説明

凝集沈殿装置

【課題】スラリブランケットを整流して処理水質を改善する。
【解決手段】沈殿槽10内で、被処理水中の懸濁物質および凝集フロックを沈降分離させると共に、槽内にスラリブランケット層を形成して被処理水を清澄化する。沈殿槽10内の上部に被処理水が導入される導入チャンバ16が設けられ、この導入チャンバ16の下方に被処理水を下端に設けられた吹き出し口24から下方に向かって吐出するディストリビュータ20を設ける。また、吹き出し口24に対向して、吹き出された被処理水を水平方向に拡散する阻流板26が設けられる。さらに、吹き出し口24の上方に、複数の整流板を含み、吹き出し口から槽内に導入された被処理水を整流する整流装置48を設ける。そして、整流装置48は、少なくとも一部がスラリブランケット層内に位置して、スラリブランケット層内の流れを整流する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、槽内で、被処理水中の懸濁物質および凝集フロックを沈降分離させると共に、槽内にスラリブランケット層を形成して被処理水を清澄化する凝集沈殿装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理装置の1つとして、凝集沈殿装置が知られており、用水処理、排水処理などに広く普及している。
【0003】
この凝集沈殿装置の中にスラリブランケットタイプのものがあり、例えば特許文献1に示されている。この凝集沈殿装置では、被処理水を槽内の下方に向かって吐出させる吹き出し口を有するディストリビュータを槽内で回転させる。また、吹き出し口の下方には、ディストリビュータと共に回転する阻流板を設けている。
【0004】
この装置によれば、被処理水を槽内へ均一に供給できるため、処理水の水質を向上することができる。また、槽下部の汚泥が撹拌されにくく、汚泥の濃縮性能が改善され引き抜き汚泥の固形物濃度を高く維持することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−184179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、スラリブランケットタイプの凝集沈殿装置では、スラリブランケットからの懸濁物質の流出を抑制することで処理水質が向上する。従って、スラリブランケットを懸濁物質捕集能力が十分で、懸濁物質の流出が少ないものにしたいという要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、槽内で、被処理水中の懸濁物質および凝集フロックを沈降分離させると共に、槽内にスラリブランケット層を形成して被処理水を清澄化する凝集沈殿装置であって、前記槽内の上部に配置され、被処理水が導入される導入チャンバと、このチャンバの下方に設けられ、前記導入チャンバに導入された被処理水を下端に設けられた吹き出し口から下方に向かって吐出するディストリビュータと、前記吹き出し口に対向して設けられ、前記吹き出し口から吹き出された被処理水を水平方向に拡散する阻流板と、前記吹き出し口の上方に配置され、複数の整流板を含み、吹き出し口から槽内に導入された被処理水を整流する整流装置と、前記スラリブランケット層の位置を所定位置に調整するスラリブランケット位置調整手段と、を有し、前記整流装置は、少なくとも一部がスラリブランケット層内に位置して、スラリブランケット層内の流れを整流することを特徴とする。
【0008】
また、前記ディストリビュータは、複数の吹き出し管を有し、この吹き出し管の下端に前記吹き出し口がそれぞれ設けられ、前記阻流板は、各吹き出し口に対向して設けられていることが好適である。
【0009】
また、前記ディストリビュータおよび阻流板は同期して回転することが好適である。
【0010】
また、前記整流装置は、前記スラリブランケット層内に少なくとも150mm存在することが好適である。
【0011】
また、前記整流装置の下端は、前記阻流板より少なくとも600mm以上離れていることが好適である。
【0012】
また、前記整流装置の複数の整流板は、それらの間隔が70mm以下で設置されていることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スラリブランケットの乱れを抑制することで、懸濁物質の流出を減少することができ、処理水質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る凝集沈殿装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る凝集沈殿装置の平面構成を示す図である。
【図3】実施形態に係る凝集沈殿装置の要部の斜視図である。
【図4】傾斜板装置の構成例を示す図である。
【図5】傾斜板装置の他の構成例を示す図である。
【図6】傾斜板装置のさらに他の構成例を示す図である。
【図7】傾斜板装置のさらに他の構成例を示す図である。
【図8】処理フローを示す図である。
【図9】実験例1−1の結果を示す図である。
【図10】実験例1−2の結果を示す図である。
【図11】実験例2の結果を示す図である。
【図12】実験例3の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本実施形態の凝集沈殿装置は本発明を実施する一例であって、本発明がこれに限定されるものではない。
【0016】
図1は、実施形態に係る凝集沈殿装置の構造の一例を示す模式図、図2は平面構成を示す模式図、図3は要部の斜視模式図である。
【0017】
沈殿槽10は、底部がすり鉢状のホッパ部12となった円筒状の槽体である。沈殿槽10の上部には、側方より中央部まで伸びる流入路14が設けられている。凝集剤が添加混合された被処理水がこの流入路14を介し流入されてくる。流入路14には、縦方向に伸びる円筒状の導入チャンバ16が接続されており、被処理水はこの導入チャンバ16に流入する。導入チャンバ16は、上端が水面上に出ており、被処理水を導入チャンバ16内に限定する導入チャンバとして機能する。
【0018】
導入チャンバ16の底部は、下に向かって内径が徐々に小さくなっており、下端部には、垂直方向に伸びる円筒状の内筒18が接続されており、なお、導入チャンバ16の底面は水平面で形成してもよい。内筒18の下端には、ディストリビュータ20が接続されている。このディストリビュータ20は、内筒18の下端から斜め下外方に向けて伸びその後下方に向けて伸びる複数の吹き出し管22を有しており、複数の吹き出し管22の下端が吹き出し口24になっている。ここで、吹き出し管22の本数に制限はないが、通常2〜4本程度を等間隔に配置するのがよい。なお、図3では、吹き出し管22を2本有する例を示してある。
【0019】
このような構成により、導入チャンバ16に流入した被処理水は、内筒18、吹き出し管22を介し、吹き出し口24から沈殿槽10内に放出される。なお、この吹き出し口24は、例えば沈殿槽10内の下から1/3程度の高さの位置に配置される。
【0020】
吹き出し口24に対向する直下の位置には、阻流板26が設けられている。この阻流板26は、吹き出し口24より大きな水平方向の板であり、吹き出し口24から吹き出される被処理水の流れの方向を変え、水平方向に拡散させる。ここで、阻流板26は、被処理水の下方への直接的な流下を阻むことができれば、どのような形状でもよいが、円板など製作が容易なものが好ましい。また、阻流板26は、吹き出し口24の中心と同一の中心を有することが好適である。
【0021】
沈殿槽10のホッパ部12上には、汚泥掻き寄せ機28が設けられている。この汚泥掻き寄せ機28は、掻き寄せ羽根を有し、これをホッパ部12で移動することで、ホッパ部12上に堆積する沈殿汚泥を中央側に掻き寄せる。沈殿槽10の底部の中央の最深部分には、円筒状の汚泥溜まり部30が設けられており、汚泥掻き寄せ機28によって掻き寄せされた汚泥が、この汚泥溜まり部30に集められる。
【0022】
ここで、沈殿槽10の中心には、底部から水面上に伸びる回転軸32が配置され、この回転軸がモータ・減速機34によって、回転される。回転軸32には、汚泥掻き寄せ機28と、ディストリビュータ20が固定されており、従って、ディストリビュータ20と、汚泥掻き寄せ機28が一緒に回転する。さらに、阻流板26は、その下方の汚泥掻き寄せ機28に固定されているため、阻流板26もディストリビュータ20と一緒に回転する。従って、ディストリビュータ20が回転しても、阻流板26は、常に吹き出し口24の下方に位置する。なお、内筒18、導入チャンバ16もディストリビュータ20に固定されているので一緒に回転するが、いずれかの接続部分において相対回転するようにしておけば、内筒18、導入チャンバ16は回転しなくてもよい。導入チャンバ16が回転する場合には、流入路14は導入チャンバ16の上方から被処理水を導入チャンバ16内に注入すればよい。
【0023】
汚泥溜まり部30には、排泥管36が接続され、この排泥管36には、排泥ポンプ38、排泥弁40が設けられている。従って、排泥弁40を開いた状態で、排泥ポンプ38を駆動することによって、所定量の汚泥が沈殿槽10から排出される。
【0024】
さらに、沈殿槽10の上部の周辺部には、流出路42が設けられている。この流出路42は沈殿槽10上部の周辺全体に設けてもよいし、一部のみでもよい。流出路42と沈殿槽10の液面部との間には越流堰が設けられており、越流堰を越えた上澄み水が処理水として流出路42に流入する。流出路42の底部には、流出管44が接続されており、この流出管から処理水が系外に排出される。
【0025】
さらに、沈殿槽10の上部には、超音波式の汚泥界面計46が配置されている。この汚泥界面計46は、沈殿槽10内の汚泥(スラリブランケット)界面を計測するものであって、計測した汚泥界面に応じて、制御装置(図示省略)が排泥ポンプ38、排泥弁40を制御して、沈殿槽10からの汚泥排出を制御する。特に、本実施形態では、沈殿槽内の汚泥界面がほぼ一定値になるように、汚泥排出を制御する。なお、汚泥界面計46は、超音波式でなく、光学的に計測するものなどでもよい。
【0026】
そして、本実施形態においては、ディストリビュータ20の若干上に、整流装置を形成する傾斜板装置48が、図2に示すように、内筒18の周囲の全面を覆うように設けられている。従って、ディストリビュータ20の吹き出し口24から沈殿槽10に流入した被処理水は傾斜板装置48を通過してから上澄み水として排出される。
【0027】
特に、本実施形態では、沈殿槽10へ流入する被処理水は、凝集剤の添加によって懸濁物質が凝集された凝集フロックを含んでいる。そして、このような被処理水が沈殿槽10内を上向流で流れるため、沈殿槽10内にはスラリブランケットが形成される。図示の例では、スラリブランケットの界面位置が傾斜板装置48より上方になるように排泥を制御している。従って、傾斜板装置48は、スラリブランケット内に位置して、スラリブランケット内における乱流を抑制し、整流する。
【0028】
ここで、傾斜板装置48は、複数の傾斜板(整流板)から構成されており、例えば図4〜図7に示したものが採用できる。図4は、単なる平板を所定間隔で配置したものであり、間隔70mm、高さ150mm、水平方向に対する傾斜板角度60度のものを示している。図5は、くの字型(2つ折り)に折り曲げた傾斜板を所定間隔で配置したものを示している。この例も、間隔70mm、高さ150mm、水平方向に対する傾斜板角度60度であり、上下部分の間の角度は120度である。さらに、図6に示すように、3つ折り(図5に対しもう1枚追加した形)板を所定間隔で配置したもの、図7に示すような山形のものなど、各種のものを採用することが可能である。
【0029】
本実施形態における凝集沈殿装置は、凝集処理を施し、フロックを形成させたものであれば、いかなる水でも被処理水となる。例えば、半導体工場からのフッ素含有排水、河川水、湖沼水などが挙げられる。
【0030】
例えば、図8に示すように、原水を無機凝集反応槽1に導入し、無機凝集剤を添加混合して凝集フロックを形成し、これを必要に応じて高分子凝集反応槽2に導入し高分子凝集剤を添加して凝集フロックを粗大化したものが被処理水として沈殿槽10に導入される。
【0031】
すなわち、このような被処理水が図1に示す流入路14から導入チャンバ16内に流入し、ここに滞留する。そして、内筒18を介しディストリビュータ20の吹き出し口24から下方に向けて吹き出され、阻流板26によって水平方向に拡散される。そして、阻流板26の上方の上向流部分にスラリブランケットが形成され、これを通過し得られた上澄み液が処理水として排出される。一方、阻流板26から下方の部分が汚泥濃縮領域となり、ここにおいて凝集フロックなどが沈降濃縮され、高濃度の汚泥が汚泥溜まり部30に得られる。
【0032】
そして、上述したように、スラリブランケットの界面位置は、沈殿槽10の上部に設けられた汚泥界面計46によって常時計測されており、排泥の制御によって界面位置が所定位置に制御される。例えば、スラリブランケットの界面位置が所定位置を超えて上昇した場合には、排泥弁40を開き、排泥ポンプ38を駆動して自動で排泥される。この排泥は、一定の時間間隔で、間欠的に行われ、界面位置が所定位置以下に至るまで行われる。これによって、界面位置が上限位置に至った場合に排泥が開始し、界面位置を下限位置にまで、下降させることができ、汚泥界面位置は上下限内に制御される。排泥を行う時間間隔は任意に設定が可能であるが、180秒毎に10秒間の排泥を行うなど比較的頻繁に行うのがよい。
【0033】
スラリブランケットの界面の制御位置は、任意に設定可能であるが、被処理水の性状の変化によって、スラリブランケットを構成するフロックの性状に変化が生じることがあり、これによって界面の急降下、急上昇が起こることもあり得る。そこで、このような界面の変動に対する緩衝能を持たせるため、阻流板26の上方1000〜1500mmの位置に設定するのが望ましい。また、懸濁物質の越流を確実に防止するために、水面より1000mm以上下方であることが望ましい。
【0034】
ここで、本実施形態では、傾斜板装置48は、スラリブランケット内の凝集フロックの沈降を促進することを目的としている。特に、傾斜板装置48によって、吹き出し口24から流出した被処理水による乱流を整え、スラリブランケット界面の乱れを低減する。従って、傾斜板装置48は、少なくとも一部がスラリブランケット内に位置する必要がある。
【0035】
「傾斜板装置の構成についての検討」
このような傾斜板装置の構成について、各種実験を行った。これらの実験について、以下に説明する。
【0036】
<実験の基本情報>
まず、実験時の基本情報は次の表1の通りである。
【表1】

【0037】
ここで、PACは無機凝集剤であるポリ塩化アルミニウム、ポリマーは高分子凝集剤としてのポリアクリルアミドである。
【0038】
「実験1−1:傾斜板装置取り付け位置、高さに関する検討」
<実験方法>
実験1−1では、傾斜板装置48の取り付け位置、高さに関する検討を行う。用いた傾斜板装置48は平らな板(以後、平板型と称す)で構成されたものである。傾斜板装置48の高さ:300mm、傾斜板間隔:70mm、傾斜板の水平に対する角度:60度とした。
【0039】
なお、本実験に関わらず、傾斜板装置48は内筒18を除き可能な限り満遍なく沈殿槽10の水平断面を覆うように取り付けた。
【0040】
ブランケット界面位置を一定に保ちながら、取り付け位置を様々に変更し、各条件での処理水SSを測定した。
【0041】
ここで、傾斜板取り付け位置はブランケット界面から傾斜板装置48の上端までの変位で示す(ブランケット界面制御位置を0として、鉛直上方向を正としている)。
【0042】
<結果>
結果は、図9に示す通りである。このように、傾斜板装置48のうち、ブランケット内に存在する部分の高さが150mm以上になったところから処理水SSが急激に減少した。また、それ以上ブランケット内に沈めても処理水SSに変化は無く、やはり良好であった。これより、傾斜板装置48の高さは、少なくとも150mmあるとよく、スラリブランケット内の傾斜板装置の高さは150mm以上あれば良いことがわかった。
【0043】
「実験1−2:傾斜板位置の検討」
<実験方法>
次に、傾斜板装置48の高さの下限値である高さ150mmの傾斜板装置48にて、ブランケット内における傾斜板装置48の設置位置の検討を行った。用いた装置は、装置高さ:150mm、傾斜板間隔:70mm、傾斜板角度:60度である。
【0044】
傾斜板装置48の取り付け位置をブランケット内で様々に変化させた。ここで、傾斜板装置48の取り付け位置は阻流板26から傾斜板装置48の下端までの距離である。
【0045】
<結果>
結果を図10に示す。このように、傾斜板装置48を阻流板26、すなわちディストリビュータの吹き出し口24に近づけるほど、処理水SSが増加する傾向が認められた。特に、阻流板26から傾斜板装置48の下端までの距離が600mmを下回ると処理水SSが増加する。これは、吹き出し口24からの噴流の影響を強く受け、十分に整流効果が発揮できなかったことによるものと考えられる。
【0046】
よって、阻流板26から装置下端までの距離は600mm以上であることが好ましいといえる。
【0047】
「実験1の結論」
(i)傾斜板装置48の高さは150mm以上、かつブランケット内に装置の一部が150mm以上存在していることが好ましい。
(ii)阻流板26から装置下端までの距離は600mm以上が好ましい。
【0048】
「実験2:板間隔検討実験」
傾斜板装置48を構成する傾斜板同士の間隔の広狭が処理水質に及ぼす影響を評価し、適切な間隔を見出すことを目的とする。
【0049】
<実験方法>
傾斜板装置48の取り付け位置は実験1より求められた最適取り付け位置(ブランケット界面制御位置より150mm下方に傾斜板装置上端が来る位置=阻流板26から装置下端までの距離が1200mm)に固定した。
【0050】
その他、傾斜板装置48の仕様を、傾斜板間隔10〜150mm、装置高さ150mm、傾斜板角度60度として、傾斜板間隔のみを変更させ、変更毎に処理水SSを測定した。
【0051】
<結果>
結果を図11に示す。このように、傾斜板間隔10〜70mmで非常に良好な処理水が得られた。一方、傾斜板間隔90mm以上では処理水中のSSが増加した。これは、傾斜板装置の整流効果が低減し、界面の乱れを抑制できず処理水SSが増加したものと考えられる。
【0052】
これより、傾斜板間隔は、70mm以下が好ましいといえる。
【0053】
「実験3:板角度検討」
傾斜板装置48を構成する傾斜板の、水平面に対する角度の大小が処理水質に及ぼす影響を評価した。
【0054】
<実験方法>
傾斜板装置48の取り付け位置は、実験1より求められた最適取り付け位置(ブランケット界面制御位置より150mm下方に傾斜板装置48の上端が来る位置)にて固定した。その他、傾斜板装置48の仕様を高さ150mm、傾斜板間隔70mmとして、傾斜板角度のみ15度〜90度の範囲で変更し、変更毎に処理水SSを測定した。なお、傾斜板が垂直時(90度)の板間隔に関する検討を行うため、傾斜板間隔は許容最大値である70mmとした。
【0055】
<結果>
結果を図12に示す。このように、実験を行った傾斜板角度15度〜90度の全範囲で非常に良好な処理水が得られた。他条件と比較して整流効果が弱まるであろうと考えられた90度での実験においても処理水SSは問題なく除去された。
【0056】
従って、傾斜板角度は、どのような角度でもよいと考えられる。
【0057】
「実験4:傾斜板装置48の構造に関する検討」
以上の実験結果を元に、傾斜板装置48の形状に関する検討を行った。用いた傾斜板装置48の構成傾斜板の仕様は以下の通りである。
a)平板型(図4)
傾斜板装置高さ:150mm
傾斜板間隔:70mm
傾斜板角度:60度
b)くの字型(図5)
傾斜板装置高さ:150mm
傾斜板間隔:70mm
傾斜板角度:60度
なお、取り付け位置は、a),b)ともにブランケット界面制御位置より150mm下方に傾斜板装置の上端が来る位置とした。
【0058】
<結果>
両装置形状における処理水SSを比較した。
【0059】
平板型ではSS:0.3mg/L、くの字型ではSS:0.4mg/Lであった。このように、両形状とも処理水SSに変化はなく、非常に良好に処理可能であった。傾斜板装置の構成傾斜板形状は複雑であればより整流効果を生じ、通常の平板型よりも良好な処理水質が得られるものと思われていたが、実際には平板型以上に良好になることはなかった。よって、傾斜装置の構成傾斜板の形状を選定する際には平板型でよい。なお、図6のような三角波型や、図7のような逆V字型のような形状でもよい。
【0060】
「傾斜板装置についての結論」
以上の実験結果より、傾斜板装置48の構成については、次のようなことがいえる。
・装置高さは150mm、かつブランケット内に装置の一部が150mm以上存在していることが好ましい。
・阻流板26から装置下端までの距離は600mm以上が好ましい。
・傾斜板装置48の構成傾斜板間の間隔は70mm以下であることが好ましい。なお、傾斜板間隔が、あまり狭いと装置としてコストが高くなり、また水面積が小さくなってしまう。そこで、傾斜板の厚さにもよるが、水面積を20%以下としないような範囲とすることが好適である。
・傾斜板装置48の構成傾斜板の角度は限定されない。
・傾斜板の形状による処理水質の差は認められなかった。
【実施例】
【0061】
本発明の実施形態による装置(実施例)と、傾斜板装置48を取り付けない装置(比較例1)と、傾斜板装置48をスラリブランケットの界面上方に設置した装置(比較例2)を使用して実験を行った。
【0062】
<実験装置説明>
実施例および比較例1,2の凝集沈殿処理装置は、図8に示すように、無機凝集反応槽1、高分子凝集反応槽2、および沈殿槽10を備える。懸濁物質を含む原水は、まず無機凝集反応槽1に導入され、ここでpH調整用の塩酸、水酸化ナトリウムおよび無機凝集剤としてのポリ塩化アルミニウム(PAC)を添加し、懸濁物質を凝集する。無機凝集反応槽1からの凝集フロックを含む処理液は、高分子凝集反応槽2に導入され、ここで、凝集フロックの粗大化が図られる。そして、凝集フロックを含む処理液が沈殿槽10に導入され、ここで沈殿処理される。
【0063】
この沈殿槽として、上述したスラリブランケットタイプのものであり、上述したように、実施形態による装置(実施例)と、傾斜板装置を取り付けない装置(比較例1)と、傾斜板装置をスラリブランケットの界面上方に設置した装置(比較例2)の3種類を採用し、それぞれ別個に処理を行った。傾斜板装置の有無、設置位置以外はすべて同一の構造であり、汚泥界面の測定による自動排泥も同様に行った。
【0064】
なお、実施例および比較例2における傾斜板装置48は、1枚の傾斜板が水平面となす角度は60度、装置高さは400mm、傾斜板間の間隔は、70mmとした。また、実施例において、傾斜板装置48は、スラリブランケットの界面制御位置より300mm下方にその上端が位置するようにスラリブランケット内に埋没するように設置した。また、傾斜板装置48は、沈殿槽10の水平断面に可能な限りまんべんなく傾斜板が配置されるように設置した。
【0065】
<装置仕様>
無機凝集反応槽:1m(機械撹拌)
高分子凝集反応槽:1m(機械撹拌)
沈殿槽:3.5m(直胴部高さ3m、有効面積1.0m
<実験条件>
原水:地下水にカオリンを50mg/Lとなるように懸濁させた模擬排水
無機凝集剤(PAC):100mg/L
高分子凝集剤(ポリアクリルアミド):1mg/L
通水量:6m/h(線速度(LV):6m/h)
原水を各系列へ原水槽より均等に分配した。各系列とも、ブランケットを阻流板より1.5mの位置にて安定させてから実験を開始し、開始後24時間後の処理水を採取し、処理水中のSSと、微粒子数の計測を行った。また、原水として用いた地下水は、ろ過されたものであり、SSは含まれていない。水温は、約20℃前後で安定しており、その他水質についても実験期間中は有意の変化はなかった。また、実験期間中、スラリブランケット界面高さは、阻流板26から1.5m程度の位置で安定していた。
【0066】
<結果>
各実験におけるSS測定結果、および微粒子数測定結果を表2に示す。
【表2】

【0067】
「実施例」
SSは比較例と比較して最も低い値を示し、SS除去能力の高さが確認できた。
【0068】
微粒子数では、全粒径で比較例での結果を下回った。また、実施例では比較例2で十分に除去できなかった3μm以下の粒子も十分に除去することができた。すなわち、実施例のように、スラリブランケット内に傾斜板装置48を設けた場合には、処理水の越流部に取り付けたときには十分に除去されなかった比較的小さな粒子群も除去が可能であり、良好な処理水が得られることが確認された。
【0069】
このような結果が得られたのは、
(i)スラリブランケット表層部が整流され、スラリブランケット界面の乱れが低減され、微細フロックの脱離が抑制された。
(ii)傾斜板装置により、吹き出し口24から噴出された水の上昇が阻まれ、傾斜板装置48以下のスラリブランケット内で水が滞留することで、フロックの接触効率が高まり、フロックの成長、微細フロックの吸収合一化が促進された。
などが理由と考えられる。
【0070】
「比較例1」
SSは、実施例、比較例2と比較して最も高い値を示した。また、微粒子数においても一番高い値を示した。
【0071】
「比較例2」
SSは、比較例1よりも低い値を示したが、実施例と比較して高い値を示した。また、微粒子数においても比較例1より低い値を示したが、実施例と比較した場合には、3μm以上の比較的大きい粒子は実施例と同程度まで除去できているが、3μm以下の微粒子数では実施例より高い値を示した。
【符号の説明】
【0072】
1 無機凝集反応槽、2 高分子凝集反応槽、10 沈殿槽、12 ホッパ部、14 流入路、16 導入チャンバ、18 内筒、20 ディストリビュータ、22 吹き出し管、24 吹き出し口、26 阻流板、28 汚泥掻き寄せ機、30 汚泥溜まり部、32 回転軸、34 モータ・減速機、36 排泥管、38 排泥ポンプ、40 排泥弁、42 流出路、44 流出管、46 汚泥界面計、48 傾斜板装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽内で、被処理水中の懸濁物質および凝集フロックを沈降分離させると共に、槽内にスラリブランケット層を形成して被処理水を清澄化する凝集沈殿装置であって、
前記槽内の上部に配置され、被処理水が導入される導入チャンバと、
このチャンバの下方に設けられ、前記導入チャンバに導入された被処理水を下端に設けられた吹き出し口から下方に向かって吐出するディストリビュータと、
前記吹き出し口に対向して設けられ、前記吹き出し口から吹き出された被処理水を水平方向に拡散する阻流板と、
前記吹き出し口の上方に配置され、複数の整流板を含み、吹き出し口から槽内に導入された被処理水を整流する整流装置と、
前記スラリブランケット層の位置を所定位置に調整するスラリブランケット位置調整手段と、
を有し、
前記整流装置は、少なくとも一部がスラリブランケット層内に位置して、スラリブランケット層内の流れを整流することを特徴とする凝集沈殿装置。
【請求項2】
請求項1に記載の凝集沈殿装置であって、
前記ディストリビュータは、複数の吹き出し管を有し、この吹き出し管の下端に前記吹き出し口がそれぞれ設けられ、
前記阻流板は、各吹き出し口に対向して設けられていることを特徴とする凝集沈殿装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の凝集沈殿装置であって、
前記ディストリビュータおよび阻流板は同期して回転することを特徴とする凝集沈殿装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の凝集沈殿装置であって、
前記整流装置は、前記スラリブランケット層内に少なくとも150mm存在することを特徴とする凝集沈殿装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の凝集沈殿装置であって、
前記整流装置の下端は、前記阻流板より少なくとも600mm以上離れていることを特徴とする凝集沈殿装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の凝集沈殿装置であって、
前記整流装置の複数の整流板は、それらの間隔が70mm以下で設置されていることを特徴とする凝集沈殿装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−125716(P2012−125716A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280217(P2010−280217)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)