説明

凝集沈殿装置

【課題】阻流板上への汚泥の堆積を抑制し、吹き出し口の閉塞を抑制することができる凝集沈殿装置を提供する。
【解決手段】沈殿槽10内で、被処理水中の懸濁物質、凝集フロックを沈降分離させ、スラリブランケット層を形成して被処理水を清澄化する凝集沈殿装置1であって、沈殿槽10内に設置され、被処理水が導入されるチャンバ12と、チャンバ12の下端部に回転可能に配置され、チャンバ12内の被処理水を沈殿槽10内の下方に向かって吐出する吹き出し口22が形成されている吹き出し管20を有するディストリビュータ14と、吹き出し口22の下方に設置され、ディストリビュータ14と共に回転する阻流板16と、吹き出し口22と阻流板16との間を通過するように沈殿槽10内に固定された堆積抑制装置18と、を備える凝集沈殿装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈殿槽内で、被処理水中の懸濁物質、凝集フロック等を沈降分離させ、スラリブランケット層を沈殿槽内に形成して被処理水を清澄化する凝集沈殿装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理装置の1つとして、凝集沈殿装置が知られており、用水処理、排水処理などに広く普及している。排水処理や用水処理等において、懸濁物質等を多く含む被処理水を処理対象とする場合には、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム系凝集剤、塩化第二鉄等の鉄系凝集剤等を添加して、被処理水中の懸濁物質をフロック化させて、沈降分離を行う凝集沈殿装置が用いられる。このような凝集沈殿装置の中にスラリブランケットタイプのものがある(例えば特許文献1参照)。この凝集沈殿装置では、沈殿槽内で、被処理水を槽内の下方に向かって吐出させる吹き出し口を有するディストリビュータを槽内で回転させる。また、吹き出し口の下方には、ディストリビュータと共に回転する阻流板が設けられている。
【0003】
この装置によれば、被処理水を沈殿槽内へ略均一に供給できるため、処理水の水質を向上することができる。また、阻流板によって、吹き出し口から噴出された被処理水が直接、沈殿槽底部へ流下することが防がれるため、沈殿槽底部に堆積した汚泥が撹拌されにくく、汚泥の濃縮性能が改善され、引き抜き汚泥の固形物濃度を高く維持することが可能になる。
【0004】
このような凝集沈殿装置によれば、清澄な処理水と、濃縮度の高い汚泥を得ることが可能であった。しかし、被処理水の性状によっては非常に高濃度で粘度の高い汚泥が形成され、被処理水の通水停止後にスラリブランケットとして阻流板より上方を浮遊していたこれらの汚泥が、阻流板上に堆積し、阻流板直上に設けられた吹き出し口の周辺に固着することで吹き出し口が閉塞され、吹き出し口からの被処理水の吐出が困難になるという事象がしばしば確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−184179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、阻流板上への汚泥の堆積を抑制し、吹き出し口の閉塞を抑制することができる凝集沈殿装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、沈殿槽内で、被処理水中の懸濁物質、凝集フロックを沈降分離させ、スラリブランケット層を形成して被処理水を清澄化する凝集沈殿装置であって、前記沈殿槽内に設置され、前記被処理水が導入されるチャンバと、前記チャンバの下端部に回転可能に配置され、前記チャンバ内の被処理水を前記沈殿槽内の下方に向かって吐出する吹き出し口が形成されている吹き出し管を有するディストリビュータと、前記吹き出し口の下方に設置され、前記ディストリビュータと共に回転する阻流板と、前記吹き出し口と前記阻流板との間を通過するように前記沈殿槽内に固定された堆積抑制装置と、を備える凝集沈殿装置である。
【0008】
また、前記凝集沈殿装置において、前記堆積抑制装置が、沈殿槽内壁への固定部と汚泥干渉部とを有し、前記汚泥干渉部が20mm以上150mm以下の高さを有する板状部材または円柱状部材から構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、吹き出し口と阻流板との間を通過するように沈殿槽内に固定された堆積抑制装置を備えることにより、阻流板上への汚泥の堆積を抑制し、吹き出し口の閉塞を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る凝集沈殿装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る凝集沈殿装置における堆積抑制装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る凝集沈殿装置における堆積抑制装置の他の例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係る凝集沈殿装置における沈殿槽上方からの断面模式図および堆積抑制装置の取り付け至適範囲を示す図である。
【図5】本発明の実施例におけるフローを示す図である。
【図6】本発明の実施例および比較例で用いた凝集沈殿システムを示す概略構成図である。
【図7】本発明の実施例で用いた堆積抑制装置を示す概略構成図である。
【図8】本発明の実施例における堆積抑制装置取り付け部を示す鉛直断面図である。
【図9】本発明の実施例における堆積抑制装置取り付け部を示す水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る凝集沈殿装置の構成の一例を示す概略図である。凝集沈殿装置1は、沈殿槽10と、沈殿槽10内に設置され、被処理水が導入されるチャンバ12と、チャンバ12の下端部に回転可能に配置され、チャンバ12内の被処理水を沈殿槽10内の下方に向かって吐出する吹き出し口22が形成されている吹き出し管20を有するディストリビュータ14と、吹き出し口22の下方に設置され、ディストリビュータ14と共に回転する阻流板16と、吹き出し口22と阻流板16との間を通過するように沈殿槽10内に固定された堆積抑制装置18とを備える。
【0013】
沈殿槽10は、例えば、底部がすり鉢状のホッパ部29となった円筒状等の槽体である。沈殿槽10の上部には、側方より中央部まで伸びる流入路24が設けられている。例えば凝集剤が添加混合された被処理水がこの流入路24を介し流入される。流入路24には、縦方向に伸びる筒状のチャンバ12が接続されており、被処理水はこのチャンバ12に流入される。チャンバ12は導入チャンバ26および内筒管27から構成され、導入チャンバ26の上端が水面上に出ており、被処理水をチャンバ12内に限定する導入チャンバとして機能する。
【0014】
導入チャンバ26の底部は、下に向かうにつれ内径が徐々に小さくなっており、下端部には、垂直方向に伸びる円筒状等の内筒管27が接続されている。なお、導入チャンバ26の底部は水平面で形成されてもよい。内筒管27の下端部には、ディストリビュータ14が接続されている。このディストリビュータ14は、内筒管27の下端部から斜め下外方に向けて伸び、その後、下方に向けて伸びる複数の吹き出し管20を有しており、複数の吹き出し管20の下端が吹き出し口22になっている。ここで、吹き出し管20の本数に特に制限はないが、通常2〜4本程度を沈殿槽10の水平面の円周に沿って等間隔に配置するのがよい。
【0015】
吹き出し口22に対向する直下の位置には、阻流板16が設けられている。この阻流板16は、吹き出し口22の径よりも大きな径を有する略水平方向の板状部材であり、吹き出し口22から吹き出される被処理水の流れの方向を変え、略水平方向に拡散させる。ここで、阻流板16は、被処理水の下方への直接的な流下を阻むことができるものであれば、どのような形状でもよいが、円板など製作が容易なものが好ましい。また、阻流板16は、吹き出し口22の中心と同一の中心を有することが好ましい。
【0016】
沈殿槽10は様々な処理水量に対応可能であるが、沈殿槽LVは処理水量に関わらずある程度一定になるように設計されるのがよい。すなわち処理水量が増加するほど、沈殿槽10の槽径は大きくなる。また吹き出し口22から吐出される被処理水はある程度の流速をもって略水平方向へ拡散されるのがよく、またこの略水平方向への流速は処理水量に関わらずある程度一定であることが好ましい。ゆえに吹き出し管20の数やその管径、および吹き出し口22から阻流板16までの距離も処理水量が増加するほど、大きな値とするのがよい。たとえば、吹き出し口22から阻流板16までの距離は50mmから500mm程度の間で調整されるのがよい。
【0017】
さらに沈殿槽10のホッパ部29上には、汚泥掻き寄せ機28が設けられている。この汚泥掻き寄せ機28は、掻き寄せ羽根を有し、これがホッパ部29で移動されることで、ホッパ部29上に堆積する沈殿汚泥が中央側に掻き寄せされる。沈殿槽10底部の中央の最深部分には、円筒状等の汚泥溜まり部30が設けられており、汚泥掻き寄せ機28によって掻き寄せされた汚泥が、この汚泥溜まり部30に集められる。
【0018】
ここで、沈殿槽10の中心には、底部から水面上に伸びる回転軸46が配置され、この回転軸46がモータ、減速機等によって、回転される。回転軸46には、汚泥掻き寄せ機28と、ディストリビュータ14が固定されており、したがって、ディストリビュータ14と汚泥掻き寄せ機28とが共に回転される構成となっている。さらに、阻流板16は、その下方の汚泥掻き寄せ機28に固定されているため、阻流板16もディストリビュータ14と共に回転される構成となっている。したがって、ディストリビュータ14が回転しても、阻流板16は、常に吹き出し口22の下方に位置するようになっている。なお、内筒管27、導入チャンバ26もディストリビュータ14に固定されているので共に回転されるが、いずれかの接続部分において相対回転されるようにしておけば、内筒管27、導入チャンバ26は回転しなくてもよい。導入チャンバ26が回転される場合には、流入路24は導入チャンバ26の上方から被処理水を導入チャンバ内に注入する構成とすればよい。
【0019】
汚泥溜まり部30には、排泥管31が接続され、この排泥管31には、排泥ポンプ32、排泥弁34が設けられている。したがって、排泥弁34を開いた状態で、排泥ポンプ32が駆動されることによって、所定量の汚泥が沈殿槽10から排出される。
【0020】
沈殿槽10の上部の周辺部には、流出路36が設けられている。この流出路36は沈殿槽10上部の周辺全体に設けられてもよいし、一部のみでもよい。流出路36と沈殿槽10の液面部との間には越流堰37が設けられており、越流堰37を越えた上澄み水が処理水として流出路36に流入される。流出路36の底部には、流出管38が接続されており、この流出管38から処理水が系外に排出される。
【0021】
沈殿槽10の上部には、超音波式等の汚泥界面計測装置として汚泥界面計40が配置されている。この汚泥界面計40は、沈殿槽10内の汚泥(スラリブランケット層)界面を計測するものであって、計測された汚泥界面に応じて、制御装置(図示省略)により排泥ポンプ32、排泥弁34が制御されて、沈殿槽10からの汚泥排出が制御されてもよい。なお、汚泥界面計40は、超音波式の他に、光学的に汚泥界面を計測するものなどでもよい。
【0022】
本実施形態において、沈殿槽10には、図1のように堆積抑制装置18が備えられている。この堆積抑制装置18は、例えば、図2や図3に示すような構造を有する、槽の水平方向に対して略垂直な一枚の板、あるいは円柱から構成される汚泥干渉部44および、沈殿槽10の内壁にその両端を固定するための固定部42から構成される装置であり、図1に示すように沈殿槽10の内壁にその両端が固定されている。この堆積抑制装置18は、阻流板16と吹き出し口22が回転される際に、阻流板16と吹き出し口22との間を汚泥干渉部44が通過し、阻流板16上への汚泥の堆積が抑制される。また、堆積抑制装置18は、阻流板16と吹き出し口22との間に固着した汚泥を崩す、あるいは払いのける効果を有している。したがって、阻流板16上への汚泥の堆積が抑制されるなどの効果が得られ、吹き出し口22の汚泥による閉塞がより確実に抑制される。
【0023】
堆積抑制装置18は、ある程度強度が確保された材質のものであればどのような材質のものによって構成されてもよいが、防錆効果の高いステンレスなどで構成されるのが好ましい。汚泥干渉部44の形状としては、板状、円柱状の他に、三角柱状等の多角柱状等が挙げられるが、製作が容易なものが望ましい等の点から、板状、円柱状が好ましい。
【0024】
堆積抑制装置18の汚泥干渉部44の槽の水平方向に対して略垂直方向の高さは、吹き出し口22および阻流板16との干渉がない範囲であればよいが、実施例において後述するように、あまりに小さすぎると汚泥の堆積抑制効果、吹き出し口22の閉塞抑制効果が得られにくく、またあまりに大きすぎると、阻流板16によって生じた水平方向の流れが阻まれ、スラリブランケット層内に乱れが生じ、処理水質を悪化させる要因となりうる。よって堆積抑制装置18の汚泥干渉部44の高さは、20mm〜150mmの範囲で設計されることが好ましい。特に汚泥干渉部44の高さが100mm以下では水平流に対する影響も少なく、処理水質も非常に良好な状態で保たれる。また、この範囲内の高さであれば、水平方向に対して垂直な板であっても、円柱であっても同様の効果が得られる。
【0025】
また、堆積抑制装置18の汚泥干渉部44の槽の水平方向の厚さ(幅)は、汚泥の堆積抑制効果等の効果を発揮するかどうかを左右する重大な点ではなく、汚泥干渉部44のたわみを最小限に抑えることのできる厚さであり、かつ沈殿槽10の水平面の大半を覆ってしまうものでなければよく、特に制限はないが、たとえば汚泥干渉部44の高さ以下のものとすれば十分である。
【0026】
また、吹き出し口22から阻流板16までの間の、鉛直方向における堆積抑制装置18の取り付け位置は、実施例において後述するように、特に制限はなく、吹き出し口22から阻流板16の間を、汚泥干渉部14が通過できる位置であればよい。堆積抑制装置18の汚泥干渉部44の下端部と阻流板16との距離は、例えば、5mm〜15mmの範囲であることが好ましい。汚泥干渉部44の下端部と阻流板16との距離がこの範囲であれば、阻流板16上への汚泥の堆積がより抑制される。
【0027】
また、例えば図2、図3に示すような構造の堆積抑制装置18の汚泥干渉部44の下部に、汚泥干渉部44の下方にまで張り出すようにしてゴム板等の弾性部材等の干渉部材を固定して、このゴム板等の干渉部材が阻流板16の上面を掃くように干渉させるように設計し、沈殿槽10内に固定することでも、汚泥の堆積抑制効果等の効果が得られる。ただしこの場合は、ゴム板等の干渉部材の下端までを堆積抑制装置18の汚泥干渉部44の高さとして考え、堆積抑制装置18の汚泥干渉部44の下端部と阻流板16との距離は、例えば、0mm〜15mmの範囲であることが好ましい。
【0028】
堆積抑制装置18は、沈殿槽10の中心部を通る回転軸46を避けるように取り付ければよいが、この場合、図4に示すように、吹き出し口22の最も沈殿槽10の水平断面中心に近い点が描く軌跡の内側(図4に示す取り付け至適範囲1)を通るように沈殿槽10内に固定されることが好ましく、可能であるならば、阻流板16上を満遍なく堆積抑制装置18が通過できるよう、阻流板16の最も沈殿槽10の水平断面中心に近い点が描く軌跡の内側(図4に示す取り付け至適範囲2)を通るように取り付けられることが好ましい。堆積抑制装置18は、沈殿槽10の内壁にその両端が固定されてもよいし、その一端が固定されてもよい。堆積抑制装置18の設置数は、1つであれば十分であるが、複数であってもよい。
【0029】
本実施形態に係る凝集沈殿装置1において、凝集処理を施し、凝集フロックを形成させたものであれば、いかなる水でも被処理水となる。被処理水としては、例えば、半導体工場等からのフッ素含有排水、河川水、湖沼水などが挙げられる。
【0030】
例えば、図5に示すように、被処理水を無機凝集剤反応槽48に導入し、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等の無機凝集剤を添加混合して凝集フロックを形成し、これを必要に応じて高分子凝集剤反応槽50に導入し、ポリアクリルアミド等の高分子凝集剤を添加して凝集フロックを粗大化したものが被処理水として凝集沈殿装置1に導入される。
【0031】
すなわち、このような被処理水が図1に示す流入路24から導入チャンバ26内に流入され、ここに滞留される。そして、内筒管27を介しディストリビュータ14の吹き出し口22から下方に向けて吹き出され、阻流板16によって水平方向に拡散される。そして、阻流板16の上方の上向流部分にスラリブランケット層が形成され、これを通過し得られた上澄み液が処理水として排出される。一方、阻流板16から下方の部分が汚泥濃縮領域となり、ここにおいて凝集フロックなどが沈降濃縮され、高濃度の汚泥が汚泥溜まり部30に得られる。
【0032】
そして、上述したように、スラリブランケット層の界面位置は、沈殿槽10の上部に設けられた汚泥界面計40によって計測されており、排泥の制御によって界面位置が所定位置に制御される。例えば、スラリブランケット層の界面位置が所定位置を超えて上昇した場合には、排泥弁34が開かれ、排泥される。この排泥は、所定の時間間隔で、間欠的に行われ、界面位置が所定位置以下に至るまで行われる。これによって、界面位置が上限位置に至った場合に排泥が開始され、界面位置を下限位置にまで下降させることができ、汚泥界面位置は上下限内に制御される。排泥が行われる時間間隔は任意に設定が可能であるが、例えば180秒毎に10秒間の排泥を行うなど比較的頻繁に行うのがよい。
【0033】
スラリブランケット層の界面の制御位置は、任意に設定可能であるが、被処理水の性状の変化によって、スラリブランケット層を構成するフロックの性状に変化が生じることがあり、これによって界面の急降下、急上昇が起こることもあり得る。そこで、このような界面の変動に対する緩衝能を持たせるため、阻流板16の上方1000mm〜1500mmの範囲の位置に設定するのが好ましい。また、懸濁物質等の越流を確実に抑制するために、水面より1000mm以上下方であることが好ましい。
【0034】
また、ディストリビュータ14、阻流板16、汚泥掻き寄せ機28が接続された回転軸46は装置運転中と同様、被処理水の通水を停止した装置停止期間中も継続して回転させられる。これによって堆積抑制装置18が機能し、阻流板16上に堆積した汚泥が払いのけられる、あるいは崩され、阻流板16上の汚泥の堆積が抑制されて、吹き出し口22周辺での汚泥の固着、吹き出し口22の汚泥による閉塞が抑制される。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1、比較例1]
<実験装置説明>
実施例1で用いた凝集沈殿システムは、図6に示すように、無機凝集剤反応槽48と、高分子凝集剤反応槽50と、および堆積抑制装置18を備える沈殿槽10を有する凝集沈殿装置1とを備える。比較例1で用いた凝集沈殿システムは、図6に示すように、無機凝集剤反応槽48と、高分子凝集剤反応槽50と、および沈殿槽52を有する凝集沈殿装置3とを備える。
【0037】
懸濁物質を含む被処理水を、原水槽54からポンプ56またはポンプ58によって、まず無機凝集剤反応槽48にそれぞれ導入し、ここでpH調整用の塩酸、水酸化ナトリウムおよび無機凝集剤としてのポリ塩化アルミニウム(PAC)を添加し、懸濁物質を凝集した。無機凝集剤反応槽48からの凝集フロックを含む処理液を、高分子凝集剤反応槽50に導入し、ここで、高分子凝集剤としてのポリアクリルアミドを添加し、凝集フロックの粗大化を行った。そして、凝集フロックを含む処理液を被処理水として沈殿槽10または沈殿槽52に導入し、ここで沈殿処理を行った。また、両系列はともに汚泥循環ラインを備えており、沈降分離され沈殿槽底部に堆積した汚泥の少なくとも一部を排泥ポンプ32により引き抜き、無機凝集剤反応槽48へと返送した。これにより無機凝集剤反応槽48における固形物濃度を高め、固形物同士の接触効率を上げることでフロックの成長が促進される。
【0038】
上記の通り、実施例1で用いた沈殿槽10は、汚泥干渉部が槽の水平方向に対して略垂直な堆積抑制装置18を備えたものとし、比較例1で用いた沈殿槽52は、堆積抑制装置を備えないものとした。両者は堆積抑制装置の有無以外は全て同じ構造を有したスラリブランケット型凝集沈殿装置である。図8に示すように、両沈殿槽においてディストリビュータの吹き出し口22と阻流板16上面との距離を50mmとした。
【0039】
本実施例1で用いた堆積抑制装置18は、図7に示すような構造を有しており、汚泥干渉部44を板状のものとした。汚泥干渉部44としては、厚さ10mm、高さ40mmのステンレス製の板を用いた。堆積抑制装置18の両端を図8に示すように沈殿槽10内に固定し、水平断面上における堆積抑制装置18の取り付け位置を、図9に示すように、ディストリビュータの吹き出し口22の最も沈殿槽10の水平断面中心部に近い点が描く軌跡上を通る位置とした。堆積抑制装置18の汚泥干渉部44の下端部と阻流板16との距離は、5mmとした。
【0040】
<装置仕様>
無機凝集剤反応槽:1m(機械撹拌)
高分子凝集剤反応槽:1m(機械撹拌)
沈殿槽:3.5m(直胴部高さ3m、有効面積1.0m
【0041】
<実験条件・方法>
被処理水:地下水にカオリンを2,000mg/Lとなるよう懸濁させた模擬排水
無機凝集剤:PAC 300mg/L
高分子凝集剤:ポリアクリルアミド 2mg/L
通水量:5m/h(LV 5m/h)
汚泥循環流量:原水流量の10%(0.5m/h)
【0042】
被処理水を各系列へ原水槽54より略均等になるように分配した。各系列とも、それぞれのディストリビュータに備えられた吹き出し口から問題なく被処理水が吐出可能である状態から運転を開始させ、スラリブランケット層界面を阻流板より1.5m上方の位置に安定させた。次にこの状態から被処理水の通水を停止して、ブランケットを沈降させ、その3時間後に被処理水の通水を再起動させた。その際に各沈殿槽の吹き出し口閉塞の有無を、阻流板の高さに設置された槽内確認用窓からの目視で確認した。
【0043】
また、通常、吹き出し口が閉塞するなど、被処理水の吐出が困難な状態に陥った場合、沈殿槽上部に備えられた導入チャンバにおける水位上昇が認められる。よって問題なく被処理水が吐出可能な状態における水位を基準として記録し、この基準との差を観測することによっても吹き出し口閉塞の有無を確認することとした。さらに、堆積抑制装置によって生じる水の乱れが、処理水質に及ぼす影響を検証するため、通水停止前の両沈殿槽から得られた処理水を採取し、処理水中に含まれるSSを比較した。
【0044】
また両系列とも、通水停止期間中もディストリビュータ、阻流板、汚泥掻き寄せ機が接続された回転軸は回転させたままとした。
【0045】
<結果>
以下に各系列での実験結果を述べる。
【0046】
(実施例1)
通水停止後、スラリブランケット層界面は徐々に沈降し、当初阻流板から1.5m上方にあった界面は、通水停止から3時間後には阻流板の上方70mmの位置で停滞しており、吹き出し口はスラリ内に埋没している状態であった。その後、被処理水の通水を再起動させ、槽内確認用窓からディストリビュータ吹き出し口および阻流板の状態を確認した。その結果、2本備えられた吹き出し管のそれぞれの吹き出し口周辺のスラリ界面からは被処理水の噴出が確認され、また導入チャンバにおける水位も通常運転時とほとんど変化はなく、吹き出し口が問題なく被処理水を吐出可能な状態であることを確認した。
【0047】
(比較例1)
比較例1においても、通水停止から3時間のスラリ界面は阻流板の上方約70mmの位置であった。その後、被処理水の通水を再起動させたところ、両側の吹き出し口周辺のスラリ界面にはほとんど変化がなく、また導入チャンバにおける水位も起動直後から上昇し始め、再起動から間もなく導入チャンバからオーバーフローし、装置を緊急停止させることとなった。以上より、比較例1においては両方の吹き出し口は共に、被処理水を吐出不可能な状態であったことが確認できた。
【0048】
堆積抑制装置の処理水質に及ぼす影響を検証した。結果は表1の通りである。通水停止前の比較例1と実施例1とでは処理水SSに大きな差は認められず、堆積抑制装置の処理水質に及ぼす影響はほとんどないことが確認された。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1においては、通水再起動時においても被処理水を問題なく吹き出し口から吐出可能であり、その後も継続して安定した運転が可能であったが、比較例1においては通水停止後、吹き出し口がスラリにより閉塞し、被処理水の吐出困難な状態となり運転継続不可能であった。これは実施例1においては、阻流板、吹き出し口共にスラリ中に埋没している状態であったが、吹き出し管、阻流板が回転し、堆積抑制装置を通過することによって、堆積抑制装置が阻流板上に堆積している汚泥に干渉し、阻流板上への汚泥の堆積が抑制され、吹き出し口周辺の汚泥が固着し、吹き出し口が閉塞することを抑制したことによると考えられる。一方で比較例1においては、阻流板上に堆積した汚泥が圧密し、吹き出し口周辺に固着したまま除去されることがなかったため、吹き出し口の閉塞を引き起こしたと考えられる。また、堆積抑制装置による水の乱れも、実施例1のように堆積抑制装置の汚泥干渉部高さが最適な範囲内であれば最小限に抑えられ、その処理水質に及ぼす影響もほとんど無視することができる。以上より本実施例の優位性が確認された。
【0051】
[実施例2]
次に、堆積抑制装置の高さについて検証した。汚泥干渉部44としては、厚さ10mmのステンレス製の板を用いた。水平断面上における堆積抑制装置18の取り付け位置は、実施例1と同様とした。堆積抑制装置18の汚泥干渉部44の下端部と阻流板16との距離は、5mmとした。
【0052】
<実施例2−1>
沈殿槽径Φ1100mm、吹き出し口から阻流板までの距離50mmとした。結果を表2に示す。堆積抑制装置高さの至適範囲は20〜40mmであった。堆積抑制装置の高さが10mmでは、通水再起動直後の導入チャンバにおける水位が一時的に大きく上昇(定常時水位から約150mm)したが、約5分後に定常的な水位レベルに戻った。すなわち、吹き出し口の閉塞はあったが、堆積抑制装置の効果により、いくらか吹き出し口下部の汚泥がほぐされていたため、閉塞は解消した。
【0053】
【表2】

【0054】
<実施例2−2>
沈殿槽径Φ2000mm、吹き出し口から阻流板までの距離170mmとした。結果を表3に示す。堆積抑制装置高さの至適範囲は20〜150mmであった。ただし、堆積抑制装置の高さが100mm以上では堆積抑制効果は得られたが、スラリブランケット層の乱れにより処理水の品質が若干悪化した。堆積抑制装置の高さが10mmでは、通水再起動直後の導入チャンバにおける水位が一時的に大きく上昇(定常時水位から約200mm)したが、これも約5分後に定常的な水位レベルに戻った。すなわち、吹き出し口の閉塞はあったが、堆積抑制装置の効果により、いくらか吹き出し口下部の汚泥がほぐされていたため、閉塞は解消した。
【0055】
【表3】

【0056】
<実施例2−3>
沈殿槽径Φ3200mm、吹き出し口から阻流板までの距離500mmとした。結果を表4に示す。堆積抑制装置高さの至適範囲は20〜150mmであった。ただし、堆積抑制装置の高さが150mm以上でも堆積抑制効果は得られたが、スラリブランケット層の乱れにより処理水の品質が悪化した。
【0057】
【表4】

【0058】
それぞれ槽径の異なる3つの沈殿槽にて、LV、水平方向の流速を等しくし、それぞれにて、さまざまな高さの堆積抑制装置を取り付けて、そのときの装置挙動を記録した。その結果、吹き出し口から阻流板までの距離にかかわらず、堆積抑制装置の高さが20mmを下回ると、阻流板上へ汚泥が堆積し、通水再起動時に吹き出し口の閉塞が生じやすいことがわかった。ただし、この閉塞は、再起動後しばらくすると解消される。また、堆積抑制装置の高さが20mm以上であれば堆積抑制の効果は得られやすくなるが、150mmを上回ると、堆積抑制装置によって吹き出し口から吐出された被処理水による水平方向の流れが遮られ、スラリブランケット層内に乱れが生じ、処理水質が悪化する傾向にある。この処理水SSの増加傾向は、程度は低いものの、堆積抑制装置高さが100mmを超えた時点から認められた。ゆえに堆積抑制効果を得られ、かつ良好な品質の処理水を得るための堆積抑制装置高さの至適範囲は20〜150mmで、特に100mm以下のときにより優れた効果を発揮すると考えられる。
【0059】
[実施例3]
上記の実験結果を踏まえて、堆積抑制装置の取り付け高さ(鉛直方向の位置)に関する検討を行った。沈殿槽径Φ3200mm、吹き出し口から阻流板までの距離500mmとした。汚泥干渉部44としては、高さ20mm、厚さ10mmのステンレス製の板を用いた。水平断面上における堆積抑制装置18の取り付け位置は、実施例1と同様とした。結果を表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
このように、吹き出し口から阻流板の間を通過できる高さであれば、取り付け位置によらず堆積抑制効果が得られ、吹き出し口の閉塞が抑制された。
【符号の説明】
【0062】
1,3 凝集沈殿装置、10,52 沈殿槽、12 チャンバ、14 ディストリビュータ、16 阻流板、18 堆積抑制装置、20 吹き出し管、22 吹き出し口、24 流入路、26 導入チャンバ、27 内筒管、28 汚泥掻き寄せ機、29 ホッパ部、30 汚泥溜まり部、31 排泥管、32 排泥ポンプ、34 排泥弁、36 流出路、37 越流堰、38 流出管、40 汚泥界面計、42 固定部、44 汚泥干渉部、46 回転軸、48 無機凝集剤反応槽、50 高分子凝集剤反応槽、54 原水槽、56,58 ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈殿槽内で、被処理水中の懸濁物質、凝集フロックを沈降分離させ、スラリブランケット層を形成して被処理水を清澄化する凝集沈殿装置であって、
前記沈殿槽内に設置され、前記被処理水が導入されるチャンバと、
前記チャンバの下端部に回転可能に配置され、前記チャンバ内の被処理水を前記沈殿槽内の下方に向かって吐出する吹き出し口が形成されている吹き出し管を有するディストリビュータと、
前記吹き出し口の下方に設置され、前記ディストリビュータと共に回転する阻流板と、
前記吹き出し口と前記阻流板との間を通過するように前記沈殿槽内に固定された堆積抑制装置と、
を備えることを特徴とする凝集沈殿装置。
【請求項2】
請求項1に記載の凝集沈殿装置であって、
前記堆積抑制装置が、沈殿槽内壁への固定部と汚泥干渉部とを有し、前記汚泥干渉部が20mm以上150mm以下の高さを有する板状部材または円柱状部材から構成されることを特徴とする凝集沈殿装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−236121(P2012−236121A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105232(P2011−105232)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)