内燃機関
【課題】加工の容易性を確保しつつクランクピンを的確に潤滑すると共に、クランク軸の強度低下も防止する。
【解決手段】クランクジャーナル7,8は、軸受け15を介して軸受け部17,18と軸受けキャップ4,5とで回転自在に保持されている。クランクアーム10には、軸線と平行穴な第1給油通路26と、軸線と直交した第2給油通路27とが空いている。中間軸受け部18の側面に円板状スラストメタル23が装着されており、円板状スラストメタル23に、第1給油通路26に連通した環状溝24と、環状溝24と主送油通路20,21を連通させる通し穴25とが空いている。給油通路26,27のドリル加工は容易であるため、加工性に優れている。
【解決手段】クランクジャーナル7,8は、軸受け15を介して軸受け部17,18と軸受けキャップ4,5とで回転自在に保持されている。クランクアーム10には、軸線と平行穴な第1給油通路26と、軸線と直交した第2給油通路27とが空いている。中間軸受け部18の側面に円板状スラストメタル23が装着されており、円板状スラストメタル23に、第1給油通路26に連通した環状溝24と、環状溝24と主送油通路20,21を連通させる通し穴25とが空いている。給油通路26,27のドリル加工は容易であるため、加工性に優れている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、クランクピンの潤滑等に特徴を有する内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロ式の内燃機関において、ピストンの往復動を回転運動に変換するクランク軸は、機関本体に回転自在に保持されるジャーナルと、連接棒が連結されたクランクピンとを有している。クランクピンと連接棒との間にはメタル式等の軸受けが介在しているが、連接棒はピストンに連結されていて揺動するので、クランクピンの軸受けの潤滑や冷却はクランクアームの方からの給油で行うことになる。
【0003】
そして、このクランクピンの軸受けの潤滑手段として、例えば特許文献1には、ジャーナルの軸心を通る中心通路と、この中心通路に連通すると共にクランクピンの外周面に開口した傾斜状通路とを設けて、傾斜状通路から軸受けの内周面にオイルを供給することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭60−9362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、特許文献1の傾斜状通路はドリル加工によって形成することになるが、ドリル加工一般の問題として、ワークの加工面に対してドリルを斜めから当てるとドリルの刃先の滑り現象が生じるため、加工が非常に厄介であるという問題がある(ドリル先端の位置決め(芯出し)がしにくいと共に、ドリルの折損が多発する。)。特に、クランクピンは円形であって外周面に円弧の曲面になっているため、ドリルの刃先は一層滑りやすくなっており、しかも、クランク軸は特殊な素材からなっていて焼き入れ前の状態でも相当に硬いため、ドリル加工の厄介さが倍増することになる。また、クランク軸は穴を空けることで強度が低下する問題もある。
【0006】
このドリル加工の厄介さは、中心通路に連通する中間通路を、クランクピンの軸心と直交した通路と平行な通路とで構成することで多少は緩和されるが、この場合は、ドリル加工の加工工程が増えるのみならず、中間通路の端を塞ぐため、中間通路の開口端部にタップ加工で雌ねじを形成してこれらにプラグをねじ込まねばならず、従って、加工の手間を大きく省くには至っていない。
【0007】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の内燃機関は、一対のクランクジャーナルが機関本体の軸受け部で回転自在に保持されている一方、前記一対のクランクジャーナルにはそれぞれクランクアームが繋がっており、これらクランクアームに繋がったクランクピンに連接棒が接続されている構成において、まず、「前記クランクアームには、前記クランクピンの外周面にオイルを供給する給油通路が、前記クランクアームの側面に開口するように形成されている一方、前記機関本体の軸受け部には、前記クランクアームの側面に向いて開口した送油通路が形成されている」、という構成になっている。
【0009】
そして、上記の構成に加えて、「前記軸受け部又はクランクアームの側面に、前記クランクアームの回転を許容しつつ当該クランクアームと軸受け部との間をシールする円板状スラストメタルが、前記クランク軸の回転軸心と同心に配置されており、前記円板状スラストメタルに、前記クランクアームの給油油路と前記軸受け部の送油通路とを連通させる環状溝と貫通穴との対を形成する」という構成になっているか、又は、「前記クランクアームを回転可能な状態で前記軸受け部の側面に密着させて、前記クランクアームの側面と軸受け部の側面のうちいずれか一方に、前記クランクアームにおける給油油路の入口と前記軸受け部における送油通路の出口とを連通させる環状溝を形成している」という構成になっている。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によると、クランクアームの給油通路はクランクピンの外周面とクランクアームの側面とに開口しているが、このうちクランクピンの外周に開口した通路は、クランクピンの軸心と直交した姿勢のドリルによって容易に空けることできる一方、クランクアームの側面に開口した通路も、当該クランクアームの側面に対して直交した姿勢のドリルで容易に空けることができる。そして、これら給油通路の開口部はオイルの出口と入口とを構成しているから、プラグで詰める必要は無くすか又はプラグの個数を抑制でき、これによって加工の容易性が一層助長される。
【0011】
他方、機関本体の軸受け部に設けた送油通路は軸受け部の側面に開口しているため、当該軸受け部の側面と直交した姿勢のドリルによって容易に空けることができる(送油通路は機関本体(シリンダブロック)の鋳造に際して一体に設けることも可能であり、この場合は加工の手間は不要になる。)。
【0012】
そして、本願発明は、円板状スラストメタル又は軸受け部若しくはクランクアームに形成した環状溝を利用して、送油通路から給油通路にオイルを供給するものであり、これにより、回転しているクランクアームに対して常にオイルを供給できる。また、環状溝は、円板状スラストメタルに設ける場合は旋盤加工やフライス加工等によって容易に形成できる一方、軸受け部又はクランクアームに形成する場合は、鋳造に際して一体に形成できるため、いずれにしても加工の手間が大幅に増えることはない。
【0013】
このように、本願発明によると、部材の加工の容易性を確保しつつ、クランクピンを的確に潤滑(及び冷却)することができる。また、機関本体の軸受け部とクランク軸のクランクアームとが直接に又は円板状スラストメタルを介して密接(密着)しているため、クランク軸の軸方向の位置規制を正確に行える。更に、クランク軸のジャーナル部に穴を空ける必要はないため、クランク軸の強度アップにも貢献できる。
【0014】
なお、円板状スラストメタルとクランクアームとの間の摺接面には環状溝が介在しているため、潤滑は良好に行われると共に、油膜自身のシール効果により、オイル漏れも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は内燃機関の縦断正面図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】(A)は図2のIIIA-IIIA 視断面図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、内燃機関はシリンダボア2が形成されたシリンダブロック1を備えおり、シリンダボア2にはピストン3が摺動自在に嵌まっている。シリンダブロック1の下面部には、ジャーナルキャップ4,5を介してクランク軸6が回転自在に保持されている。シリンダブロック1とジャーナルキャップ4,5は機関本体を構成している。図示していないが、シリンダブロック1の下面にはオイルパンが固定されている。
【0017】
本実施形態の内燃機関は2気筒であり、このため、クランク軸6は、一端と他端との側に位置したメインジャーナル7と、両者の間に位置した中間ジャーナル8との3つのクランクジャーナルを有しており、メインジャーナル7と中間ジャーナル8との間にそれぞれ一対ずつのクランクアーム9が配置され、クランクアーム9の対は、ジャーナル7,8の軸心から偏心したクランクピン10で一体に繋がっている。
【0018】
クランクピン10とピストン3とは連接棒11で連結されている。連接棒11は、本体12とこれにボルト(図示せず)で固定されたピンキャップ13とからなっており、クランクピン10は半割り式の滑り軸受け(メタル軸受け)14で抱持されている。本実施形態のクランク軸6は全体が一体に構成されているが、組み立て式を採用することも可能である。
【0019】
メインジャーナル7は、半割り式のコロ軸受け15を介してメインジャーナルキャップ4で下方から回転自在に保持されており、中間ジャーナル8も、半割り式のコロ軸受け15を介して中間ジャーナルキャップ5で下方から回転自在に保持されている。両ジャーナルキャップ4,5はボルト16でシリンダブロック1のメイン軸受け部17及び中間軸受け部18に固定されている。敢えて述べるまでもないが、図(A)に示すように、コロ軸受け15は、インナーレース15aと、アウターレース15bと、両者の間に配置された多数本のコロ15cとで構成されている(なお、図3ではコロ15cは中心のピッチ円のみを表示して、形状は表示していない。)。
【0020】
図2,3に示すように、シリンダブロック1の中間軸受け部18には、コロ軸受け15の外周面に開口した主送油通路20が形成されていると共に、主送油通路20に連通した状態で中間軸受け部18の左右側面に開口した枝送油通路21が形成されており、これら主送油通路20と枝送油通路21とにより、請求項に記載した送油通路が構成されている。
【0021】
枝送油通路21はクランクアーム9の外側面と対向する位置に形成されており、中間軸受け部18と中間ジャーナルキャップ5との外側面に、枝送油通路21が開口した側面視円形の凹所22を形成し、この凹所22に、円板状スラストメタル23をずれ不能で離脱不能に嵌め込んでいる(円板状スラストメタル23は、ビス等で固定してもよい。)。
【0022】
正確に述べると、図3に示すように、凹所22は、中間軸受け部18に形成した下向き開口半円部22aと、中間ジャーナルキャップ5に形成した上向き開口半円部22bとが合わさることで全体として円形になっており、円板状スラストメタル23も、中間軸受け部18の下向き開口半円部22aに嵌まる上半部23aと、中間ジャーナルキャップ5の上向き開口半円部22bに嵌まる下半部23bとにより、全体として円板形状が構成されている。
【0023】
そして、円板状スラストメタル23の外側面に環状溝24を形成すると共に、円板状スラストメタル23の上半部23aには、枝送油通路21と環状溝24とに連通する通し穴25を空けている。
【0024】
他方、クランクアーム9には、円板状スラストメタル23の環状溝24に連通するようにクランクアーム9の側面に開口した第1給油通路26と、第1給油通路26に連通すると共にクランクピン10の外周面に開口した第2給油通路27とが形成されている。敢えて述べるまでもないが、第1給油通路26はクランクアーム9の側面と直交した姿勢になっており、第2給油通路27はクランクピン10の外周面に対して直交している。第1給油通路26と第2給油通路27とで請求項に記載した給油通路が構成されている。
【0025】
一対のクランクアーム10のうち片方のクランクアーム10の第1給油通路26はクランクアーム9を軸方向に貫通しており、シリンダブロック1の主軸受け部17にも開口している。そして、この主軸受け部17の開口部はプラグ28で塞がれているが、第1給油通路26を鋳造によって形成する場合は、クランクアーム9を貫通させる必要はないのでプラグ28は不要である。また、主軸受け部17に円板状スラストメタル23を装着することも可能であり、この場合もプラグ28は不要になる。
【0026】
以上の構成において、オイルポンプからオイルギャラリーを介して主送油通路20に送られたオイルは、中間ジャーナル8のコロ軸受け15を冷却すると共に、枝送油通路21からメインジャーナル7の環状溝24に入る。そして、この環状溝24からクランクアーム9の給油通路26,27に送られて、クランクピン10と滑り軸受け14との間の潤滑及び冷却が行われる。つまり、クランクアーム9はクランクピン10の軸心回りに回転するが、主送油通路20は常にメインジャーナル7の環状溝24に向いて開口しているため、クランクアーム9が回転してもオイルは常に給油通路26,27に供給されるのであり、これにより、クランクピン10を的確に潤滑及び冷却できるのである。潤滑に供されたオイルは隙間からクランク室に流下する。
【0027】
そして、送油通路20,21は鋳造で容易に形成できると共に、枝送油通路21を塞ぐプラグは不要であるため、シリンダブロック1の加工にはさほどの手間は要しない。他方、第1給油通路26及び第2給油通路27はドリル加工で形成されるが、いずれもドリルは加工面に対して直交するため、滑り現象を防止して容易に加工できる。特に、本実施形態では、2つのクランクアーム10の第1主送給油通路26を1回のドリル加工で一挙に形成できるため、作業性に優れている。また、プラグ28は1個でよいため、さほどの手間にはならない。
【0028】
本実施形態では、円板状スラストメタル23のうちクランクアーム10に摺接する面のみに環状溝24を形成したが、環状溝24を両面に形成することも可能である。この場合は、通し穴25を枝送油通路21に位置合わせする必要がないため、円板状スラストメタル23を構成する2つの部材23a,23bの方向性がなくなり、その結果、組み付けを容易化できる(この場合は、通し穴25を複数形成してもよい。)。
【0029】
また、円板状スラストメタル23はクランクアーム10に装着することも可能である。或いは、軸受け部18とクランクアーム9との両方に円板状スラストメタル23を装着して、円板状スラストメタル23同士を摺接させることも可能である。更に、円板状スラストメタル23を使用せずに、軸受け部18とクランクアーム10とを直接に摺接させて、いずれかに環状溝24を形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明は内燃機関に実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 機関本体の主要部であるシリンダブロック
2 シリンダボア
3 ピストン
4 機関本体の一部を構成するメインジャーナルキャップ
5 機関本体の一部を構成する中間ジャーナルキャップ
6 クランク軸
7 メインジャーナル
8 中間ジャーナル
9 クランクアーム
10 クランクピン
11 連接棒
14 滑り軸受け
17 主軸受け部
18 中間軸受け部
20 主送油通路
21 枝送油通路
23 円板状スラストメタル
24 環状溝
25 通し穴
26 第1給油通路
27 第2給油通路
【技術分野】
【0001】
本願発明は、クランクピンの潤滑等に特徴を有する内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロ式の内燃機関において、ピストンの往復動を回転運動に変換するクランク軸は、機関本体に回転自在に保持されるジャーナルと、連接棒が連結されたクランクピンとを有している。クランクピンと連接棒との間にはメタル式等の軸受けが介在しているが、連接棒はピストンに連結されていて揺動するので、クランクピンの軸受けの潤滑や冷却はクランクアームの方からの給油で行うことになる。
【0003】
そして、このクランクピンの軸受けの潤滑手段として、例えば特許文献1には、ジャーナルの軸心を通る中心通路と、この中心通路に連通すると共にクランクピンの外周面に開口した傾斜状通路とを設けて、傾斜状通路から軸受けの内周面にオイルを供給することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭60−9362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、特許文献1の傾斜状通路はドリル加工によって形成することになるが、ドリル加工一般の問題として、ワークの加工面に対してドリルを斜めから当てるとドリルの刃先の滑り現象が生じるため、加工が非常に厄介であるという問題がある(ドリル先端の位置決め(芯出し)がしにくいと共に、ドリルの折損が多発する。)。特に、クランクピンは円形であって外周面に円弧の曲面になっているため、ドリルの刃先は一層滑りやすくなっており、しかも、クランク軸は特殊な素材からなっていて焼き入れ前の状態でも相当に硬いため、ドリル加工の厄介さが倍増することになる。また、クランク軸は穴を空けることで強度が低下する問題もある。
【0006】
このドリル加工の厄介さは、中心通路に連通する中間通路を、クランクピンの軸心と直交した通路と平行な通路とで構成することで多少は緩和されるが、この場合は、ドリル加工の加工工程が増えるのみならず、中間通路の端を塞ぐため、中間通路の開口端部にタップ加工で雌ねじを形成してこれらにプラグをねじ込まねばならず、従って、加工の手間を大きく省くには至っていない。
【0007】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の内燃機関は、一対のクランクジャーナルが機関本体の軸受け部で回転自在に保持されている一方、前記一対のクランクジャーナルにはそれぞれクランクアームが繋がっており、これらクランクアームに繋がったクランクピンに連接棒が接続されている構成において、まず、「前記クランクアームには、前記クランクピンの外周面にオイルを供給する給油通路が、前記クランクアームの側面に開口するように形成されている一方、前記機関本体の軸受け部には、前記クランクアームの側面に向いて開口した送油通路が形成されている」、という構成になっている。
【0009】
そして、上記の構成に加えて、「前記軸受け部又はクランクアームの側面に、前記クランクアームの回転を許容しつつ当該クランクアームと軸受け部との間をシールする円板状スラストメタルが、前記クランク軸の回転軸心と同心に配置されており、前記円板状スラストメタルに、前記クランクアームの給油油路と前記軸受け部の送油通路とを連通させる環状溝と貫通穴との対を形成する」という構成になっているか、又は、「前記クランクアームを回転可能な状態で前記軸受け部の側面に密着させて、前記クランクアームの側面と軸受け部の側面のうちいずれか一方に、前記クランクアームにおける給油油路の入口と前記軸受け部における送油通路の出口とを連通させる環状溝を形成している」という構成になっている。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によると、クランクアームの給油通路はクランクピンの外周面とクランクアームの側面とに開口しているが、このうちクランクピンの外周に開口した通路は、クランクピンの軸心と直交した姿勢のドリルによって容易に空けることできる一方、クランクアームの側面に開口した通路も、当該クランクアームの側面に対して直交した姿勢のドリルで容易に空けることができる。そして、これら給油通路の開口部はオイルの出口と入口とを構成しているから、プラグで詰める必要は無くすか又はプラグの個数を抑制でき、これによって加工の容易性が一層助長される。
【0011】
他方、機関本体の軸受け部に設けた送油通路は軸受け部の側面に開口しているため、当該軸受け部の側面と直交した姿勢のドリルによって容易に空けることができる(送油通路は機関本体(シリンダブロック)の鋳造に際して一体に設けることも可能であり、この場合は加工の手間は不要になる。)。
【0012】
そして、本願発明は、円板状スラストメタル又は軸受け部若しくはクランクアームに形成した環状溝を利用して、送油通路から給油通路にオイルを供給するものであり、これにより、回転しているクランクアームに対して常にオイルを供給できる。また、環状溝は、円板状スラストメタルに設ける場合は旋盤加工やフライス加工等によって容易に形成できる一方、軸受け部又はクランクアームに形成する場合は、鋳造に際して一体に形成できるため、いずれにしても加工の手間が大幅に増えることはない。
【0013】
このように、本願発明によると、部材の加工の容易性を確保しつつ、クランクピンを的確に潤滑(及び冷却)することができる。また、機関本体の軸受け部とクランク軸のクランクアームとが直接に又は円板状スラストメタルを介して密接(密着)しているため、クランク軸の軸方向の位置規制を正確に行える。更に、クランク軸のジャーナル部に穴を空ける必要はないため、クランク軸の強度アップにも貢献できる。
【0014】
なお、円板状スラストメタルとクランクアームとの間の摺接面には環状溝が介在しているため、潤滑は良好に行われると共に、油膜自身のシール効果により、オイル漏れも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は内燃機関の縦断正面図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】(A)は図2のIIIA-IIIA 視断面図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、内燃機関はシリンダボア2が形成されたシリンダブロック1を備えおり、シリンダボア2にはピストン3が摺動自在に嵌まっている。シリンダブロック1の下面部には、ジャーナルキャップ4,5を介してクランク軸6が回転自在に保持されている。シリンダブロック1とジャーナルキャップ4,5は機関本体を構成している。図示していないが、シリンダブロック1の下面にはオイルパンが固定されている。
【0017】
本実施形態の内燃機関は2気筒であり、このため、クランク軸6は、一端と他端との側に位置したメインジャーナル7と、両者の間に位置した中間ジャーナル8との3つのクランクジャーナルを有しており、メインジャーナル7と中間ジャーナル8との間にそれぞれ一対ずつのクランクアーム9が配置され、クランクアーム9の対は、ジャーナル7,8の軸心から偏心したクランクピン10で一体に繋がっている。
【0018】
クランクピン10とピストン3とは連接棒11で連結されている。連接棒11は、本体12とこれにボルト(図示せず)で固定されたピンキャップ13とからなっており、クランクピン10は半割り式の滑り軸受け(メタル軸受け)14で抱持されている。本実施形態のクランク軸6は全体が一体に構成されているが、組み立て式を採用することも可能である。
【0019】
メインジャーナル7は、半割り式のコロ軸受け15を介してメインジャーナルキャップ4で下方から回転自在に保持されており、中間ジャーナル8も、半割り式のコロ軸受け15を介して中間ジャーナルキャップ5で下方から回転自在に保持されている。両ジャーナルキャップ4,5はボルト16でシリンダブロック1のメイン軸受け部17及び中間軸受け部18に固定されている。敢えて述べるまでもないが、図(A)に示すように、コロ軸受け15は、インナーレース15aと、アウターレース15bと、両者の間に配置された多数本のコロ15cとで構成されている(なお、図3ではコロ15cは中心のピッチ円のみを表示して、形状は表示していない。)。
【0020】
図2,3に示すように、シリンダブロック1の中間軸受け部18には、コロ軸受け15の外周面に開口した主送油通路20が形成されていると共に、主送油通路20に連通した状態で中間軸受け部18の左右側面に開口した枝送油通路21が形成されており、これら主送油通路20と枝送油通路21とにより、請求項に記載した送油通路が構成されている。
【0021】
枝送油通路21はクランクアーム9の外側面と対向する位置に形成されており、中間軸受け部18と中間ジャーナルキャップ5との外側面に、枝送油通路21が開口した側面視円形の凹所22を形成し、この凹所22に、円板状スラストメタル23をずれ不能で離脱不能に嵌め込んでいる(円板状スラストメタル23は、ビス等で固定してもよい。)。
【0022】
正確に述べると、図3に示すように、凹所22は、中間軸受け部18に形成した下向き開口半円部22aと、中間ジャーナルキャップ5に形成した上向き開口半円部22bとが合わさることで全体として円形になっており、円板状スラストメタル23も、中間軸受け部18の下向き開口半円部22aに嵌まる上半部23aと、中間ジャーナルキャップ5の上向き開口半円部22bに嵌まる下半部23bとにより、全体として円板形状が構成されている。
【0023】
そして、円板状スラストメタル23の外側面に環状溝24を形成すると共に、円板状スラストメタル23の上半部23aには、枝送油通路21と環状溝24とに連通する通し穴25を空けている。
【0024】
他方、クランクアーム9には、円板状スラストメタル23の環状溝24に連通するようにクランクアーム9の側面に開口した第1給油通路26と、第1給油通路26に連通すると共にクランクピン10の外周面に開口した第2給油通路27とが形成されている。敢えて述べるまでもないが、第1給油通路26はクランクアーム9の側面と直交した姿勢になっており、第2給油通路27はクランクピン10の外周面に対して直交している。第1給油通路26と第2給油通路27とで請求項に記載した給油通路が構成されている。
【0025】
一対のクランクアーム10のうち片方のクランクアーム10の第1給油通路26はクランクアーム9を軸方向に貫通しており、シリンダブロック1の主軸受け部17にも開口している。そして、この主軸受け部17の開口部はプラグ28で塞がれているが、第1給油通路26を鋳造によって形成する場合は、クランクアーム9を貫通させる必要はないのでプラグ28は不要である。また、主軸受け部17に円板状スラストメタル23を装着することも可能であり、この場合もプラグ28は不要になる。
【0026】
以上の構成において、オイルポンプからオイルギャラリーを介して主送油通路20に送られたオイルは、中間ジャーナル8のコロ軸受け15を冷却すると共に、枝送油通路21からメインジャーナル7の環状溝24に入る。そして、この環状溝24からクランクアーム9の給油通路26,27に送られて、クランクピン10と滑り軸受け14との間の潤滑及び冷却が行われる。つまり、クランクアーム9はクランクピン10の軸心回りに回転するが、主送油通路20は常にメインジャーナル7の環状溝24に向いて開口しているため、クランクアーム9が回転してもオイルは常に給油通路26,27に供給されるのであり、これにより、クランクピン10を的確に潤滑及び冷却できるのである。潤滑に供されたオイルは隙間からクランク室に流下する。
【0027】
そして、送油通路20,21は鋳造で容易に形成できると共に、枝送油通路21を塞ぐプラグは不要であるため、シリンダブロック1の加工にはさほどの手間は要しない。他方、第1給油通路26及び第2給油通路27はドリル加工で形成されるが、いずれもドリルは加工面に対して直交するため、滑り現象を防止して容易に加工できる。特に、本実施形態では、2つのクランクアーム10の第1主送給油通路26を1回のドリル加工で一挙に形成できるため、作業性に優れている。また、プラグ28は1個でよいため、さほどの手間にはならない。
【0028】
本実施形態では、円板状スラストメタル23のうちクランクアーム10に摺接する面のみに環状溝24を形成したが、環状溝24を両面に形成することも可能である。この場合は、通し穴25を枝送油通路21に位置合わせする必要がないため、円板状スラストメタル23を構成する2つの部材23a,23bの方向性がなくなり、その結果、組み付けを容易化できる(この場合は、通し穴25を複数形成してもよい。)。
【0029】
また、円板状スラストメタル23はクランクアーム10に装着することも可能である。或いは、軸受け部18とクランクアーム9との両方に円板状スラストメタル23を装着して、円板状スラストメタル23同士を摺接させることも可能である。更に、円板状スラストメタル23を使用せずに、軸受け部18とクランクアーム10とを直接に摺接させて、いずれかに環状溝24を形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明は内燃機関に実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 機関本体の主要部であるシリンダブロック
2 シリンダボア
3 ピストン
4 機関本体の一部を構成するメインジャーナルキャップ
5 機関本体の一部を構成する中間ジャーナルキャップ
6 クランク軸
7 メインジャーナル
8 中間ジャーナル
9 クランクアーム
10 クランクピン
11 連接棒
14 滑り軸受け
17 主軸受け部
18 中間軸受け部
20 主送油通路
21 枝送油通路
23 円板状スラストメタル
24 環状溝
25 通し穴
26 第1給油通路
27 第2給油通路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のクランクジャーナルが機関本体の軸受け部で回転自在に保持されている一方、前記一対のクランクジャーナルにはそれぞれクランクアームが繋がっており、これらクランクアームに繋がったクランクピンに連接棒が接続されている構成であって、
前記クランクアームには、前記クランクピンの外周面にオイルを供給する給油通路が、前記クランクアームの側面に開口するように形成されている一方、前記機関本体の軸受け部には、前記クランクアームの側面に向いて開口した送油通路が形成されており、そして、
前記軸受け部又はクランクアームの側面に、前記クランクアームの回転を許容しつつ当該クランクアームと軸受け部との間をシールする円板状スラストメタルが、前記クランク軸の回転軸心と同心に配置されており、前記円板状スラストメタルに、前記クランクアームの給油油路と前記軸受け部の送油通路とを連通させる環状溝と貫通穴との対を形成するか、又は、
前記クランクアームを回転可能な状態で前記軸受け部の側面に密着させて、前記クランクアームの側面と軸受け部の側面のうちいずれか一方に、前記クランクアームにおける給油油路の入口と前記軸受け部における送油通路の出口とを連通させる環状溝を形成している、
内燃機関。
【請求項1】
一対のクランクジャーナルが機関本体の軸受け部で回転自在に保持されている一方、前記一対のクランクジャーナルにはそれぞれクランクアームが繋がっており、これらクランクアームに繋がったクランクピンに連接棒が接続されている構成であって、
前記クランクアームには、前記クランクピンの外周面にオイルを供給する給油通路が、前記クランクアームの側面に開口するように形成されている一方、前記機関本体の軸受け部には、前記クランクアームの側面に向いて開口した送油通路が形成されており、そして、
前記軸受け部又はクランクアームの側面に、前記クランクアームの回転を許容しつつ当該クランクアームと軸受け部との間をシールする円板状スラストメタルが、前記クランク軸の回転軸心と同心に配置されており、前記円板状スラストメタルに、前記クランクアームの給油油路と前記軸受け部の送油通路とを連通させる環状溝と貫通穴との対を形成するか、又は、
前記クランクアームを回転可能な状態で前記軸受け部の側面に密着させて、前記クランクアームの側面と軸受け部の側面のうちいずれか一方に、前記クランクアームにおける給油油路の入口と前記軸受け部における送油通路の出口とを連通させる環状溝を形成している、
内燃機関。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2013−113254(P2013−113254A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261588(P2011−261588)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】
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