説明

内燃機関

【課題】クランクジャーナルを冷却したオイルがミスト化してブローバイガスが増えたりオイル密度が低下したりすることを防止する。
【解決手段】クランクジャーナル8,9は、コロ軸受け22を介してシリンダブロック1と軸受けキャップ4とで回転自在に保持されている。コロ軸受け22の外周には冷却用環状溝24が形成されており、冷却用環状溝24には、シリンダブロック1に設けた送油通路25からオイルが供給される。オイルは上排出通路26とサイド排出通路27とを通ってオイルパン7に流下する。サイド排出通路27のオイル出口27aは、クランクアーム10の回転エリア28の外側に位置している。オイルがクランクアーム10に衝突したり、クランクアーム10によってオイルに運動エネルギが付与されたりすることはない。このためオイルのミスト化を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、クランク軸の支持構造に特徴を有する内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クランク軸のクランクジャーナルは、転がり軸受け又は滑り軸受け(メタル軸受け)を介してシリンダブロック及び軸受けキャップで回転自在に保持されているが、クランク軸の回転によって軸受けが発熱し、甚だしい場合は軸受けの焼き付けを生じるおそれがある。
【0003】
そこで、軸受けをオイルで強制的に冷却することが提案されており、その例として特許文献1には、軸受けキャップに設けたオイル通路から軸受けの外周に冷却用オイルを供給することが開示されている。この特許文献1では、軸受けを冷却したオイルは、軸受けの外周面を通って外部に流出するようになっている。すなわち、軸受けと軸受け部との隙間からクランク室(或いはオイルパン)に流れ落ちるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平06−74230号のCD−ROM
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、クランク軸はクランクアームを備えており、このクランクアームがクランク軸の軸心回りに回転しているため、クランク室に落下したオイルは、クランクアームに衝突してミスト化したり、クランクアームによって運動エネルギを付与されてクランク室の内面に衝突してミスト化したりする現象が見られる。クランク室の内部にバランスウエイトを配置している場合は、このバランスウエイトもオイルのミスト化の原因になっている。
【0006】
このため、特許文献1のように軸受けの端からオイルをクランク軸に流出させる構造では、流出したオイルがクランクアームの攪拌作用によってミスト化する現象が生じる可能性が高く、すると、シリンダボアとピストンとの間から燃焼室に侵入するブローバイガスの量が増えてオイル消費量が増える問題や、オイルミストに気泡が混入することにより、オイルパンに戻ってからオイルポンプで再び各部位に送られて潤滑等の仕事をするにおいて、潤滑不良を招いたりオイル密度低下によるポンプ効率悪化を招いたりする問題が懸念される。
【0007】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明(請求項1の発明)の内燃機関は、クランク軸が軸受けを介して機関本体の軸受け部に回転自在に保持されており、前記軸受けの外周面に、前記機関本体に設けた送油通路から冷却用オイルが供給される構成において、前記機関本体には、前記軸受けを冷却したオイルを逃がすオイル排出通路が形成されており、前記排出通路のオイル出口を、クランク軸の軸方向から見てクランクアームの回転エリアの外側に位置させている。
【0009】
本願発明は請求項2の構成も含んでいる。この請求項2の発明は、請求項1において、前記機関本体は、前記機関本体は、前記クランク軸のクランクジャーナルが半周だけ嵌まる半円状の軸受けが形成されたシリンダブロックと、前記クランクジャーナルの残り半周が嵌まる軸受けキャップとを有しており、前記軸受けキャップは、軸心を挟んだ両側において前記シリンダブロックにボルトで固定されており、かつ、前記シリンダブロックと軸受けキャップとの合わせ面に、前記オイル排出通路が、前記軸受けを挟んだ両側に延びるように形成されており、前記ボルトは前記排出通路の箇所を通っている。なお、「ボルトは前記排出通路の箇所を通っている」とは、ボルトがオイルに触れずに排出通路の近くに位置している場合と、ボルトが排出通路を貫通している場合との両方を含んでいる(ボルトはオイルに触れないのが好ましいと言える。)。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によると、軸受けを冷却したオイルは排出通路を通ってクランク室等に排出されるが、軸方向から見てクランクアームの回転エリアの外側に位置しているため、排出されたオイルがクランクアームに衝突したり、クランクアームによって運動エネルギを付与されたりすることを防止又は著しく抑制して、冷却用オイルのミスト化を防止又は著しく抑制できる。その結果、オイルの消費量を抑制できると共に、気泡の大量混入による潤滑不良やポンプ効率悪化を防止できる。
【0011】
なお、バランスウエイトがクランク室に配置されている場合、バランスウエイトの回転エリアはクランクアームの回転エリアと殆ど同じであるため、本願発明は、バランスウエイトの悪影響も回避できる。
【0012】
シリンダブロックは一般に鋳物である一方、軸受けキャップはダイキャスト品又は鋳物であることが殆どであるため、請求項2のように、オイルをシリンダブロックと軸受けキャップとの合わせ面に形成すると、排出通路をシリンダブロックに形成するにしても軸受けキャップに形成するにしても、それらシリンダブロック又は軸受けキャップと同時に排出通路を形成し得るため、加工の手間を抑制できる。
【0013】
また、軸受けキャップは軸心を挟んだ両側がボルトでシリンダブロックに固定されているが、請求項2の発明によると両方のボルトをオイルで均等に冷却できるため、一方のボルトと他方のボルトとの熱膨張の程度が異なって軸受けがクランクジャーナルに片当たりするような現象を防止でき、その結果、クランクジャーナルを滑らかに支持して回転抵抗増大を回避できる。これにより、燃費向上と機関の耐久性向上とに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】内燃機関の縦断正面図である。
【図2】図1のII-II 視断面図である。
【図3】図3の分離図である。
【図4】(A)は図1の IVA-IVA視概略断面図、(B)は(A)の部分拡大図、(C)は(B)のC−C視断面図である。
【図5】(A)は図3(A)の VA-VA視断面図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、内燃機関はシリンダボア2が形成されたシリンダブロック1を備えおり、シリンダボア2にはピストン3が摺動自在に嵌まっている。シリンダブロック1の下面部には、軸受けキャップ4を介してクランク軸5が回転自在に保持されている。このため、シリンダブロック1には、軸受けキャップ4が下方から嵌まるキャップ保持凹部6を形成している。シリンダブロック1と軸受けキャップ4とは機関本体を構成している。図2に示すように、シリンダブロック1の下面にはオイルパン7が固定されている。
【0016】
本実施形態の内燃機関は2気筒であり、このため、クランク軸5は、一端と他端との側に位置したメインジャーナル8と、両者の間に位置した中間ジャーナル9との3つのクランクジャーナルを有しており、メインジャーナル8と中間ジャーナル9との間にそれぞれ一対ずつのクランクアーム10が配置され、クランクアーム10の対は、ジャーナル8,9の軸心から偏心したクランクピン11で一体に繋がっている。
【0017】
クランクピン10とピストン3とは連接棒13で連結されている。連接棒13は、本体とこれにボルトで固定されたキャップ14とからなっており、クランクピン11は半割り式の滑り軸受け(メタル軸受け)15で抱持されている。本実施形態のクランク軸5は全体が一体に構成されているが、組み立て式を採用することも可能である。
【0018】
各ジャーナル8,9は、シリンダブロック1に形成した半円形の軸受け部17と軸受けキャップ4の半円状凹所18との間に配置されており、軸受け部17と軸受けキャップ4との間に、転がり軸受けの一例として、インナーレース19とアウターレース20との間に多数本のコロ21を配置したコロ軸受け22が介在している。図4(C)に示すように、コロ軸受け22は、シリンダブロック1の軸受け部17に嵌まるものと軸受けキャップ4の凹所18に嵌まるものとの半割り方式になっている。軸受けキャップ4は、ジャーナル8,9の軸心を挟んだ両側の部位が、それぞれ1本ずつのボルト22でシリンダブロック1に固定されている。
【0019】
図4(C)に示すように、コロ軸受け22におけるアウターレース20の外周面には、冷却用環状溝24が全周にわたって形成されている一方、シリンダブロック1には、アウターレース20の冷却用環状溝24にオイルを供給する送油通路25が形成されている。送油通路25は、クランク軸5の軸方向から見てシリンダボア2の軸線に対して傾斜した姿勢になっている。
【0020】
更に、軸受けキャップ4のうちシリンダブロック1と重なる面に、溝状の上排出通路26が半円状凹所18を挟んだ両側に延びるように形成されており、シリンダブロック1には、上排出通路26の外端に連通してサイド排出通路27が形成されている。サイド排出通路27は、シリンダブロック1を鋳造するに際して一体に形成されており(ドリル加工で形成することも可能である。)、下端に行くに従ってクランク軸5から遠ざかるように傾斜している。なお、図2,3,4(A)ではサイド排出通路27は模式的に表示しており、実際の穴径よりも小径に表示している(もとより、サイド排出通路27を図2,3,4(A)で表示している程度の径に設定することも可能である。)。
【0021】
図5(A)に示すように、上排出通路26はボルト22を挟んだ両側に2本ずつ位置しており、2本の上排出通路26が、それぞれコロ軸受け22の冷却用環状溝24とシリンダブロック1のサイド排出通路27とに連通している。なお、図1の IVA-IVA視断面図である図4(A)では、正確には、ボルト22は実線で表示されても上排出通路26は点線で表示されるべきであるが、図5(A)では、便宜的に上排出通路26も実線で表示している。図5(B)では上排出通路26を逆台形状に表示しているが、長方形や正方形、半円形、V形など各種の形状に設定できる。
【0022】
上排出通路26のうちコロ軸受け22に連通した2つの始端部26aは、ボルト22に近づくに従って互いの間隔が広がるようにハの字形に傾斜しており、両始端部26aにボルト22を挟んだ外側において平行に延びる第1ストレート部26bが接続され、更に、第1ストレート部26bに、当該第1ストレート部26bよりも内側に位置した第2ストレート部26dが接続され、第2ストレート部26dに、互いの間隔を狭めるように傾斜した姿勢でサイド排出通路27に連通した終端部26cが接続されている。
【0023】
なお、上排出通路26はボルト22の片側を通る1本とすることも可能であり、また、ボルト22の軸心を通るように1本とすることも可能である。ボルト22の軸心を通るように形成すると、ボルト22にオイルが直接当たることになる。基本的には1本で、ボルト22の周囲の箇所だけ環状に形成して、オイルがボルト22に触れないようにすることも可能である。
【0024】
本実施形態では、2本の上排出通路26とサイド排出通路27とで排出通路が構成されている。そして、図2及び図4(A)に示すように、クランク軸5の軸方向から見て、クランクアーム10の回転エリアの外延を符号28の一点鎖線で示しており、一点鎖線28で囲われた範囲がクランクアーム10の回転エリアであるが、サイド排出通路27の下端のオイル出口27aは、クランクアーム10の回転エリアの外側に位置している。
【0025】
送油通路25から送られた冷却用のオイルは、コロ軸受け22の外周の冷却用環状溝24に流れ込むことでコロ軸受け22を冷却し、それから上排出通路26及びサイド排出通路27を通り、オイル出口27aからオイルパン7に流下する。そして、サイド排出通路27の下端のオイル出口27aは、クランクアーム10の回転エリアの外側に位置しているため、オイルを大量に供給してもこれがクランクアーム10の回転によってミスト化することはない。従って、コロ軸受け22を的確に冷却しつつ、オイルのミスト化を防止して、消費量を抑制できると共に気泡の混入にる弊害を防止できる。
【0026】
本実施形態では、コロ軸受け22の冷却手段としてアウターレース20の外周面に冷却用環状溝24を形成しているが、シリンダブロック1の軸受け部17と軸受けキャップ4の半円状凹所18とに冷却の溝を形成することも可能である。また、上排出通路26はシリンダブロック1に形成することも可能である(シリンダブロック1と軸受けキャップ4との両方に形成してもよい。)。また、本願発明では、オイルによる冷却手段は、複数のジャーナルのうち少なくとも1つの部位に設けたらよい。更に、軸受けとしては、ボールベアリング(球軸受け)やメタル軸受けなども使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本願発明は内燃機関に実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 機関本体を構成するシリンダブロック
2 シリンダボア
3 ピストン
4 機関本体を構成する軸受けキャップ
5 クランク軸
6 キャップ保持凹部
7 オイルパン
8,9 クランクジャーナル
10 クランクアーム
11 クランクピン
19 インナーレース
17 シリンダブロックの軸受け部
18 軸受けキャップ4の半円状凹所
20 アウターレース
21 コロ
22 転がり軸受けの一例としてのコロ軸受け
23 ボルト
24 冷却用環状溝
25 送油通路
26 排出通路の一部である上排出通路
27 排出通路の一部であるサイド排出通路
27a オイル出口
28 上排出通路の回転エリアの外延

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸が軸受けを介して機関本体の軸受け部に回転自在に保持されており、前記軸受けの外周面に、前記機関本体に設けた送油通路から冷却用オイルが供給される構成であって、
前記機関本体には、前記軸受けを冷却したオイルを逃がすオイル排出通路が形成されており、前記排出通路のオイル出口を、クランク軸の軸方向から見てクランクアームの回転エリアの外側に位置させている、
内燃機関。
【請求項2】
前記機関本体は、前記クランク軸のクランクジャーナルが半周だけ嵌まる半円状の軸受けが形成されたシリンダブロックと、前記クランクジャーナルの残り半周が嵌まる軸受けキャップとを有しており、前記軸受けキャップは、軸心を挟んだ両側において前記シリンダブロックにボルトで固定されており、かつ、前記シリンダブロックと軸受けキャップとの合わせ面に、前記オイル排出通路が、前記軸受けを挟んだ両側に延びるように形成されており、前記ボルトは前記排出通路の箇所を通っている、
請求項1に記載した内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113253(P2013−113253A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261587(P2011−261587)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】