説明

内視鏡の鉗子栓

【課題】処置具挿通チャンネルを通じて体内汚液等による水撃作用があっても鉗子栓本体から蓋体が外れ難くて汚液等の噴出がなく、しかも蓋体を鉗子栓本体にスムーズに取り付けることができる内視鏡の鉗子栓を提供すること。
【解決手段】本体閉鎖膜16の裏側に位置する鉗子栓本体11内の空間35が、略ハート形の上半部の形状をその縦軸の周りに回転した回転体状に形成されて、そのハート形の凹部にあたる部分の壁が本体閉鎖膜16になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内視鏡の処置具挿通チャンネルを通じて体内汚液等が内視鏡外に噴出しないように処置具挿通チャンネルの入口部分を弾力的にシールするための内視鏡の鉗子栓に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の鉗子栓は一般に、例えば図9に示されるように、基部が内視鏡の処置具挿通チャンネル100の入口口金に取り付けられる略円筒状の鉗子栓本体91と、その鉗子栓本体91の上端側から鉗子栓本体91に対し被さった状態に着脱自在に取り付けられる略キャップ状の蓋体92とが共に弾力性のある部材により形成されて、処置具挿通チャンネル100に挿通される処置具によって押し開かれるスリット93又は小孔94が形成された閉鎖膜95,96が、蓋体92と鉗子栓本体91とに設けられている。
【0003】
そして、蓋体92を鉗子栓本体91に着脱自在に係止させるために、鉗子栓本体91の外周部に円周溝99が形成されると共に、鉗子栓本体91の周囲を囲む状態に蓋体92側から突設された環状壁97の先端内周部分に、円周溝99に対して係脱自在な環状の内方突起98が突出形成され、そのような円周溝99と内方突起98とが、蓋体92を弾性変形させることにより互いに係脱させることができる抜け止め係合部になっている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−218732
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のような内視鏡の鉗子栓においては、図10に示されるように、体内から処置具挿通チャンネル100内を通ってくる体内汚液等の突発的な圧力上昇(いわゆる水撃作用)等により円周溝99に対する内方突起98の係合が外れて蓋体92が鉗子栓本体91から外れ、汚液が周囲に飛散してしまう場合がある。
【0005】
その対策としては、抜け止め係合部である内方突起98と円周溝99との係合力を大きくして、内方突起98が円周溝99から容易に外れないようにすればよいが、単純にそのようにすると鉗子栓本体91に対する蓋体92の着脱が困難になって、着脱時に蓋体92を破損し易くなる等の問題が生じる。
【0006】
本発明は、処置具挿通チャンネルを通じて体内汚液等による水撃作用があっても鉗子栓本体から蓋体が外れ難くて汚液等の噴出がなく、しかも蓋体を鉗子栓本体にスムーズに取り付けることができる内視鏡の鉗子栓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の内視鏡の鉗子栓は、基部が内視鏡の処置具挿通チャンネルの入口部分に取り付けられる略円筒状の鉗子栓本体と、鉗子栓本体の上端側から鉗子栓本体に対し被さった状態に着脱自在に取り付けられる略キャップ状の蓋体とが共に弾力性のある部材により形成されて、処置具挿通チャンネルに挿通される処置具により押し開かれる本体閉鎖膜と蓋体閉鎖膜とが鉗子栓本体と蓋体とに設けられ、鉗子栓本体の外周部と蓋体の内周部とに、蓋体を弾性変形させることにより互いに係脱させることができる抜け止め係合部が形成された内視鏡の鉗子栓において、本体閉鎖膜の裏側に位置する鉗子栓本体内の空間が、略ハート形の上半部の形状をその縦軸の周りに回転した回転体状に形成されて、そのハート形の凹部にあたる部分の壁が本体閉鎖膜になっているものである。
【0008】
なお、本体閉鎖膜には、通常は閉じていて、そこを通過する処置具により弾性変形させられて開く小孔が形成されているとよい。また、蓋体が鉗子栓本体を外側から締め付ける状態に被せられるようになっていてもよく、その場合、鉗子栓本体の外周面に上端部側から次第に径が窄まった逆テーパ面部が形成されていて、逆テーパ面部に被さる蓋体の内周面が、鉗子栓本体の上端部では鉗子栓本体を締め付けず、逆テーパ部では上端部から遠ざかるにしたがって鉗子栓本体に対する締め付け量が大きくなる逆テーパ孔状に形成されていてもよい。
【0009】
また、抜け止め係合部が、鉗子栓本体の外周部の逆テーパ面部より下方位置に外周面から凹んで形成された円周溝と、蓋体を弾性変形させることにより円周溝に対して係脱させることができるように蓋体から内方に向けて突出形成された内方突起とで形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本体閉鎖膜の裏側に位置する鉗子栓本体内の空間が、略ハート形の上半部の形状をその縦軸の周りに回転した回転体状に形成されて、そのハート形の凹部にあたる部分の壁が本体閉鎖膜になっていることにより、処置具挿通チャンネルを通じて体内汚液等による水撃作用があっても、それによって鉗子栓本体に対する蓋体の係合力や本体閉鎖膜の閉じ力が増大するので、鉗子栓本体から蓋体が外れ難くて汚液等の噴出がなく、しかも鉗子栓本体に対する蓋体の着脱は従来通りスムーズに行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
基部が内視鏡の処置具挿通チャンネルの入口部分に取り付けられる略円筒状の鉗子栓本体と、鉗子栓本体の上端側から鉗子栓本体に対し被さった状態に着脱自在に取り付けられる略キャップ状の蓋体とが共に弾力性のある部材により形成されて、処置具挿通チャンネルに挿通される処置具により押し開かれる本体閉鎖膜と蓋体閉鎖膜とが鉗子栓本体と蓋体とに設けられ、鉗子栓本体の外周部と蓋体の内周部とに、蓋体を弾性変形させることにより互いに係脱させることができる抜け止め係合部が形成された内視鏡の鉗子栓において、本体閉鎖膜の裏側に位置する鉗子栓本体内の空間が、略ハート形の上半部の形状をその縦軸の周りに回転した回転体状に形成されて、そのハート形の凹部にあたる部分の壁が本体閉鎖膜になっている。
【実施例】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図5において、1は、可撓性を有する内視鏡の挿入部、2は、挿入部1の基端に連結された操作部である。
【0013】
挿入部1内には、図示されていない処置具を挿通するための処置具挿通チャンネル3が全長にわたって挿通配置されていて、操作部2の下端部に配置された処置具挿通チャンネル3の入口開口部には、処置具挿通チャンネル3を通って逆流する体内汚液等が外方に吹き出さないようにするための鉗子栓10の鉗子栓本体11が着脱自在に取り付けられている。12と14は、後述する蓋体と連結帯状部材である。
【0014】
図1と図2は、鉗子栓10の縦断面図と斜視図である。鉗子栓10は、処置具挿通チャンネル3の入口口金3aに着脱自在に取り付けられる略円筒状に形成された鉗子栓本体11と、鉗子栓本体11の上端の突端側入口15側から鉗子栓本体11に対し被さった状態に着脱自在に取り付けられる略キャップ状の蓋体12とを備えていて、全体が弾力性のあるゴム材等によって構成されている。
【0015】
鉗子栓本体11の内面の基端寄りの部分には、処置具挿通チャンネル3の入口口金3aに対して係脱自在な小径部13が形成されており、小径部13を弾性変形させて、入口口金3aを締め付ける状態に取り付け及び取り外すことができる。
【0016】
蓋体12は、弾力性のあるゴム材により蓋体12と一体に形成された連結帯状部材14で鉗子栓本体11の基部と連結されていて、図3及び図4にも示されるように、蓋体12が鉗子栓本体11から取り外されてもその近くにぶら下げられた状態になるようになっている。
【0017】
図1に戻って、鉗子栓本体11内と蓋体12には、本体閉鎖膜16と蓋体閉鎖膜17が形成されていて、本体閉鎖膜16には、処置具挿通チャンネル3に挿通される処置具により押し開かれる小孔18が形成され、蓋体閉鎖膜17には、処置具挿通チャンネル3に挿通される処置具により押し開かれるスリット19が形成されている。なお、小孔18は、通常は閉じていて、そこを通過する処置具によって弾性変形させられて開く状態に形成されている。
【0018】
したがって、蓋体12が鉗子栓本体11に取り付けられて処置具が使用されない図1に示される状態では、蓋体閉鎖膜17に形成されたスリット19と本体閉鎖膜16に形成された小孔18により、処置具挿通チャンネル内から体内汚液等が噴出しないように封止される。
【0019】
そして、図示されていない処置具が処置具挿通チャンネル3に挿脱される際には、小孔18とスリット19により処置具の外周部との間がシールされ、注射器で処置具挿通チャンネル3内に薬液等を送り込む場合には、蓋体12の入口部に形成された小径部20が注射筒の先端部分を締め付けることにより、注射器の支持とシールが行われる。
【0020】
鉗子栓本体11の基端寄りの位置の外周部には、円周溝21が全周にわたって外周面から凹んだ状態に形成されている。そして、鉗子栓本体11の外周を囲む状態に、蓋体12側に環状壁22が形成され、円周溝21に対して全周にわたり係合させることができる環状の内方突起23が環状壁22の先端部分の内周部の全周から内方に向けて突出形成されている。
【0021】
内方突起23は、環状壁22を弾性変形させて円周溝21に係脱させることができ、蓋体12が鉗子栓本体11から外れるのを防止するための抜け止め係合部が、円周溝21と内方突起23とで構成されている。
【0022】
鉗子栓本体11の外周部の上半部は、上端部28側から次第に径が窄まった逆テーパ面部29になっていて、その逆テーパ面部29に被さる蓋体12の内周面(即ち、環状壁22の内周面の上半部)が、鉗子栓本体11の上端部28では鉗子栓本体11を締め付けず、逆テーパ面部29では上端部28から遠ざかるにしたがって鉗子栓本体11に対する締め付け量が大きくなる逆テーパ孔部30になっている。
【0023】
そのようにするために、図3に示されるように、蓋体12の逆テーパ孔部30の上端部の内径Dが鉗子栓本体11の上端部28の外径dと等しいか大きく形成され、逆テーパ孔部30のテーパ角θ2が逆テーパ面部29のテーパ角θ1より大きく形成されている。即ち、D≧d、且つθ2>θ1である。
【0024】
鉗子栓本体11の外周部の中間部分には、上端部28より径の大きな大径部26が形成され、その大径部26の基部側に隣接して前述の円周溝21が全周にわたって凹んで形成されている。
【0025】
また、大径部26の外周部には、蓋体12の内方突起23部分が弾性変形してスライドする際に鉗子栓本体11の外周部と蓋体12の環状壁22とで囲まれた空間を外部と連通させる通気溝27が形成されている。
【0026】
本体閉鎖膜16の裏側に位置する鉗子栓本体11内の空間(本体内空間35)は、略ハート形の上半部の形状をその縦軸の周りに回転した回転体状に形成されていて、そのハート形の凹部にあたる部分の壁が本体閉鎖膜16になっている。
【0027】
このように構成された実施例の内視鏡の鉗子栓10は、図1に示されるように、蓋体12が鉗子栓本体11に取り付けられた状態においては、内方突起23が円周溝21に係合して鉗子栓本体11に対する蓋体12の抜け止めになり、また、鉗子栓本体11の逆テーパ面部29が蓋体12の逆テーパ孔部30で締め付けられて、その部分が確実にシールされた状態になっている。
【0028】
そして、図6に示されるように、鉗子栓10が処置具挿通チャンネル3の入口口金3aに取り付けられた使用状態において、処置具挿通チャンネル3を経由する水撃作用等により本体内空間35内に高圧液流が入ってくると、その液流は本体内空間35のハート形の曲面壁に沿って流れる。
【0029】
すると、図7に示されるように、その水流が本体閉鎖膜16にぶつかる力Fの分力が小孔18を閉じるように作用するので、水流が小孔18を通過し難くなり、蓋体12の内側に面している鉗子栓本体11の突端側入口15内の圧力上昇が抑制される。
【0030】
また、図8に示されるように、水流が本体内空間35のハート形の曲面壁に沿って流れる部分では、弾力性のある部材からなる鉗子栓本体11が水流の力で外側に押し広げられる状態に弾性変形して、鉗子栓本体11の逆テーパ面部29の外周面が破線で示されるように広げられるので、蓋体12に形成されている逆テーパ孔部30による逆テーパ面部29に対する締め付け力が増大し、蓋体12が鉗子栓本体11から外れ難くなる。その結果、水撃作用があっても、蓋体12が鉗子栓本体11から外れず鉗子栓10から体内汚液等が噴出しない。
【0031】
このようにして、本発明においては、円周溝21と内方突起23との係合力を大きくすることなく、蓋体12が水撃作用によって鉗子栓本体11から外れないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の縦断面図である。
【図2】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の外観斜視図である。
【図3】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の蓋体が鉗子栓本体から取り外された状態の縦断面図である。
【図4】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の蓋体が鉗子栓本体から取り外された状態の外観斜視図である。
【図5】本発明の実施例の内視鏡の全体構成を示す側面図である。
【図6】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓に水撃が作用した状態の縦断面図である。
【図7】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓に水撃が作用した状態の本体閉鎖膜部分の断面図である。
【図8】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓に水撃が作用した状態の本体内空間部分の断面図である。
【図9】従来の内視鏡の鉗子栓の縦断面図である。
【図10】従来の内視鏡の鉗子栓に水撃が作用した状態の縦断面図である。
【符号の説明】
【0033】
3 処置具挿通チャンネル
3a 入口口金
10 鉗子栓
11 鉗子栓本体
12 蓋体
16 本体閉鎖膜
17 蓋体閉鎖膜
18 小孔
19 スリット
21 円周溝
22 環状壁
23 内方突起
29 逆テーパ面部
30 逆テーパ孔部
35 本体内空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部が内視鏡の処置具挿通チャンネルの入口部分に取り付けられる略円筒状の鉗子栓本体と、上記鉗子栓本体の上端側から上記鉗子栓本体に対し被さった状態に着脱自在に取り付けられる略キャップ状の蓋体とが共に弾力性のある部材により形成されて、上記処置具挿通チャンネルに挿通される処置具により押し開かれる本体閉鎖膜と蓋体閉鎖膜とが上記鉗子栓本体と上記蓋体とに設けられ、上記鉗子栓本体の外周部と上記蓋体の内周部とに、上記蓋体を弾性変形させることにより互いに係脱させることができる抜け止め係合部が形成された内視鏡の鉗子栓において、
上記本体閉鎖膜の裏側に位置する上記鉗子栓本体内の空間が、略ハート形の上半部の形状をその縦軸の周りに回転した回転体状に形成されて、そのハート形の凹部にあたる部分の壁が上記本体閉鎖膜になっていることを特徴とする内視鏡の鉗子栓。
【請求項2】
上記本体閉鎖膜には、通常は閉じていて、そこを通過する処置具により弾性変形させられて開く小孔が形成されている請求項1記載の内視鏡の鉗子栓。
【請求項3】
上記蓋体が上記鉗子栓本体を外側から締め付ける状態に被せられる請求項1又は2記載の内視鏡の鉗子栓。
【請求項4】
上記鉗子栓本体の外周面に上端部側から次第に径が窄まった逆テーパ面部が形成されていて、上記逆テーパ面部に被さる上記蓋体の内周面が、上記鉗子栓本体の上端部では上記鉗子栓本体を締め付けず、上記逆テーパ部では上端部から遠ざかるにしたがって上記鉗子栓本体に対する締め付け量が大きくなる逆テーパ孔状に形成されている請求項3記載の内視鏡の鉗子栓。
【請求項5】
上記抜け止め係合部が、上記鉗子栓本体の外周部の上記逆テーパ面部より下方位置に外周面から凹んで形成された円周溝と、上記蓋体を弾性変形させることにより上記円周溝に対して係脱させることができるように上記蓋体から内方に向けて突出形成された内方突起とで形成されている請求項1ないし4のいずれかの項に記載の内視鏡の鉗子栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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