説明

内胚葉細胞の製造方法

【課題】より効率的な膵前駆細胞を製造する方法を提供する。
【解決手段】胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞から誘導した未分化な内胚葉細胞に、微弱パルス電流及び熱を印加する工程を含む、内胚葉細胞の製造方法。更にアクチンビン及び塩基性線維芽細胞成長増殖因子(bFGF)の存在下で、前記微弱パルス電流及び熱を印加する工程を行う、膵前駆細胞を製造する方法。膵前駆細胞がPdx1発現細胞である方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵前駆細胞などの内胚葉細胞の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞から誘導された未分化の内胚葉細胞に微弱パルス電流及び熱を同時に印加することにより、内胚葉細胞を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹(ES)細胞は、胚盤胞の内部細胞塊(ICM)に由来する多能性細胞である。ES細胞は未分化状態では無制限に培養でき、刺激されると多様な細胞型に分化できる。ES細胞のin vitro分化の研究によれば、ES細胞は神経細胞、造血性細胞、ならびに膵臓や肝臓などの内胚葉系の細胞への誘導が可能である。多くの研究結果が示唆するように、ES細胞は通常の発生段階を再現するため、発生生物学での初期誘導プロセスのin vitro分析、細胞療法、肝毒性研究への応用標的、創薬における薬物代謝研究に使用できる(非特許文献1及び2)。
【0003】
一方、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell; iPS細胞)とは、胚性幹細胞のように多くの細胞に分化できる多能性と、多能性を維持したまま自己複製できる特徴とを有する細胞を言う。人工多能性幹細胞の作製は、京都大学の山中伸弥教授らのグループ、マサチューセッツ工科大学のルドルフ・ヤニッシュ(Rudolf Jaenisch)らのグループ、ウイスコンシン大学のジェームズ・トムソン(James Thomson)らのグループ、ハーバード大学のコンラッド・ホッケドリンガー(Konrad Hochedlinger)らのグループなどを含む複数のグループが成功している。人工多能性幹細胞は、拒絶反応や倫理的問題のない理想的な多能性細胞として大きな期待を集めている。
【0004】
人工多能性幹細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)と同様に、あらゆる細胞に分化する潜在的能力を秘めた細胞であり、かつ、適切な条件の下で培養することにより無尽蔵に増殖させることが可能な細胞である。さらに、電気穿孔法などの方法を用いることにより、容易に遺伝子導入を施すことが可能な細胞である。一方で、人工多能性幹細胞の作製には、ヒト胚を必要としないため、胚性幹細胞の使用に際して障害となる倫理的な問題を回避できる。
【0005】
従来、胚性幹(ES)細胞ないし人工多能性幹細胞から膵β細胞を含めた内胚葉分化誘導する方法としては、特定の支持細胞や液性因子を用いた方法が報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献3参照)。しかし、これらの特定の支持細胞や液性因子を用いた方法は、他の胚葉分化誘導の技術と比較すると、分化誘導の効率の点で劣っており、より効率的な膵前駆細胞を含む内胚葉由来細胞への分化誘導技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2006/126574号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Davila, J. C., Cezar, G. G., Thiede, M., Strom, S., Miki, T. and Trosko, J. (2004). Use and application of stem cells in toxicology. Toxicol Sci 79, 214-23.
【非特許文献2】Kulkarni, J. S. and Khanna, A. (2006). Functional hepatocyte-like cells derived from mouse embryonic stem cells: a novel in vitro hepatotoxicity model for drug screening. Toxicol In Vitro 20, 1014-22.
【非特許文献3】Lumelsky, N., Blondel, O., Laeng, P., Velasco, I., Ravin, R., and McKay, R. (2001). Differentiation of embryonic stem cells to insulin-secreting structures similar to pancreatic islets. Science 292, 1389-94
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、より効率的な内胚葉細胞を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、所定の内胚葉細胞に微弱パルス電流及び熱を印加すると、内胚葉細胞集団の割合は変化させないものの、内胚葉細胞集団中の膵前駆細胞の割合が顕著に増加することを発見した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明の態様は以下に関する。
(1) 胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞から誘導した未分化な内胚葉細胞に、微弱パルス電流及び熱を印加する工程を含む、内胚葉細胞の製造方法。
(2) 38℃〜50℃で前記内胚葉細胞を培養することにより熱を印加する、(1)に記載の内胚葉細胞の製造方法。
(3) アクチビン及び塩基性線維芽細胞成長増殖因子(bFGF)の存在下で、前記微弱パルス電流及び熱を印加する工程を行う、(1)又は(2)に記載の内胚葉細胞の製造方法。
(4) 胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞から誘導した未分化な内胚葉細胞に、微弱パルス電流及び熱を印加することによって膵前駆細胞を製造する、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の内胚葉細胞の製造方法。
(5) 膵前駆細胞がPdx1発現細胞である、(4)に記載の内胚葉細胞の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、簡便な操作により、効率的に膵前駆細胞(Pdx1発現細胞)などの内胚葉細胞を製造することが可能である。さらに、本発明によれば、従来の液性因子を用いた膵前駆細胞などの内胚葉細胞への分化誘導方法と組合せることにより、より効率的に膵前駆細胞(Pdx1発現細胞)などの内胚葉細胞を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1において用いられた微弱パルス電流及び熱印加装置の模式図を示す。
【図2】実施例における実験手順の概略を示す図である。
【図3】実施例1の結果を示す図である。
【図4】実施例2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の内胚葉細胞の製造方法は、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞から誘導した未分化な内胚葉細胞に、微弱パルス電流及び熱を印加する工程を含むことを特徴とする。
【0014】
(胚性幹細胞)
本発明で用いる胚性幹(ES) 細胞は、哺乳動物由来のES細胞であればよく、その種類などは特に限定されず、例えば、マウス、サル又はヒト由来のES細胞などを使用することができる。ES細胞としては、例えば、その分化の程度の確認を容易とするために、Pdx1遺伝子付近にレポーター遺伝子を導入した細胞を用いることができる。例えば、Pdx1座にLacZ遺伝子を組み込んだ129/Sv由来ES細胞株又は、Pdx1プロモーター制御下のGFPレポータートランスジーンをもつES細胞SK7株などを使用することができる。あるいは、Hnf3β内胚葉特異的エンハンサー断片制御下のmRFP1レポータートランスジーン及びPdx1プロモーター制御下のGFPレポータートランスジーン、あるいはInsulinプロモーター制御下のGFPレポータートランスジーンを有するES細胞PH3株を使用することもできる。
【0015】
哺乳動物由来のES細胞の培養方法は常法により行うことができ、例えば、必要によりフィーダー細胞としてマイトマイシンC処理マウス胚線維芽細胞(MEF)の存在下において、1000ユニット/ml白血病抑制因子(LIF;Chemicon)、15%ノックアウト血清リプレースメント(KSR;Gibco)、1%ウシ胎児血清(FBS;Hyclone)、100μM非必須アミノ酸(NEAA;Invitrogen)、2mM L-グルタミン(L-Gln;Invitrogen)、1mMピルビン酸ナトリウム(Invitrogen)、50ユニット/mlペニシリンおよび50μg/mlストレプトマイシン(PS;Invitrogen)、及び100μM β-メルカプトエタノール(β-ME;Sigma)を含むグラスゴー最小必須培地(Invitrogen)中で維持することができる。
【0016】
(人工多能性幹細胞)
本発明で用いる人工多能性幹細胞(iPS)細胞は、体細胞を初期化することにより製造することができる。ここで用いる体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を用いることができる。即ち、本発明で言う体細胞とは、生体を構成する細胞の内生殖細胞以外の全ての細胞を包含し、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。体細胞の由来は、哺乳動物、鳥類、魚類、爬虫類、両生類の何れでもよく特に限定されないが、好ましくは哺乳動物(例えば、マウスなどのげっ歯類、またはヒトなどの霊長類)であり、特に好ましくはマウス又はヒトである。また、ヒトの体細胞を用いる場合、胎児、新生児又は成人の何れの体細胞を用いてもよい。
【0017】
本発明で言うiPS細胞は、所定の培養条件下(例えば、ES細胞を培養する条件下)において長期にわたって自己複製能を有し、また所定の分化誘導条件下において外胚葉、中胚葉及び内胚葉への多分化能を有する幹細胞のことを言う。また、本発明における人工多能性幹細胞はマウスなどの試験動物に移植した場合にテラトーマを形成する能力を有する幹細胞でもよい。
【0018】
体細胞からiPS細胞を製造するためには、まず、少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する。初期化遺伝子とは、体細胞を初期化してiPS細胞とする作用を有する初期化因子をコードする遺伝子である。初期化遺伝子の組み合わせの具体例としては、以下の組み合わせをあげることができるが、これらに限定されるものではない。
(i)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子
(ii)Oct遺伝子、Sox遺伝子、NANOG遺伝子、LIN28遺伝子
(iii)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子、hTERT遺伝子、SV40 large T遺伝子
(iv)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子
【0019】
(胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞の内胚葉細胞への誘導)
本発明において、ES細胞又はiPS細胞の内胚葉細胞への誘導は、特に限定されるものではないが、例えば、国際公開WO2006/126574号公報に開示される公知の方法により行うことができる。
【0020】
具体的には、ES細胞又はiPS細胞を支持細胞であるM15細胞の存在下で培養すること、即ち、ES細胞又はiPS細胞をM15細胞と共培養することにより、(未分化な)内胚葉細胞への誘導を行うことが好ましい。
【0021】
本発明で用いるM15細胞(mouse, mesonephros)は、登録番号ECACC 95102517として、細胞バンク(CAMR Centre for Applied Microbiology & Research (ECACC, Salisbury, Wiltshire))に登録されている。M15細胞は文献(Larsson, S. H., Charlieu, J. P., Miyagawa, K., et al. (1995). Subnuclear localization of WT1 in splicing or transcription factor domains is regulated by alternative splicing. Cell 81, 391-401)の記載に従って入手可能である。M15についてのバンク情報を以下に記載する。
【0022】
Version 4.200201
M15 (mouse, mesonephros)
ECACC 95102517
Morphology: Epithelial
Mouse mesonephric epithelium, polyoma virus large T transformed
Depositor: Prof V van Heyningen, MRC Human Genetics Unit, Western General Hospital, Edinburgh, UK (Originator)
No restrictions. Patent: None Specified By Depositor
Properties: Products: WT1 (expressed gene) Applications: Gene expression and protein studies connected to kidney development and Wilms' tumourigenesis.
Available in the following LABORATORY:
CAMR Centre for Applied Microbiology & Research (ECACC, Salisbury, Wiltshire)
DMEM + 2mM Glutamine + 10% Fetal Bovine Serum (FBS). Split confluent cultures 1:5 to 1:10 i.e. seeding at 5x1,000 to 1x10,000 cells/cm2 using 0.25% trypsin or trypsin/EDTA; 5% CO2; 37C [cell growth impaired at lower densities]. Karyotype: Hyperdiploid
Hazard: CZ-II
The WT1-expressing mesonephric cell line M15 (alias Meso15) was established from mouse mesonephros transgenically expressing the large T protein of polyoma virus under the control of the early viral enhancer. As a tumour suppresser gene with a key role in urogenital development, WT1 is implicated as predisposition gene in the pathogenesis of Wilms' tumour (WT).
Further information
Research council deposit: Yes
Price_code: C
Bibliographic references:
Cell 1995;81:391
By Beatrice...
TITLE:M15
DATE:2005/04/24 00:32
URL:http://www.biotech.ist.unige.it/cldb/cl3312.html
European Collection of Cell Cultures,
Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, UK
June Poulton
European Collection of Cell Cultures
Health Protection Agency,
Porton Down
SP40JG Salisbury, Wiltshire UK
Phone: +44-1980-612512
Fax: +44-1980-611315
E-mail: ecacc@hpa.org.uk
URL: http://www.ecacc.org.uk/
【0023】
M15細胞は、血清などを補充した動物細胞用の通常の培地(例えば、RPMI培地又はDMEM培地など)を用いて常法に従って培養することができる。
【0024】
M15細胞の存在下で哺乳動物由来のES細胞又はiPS細胞を培養する方法は特に限定されないが、例えば、M15細胞をフィーダー細胞として使用して、ES細胞又はiPS細胞を培養することができる。例えば、未分化のES細胞をトリプシンで解離させ、未処理培養皿で分化培地中LIF非存在下に懸濁培養し、胚様体を形成させる。2日間分化させた胚様体をトリプシンで処理し、フィーダー細胞(M15細胞)であらかじめ一層に生着させた(プレコートした)プレートで分化培地中播種する。
【0025】
(微弱パルス電流及び熱の印加)
本発明では、上記の未分化な内胚葉細胞に微弱パルス電流及び熱を同時に印加することにより、膵前駆細胞などの内胚葉細胞を製造することができる。
【0026】
本発明において、微弱パルス電流とは、例えば、0.2〜2.0V/cm、パルス幅0.01〜1.0ミリ秒(milliseconds, ms)、30〜100パルス毎秒(pulse per second, pps)の電流が好ましい。
【0027】
本発明において、熱を印加するとは、上記内胚葉細胞に熱を加えることを意味し、好ましくは、38℃〜50℃の温度条件下に上記内胚葉細胞を置く。
【0028】
本発明において、内胚葉細胞に微弱パルス電流及び熱を印加する時間は、例えば5〜20分間である。
【0029】
また、本発明において、内胚葉細胞に微弱パルス電流及び熱を印加する工程は、上述の通り、ES細胞又はiPS細胞をM15細胞と共培養した状態で、行うことが好ましい。
【0030】
また、本発明において、内胚葉細胞に微弱パルス電流及び熱を印加する工程は、膵前駆細胞への分化に関わる液性因子の存在下において行うこともできる。より効率的な膵前駆細胞への分化を達成できる点で、アクチビン(activin)及び塩基性線維芽細胞成長増殖因子(bFGF)の存在下で、本工程を行うことが好ましい。
【0031】
本発明により製造される膵前駆細胞は、微弱パルス電流及び熱を印加していない内胚葉細胞と比較して、高いPdx1遺伝子の発現が検出される。Pdx1の発現は、十二指腸上皮とインスリンを分泌する膵島β細胞において維持されており、インスリン遺伝子の転写制御において重要な役割を果たしている(Offield, M. F., Jetton, T. L., Labosky, P. A., et al. (1996). PDX1 is required for pancreatic outgrowth and differentiation of the rostral duodenum. Development 122, 983-95)。マウスでのPdx1の標的突然変異導入から、膵および吻側十二指腸の発生にPdx1が必要であることが示されている(Ahlgren, U., Jonsson, J., and Edlund, H. (1996). The morphogenesis of the pancreatic mesenchyme is uncoupled from that of the pancreatic epithelium in IPF1/PDX1-deficient mice. Development 122, 1409-16)。従って、Pdx1は膵臓の発生に必須の分子であり、膵前駆細胞のマーカーとして有用なものである。
【0032】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
材料:SK7 ES細胞(Pdx1プロモーター制御下のGFPレポータートランスジーンをもつES細胞)
【0034】
方法:
SK7 ES細胞を、M15細胞をあらかじめ播種しておいた培養皿に5.0x104 cells/60mm dishの密度で播種する。培養1,3,5,7日目に分化誘導培地(Activin, bFGF不含)で培地交換し、培養8日目にフローサートメーターを用いた解析およびRNAの回収を行った。微弱パルス電流及び熱の同時印加は、培養7日目の培地交換前に行い、処理直後に培地交換を行った。微弱パルス電流及び熱の同時印加に関しては、図1に示すように培養皿に電極(Electrodes)をセットし、42℃に加温した水浴中(Water bath)で微弱パルス電流(MES)を印加することで処理を行った。これまでの検討で培養3日目(d3)に中内胚葉(ME)、培養5日目(d5)に内胚葉(DE)、培養8日目(d8)に膵前駆細胞(Pdx1)が出現することが分かっていたため、膵前駆細胞が出現する直前の培養7日目に印加(MES&HS)した(図2)。回収したRNAから逆転写反応によりcDNAを作成して、遺伝子の発現量をリアルタイムPCRで評価した。
【0035】
結果:
図3A Bでは、培養8日目におけるE-cadherinおよびCxcr4両陽性の内胚葉の割合、および内胚葉に含まれるPdx1陽性の膵前駆細胞の割合を示している。図3Aの上段は未処理群、下段が処理群、左のパネルが内胚葉の割合、右のパネルが内胚葉にしめる膵前駆細胞の割合を示している。図3Bは、Aをグラフ化したものだが白抜きが未処理群、黒塗りが処理群を示している。微弱パルス電流及び熱の同時印加により、内胚葉の割合は変化しないが膵前駆細胞の割合が上昇することがわかった。図3Cは、培養8日目における蛍光像を示しており、左が未処理群、右が処理群である。微弱パルス電流及び熱の同時印加により、Pdx1の発現を反映するGFPの強度およびGFP陽性細胞の割合が増加した。図3Dでは、培養8日目におけるPdx1の遺伝子発現をリアルタイムPCRで評価した結果を示している。白抜きが未処理群、黒塗りが処理群を示しており、Pdx1の発現をb-actinの発現量で補正した値を示している。微弱パルス電流及び熱の同時印加により、Pdx1の発現が2倍程度増加することがわかった。
【0036】
(実施例2)
材料:SK7 ES細胞(Pdx1プロモーター制御下のGFPレポータートランスジーンをもつES細胞)
【0037】
方法:
SK7 ES細胞を、M15細胞をあらかじめ播種しておいた培養皿に5.0x104 cells/60mm dishの密度で播種する。培養1,3,5日目に分化誘導培地(Activin, bFGF含有)で培地交換し、培養8日目にフローサートメーターを用いた解析およびRNAの回収を行った。微弱パルス電流及び熱の同時印加は、培養7日目の培地交換前に行い、処理直後に培地交換を行った。培養7日目の培地交換の際には、Activin とbFGF不含の分化誘導培地で培地交換した。回収したRNAから逆転写反応によりcDNAを作成して、遺伝子の発現量をリアルタイムPCRで評価した。
【0038】
結果:
図4A Bでは、培養8日目におけるE-cadherinおよびCxcr4両陽性の内胚葉の割合、および内胚葉に含まれるPdx1陽性の膵前駆細胞の割合を示している。図4Aの上段は未処理群、下段が処理群、左のパネルが内胚葉の割合、右のパネルが内胚葉にしめる膵前駆細胞の割合を示している。図4Bは、Aをグラフ化したものだが白抜きが未処理群、黒塗りが処理群を示している。微弱パルス電流及び熱の同時印加により、内胚葉の割合を変化しないが膵前駆細胞の割合が上昇することがわかった。図3ではActivin, bFGF不含培地で培養した場合の結果を示したが、液性因子添加培地を使用することで未処理群の膵前駆細胞の割合が16%から25%と増加するが、微弱パルス電流及び熱の同時印加によりぞれぞれ34%、47%へと増加した。液性因子添加培地と微弱パルス電流及び熱の同時印加を組み合わせることで、より効率的な膵前駆細胞の分化が可能となった。図4Cでは、培養8日目におけるFoxa2およびPdx1の遺伝子発現をリアルタイムPCRで評価した結果を示している。白抜きが未処理群、黒塗りが処理群を示しており、Foxa2およびPdx1の発現をβ-actinの発現量で補正した値を示している。微弱パルス電流及び熱の同時印加により、Foxa2およびPdx1の発現が2倍程度増加することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、再生医療の分野において高い産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞から誘導した未分化な内胚葉細胞に、微弱パルス電流及び熱を印加する工程を含む、内胚葉細胞の製造方法。
【請求項2】
38℃〜50℃で前記内胚葉細胞を培養することにより熱を印加する、請求項1に記載の内胚葉細胞の製造方法。
【請求項3】
アクチンビン及び塩基性線維芽細胞成長増殖因子(bFGF)の存在下で、前記微弱パルス電流及び熱を印加する工程を行う、請求項1又は2に記載の内胚葉細胞の製造方法。
【請求項4】
胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞から誘導した未分化な内胚葉細胞に、微弱パルス電流及び熱を印加することによって膵前駆細胞を製造する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内胚葉細胞の製造方法。
【請求項5】
膵前駆細胞がPdx1発現細胞である、請求項4に記載の内胚葉細胞の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−16292(P2012−16292A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153907(P2010−153907)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(000100399)つちやゴム株式会社 (10)
【Fターム(参考)】