説明

切削加工用工具

【課題】より高い曲げ強度を有し、より正確な回転が可能である、切削加工用工具を提供する。
【解決手段】第一の工具部(2)は、整合ピン(4)を具備し、その根底部に環状面(5)を有する。第二の工具部(3)は、整合ピン(4)を受容するための軸方向の中空部(7)及び環状面(6)を有し、かつ、前記第一の工具部(2)の環状面に対して伸張される。伸張手段(8、9、10)は、第二の工具部(3)の周縁に配置された、三つの保持スクリュー(8、9、10)を有する。これらのスクリューは、第二の工具部(3)のネジ山を施した中空部(12、13、14)にねじ込まれ、整合ピン(4)の放射方向の中空部(21、22、23)に係止する。凹部(16、17、18)は、整合ピン(4)が、整合ピン(4)の保持スクリュー(8、9、10)を締めることによって、その周縁部で多角形となるように、各中空部(21、22、23)に割り当てられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通の回転軸を有する第一の工具部と第二の工具部を具備し、第一の工具部は整合ピン及びその根底部に環状面を有し、第二の工具部は、前記整合ピンを受容するための軸方向の中空部及び環状面を有し、かつ、前記第二の工具部は、二つの工具部を軸方向に対し相互に伸張(tension)させるための伸張手段によって、前記第一の工具部の環状面に対して伸張されることを特徴とする切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特に、本発明の工具は、加工ヘッドを有する掘削工具である。加工ヘッドは、前記第一の工具部を構成し、シャフトの嵌合中空部に嵌合する整合ピンを有する。このシャフトが第二の工具部を構成する。このような工具は、従来から、様々な態様においてよく知られている。
【0003】
ヨーロッパ特許公開公報第0547049号には、整合ピンに、放射方向かつ横方向に延びる中空部が設けられた工具が開示されている。この中空部は、自動整合ボルトとして知られるクランプボルトを挿入するためのものである。クランプボルトの一端が内部コーンを有し、保持スクリューの外部コーンがこの内部コーンに係止する。クランプボルトの他端は、外部コーンを有し、この外部コーンが第二の保持スクリューの内部コーンに係止する。これら二つの保持スクリューによって、クランプボルトは、整合ピンが結合スリーブの嵌合中空部に引き込まれるように、軸方向に伸張し、これによって二つの環状面が相互にしっかりと伸張される。結合スリーブの壁厚および材料、整合ピンと嵌合中空部の間隙、および伸張力は、伸張状態にある結合スリーブが、クランプボルトの軸方向に弾性的に膨らむように設定されている。さらに、嵌合中空部の径は横方向に短くなり、結合スリーブは整合ピンの外側に押圧される。嵌合中空部は、よって、若干、長円型の断面形状を有することになる。結合スリーブおよび第二の工具部がこのように長円形に弾性変形することは、欠点と見なされる。上述した結合部スリーブの弾性変形を防ぐため、整合ピンをバルジ(bulge)させて、間隙部をブリッジすることが提案されている。これは、上述した結合スリーブの弾性変形を少なくとも部分的に不要なもの、あるいは不必要なものとする事を意図したものである。整合ピンをバルジさせるために、横方向の接触長を超えて、横方向中空部の内部に至るまで、凹みを持たせることが提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、より高い曲げ強度を有し、より正確な回転が可能である、上述した種類の工具を提供することにある。さらに、この工具は、使いやすく、低コストで製造可能であることが意図される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、90度よりかなり大きく、120度よりかなり小さい、第一の固定スクリューおよび第二の固定スクリューの間の角度において、左右対称に特に均衡のとれた表面圧が達成可能であることを見出した。この結果、曲げモーメントは工具の回転軸に対してニュートラルとなる。表面圧を左右対称とすることにより、工具の二つの部分に、軸方向に平行な好ましい結合が得られる。
【0006】
第一の保持スクリューおよび第二の保持スクリューを締めることにより、軸方向の力に加え、放射方向の力が発生する。この放射方向の力によって、整合ピンと軸方向の中空部の間に摩擦力が生じる。本発明によれば、軸方向の中空部間の角度の配置から、対向する保持スクリューの力よりも大きい力が生じる。軸方向におけるこのように増大した力は、摩擦力を相殺する効果をもたらす。
【0007】
4点支持手段に代わって、軸方向中空部内部の整合ピンに対する3つの支持点を有する多角形の広がりが実現できる。一方、第二の工具部の弾性変形は小さい。この弾性変形は、長円形ではないが、多角形であるために、弾性変形をより好ましい左右対称に配分させることができる。二つの工具部の結合部の剛性が強いため、上述した接点によってチップ除去能力が高まる。また、上述した三つの保持スクリューが一回で締付けられるため、操作が容易となり、従来の、複数の締付け工程を不要とすることができる。これにより、二つの工具部を結合する時間が短縮される。
【0008】
本発明のその他の特徴は、従属請求項、下記の説明および添付図面から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の具体的な実施形態を添付図面に関連してより詳細に述べる。
【0010】
例えば、図5に示されるように、工具1は第一の工具部2を有する。第一の工具部2が加工ヘッドを構成する。図7に示すように、加工ヘッドは2つのカッターキャリヤを有する。工具部1は、特に、一つあるいは二つの調整可能なカッターを有する穴あけ工具である。上述した発明は、掘削工具のモジュラーシステムにも用いることができる。第一の工具部2は、整合ピン4を有し、整合ピン4は、特定の間隙をもって、第二の工具部3の軸方向の中空部7に挿入される。図5に示されるような組み立て状態にあっては、第一の工具部2の環状面5は、第二の工具部3の環状面6に圧接される。二つの工具部2および3は、共通の回転軸Aを有し、上述の二つの環状面5および6はこの回転軸に対し横方向に広がる同一面上に存在する。
【0011】
二つの環状面5および6を相互に伸張させるために、かつ、その結果として、二つの工具部2および3を互いにしっかりと結合させるために、伸張手段として3つの固定スクリュー8、9、および10を設ける。これらは、図1、6、および9によれば、第二の工具部分3の周囲に配分されるように配置されている。図1、6、および9に示されるように、この配置は、軸方向に対し、左右対称である。図1に示される角W1および角W2は同一で、角W3は120度より小さく、90度より大きい。好ましくは、角W1および角W2は125度よりも大きく、特におよそ130度である。角W3は、好ましくは105度より小さく、95度より大きい。特に好ましくは、角W3はおよそ100度である。
【0012】
図1および9に示すように、保持スクリュー8、9、および10は、いずれも、中空部12、13、および14にねじ込まれる。これら中空部にはネジ山が設けられており、図1に示されるように、第二の工具部3の壁20を放射状に通る。保持スクリュー8、9、および10の操作には、例えば、アレン・キー(図示せず)を用いる。前端面において、これらの保持スクリュー8、9、および10は、いずれも外部コーン11を有している。この外部コーン11は整合ピン4内において、放射方向の中空部21、22、および23に係止されている。中空部21、22、および23は、それぞれ、円錐状面15を有するが、これは外部コーン11に対応するものである。保持スクリュー8、9、および10の軸は、図2に示すように、いずれの場合も、中空部21、22、および23の軸に対して、回転軸Aの方向に距離Dだけ変位している。保持スクリュー8、9、および10を締めると、力F7が、これら保持スクリューのそれぞれにかかる。力F7は、放射方向の力のコンポーネントF5および軸方向の力のコンポーネントF6を有する。力のコンポーネントF6は、整合ピン4に、軸方向に加わる。
【0013】
二つの保持スクリュー9、および10を締めると、上述した軸方向の力F6(図7)に加え、放射方向の力F5も生じる。これは図7に示すように、整合ピン4と中空部7の間に摩擦力F9を生じる。図7および図10によれば、力F9およびF10が、上述した角W1、W2、およびW3の配置によって生じる。力F9およびF10を合わせると、保持スクリュー8による力よりも大きくなる。この軸方向の二つの力F9およびF10によって、摩擦力F9が相殺される。角W3を、120度よりも小さく、かつ90度よりも大きくなるように選択することにより、力F8、F9、およびF10によって生じる表面圧が左右対称に相殺される。よって、回転軸Aに対する曲げモーメントはニュートラルとなる。左右対称の高い表面圧は、二つの工具部2および3を、軸方向に平行に結合させるという利点をもたらす。
【0014】
整合ピンは周縁部に3つの凹部16、17、および18を有する。これらの凹部は、それぞれ、中空部21、22、および23の内の一つを通る。これらの凹部がスロット形状を成しており、壁20を放射状に通っていることは明らかである。凹部16、17、および18は、好ましくは幅0.2ミリから0.4ミリを有する、開放スロットであり、好ましくは、レーザーで形成される。また、凹部16、17、および18は、幅約1ミリから5ミリを有する、ミーリング加工によって形成されたスロットでもよい。これら凹部は、軸方向に延びており、凹部18は、整合ピン4の底面24において、開口している。他の二つのスロット16および17は、軸に交差する方向にも横方向にも延びていない。保持スクリュー8、9、および10が整合ピン4を締付けると、整合ピン4は第二の工具部3の中空部7に、軸方向に引き込まれる。保持スクリュー8、9、および10は、図2および図6に示されるように、円錐面15の二つの面L1に圧接されている。これによって、角W4が相互におよそ90度の場合、整合ピン4上に矢印19で示す方向に力が加わる。凹部16、17、および18は、これらの力によって、整合ピン4の周縁方向に膨らむ。これにより、整合ピン4は凹部16、17、および18の領域において弾性的に変形する。保持スクリュー8、9、および10の配置によって、変形は、多角形状となる。整合ピン4の周縁部は、多角形状に変形し、第二の工具部3の中空部7を圧迫する。第二の工具部3の壁20も、保持スクリュー8、9および10によって生じた応力によって、変形の度合いはかなり低いものの、弾性的に変形する。変形の度合いが低いのは、凹部16、17、および18に対応する凹部が設けられていないためである。軸方向中空部7内の、整合ピン4の間隙は、このようにしてなくなり、図6に示されるような、整合ピン4の周縁上の対応する接合点の配分によって、二つの工具部2および3の間に、非常に安定した結合が実現する。図6に示すように、力F1およびF2は整合ピン4の膨張のために必要であり、力F3およびF4は、整合ピン4をその周縁部に押圧するために必要である。
【0015】
図8から10に示す力は、環状面5および6に、均一な表面圧をもたらす。力F5、F11、およびF12は、伸張スクリュー8、9、および10を締めると、放射方向に生じる。伸張スクリュー8、9、および10が円錐状を成しているために、それぞれの伸張スクリューに加えられる有効な力は、放射方向の力および軸方向の力に分解する。図8に示す、力F8、F9、およびF10は、環状面5および6に規則的で均一な表面圧を生じさせるため、きわめて重要である。
【0016】
力F11およびF12から生じる力F13は、図10にその概略を図示するが、それに拮抗する力F5よりも大きい。わかりやすくするため、図10に示された力F11およびF12の間の角度は、好ましい角度100度よりも大きくしている。摩擦力F9(図7)および、力F5、F12、およびF13の軸方向のコンポーネントは、増大した力F13によって、それぞれ相殺される。従って、環状面5および6の表面圧は均一になる。
【0017】
凹部16、17、18もまた、中空部21、22、および23を経て、環状面5の方向に外側に向かって延びる。その結果、バルジも底面24から環状面5に向かって実質的に軸方向に延びる。したがって、これらの領域は選択的ではないが、直線の形状を成す。これによって、結合部にきわめて高い剛性および安定性、かつ有効な振動減衰が実現する。
【0018】
さらに、工具1はその優れた互換性を特徴とする。特に、第一の工具部2は、保持スクリュー8、9、10のうちのいずれか一つを有する、第二の工具部3にも結合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による工具の断面図である。
【図2】整合ピン中空部内の保持スクリューの位置を示す概略図である。
【図3】整合ピンの立体図である。
【図4】整合ピンのさらなる立体図である。
【図5】本発明による工具を扇形に切った立体図である。
【図6】整合ピンの周縁部にかかる表面圧を説明するための、図1の工具の断面図である。
【図7】本発明による工具に加えられる力を説明するための、本発明による工具の部分断面図である。
【図8】第一の工具部を示す概略立体図である。
【図9】第二の工具部の放射方向の断面を示す概略図である。
【図10】力の作用を示すパラレログラムである。
【符号の説明】
【0020】
1 工具
2 第一の工具部
3 第二の工具部
4 整合ピン
5 環状面
6 環状面
7 軸方向中空部
8 保持スクリュー
9 保持スクリュー
10 保持スクリュー
11 外部コーン
12 中空部
13 中空部
14 中空部
15 表面
16 凹部
17 凹部
18 凹部
19 矢印
20 壁
21 中空部
22 中空部
23 中空部
24 底面
25 カッターキャリヤ
A 回転軸
D 距離
L1 線
W1 角
W2 角
W3 角
W4 角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の回転軸(A)を有する第一の工具部(2)と第二の工具部(3)を有し、前記第一の工具部(2)は整合ピン(4)およびその根底部に環状面(5)を有し、前記第二の工具部(3)は、前記整合ピンを受容するための軸方向の中空部(7)及び環状面(6)を有し、かつ、前記第二の工具部(3)は、二つの工具部(2、3)を軸方向に対し相互に伸張させるための伸張手段(8、9、10)によって前記第一の工具部(2)の環状面に対して伸張され、前記伸張手段(8、9、10)は、前記第二の工具部(3)の周縁に配置された3つの保持スクリュー(8、9、10)を有し、前記3つの保持スクリュー(8、9、10)は、前記第二の工具部(3)のネジ山を施した中空部(12、13、14)に放射方向にそれぞれねじ込まれ、かつ、前記整合ピン(4)の放射方向の中空部(21、22、23)にそれぞれ係止し、第一の保持スクリュー(10)および第二の保持スクリュー(9)の間の角(W3)は、120度より小さく、かつ90度より大きく、および前記第一の保持スクリュー(10)および第三の保持スクリュー(8)との間の角(W1)が前記第三の保持スクリュー(8)および第二の保持スクリュー(9)との間の角(W2)と同一である工具。
【請求項2】
第一の保持スクリュー(10)および第二の保持スクリュー(9)の間の角(W3)が、95度から105度の範囲にある請求項1に記載の工具。
【請求項3】
第一の保持スクリュー(10)および第二の保持スクリュー(9)の間の角(W3)が、100度台である請求項1に記載の工具。
【請求項4】
前記整合ピンの凹部(16、17、18)が、それぞれ対応する放射方向の中空部(21、22、23)に割り当てられ、これによって、前記保持スクリュー(8、9、10)を締めることにより、前記整合ピン(4)が周囲においてバルジする請求項1〜3のいずれかに記載の工具。
【請求項5】
前記整合ピン(4)の凹部(16、17、18)が、前記整合ピン(4)の前記中空部(21、22、23)に軸方向に延びている請求項4に記載の工具。
【請求項6】
前記整合ピン(4)の少なくとも一つの凹部が、前記整合ピン(4)の底面(24)で開口している請求項4または5に記載の工具。
【請求項7】
前記整合ピン(4)の少なくとも二つ、好ましくは三つ全ての凹部(16、17、18)が、前記整合ピン(4)の底面(24)で開口している請求項4または5に記載の工具。
【請求項8】
前記凹部(16、17、18)が幅0.2ミリから0.4ミリ、好ましくはおよそ3ミリの、比較的狭いスロットである請求項7に記載の工具。
【請求項9】
前記凹部(16、17、18)が、レーザー加工により製造されたものである請求項8に記載の工具。
【請求項10】
前記凹部(16、17、18)が幅1ミリから5ミリのスロットである請求項4〜7のいずれかに記載の工具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−216380(P2007−216380A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−30400(P2007−30400)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(597061837)ハインツ カイザー アーゲー (3)
【氏名又は名称原語表記】Heinz Kaiser AG
【Fターム(参考)】