遅角制御を徐々に進角側へ戻していく。
【0021】
また、図3において、加速運転時の前記内燃機関を構成する前記気筒♯1及び前記気筒♯2、前記気筒♯3の燃焼期間と前記♯1点火信号及び前記♯2点火信号、前記♯3点火信号は実線に示すような波形となり、前記内燃機関は前記気筒♯1の燃焼期間(D)、前記気筒♯2の燃焼期間(E)、前記気筒♯3の燃焼期間(F)、前記気筒♯1の燃焼期間(D’)・・・の順に燃焼行程がサイクルされている。さらに、前記気筒♯1及び前記気筒♯2、前記気筒♯3の各TDC以降に燃焼が開始されるように前記♯1点火信号及び前記♯2点火信号、前記♯3点火信号をTON時間前記点火コイル10に供給している。
【0022】
また、前記内燃機関の回転数が上昇すると前記気筒♯1及び前記気筒♯2、前記気筒♯3のサイクルが進角され、前記気筒♯1の燃焼期間(D)及び前記気筒♯2の燃焼期間(E)、前記気筒♯3の燃焼期間(F)も短くなるため、前記♯1点火信号及び前記♯2点火信号、前記♯3点火信号も合わせて進角され、前記♯1点火信号及び前記♯2点火信号、前記♯3点火信号の通電時間TONも短くなる。さらに、前記内燃機関が加速運転時に前記気筒♯1の燃焼期間(D)に対してTDC以前に前記気筒♯1の燃焼が開始され、前記気筒♯1でノックが発生した場合、前記気筒♯1の燃焼期間(D’)に対する前記♯1点火信号を破線で示すように矢印方向に遅角させ、前記気筒♯1に発生したノックを抑制している。
【0023】
また、前記気筒♯1の燃焼期間(D’)に対して前記♯1点火信号の遅角量を100パーセントとした場合、前記気筒♯2の燃焼期間(E)に対する前記♯2点火信号及び前記気筒♯3の燃焼期間(F)に対する前記♯3点火信号を破線で示すように前記気筒♯1の燃焼期間(D’)に対する前記♯1点火信号の遅角量の30パーセントにあたる遅角量で矢印方向に遅角させている。さらに、前記気筒♯2の燃焼期間(E)及び前記気筒♯3の燃焼期間(F)、前記気筒♯1の燃焼期間(D’)に対してノックを抑制する遅角制御を行った後、前記気筒♯1でノックが検出されなくなった場合、前記気筒♯2の燃焼期間(E)及び前記気筒♯3の燃焼期間(F)、前記気筒♯1の燃焼期間(D’)に対する遅角制御を徐々に進角側へ戻していく。
【0024】
また、図4において、定速運転時の前記内燃機関を構成する前記気筒♯1及び前記気筒♯2、前記気筒♯3の燃焼期間と前記♯1点火信号及び前記♯2点火信号、前記♯3点火信号は実線に示すような波形となり、前記内燃機関は前記気筒♯1の燃焼期間(G)、前記気筒♯2の燃焼期間(H)、前記気筒♯3の燃焼期間(I)、前記気筒♯1の燃焼期間(G’)・・・の順に燃焼行程がサイクルされている。さらに、前記気筒♯1及び前記気筒♯2、前記気筒♯3の各TDC以降に燃焼が開始されるように前記♯1点火信号及び前記♯2点火信号、前記♯3点火信号をTON時間前記点火コイル10に供給している。
【0025】
また、前記内燃機関の回転数が上昇すると前記気筒♯1及び前記気筒♯2、前記気筒♯3のサイクルが進角され、前記気筒♯1の燃焼期間(G)及び前記気筒♯2の燃焼期間(H)、前記気筒♯3の燃焼期間(I)も短くなるため、前記♯1点火信号及び前記♯2点火信号、前記♯3点火信号も合わせて進角され、前記♯1点火信号及び前記♯2点火信号、前記♯3点火信号の通電時間TONも短くなる。さらに、前記内燃機関が定速運転時に前記気筒♯1の燃焼期間(G)に対してTDC以前に前記気筒♯1の燃焼が開始され、前記気筒♯1でノックが発生した場合、前記気筒♯1の燃焼期間(G’)に対する前記♯1点火信号を破線で示すように矢印方向に遅角させ、前記気筒♯1に発生したノックを抑制している。
【0026】
また、前記気筒♯1の燃焼期間(G’)に対して前記♯1点火信号の遅角量を100パーセントとした場合、前記気筒♯2の燃焼期間(H)に対する前記♯2点火信号及び前記気筒♯3の燃焼期間(I)に対する前記♯3点火信号は前記気筒♯1の燃焼期間(G’)に対する前記♯1点火信号の遅角量の0パーセント即ち、前記内燃機関のノック非発生時と同様に前記気筒♯2及び前記気筒♯3の各TDC以降に燃焼が開始される前記♯2点火信号及び前記♯3点火信号としている。さらに、前記気筒♯1の燃焼期間(G’)に対してノックを抑制する遅角制御を行った後、前記気筒♯1でノックが検出されなくなった場合、前記気筒♯1の燃焼期間(G’)に対する遅角制御を徐々に進角側へ戻していく。
【0027】
また、図2乃至図4のタイムチャートは前記内燃機関の回転数の上昇により進角され、燃焼期間も短くなることから、本来急加速運転時及び加速運転時、定速運転時での時間軸の経過は異なるのだが、急加速時及び加速時、定速運転時の比較を行い易くするため、敢えて時間軸の経過が一律となるよう記載している。さらに、前記内燃機関の運転状態が急加速運転又は加速運転、定速運転であるかの判断は、前記内燃機関の回転数の上昇又はアクセルの開度から行っている。
【0028】
次に、内燃機関の点火時期制御方法の動作を図5に基づいて説明する。
【0029】
図5において、前記ノックセンサ52は前記内燃機関で発生する振動の検出を開始し(S1)、前記ノックセンサ52は前記内燃機関に振動の有無を判定し(S2)、(S2)で前記ノックセンサ52が前記内燃機関から振動を検出した場合、前記ECU54は前記ノックセンサ52が振動を検出した際に、燃焼行程を行っていた気筒をノックが発生した気筒と判定し(S3)、前記ECU54は(S3)でノックが発生した気筒と判断された気筒を1番目の気筒とし(S4)、前記ECU54は当該1番目の気筒以降に燃焼が行われる気筒を2番目の気筒及び3番目の気筒とし(S5)、前記ECU54は前記ノックセンサ52からのセンサ信号に基づいて当該1番目の気筒の次回燃焼行程に対してノックの発生を抑制する点火信号TONの遅角量を演算している(S6)。
【0030】
また、前記ECU54は前記内燃機関の運転状態が急加速運転であるかの判定を行い(S7)、(S7)で前記内燃機関の運転状態が急加速運転であると判定された場合、前記ECU54は前記2番目の気筒及び前記3番目の気筒に対する点火信号TONの遅角量を(S6)で演算された前記1番目の気筒の次回燃焼行程に対して行う点火信号TONの遅角量を100パーセントとした際の50パーセントにあたる遅角量として反映する(S8)。さらに、前記ECU54は前記1番目の気筒の次回燃焼行程に対して(S6)で演算したノックの発生を抑制する点火信号TONの遅角量を反映する(S9)。
【0031】
また、(S7)で前記内燃機関の運転状態が急加速運転でないと判定された場合、前記ECU54は前記内燃機関の運転状態が加速運転であるかの判定を行い(S11)、(S11)で前記内燃機関の運転状態が加速運転であると判定された場合、前記ECU54は前記2番目の気筒及び前記3番目の気筒に対する点火信号TONの遅角量を(S6)で演算された前記1番目の気筒の次回燃焼行程に対して行う点火信号TONの遅角量を100パーセントとした際の30パーセントにあたる遅角量として反映する(S12)。さらに、前記ECU54は前記1番目の気筒の次回燃焼行程に対して(S6)で演算したノックの発生を抑制する点火信号TONの遅角量を反映する(S9)。
【0032】
また、(S11)で前記内燃機関の運転状態が加速運転でないと判断された場合、前記ECU54は前記内燃機関の運転状態を定速運転と判定し、前記1番目の気筒の次回燃焼行程に対して(S6)で演算したノックの発生を抑制する点火信号TONの遅角量を反映する(S9)。
【0033】
上記構成により、前記内燃機関の運転状態が急加速走行であると判定された場合、前記ECU54は前記1番目の気筒の次回燃焼行程に対してノックの発生を抑制する点火信号TONの遅角量を反映し、前記ECU54は前記2番目の気筒及び前記3番目の気筒に対する点火信号TONの遅角量を前記1番目の気筒の次回燃焼行程に対して行う点火信号TONの遅角量を100パーセントとした際の50パーセントにあたる遅角量として反映することで、ノックが発生した気筒以外の気筒にもノックが発生し易い前記内燃機関に高負荷がかかっている状態において、複数回に亘ってノックが発生しユーザが不快感を抱くことを防ぐことができる。
【0034】
また、前記内燃機関の運転状態が加速運転であると判定された場合、前記ECU54は前記1番目の気筒の次回燃焼行程に対して(S6)で演算したノックの発生を抑制する点火信号TONの遅角量を反映し、前記2番目の気筒及び前記3番目の気筒に対する点火信号TONの遅角量を前記1番目の気筒の次回燃焼行程に対して行う点火信号TONの遅角量を100パーセントとした際の30パーセントにあたる遅角量として反映することで、加速運転から急加速運転までの前記内燃機関に負荷がかかっている状態に合わせて前記内燃機関の前記気筒30に発生するノックを抑制することができる。
【0035】
また、前記内燃機関の運転状態が定速運転であると判定された場合、前記ECU54は前記内燃機関の運転状態を定速走行と判定し、前記1番目の気筒の次回燃焼行程に対してノックの発生を抑制する点火信号TONの遅角量を反映することで、ノックが発生した気筒のみノックの発生を抑制する点火信号の遅角を行い、ノックが発生していない気筒に関しては燃焼効率が低下することを防ぐことができる。
【0036】
これらの制御を行うことで、前記内燃機関の気筒に発生するノックを抑制し、エンジンの保護及び出力トルクのロスを防ぐとともに前記内燃機関のノック発生時に燃焼効率が低下することを防ぐことができる。
【0037】
なお上記実施例1の変形例として、前記内燃機関は3つの前記気筒30からなる3気筒エンジンとしたが、複数の気筒を有した内燃機関であれば適宜変更してもよいし、前記内燃機関の部品構成は設計事情によって任意に変更してもよい。また、前記内燃機関の前記エンジンブロックに取り付けられる前記ノックセンサ52の個数及び配置箇所は設計事情によって任意に変更してもよいし、前記ノックセンサ52は振動板と圧電素子から構成された共振型ノックセンサ又は加速度センサから構成された非共振型ノックセンサのどちらを用いてもよい。さらに、前記ノックセンサ52の代わりに前記内燃機関の前記気筒30の燃焼によって前記点火プラグ20に発生するイオン電流を検出し、検出したイオン電流波形から前記内燃機関にノックが発生しているかの演算を行うイオン電流電出装置を用いてもよい。
【0038】
また、前記内燃機関が急加速運転時の前記気筒♯2の燃焼期間(B)に対する前記♯2点火信号及び前記気筒♯3の燃焼期間(C)に対する前記♯3点火信号の遅角量に前記気筒♯1の燃焼期間(A’)に対する前記♯1点火信号の遅角量から反映させる比率は前記内燃機関の仕様又は使用環境等によって任意の比率に変更してもよい。さらに、前記内燃機関が加速運転時の前記気筒♯2の燃焼期間(E)に対する前記♯2点火信号及び前記気筒♯3の燃焼期間(F)に対する前記♯3点火信号の遅角量に前記気筒♯1の燃焼期間(D’)に対する前記♯1点火信号の遅角量から反映させる比率は前記内燃機関の仕様又は使用環境等によって任意の比率に変更してもよい。
【0039】
また、前記内燃機関が定速運転時の前記気筒♯2の燃焼期間(H)に対する前記♯2点火信号及び前記気筒♯3の燃焼期間(I)に対する前記♯3点火信号の遅角量に前記気筒♯1の燃焼期間(G’)に対する前記♯1点火信号の遅角量から反映させる比率は前記内燃機関の仕様又は使用環境等によって任意の比率に変更してもよい。さらに、前記内燃機関の運転状態は急加速運転及び加速運転、定速運転の3つの区分としたが、運転状態の区分は設計事情によって任意の区分に増減させてもよいし、前記内燃機関の運転状態は前記内燃機関の回転数又は車両の速度上昇、アクセルの開閉度、水冷式内燃機関の水温、前記内燃機関の吸気圧、トランスミッションのギア段数等から総合的に判別する構成としてもよい。
【0040】
また、前記気筒♯2の燃焼期間(B)及び前記気筒♯3の燃焼期間(C)、前記気筒♯1の燃焼期間(A’)に対してノックを抑制する遅角制御を行った後、前記気筒♯1でノックが検出されなくなった場合の前記気筒♯2の燃焼期間(B)及び前記気筒♯3の燃焼期間(C)、前記気筒♯1の燃焼期間(A’)に対する進角制御は設計事情によって任意の制御で行ってもよい。さらに、前記気筒♯2の燃焼期間(E)及び前記気筒♯3の燃焼期間(F)、前記気筒♯1の燃焼期間(D’)に対してノックを抑制する遅角制御を行った後、前記気筒♯1でノックが検出されなくなった場合の前記気筒♯2の燃焼期間(E)及び前記気筒♯3の燃焼期間(F)、前記気筒♯1の燃焼期間(D’)に対する進角制御は設計事情によって任意の制御で行ってもよい。
【0041】
また、前記気筒♯1の燃焼期間(G’)に対してノックを抑制する遅角制御を行った後、前記気筒♯1でノックが検出されなくなった場合の前記気筒♯1の燃焼期間(G’)に対する進角制御は設計事情によって任意の制御で行ってもよい。
【符号の説明】
【0042】
10:点火コイル
20:点火プラグ
30:気筒
32:シリンダ
34:ピストン
36:インテークマニホールド
38:吸気バルブ
40:吸気カム
42:エキゾーストマニホールド
44:排気バルブ
46:排気カム
48:クランク
50:インジェクション
52:ノックセンサ
54:ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有する内燃機関と、
当該内燃機関の電気的制御を行うECUと、
前記内燃機関の点火を行う1次コイルと2次コイルとからなる点火コイルと、
前記内燃機関のノックの発生を検出するノック検出手段とから構成され、
当該ノック検出手段が前記内燃機関の何れかの気筒からノッキングを検出した際に、前記ECUからの前記点火コイルの点火信号を遅角させてノッキングの発生を抑制する内燃機関の点火時期制御方法において、
前記ノック検出手段がノッキングを検出した前記気筒を1番目の気筒として、
前記ECUは当該1番目の気筒に対して次回の燃焼時からノッキングの発生を抑制する点火信号の遅角量を演算し、
前記ECUは前記1番目の気筒以外の気筒に対しての点火信号は前記1番目の気筒の遅角量から前記内燃機関の運転状態に応じた比率の遅角量を反映することを特徴とする内燃機関の点火時期制御方法。
【請求項2】
前記ノック検出手段は前記内燃機関の振動を検知するノックセンサ又は前記内燃機関の燃焼時に発生するイオン電流を検出するイオン電流検出装置であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御方法。
【請求項3】
前記内燃機関の運転状態は前記内燃機関の回転数又はアクセルの開閉率、前記内燃機関への吸気圧等から決定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の点火時期制御方法。
【請求項4】
前記内燃機関が加速運転時には、前記ECUから前記1番目の気筒以外の気筒に対しての点火信号は前記1番目の気筒30の遅角量の30〜50パーセントの範囲の遅角量を反映することを特徴とする請求項1乃至3に記載の内燃機関の点火時期制御方法。
【請求項5】
前記内燃機関が定速運転時には、前記ECUから前記1番目の気筒以外の気筒に対しての点火信号は前記1番目の気筒30の遅角量の0パーセントの遅角量を反映することを特徴とする請求項1乃至4に記載の内燃機関の点火時期制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−108384(P2013−108384A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252681(P2011−252681)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000109093)ダイヤモンド電機株式会社 (387)
【Fターム(参考)】