説明

分化細胞由来多能性幹細胞の樹立方法

【課題】効率よく、優良な分化細胞由来多能性幹細胞を樹立することができる方法を、提供する。
【解決手段】間葉系幹細胞から、分化細胞由来多能性幹細胞を樹立する方法。マウス間葉系幹細胞は、Sca-1PDGFRαで選別された細胞であることが好ましく、ヒト間葉系幹細胞は、CD271CD90で選別された細胞であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分化細胞由来多能性幹細胞の樹立方法、及びその方法によって樹立された分化細胞由来多能性幹細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、線維芽細胞等の体細胞へOct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、及びc-Myc遺伝子を導入し発現させた細胞から、Fbx15遺伝子を発現する細胞を選択することにより、胚性幹細胞(以下、ES細胞とも称する)に似た多分化能(pluripotency)を有する細胞を得ることができるようになった(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照)。再生医療において、このようにして得られる、体細胞由来の多能性幹細胞を用いれば、自己の細胞を移植することができるようになるために、ES細胞より拒絶反応の問題が少ないだろうと考えられている。
Fbx15遺伝子の発現を指標に樹立された誘導多能性幹細胞(以下、induced pluripotent stem cells又はiPS細胞とも称する)は、細胞形態や増殖能、分化能力などにおいてES細胞と極めて良く似ていたが、遺伝子の発現パターンや、DNAメチル化のパターンなどの性状では、ES細胞と異なる部分もあった。そこで、Nanog遺伝子の発現を指標にして細胞を選択したところ、さらにES細胞に類似した多分化能を持ったiPS細胞が樹立された(例えば、非特許文献2参照)。
しかしながら、iPS細胞の樹立は効率が悪く、また、iPS細胞の樹立効率は、遺伝的背景等、様々な要因に依存するため、必ずしも、全ての動物からiPS細胞を樹立できるわけではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Takahashi K, Yamanaka S. (2006). “Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors.”. Cell 126: 663-676.
【0004】
【非特許文献2】Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S. (2007). “Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells.”. Nature 448: 313-317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、効率よく、優良な分化細胞由来多能性幹細胞を樹立することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる、分化細胞由来多能性幹細胞の作製方法は、間葉系幹細胞から樹立する工程を含有する。前記間葉系幹細胞は、Sca-1 PDGFRαで選別されたマウス由来の細胞(以下、PαSとも称する)であってもよく、CD271CD90で選別されたヒト由来の細胞であってもよい。前記間葉系幹細胞は、骨髄または末梢血に由来することが好ましい。
【0007】
本発明にかかる分化細胞由来多能性幹細胞は、間葉系幹細胞を用いて作製された細胞である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、効率よく、優良な分化細胞由来多能性幹細胞を樹立することができる方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例において、Nanog-EGFPを導入されたトランスジェニックマウスNanog-GFP-IRES-Purorから単離された間葉系幹細胞(PαS)、骨前駆細胞(OB)、線維芽細胞(TTF)のそれぞれに、核初期化因子を導入したときに得られる総コロニー数(上図)と、さらにpuromycinで選択し、得られた耐性コロニーの中から、GFPかつDsRed細胞を選択したときに得られるコロニーの数を示すグラフである。
【図2】本発明の一実施例において、未分化マーカーと導入遺伝子の発現を調べるためのRT−PCRで用いられたプライマー配列の表である。
【図3】本発明の一実施例において、核初期化因子(4因子)を導入したときに得られるクローンにおける未分化マーカー発現と導入遺伝子の発現抑制を、RT−PCRで調べた結果を示す図である。
【図4】本発明の一実施例において、核初期化因子(3因子)を導入したときに得られるクローンにおける未分化マーカー発現と導入遺伝子の発現抑制を、RT−PCRで調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)間葉系幹細胞の単離
本明細書において、間葉系幹細胞とは、CFU-F(線維芽細胞コロニー形成単位)活性を有し、かつ、骨芽細胞、骨細胞、脂肪細胞への多分化能を有する細胞である。なお、この間葉系幹細胞は、分化誘導の条件によって、軟骨細胞、筋肉細胞、ストローマ細胞、腱細胞等へも分化することができる。この間葉系幹細胞は、間葉系幹細胞を含む細胞集団を調製し、マーカーによって間葉系幹細胞を選別することによって得られる。以下、その具体的な方法を述べる。
【0011】
まず、間葉系幹細胞が含まれる細胞集団を、フローサイトメトリーやアフィニティー・クロマトグラフィーによって調製する。この細胞集団は、ひきつづき表面抗原の発現による選別操作がなされるため、この調製過程で、個々の細胞をばらばらに分離し、不必要な細胞を除去しておくことが好ましい。
【0012】
この細胞集団を得るための材料は特に限定されないが、胚由来であっても胎児由来であっても成体由来であってもよく、また、マウス、ヒト等どのような動物種に由来しても構わない。具体的には、骨髄や末梢血(G-CSF投与後の末梢血を含む)、胎盤等が挙げられる。なお、骨髄は、脊椎、胸骨、腸骨等の骨髄を用いればよい。
【0013】
これらの材料から目的の細胞集団を調製する際、例えば骨髄のように、この材料が間葉系幹細胞を巻き込んだ細胞塊になっている場合には、含まれている細胞を解離するために、材料に対してピペッティング等による物理的処理や、酵素等による化学的処理を行えばよい。酵素としては、トリプシン、コラゲナーゼ等、常法で用いられている酵素が使用できるが、コラゲナーゼで処理することが好ましい。解離処理後、完全に個々の細胞に分離せず、細胞塊が残るような場合など、メッシュ等を用いて細胞塊を除去することが好ましい。
【0014】
また、末梢血から目的の細胞集団を得る場合のように、材料に赤血球が混入している場合には、予め赤血球を溶血しておくことが好ましい。そのための方法は特に限定されないが、例えば、材料を低張溶液(例えば、水等)で処理すればよい。
【0015】
このように、用いる材料に対して適切な処理を行って、間葉系幹細胞が含まれる細胞集団を調製する。
【0016】
次に、これらの細胞集団から、適切なマーカー分子を用いて、間葉系幹細胞を単離する。そのマーカー分子は特に限定されないが、ヒトの場合、CD10、CD13、CD73(ecto-5' nucleotidase, SH3, SH4)、CD105(endoglin, SH2)、 CD166(ALCAM)、 CD271(LNGFR)、CD140b(PDGFR-β)、CD340(HER-2/erbB2)、CD349(frizzled-9)、 CD90(Thy-1)等を陽性マーカーとして、CD34、CD45、 CD235a等を陰性マーカーとして用いることができ(Buhring Hans-Jorg, et al, Novel markers for the prospective isolation of human MSC, Annals of the New York Academy of Sciences, annals-1392-000, Haematopoietic Stem Cells VI, 10-Nov-2006.)、これらのマーカーを組み合わせて使用することが好ましいが、CD271(LNGFR)及びCD90(Thy-1)を陽性マーカーとして組み合わせることがより好ましく、細胞集団に血球細胞が含まれている場合には、それらの陽性マーカーに加えてCD45及びCD235aを陰性マーカーとして組み合わせることがさらに好ましい。マウスの場合、Sca-1、CD29、CD44、CD81、CD106、CD140a(PDGFR-α), CD140b(PDGFR-β)等を陽性マーカーとして、CD11b、CD31、CD34、CD45、CD48、CD90、CD117、CD135等を陰性マーカーとして用いることができ(Baddoo M. et al., Characterization of mesenchymal stem cells isolated from murine bone marrow by negative selection. J Cell Biochem., vol.89 No.6, p.1235-1249, 2003)、これらのマーカーを組み合わせて使用することが好ましいが、CD140a及びSca-1を陽性マーカーとして組み合わせることがより好ましい。
【0017】
ここで、これらのマーカーを用いて間葉系幹細胞、例えば、ヒトにおいて、CD271+CD90+細胞を選別する方法は、特に限定されない。例えば、CD271(LNGFR)は、ニューロトロフィン(NGF、BDGF、NT-3、NT-4)をリガンドとするレセプターなので、いずれかのリガンドをin vitroで発現させて精製したタンパク質を用いたアフィニティー・クロマトグラフィーによってCD271+細胞を選別することができるが、簡便さの点で、抗体を用い、フローサイトメトリーによって選別するのが好ましい。フローサイトメトリー以外にも、磁気ビーズを用いる方法やアフィニティー・クロマトグラフィーを用いる方法によって、間葉系幹細胞を生細胞のまま選別することが可能である。抗体の種類(モノクローナル抗体かポリクローナル抗体か、IgGかIgMか、抗体分子かFab断片か、等)、及び抗体の濃度に関しては、使用者が、細胞集団の種類、抗体の活性、抗体の使用方法等によって適宜選択することができる。
【0018】
なお、これらの方法を用いる前に、予め、死細胞を染色する蛍光色素(例えば、PI(プロピジウムアイオダイド))を細胞集団と反応させ、蛍光で染色された細胞を除去することにより、死細胞を除去してもよい。
【0019】
(2)間葉系幹細胞由来多能性幹細胞の作製
分化細胞由来多能性幹細胞とは、生殖系列にある細胞(例えば、卵細胞、精子細胞、卵原細胞や精原細胞等それらの前駆細胞)または発生初期胚由来の未分化細胞(例えば、胚性幹細胞)以外の分化細胞を初期化することにより、人工的に誘導された多分化能及び自己増殖能を有する細胞のことであり、本願発明では、間葉系幹細胞から樹立される。分化細胞由来多能性幹細胞とは、例えば、山中4因子によるiPS細胞を含む(Takahashi K, Yamanaka S. (2006). “Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors.” Cell 126: 663-676.; Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K,Yamanaka S. (2007). “Induction of pluripotent stem cells fromadult human fibroblasts by defined factors.” Cell 131: 861-872)。
【0020】
初期化方法は特に限定されないが、核初期化因子を導入することにより、多分化能及び自己増殖能を有するように誘導することが好ましい。例えば国際公開WO2005/080598やWO2007/069666に記載された初期化方法を用いることができる。なお、これらの刊行物を引用することにより、本明細書に含めるものとする。
【0021】
核初期化因子は、特に限定されないが、Oct遺伝子群、Klf遺伝子群、Sox遺伝子群のそれぞれの遺伝子群から選択された遺伝子の遺伝子産物の組み合わせを含むことが好ましく、iPS細胞樹立の効率という点では、遺伝子群の遺伝子産物をさらに含んだ組み合わせを含むことがより好ましい。Oct遺伝子群に属する遺伝子としては、Oct3/4、Oct1A、Oct6などがあり、Klf遺伝子群に属する遺伝子としては、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5などがあり、Sox遺伝子群に属する遺伝子としては、Sox1、Sox2、Sox3、Sox7、Sox15、Sox17、Sox18などがある。Myc遺伝子群に属する遺伝子としては、c-Myc、N-Myc、L-Mycなどがある。
【0022】
核初期化因子としては、上記組み合わせ以外にも、Oct遺伝子群の遺伝子、Sox遺伝子群の遺伝子に加え、Nanog遺伝子及びlin-28遺伝子を含む組み合わせが挙げられる。また、なお、細胞に導入する場合、上記組み合わせの遺伝子に加え、他にも遺伝子産物を導入してもよく、例えば、不死化誘導因子などが挙げられる。
【0023】
これらの遺伝子は、いずれも、脊椎動物で高度に保存されている遺伝子であり、本明細書では、特に動物名を示さない限り、ホモログを含めた遺伝子を表すものとする。また、polymorphismを含め、変異を有する遺伝子であっても、野生型の遺伝子産物と同等の機能を有する遺伝子もまた、含まれるものとする。
【0024】
さらに、これら遺伝子の組み合わせに加え、サイトカインや化合物を補助因子として培地に添加しても良い。この場合のサイトカインとして、例えばSCFやbFGFなどが挙げられ、これらは、c-Mycに代替でき、化合物として、例えばバルプロ酸などが挙げられ、これは、c-Myc遺伝子やKlf4遺伝子に代替できる。
【0025】
==間葉系幹細胞由来多能性幹細胞の調製方法==
核初期化因子を用いて間葉系幹細胞由来多能性幹細胞を調製するには、核初期化因子が細胞内で機能する蛋白質である場合は、その蛋白質をコードする遺伝子を発現ベクターに組み込み、間葉系幹細胞に発現ベクターを導入し、細胞内で発現させることが好ましい(遺伝子導入法)。発現ベクターは特に限定されないが、ウイルスベクターを用いることが好ましく、特にレトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターを用いることが好ましい。また、Protein Transduction Domain(PTD)と呼ばれるペプチドを蛋白質に結合させ、培地に添加することにより、核初期化因子を細胞内に導入してもよい(Protein Transduction 法)。細胞外に分泌される蛋白質の場合は、間葉系幹細胞由来多能性幹細胞の調製段階で、間葉系幹細胞の培地にその因子を添加すればよい。
【0026】
その後、核初期化因子を導入した間葉系幹細胞から、Fbx15遺伝子やNanog遺伝子などの未分化マーカー遺伝子を発現している細胞を、細胞が生きたまま選択する。その方法は特に限定されないが、例えば、Fbx15遺伝子やNanog遺伝子のプロモーターの下流にGFP遺伝子やガラクトシダーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子が挿入されたDNAを、間葉系幹細胞のゲノムに外来的に導入したり、内在性Fbx15遺伝子や内在性Nanog遺伝子のプロモーターの下流にGFP遺伝子やガラクトシダーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子をノックインしたりして、それらマーカー遺伝子を発現している細胞を選択すればよい。あるいは、マーカー遺伝子のかわりにネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を用いれば、薬剤で選択することにより容易に目的の細胞を選択することができる。また、遺伝子操作を行わず、内在性の未分化マーカー遺伝子の発現をRT-PCRなどで検出してもよい。また、細胞の形状を未分化性のマーカーに用いてもよい。
【0027】
このようにして、核初期化因子を導入した間葉系幹細胞から、未分化マーカー遺伝子を発現している細胞を選択して得られた細胞集団を間葉系幹細胞由来多能性幹細胞として用いる。
【実施例】
【0028】
(1)マウス間葉系幹細胞、骨前駆細胞、線維芽細胞の単離
Nanog-EGFPを導入されたトランスジェニックマウスNanog-GFP-IRES-Puror(Okita K. et al. Nature. 2007 vol.448 No.7151 p.313-317)を用い、大腿骨と頸骨を単離し、乳鉢で粉砕した。破砕した骨を0.2%コラゲナーゼ(Wako)(DMEM(Gibco)溶液、10mM HEPESと1%PSを含有)で37℃、1時間処理した後、骨を再度破砕した。得られた細胞懸濁液をcell strainer Falcon2350(Falcon)に通して細胞を解離した。この細胞懸濁液を4℃で7分間遠心して(280g)細胞を濃縮し、5〜10秒間、1mLの水(Sigma)で軽く洗浄して、赤血球を破裂させた。その後、1mLの2倍濃縮PBS(4%FBS含有)を加えて再度遠心し、HBSSで1mLあたり1x10個の細胞濃度になるように再懸濁し、cell strainer(Falcon)に通した。
【0029】
得られた細胞懸濁液をHBSSで洗浄後、遠心し、1mLあたり1x10個の細胞濃度になるように再懸濁し、細胞106個あたり0.25μg のFITC結合抗Sca-1抗体(isothiocyanate(FITC) anti-mouse Sca-1(Ly-6A/E) eBioscience)及び1μg のAPC 結合抗PDGFRα抗体(Allophycocyanin(APC) anti-mouse CD140a(PDGFRα) eBioscience)を加え、氷上で30分反応させ、FACSで両方の抗原に陽性である細胞を単離し、得られた細胞を間葉系幹細胞(PαS)とした。また、両方の抗原に陰性である細胞を単離し、得られた細胞を骨前駆細胞(OB)とした。
【0030】
また、線維芽細胞(TTF)の単離のため、トランスジェニックマウスNanog-GFP-IRES-Purorの尾部の組織をHBSSで洗浄後、約1cmの長さに細切し、培養皿中央部に静置、MFスタート(東洋紡績)を入れた。7〜10日培養し、細切した組織片を除去し、培養皿に付着した細胞を線維芽細胞(TTF)とした。
【0031】
(3)iPS細胞の作製
4因子(Oct3/4、Klf4、c-Myc、Sox2)または3因子(Oct3/4、Klf4、Sox2)の核初期化因子について、これらの遺伝子のcDNAをレトロウイルスベクターpMX-gwにGatewayテクノロジーにより挿入した(Takahashi K and Yamanaka S. Cell. 2006 vol.126, No.4 p.663-676)。また、DsRed遺伝子をレトロウイルスベクターのプロモーター下に挿入した。各組み合わせのレトロウイルス及びDsRedレトロウイルスを各細胞に感染させ、DsRed+細胞10個あたりに得られたコロニー数を計測し、棒グラフに表した(図1)。4因子を用いたとき、得られたコロニー数は、間葉系幹細胞、骨前駆細胞、線維芽細胞の3者で有意差は無かったが、3因子を用いたとき、間葉系幹細胞を用いた場合に、有意に多くのコロニーを得ることができた。
【0032】
次に、4因子または3因子の核初期化因子を導入した細胞をpuromycin(1.5μg/ml)で選択し、得られた耐性コロニーの中から、GFPかつDsRed細胞を選択した。これらの選択により、Nanogプロモーターが再活性化されていて、レトロウイルスプロモーターにサイレンシングが生じているiPS細胞を選択することができるが、骨前駆細胞(OB)及び線維芽細胞(TTF)で得られたコロニー数は、間葉系幹細胞(PαS)を用いた場合と比べて、有意に減少した(図1)。
【0033】
このように、トランスジェニックマウスNanog-GFP-IRES-Purorを用いた場合、4因子を使って10,000個あたり約50個のiPS細胞クローンが得られたが、Oct4-GFPが導入されたトランスジェニックマウス(Ohbo.K et al.(2003). "Identification and characterization of stem cells in prepubertal spermatogenesis in mice small star, filled." Dev. Biol. vol.258, p.209-225)を用いた場合、4因子を使って10,000個あたり約700個のiPS細胞クローンが得られた。これらの値は、Oct4-GFPが導入されたトランスジェニックマウスから得られた神経幹細胞を用いて、4因子を使ってiPS細胞を樹立した場合(50,000個あたり約70個)(Kim J B, Scholer H R.(2008). “Pluripotent stem cells induced from adult neural stem cells by reprogramming with two factors”. Nature vol.454, p.646-50)と比べ、顕著に効率が良いことがわかる。
【0034】
従って、iPS細胞の作製に、間葉系幹細胞を用いることにより、iPS細胞の樹立効率が向上し、3因子導入のように、通常ならiPS細胞の樹立効率が悪い方法であっても、十分な数のiPS細胞を樹立することができる。
【0035】
(4)樹立したiPS細胞株における未分化マーカーの発現解析
間葉系幹細胞、骨前駆細胞、線維芽細胞の各々を用いて得られたGFPの細胞(それぞれ、PαS-iPS、OB-iPS、TTF-iPS と称する)を5クローンずつ単離し、未分化マーカー及び導入した遺伝子の発現をRT−PCRで調べた。用いたプライマーを図2に示し、PCRの結果を図3及び図4に示す。
【0036】
PαS-iPSでは、5クローンとも、調べた未分化マーカー(Eras, Rex1, Dax1, Gdf3, Esg1, Nanog, Sox2, Oct3/4, Klf4, c-Myc)が全て発現し、導入遺伝子(SOX2 Tg, Oct3/4 Tg, Klf4 Tg, c-Myc Tg)が全て発現抑制されていた。しかし、OB-iPS及びTTF-iPSでは、クローンによって、未分化マーカーの発現も導入遺伝子の発現抑制も、かなりのばらつきがあった。
【0037】
このように、間葉系幹細胞を用いて樹立したiPS細胞株は、他の分化細胞を用いて樹立したiPS細胞株よりも、未分化性を獲得しており、且つ正常細胞に近い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞から樹立する工程を含有することを特徴とする、分化細胞由来多能性幹細胞の作製方法。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞は、Sca-1 PDGFRαで選別されたマウス由来の細胞であることを特徴とする請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
前記間葉幹細胞は、CD271CD90で選別されたヒト由来の細胞であることを特徴とする請求項1に記載の作製方法。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞は、骨髄または末梢血に由来することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の作製方法。
【請求項5】
間葉系幹細胞を用いて作製された分化細胞由来多能性幹細胞。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−210154(P2012−210154A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181009(P2009−181009)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)日本再生医療学会雑誌「再生医療」vol.8,suppl,2009、平成21年2月5日・日本再生医療学会発行、第87頁 (2)研究集会名「第5回慶應義塾先端科学技術シンポジウム」、開催日:平成21年2月4日、主催者名「慶應義塾大学」
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】