説明

再石灰化促進効果簡易評価法及び本評価法で規定される再石灰化促進剤

【課題】初期う蝕の脱灰・再石灰化試験は、Transversal Microradiography(TMR)法で評価することが一般的である。しかし、本手法は破壊的な評価法であり、精度の高い評価システムの構築と管理が要求されるため、難易度の高い試験法である。また、近年、研究倫理上の問題やウシ海綿状脳症(BSE)の問題から実験材料であるヒト歯やウシ歯の入手が容易ではない。そこで脱灰・再石灰化への被検物質の影響を簡単に評価できるin
vitroでの試験法の開発を行う。
【解決手段】特許文献1で述べた手法において、pH値およびイオン濃度を電極を用いることで、本文献の再石灰化評価試験法に比べて、短時間および同一溶液系内で経時的に再石灰化への被検物質の影響を簡潔に評価できる簡易試験系に開発することに成功した。その結果精度の高い短時間での評価が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶性のリン酸カルシウムの添加前後における溶性カルシウムあるいは/および溶性リン酸濃度、あるいは/およびpH値の変化を測定することで再石灰化への被検物質の影響を簡潔に評価する手法および再石灰化効果の評価分析機器。本手法で定義される再石灰化促進物質あるいは脱灰抑制物質を含有することを特徴とする飲食物および口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯を一番外側で守っているエナメル質は、カルシウムやリン酸などのミネラルからできている。エナメル質は歯の中でも最も硬い部分であるが、歯垢中の細菌が作り出す有機酸、食品に含まれる酸などによってエナメル質の内側から大切なカルシウムやリン酸が溶け出す。この過程を脱灰と呼びう蝕の始まりである(浜田茂幸、大嶋隆、新・う蝕の科学、医歯薬出版株式会社,2006)。この脱灰とは逆に、エナメル質に失われたカルシウムやリン酸を補って、脱灰したエナメル質を元に戻す再石灰化という作用があることがわかってきた。
【0003】
う蝕には自然治癒がないと長年考えられてきたが、近年の研究により、齲蝕の初期症状である脱灰性病変は、口腔内の条件が整えば、この再石灰化が起こり、ミネラル量が健全な状態に回復することが知られている(飯島洋一、熊谷 崇; カリエス コントロール 脱灰と再石灰化のメカニズム、医歯薬出版株式会社、1999)。う蝕の初期症状である脱灰性病変は、歯垢の影響を受けてミクロのレベルで常に発現している。それが健全状態を維持しているのは、唾液の働きにより脱灰病変患部にミネラルが供給されミクロのレベルでの脱灰と再石灰化が均衡しているためである。つまり、飲食後には歯垢内pHが低下傾向となり、「脱灰−再石灰化」の均衡関係がくずれ、「脱灰>再石灰化」となった場合に病変が進行するのである。また逆に「再石灰化>脱灰」の関係では脱灰病変が回復に向かい、歯が再石灰化する。脱灰と再石灰化のバランスをとることによって、本格的なう蝕になることを防ぐことができる。
【0004】
また、歯の結晶はリン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイトからなるが、第二リン酸カルシウム(リン酸一水素カルシウム)、第三リン酸カルシウム、オクタリン酸カルシウムなどの諸結晶も含むと考えられており、これらの各リン酸カルシウムの結晶状態が異なることにより、酸への溶解性やX線回折など諸性質が異なることも知られている(青木秀希、驚異の生体物質アパタイト、医歯薬出版株式会社、1999)。
【0005】
歯の再石灰化に関する一般的な評価法は、エナメル質表層を含む歯の横断面のマイクロラジオグラフを撮影し、得られたミネラルプロファイルから脱灰深度ld (µm)およびミネラル喪失量ML(vol%·µm)を計測するTransversal Microradiography
(TMR)である。つまり、評価部位表面に直交する断面方向(Transversal)に平行切片を切出して、歯のミネラル濃度が定量評価できるよう最適化した条件下でのマイクロラジオグラフを撮影に特化したContact Microradiography
(CMR)法の一つである(J. D. B. Featherstone, J. Dent. Res. 71, 955-956, 1992, 高江洲義矩 監修: ガイドブック
フッ化物臨床応用のサイエンス, 永末書店, 79-81, 2002.)。しかし破壊検査であるため経過的に測定することができない。また、X線での撮影が必要であり、X線発生装置の管理と調整が必要である。
【0006】
また、近年、脱灰部の散乱光を画像として取り込み、画像処理して定量化するQLF(Qualitative Light-Induced Fluorescence)法が開発され、非破壊検査法として利用され出してきている(神原正樹:QLFによるう蝕診断,
細胞, 37, 84-87, 2005.)が、大変高価な機器であり、操作にも熟練を要する。そこで非破壊検査法で経時的に再石灰化への被検物質の影響を評価できる簡易試験系を開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2002-3325557
【特許文献2】特開平8-104696
【特許文献3】特開2002-325556
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは特許文献1の中で既に述べてきたような再石灰化効果を評価する簡易再石灰化評価法を提案してきた。しかし、本評価法は、結晶性リン酸カルシウムの添加の有無において、2本の容器が必要だったこと、経時的な観察ができなかったこと、評価時間に長時間を要したことなどの大きな問題がある。また再石灰化を促進する物質の検索も、脱灰エナメル質を用いて被検物質を含むミネラル溶液に一週間以上浸漬し、TMR分析で再石灰化度を評価することが一般的であったため、被検物質の再石灰化促進メカニズも不明瞭である場合が多いことも問題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一に、初期う蝕の再石灰化促進物質を次のように定義した。
(1) 中性pH条件下でカルシウムイオンおよびリン酸イオンの不溶化を防ぐ。
(2) リン酸カルシウム結晶核の添加により、カルシウムイオンとリン酸イオンがその結晶成長に供される。つまり、(1)は「唾液の中性条件下でカルシウムイオンおよびリン酸イオンの溶解性を保って脱灰患部へイオン物質の提供を効率よく行う」ことの評価をし、(2)は「脱灰患部に到達し、ハイドロキシアパタイト脱灰患部に到着して、その結晶成長へカルシウムイオンおよびリン酸イオンが供与される」ことの評価を行う。以上の2点の特性を兼ね備えていることが再石灰化促進物質の条件と定義した。
【0009】
第二に、脱灰・再石灰化の化学反応式は、次のように表される。
【数1】




つまり、再石灰化が進む右向きの反応は、カルシウムイオンおよびリン酸イオンが減少し、アパタイトの結晶の成長が生じると共に、酸を生じる反応である。
【0010】
予め中性条件下でカルシウムイオンおよびリン酸イオンを含んだ溶液の一定時間内のカルシウムあるいは/およびリン酸イオン濃度およびpH値を測定した後、リン酸化カルシウム結晶核を添加して再石灰化反応を開始する。本反応中もカルシウムあるいは/およびリン酸イオン濃度およびpH値を一定時間測定する。リン酸化カルシウムは予め乳酸溶液で脱灰したハイドロキシアパタイト粉末もしくは脱灰処理をしたウシ歯(主にエナメル質)の粉末を終濃度0.1-5%になるように添加する。この結晶核の添加量は再石灰化反応が生じる表面積に依存しており、微粒子を添加利用する程に、少量の添加でも短時間で反応が進むと考えられる。つまり、従来のように実施のエナメル質試料を用いた場合は、反応表面積が小さいため、長時間の反応を要していた。
【0011】
また、粉末X線回折(XRD)を用いて試験終了後に回収したハイドロキシアパタイト粉末もしくはウシ歯粉末の結晶解析も行う。反応は摂氏20度〜40度で行われ、好適には摂氏35度〜38度の生体に近い温度で行われる。本反応には、カルシウムイオン濃度は0.5〜10mM濃度、リン酸イオン濃度は0.5〜10mM
濃度、pH緩衝液を5〜100mM濃度とし、リン酸カルシウム結晶を1ng/dL〜1g/dL濃度を添加する。好適には、塩化カルシウム6mM、リン酸カリウム3.6mM
、pH7のHEPES緩衝液(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperadinyl]
ethansulfonic acid。いわゆるグッドバッファーの一種である。)10mMを終濃度とし、被検物質添加前のカルシウムイオン濃度が70%以上少なくとも10分以上可溶化しており、かつ、pHの変化が0.2以内であり、500mg/dLのリン酸カルシウム結晶添加後のカルシウムイオン濃度が少なくとも30分以内に30%以下となり、かつ、pH値の低下が0.3以上低下することを特徴とする物質が再石灰化促進物質と定義した。
【0012】
リン酸カルシウム結晶を添加する前のインキュベート時間は5分〜120分、添加後のインキュベート時間は5分〜120分とする。各60分程度が好適である。用いるカルシウムイオンは、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸化オリゴ糖カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウムを用い、リン酸イオンには、リン酸カリウム、リン酸ナトリウムを用い、緩衝液にはHEPES緩衝液、MES(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid)緩衝液、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン-塩酸)緩衝液、Bis Tris緩衝液を用いた組成溶液に被検物質を加え、リン酸カルシウム結晶としてハイドロキシアパタイト、第二リン酸カルシウム(リン酸一水素カルシウム)、第三リン酸カルシウム、オクタリン酸カルシウム、エナメル質粉末あるいはそれらの脱灰処理した結晶粉末を用いることができる。
【0013】
結晶粉末添加前後のpH値、カルシウムイオン濃度、リン酸イオン濃度をpH電極および/あるいはイオン電極を用いて経時的に連続測定することで再石灰化へ与える被検物質の影響を評価することができる。溶液の温度は摂氏2
5度〜40度程度に調温する。カルシウムイオン濃度および/あるいはリン酸イオン濃度はイオン電極でなくとも原子吸光法、SPI法、キレート発色剤による吸光度測定法でも定量できれば問題ない。また、フッ素イオンを試験系に添加する場合は、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化スズモノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)、リン酸酸性フッ化物(APF)、お茶抽出物、海藻抽出物、海草抽出物、海洋深層水、塩、岩塩、芝えび、めざしの等の海産物およびその加工品、鉱物由来のフッ素を利用し、フッ素イオン電極も併用して同時に経時的に測定する。必要によっては、カルシウムイオン濃度、フッ素イオン濃度はイオン電極ではなく、原子吸光法、SPI法、キレート発色剤による吸光度測定法で定量する方法などを用いて正確に測定しても良いし、試験前に正確に測定しておいて、反応中のイオン電極での測定値を試験後に補正しても良い。
【0014】
フッ素測定にはアリザリン色素による呈色反応のあと、吸光光度法によるものも一般的であるが,フッ素電極法が簡潔で便利である。しかし、イオン電極による定量法は他のイオンの影響や被検物質の影響を受けやすいので注意が必要である。カルシウムイオン濃度が結晶核の添加前から低値である場合は、イオン電極法のみの定量ではなく、キレート発色剤などの比色法など幾つかの定量法で確認を行うべきである。被検物質がカルシウムイオン濃度の定量法自身に影響を与えている場合があるからである。特にフッ素イオン濃度は他の陽イオンの影響を防ぐため、TISAB溶液 ( Total Ionic Strength Adjustment Buffer: 酢酸,塩化ナトリウム,クエン酸ナトリウムに水酸化ナトリウムを加えてpH
5.5にしたもの、穂積啓一郎,秋元直茂:分析化学, 20, 467, 1971)などを利用して予め正確な値を測定しておくことが必要である。
【0015】
また、被検物質がpH緩衝作用を有している場合、pH緩衝作用を有していない場合に比べて、結晶核の添加後のpH値の添加が緩慢になる場合がある。つまり、再石灰化促進物質であっても、pH値とカルシウムイオン濃度の両方の値の低下が観察されにくい場合もある。
【発明の効果】
【0016】
カルシウム成分にリン酸化オリゴ糖のカルシウム塩を用いた場合、結晶核を添加しない状態ではカルシウムイオン濃度およびpH値に大きな変化はなく溶解性が保たれていた。結晶核(脱灰ハイドロキシアパタイト)を添加すると、0.3以上のpH値の低下と共に30%以上のカルシウムイオン濃度の減少が生じた。
【0017】
一方、この時のハイドロキシアパタイトを回収して結晶解析を行うと結晶化度の回復傾向が観察された。つまり、減少したカルシウムイオンはハイドロキシアパタイトの結晶成長に用いられたことが確認できた。
【0018】
以上の結果から、リン酸化オリゴ糖のカルシウム塩(POs-Ca)は再石灰化を促進させる物質であると言える。一方、カルシウム成分に塩化カルシウムを用いて、被検物質を添加しなかった場合、結晶核を添加する前から沈殿物の形成が観察された。pH値の低下とカルシウムイオン濃度の減少も試験開始当初から観られた。この沈殿物を解析すると、非常に結晶性の低いカルシウム含有物質であることがわかった。すなわち、単純にカルシウムイオン濃度を上昇させるだけでは、脱灰患部へカルシウムイオンが運ばれる前に不溶化・沈殿化してしまうことが解った。
【0019】
また、カルシウム成分にPOs-Caを用いた場合には、各種被検物質の再石灰化促進物質として知られているリン酸化オリゴ糖の再石灰化促進効果へ与える影響を調べることもできる。なお上記で述べているリン酸化オリゴ糖は、特許文献2に示されているように、澱粉あるいは化工澱粉から酵素によって加水分解することで調製される。好適には馬鈴薯澱粉に液化型α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、およびプルラナーゼを作用させると、2つの画分PO-1画分およびPO-2画分から構成されるリン酸化オリゴ糖が得られる(H.
Kamasaka, et al., Biosci.
Biotech. Biochem.59, 1412-1416 1995.)。
【0020】
PO-1画分は、炭素原子の3位にリン酸基の結合した重合度が4および5のオリゴ糖ならびに炭素原子の6位にリン酸基の結合した重合度が3から5のオリゴ糖から構成されており、分子内に1個のリン酸基を有していた。PO-2画分は主にマルトペンタオースおよびマルトヘキサオースから構成されており、少なくとも2個のリン酸基を分子内に有していた。
【0021】
また、リン酸化オリゴ糖の再石灰化促進効果に関しては、既に特許文献3で示されている。しかし、特許文献3で示されているように、従来の再石灰化効果の評価は、各種人工唾液組成溶液やヒト唾液に対して、予め脱灰処理したウシあるいはヒトエナメル質を調製して一定期間浸漬してTMR解析して、その効果を判定していた(H. Kamasaka, et al.,
J. Dent. Hlth. 52 , 105-111, 2002, D. Inaba et al., J. Dent. Hlth.52, 112-118, 2002)。
【0022】
その評価の判断には、統計処理のための一定数以上の歯数量が必要であり、長い時間と労力、および歯の加工に関する高度な技術を要していた。さらに、解析結果からは再石灰化促進効果のメカニズムを推量するのは大変困難であった。本発明は結晶性のリン酸カルシウムの添加前後における溶性カルシウムあるいは/および溶性リン酸イオン濃度、あるいは/およびpH値の変化を測定することで再石灰化への被検物質の影響を簡潔に評価する手法および分析機器を提供することが可能となる。また、本手法では予め再石灰化促進物質の定義を行っているため、効果メカニズムに関しても明瞭な結果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
試験時のカルシウムおよびリン酸の濃度は限定されないが、好適には唾液の組成に近づけることが望ましい。カルシウムイオン濃度が1から2mMの範囲であり、リン酸イオン濃度が3から6mM濃度の範囲である(特許文献1, 石川達也,高江洲義矩監訳: 唾液の科学,一世出版,
1998, H. Kamasaka, et al., J. Dent. Hlth. 52, 105-111, 2002, H. Kamasaka,
et al., J. Appl. Glycosci.
51, 129-134, 2004)。
【0024】
また、特許文献1で示されているように、好適な再石灰化条件として、カルシウムイオン濃度とリン酸イオン濃度の存在比率が歯のエナメル質内の存在比率Ca/P=1.67であることも知られている。つまり、カルシウムイオン6mM、リン酸イオン3.6mM組成が好適に用いられる。具体的には、塩化カルシウムを6mM、リン酸二水素カリウムを3.6mM 、HEPES緩衝液(pH7)10mMを終濃度とし、唾液中のイオン強度に近づけるために終濃度で100mMの塩化カリウムを添加しても良い。
【0025】
また被検物質添加前のカルシウムイオン濃度が70%以上、少なくとも10分間以上可溶化しており、かつ、pHの変化が0.2以内であり、500mg/dLのリン酸カルシウム結晶添加後のカルシウムイオン濃度が少なくとも30分以内に30%以下となり、かつ、pH値の低下が0.3以上であれば再石灰化促進物質と言える。結晶添加前後のインキュベート時間は50分〜60分が好適である。リン酸カルシウム結晶は予め脱灰処理したものを用いるのが効果的である。脱灰処理は37度条件下で0.1Nの乳酸溶液(pH4.5〜5.5)あるいは0.1N乳酸ゲル(pH4.5〜5.5)が好適に用いられる。ゲル化剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、カーボポールなどが用いられるが、その限りではない(Iijima et al., Caries Res 1999;
33: 206-213, Caries Res 2004; 38: 551-556)。
【0026】
さらに、ゲルに溶液を重層する手法も知られている。また、被検物質添加前後のカルシウムイオン濃度およびpH値の変化を示す曲線がシグモイド形を示すことを特徴とする。尚、本発明の脱灰・再石灰化の簡易的な評価法で定義される再石灰化促進効果を有する物質や組成物を含むことを特徴とする飲食物および口腔用組成物を指す。飲食物および口腔用組成物は、医薬品、医薬部外品、医療材料、化粧品、口腔化粧品、口腔衛生剤、食品、飲料、調味料、味質改善剤、洗剤、金属補給剤、金属吸収促進剤、飼料、肥料などに好適に利用することができる。
【0027】
また本発明の評価法で定義される再石灰化促進効果を有する物組成物は、リン酸化でん粉、リン酸化マルトデキストリン、還元リン酸化マルトデキストリン、リン酸化オリゴ糖、還元リン酸化オリゴ糖、有機酸、及び糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む組成物であって、本発明で示す新しい再石灰化評価試験において、結晶核を添加前のカルシウム可溶化率が70%以上、好ましくは 80%以上。結晶核添加後のpH値の低下が0.01-1.0、好ましくは0.35、かつカルシウムの不溶化が30%以上、好ましくは50%以上。つまり、結晶核を添加することで始めて、Ca不溶化およびpH値の低下が進む特性を有する組成物。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
請求項1の簡易試験系でカルシウムの供給源がリン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca;江崎グリコ(株)製、Caを5%
w/w含む)である人工唾液を下表1のような組成調製を行い、摂氏36±0.5度、pH 6.5±0.02で反応を開始した。予め微量の1N塩酸溶液で酸性溶液でカルシウムやリン酸を添加調整しておき、pH緩衝液であるHEPES溶液と1N水酸化カリウム溶液を加えてpHを中性にした後、反応を開始した。反応開始60分後、結晶核(脱灰処理を行った人工ハイドロキシアパタイト微粉末)を添加した。結果、結晶核を添加していない状態ではカルシウムイオン濃度に変化はなく溶解性が保たれていた。反応開始60分後、結晶核を添加すると、pH値の低下と同時にカルシウムイオン濃度の減少が観察された。また、被検物質添加前後のカルシウムイオン濃度およびpH値の変化を示す曲線がシグモイド形を示した。反応開始120分後にはpH値が0.26低下、カルシウムイオン濃度が3.8mM低下していた。また、反応終了後、結晶核を濾過回収して60度で3日間乾燥を行った後、粉末X線回折(XRD)用いて結晶解析を行うと、結晶化度の回復傾向が観察された。
【0029】
【表1】










【0030】
(実施例2)
実施例1の簡易試験系でカルシウムの供給源がリン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)である人工唾液を表1のように調製を行い摂氏36±0.5度、pH
6.5±0.02で反応を開始した。反応開始60分後、結晶核(脱灰処理を行ったウシ歯の粉末)を添加した。結果、結晶核を添加していない状態ではカルシウムイオン濃度に変化はなく溶解性が保たれていた。反応開始60分後、結晶核(脱灰処理を行ったウシ歯の粉末)を添加すると、pH値の低下と同時にカルシウムイオン濃度の減少が観察された。反応開始120分後、pH値が0.24低下し、カルシウムイオン濃度が3.1mM低下した。また、被検物質添加前後のカルシウムイオン濃度およびpH値の変化を示す曲線がシグモイド形を示した。反応終了後、結晶核を濾過回収して60度で3日間乾燥を行った後、粉末X線回折用いて回収した後、粉末X線回折を用いて結晶解析を行うと、結晶化度の回復傾向が観察された。
【0031】
(実施例3)
実施例1の簡易試験系でカルシウムイオン濃度の供給源が塩化カルシウムの人工唾液を下表2のように調製を行って、摂氏36±0.5度、pH6.5±0.02で反応を開始した。反応開始60分後結晶核(脱灰処理した人工ハイドロキシアパタイト)を添加した。結果、結晶核を添加する前から沈殿物の形成が観察された。また同時にpH値の低下とカルシウムイオン濃度の減少も観られ、容器の底にはリン酸化カルシウムの沈殿物が観察された。60分後、pH値は0.46低下し、カルシウムイオン濃度が0.9mM低下した。つまり、結晶核の添加に関わらず、pH値およびカルシウムイオン濃度ともに添加前から継続的に減少した。反応終了時、pH値で0.58、カルシウムイオン濃度で1.4mM低下していた。反応開始120分後、添加した結晶核を濾過回収して60度3日間乾燥を行った後、粉末X線回折用いて結晶解析を行うと結晶化度の回復傾向はほとんど観察されなかった。
【0032】
【表2】











【0033】
(実施例4)
請求項1の簡易試験系でカルシウムイオン供給源がリン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)を用い、フッ素が添加されている人工唾液を下表3のように調製を行い、摂氏36±0.5度、pH6.5±0.02で反応を開始した。反応開始後60分で結晶核(脱灰処理をした人工ハイドロキシアパタイトの微粉末)を添加した。結果、反応開始後、結晶核を添加していない状態ではカルシウムイオン濃度、pH値ともに変化はなく、溶解性が保たれた。結晶核(脱灰処理をした人工ハイドロキシアパタイトの微粉末)添加後はpHの低下と共にカルシウムイオンの低下が観察された。また、被検物質添加前後のカルシウムイオン濃度およびpH値の変化を示す曲線がシグモイド形を示した。反応開始120分後pH値0.28、カルシウムイオン濃度で3.9mM低下していた。反応開始120分後、結晶核を濾過回収して60度で3日間乾燥を行った後、XRD用いて結晶解析を行うと、結晶化度の回復が観察された。以上から、フッ素はリン酸化オリゴ糖カルシウムの再石灰化促進作用に影響を及ぼさないことが検証された。
【0034】
【表3】












【0035】
(実施例5)
実施例1の簡易試験系でカルシウムイオン供給源がリン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca;Caを5%
w/w含む)でかつ、フッ素が添加されている人工唾液を下表4のように調製を行い、摂氏36±0.5度、pH6.5±0.02で反応を開始した。反応開始後60分で結晶核(脱灰処理をした人工ハイドロキシアパタイト微粉末)を添加した。結果、反応開始後、結晶核を添加していない状態ではカルシウムイオン濃度、pH値ともに変化はなく、溶解性が保たれていた。反応開始後60分で結晶核を添加した結果、120分後のpH値が0.2、カルシウムイオン濃度が4.3mM低下していた。被検物質添加前後のカルシウムイオン濃度およびpH値の変化を示す曲線がシグモイド形を示した。反応開始120分後に添加した結晶核を回収して、結晶解析を行うと結晶化度の回復が観察された。以上からキトサンオリゴ糖とPOs-Caは再石灰化を促進する作用を有していた。また、POs-Caの再石灰化に影響を及ぼさないことも検証された。
【0036】
【表4】












【0037】
(実施例6)
請求項1の簡易試験系でカルシウムイオン供給源がPOs-Caであり、さらにリグニンが添加されている人工唾液を下表5のように調製を行い、摂氏36±0.5度、pH6.5±0.02で反応を開始した。反応開始後60分で結晶核(脱灰処理をした人工ハイドロキシアパタイト微粉末)を添加した。結果、結晶核を添加していない状態ではカルシウムイオン濃度、pH
値ともに変化はなく、溶解性が保たれていた。反応開始後60分で結晶核を添加した結果、反応開始120分後pH値が0.11、 カルシウムイオン 濃度が4.3 mM低下していた。また、被検物質添加前後のカルシウムイオン濃度およびpH値の変化を示す曲線がシグモイド形を示した。反応開始120分後、添加した結晶核を回収して結晶解析を行うと結晶化度の回復が観察された。以上のことから、リグニンは再石灰化を促進する作用を有していた。また、POs-Caの再石灰化促進作用にも影響を及ぼさないことが検証された。
【0038】
【表5】











【0039】
(実施例7)
請求項1の簡易試験系でカルシウムの供給源がPOs-Caである、人工唾液を表1のように調製を行って、摂氏36±0.5度、pH6.5±0.02で反応を開始した。結果、結晶核を添加していない状態ではカルシウムイオン濃度に変化はなく溶解性が保たれていた。反応開始60分後、初期う蝕を人工的に形成させたウシ歯の歯片サンプルを添加すると、pHの低下と同時にカルシウムイオン濃度が減少していた。また、被検物質添加前後のカルシウムイオン濃度およびpH値の変化を示す曲線がシグモイド形を示した。反応開始48時間後、ウシ歯を回収してサンプルを調製しTMR解析を行った。解析結果からML値46.7%、Ld値53.1%の回復が観察された。
【0040】
(実施例8)
請求項1の簡易試験系でカルシウムイオン供給源がリン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)でかつ、フッ素が添加されている人工唾液を表3のように調製を行い、摂氏36±0.5度、pH6.5±0.02で反応を開始した。結晶核を添加していない状態ではカルシウムイオン濃度に変化はなく溶解性が保たれていた。反応開始60分後、初期う蝕を人工的に形成させたウシ歯のサンプルを添加すると、pH値の低下と同時にカルシウムイオン濃度が減少した。反応開始48時間後、ウシ歯を回収し、TMR解析を行った。解析結果からML値30.1%、Ld値34.5%の回復が観察された。特に表層の高再石灰化層の回復が観察された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質の再石灰化促進作用を評価する試験において、下記の試験溶液およびリン酸カルシウムを用いてカルシウムの可溶化および不溶化状態、あるいは/および、試験系溶液のpH値の低下度を指標としてリン酸カルシウムへの再石灰化促進作用を評価する方法。
(1)試験溶液の調製
カルシウムイオン(1.5〜6mM)、リン酸イオン(0.9〜4mM)および被験物質を微酸性溶液下で調整し、終濃度が10〜50mMのpH緩衝溶液微アルカリ溶液によって、pH値を6.5〜7.0内に試験溶液を調製し、摂氏35〜37度に調温下で反応を開始する。
(2)リン酸カルシウムの添加
結晶核としてリン酸カルシウム結晶粉末を一定時間後に添加し、添加前後のpH値、カルシウムイオン濃度を経時的に測定する。
以上の行程により、被検物質の再石灰促進物質効果を評価する。
ここでのべる再石灰化促進物質とは、次の2つの条件を満たすものとする。1)中性pH条件下でカルシウムイオンおよびリン酸イオンの不溶化を防いで可溶性状態、あるいは、イオン状態を保持できること。2)リン酸カルシウムの結晶核添加後はカルシウムイオンとリン酸イオンが結晶成長へ供与され、両イオン濃度の低下とpH値の低下が生じる。これ連続的に一つの試験系で測定・評価する方法。
【請求項2】
請求頁1において、フッ素イオン濃度測定をリン酸カルシウムの結晶核添加前後で測定評価を行うことを加える方法。
【請求項3】
請求項1および2において用いたリン酸カルシウムの結晶粉末の添加前後のリン酸カルシウムの結晶構造をX線回折を用いて解析することを組み合わせた方法。
【請求項4】
請求項1から4のカルシウムイオン濃度、リン酸イオン濃度、pH値、フッ素イオン濃度のいずれか、あるいは、全てをリン酸カルシウム結晶核と組み合わせて、脱灰・再石灰化の評価目的で連続的に自動測定を行う分析機器。
【請求項5】
カルシウムイオン6mM、リン酸イオン3.6mM 、被験物質の添加、pH緩衝液(pH7)10mMを終濃度とし、カルシウムイオン濃度が70%以上が少なくとも10分以上可溶化しており、かつ、pHの変化が0.2以内であり、500mg/dLのリン酸カルシウム結晶添加後のカルシウムイオン濃度が少なくとも30分以内に30%以下となり、かつ、pH値の低下が0.3以上低下することを特徴とする請求項1〜3で規定される再石灰化促進物質。
【請求項6】
カルシウムイオン6mM、リン酸イオン3.6mM 、被検物質の添加、pH緩衝液(pH7)10mMを終濃度とし、結晶核添加前後のカルシウムイオン濃度およびpH値を示す曲線がシグモイド形を示すことを特徴とする請求項1〜3で規定される再石灰化促進物質。
【請求項7】
リン酸化オリゴ糖カルシウム(カルシウムとして6mM)、リン酸カリウム(リン酸として3.6mM) 、pH緩衝液(pH7)10mMを終濃度とし、結晶核添加前のカルシウムイオン濃度が70%以上、少なくとも10分間以上、可溶化しており、かつ、pHの変化が0.2以内であり、500mg/dLのリン酸カルシウム結晶添加後のカルシウムイオン濃度が少なくとも30分以内に30%以下となり、かつ、pH値の低下が0.3以上であることを特徴とする請求項1〜3で規定されるリン酸化オリゴ糖カルシウムと共に再石灰化を促進する物質。
【請求項8】
リン酸化オリゴ糖カルシウム(カルシウムとして6mM)、リン酸カリウム(リン酸として3.6mM)、被験物質の添加、pH緩衝液(pH7)10mMを終濃度とし、結晶核添加前後のカルシウムイオン濃度およびpH値の変化を示す曲線がシグモイド形を示すことを特徴とする請求項1〜3で規定されるリン酸化オリゴ糖カルシウムと共に再石灰化を促進する物質。
【請求項9】
上記再石灰化促進物質を配合することを特徴とする口腔用組成物。


【公開番号】特開2008−286556(P2008−286556A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129769(P2007−129769)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】