説明

冷陰極電子源の製造方法及び電界放出素子

【課題】高輝度の電界放出型フラットパネルディスプレイ(FED)、電界放出型ランプ(FEL)等を製造するために、一定電圧の下で多くの電界放出電流が流れる冷陰極電子源を製造する方法を提供する。
【解決手段】導電性基板の上に酸化チタン等の金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源を製造する方法において、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射する。具体的には、導電性基板の上に形成した金属酸化物からなる電子放出材料を活性化処理する工程と電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極電子源の製造方法に関する。また、冷陰極電子源を用いた電界放出素子、電界放出発光素子に関し、更には前記の電界放出発光素子を組み込んだ電界放出型フラットパネルディスプレイ(FED)、電界放出型ランプ(FEL)等に関する。また、冷陰極電子源の処理方法、電界放出の方法、電界放出による発光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷陰極電子源は、導電性基板及びその上に形成された電子放出材料を含む電子放出部を有し、対極の導電性基板との間に電圧を印加すると電界を形成し、電子放出材料から電子線を放出する。このように放出された電子線は、対極の導電性基板側に配置した蛍光体に衝突すると、蛍光体が励起し、発光するため、発光素子として種々の用途に利用される。具体的には、画像表示装置として電界放出型フラットパネルディスプレイ(FED)、照明装置として電界放出型ランプ(FEL)等が注目されている。
前記のFEDは、陰極線管(CRT)と同じ電子線励起型でありその優れた特性を維持しながら、消費電力の低下、薄型化、小型化が可能である。また、FELは、消費電力、耐久性、発光効率に関してはLEDと比較して遜色ない上に、蛍光面と電子放出部を大面積化することが容易であるため面発光にも適している。更に発光色については数多い電子線励起蛍光体の組み合わせによって良好な白色を実現することができる。
【0003】
冷陰極電子源の電子放出部には電子放出材料が配置されており、その電子放出材料としては、カーボンナノチューブ(CNT)のほかに、特許文献1にはナノサイズの無機物、具体的には酸化亜鉛ナノチューブ等を用いることを提案している。また、特許文献2には、針状酸化チタン等を電子放出材料として用いることを提案している。
電子放出材料の特性を確保するために、特許文献1には、電子放出部表面に形成したフィルムを剥離させる活性化処理(一般に電子放出材料の起毛処理といわれるものを含む)を行い、電子放出材料を電子放出部表面に露出させたり、垂直配向させることを記載している。また、特許文献2には、電子放出部表面に貼ったテープを剥がすテープピーリング処理を行い、電子放出材料の疎領域と密領域を形成させ、その境界で高い電界集中効果が得られることを記載している。
【0004】
【特許文献1】特開2006−120636号公報(請求項1等、段落0043)
【特許文献2】WO2008/069243(請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載のテープピーリング等の活性化処理により、電子放出特性は改善できるものの、より高輝度の発光素子を作製するには冷陰極電子源に印加した際により多くの電界放出電流(エミッション電流)を要するなどの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、冷陰極電子源に印加する一定電圧の下で、より多くの電界放出電流を得る方法を検討した結果、電子放出材料として用いる金属酸化物に少なくとも紫外光を含む光を照射することにより、所望の電界放出電流が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、導電性基板の上に金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源を製造する方法において、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射する工程を含むことを特徴とする冷陰極電子源の製造方法である。
また、前記の方法で得られた冷陰極電子源を用いた電界放出素子である。
また、少なくとも、導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源と、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射する光源とを有することを特徴とする電界放出素子である。
また、少なくとも、前記の電界放出素子と、蛍光体を備えた導電性基板とを有することを特徴とする電界放出発光素子であり、具体的には、その電界放出発光素子を用いた電界放出型フラットパネルディスプレイ、電界放出型ランプである。
また、導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源に、電圧を印加する前及び/又は電圧を印加しながら、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射することを特徴とする冷陰極電子源の処理方法、電界放出の方法、更には、電界放出による発光方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、金属酸化物からなる電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射することにより、冷陰極電子源に印加する一定電圧の下で、より多くの電界放出電流が得られる。
また、本発明は、導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源に、電圧を印加する前及び/又は電圧を印加しながら、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射することにより、一定電圧の下で、より多くの電界放出電流が得られる。しかも、電子放出特性の安定性、信頼性等も十分確保できる。
このため、前記の冷陰極電子源を用いた電界放出発光素子では、一定電圧の下で多くの電界放出電流が流れることにより、より一層高輝度のものが得られ、更には、大面積化にも容易に対応することができ、電界放出型フラットパネルディスプレイ、電界放出型ランプ等に応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、導電性基板の上に金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源を製造する方法において、いずれかの段階で電子放出材料となる金属酸化物に少なくとも紫外光を含む光を照射する工程を含むことを特徴とする冷陰極電子源の製造方法である。
【0010】
電子放出材料となる金属酸化物に少なくとも紫外光を含む光を照射する工程は、例えば下記の(1)〜(3)の段階の少なくとも一つの段階で行うことができる。光照射の効率の観点から(2)又は(3)が好ましく、(3)がより好ましい。照射する光は、波長400nm以下の紫外光を含んでいればよく、そのほかに可視光や赤外光等を含んでいてもよい。光の照射強度、照射時間等は適宜設定することができる。具体的には、照射強度は、電子放出材料1cm当たり、1×10−6〜1×10W程度が適当である。また、照射時間は(1)、(2)の場合は1分〜10時間程度が適当である。更に、(3)の場合は、電界放出の一時期あるいは電界放出の全時間に、断続的にあるいは継続的に適宜行うことができる。金属酸化物に少なくとも紫外光を含む光を照射すると一定電圧の下で多くの電界放出電流が得られる理由は明確ではないが、金属酸化物自身が伝導性を持ったり、金属酸化物の光触媒作用により表面に付着した物質を分解・除去したりすることが影響していると考えられる。
(1)電子放出材料となる金属酸化物を製造する段階
(2)導電性基板の上に金属酸化物からなる電子放出材料を含む電子放出部を形成する工程の後、電子放出材料を後述の活性化処理する前の段階、活性化処理を行っている段階、あるいは、活性化処理した後の段階
(3)導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を含む電子放出部を有する冷陰極電子源を作製した後に、冷陰極電子源に電圧を印加する前の段階、あるいは、電圧を印加している段階
【0011】
冷陰極電子源は、導電性基板及びその上に形成された電子放出材料を含む電子放出部を有する。本発明では、電子放出材料は電子放出特性を有する公知の金属酸化物を用いることができ、例えば、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化ケイ素などを用いることができる。金属酸化物は従来公知の方法で作製することができ、前記の(1)の段階で少なくとも紫外光を含む光の照射を行う場合には、金属酸化物を製造した段階あるいは金属酸化物の製造工程中、例えば製造反応工程、乾燥工程、焼成工程、粉砕工程の各段階のいずれかで少なくとも紫外光を含む光を照射することができる。金属酸化物のうち、酸化チタン、酸化錫が電子放出特性に優れ、しかも安価に製造することができるため好ましい。酸化チタンはその結晶形としてルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型のものが知られているが、何れの結晶形でも用いることができる。また、酸化錫も何れの結晶形でも用いることができる。
【0012】
金属酸化物の粒子形状は針状、棒状、柱状、板状、ナノチューブ、ナノワイヤ等の異方形状のものが好ましく、針状のものがより好ましいが、粒状等の異方性の小さな形状のものでも構わない。また、粒子の大きさにも特に制限はなく、数nm〜30μmの範囲のものを用いることができる。針状酸化チタン、針状酸化錫は電子放出特性に優れ、しかも安価に製造することができるため好ましい。針状酸化チタンは公知のものを用いることができるが、平均短軸径0.1〜1.0μm、平均長軸径1.0〜15.0μmであって、軸比(長軸径/短軸径)が10〜20の範囲が好ましい。針状酸化錫は公知のものを用いることができるが、その粒子径は平均短軸径0.005〜0.050μm、平均長軸径0.1〜5.0μmであって、軸比(長軸径/短軸径)が20〜100の範囲が好ましい。前記の針状酸化チタン、針状酸化錫には、針状の他、棒状あるいは柱状と呼ばれる形状を包含する。
【0013】
また、金属酸化物は、導電性を有する材料が好ましく、針状導電性酸化チタン及び/又は針状導電性酸化錫が更に好ましい。前記の針状導電性酸化チタン、針状導電性酸化錫には、針状の他、棒状あるいは柱状と呼ばれる形状を包含する。導電性の指標として体積抵抗を用いると大きくとも1000Ωcmである範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜100Ωcmの範囲が好ましい。導電性酸化チタンは、二酸化チタンに導電処理を施したものであって、例えば、低次酸化チタン、酸窒化チタンや、アンチモン含有酸化錫、リン含有酸化錫等の導電被覆層を有する酸化チタン等の公知のものを用いることができ、針状導電性酸化チタンは、針状二酸化チタンに導電処理を施したものである。針状導電性酸化チタンの粒子径は、平均短軸径0.1〜1.0μm、平均長軸径1.0〜15.0μmであって、軸比(長軸径/短軸径)が10〜20の範囲が好ましい。また、導電性酸化錫は、前記の酸化錫にアンチモン、リン等をドープした公知のものを用いることができ、針状導電性酸化錫は、前記の針状酸化錫を用いたものである。針状導電性酸化錫の粒子径は平均短軸径0.005〜0.050μm、平均長軸径0.1〜5.0μmであって、軸比(長軸径/短軸径)が20〜100の範囲が好ましい。
【0014】
次に、前記の金属酸化物からなる電子放出材料を含む電子放出部を導電性基板の上に形成し、必要に応じて活性化処理を行って冷陰極電子源とする。電子放出部を形成するには、電子放出材料を含む流動性組成物を導電性基板上に塗布する方法、電子放出材料を任意の溶液に分散し、この分散液に基板を沈めて静置することで、基板上に自然沈降させて堆積させる方法(沈降法)や、電気泳動堆積法等の公知の方法を用いることができるが、前記の流動性組成物を塗布する方法が簡便で好ましい。導電性基板としては、ITOガラス(インジウムドープ錫酸化物被覆ガラス)、金属Al板等の公知の材料を用いることができる。更に、公知のプラスチック、ガラス等の基板に、導電性酸化チタン、導電性酸化錫等の導電性金属酸化物やアルミニウム、金、銀、銅等の金属を成膜したものも導電性基板として用いることができ、このようなプラスチック基板はフレキシブルな用途に適用できるためより好ましい。
【0015】
流動性組成物を塗布する方法では、電子放出材料を任意の溶媒中に分散させて流動性組成物を調製する。流動性組成物とは、ペースト状態、インク状態、塗料状態、分散状態等の組成物を含み、塗布方法に応じて適した粘度に調整することができる。溶媒は特に限定されないが、例えば水、トルエン、テルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、アニソール、N−メチル−2−ピロリドン、n−ブタノール、イソプロパノール、アセトニトリルなどが用いられる。
【0016】
また、流動性組成物には、電子放出材料を溶媒に分散させるために分散剤を添加してもよく、粘度を調整して塗布性を向上するために樹脂を加えてもよい。このような樹脂としてはアクリル系樹脂、セルロース系樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの公知のものが幅広く利用できるが、熱処理による除去が必要であるので、比較的低温で分解するアクリル系樹脂やセルロース系樹脂などを用いることがより好ましい。樹脂の含有量は、塗布方法によって適した粘度が異なるため適宜調整される。また、組成物の導電性を向上させるため、金属微粒子や導電性カーボンなどの導電性物質を混合してもよい。これらの添加物は特に限定されず、通常の有機塗料を調製する際に用いるものを使用すればよく、添加割合も使用する電子放出材料の種類や量に応じて適宜設定することができる。
【0017】
また、流動性組成物には、固定化物質を添加することにより、電子放出部の電子放出材料の一部と基板とが固定化物質によって結着されて、電子放出部が動作中に帯電するなどして剥離することが防がれ、長時間安定した電界放出電流を与えることができるため好ましい。固定化物質としては、例えばガラスパウダーやコロイダルシリカ、アルキルシリケートなどのガラス組成物や、金属、金属酸化物、錯体のナノ粒子やゾルなどが挙げられ、ガラス組成物が好ましい。特にガラス組成物を用いる場合、添加量はSiO換算で、電子放出材料100重量部に対し1〜500重量部であることが好ましい。ガラスパウダーを用いる場合には軟化点が300〜600℃で平均粒子径が0.1〜5μmのものを用いることができる。電子放出材料と固定化物質の添加割合は特に限定されず、電子放出材料や固定化物質の種類に応じて適宜実験的に決定される。
【0018】
前記の流動性組成物の塗布方法は特に限定されず、スクリーン印刷、スプレー印刷、ディップ法、スピンコート法、ドクターブレード法、アプリケーター法等のいずれの方法を用いてもよい。スクリーン印刷やアプリケーター法などを用いる場合は比較的高粘度のものまで利用できるため、流動性組成物中の全固形分含有量、すなわち電子放出材料、固定化物質等の固形分合計の含有量は、流動性組成物中に1〜70重量%程度含有されていることが好ましい。一方、スプレー印刷などを用いる場合には低粘度のものが適用でき、流動性組成物中の全固形分が1〜30重量%程度含有されていることが好ましい。このように流動性組成物を塗布することにより、導電性基板上に電子放出材料を含む層を形成することができるが、塗布後に必要に応じて乾燥してもよく、活性化処理の前に予め樹脂等を除去するために、必要に応じて焼成してもよい。この焼成温度は適宜設定することができるが、例えば100〜1000℃が好ましく、より好ましくは200〜600℃である。焼成雰囲気としては、大気、窒素ガス等の不活性ガス、真空などが利用できる。
【0019】
電子放出材料を含む電子放出部を形成した後、前記の電子放出材料を活性化処理するのが好ましい。この活性化処理とは、電子放出部に所謂電子放出サイトを形成する処理であり、新たに電子放出に寄与する部位を形成することに加え、電子放出に寄与しない部位又は悪影響を及ぼす部位を取り除くことをも含む。ここで言う電子放出に寄与しない部位とは、例えば不純物、印加電界の方向と異なる方向に配列している電子放出材料、電界方向に配列していてもそれらが密で電界集中の妨げになっている電子放出材料などを指す。具体的には、活性化処理により、電子放出材料を層の表面に露出させたり、垂直配向させたり(起毛処理ともいう)、電子放出材料の疎領域と密領域を形成させることができる。このような活性化処理としては、前記の層表面に形成したポリイミド系フィルム等を剥離する処理、層表面に貼ったテープを剥がすテープピーリング処理、層を機械的に研磨する処理、層に電極面と垂直な方向の高電界を印加する処理、層へのレーザー光による照射処理等を適用することができ、それらの処理を2つ以上組み合わせてもよい。
【0020】
フィルムを形成し剥離する処理は、層の表面にポリイミド系高分子等のフィルム形成剤を含む塗料を塗布し、加熱して層表面にフィルムを形成した後に、必要に応じて加圧し、次に、フィルムを剥離する。また、テープピーリング処理は、層の表面にポリマー系テープを貼った後に、必要に応じて加圧し、次に、テープを剥離する。また、機械研磨処理は、研磨機で層表面を研磨する処理である。
【0021】
高電界印加処理は、前記の層を形成した導電性基板と、一定の距離を隔てて対向側に導電性基板を設置し真空封止した後、その間に高電界を印加する。この時の電界印加方向は特に指定されない。電界強度は、8V/μm以上が好ましく、より好ましくはパルス幅5〜2000μs、繰り返し周波数1〜1000Hzのパルス高電界である。誘電率の高い酸化チタンを電子放出材料として用いる場合、電界との相互作用をより強くできるため好ましい。さらに高電界印加処理において、微弱な放電を起こすことによっても、層の一部を剥離して微小な疎領域を得ることができる。印加時間は適宜設定することができる。
【0022】
レーザー光による照射処理は、前記の層にレーザー光を照射する処理であり、用いるレーザー光の波長は、好ましくは248nmのKrFエキシマレーザーである。また、レーザー光のエネルギー密度は10〜200mJ/cm、パルス幅は5〜20ns、パルスの繰り返し周波数は1〜100Hz、このときのパワー密度は0.1〜20MW/cm、より好ましくは0.7〜8.6MW/cm、さらに好ましくは、3〜7MW/cmである。照射時間は適宜設定することができる。
【0023】
前記の(2)の段階で少なくとも紫外光を含む光の照射を行う場合には、導電性基板の上に金属酸化物からなる電子放出材料を含む電子放出部を形成した後に、次のような順番で行うことができる。
(a)少なくとも紫外光を含む光の照射を行った後に前記の活性化処理を行う。
(b)前記の活性化処理を行っている段階に少なくとも紫外光を含む光の照射を行う。
(c)前記の活性化処理を行った後に、少なくとも紫外光を含む光の照射を行う。
【0024】
前記の(3)の段階で少なくとも紫外光を含む光の照射を行う場合には、導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源と、対極の導電性基板とを配置し真空封止する。少なくとも紫外光を含む光の照射は電圧を印加する前の段階及び/又は電圧を印加している段階で行うことができ、電圧を印加している段階の一時期あるいは電界放出の全時間に、断続的にあるいは継続的に適宜行うが好ましい。
【0025】
前記の(1)〜(3)のいずれかの段階で電子放出材料となる金属酸化物に少なくとも紫外光を含む光の照射を行って、本発明の冷陰極電子源を製造することができる。また、その冷陰極電子源を用いて、対極の導電性基板を配置し真空封止して、電界放出素子とすることができる。対極の導電性基板は、前記と同様にITOガラス(インジウムドープ錫酸化物被覆ガラス)、金属Al板等の公知の材料を用いることができる。この電界放出素子は、冷陰極電子源側をカソード電極とし、対極側をアノード電極とし、その間に電圧を印加すると、電子放出材料から電子線が放出される。電界放出素子に用いる電子放出材料は、前記の金属酸化物を用いることができるが、活性化処理された金属酸化物が好ましく、酸化チタンがより好ましい。更に、前記の冷陰極電子源と、対極の導電性基板と、その上に形成した蛍光体とを配置し真空封止して、電界放出発光素子とすることもできる。蛍光体としては、ZnO等公知のものを使用できる。また、蛍光体の導電性を確保し光の反射率を高めるために、蛍光膜表面は金属Alや金属Znなどの導電性の蒸着膜を備えていてもよい。その電界放出発光素子を用いて、電界放出型フラットパネルディスプレイ(FED)、電界放出型ランプ(FEL)とすることができる。FELは、駆動電圧、パルス幅の調整や、必要により電極間にゲート電極を構成することでランプの調光を容易に行うことができる。
【0026】
更に、別の発明として、少なくとも、導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源と、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射する光源とを備えて電界放出素子とすることができる。この電界放出素子には光源を備えているために、前記の(3)の段階で少なくとも紫外光を含む光を照射することができる。このため、前記の(1)、(2)のいずれかの段階で電子放出材料となる金属酸化物に少なくとも紫外光を含む光の照射を行ってもよいが、あえて紫外光を含む光の照射を行わなくてもよい。この電界放出素子に用いる電子放出材料は、前記の金属酸化物を用いることができるが、活性化処理された金属酸化物が好ましく、酸化チタンがより好ましい。更に、前記の冷陰極電子源と電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射する光源と対極の導電性基板と、その上に形成した蛍光体とを配置し真空封止して、電界放出発光素子とすることもできる。蛍光体としては、ZnO等公知のものを使用できる。また、蛍光体の導電性を確保し光の反射率を高めるために、蛍光膜表面は金属Alや金属Znなどの導電性の蒸着膜を備えていてもよい。その電界放出発光素子を用いて、電界放出型フラットパネルディスプレイ(FED)、電界放出型ランプ(FEL)とすることができる。FELは、駆動電圧、パルス幅の調整や、必要により電極間にゲート電極を構成することでランプの調光を容易に行うことができる。
【0027】
更に、別の発明として、(A)導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源に、電圧を印加する前及び/又は電圧を印加しながら、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射することにより、電子放出材料の電界放出電流を高める処理を行うことができる。また、同様に、(B)導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源に、電圧を印加する前及び/又は電圧を印加しながら、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射することにより、高い電界放出電流を得ることができる。更に、(C)導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材を有する冷陰極電子源と、蛍光体を備えた導電性基板とに電圧を印加する前及び/又は電圧を印加しながら、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射することにより、高い電界放出電流を得て、発光することができる。前記の(A)、(B)、(C)の方法において、少なくとも紫外光を含む光を照射する時期は、電界放出の一時期あるいは電界放出の全時間に、断続的にあるいは継続的に適宜行うのが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1
平均長軸径1.68μm、平均短軸径0.13μmの針状形状をした酸化チタン(FTL−100、石原産業製)を有機溶剤と有機系樹脂と混合してペースト化し、ITOガラス基板上に塗布した。ペーストには有機溶剤や有機系樹脂が含まれるため、窒素雰囲気中500℃で1時間焼成しこれを除去した。
得られた針状酸化チタンの層と125μmの間隔でITOガラス基板を平行に配置した。針状酸化チタン層をカソード電極、対向のITOガラス基板をアノード電極となるように電源を接続し10−5Paに真空封止した。得られた電極間に3.5kV、60Hz、1/100Duty Ratioのパルス高電界を5秒間印加して活性化処理を行った。このようにして、冷陰極電子源(試料A)を得た。
【0030】
この試料Aに電圧を印加すると電子放出が開始することが確認された。放出した電子による電流を測定したところ、1kVの時に2×10−5mA/cmであった。次に、光源としてブラックライトを用い、対向のITOガラス基板の上部から75μW/cmの紫外光を針状酸化チタンの層に照射すると、1.8×10−4mA/cmまで電流値が上昇した。しかも、紫外光の照射を停止しても、電流値が維持されることがわかった(図1参照)。この結果から、紫外光を含む光を照射することにより、電界放出素子において冷陰極電子源の電界放出電流を向上できることがわかった。
また、対向のITOガラス基板をZnO蛍光体が塗布されたITOガラス基板に取替え、同様に真空封止することで電界放出型発光素子(試料B)を得た。この試料Bに電圧を印加すると蛍光膜が発光し、電子放出が開始することが確認された。次に、光源としてブラックライトを用い、ZnO蛍光体が塗布されたITOガラス基板の上部から75μW/cmの紫外光を針状酸化チタンの層に照射すると、1.8×10−4mA/cmまで電流値が上昇した。しかも、紫外光の照射を停止しても、電流値が維持されることがわかった。この結果から、紫外光を含む光を照射することにより、電界放出発光素子において冷陰極電子源の電界放出電流を向上できることがわかった。
【0031】
この実施例から、本発明の冷陰極電子源は電界放出電流が向上していることから、本発明の冷陰極電子源は電界放出型フラットパネルディスプレイ(FED)及び電界放出型ランプ(FEL)等の発光素子に用いることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の冷陰極電子源は、一定電圧の下で多くの電界放出電流を得るできるため、電界放出素子、電界放出発光素子に好適に用いられ、具体的には、電界放出型フラットパネルディスプレイ、電界放出型ランプに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で得られた試料Aの電界放出電流を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板の上に金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源を製造する方法において、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射する工程を含むことを特徴とする冷陰極電子源の製造方法。
【請求項2】
導電性基板の上に金属酸化物からなる電子放出材料を形成する工程、次いで、前記の電子放出材料を活性化処理する工程と電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射する工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項3】
導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源に、電圧を印加する前及び/又は電圧を印加しながら、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射することを特徴とする請求項1に記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項4】
金属酸化物が、酸化チタンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法で製造された冷陰極電子源を用いることを特徴とする電界放出素子。
【請求項6】
少なくとも、導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源と、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射する光源とを有することを特徴とする電界放出素子。
【請求項7】
電子放出材料が、活性化処理された金属酸化物であることを特徴とする請求項5又は6に記載の電界放出素子。
【請求項8】
金属酸化物が、酸化チタンであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の電界放出素子。
【請求項9】
少なくとも、請求項5〜8のいずれか一項に記載の電界放出素子と、蛍光体を備えた導電性基板とを有することを特徴とする電界放出発光素子。
【請求項10】
請求項9に記載の電界放出発光素子を用いた電界放出型フラットパネルディスプレイ。
【請求項11】
請求項9に記載の電界放出発光素子を用いた電界放出型ランプ。
【請求項12】
導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源に、電圧を印加する前及び/又は電圧を印加しながら、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射することを特徴とする冷陰極電子源の処理方法。
【請求項13】
導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源に、電圧を印加する前及び/又は電圧を印加しながら、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射することを特徴とする電界放出の方法。
【請求項14】
導電性基板及びその上に形成された金属酸化物からなる電子放出材料を有する冷陰極電子源と、蛍光体を備えた導電性基板とに電圧を印加する前及び/又は電圧を印加しながら、電子放出材料に少なくとも紫外光を含む光を照射することを特徴とする電界放出による発光方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−135133(P2010−135133A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308352(P2008−308352)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】