説明

切削装置、切削方法、及び構造物の解体方法

【課題】 切削方向を様々に変化させることが可能な切削装置を提供する。
【解決手段】 対象物25をワイヤーソー20で摩擦切削する切削装置1であって、前記ワイヤーソー20を走行可能に支持するとともに、前記ワイヤーソー20を支持した状態で一方向に前進又は後退可能な一対の案内手段2、2と、前記ワイヤーソー20の張力を調整するテンション調整機構10とを備え、前記一対の案内手段2、2間に掛け渡された前記ワイヤーソー20の部分で、前記対象物25を切削するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削装置、切削方法、及び構造物の解体方法に関し、特に、ワイヤーソーを用いた切削装置、切削方法、及び構造物の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物等のコンクリート構造物を解体する方法として、重機を用いてコンクリートを潰すことにより解体する方法が知られているが、このような方法は、高騒音、高振動が発生するため、市街地、病院、学校、福祉施設等の騒音、振動の発生が制限される地域では、適用可能な時間帯が制限される。
【0003】
このため、近年、コンクリートをブロック状に切断して、クレーン等を用いて解体する低騒音、低振動のブロック化工法が注目され、このような工法には、ウォルソー、ウォータージェット、ワイヤーソーが使用されている。
【0004】
しかし、ウォルソーは、高速回転の円盤刃で対象物を切断するため、騒音、振動を十分に抑制することができない。また、ウォータージェットは、ノズルを移動させるだけで対象物を切断することができ、また、適当な養生を施すことにより、騒音、振動の発生を抑制することができるが、切断深さが大きい場合には、ジェットが届かないことがあり、また、排水の処理が必要であり、さらに、切断コストが高く付くため、コンクリート構造物の解体に適用するのは難しい。
【0005】
一方、ワイヤーソーは、対象物にワイヤーソーを巻き付けて、ワイヤーソーによる摩擦切削により対象物を切断するため、ウォルソーやウォータージェットのような問題が生じることはない。
【0006】
ワイヤーソーを用いた切断装置の一例が特許文献1に記載されている。この切断装置は、基台上に移動可能に設けられる駆動プーリーと、駆動プーリーを回転させるモータと、複数の従動プーリーと、駆動プーリーと複数の従動プーリーとの間に掛け渡されるワイヤーソーと、ワイヤーソーの張力を一定に保つカウンターウエイトとを備えている。
【0007】
このような構成の切断装置は、ワイヤーソーを対象物に巻き付け、ワイヤーソーに一定の張力を加えた状態で駆動プーリーを回転させて、ワイヤーソーを駆動プーリーと従動プーリーとの間を走行させながら、駆動プーリーを対象物から離れる方向に移動させて、ワイヤーソーを駆動プーリーの方向に引き寄せることにより、対象物を摩擦切削して切断することができる。
【0008】
しかし、対象物の切断方向がワイヤーソーを引き寄せる方向に制限されるため、例えば、切削ラインが前後に変化するような形状に切断できない等、切断可能な形状が制限されてしまう。このため、例えば、構造物の水平材を切断して解体するような場合には、水平材の落下を防止するために、水平材をクレーン等の揚重手段によって吊っておく必要があり、水平材の解体が終わるまでクレーン等の揚重手段で他の作業を行うことができなくなり、構造物の解体の効率が悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−300848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、ワイヤーソーによる摩擦切削によって切断箇所を様々な形状に切断することができ、構造物の解体に適用した場合には、構造物の解体を効率良く行うことができる、切削装置、切削方法、及び構造物の解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明は、対象物をワイヤーソーで摩擦切削する切削装置であって、前記ワイヤーソーを走行可能に支持するとともに、前記ワイヤーソーを支持した状態で一方向に前進又は後退可能な一対の案内手段と、前記ワイヤーソーの張力を調整するテンション調整機構とを備え、前記一対の案内手段間に掛け渡された前記ワイヤーソーの部分で、前記対象物を切削するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の切削装置によれば、一対の案内手段間に掛け渡されたワイヤーソーの部分を対象物に接触させ、この状態でワイヤーソーを走行させながら、一対の案内手段を一方向に前進又は後退させて、一対の案内手段に追従して両案内手段間に掛け渡されたワイヤーソーの部分を前進又は後退させることにより、対象物を摩擦切削することができる。
従って、一対の案内手段を介して両案内手段間に掛け渡されたワイヤーソーの部分を前進させることと、後退させることとを適宜に組み合わせることにより、対象物の切断箇所を様々な形状に切削して切断することができる。
【0013】
また、本発明において、前記案内手段は、伸縮可能なロッドを有するアクチュエータと、該アクチュエータの前記ロッドの先端に回転可能、かつ首振り可能に設けられる少なくとも一つのガイドプーリーとを備え、前記両案内手段の両ガイドプーリー間に掛け渡された前記ワイヤーソーの部分が、前記対象物に接触可能に構成されていることとしてもよい。
【0014】
本発明の切削装置によれば、アクチュエータのロッドを伸縮させて、ロッドに追従してガイドプーリーを前進又は後退させることにより、両ガイドプーリー間に掛け渡されたワイヤーソーの部分を前進又は後退させることができる。従って、両アクチュエータを介して両ガイドプーリー間に掛け渡されたワイヤーソーの部分を前進させることと、後退させることとを適宜に組み合わせることにより、対象物の切断箇所を様々な形状に切削して切断することができる。
【0015】
さらに、本発明において、前記各アクチュエータを、前記ロッドの伸縮方向と直交する少なくとも一方向に移動可能に支持する移動機構を備えていることとしてもよい。
【0016】
本発明の切削装置によれば、アクチュエータを介して両ガイドプーリー間に掛け渡されたワイヤーソーの部分を前進又は後退させることと、アクチュエータをロッドの伸縮方向と直交する少なくとも一方向に移動させ、それに追従して両ガイドプーリー間に掛け渡されたワイヤーソーの部分を、同一方向に移動させることとを適宜に組み合わせることにより、対象物の切断箇所を様々な形状に切削して切断することができる。
【0017】
さらに、本発明において、前記テンション調整機構は、調整部材と、該調整部材によって移動可能に支持されたテンションプーリーを備え、該テンションプーリーと前記ガイドプーリーとの間に前記ワイヤーソーが掛け渡されていることとしてもよい。
【0018】
本発明の切削装置によれば、調整部材によってテンションプーリーを移動させることにより、両ガイドプーリー間に掛け渡されたワイヤーソーの部分の張力を一定に保つことができる。従って、両ガイドプーリー間に掛け渡されたワイヤーソーを前進又は後退させることと、ロッドの伸縮方向と直交する少なくとも一方向に移動させることとを適宜に組み合わせても、両ガイドプーリー間に掛け渡されたワイヤーソーの部分に一定の張力を加え続けることができる。
【0019】
さらに、本発明は、対象物をワイヤーソーで摩擦切削する切削方法であって、前記ワイヤーソーを走行可能に支持するとともに、前記ワイヤーソーを支持した状態で一方向に前進又は後退可能な一対の案内手段と、前記ワイヤーソーの張力を調整するテンション調整機構とを備えた切削装置を用い、前記一対の案内手段間に掛け渡された前記ワイヤーソーの部分を前記対象物に接触させ、前記ワイヤーソーを走行させながら、前記一対の案内手段を一方向に前進又は後退させることにより、前記ワイヤーソーを前記一対の案内手段に追従して一方向に前進又は後退させることにより、前記対象物を摩擦切削することを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明は、両端が垂直材によって支持された水平材を備えた構造物をワイヤーソーで摩擦切削して解体する構造物の解体方法であって、前記ワイヤーソーを走行可能に支持するとともに、前記ワイヤーソーを支持した状態で一方向に前進又は後退可能な一対の案内手段と、前記ワイヤーソーの張力を調整するテンション調整機構とを備えた切削装置を用い、前記一対の案内手段間に掛け渡された前記ワイヤーソーの部分を前記水平材の両端に接触させ、前記ワイヤーソーを走行させながら、前記一対の案内手段を一方向に前進又は後退させて、該一対の案内手段に追従して前記ワイヤーソーを一方向に前進又は後退させることにより、前記水平材の両端を前記垂直材側に係止される形状に摩擦切削することを特徴とする。
【0021】
本発明の構造物の解体方法によれば、水平材の両端を、垂直材側に係止される形状に摩擦切削することができるので、水平材の両端を垂直材側から切り離しても、水平材が自重によって落下するようなことはない。従って、揚重手段によって水平材を吊っておく必要がないので、構造物を解体する場合に、水平材の解体と並行して、揚重手段を用いて他の各種の作業を行うことができ、構造物の解体を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
以上、説明したように、本発明の切削装置及び切削方法によれば、両案内手段間に掛け渡されたワイヤーソーの部分を、案内手段を介して前進させることと、後退させることとを適宜に組み合わせることにより、さらに、案内手段による前進又は後退の方向と直交する少なくとも一方向に移動させることとを適宜に組み合わせることにより、対象物の切断箇所を様々な形状に切削して切断することができる。
また、本発明の構造物の解体方法によれば、水平材を垂直材から切り離す場合に、水平材を揚重手段で吊っておく必要がないので、水平材の解体に並行して、揚重手段を用いて他の各種の作業を行うことができ、構造物の解体を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による切削装置の第1の実施の形態を示した概略図であって、対象物に対向するように切削装置を設置した状態を示した説明図である。
【図2】切削装置の各アクチュエータを作動させて、ワイヤーソーを対象物に接触させた状態を示した説明図である。
【図3】切削装置のワイヤーソーによる対象物の切削開始直後の状態を示した説明図である。
【図4】切削装置のワイヤーソーによる対象物の切削完了後の状態を示した説明図である。
【図5】図1の切削装置の動作の変形例を示した説明図である。
【図6】図1の切削装置による梁の切断形状を示した説明図である。
【図7】図6の梁を楔状に切削して切断する手順を示した説明図である。
【図8】図6の梁を階段状に切削して切断する手順を示した説明図である。
【図9】本発明による切削装置の第2の実施の形態を示した概略図である。
【図10】図9の切削装置により切断した対象物の切断面の一例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図4には、本発明による切削装置の第1の実施の形態が示されている。本実施の形態の切削装置1は、ワイヤーソー20と、ワイヤーソー20を走行可能に支持する一対の案内手段2、2、及びテンション調整機構10と、両案内手段2、2の駆動源(図示せず)と、ワイヤーソー20の駆動源(図示せず)とを備え、テンション機構10、及びワイヤーソー20の駆動源はケーシング5内に設けられ、案内手段2はケーシング5外に設けられている。
【0025】
案内手段2は、伸縮可能なロッド4を有する油圧シリンダ等(本実施の形態では油圧シリンダ)のアクチュエータ3a、3bと、アクチュエータ3a、3bのロッド4の先端に回転可能、かつ首振り可能に設けられるガイドプーリー6とから構成されている。
【0026】
案内手段2は、ケーシング5外の図中右側の上下端に、ロッド4の伸縮方向が図中左右方向となるようにそれぞれ設けられるとともに、ケーシング5内の図中右側の部分に設けられた後述する移動機構9により、ロッド4の伸縮方向(Z方向)と直交する少なくとも一方向(X方向、Y方向)に移動可能に支持されている。両案内手段2、2の両ガイドプーリー6、6と後述するテンション機構10の5つのテンションプーリー11〜15との間に、エンドレス加工が施されたワイヤーソー20が走行可能に掛け渡されている。
【0027】
各アクチュエータ3a、3bは、ケーシング5外に設けられた駆動源としての油圧発生装置(図示せず)に配管を介してそれぞれ接続され、油圧発生装置の作動により、各アクチュエータ3a、3bのロッド4が図中左右方向に伸縮可能に構成されている。油圧発生装置は、例えば、油圧ポンプ、オイルタンク、圧力制御弁、流量制御弁、方向制御弁等から構成されている。
【0028】
各アクチュエータ3a、3bは、油圧発生装置により、ロッド4の伸縮量、及び伸縮速度を個別に調整可能に構成されている。これにより、両アクチュエータ3a、3bのロッド4、4を同時に伸縮させたり、一方のアクチュエータ3a、3bのロッド4のみを伸縮させたり、両アクチュエータ3a、3bの両ロッド4、4を異なる速度で伸縮させるような使い方ができる。
【0029】
移動機構9は、各案内手段2をロッド4の進退方向(Z方向)と直交する2方向(X方向、Y方向)に移動可能に支持するものであって、移動機構9により、各案内手段2をロッド4の進退方向(Z方向)と直交する2方向(X方向、Y方向)に移動させることにより、それに追従して各案内手段2のガイドプーリー6を同一方向に移動させることができる。
【0030】
移動機構9は、各案内手段2をロッド4の進退方向(Z方向)と直交する2方向(X方向、Y方向)に移動させる機能を有するものであればよく、各種のX−Y移動機構を用いることができる。なお、移動機構9として、各案内手段2をロッド4の進退方向(Z方向)と直交する1方向(X方向、Y方向)のみに移動させる機能を有するものを用いてもよい。
【0031】
テンション機構10は、ケーシング5内の図中左側の部分に回転可能に設けられる5つのテンションプーリー11〜15を備え、この5つのテンションプーリー11〜15と上記の両ガイドプーリー6、6との間にワイヤーソー20が走行可能に掛け渡されている。
【0032】
5つのテンションプーリー11〜15のうち、図中上下の2つのテンションプーリー11、15は、ケーシング5内に固定され、中央の3つのテンションプーリー12〜14は、図中左右方向に移動可能に構成されている。
【0033】
中央の3つのテンションプーリー12〜14は、ケーシング5の中央部に図中左右方向に伸縮可能に設けられた3つの調整部材16〜18の各々に支持され、各調整部材16〜18を伸縮させることにより、図中左右方向に移動可能に構成されている。
【0034】
各調整部材16〜18を伸縮させて、3つのテンションプーリー12〜14を図中左右方向に移動させることにより、ワイヤーソー20に一定の張力を加えることができ、ワイヤーソー20に一定の張力を加えた状態で、ワイヤーソー20によりコンクリート構造物25を切削することができる。
【0035】
調整部材16〜18は、3つのテンションプーリー12〜14を図中左右方向に移動させる機能を有するものであれば特に制限はなく、例えば、油圧シリンダ、空圧シリンダ、各種のねじ機構等を用いることができる。
【0036】
5つのテンションプーリー11〜15のうちの中央のテンションプーリー13は、駆動源としてのモータ(図示せず)に連結されている。モータを作動させて、テンションプーリー13を駆動させることにより、5つのテンションプーリー11〜15と2つのガイドプーリー6、6との間に掛け渡されたワイヤーソー20を、図中時計回り又は半時計周りに走行させることができる。
【0037】
なお、本実施の形態では、中央のテンションプーリー13をモータに連結しているが、他のテンションプーリー11、12、14、15の内の何れかをモータに連結するように構成してもよい。また、本実施の形態においては、中央の3つのテンションプーリー12〜14を図中左右方向に移動可能に構成しているが、上下の2つのテンションプーリー11、15も図中左右方向に移動可能に構成してもよい。さらに、本実施の形態においては、5つのテンションプーリー11〜15によってテンション機構10を構成しているが、4つ以下のテンションプーリー、6つ以上のテンションプーリーによってテンション機構10を構成してもよい。
【0038】
上記のように構成した本実施の形態の切削装置1を用いて、対象物(例えば、コンクリート構造物25)を摩擦切削により切断するには、まず、図1に示すように、コンクリート構造物25の切断箇所に対向するように切削装置1を設置する。
【0039】
次に、図2に示すように、油圧発生装置から各アクチュエータ3a、3bに油圧を供給し、各アクチュエータ3a、3bのロッド4を図中右方向に突出させて、ロッド4に追従して各ガイドプーリー6を図中右方向に移動させることにより、両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されているワイヤーソー20の部分をコンクリート構造物25に接触させる。
【0040】
そして、モータを作動させてテンションプーリー13を回転させることにより、5つのテンションプーリー11〜15と2つのガイドプーリー6、6との間に掛け渡されているワイヤーソー20を時計回り又は半時計回り(図中矢印a方向又はb方向)に走行させて、コンクリート構造物25に対する摩擦切削を開始し、図3に示すように、コンクリート構造物25を図中左端面から右端面に向けて切削していく。
【0041】
そして、図4に示すように、ワイヤーソー20がコンクリート構造物25の右端面を貫通した後に、モータを停止させてテンションプーリー13の回転を停止させることにより、ワイヤーソー27の走行を停止させる。これにより、コンクリート構造物25を左端面から右端面に向けて、ワイヤーソー20による摩擦切削によって切断することができる。
【0042】
なお、図1〜図4の過程においては、各アクチュエータ3のロッド4の動きに追従して、各調整部材16〜18を伸縮させて、3つのテンションプーリー12〜14を図中左方向又は右方向に移動さることにより、ワイヤーソー20の張力を一定に保った状態でワイヤーソー20をケーシング5から繰り出してコンクリート構造物25に接触させるものとする。
【0043】
また、図5に示すように、アクチュエータ3a、3bの一方を先に作動させ、アクチュエータ3a、3bの他方を後から作動させて、両アクチュエータ3a、3bの作動のタイミングを変化させ、或いは、各アクチュエータ3a、3bのロッド4の伸縮量を変化させながら、移動機構9によって各案内手段2をロッド4の伸縮方向(Z方向)と直交する2方向(X方向又はY方向(図中奥行方向又は上下方向))に移動させることにより、ワイヤーソー20による切削方向を、図中左右方向から奥行き方向又は上下方向等、様々に変化させることができ、例えば、図6に示すように、コンクリート構造物25としての梁25aを上下方向から切削して切断する場合に、楔状、階段状等の様々な形状に切削して切断することができる。
【0044】
梁25aを上下方向から楔状に切削して切断するには、例えば、図6の梁25aの下方に切削装置1を配置し、両案内手段2、2を梁25aの図中奥行き方向に配置し、両案内手段2、2の両ロッド4、4を上方に伸ばすことにより、両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されているワイヤーソー20の部分を梁25aの下面側に押し付ける。
【0045】
そして、図7に示すように、ワイヤーソー20を走行させて、両ロッド4、4を伸ばしながら、移動機構9により、両案内手段2、2を両ロッド4、4の伸縮方向(Z方向)と直交する一方向(X方向)に移動させ、それに追従して両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されているワイヤーソー20を図中AからBに向けて押し上げることにより、梁25aを下面側のA点からB点に向けて斜め上方に切削する。
【0046】
次に、両案内手段2、2の両ロッド4、4を縮めながら、移動機構9により、両案内手段2、2を両ロッド4、4の伸縮方向(Z方向)と直交する一方向(X方向)に移動させ、それに追従して両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されているワイヤーソー20を図中B点からC点に向けて引き下げることにより、梁25aをB点からC点に向けて斜め下方に切削する。
【0047】
次に、両案内手段2、2の両ロッド4、4を伸ばしながら、移動機構9により、両案内手段2、2を両ロッド4、4の伸縮方向(Z方向)と直交する一方向(X方向)に移動させ、それに追従して両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されているワイヤーソー20を図中C点からD点に向けて押し上げることにより、梁25aをB点からC点に向けて斜め上方に切削する。
【0048】
また、梁25aを上下方向から階段状に切削して切断するには、例えば、図6の梁25aの下方に切削装置1を配置し、両案内手段2、2を梁25aの図中奥行き方向に配置し、両案内手段2、2の両ロッド4、4を伸ばすことにより、両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されているワイヤーソー20の部分を梁25aの下面側に押し付ける。
【0049】
そして、図8に示すように、ワイヤーソー20を走行させて、両案内手段2、2の両ロッド4、4を伸ばしながら、両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されているワイヤーソー20を図中A点からB点に向けて押し上げることにより、梁25aを下面側のA点から鉛直方向上方のB点に向けて切削する。
【0050】
次に、両案内手段2、2の両ロッド4、4を停止させた状態で、移動機構9により、両案内手段2、2を両ロッド4、4の伸縮方向(Z方向)と直交する一方向(X方向)に移動させ、それに追従して両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されているワイヤーソー20を図中B点からC点に向けて移動させることにより、梁25aをB点から水平方向のC点に向けて切削する。
【0051】
次に、両案内手段2、2の両ロッド4、4を伸ばしながら、両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されているワイヤーソー20を押し上げることにより、梁25aをC点から鉛直方向上方のD点に向けて切削する。
【0052】
上記のように構成した本実施の形態の切削装置1にあっては、両案内手段2、2の両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されたワイヤーソー20の部分をコンクリート構造物25に接触させて、ワイヤーソー20を走行させた状態で両案内手段2、2のロッド4、4を伸縮させて、ロッド4、4の伸縮に追従して両ガイドプーリー6、6を前進又は後退させることにより、両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されたワイヤーソー20の部分でコンクリート構造物25を摩擦切削して切断することができる。
【0053】
従って、両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されたワイヤーソー20の部分を前進させることと、後退させることと適宜に組み合わせることにより、コンクリート構造物25に対する切削方向を適宜に変化させることができるので、コンクリート構造物25の切断箇所を様々な形状に切断することができる。
【0054】
また、各案内手段2の各アクチュエータ3a、3bを個別に作動させることができるとともに、各アクチュエータ3a、3bのロッド4の伸縮量を個別に調整できるので、各アクチュエータ3a、3bの作動のタイミング、各アクチュエータ3a、3bのロッドの伸縮量を変化させることにより、ワイヤーソー20による切削方向を様々に変化させることができ、コンクリート構造物25の切断箇所を様々な形状に切断することができる。
【0055】
さらに、移動機構9により、各案内手段2をロッド4の伸縮方向(Z方向)と直交する2方向(X方向、又はY方向)に移動可能に構成したので、各ロッド4を伸ばしながら、或いは各ロッド4を縮めながら、或いは各ロッド4を停止させた状態で、各案内手段2をロッド4の伸縮方向と直交する一方向に移動させることにより、ワイヤーソー20による切削方向を様々に変化させることができ、コンクリート構造物25の切断箇所を様々な形状に切断することができる。
【0056】
この結果、例えば、図6に示すように、コンクリート構造物25としての梁25aの両端部を切断して躯体25bから除去するような場合には、梁25aの両端部の切断箇所を1回の切断作業でそれぞれ楔形状、階段状等に切断することができるので、切断後に梁25aが落下するようなことはなく、梁25aの落下するのを防止するために梁25aをクレーンで吊っておく必要はなくなる。
【0057】
これにより、例えば、高層の建物を、高層階からブロック体に分断して解体し、解体したブロック体をタワークレーンで揚重して破砕作業場に降下させて、破砕作業場で破砕機で破砕する解体工法に適用した場合には、建物の各階に設置された外周柱と内周柱との間、隣接する外周柱間、及び隣接する内周柱間に架設された大梁や、大梁間に架設された小梁等の梁を切断して解体する場合に、タワークレーンで解体対象の大梁や小梁等の梁を吊っておく必要がなくなるので、大梁、小梁等の梁の切断作業と並行して、タワークレーンを用いて他の各種の作業を行うことができるので、建物の解体を効率良く行うことができる。
【0058】
また、コンクリート構造物25の表面の一部、或いは内部の一部を切断して除去することが可能となるので、放射線や薬剤によって汚染された部分、塩害等によって劣化した部分のみを切断して取り除くことができ、切断後のコンクリート構造物の補修に要する手間、及び費用を大幅に削減することができる。
【0059】
さらに、重機等を用いてコンクリート構造物25を解体する場合のように、高騒音、高振動が発生することはなく、低騒音、低振動で解体作業を行うことができるので、市街地、病院、学校、付記し施設等の地域においても、適用可能な時間帯が制限されるようなことはなく、効率良く対象のコンクリート構造物25を解体することができる。
【0060】
図9には、本発明による切削装置の第2の実施の形態が示されている。本実施の形態の切削装置1は、各アクチュエータ3a、3bのロッド4の先端に一対のガイドプーリー6、6を支持部材8を介してそれぞれ回転可能、かつ首振り可能に設けたものであって、その他の構成は前記第1の実施の形態に示すものと同様である。
【0061】
本実施の形態においては、ケーシング5から繰り出したワイヤーソー20を、一方のアクチュエータ3aのロッド4の先端の一対のガイドプーリー6、6間、及び他方のアクチュエータ3bのロッド4の先端の一対のガイドプーリー6、6間をそれぞれ通している。
【0062】
上記のように構成した本実施の形態の切削装置1にあっても、前記第1の実施の形態に示すものと同様の作用効果を奏する他に、各案内手段2の一対のガイドプーリー6、6間にワイヤーソー20をそれぞれ通すとともに、各案内手段2の一対のガイドプーリー6、6をロッド4の先端に首振り可能に設けているので、両アクチュエータ3a、3bの両ロッド4、4を伸ばしながら、コンクリート構造物25を切削していく場合(図の矢印A方向)にも、両アクチュエータ3a、3bの両ロッド4、4を縮めながら、コンクリート構造物25を切削していく場合(図の矢印B方向)にも、何れかのガイドプーリー6に荷重が集中して、両一対のガイドプーリー6、6間からワイヤーソー20が外れるようなことはない。
【0063】
また、本実施の形態においても、図10に示すように、例えば、両案内手段2、2の両ロッド4、4を伸ばしながら、或いは両案内手段2、2を両ロッド4、4を縮めながら、或いは両案内手段2、2の両ロッド4、4を停止させながら、両案内手段2、2をロッドの伸縮方向(Z方向)と直交する一方向(X方向又はY方向)に移動させることにより、両ガイドプーリー6、6間に掛け渡されているワイヤーソー20を適宜の方向に移動させることができるので、コンクリート構造物25に対する切削方向を様々に変化させることができ、コンクリート構造物25の切断箇所を様々な形状に切断することができる。
【0064】
なお、前記各実施の形態においては、コンクリート構造物25を切断対象としたが、これに限らず、その他の各種の切断対象に本発明を適用してもよい。
【0065】
また、前記各実施の形態においては、一対のアクチュエータ3a、3b用いたが、一対以上のアクチュエータを用いて、各アクチュエータロッド4の先端にそれぞれ一つ又は一対のガイドプーリー6を設けてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 切削装置
2 案内手段
3a、3b アクチュエータ(油圧シリンダ)
4 ロッド
5 ケーシング
6 ガイドプーリー
8 支持部材
9 移動機構
10 テンション調整機構
11〜15 テンションプーリー
16〜18 調整部材
20 ワイヤーソー
25 コンクリート構造物
25a 梁
28b 躯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物をワイヤーソーで摩擦切削する切削装置であって、
前記ワイヤーソーを走行可能に支持するとともに、前記ワイヤーソーを支持した状態で一方向に前進又は後退可能な一対の案内手段と、前記ワイヤーソーの張力を調整するテンション調整機構とを備え、
前記一対の案内手段間に掛け渡された前記ワイヤーソーの部分で、前記対象物を切削するように構成されていることを特徴とする切削装置。
【請求項2】
前記案内手段は、伸縮可能なロッドを有するアクチュエータと、該アクチュエータの前記ロッドの先端に回転可能、かつ首振り可能に設けられる少なくとも一つのガイドプーリーとを備え、
前記両案内手段の両ガイドプーリー間に掛け渡された前記ワイヤーソーの部分が、前記対象物に接触可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の切削装置。
【請求項3】
前記各アクチュエータを、前記ロッドの伸縮方向と直交する少なくとも一方向に移動可能に支持する移動機構を備えていることを特徴とする請求項2に記載の切削装置。
【請求項4】
前記テンション調整機構は、調整部材と、該調整部材によって移動可能に支持されたテンションプーリーを備え、該テンションプーリーと前記ガイドプーリーとの間に前記ワイヤーソーが架け渡されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の切削装置。
【請求項5】
対象物をワイヤーソーで摩擦切削する切削方法であって、
前記ワイヤーソーを走行可能に支持するとともに、前記ワイヤーソーを支持した状態で一方向に前進又は後退可能な一対の案内手段と、前記ワイヤーソーの張力を調整するテンション調整機構とを備えた切削装置を用い、
前記一対の案内手段間に掛け渡された前記ワイヤーソーの部分を前記対象物に接触させ、前記ワイヤーソーを走行させながら、前記一対の案内手段を一方向に前進又は後退させることにより、前記ワイヤーソーを前記一対の案内手段に追従して一方向に前進又は後退させることにより、前記対象物を摩擦切削することを特徴とする切削方法。
【請求項6】
両端が垂直材によって支持された水平材を備えた構造物をワイヤーソーで摩擦切削して解体する構造物の解体方法であって、
前記ワイヤーソーを走行可能に支持するとともに、前記ワイヤーソーを支持した状態で一方向に前進又は後退可能な一対の案内手段と、前記ワイヤーソーの張力を調整するテンション調整機構とを備えた切削装置を用い、
前記一対の案内手段間に掛け渡された前記ワイヤーソーの部分を前記水平材の両端に接触させ、前記ワイヤーソーを走行させながら、前記一対の案内手段を一方向に前進又は後退させて、該一対の案内手段に追従して前記ワイヤーソーを一方向に前進又は後退させることにより、前記水平材の両端を前記垂直材側に係止される形状に摩擦切削することを特徴とする構造物の解体方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−23922(P2013−23922A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160203(P2011−160203)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】