説明

再生セルロース組成物

【課題】本発明は、人体に対して有効な作用効果を肌に直接及ぼすことができる再生セルロース組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、当該組成物を含む繊維や繊維製品を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明の再生セルロース組成物は、オリーブオイルを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリーブオイルを含有する再生セルロース組成物に関するものである。また、本発明は、当該組成物を含む繊維や繊維製品にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アトピー性皮膚炎など皮膚のアレルギー疾患が問題となっている。かかるアレルギー疾患の根本的な原因は必ずしも明らかにされていないが、肌の乾燥により症状の悪化が見られることが知られている。また、背中など衣服に接触する部分では、衣服によるこすれが痒みを誘発して症状を悪化させてしまう傾向がある。
【0003】
また、最近では健康意識や美容意識の高まりからアンチエージングという考えが生まれている。そこで、ビタミンEなどの抗酸化成分が配合され、肌に対するアンチエージング効果が謳われている化粧品が開発され市販もされている。
【0004】
しかし、従来、肌着などの衣服は肌に直接接触するにもかかわらず衣服により肌の状態を適切に保つという考えはなく、その様な作用効果を有する繊維も無かった。
【0005】
ところで、様々な成分を配合することにより繊維に優れた特性を付与する技術が開発されている。例えば特許文献1には、スクワランなどの炭化水素化合物を配合することにより、風合や耐洗濯性、染色性などを高めた再生セルロース組成物が開示されている。また、特許文献2には、備長炭微粒子を配合することにより消臭性を付与したレーヨン繊維が記載されている。
【特許文献1】特開2000−192326号公報
【特許文献2】特開2001−98412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した様に、衣服は肌に直接接触するものであるにもかかわらず、肌の状態を適切に保つことを目的とした繊維はこれまでなかった。
【0007】
そこで本発明が解決すべき課題は、人体に対して有効な作用効果を肌に直接及ぼすことができる再生セルロース組成物を提供することにある。また、本発明は、当該組成物を含む繊維や繊維製品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた。その結果、再生セルロースにオリーブオイルを練り込めば、抗酸化作用や保湿作用といった効果を肌に直接作用させることができる組成物が得られることを見出して本発明を完成した。
【0009】
本発明の再生セルロース組成物はオリーブオイルを含有することを特徴とする。当該組成物におけるオリーブオイルの含有割合は、0.1〜10質量%が好適である。オリーブオイルの割合が少な過ぎると好ましい作用効果が得られなくなる一方で、含有割合が多過ぎると繊維強度が低くなる可能性がある。
【0010】
本発明の繊維は上記再生セルロースからなり、上述した作用効果を有する。また、当該繊維にその作用効果を失わせない範囲でウール、綿、および化学繊維からなる群より選択される1以上を混合し、混合繊維としてもよい。これら繊維から得られる繊維製品は、上述した作用効果、即ち保湿作用や鎮痒作用などの効果を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の再生セルロース組成物は天然由来のセルロースを主成分とする上に、オリーブオイルを含む。よって、抗酸化作用などオリーブオイル由来の作用効果を発揮することができ、本発明の再生セルロース組成物からなる衣服は、肌の老化を抑制し得る。その他、本発明の再生セルロース組成物は保湿作用を有することから、乾燥による肌の痒みを抑制でき得る。また、抗菌作用などにより肌の状態を適切に維持できることも期待できる。従って本発明は、有効な作用効果を肌に直接及ぼすことができる衣服などを提供できるものとして産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の再生セルロース組成物はオリーブオイルを含有することを特徴とする。
【0013】
本発明において再生セルロースとは、セルロースをいったん誘導体化して水溶液としてから成形した後にセルロースへ戻したものをいう。かかる水溶性セルロースとしては、水酸化ナトリウムによるアルカリセルロース、アルカリセルロースへさらに二硫化炭素を作用させたビスコース、水酸化銅(II)を濃アンモニアに溶解した銅アンモニア溶液によるセルロース−銅錯体がある。ビスコースを希硫酸中に押し出した繊維がビスコースレーヨンであり、セルロース−銅錯体溶液を固めたものはキュプラまたは銅アンモニアレーヨンと呼ばれる。
【0014】
再生セルロース組成物の形態は特に制限されず、繊維、フィルム、粒体、粉体とすることができる。当該繊維から製造された衣服は、オリーブオイル由来の抗酸化作用などを肌へ直接作用させることができ得る。また、これら粒体や粉体は化粧品材料等として利用することができる。
【0015】
オリーブオイルはオリーブの果実から採取した油成分であり、果実から機械的方法のみで採取したバージンオリーブオイル、バージンオリーブオイルから刺激成分等を除去した精製オリーブオイル、バージンオリーブオイルと精製オリーブオイルを混合したピュアオリーブオイルに分類される。オリーブオイルの厳密な成分組成は、オリーブ樹の種類、オリーブ樹が育った土壌、気候などにも依存するが、主にオレイン酸などの一価不飽和脂肪酸、リノール酸やリノレン酸などの多価不飽和脂肪酸、パルミチン酸やステアリン酸などの飽和脂肪酸、ビタミンE、ポリフェノールなどが含まれる。
【0016】
オリーブオイルには、抗酸化作用、保湿作用、抗菌作用などがあり、古くから食用に利用されている。また、化粧品や香水、石鹸の材料としても用いられている。本発明の再生セルロース組成物にはオリーブオイルが分散されて存在しており、特に、優れた抗酸化作用や保湿作用を発揮する。その結果、衣服等に適用することにより肌に対してアンチエージング効果を発揮し得、また、肌の乾燥を防ぐことにより鎮痒作用を発揮することもでき得る。その他、本発明組成物自体や皮膚等に対して抗菌作用を及ぼし得る可能性もある。
【0017】
本発明の再生セルロース組成物におけるオリーブオイルの含有割合は、0.1〜10質量%が好適である。0.1質量%未満であると好ましい作用効果が得られなくなる一方で、10質量%を超えると繊維強度が低くなる可能性がある。
【0018】
本発明の再生セルロース組成物は、水溶性化されたセルロースの水溶液にオリーブオイル分散液を加えて激しく攪拌することによりセルロース水溶液にオリーブオイルを分散させてエマルションとし、当該エマルションを成形した後に乾燥することにより製造することができる。
【0019】
セルロース水溶液は、常法により調製することができる。例えば、水酸化ナトリウム水溶液にセルロースを浸漬し、さらに水酸化ナトリウムを徐々に添加してセルロースを溶解させることによりアルカリセルロース水溶液が得られる。ビスコースを得る場合には、18質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液にセルロースを浸漬してスラリー状にし、圧搾することにより過剰の水酸化ナトリウムやヘミセルロースを除去した上で粉砕する。粉砕後は、重合度を低下させてビスコースの粘度を適度なものとするために老成する。老成後、セルロース質量に対して30〜40%の二硫化炭素を反応させ、これを水酸化ナトリウム水溶液に溶解することによりビスコースが得られる。セルロース−銅錯体溶液を得る場合には、先ず、0.5〜2質量%程度の硫酸銅(II)水溶液へ5〜20容量%程度の濃アンモニアを加えて均一溶液とし、さらに1〜5mol/L程度の水酸化ナトリウム水溶液を1〜10容量%程度加えて攪拌し、銅アンモニア溶液を得る。当該溶液へセルロースを少量ずつ加えては攪拌混合する操作を溶液が粘性を帯びるまで繰り返せばよい。
【0020】
セルロース水溶液へ加えるオリーブオイル分散液は、オリーブオイルを水中へ分散させたものであるが、好適には、オリーブオイルの分散性を高めるために界面活性剤を加える。
【0021】
ここで使用する界面活性剤は、オリーブオイルと良好な相性を示すものであれば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤など特に制限なく用いることができる。
【0022】
アニオン界面活性剤としては、例えば高級脂肪酸石鹸、高級アルコール硫酸エステル、N−アミルグルタミン酸塩、リン酸エステル塩、長鎖アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼン硫酸塩、長鎖アルキル硫酸などを挙げることができる。
【0023】
カチオン界面活性剤としては、例えばアルキルアンモニウム塩、アルキルピリジウム塩、アルキルイソキノリウム塩、ベンゼトニウム塩などを挙げることができる。
【0024】
両性イオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアミノ酢酸やアルキルジエチレントリアミン酢酸を挙げることができる。
【0025】
非イオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの多価アルコールエステル;高級アルコール酸化エチレン縮合物;脂肪酸の酸化エチレン縮合物;脂肪酸アルキロールアミドなどのブロックポリマー型酸化エチレン縮合物などを挙げることができる。
【0026】
オリーブオイル分散液で用いる界面活性剤のHLBは特に制限されないが、通常は3〜20程度の範囲とする。実際における界面活性剤の種類などは、例えば予備実験によりオリーブオイルを良好に分散できるか否か観察して決定すればよい。
【0027】
オリーブオイル分散液におけるオリーブオイルの割合は、分散液が安定である限り特に制限されないが、通常は0.1質量%以上、15質量%以下程度とする。濃度が低過ぎると後続する工程で凝固再生に時間や手間がかかる場合がある一方で、濃度が高過ぎると分散化に時間や手間がかかるおそれがある。オリーブオイル分散液における界面活性剤の濃度も特に制限されないが、通常はオリーブオイルに対して0.1〜50質量%程度とする。
【0028】
オリーブオイル分散液の調製方法も特に制限されないが、例えば、オリーブオイルと界面活性剤とを混合し、さらに水を加えた上で激しく攪拌することによりオリーブオイルを水中に分散させればよい。
【0029】
上記オリーブオイル分散液は、インジェクション方式などによりセルロース水溶液へ圧入混合した上で激しく混合することによりオリーブオイルをセルロース水溶液中に分散させる。この際におけるオリーブオイル分散液の添加量は、オリーブオイルのセルロースに対する割合として0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、0.5〜3質量%が特に好ましい。オリーブオイル添加量が少な過ぎるとオリーブオイル由来の作用効果が発揮されないおそれがあり、多過ぎると組成物の強度が低下したり油成分由来のべとつきが生じる可能性がある。
【0030】
セルロース水溶液へオリーブオイル分散液を添加した後は、激しく攪拌することによりオリーブオイルをセルロース水溶液へ分散させてエマルションを形成する。この際、得られるオリーブオイルのエマルション径は特に制限されないが、平均エマルション径で0.1〜1μm程度とすることが好ましく、全てのエマルション径を1μm以下にすることが好ましい。一方、エマルション径の下限は特に制限されず、当該径が小さいほどオリーブオイル分散液の安定性は高いといえるが、技術的な限界から好適には0.01μm以上とする。
【0031】
オリーブオイルエマルション径の測定方法は特に制限されず、常法を用いることができる。例えば、ベックマン・コールター社のN4 Plusなどのサブミクロン粒子アナライザーを用いてエマルションの粒径分布を求め、同時に平均粒子径や最大および最小粒子径を計測すればよい。
【0032】
オリーブオイル分散液には、必要に応じて酸化防止剤、防腐剤、帯電防止剤などを適宜添加してもよい。
【0033】
得られたセルロース水溶液中のオリーブオイル分散液は、エマルション同士の結合が生じないうちに速やかに成形することが好ましい。成形方法は、常法による。
【0034】
例えばビスコースレーヨン繊維を得る場合には、オリーブオイルエマルションを含むビスコース水溶液を径:30〜100μm程度のノズルから噴出させ、ドラフト率(引張速度/ノズル初速)=1.5〜2.5程度で希硫酸中へ糸状に噴出し、さらに加温した希硫酸中へ導入することにより凝固再生すればよい。この際、好適な太さは1〜2デシテックス程度とし、さらにコットン長さ30〜50mm程度に切断してもよい。フィルムを得る場合には、当該水溶液をスリットから希硫酸などの中へ圧出させ、洗浄に次いで乾燥すればよい。粒体や粉体を得る場合には、当該水溶液をノズルから液滴化し、同様に希硫酸を用いて凝固再生させればよい。さらに、所望の粒径に粉砕してもよい。
【0035】
本発明の再生セルロール組成物は、その形態に応じて利用することができる。例えば繊維の場合、編物、織物、不織布などの繊維とすることができる。また、これら繊維は、ウール、綿、化学繊維などを混ぜて混合繊維として利用してもよい。さらに、本発明に係る繊維は、これら他の繊維と混合して布とすることもできる。
【0036】
本発明の再生セルロース組成物には、オリーブオイルが分散状に存在している。よって、オリーブオイルが本来有する作用効果をそのまま共有する。例えば、本発明の再生セルロース組成物からなる繊維を利用して肌着とした場合には、オリーブオイル由来の優れた保湿性から肌の乾燥を抑制するなど肌の状態を適切に保つことができ、痒みなどを低減でき得る。また、オリーブオイルによる抗酸化作用や抗菌性により、肌着自体のみでなく肌表面を清潔に維持することもでき得る。従って、本発明の再生セルロース組成物は、アトピー性皮膚炎など皮膚のアレルギー性疾患患者などの皮膚にも優しいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブオイルを含有することを特徴とする再生セルロース組成物。
【請求項2】
オリーブオイルを0.1〜10質量%含有する請求項1に記載の再生セルロース組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の再生セルロース組成物からなる繊維。
【請求項4】
請求項3に記載の繊維からなる繊維製品。
【請求項5】
請求項3に記載の繊維と、さらにウール、綿、および化学繊維からなる群より選択される1以上を含有する混合繊維。
【請求項6】
請求項5に記載の混合繊維からなる繊維製品。

【公開番号】特開2008−303245(P2008−303245A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149416(P2007−149416)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(302037467)株式会社ダイセン (2)
【Fターム(参考)】