説明

分解性樹脂から形成される成形品からなる層を積層してなる管状積層体、及びその製造方法

【課題】管壁に通孔を有する管状体について、該通孔を、必要に応じて、確実に塞ぎ、かつ確実に開口させることが容易であり、特に、開口させるために特殊な操作が不要で、工程が削減され、さらに、通孔を開口させた後には、通孔を塞ぎ、または開口させるために使用した材料等の廃棄において、廃棄物になる物質が環境に影響を与えないので、その処理が不要またはその処理が容易である管状物品、及びその製造方法を提供すること
【解決手段】水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂、好ましくは生分解性脂肪族ポリエステル樹脂から形成される成形品からなる層を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層してなることを特徴とする管状積層体、及び、管状積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂から形成される成形品からなる層を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層してなる管状積層体、及び、該管状積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー資源の確保及び環境保護等のために、石油、ガス、水、熱水、温泉等を地中から取り出したり、水質調査を行ったりする井戸(以下、総称して「坑井」という。)を掘削することの必要性が、高まっている。坑井を掘削するための装置、すなわち坑井掘削装置により、坑井、例えば、油井を掘削するには、通常、地表から所定の深さまで掘削を行って、その中にケーシングと呼ばれる鋼管を埋設し壁の崩壊を防止する。その後、ケーシングの先端から、更に地下を掘削してより深い井戸とし、先に埋設したケーシング内を通して新たなケーシングを埋設し、必要に応じてケーシングの径を調整し、この作業を繰り返して、最終的に油層に到達する油井管が敷設される。なお、掘削の工法によっては、ケーシングを使用しない場合もある。
【0003】
完成した油井管からは、石油等の産出流体を砂利、砂等と分離しながら地表まで排出する必要があることから、ケーシングや油井管等の坑井掘削装置用管状体には、それぞれ用途に応じた大きさの通孔が管壁に設けられている。例えば、産出する石油を回収する油井管には、製品となる産出石油に砂等が混在しないよう、管壁を貫通する通孔からなるスクリーンが適宜箇所に設けられている(特許文献1)。また、水質調査を行うための地下水サンプリング用の井戸においても、地下水を透過させるために、管壁にストレーナを形成した管状の採水ケーシングが用いられる(特許文献2)。
【0004】
これら坑井掘削装置用管状体については、スクリーンやストレーナに設けられた網目状等の孔は、坑井掘削工程においては塞がれていて、砂等の異物を管状体内部に進入させることがなく、坑井の完成後には所定の大きさで所定数の微細な通孔が存在するようにして、異物等の分離やろ別が可能となることが求められる。また、ケーシングに設けられた通孔は、所定の位置に埋設されるまでは、通孔が塞がれており、所定の位置に埋設された後には、所定の大きさで所定数の通孔が現れることが求められる。例えば、坑井掘削工程において、油井管のスクリーンが完全に塞がれず、砂等の異物が孔に詰まっているおそれがあると、坑井の完成後に、スクリーンの洗浄工程を繰り返す必要があったり、または、洗浄が十分でないため短期間で油井管のスクリーンが目詰まりして、産出効率が低下したり、短期間で油井管の交換が必要となったりして、生産効率においても経済性においても、大きな問題となることがあった。
【0005】
このため、油井管のスクリーンのフィルタリング層に一時的シール物質(temporary seal substance)を含浸させる(impregnate)ことが知られており、該一時的シール物質として、分解性ポリマー(degradable polymer)があること、分解性ポリマーとしては、多糖類、キチン質、キトサン、たんぱく質、脂肪族ポリエステル、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、脂肪族ポリカーボネート、ポリオルソエステル、ポリアミノ酸、ポリエチレンオキシド、またはポリホスファゼンなどがあることが知られている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3には、具体的な分解性ポリマーの選択、一時的シール物質の含浸方法、及び、廃棄後の一時的シール物質の処理方法について具体的な開示はみられない。
【0006】
そこで、坑井掘削装置用管状体にとどまらず、管壁を貫く通孔で形成されるスクリーンやストレーナー等の部材を備える管状体、すなわち管壁に通孔を有する管状体について、該通孔を、必要に応じて、確実に塞ぎ、かつ確実に開口させることが容易であり、特に、開口させるために特殊な操作が不要で、工程が削減され、さらに、通孔を開口させた後には、通孔を塞ぎ、または開口させるために使用した材料等の廃棄物の処理が容易である管状物品が求められ、また、その製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−48983号公報
【特許文献2】特開平9−41869号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/155772号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、管壁に通孔を有する管状体について、該通孔を、必要に応じて、確実に塞ぎ、かつ確実に開口させることが容易であり、特に、開口させるために特殊な操作が不要で、工程が削減され、さらに、通孔を開口させた後には、通孔を塞ぎ、または開口させるために使用した材料等の廃棄において、廃棄物になる物質が環境に影響を与えないので、その処理が不要またはその処理が容易である管状物品、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決することについて鋭意研究した結果、前記の管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に、水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂から形成される成形品からなる層を積層して、管状積層体とすることによって、課題を解決できることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明によれば、水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂から形成される成形品からなる層を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層してなる管状積層体が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、実施の態様として、以下(1)〜(9)の管状積層体が提供される。
【0012】
(1)分解性樹脂が生分解性樹脂である前記の管状積層体。
(2)生分解性樹脂が、生分解性ポリエステルである前記の管状積層体。
(3)生分解性ポリエステルが、生分解性脂肪族ポリエステルである前記の管状積層体。
(4)生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸−乳酸共重合体、及び、それらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記の管状積層体。
(5)分解性樹脂から形成される成形品からなる層が、温度90℃の水中に1週間浸漬後の重量減少率が50%以上である前記の管状積層体。
(6)成形品が、フィルムまたは繊維製品である前記の管状積層体。
(7)フィルムが、未延伸フィルム、延伸フィルム及び熱収縮フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記の管状積層体。
(8)繊維製品が、不織布、織布、編布、及び長繊維糸からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記の管状積層体。
(9)管壁に通孔を有する管状体基材が、坑井掘削装置用管状体である前記の管状積層体。
【0013】
さらに、本発明によれば、前記の管状積層体を製造する方法として、以下(I)〜(III)の製造方法が提供される。
【0014】
(I)分解性樹脂から形成される熱収縮性フィルムを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けた後、熱収縮性フィルムの熱収縮温度以上の温度に加熱して熱収縮性フィルムを熱収縮させて熱収縮フィルムとすることを含む前記の管状積層体を製造する方法。
(II)分解性樹脂から形成される延伸フィルムを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることを含む前記の管状積層体を製造する方法。
(III)分解性樹脂から形成される長繊維糸を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることを含む前記の管状積層体を製造する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂から形成される成形品からなる層を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層してなることを特徴とする管状積層体であることによって、管壁に通孔を有する管状体の該通孔を、必要に応じて、確実に塞ぎ、かつ確実に開口させることが容易であり、特に開口させるために特殊な操作が削減(工程削減)され、さらに、通孔を開口させた後には、通孔を塞ぎ、または開口させるために使用した材料等の廃棄に対して、廃棄物になる物質が環境に影響を与えないためにその処理が不要もしくはその処理が容易である管状物品が提供される、という効果が奏される。
【0016】
さらに、本発明によれば、分解性樹脂から形成されるフィルム等を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることを含むことによって、前記の管状積層体を容易に得ることができる管状積層体の製造方法が提供されるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂
本発明の管状積層体を構成する水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂は、水系溶媒の存在下で、必要により加熱することによって分解することができる樹脂である。
【0018】
水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂(以下、単に「分解性樹脂」ということがある。)は、水系溶媒中、すなわち、水中または水を含有する混合溶剤中で、分解することができる。水系溶媒として、自然界に存在する食塩など無機化合物を含む水を使用したり、抗井掘削用泥水として用いる場合には、掘削時の目的に応じその組成を調整するので、水に溶解する有機または無機化合物などを含有してもよい。
【0019】
水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂としては、例えば、多糖類、キチン質、キトサン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオルソエステル、ポリアミノ酸、ポリエーテルまたはポリホスファゼンなどが挙げられる。これらの分解性樹脂の中で、土壌や水中などの自然界に存在する微生物または酵素によって生分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性樹脂が好ましい。また、水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂の中では、生分解性ポリエステルがより好ましく、その中でも特に生分解性脂肪族ポリエステルは、抗井掘削等の環境下において適度に加水分解し、また酸または塩基によって分解が促進されるため、抗井掘削工程においてその作業時間の調整や制御も可能であり、より好ましい。
【0020】
2.生分解性ポリエステル
生分解性ポリエステルとしては、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルとの共重合ポリエステル、及びこれらの混合物が挙げられる。これらの生分解性ポリエステルに対しては、分解性や生分解性を損なわない範囲において、目的に応じて種々の化合物を、共重合させたり、高分子反応により複合化させたり、また混合させてもよい。さらに、これらの生分解性ポリエステルは、分解性や生分解性を発現させる物質として、他の材料との混合などにより複合化して使用することも可能である。
【0021】
(1)生分解性脂肪族ポリエステル
特に好ましく用いられる生分解性脂肪族ポリエステルとしては、グリコール酸繰り返し単位からなるポリグリコール酸(以下、「PGA」ということがある。)や乳酸繰り返し単位からなるポリ乳酸(以下、「PLA」ということがある。)等のヒドロキシカルボン酸系ポリエステル、ポリ−ε−カプロラクトン等のラクトン系ポリエステル、ポリエチレンサクシネートやポリブチレンサクシネート等のジオール・ジカルボン酸系ポリエステル、及び、これらの共重合体、例えば、グリコール酸繰り返し単位と乳酸繰り返し単位からなる共重合体(グリコール酸−乳酸共重合体)、並びに、これらの混合物などが知られている。
【0022】
生分解性脂肪族ポリエステルの中でも、PLAは、原料となるL−乳酸が、トウモロコシ、芋等から、発酵法により安価で得られること、自然農作物由来なので総二酸化炭素排出量が少ないこと、また得られたポリマーの性能として剛性が強く透明性がよいなどの特徴がある。また、PGAは、加水分解性及び生分解性が優れることに加えて、耐熱性、引張強度等の機械的強度にも優れる特徴がある。そのため、PGAは、農業資材、各種包装(容器)材料等としての利用が期待され、単独で、または他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。
【0023】
PGAとPLAは、本発明の管状積層体を得るに当たり、積層体の製造すなわち成形加工に適しており、また、管状積層体の管壁に設けられる通孔を、必要に応じて確実に塞ぐのに十分な機械的強度などの物性を発現するのに適しているとともに、抗井掘削等の環境下において適度に加水分解する点において、特に好ましい。
【0024】
生分解性脂肪族ポリエステルについて、更に詳述する。本発明の管状積層体を構成する生分解性脂肪族ポリエステルは、グリコール酸及びグリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)を含むグリコール酸類;乳酸及び乳酸の2分子間環状エステルであるラクチドを含む乳酸類;のほかに、シュウ酸エチレン(すなわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えばトリメチレンカーボネート等)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えばジオキサノン等)などの環状モノマー;3−ヒドロキシプロパン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール(ブチレングリコール)等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;等の脂肪族エステルモノマー類の単独重合体、または共重合体が含まれる。具体的には、例えば、式:(−O−CHR−CO−)[Rは、水素原子またはメチル基である。]で表されるグリコール酸または乳酸繰り返し単位を50質量%以上有する生分解性脂肪族ポリエステルや、ポリラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。なかでも、グリコール酸または乳酸繰り返し単位を50質量%以上有する生分解性脂肪族ポリエステルが好ましい。具体的には、PGA、すなわちグリコール酸の単独重合体、若しくは、グリコール酸繰り返し単位を50質量%以上有する共重合体;PLA、すなわち、ポリL−乳酸若しくはポリD−乳酸の単独重合体、L−乳酸若しくはD−乳酸の繰り返し単位を50質量%以上有する共重合体、または、これらの混合物;グリコール酸−乳酸共重合体;及び、上述したそれらの混合物;さらにはPGAとPLAとの混合物;が好ましい。特に好ましいのは、加水分解性、生分解性、耐熱性及び機械的強度の観点から、PGAまたはPLAである。
【0025】
これらの生分解性脂肪族ポリエステルは、例えば、それ自体公知のグリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の脱水重縮合により合成することができる。また、高分子量の生分解性脂肪族ポリエステルを効率よく合成するには、一般に、α−ヒドロキシカルボン酸の二分子間環状エステルを合成し、該環状エステルを開環重合する方法が採用されている。例えば、乳酸の二分子間環状エステルであるラクチドを開環重合すると、PLAが得られる。グリコール酸の二分子間環状エステルであるグリコリドを開環重合すると、PGAが得られる。
【0026】
PLAは、上記方法により合成することができるものであり、市販の製品としては、例えば、レイシアH−100、H−280、H−400、H−440等の「レイシア」(登録商標)シリーズ(三井化学株式会社製)、3001D、3051D、4032D、4042D、6201D、6251D、7000D、7032D等の「Ingeo」(登録商標)(ネイチャーワークス社製)、エコプラスチックU’z S−09、S−12、S−17等の「エコプラスチックU’zシリーズ」(トヨタ自動車株式会社製)、「バイロエコール」(登録商標)(東洋紡績株式会社製)などが、強度、可撓性及び耐熱性等の観点から、好ましく選択される。
【0027】
以下、生分解性脂肪族ポリエステルとして、主にPGAを例にとって、更に説明するが、PLAその他の生分解性脂肪族ポリエステルについても、PGAに準じて発明を実施するための形態をとることができる。
【0028】
〔ポリグリコール酸(PGA)〕
本発明の管状積層体を構成するPGAとして、特に好ましく用いられるPGAは、式:(−O−CH−CO−)で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸のホモポリマー(グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)の開環重合物を含む)に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を50質量%以上含むPGA共重合体を含むものである。
【0029】
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(すなわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類、カーボネート類、エーテル類、エーテルエステル類、アミド類などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。これらコモノマーは、その重合体を、上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるための出発原料として用いることもできる。
【0030】
本発明の管状積層体を構成するPGA中の上記グリコール酸繰り返し単位は50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上である実質的にPGAホモポリマーである。グリコール酸繰り返し単位の割合が小さすぎると、PGAに期待される強度や生分解性が乏しくなる。グリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位は、50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、最も好ましくは1質量%以下の割合で用いられ、グリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位を含まないものでもよい。
【0031】
本発明の管状積層体を構成するPGAとしては、所望の高分子量ポリマーを効率的に製造するために、グリコリド50〜100質量%及び上記した他のコモノマー50〜0質量%を重合して得られるPGAが好ましい。他のコモノマーとしては、2分子間の環状モノマーであってもよいし、環状モノマーでなく両者の混合物であってもよいが、本発明が目的とする管状積層体とするためには、環状モノマーが好ましい。以下、グリコリド50〜100質量%及び他の環状モノマー50〜0質量%を開環重合して得られるPGAについて詳述する。
【0032】
〔グリコリド〕
開環重合によってPGAを形成するグリコリドは、ヒドロキシカルボン酸の1種であるグリコール酸の2分子間環状エステルである。グリコリドの製造方法は、特に限定されないが、一般的には、グリコール酸オリゴマーを熱解重合することにより得ることができる。グリコール酸オリゴマーの熱解重合法として、例えば、溶融解重合法、固相解重合法、溶液解重合法などを採用することができ、また、クロロ酢酸塩の環状縮合物として得られるグリコリドも用いることができる。
【0033】
本発明の管状積層体を構成するPGAは、グリコリドのみを開環重合させて形成してもよいが、他の環状モノマーを共重合成分として同時に開環重合させて共重合体を形成してもよい。共重合体を形成する場合には、グリコリドの割合は、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上である実質的にPGAホモポリマーである。
【0034】
〔他の環状モノマー〕
グリコリドとの共重合成分として使用することができる他の環状モノマーとしては、ラクチドなど他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルの外、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサンなどの環状モノマーを使用することができる。好ましい他の環状モノマーは、他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルであり、ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、L−乳酸、D−乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、及びこれらのアルキル置換体などを挙げることができる。特に好ましい他の環状モノマーは、乳酸の2分子間環状エステルであるラクチドであり、L体、D体、ラセミ体、これらの混合物のいずれであってもよい。
【0035】
他の環状モノマーは、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、最も好ましくは1質量%以下の割合で用いられる。PGAが、グリコリド100質量%から形成される場合は、他の環状モノマーは0質量%であり、このPGAも本発明の範囲に含まれる。グリコリドと他の環状モノマーとを開環共重合することにより、PGA(共重合体)の融点を低下させて加工温度を下げたり、結晶化速度を制御して押出加工性や延伸加工性を改善することができる。
【0036】
〔開環重合反応〕
グリコリドの開環重合または開環共重合(以下、総称して、「開環(共)重合」ということがある。)は、好ましくは、少量の触媒の存在下に行われる。触媒は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化錫(例えば、二塩化錫、四塩化錫など)や有機カルボン酸錫(例えば、2−エチルヘキサン酸錫などのオクタン酸錫)などの錫系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物;などがある。触媒の使用量は、環状エステルに対して、質量比で、好ましくは1〜1,000ppm、より好ましくは3〜300ppmである。
【0037】
グリコリドの開環(共)重合は、生成するPGAの分子量や溶融粘度等の物性を制御するために、ラウリルアルコール等の高級アルコールやエチレングリコール等のジオール、その他のアルコール類や水などのプロトン性化合物を分子量調節剤として使用することができる。グリコリドには通常、微量の水分と、グリコール酸及び直鎖状のグリコール酸オリゴマーからなるヒドロキシカルボン酸化合物類が不純物として含まれていることがあり、これらの化合物も重合反応に作用する。そのため、これらの不純物の濃度を、例えばこれらの化合物中のカルボン酸量を中和滴定などによりモル濃度として定量し、この定量値に基づいて、目的の分子量等に応じプロトン性化合物としてアルコール類や水を添加し、全プロトン性化合物のモル濃度をグリコリドに対して制御することにより生成PGAの分子量等を調整することができる。また、物性改良のために、グリセリンなどの多価アルコールを添加してもよい。
【0038】
グリコリドの開環(共)重合は、塊状重合でも、溶液重合でもよいが、多くの場合、塊状重合が採用される。塊状重合の重合装置としては、押出機型、パドル翼を持った縦型、ヘリカルリボン翼を持った縦型、押出機型やニーダー型の横型、アンプル型、板状型、管状型など様々な装置の中から、適宜選択することができる。また、溶液重合には、各種反応槽を用いることができる。
【0039】
重合温度は、実質的な重合開始温度である120℃から300℃までの範囲内で目的に応じて適宜設定することができる。重合温度は、好ましくは130〜270℃、より好ましくは140〜260℃、特に好ましくは150〜250℃である。重合温度が低すぎると、生成したPGAの分子量分布が広くなりやすい。重合温度が高すぎると、生成したPGAが熱分解を受けやすくなる。重合時間は、3分間〜50時間、好ましくは5分間〜30時間の範囲内である。重合時間が短すぎると重合が十分に進行し難く、所定の分子量を実現することができない。重合時間が長すぎると生成したPGAが着色しやすくなる。
【0040】
生成したPGAを固体状態とした後、所望により、更に固相重合を行ってもよい。固相重合とは、後述するPGAの融点(Tm)未満の温度で加熱することにより、固体状態を維持したままで熱処理する操作を意味する。この固相重合により、未反応モノマー、オリゴマーなどの低分子量成分が揮発・除去される。固相重合は、好ましくは1〜100時間、より好ましくは2〜50時間、特に好ましくは3〜30時間で行われる。
【0041】
本発明の管状積層体が、PGAから形成される成形品の層を備える場合、PGAに加えて、本発明の目的に反しない限度において、他の脂肪族ポリエステル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル類;変性ポリビニルアルコール;ポリウレタン;ポリL−リジン等のポリアミド類;などの他の樹脂や、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、末端封止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、ワックス類、着色剤、結晶化促進剤、水素イオン濃度調節剤、補強繊維等の充填材などの通常配合される添加剤を必要に応じて配合することができる。また、必要に応じて、抗菌剤、殺菌剤、防かび剤等の添加剤を配合することができる。これら他の樹脂や添加剤の配合量は、PGA100質量部に対して、通常50質量部以下、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下であり、5質量部以下または1質量部以下の配合量でよい場合もある。
【0042】
特に、PGAに、カルボキシル基末端封止剤または水酸基末端封止剤を配合すると、管状積層体の耐候性、耐熱性や長期保存性が向上するので好ましい。すなわち、カルボキシル基末端封止剤または水酸基末端封止剤を配合することにより、管状積層体を所期の目的で使用する前の保存中の耐加水分解性が改善され、保存中の分子量低下を抑制することができるとともに、廃棄時の生分解性の度合いを調整することができる。末端封止剤としては、カルボキシル基末端封止作用または水酸基末端封止作用を有し、脂肪族ポリエステルの耐水性向上剤として知られている化合物を用いることができる。保存中の耐加水分解性、水系溶媒中での分解性、及び生分解性のバランスの観点から、カルボキシル基末端封止剤が特に好ましい。カルボキシル基末端封止剤としては、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物;2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン等のオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロへキセンオキシド、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート等のエポキシ化合物;などが挙げられる。これらのカルボキシル基末端封止剤の中でも、カルボジイミド化合物が好ましく、芳香族、脂環族、及び脂肪族のいずれのカルボジイミド化合物も用いられるが、とりわけ芳香族カルボジイミド化合物が好ましく、特に純度の高いものが保存中の耐水性改善効果を与える。また、水酸基末端封止剤としては、ジケテン化合物、イソシアネート類などが用いられる。カルボキシル基末端封止剤または水酸基末端封止剤は、PGA100質量部に対して、通常0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜3質量部、より好ましくは0.1〜1質量部の割合で用いられる。
【0043】
また、PGAに熱安定剤を配合すると、加工時の熱劣化を抑制することができ、管状積層体の長期保存性が更に向上するので、より好ましい。熱安定剤としては、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト等のペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル;モノ−またはジ−ステアリルアシッドホスフェートあるいはこれらの混合物等の、炭素数が好ましくは8〜24のアルキル基を有するリン酸アルキルエステルまたは亜リン酸アルキルエステル;炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸金属塩;一般に重合触媒不活性剤として知られる、ビス[2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジン]ドデカン酸、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジンなどの−CONHNH−CO−単位を有するヒドラジン系化合物;3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール系化合物;トリアジン系化合物;などが挙げられる。熱安定剤は、PGA100質量部に対して、通常3質量部以下、好ましくは0.001〜1質量部、より好ましくは0.005〜0.5質量部、特に好ましくは0.01〜0.1質量部(100〜1,000ppm)の割合で用いられる。
【0044】
(2)芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルとの共重合ポリエステル
生分解性ポリエステルとしては、芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルとの共重合ポリエステルも好ましく使用することができる。芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルとの共重合ポリエステルとしては、芳香族ポリエステル成分として、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート類、ポリエチレンイソフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート等のポリアルキレンイソフタレート類、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレート類、シクロヘキサンジメタノールをジオール成分に有するポリエステル類、これらのポリエステル類に3価以上のアルコール類を必要に応じて共重合したポリエステル類、さらにはこれらポリエステル類を二種類以上組み合わせた共重合ポリエステル類などを有し、また、脂肪族ポリエステル成分として、上記に示した生分解性脂肪族ポリエステルと同じポリエステル類などを有するものが挙げられる。芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルとの共重合ポリエステルからなる生分解性ポリエステルは、市販品としては、例えば、Biomax(登録商標)(DuPont社製)、Ecoflex(登録商標)(BASF社製)などが、強度、可撓性及び耐熱性等の観点から、好ましく選択される。
【0045】
3.分解性樹脂の物性等
〔平均分子量(Mw)〕
本発明の管状積層体を構成する分解性樹脂の平均分子量(Mw)は、特に限定されない。例えば、PGAの場合の平均分子量(Mw)は、2万以上であり、通常2〜100万の範囲内にあるものが好ましく、より好ましくは5〜80万、更に好ましくは7〜60万、特に好ましくは10〜40万の範囲内にあるものを選択する。本発明において、分解性樹脂の平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析装置を使用して求めた重量平均分子量である。例えば、分解性樹脂がPGAである場合は、PGA試料を、トリフルオロ酢酸ナトリウムを所定の濃度で溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解させた後、メンブレンフィルターでろ過して試料溶液を得て、この試料溶液をGPC分析装置に注入して分子量を測定した結果から、平均分子量(Mw)を算出する。また、本発明の管状積層体を構成する分解性樹脂がPLAである場合、PLAの平均分子量(Mw)は、好ましくは5〜100万、より好ましくは6〜80万、更に好ましくは7〜60万の範囲である。
【0046】
〔溶融粘度〕
本発明の管状積層体を構成する分解性樹脂の溶融粘度は特に限定されない。例えば、PGAの場合、通常100〜10,000Pa・sであり、好ましくは200〜8,000Pa・s、より好ましくは300〜4,000Pa・s、更に好ましくは400〜3,000Pa・sの範囲である。分解性樹脂の溶融粘度が小さすぎると、管状積層体の強度などの機械的特性が不十分となり、また、長期保存性が不足することがある。分解性樹脂の溶融粘度は、該分解性樹脂の融点(Tm)+20℃の温度、せん断速度122sec−1の条件下で測定したものである。
【0047】
〔融点(Tm)〕
本発明の管状積層体を構成する分解性樹脂の融点(Tm)は、特に限定がない。例えば、PGAの融点(Tm)は、通常197〜245℃であり、平均分子量(Mw)、共重合成分の種類及び含有割合等によって調整することができる。PGAの融点(Tm)は、好ましくは200〜240℃、より好ましくは205〜235℃、特に好ましくは210〜230℃である。PGAの単独重合体の融点(Tm)は、通常220℃程度である。また、PLAの融点(Tm)は、好ましくは140〜190℃、より好ましくは145〜185℃、更に好ましくは150〜175℃の範囲である。分解性樹脂の融点(Tm)が低すぎると、管状積層体の耐熱性や強度が不十分となることがある。融点(Tm)が高すぎると、フィルムや長繊維糸とするための加工性が不足したり、管状積層体の形成を十分制御できなかったりすることがある。分解性樹脂の融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気中で求めたものである。具体的には、PGA等の分解性樹脂試料を、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、室温から融点(Tm)+60℃付近の温度まで加熱する昇温過程で検出される、結晶溶融に伴う吸熱ピークの温度を意味する。該吸収ピークが複数みられる場合には、吸熱ピーク面積が最も大きいピークを融点(Tm)とする。
【0048】
〔ガラス転移温度(Tg)〕
本発明の管状積層体を構成する分解性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されない。例えば、PGAのガラス転移温度(Tg)は、通常25〜60℃であり、好ましくは30〜50℃、より好ましくは35〜45℃である。PGAのガラス転移温度(Tg)は、平均分子量(Mw)、共重合成分の種類及び含有割合等によって調整することができる。分解性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、融点(Tm)の測定と同様に、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気中で求めたものである。具体的には、PGA等の分解性樹脂試料を、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、室温から融点(Tm)+60℃付近の温度まで加熱する昇温過程で検出される、ガラス状態からゴム状態への転移領域に相当する二次転移領域における熱量の二次転移の開始温度をガラス転移点(Tg)とする。ガラス転移温度(Tg)が低すぎると、得られる管状積層体表面が過度に軟化し、管状積層体の耐熱性や強度が不十分となることがある。ガラス転移温度(Tg)が高すぎると、成形性が悪くなることがある。
【0049】
また、本発明の管状積層体を構成する分解性樹脂がPLAである場合、PLAのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは45〜75℃、より好ましくは50〜70℃、更に好ましくは55〜68℃の範囲内である。
【0050】
4.水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂から形成される成形品からなる層
本発明の管状積層体は、生分解性脂肪族ポリエステル等の、分解性樹脂から形成される成形品からなる層(以下、「分解性樹脂成形品層」ということがある。)を備えるものである。分解性樹脂成形品層は、分解性樹脂を50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有する、分解性樹脂を主体とする樹脂成形品層である。
【0051】
本発明の管状積層体は、分解性樹脂成形品層を、1層以上備えるものであり、2層以上備えるものであってもよい。分解性樹脂成形品層の厚みは、通常1μm〜30mm、好ましくは3μm〜25mm、より好ましくは5μm〜20mm、更に好ましくは10μm〜15mmであり、管状積層体または分解性樹脂から形成される成形品に応じて、最適の範囲を定めることができる。分解性樹脂成形品層の厚みが、1μm未満であったり、30mmを超えたりするものでは、本発明が目的とする管状積層体を得ることができない。なお、管状積層体が、分解性樹脂成形品層を2層以上備える場合は、分解性樹脂成形品層の厚みは、分解性樹脂成形品層の合計厚みを意味する。
【0052】
分解性樹脂から形成される成形品は、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層することができるものであれば、特に限定されないが、管状積層体の強度等の機械的特性、長期保存性、水系溶媒中での優れた分解性、及び生分解性等を有する成形品であることが好ましく、具体的には、成形品が、フィルムまたは繊維製品であることが好ましい。
【0053】
本発明において、フィルムとは、フィルム及びシートを総称するものである。また、繊維製品とは、布帛及び長繊維糸を総称するものであって、布帛は、織布、編布または不織布等の総称であり、長繊維糸は、径に対して長さが極めて大きい連続したフィラメント糸を意味し、モノフィラメント糸またはマルチフィラメント糸を意味する。以下、成形品が、フィルムまたは長繊維糸である場合に関し、分解性樹脂成形品層について詳述する。
【0054】
(1)分解性樹脂から形成されるフィルムからなる層
本発明の管状積層体が備える、分解性樹脂から形成されるフィルムからなる層(以下、「分解性樹脂フィルム層」ということがある。)の厚みは、1μm〜30mm、好ましくは3μm〜20mm、より好ましくは5μm〜15mm、更に好ましくは10μm〜10mmの範囲である。分解性樹脂フィルム層の厚みが小さすぎると、管状積層体の強度等の機械的特性や使用前の保存性が不足することがある。分解性樹脂フィルム層の厚みが大きすぎると、該フィルムの加工性が悪く、管状体基材との密着性が不足することがあり、また、加水分解または生分解に要する時間が長くなりすぎることがある。分解性樹脂フィルム層は、1枚のフィルムから形成される層でもよいし、加工性や製造の容易さの観点から、同一または異なる厚みを有する薄いフィルムを重ねることによって、必要な厚さを有する層を形成したものでもよい。薄いフィルムを重ねる枚数は、2〜20枚の範囲で適宜選定することができ、多くの場合5〜15枚の範囲が好適である。
【0055】
分解性樹脂フィルム層を形成するために用いる分解性樹脂から形成されるフィルム(以下、「分解性樹脂フィルム」ということがある。)としては、未延伸フィルム、延伸フィルム、または、熱収縮性フィルムを加熱して熱収縮させて得られる熱収縮フィルムを使用することができる。
【0056】
〔分解性樹脂から形成される未延伸フィルム及びその製造方法〕
分解性樹脂未延伸フィルムの厚みは、好ましくは1μm〜3mm、より好ましくは5μm〜2mm、更に好ましくは10μm〜1.5mm、特に好ましくは20μm〜1mm、最も好ましくは30〜500μmの範囲とすることができる。先に述べたように、分解性樹脂フィルム層は、1枚または複数枚のフィルムから形成することができるので、分解性樹脂未延伸フィルムの厚みは、分解性樹脂未延伸フィルムの合計厚みを意味する。
【0057】
分解性樹脂を主体とする樹脂を製膜して未延伸フィルムを得る方法は、それ自体公知のフィルムの製造方法を採用することができる。例えば、前記の分解性樹脂を主体とする樹脂を、押出機にて溶融した後、Tダイ等から押し出し、表面温度を0〜50℃、多くの場合10〜30℃に温調した冷却ドラム上に密着させて急冷することにより、分解性樹脂未延伸フィルムを得ることができる。
【0058】
〔分解性樹脂から形成される延伸フィルム及びその製造方法〕
分解性樹脂から形成される延伸フィルム(以下、「分解性樹脂延伸フィルム」ということがある。)は、分解性樹脂を主体とする樹脂を製膜して得た未延伸フィルムを、一軸延伸または二軸延伸したフィルムである。管状積層体の強度等の機械的特性や厚みの均一性などの観点から、二軸延伸フィルムが好ましい。
【0059】
分解性樹脂を主体とする樹脂を製膜して未延伸フィルムを得る方法は、分解性樹脂未延伸フィルムについて述べたと同様に、それ自体公知のフィルムの製造方法を採用することができる。得られた未延伸フィルムから、分解性樹脂延伸フィルムを製造する方法は、それ自体公知の延伸フィルムの製造方法を採用することができる。例えば、一軸延伸の方式としては、ロール延伸による縦延伸を用いることができる。二軸延伸の方式としては、フラット式逐次二軸延伸、フラット式同時二軸延伸、チューブラ式同時二軸延伸等の方式を用いることができるが、フィルムの厚み斑が小さく、フィルム幅方向の物性が均一であることからフラット式逐次二軸延伸、フラット式同時二軸延伸が好ましい。逐次二軸延伸を用いる場合は、一段目に縦方向に延伸し、二段目に横方向に延伸する方法が挙げられる。
【0060】
分解性樹脂延伸フィルムの延伸倍率は、面倍率として、4倍以上が好ましく、より好ましくは6倍以上、更に好ましくは8倍以上である。面倍率が4倍未満の場合、厚み斑の発生、強度の不足など物性面で不具合が生じることがある。面倍率の上限は、特に限定されないが、延伸フィルムに破断が生じたり、分解性が不均一となったりすることがないという観点から、通常20倍以下、多くの場合18倍以下とすればよい。本発明において面倍率とは、縦方向の延伸倍率と、横方向の延伸倍率との積を指す。一方向に多段の延伸を施した場合は、それらの延伸倍率をすべて掛け算する。同一方向への連続した多段延伸は、一段の延伸として扱う。例えば、連続して縦方向に1.2倍、次いで1.5倍に延伸した場合は、1.8倍の縦方向の延伸となる。
【0061】
延伸時におけるフィルムの温度、すなわち延伸温度は、分解性樹脂のガラス転移温度(Tg)+2℃〜Tg+25℃の範囲が好ましく、より好ましくはTg+2℃〜Tg+20℃、更に好ましくはTg+2℃〜Tg+15℃の範囲である。この温度範囲は、逐次二軸延伸の場合には、すべての延伸工程において適用される必要がある。延伸温度が、この温度範囲を外れると、延伸時にフィルムが破断したり、ネック延伸になって厚み斑が大きくなったりすることがある。
【0062】
分解性樹脂延伸フィルムは、必要に応じ、加熱雰囲気下で、または熱盤に接触させて、好ましくは緊張下で、熱処理することによって熱固定することができる。熱処理の温度としては、Tg+20℃〜Tm−20℃、好ましくはTg+30℃〜Tm−30℃、好ましくはTg+40℃〜Tm−40℃の範囲とすればよい。熱処理を行う時間は、5秒間〜5分間、より好ましくは10秒間〜3分間程度である。この熱処理によって、延伸されたフィルム中の分子配向が固定され、熱収縮が抑制される。熱処理温度が低すぎたり、熱処理時間が短すぎると、十分な熱固定を行うことが困難となり、延伸フィルムの耐熱収縮性が低下する。延伸フィルムの熱固定を行わないと、フィルムの熱収縮が生じるほか、収縮部分が白化したりすることがある。
【0063】
分解性樹脂延伸フィルムの厚みは、好ましくは1μm〜3mm、より好ましくは5μm〜2mm、更に好ましくは10μm〜1.5mm、特に好ましくは12μm〜1mm、最も好ましくは15〜500μmの範囲とすることができる。先に述べたように、分解性樹脂フィルム層は、1枚または複数枚のフィルムから形成することができるので、分解性樹脂延伸フィルムの厚みは、分解性樹脂延伸フィルムの合計厚みを意味する。
【0064】
〔分解性樹脂から形成される熱収縮フィルム及びその製造方法〕
分解性樹脂から形成される熱収縮フィルムは、分解性樹脂から形成され熱収縮性能を有する熱収縮性フィルム(以下、「分解性樹脂熱収縮性フィルム」ということがある。)を加熱して熱収縮させて得られる熱収縮フィルムである。分解性樹脂熱収縮性フィルムは、先に述べた分解性樹脂未延伸フィルムの製造方法と同様にして、分解性樹脂を主体とする樹脂を製膜して未延伸フィルムを得た後、未延伸フィルムを、一軸延伸または二軸延伸することによって得ることができる。管状積層体の強度等の機械的特性や厚みの均一性などの観点から、二軸延伸することによって得ることが好ましい。延伸方法及び延伸温度は、分解性樹脂延伸フィルムを得るときと同様である。熱収縮性をもたせるために、延伸フィルムを熱処理して行う熱固定は、通常行わないが、必要に応じて、弛緩下または若干の緊張下で短時間の熱処理を行うことにより、分解性樹脂熱収縮性フィルムの熱収縮率を調整することができる。
【0065】
分解性樹脂熱収縮性フィルムの延伸倍率は、面倍率として、1.2〜4.0倍、好ましくは1.3〜3.5倍、より好ましくは1.5〜3.2倍、更に好ましくは1.6〜3.0倍の範囲である。延伸倍率が小さすぎたり、大きすぎたりすると、熱収縮後のフィルムの厚みが不均一となったり、強度に斑が生じたりすることがある。
【0066】
分解性樹脂熱収縮性フィルムは、温度90℃の熱水中における10秒間の収縮率(以下、「熱水収縮率」という。)が、縦方向(MD)及び/または横方向(TD)の少なくとも1方向について、好ましくはMD及びTDの2方向について、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上の熱収縮性能を有するものである。熱水収縮率の上限は、通常50%、多くの場合40%であることが好ましい。熱水収縮率が10%未満であると、管状体基材との密着性が悪くなる。他方、熱水収縮率が50%を超えると、収縮応力が強くなり、管状積層体の表面形状が不均一となったり、極端な場合には管壁の通孔を過度に強固に塞いだりするおそれがある。分解性樹脂熱収縮性フィルムの熱水収縮率の具体的な測定方法は、以下のとおりである。すなわち、1つの分解性樹脂熱収縮性フィルムから、5枚の試料フィルムを切り出して、各試料フィルムの縦方向(機械方向、MD)及び横方向(機械方向に垂直な方向、TD)に距離10cmの間隔で印を付ける。試料フィルムを、温度90℃に調整した水に10秒間浸漬した後、取り出して直ちに常温の水で冷却し、印を付けた距離を測定して、10cmから減少した印の間の距離の、収縮前の距離(10cm)に対する割合を百分率で表示する。5枚の分解性樹脂熱収縮性フィルムについて、縦方向及び横方向のそれぞれの平均値を求めて「熱水収縮率(温度90℃−10秒後)」として表示する。
【0067】
分解性樹脂熱収縮性フィルムの厚みは、好ましくは1μm〜3mm、より好ましくは5μm〜2mm、更に好ましくは10μm〜1.5mm、特に好ましくは15μm〜1.2mmの範囲とすることができる。先に述べたように、分解性樹脂フィルム層は、1枚または複数枚のフィルムから形成することができるので、分解性樹脂熱収縮性フィルムの厚みは、分解性樹脂熱収縮性フィルムの合計厚みを意味する。
【0068】
分解性樹脂熱収縮性フィルムは、該熱収縮性フィルムの熱収縮温度以上の温度、通常、分解性樹脂のガラス転移温度(Tg)+20℃以上、好ましくはTg+23℃以上、より好ましくはTg+25℃以上、更に好ましくはTg+27℃以上の温度に加熱することにより、熱収縮して、熱収縮フィルムとすることができる。分解性樹脂から形成される熱収縮フィルムの厚みは、分解性樹脂熱収縮性フィルムの厚みと略同一である。分解性樹脂熱収縮性フィルムを、後に詳述する管状体基材にあらかじめ緩く巻き付けて被せておくことにより、該分解性樹脂熱収縮性フィルムを熱収縮させるとともに、管状体基材と積層一体化させることができる。熱収縮を行うための加熱温度の上限は、収縮後に形成される分解性樹脂フィルムの層の表面の均一性の観点から、通常、分解性樹脂の融点(Tm)−48℃、好ましくはTm−50℃程度である。熱収縮を行うための時間は、加熱温度により異なるが、通常5秒間〜10分間、好ましくは10秒間〜8分間、より好ましくは20秒間〜6分間である。
【0069】
(2)分解性樹脂から形成される長繊維糸からなる層
本発明の管状積層体が備える、分解性樹脂から形成される長繊維糸からなる層(以下、「分解性樹脂長繊維糸層」ということがある。)は、分解性樹脂から形成される長繊維糸(以下、「分解性樹脂長繊維糸」という。)であるモノフィラメント糸またはマルチフィラメント糸から形成される層である。
【0070】
分解性樹脂長繊維糸層の厚みは、好ましくは5μm〜30mm、より好ましくは10μm〜20mm、更に好ましくは20μm〜15mm、特に好ましくは50μm〜12mmの範囲である。
【0071】
〔分解性樹脂から形成される長繊維糸及びその製造方法〕
分解性樹脂から形成される長繊維糸、すなわちモノフィラメント糸またはマルチフィラメント糸である分解性樹脂長繊維糸は、それ自体公知の長繊維糸の製造方法を採用して得ることができるものである。例えば、分解性樹脂を主体とする樹脂を、押出機にて溶融した後、紡糸ノズルから糸状に押出して紡糸し、温度10℃以下に調整した冷媒中で急冷し、速やかに、分解性樹脂のガラス転移温度(Tg)+2℃〜Tg+45℃、好ましくはTg+5℃〜Tg+40℃、より好ましくはTg+10℃〜Tg+35℃の範囲に温度調整した雰囲気下または媒体中で、2倍以上、好ましくは2.5倍以上、より好ましくは3倍以上に延伸し、必要により、二段延伸や熱処理を行うことによって、分解性樹脂から形成されるモノフィラメント糸を製造することができる。分解性樹脂から形成されるマルチフィラメント糸を製造するためには、モノフィラメント糸を所定本数、好ましくは5〜500本、より好ましくは10〜100本引き揃えて、通常の方法により撚り合わせる。「モノフィラメント糸」または「マルチフィラメント糸」を、「延伸モノフィラメント糸」または「延伸マルチフィラメント糸」ということがあり、これらを総称して、「延伸糸」ということがある。
【0072】
分解性樹脂から形成される長繊維糸の繊度は、モノフィラメント糸で0.5〜100デニール、好ましくは1.5〜50デニールであり、マルチフィラメント糸では、5〜10,000デニール、好ましくは15〜5,000デニール程度とすればよい。
【0073】
5.管壁に通孔を有する管状体基材
本発明の管状積層体は、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に、前記の分解性樹脂成形品層を積層してなるものである。
【0074】
管壁に通孔を有する管状体基材とは、管壁に管の内外表面を貫く孔を有する管状の物品である。該管状体基材の管径は、1cm〜1m、多くの場合5〜70cm、通常10〜50cmの範囲で選択することができる。管状体基材の長さは、5cm〜100m、多くの場合10cm〜50m、通常20cm〜10mの範囲で選択することができるが、諸テスト用に用いる場合においては、25cm〜1mの範囲のものを使用してもよい。
【0075】
管壁に通孔を有する管状体基材における通孔、すなわち、管の内外表面を貫く孔は、個数、形状及び配置等に特に限定はないが、通例複数個の通孔が管壁に設けられる。通孔の形状としては、細かい網目状またはメッシュ状、スリット状の孔や、直径1mm〜数cm程度の略円形の孔などが挙げられる。通孔の配置としては、管状体基材の管壁のほぼ全体に設けられてもよいし、管壁の一部分のみに設けられてもよく、複数の部分に設けられてもよい。
【0076】
管壁に通孔を有する管状体基材の材料は、ステンレス鋼、アルミニウム、黄銅、青銅、銅、ニッケル、チタン、及びそれらの合金等の金属類の外、硬質プラスチックも使用することができる。すなわち、管状体基材は、金属管や樹脂管などである。場合によっては、管状体基材の外表面及び/または内表面に、防錆剤、防腐剤などにより表面処理を施したものであってもよい。
【0077】
管壁に通孔を有する管状体基材の通孔の大きさは、通常200メッシュ(目開き径約0.13mm)〜5cm、好ましくは150メッシュ(目開き径約0.17mm)〜4cm、より好ましくは100メッシュ(目開き径約0.25mm)〜3cmの範囲のものが採用できる。該通孔の形状としては、四角形(正方形、長方形、菱形等)、六角形(亀甲形)、円形、楕円形その他の任意の形状を採用でき、また、形状が異なる通孔を混在させたり、同一形状で向きが異なる通孔を混在させてもよい。管壁の表面積に対する通孔による開口率は、5〜90%、好ましくは10〜85%、より好ましくは15〜80%の範囲である。通孔の形成方法は制限がなく、パンチングメタル等の穿孔によるもの、平面状の網状体を丸めて管状体としたもの、溶接金網などが採用される。
【0078】
管壁に通孔を有する管状体基材としては、具体的には、メッシュフィルター、管状ハニカム、坑井掘削装置用管状体(管壁に通孔で形成されるスクリーン、ケーシング等を有する。)、地下水サンプリング装置用管状体(管壁に通孔で形成されるストレーナー等を有する。)などが挙げられる。特に、坑井掘削装置用管状体が、管状体基材として好ましく採用される。
【0079】
〔坑井掘削装置用管状体〕
坑井掘削装置用管状体は、坑井掘削装置に使用される管状体である。坑井掘削装置は、先に述べたように、石油、ガス、水、熱水、温泉等を地中から取り出す井戸(「坑井」)を掘削するための装置である。坑井、例えば、油井を掘削するには、通常、地表から所定の深さまで掘削し、その中にケーシングと呼ばれる鋼管を埋設し壁の崩壊を防止する。その後、ケーシングの先端から、更に地下を掘削してより深い井戸とし、先に埋設したケーシング内を通して新たなケーシングを埋設し、必要に応じてケーシングを拡径または変形し、この作業を繰り返して、最終的に油田に到達する油井管が敷設されるものである。
【0080】
掘削工程において、または完成した油井管からは、石油等の産出流体、地下水、掘削した土、砂利、砂等を、それぞれ分離しながら地表まで排出する必要があることから、ケーシングや油井管等の坑井掘削装置用管状体には、それぞれ用途に応じた大きさの通孔が管壁に設けられている。特に、産出する石油を回収する油井管等には、製品となる産出石油に砂等が混在しないよう細かい網目状等の形状の孔からなるスクリーンが適宜箇所に設けられている。
【0081】
油井管のスクリーン等に設けられた網目状等の孔は、坑井掘削工程においては塞がれていて、砂等の異物を管状体内部に進入させることがなく、坑井の完成後には所定の大きさで所定数の微細な通孔が存在するようにして、異物等の分離、ろ別が可能となることが求められる。また、ケーシング等に設けられた通孔は、所定の位置に埋設され所定の形状に至るまでは、通孔が塞がれており、所定の位置に埋設され所定の形状となった後には、所定の大きさで所定数の通孔が現れることが求められる。例えば、坑井掘削工程において、油井管のスクリーン等が完全に塞がれず、砂等の異物が孔に詰まっているおそれがあると、坑井の完成後に、スクリーンの洗浄工程を繰り返す必要があったり、または、洗浄が十分でないため短期間で油井管のスクリーン等が目詰まりして、産出効率が低下したり、短期間で油井管の交換が必要となったりして、生産効率においても経済性においても、大きな問題を生じる。
【0082】
6.管状積層体
本発明の管状積層体は、ケーシングや油井管等の坑井掘削装置用管状体など、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に、分解性樹脂成形品層を積層してなることを特徴とする管状積層体である。
【0083】
本発明による、分解性樹脂成形品層を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層してなる管状積層体は、分解性樹脂成形品層によって、管状体基材の管壁に設けられた通孔が塞がれている。したがって、例えば、管状体基材が、油井管等の坑井掘削装置用管状体である場合は、本発明の管状積層体は、掘削工程においては、砂や砂利等によりスクリーン等が塞がれてしまうことを確実に防止することができるとともに、坑井の完成後には、水系溶媒中で処理することにより分解性樹脂を分解させて、分解性樹脂成形品層を容易に除去することができる。その結果、管壁に所定の大きさで所定数の微細な通孔を有する坑井掘削装置用管状体を得ることができる。
【0084】
〔熱水中の重量減少率〕
本発明の管状積層体における分解性樹脂成形品層は、温度90℃の水中に1週間浸漬後の重量減少率(以下、「熱水中の重量減少率」ということがある。)が50%以上であることが、実用上好ましい。熱水中の重量減少率は、より好ましくは54%以上、更に好ましくは57%以上、特に好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上であると、水系溶媒中における分解性樹脂の分解を効率的に進めることができる。本発明の管状積層体における熱水中の重量減少率の上限は、いうまでもなく100%である。
【0085】
管状積層体における分解性樹脂成形品層の熱水中の重量減少率の測定方法は以下のとおりである。すなわち、長さ20cmに裁断した管状積層体の試料を、あらかじめ温度23℃、相対湿度65%で24時間調湿して管状積層体の重量を測定し、管状体基材(長さ20cm)の重量を差し引いた値を、処理前の分解性樹脂成形品層の重量(「処理前分解性樹脂重量」という。)とする。次いで、温度90℃に維持している水中に1週間浸漬した後に、温度23℃、相対湿度65%で24時間調湿して、管状積層体の重量を測定し、管状体基材の重量を差し引いた値を、処理後の分解性樹脂成形品層の重量(「処理後分解性樹脂重量」という。)とする。熱水中の重量減少率(%)は、処理前後での分解性樹脂成形品層の重量変化(減少重量)の、処理前分解性樹脂重量に対する割合として算出する。なお、水としては、蒸留水または脱イオン水を使用する。
【0086】
〔生分解性〕
また、分解性樹脂を、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸−乳酸共重合体、及び、それらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種などの生分解性脂肪族ポリエステルとすることにより、水系溶媒中で処理することにより分解性樹脂が分解されることに加えて、該分解性樹脂が、例えば、坑井掘削後等の土中において短期間で生分解されて消失してしまうので、環境負荷を大幅に軽減することができる。
【0087】
管状積層体における分解性樹脂成形品層の生分解性は、ISO14855(好気的コンポスト試験)に準じて評価する。具体的には、長さ20cmに裁断した管状積層体のサンプルを、温度60℃に調整した土壌中に3か月間埋設して、その時点での二酸化炭素発生量から生分解性を評価する。管状積層体の分解性樹脂成形品層の50%以上が崩壊していれば、生分解性が良好であると判定できる。
【0088】
先に述べたように、本発明の管状積層体は、分解性樹脂成形品層を2層以上備えるものであってもよい。分解性樹脂成形品層を、異なる種類の成形品、または、異なる厚みの成形品の組み合わせなどとすることにより、該管状積層体を使用する環境(例えば、接触する流体や土壌等の組成、温度、pHなど)に応じて求められる加水分解性や生分解性等の特性を有する管状積層体を得ることができる。分解性樹脂成形品層を2層以上の組み合わせとしては、(i)分解性樹脂熱収縮フィルムと分解性樹脂長繊維糸との組み合わせ、(ii)分解性樹脂の平均分子量(Mw)が異なる延伸フィルムの組み合わせ、(iii)分解性樹脂の溶融粘度が大きい延伸フィルムから形成した厚い層と溶融粘度が小さい長繊維糸から形成した薄い層との組み合わせ等を例示することができる。
【0089】
7.管状積層体の製造方法
分解性樹脂成形品層を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層してなる本発明の管状積層体を製造する方法は、特に限定されないが、製造効率、及び、分解性樹脂成形品層の厚みの均一性の観点から、特に、(1)分解性樹脂熱収縮性フィルムを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けた後、熱収縮性フィルムの熱収縮温度以上の温度に加熱して熱収縮性フィルムを熱収縮させて熱収縮フィルムとすること、(2)分解性樹脂延伸フィルムを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けること、または(3)分解性樹脂から形成される長繊維糸を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることを含む管状積層体の製造方法であることが好ましい。以下、(1)〜(3)の製造方法について更に説明する。
【0090】
(1)分解性樹脂熱収縮性フィルムを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けた後、熱収縮性フィルムの熱収縮温度以上の温度に加熱して熱収縮性フィルムを熱収縮させて熱収縮フィルムとすることを含む管状積層体を製造する方法
先に述べた分解性樹脂熱収縮性フィルムを、所定の寸法に切り出し、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に、1枚または所定枚数、軽く巻き付けて被せた後、該熱収縮性フィルムの熱収縮温度以上の温度に加熱することによって、熱収縮性フィルムを収縮させることにより、該管状体基材の外表面に分解性樹脂熱収縮性フィルムを密着させて、熱収縮フィルムとすることにより分解性樹脂成形品層を設けることを含む管状積層体を製造する方法である。また、所定の幅に調製して製造した該熱収縮性フィルムのロールから、熱収縮性フィルムを巻き出しながら、分解性樹脂成形品層が所定の厚みになるまで、管状体基材への巻き付けを継続する方法によってもよいし、あらかじめ分解性樹脂成形品層の所定の厚みに調製して製造した熱収縮性フィルムのロールを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に1周だけ巻き付ける方法によってもよい。熱収縮性フィルムの巻き付けを行うときには、一定の張力をフィルムにかけながら巻き付けることが好ましい。
【0091】
続いて、該熱収縮性フィルムの熱収縮温度以上の温度、通常、分解性樹脂のガラス転移温度(Tg)+20℃以上、好ましくはTg+23℃以上、より好ましくはTg+25℃以上、更に好ましくはTg+27℃以上の温度に加熱することにより、該熱収縮性フィルムを熱収縮させて、管状積層体を得る。該分解性樹脂熱収縮性フィルムを、後に詳述する管状体基材にあらかじめ緩く巻き付けて、被せておくことにより、該分解性樹脂熱収縮性フィルムを熱収縮させるとともに、管状体基材と積層一体化させる。熱収縮を行うための加熱温度の上限は、収縮後に形成される分解性樹脂フィルムの層の表面の均一性の観点から、通常、分解性樹脂の融点(Tm)−48℃、好ましくはTm−50℃程度である。熱収縮を行うための時間は、加熱温度により異なるが、通常5秒間〜10分間、好ましくは10秒間〜8分間、より好ましくは20秒間〜6分間である。
【0092】
(2)分解性樹脂延伸フィルムを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることを含む管状積層体を製造する方法
先に述べた分解性樹脂延伸フィルムを、所定の寸法に切り出し、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることによって、該管状体基材の外表面に分解性樹脂成形品層を設けることを含む管状積層体を製造する方法である。より具体的には、所定の寸法に切り出した薄い分解性樹脂延伸フィルムを用いる方法としては、あらかじめ分解性樹脂成形品層の厚みとするのに必要な枚数を重ねてから、管状体基材の外表面に巻き付けてもよいし、前記の薄い分解性樹脂延伸フィルムを1枚ずつ、管状体基材の外表面に巻き付ける操作を、分解性樹脂成形品層の厚みとするのに必要な枚数となるまで繰り返してもよい。また、あらかじめ分解性樹脂成形品層の厚みに調製して製造した分解性樹脂延伸フィルムを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に1層だけ巻き付けてもよい。さらに、あらかじめ所定の幅に調製した薄い分解性樹脂延伸フィルムのロールから、該分解性樹脂延伸フィルムを巻き出して、分解性樹脂成形品層が所定の厚みになるまで管状体基材に巻き付ける操作を継続してもよい。さらにまた、あらかじめ分解性樹脂成形品層を所定の厚みに調製して製造した分解性樹脂延伸フィルムのロールを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に1周だけ巻き付けてもよい。延伸フィルムの巻き付けを行うときには、一定の張力をフィルムにかけながら巻き付けることが好ましい。
【0093】
続いて、分解性樹脂延伸フィルムと管状体基材とを積層一体化させるために、分解性樹脂延伸フィルムを管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けた後、必要に応じて外方から加圧しながら、全体、または巻き付けの端部を加熱して、管状積層体を得る。加熱温度は、分解性樹脂のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、かつ分解性樹脂の融点(Tm)−5℃以下、好ましくはTg+15℃以上、かつTm−15℃以下、より好ましくはTg+20℃以上、かつTm−25℃以下の温度とするとよい。なお、通常、分解性樹脂は、管状体基材との接着性に優れているので、接着剤等の使用は不要であるが、特に必要な場合は、分解性樹脂の融点(Tm)より融点が低い他の樹脂を、分解性樹脂延伸フィルムと管状体基材との間に介在させて、該他の樹脂の融点以上、かつ、分解性樹脂の融点(Tm)未満の温度に加熱してもよい。
【0094】
(3)分解性樹脂から形成される長繊維糸を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることを含む管状積層体を製造する方法
先に述べた分解性樹脂長繊維糸、すなわちモノフィラメント糸またはマルチフィラメント糸を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることによって、該管状体基材の外表面に分解性樹脂成形品層を設けることを含む管状積層体を製造する方法である。該分解性樹脂長繊維糸を、管状体基材の外表面に螺旋状に巻き付けて分解性樹脂長繊維糸から形成される層を1層形成した後、管状体基材の軸に対する角度を同じくして、または変更して、分解性樹脂長繊維糸を管状体基材の外表面に螺旋状に巻き付けることにより、分解性樹脂長繊維糸から形成される層を更に1層形成し、この分解性樹脂長繊維糸から形成される層を形成する操作を、所定厚みの分解性樹脂成形品層が得られるまで繰り返して、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に、分解性樹脂成形品層を積層してなる管状積層体を得ることができる。分解性樹脂長繊維糸の巻き付けを行うときには、分解性樹脂長繊維糸に一定の張力をかけながら巻き付けることが好ましい。次いで、必要に応じて外方から加圧しながら、分解性樹脂長繊維糸が巻き付けられた管状体基材の全体、または巻き付けの端部を加熱して、管状積層体を得る。加熱温度は、分解性樹脂延伸フィルムを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けて管状積層体を製造する場合と同様である。
【0095】
本発明の管状積層体が、分解性樹脂成形品層を2層以上備えるものである場合は、(1)〜(3)で説明した方法、及び、それらに準じた方法を必要に応じて繰り返して行えばよい。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を示して、本発明を更に説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における分解性樹脂または管状積層体の物性または特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0097】
〔平均分子量〕
分解性樹脂の平均分子量(Mw)は、GPC分析装置を使用して求めた。具体的には、分解性樹脂の試料10mgを、トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解させて10mLとした後、メンブレンフィルターでろ過して試料溶液を得て、この試料溶液10μLをGPC分析装置に注入して、下記の測定条件で分子量を測定することによって求めた結果から算出した重量平均分子量を、平均分子量(Mw)とした。
【0098】
<GPC測定条件>
装置:昭和電工株式会社製GPC104
カラム:昭和電工株式会社製HFIP−806M 2本(直列接続)+プレカラム:HFIP−LG 1本
カラム温度:40℃
溶離液:トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたHFIP溶液
検出器:示差屈折率計
分子量校正:分子量の異なる標準分子量のポリメタクリル酸メチル5種(Polymer laboratories Ltd.製)を用いて作成した分子量の検量線データを使用
【0099】
〔融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)〕
分解性樹脂の融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC;株式会社島津製作所製DSC−60)を使用して、窒素雰囲気中で求めた。具体的には、分解性樹脂の試料を、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、室温から融点(Tm)+60℃付近の温度まで加熱する昇温過程で検出される結晶溶融に伴う吸熱ピークの温度から融点(Tm)を検出し、昇温過程で検出されるガラス状態からゴム状態への転移領域に相当する二次転移領域における熱量の二次転移の開始温度から、ガラス転移温度(Tg)を検出した。融点(Tm)が複数みられる場合には、吸熱ピーク面積が最も大きいピークの温度を融点(Tm)とした。
【0100】
〔熱水収縮率(温度90℃−10秒後)〕
熱収縮性フィルムの熱水収縮率は、以下の方法で求めた。すなわち、1つの分解性樹脂熱収縮性フィルムから、5枚の試料フィルムを切り出して、各試料フィルムの縦方向(機械方向、MD)及び横方向(機械方向に垂直な方向、TD)に距離10cmの間隔で印を付ける。試料フィルムを、温度90℃に調整した水に10秒間浸漬した後、取り出して直ちに常温の水で冷却し、印を付けた距離を測定して、10cmから減少した印の間の距離の、収縮前の距離(10cm)に対する割合を百分率で表示する。5枚の分解性樹脂熱収縮性フィルムについて、縦方向及び横方向のそれぞれの平均値を求めて「熱水収縮率(温度90℃−10秒後)」として表示した。
【0101】
〔フィルムの厚み〕
フィルムの厚みは、マイクロメーター〔μ−mate(登録商標)、ソニーマグネスケール株式会社製〕を用い、試料の10か所の厚みを測定し、平均値を求めた。
【0102】
〔繊度〕
長繊維糸の繊度は、JIS L1013に従って測定した。
【0103】
〔熱水中の重量減少率〕
管状積層体における分解性樹脂成形品層の温度90℃の水中で1週間後の重量減少率(熱水中の重量減少率)の測定方法は以下のとおりとした。すなわち、長さ20cmに裁断した管状積層体の試料を、あらかじめ温度23℃、相対湿度65%で24時間調湿した処理前の管状積層体の重量を測定し、管状体基材(長さ20cm)の重量を差し引いた値を、処理前の分解性樹脂成形品層の重量(「処理前分解性樹脂重量」という。)とした。次いで、温度90℃に維持している蒸留水中に1週間浸漬した後に、温度23℃、相対湿度65%で24時間調湿して、管状積層体の重量を測定し、管状体基材の重量を差し引いた値を、処理後の分解性樹脂成形品層の重量(「処理後分解性樹脂重量」という。)とする。熱水中の重量減少率(%)は、処理前後での分解性樹脂成形品層の重量変化(減少重量)の、処理前分解性樹脂重量に対する割合として算出した。
【0104】
〔生分解性〕
管状積層体における分解性樹脂成形品層の生分解性は、長さ20cmに裁断した管状積層体のサンプルを、温度60℃に調整した土壌中に埋没し、3か月後の二酸化炭素発生量から、生分解性を評価した。
【0105】
[実施例1]
PGA〔株式会社クレハ製、平均分子量(Mw):20万、融点(Tm):220℃、ガラス転移温度(Tg):43℃〕ペレットを、Tダイを備える押出機を使用して温度240℃で溶融押出して得た厚み200μmの未延伸フィルムを、温度55℃で、縦1.4倍、横1.4倍に逐次二軸延伸して、PGAの熱収縮性フィルム〔熱水収縮率(温度90℃−10秒後):30%/30%(MD/TD)、厚み:100μm〕を得た。
【0106】
製造したPGAの熱収縮性フィルムから、縦78cm、横62cmの大きさに切り出した該熱収縮性フィルムを10枚重ねて(厚み1mm)、外径15cm、長さ60cmで、管壁全面に目開き40メッシュの網目を有するステンレス製の筒状メッシュ体の外表面に巻き付けた後、温度100℃のオーブン中で5分間加熱して、熱収縮性フィルムを収縮させ、PGAの熱収縮フィルムを筒状メッシュ体の外表面に積層して備える管状積層体を得た。得られた管状積層体についての熱水中の重量減少率の測定結果を表1に示す。生分解性の測定結果は、PGAフィルムの90%が、分解しており、手で触れると崩れた。
【0107】
[実施例2]
PLA(Nature Works社製、平均分子量(Mw):26万、融点(Tm):153℃、ガラス転移温度(Tg):67℃)ペレットを、Tダイを備える押出機を使用して温度195℃で溶融押出して得た厚み200μmの未延伸フィルムを、温度70℃で、縦1.4倍、横1.4倍に逐次二軸延伸して、PLAの熱収縮性フィルム〔熱水収縮率(温度90℃−10秒後):30%/30%(MD/TD)、厚み:100μm〕を得た。
【0108】
製造したPLAの熱収縮性フィルムから、縦78cm、横62cmの大きさに切り出した該熱収縮性フィルムを10枚重ねて(厚み1mm)、前記のステンレス製の筒状メッシュ体の外表面に巻き付けた後、温度95℃のオーブン中で5分間加熱して、熱収縮性フィルムを収縮させ、PLAの熱収縮フィルムを筒状メッシュ体の外表面に積層して備える管状積層体を得た。得られた管状積層体についての熱水中の重量減少率の測定結果を表1に示す。生分解性の測定結果は、PLAフィルムの65%が、分解しており、手で触れると崩れた。
【0109】
[実施例3]
実施例1で使用したPGAペレットを、Tダイを備える押出機を使用して温度240℃で溶融押出して得た厚み180μmのフィルムを、温度55℃で、縦3.0倍、横3.0倍に逐次二軸延伸した後、温度120℃で30秒間熱処理(熱固定)して、PGA延伸フィルム(厚み:20μm)を得た。
【0110】
製造したPGA延伸フィルムから、縦60cm、横47cmの大きさに切り出したフィルムを10枚重ねて(厚み200μm)、前記のステンレス製の筒状メッシュ体の外表面に巻き付けた後、温度100℃のオーブン中で5分間加熱して、PGAフィルムを筒状メッシュ体の外表面に積層一体化させてなる管状積層体を得た。得られた管状積層体についての熱水中の重量減少率の測定結果を表1に示す。生分解性の測定結果は、PGAフィルムの95%が、分解しており、手で触れると崩れた。
【0111】
[実施例4]
実施例2で使用したPLAペレットを、Tダイを備える押出機を使用して温度195℃で溶融押出して得た厚み180μmのフィルムを、温度70℃で、縦3.0倍、横3.0倍に逐次二軸延伸した後、温度110℃で30秒間熱処理(熱固定)して、PLA延伸フィルム(厚み:20μm)を得た。
【0112】
製造したPLA延伸フィルムから、縦60cm、横47cmの大きさに切り出したフィルムを10枚重ねて(厚み200μm)、前記のステンレス製の筒状メッシュ体の外表面に巻き付けた後、温度95℃のオーブン中で5分間加熱して、PLAフィルムを筒状メッシュ体の外表面に積層一体化させてなる管状積層体を得た。得られた管状積層体についての熱水中の重量減少率の測定結果を表1に示す。生分解性の測定結果は、PLAフィルムの70%が、分解しており、手で触れると崩れた。
【0113】
[実施例5]
実施例1で使用したPGAペレットを溶融紡糸して得たPGA延伸マルチフィラメント糸(繊度:70デニール、フィラメント糸数:28本、延伸倍率:4.5倍)を、前記のステンレス製の筒状メッシュ体の外表面に、巻き付け糸の厚みが10mmになるまで巻き付けた後、温度100℃のオーブン中で5分間加熱して、PGAマルチフィラメント糸の層を筒状メッシュ体の外表面に積層させてなる管状積層体を得た。得られた管状積層体についての熱水中の重量減少率の測定結果を表1に示す。生分解性の測定結果は、PGAマルチフィラメント糸の85%が、分解しており、手で触れると崩れた。
【0114】
[実施例6]
実施例2で使用したPLAペレットを溶融紡糸して得たPLA延伸マルチフィラメント糸(繊度:70デニール、フィラメント糸数:28本、延伸倍率:4.5倍)を、前記のステンレス製の筒状メッシュ体の外表面に、巻き付け糸の厚みが10mmになるまで巻き付けた後、温度95℃のオーブン中で5分間加熱して、PLAマルチフィラメント糸の層を筒状メッシュ体の外表面に積層させてなる管状積層体を得た。得られた管状積層体についての熱水中の重量減少率の測定結果を表1に示す。生分解性の測定結果は、PLAマルチフィラメント糸の60%が、分解しており、手で触れると崩れた。
【0115】
[比較例1]
熱収縮性ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という。)フィルム〔分子量(Mw):2万、厚み:100μm、熱水収縮率(温度90℃−10秒後):30%/30%(MD/TD)、遠東紡織社製のCB602S〕から、縦78cm、横62cmの大きさに切り出した熱収縮性フィルムを10枚重ねて(厚み1mm)、実施例1と同様にして、前記のステンレス製の筒状メッシュ体の外表面に巻き付けた後、温度100℃のオーブン中で5分間加熱して、該熱収縮性フィルムを収縮させ、PETから形成された熱収縮フィルムを筒状メッシュ体の外表面に積層して備える管状積層体を得た。得られた管状積層体についての熱水中の重量減少率の測定結果を表1に示す。生分解性の測定結果は、PETフィルムは全く分解していなかった。
【0116】
【表1】

【0117】
表1の結果から、水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂であるPGAまたはPLAから形成される成形品からなる層を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層してなる実施例1〜6の管状積層体は、通孔を塞いだ樹脂の層を、水系溶媒中で、完全にまたは効率的に分解除去できることが分かった。また、実施例1〜6の管状積層体は、3か月の短期間で地中において生分解されることが分かり、特に、地中に管状積層体を埋設する坑井掘削などの用途に適合するものであることが推察された。さらに、分解性樹脂や、分解性樹脂から形成される成形品を選択することにより、水系溶媒中での分解性(熱水中の重量減少率)や生分解性を制御できることが推察された。
【0118】
これに対して、水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂ではない、PETから形成される層を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層してなる比較例1の管状積層体は、通孔を塞いだ樹脂(PET)の層を、水系溶媒中で分解または除去することができず、地中でも生分解されないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂、好ましくは生分解性脂肪族ポリエステル樹脂から形成される成形品からなる層を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層してなることを特徴とする管状積層体であることによって、管壁に通孔を有する管状体について、該通孔を、必要に応じて、確実に塞ぎ、かつ確実に開口させることが容易であり、特に、開口させるために特殊な操作が不要で、工程が削減され、さらに、通孔を開口させた後には、通孔を塞ぎ、または開口させるために使用した材料等の廃棄において、廃棄物になる物質が環境に影響を与えないので、その処理が不要またはその処理が容易である管状物品を提供できるので、坑井掘削等の生産効率や経済性に優れ、また、環境負荷が小さいので産業上の利用可能性が高い。
【0120】
また、本発明は、前記の分解性樹脂から形成される熱収縮フィルム、分解性樹脂から形成される延伸フィルム、または分解性樹脂から形成される長繊維糸を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることを含むことによって、前記の管状積層体を容易に得ることができる管状積層体の製造方法が提供されるので、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系溶媒中で分解性を有する分解性樹脂から形成される成形品からなる層を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に積層してなることを特徴とする管状積層体。
【請求項2】
前記の分解性樹脂が、生分解性樹脂である請求項1記載の管状積層体。
【請求項3】
前記の分解性樹脂が、生分解性ポリエステルである請求項1または2記載の管状積層体。
【請求項4】
前記の生分解性ポリエステルが、生分解性脂肪族ポリエステルである請求項3記載の管状積層体。
【請求項5】
前記の生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸−乳酸共重合体、及び、それらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項4記載の管状積層体。
【請求項6】
前記の分解性樹脂から形成される成形品からなる層が、温度90℃の水中に1週間浸漬後の重量減少率が50%以上である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の管状積層体。
【請求項7】
前記の成形品が、フィルムまたは繊維製品である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の管状積層体。
【請求項8】
前記のフィルムが、未延伸フィルム、延伸フィルム及び熱収縮フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項7記載の管状積層体。
【請求項9】
前記の繊維製品が、不織布、織布、編布、及び長繊維糸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項7記載の管状積層体。
【請求項10】
前記の管壁に通孔を有する管状体基材が、坑井掘削装置用管状体である請求項1乃至9のいずれか1項に記載の管状積層体。
【請求項11】
前記の分解性樹脂から形成される熱収縮性フィルムを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けた後、熱収縮性フィルムの熱収縮温度以上の温度に加熱して熱収縮性フィルムを熱収縮させて熱収縮フィルムとすることを含む請求項1乃至10のいずれか1項に記載の管状積層体を製造する方法。
【請求項12】
前記の分解性樹脂から形成される延伸フィルムを、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることを含む請求項1乃至10のいずれか1項に記載の管状積層体を製造する方法。
【請求項13】
前記の分解性樹脂から形成される長繊維糸を、管壁に通孔を有する管状体基材の外表面に巻き付けることを含む請求項1乃至10のいずれか1項に記載の管状積層体を製造する方法。