説明

制振塗料組成物

【課題】金属の腐食を抑制することの容易な制振塗料組成物を提供する。
【解決手段】制振塗料組成物は、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、塗膜の制振性向上剤として無機粒子とを含有する。無機粒子は、平均粒径が1〜10μmの第1粒子と、平均粒径が1〜100nmの第2粒子とを含む。第2粒子は、第1粒子1000質量部に対して、1〜20質量部の範囲で配合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、塗膜の制振性向上剤として無機粒子とを含有する制振塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水系樹脂分散液と、制振性向上剤として無機粒子とを含有した制振塗料組成物が知られている(特許文献1参照)。こうした制振塗料組成物は、例えば金属物品に用いられることで、金属物品の振動を減衰する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−235883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、制振塗料組成物に配合する無機粒子に基づいて金属の腐食を抑制する効果が高まることを見出すことでなされたものである。
本発明の目的は、金属の腐食を抑制することの容易な制振塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の制振塗料組成物は、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、前記塗膜の制振性向上剤として無機粒子とを含有し、金属物品に用いられる制振塗料組成物であって、前記無機粒子は、平均粒径が1〜10μmの第1粒子と、平均粒径が1〜100nmの第2粒子とを含み、前記第2粒子は、前記第1粒子1000質量部に対して、1〜20質量部の範囲で配合されることを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制振塗料組成物において、前記第1粒子の含有量は、前記樹脂粒子100質量部に対して、540〜735質量部であることを要旨とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の制振塗料組成物において、前記第2粒子の平均粒径が15nm以下であることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制振塗料組成物において、モリブデン酸系化合物と含硫黄有機化合物とを金属腐食抑制剤として含有するとともに、水溶性ジルコニウム化合物を含有することを要旨とする。
【0008】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の制振塗料組成物において、前記水溶性ジルコニウム化合物が炭酸ジルコニウム塩を含むことを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項4又は請求項5に記載の制振塗料組成物において、前記含硫黄有機化合物が3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸トリエタノールアミンを含むことを要旨とする。
【0009】
請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の制振塗料組成物において、前記樹脂粒子がアクリル系樹脂粒子を含むとともに、前記第1粒子が炭酸カルシウムを含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属の腐食を抑制することの容易な制振塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態における制振塗料組成物には、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、塗膜の制振性向上剤として無機粒子とが含有されている。
【0012】
<水系樹脂分散液>
樹脂粒子を構成する高分子材料としては、例えばアクリル系樹脂、アクリル/スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル/アクリル系樹脂、エチレン/酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキッド系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン共重合ゴム、スチレン/ブタジエン共重合ゴム、ブタジエンゴム、及びイソプレンゴムから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。なお、これらの高分子材料は変性体であってもよい。
【0013】
樹脂粒子は、単独種の高分子材料から形成されていてもよいし、複数種の高分子材料から形成されていてもよい。さらに、水系樹脂分散液には、単独種の樹脂粒子を含有させてもよいし、複数種の樹脂粒子を含有させてもよい。
【0014】
高分子材料の中でも、制振性能が発揮される温度領域を常温付近に調整することが容易であるという観点からアクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを単量体とする単独重合体、これらの単独重合体の混合物、並びにこれらの単量体が重合した共重合体が挙げられる。アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、2−エチルヘキシルエステル、エトキシエチルエステル等が挙げられる。
【0015】
樹脂粒子の全量に対するアクリル系樹脂粒子の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。最も好ましくは樹脂粒子の全量がアクリル系樹脂粒子である。
【0016】
樹脂粒子を分散する水系分散媒としては、水、及び水と一価アルコールとの混合液が挙げられる。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール等が挙げられる。水系樹脂分散液は、例えば乳化剤を含有した水溶液中に単量体及び重合開始剤を滴下する乳化重合等の周知の方法に従って得ることができる。
【0017】
<制振性向上剤>
制振性向上剤としての無機粒子は、平均粒径が1〜10μmの第1粒子と、平均粒径が1〜100nmの第2粒子とを含む。第2粒子は、第1粒子1000質量部に対して、1〜20質量部の範囲で配合される。ミクロンオーダーの第1粒子よりも微細なナノオーダーの第2粒子は、塗膜に耐水性を付与する働きも有する。第2粒子の配合量が、第1粒子1000質量部に対して1質量部未満の場合、塗膜に耐水性を付与する働きが得られないおそれがある。一方、第2粒子の配合量が、第1粒子1000質量部に対して20質量部を超える場合、所謂チキソ性が高まる傾向にあるため、制振塗料組成物の取り扱い性が低下するおそれがある。この点、第2粒子の配合量は、第1粒子1000質量部に対して、好ましくは1〜15質量部であり、より好ましくは1〜10質量部であり、さらに好ましくは1〜5質量部である。
【0018】
第1粒子の平均粒径は、好ましくは1.0〜7.0μmであり、より好ましくは1.2〜5.0μmであり、さらに好ましくは1.5〜3.5μmである。第2粒子の平均粒径は、耐食性をより高めるという観点から、好ましくは1〜15nmであり、より好ましくは1〜10nmであり、さらに好ましくは1〜5nmである。
【0019】
なお、無機粒子の平均粒径は、粒体比表面積測定装置によって測定された1g当たりの比表面積値から下記計算式に従って算出される平均粒子径である。
平均粒子径(μm)=6/(比重/比表面積)×10000
無機粒子の材質としては、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、ガラス、アルミナ、アルミニウム、水酸化アルミニウム、鉄、酸化チタン、酸化鉄、珪藻土、ゼオライト、フェライト等が挙げられる。無機粒子は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
無機粒子としては、入手が容易であるという観点から、炭酸カルシウム粒子を含有することが好ましい。炭酸カルシウム粒子としては、例えば軽質炭酸カルシウム粒子や重質炭酸カルシウム粒子等を用いることができる。特に、第1粒子は、第2粒子よりも多量に配合されるため、経済性を考慮すると、炭酸カルシウム粒子であることが好ましい。
【0021】
また、第2粒子は、予め分散媒に分散した分散液として配合することが好ましい。第2粒子の分散液には、例えば、分散剤等が含有されていてもよい。
制振塗料組成物中における第1粒子の含有量は、樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは540〜735質量部であり、より好ましくは540〜650質量部である。第1粒子の含有量が、樹脂粒子100質量部に対して、540質量部以上の場合、優れた制振効果が得られ易くなる。一方、第1粒子の含有量が、樹脂粒子100質量部に対して、735質量部を超える場合、流動性が低下することで塗布し難くなるおそれがある。
【0022】
また、制振塗料組成物中に含まれる第1粒子の含有量は、制振塗料組成物中に含まれる水分100質量部に対して、330〜390質量部であることが好ましい。第1粒子の含有量が、制振塗料組成物中に含まれる水分100質量部に対して、330質量部以上の場合、塗膜の表面に凹凸が形成されたり、塗膜にピンホールが形成したりする現象の発生(ワキの発生)を抑制することが容易となる。一方、第1粒子の含有量が、制振塗料組成物中に含まれる水分100質量部に対して、390質量部以下の場合、良好な塗布性が得られ易くなる。
【0023】
<その他の成分>
制振塗料組成物には、(C)モリブデン酸系化合物と、(D)含硫黄有機化合物とが金属腐食抑制剤として含有されるとともに、(E)水溶性ジルコニウム化合物が含有されることが好ましい。
【0024】
モリブデン酸系化合物は、塗膜の形成される金属物品の表面に不動態被膜を形成することで、前記金属物品の腐食を抑制する。モリブデン酸系化合物としては、モリブデン酸及びその塩から選ばれる少なくとも一種である。モリブデン酸としては、例えば、オルトモリブデン酸、メタモリブデン酸、及びパラモリブデン酸が挙げられる。モリブデン酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩から選ばれるアルカリ金属塩が挙げられる。また、モリブデン酸の塩としては、リンモリブデン酸塩等の複塩を用いることもできる。
【0025】
制振塗料組成物中におけるモリブデン酸系化合物の含有量は、樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.3〜10質量部であり、さらに好ましくは0.5〜6質量部である。
【0026】
含硫黄有機化合物は、塗膜の形成される金属物品から溶出した金属イオン(鉄、亜鉛、アルミニウム、銅等の金属イオン)を硫黄の含まれる極性基が捕捉し、不溶性の錯塩を形成することで、金属イオンの溶出、すなわち腐食の進行を抑制する。
【0027】
含硫黄有機化合物としては、チアゾール類、トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、及びチラウム類から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
チアゾール類としては、例えば、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸塩、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸、2−N,N−ジエチルチオベンゾチアゾール、及び2−メルカプトベンゾチアゾールが挙げられる。2−ベンゾチアジルチオプロピオン酸塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、及びトリエタノールアミン塩が挙げられる。
【0028】
トリアゾール類としては、例えば、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、及び5−アミノ−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾールが挙げられる。
チオール類としては、例えば、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール、及び2−メルカプトベンズイミダゾールが挙げられる。
【0029】
チアジアゾール類としては、例えば、5−アミノ−2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、及び2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールが挙げられる。
チラウム類としては、例えば、テトラエチルチラウムジスルフィドが挙げられる。
【0030】
これらの含硫黄有機化合物の中でも、制振塗料組成物の保存安定性を高める観点から、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸トリエタノールアミンが好ましい。
制振塗料組成物中における含硫黄有機化合物の含有量は、樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは1〜40質量部であり、より好ましくは3〜35質量部であり、さらに好ましくは5〜30質量部である。
【0031】
金属物品の腐食をさらに抑制するには、制振塗料組成物中における、モリブデン酸系化合物及び含硫黄有機化合物の合計の含有量(金属腐食抑制剤の含有量)が、樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは16〜26質量部であり、より好ましくは20〜26質量部であり、さらに好ましくは22〜24質量部である。金属腐食抑制剤を所定量以上含有させることで、その効果が顕著となる一方で、金属腐食抑制剤を過剰量配合した場合、金属物品の腐食を抑制する効果が低下するおそれがある。
【0032】
また、モリブデン酸系化合物の含有量は、含硫黄有機化合物100質量部に対して、好ましくは20〜60質量部である。
水溶性ジルコニウム化合物は、上記金属腐食抑制剤の存在下で、塗膜の硬度を高めるとともに、塗膜と金属物品との密着性を高める働きを有する。
【0033】
水溶性ジルコニウム化合物としては、例えば、炭酸ジルコニウム塩(アンモニウム塩、カリウム塩等)、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、及びジルコニウムビスアセチルアセトネートが挙げられる。
【0034】
水溶性ジルコニウム化合物は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
制振塗料組成物中における水溶性ジルコニウム化合物の含有量は、樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは0.1〜40質量部であり、より好ましくは1〜35質量部であり、さらに好ましくは2〜30質量部である。
【0035】
制振塗料組成物中における水溶性ジルコニウム化合物の含有量は、含硫黄有機化合物100質量部に対して、好ましくは10〜100質量部であり、より好ましくは20〜90質量部であり、さらに好ましくは30〜80質量部である。
【0036】
制振塗料組成物には、水、難燃剤、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、安定剤、発泡剤、滑剤、分散剤、ゲル化剤、造膜助剤、凍結防止剤、粘度調整剤等を必要に応じて加えることができる。
【0037】
制振塗料組成物中における水分の含有量は、樹脂粒子100質量部に対して好ましくは30〜300質量部、より好ましくは50〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部である。水分の含有量が樹脂粒子100質量部に対して30質量部未満の場合、樹脂粒子の分散性が十分に確保されないおそれがある。一方、水分の含有量が樹脂粒子100質量部に対して300質量部を超える場合、制振塗料組成物の乾燥速度が遅延することで効率的に塗膜を形成することが困難となるおそれがある。
【0038】
次に、制振塗料組成物の使用方法及び作用について説明する。
制振塗料組成物は、常法に従って上記の原料を混合することで調製することができる。調製した制振塗料組成物を、周知の塗布方法及び乾燥方法により金属物品に塗布した後に乾燥することで、塗膜を形成することができる。制振塗料組成物の塗布量は、金属物品に求められる制振性や耐食性に応じて適宜変更することができる。例えば、乾燥した塗膜の厚みは10〜900μm、好ましくは10〜500μmとされる。
【0039】
このように形成された塗膜には、無機粒子が含有されていることで、制振性能を発揮する。ここで、無機粒子として、第1粒子と第2粒子とを所定の割合で含むことで、第1粒子同士の隙間に第2粒子が入り込むと推測される。すなわち、第2粒子が第1粒子同士の隙間に存在する塗膜では、水分のバリア性が高まる結果、金属物品へ到達する水分は低減されると考えられる。
【0040】
また、本実施形態の制振塗料組成物には、金属腐食抑制剤が含有されているため、金属物品まで到達した水分を要因とした金属物品の腐食が抑制される。ここで、塗膜への水分の浸透は、上記無機粒子により抑制されるものの、その浸透はさらに抑制することが好ましい。この点、本実施形態の制振塗料組成物には、水溶性ジルコニウム化合物が含有されている。これにより、塗膜の硬度及び塗膜の密着性が改善される。すなわち、硬度を高めた塗膜では、水分の浸透がさらに抑制されるようになる。また、密着性を高めた塗膜では、水分が徐々に浸透したとしても、金属物品からの塗膜の浮き上がりが生じ難くなる。その結果、金属物品と塗膜との境界部分に水が滞留し難くなる。
【0041】
制振塗料組成物は、振動の抑制及び腐食の抑制について要求される各種分野において利用することができる。制振塗料組成物の適用分野としては、例えば自動車、壁材、屋根材、フェンス等の建材、家電機器、産業機械等が挙げられる。例えば、金属製の屋根材に適用されることで、雨音の低減効果及び腐食の抑制効果のいずれの効果も発揮させることができるようになる。
【0042】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)制振塗料組成物には、無機粒子として第1粒子と第2粒子とを含む。これにより、金属の腐食を抑制することの容易な制振塗料組成物が提供される。
【0043】
(2)第1粒子の含有量は、樹脂粒子100質量部に対して、540〜735質量部であることで、優れた制振効果が得られ易くなる。しかも、このように多量に配合される第1粒子同士の隙間に第2粒子が入り込むことで、金属の腐食を抑制する効果がさらに高まり易くなる。
【0044】
(3)例えば、第2粒子の平均粒径が15nm以下であることで、金属の腐食を抑制する効果がさらに高まり易くなる。
(4)制振塗料組成物には、モリブデン酸系化合物と含硫黄有機化合物とが金属腐食抑制剤として含有されるとともに、水溶性ジルコニウム化合物が含有されることが好ましい。金属腐食抑制剤によって、塗膜の形成された金属物品の腐食が抑制される。さらに、水溶性ジルコニウム化合物が含有されることで、塗膜の硬度及び塗膜の密着性を高めることが容易となる。これにより、金属物品と水分との接触がさらに抑制された状態となるため、金属腐食抑制剤の効果が継続して発揮され易くなる結果、金属物品の腐食がさらに抑制され易くなる。すなわち、耐食性を高めることがさらに容易となる。
【0045】
(5)炭酸ジルコニウム塩は容易に入手できるため、水溶性ジルコニウム化合物として炭酸ジルコニウム塩を含むことが好ましい。
(6)含硫黄有機化合物が、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸トリエタノールアミンを含むことで、制振塗料組成物の保存安定性が得られ易くなる。
【0046】
(7)樹脂粒子がアクリル酸系樹脂粒子を含むとともに、無機粒子が炭酸カルシウム粒子を含むことで、制振性能の調整が容易であり、汎用性を高めることができる。
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0047】
(イ)前記モリブデン酸系化合物が、モリブデン酸のアルカリ金属塩である制振塗料組成物。
(ロ)金属物品としての屋根材に塗膜を形成する用途に用いられる制振塗料組成物。
【実施例】
【0048】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜6)
表1及び表2に示すように、樹脂粒子としてメタクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体からなる樹脂粒子を水系分散媒に分散した水系樹脂分散液(DIC(株)、BC−280、固形分濃度50質量%)に無機粒子及び各化合物を混合することで、制振塗料組成物を調製した。
【0049】
上記樹脂粒子において、メタクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの質量比は37:63である。また、表1に示す制振性向上剤としての第1粒子は、重質炭酸カルシウム粒子であり、第2粒子は、シリカ粒子である。表1に示すモリブデン酸系化合物はモリブデン酸ナトリウムであり、含硫黄有機化合物は、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸トリエタノールアミンである。表1に示す水溶性ジルコニウム化合物は、炭酸ジルコニウムアンモニウムである。なお、制振塗料組成物中には、常法にしたがって、分散剤、凍結防止剤、増粘剤、消泡剤、着色剤、及びイオン交換水を適量配合している。
【0050】
(比較例1)
表1に示すように、第2粒子を配合しない以外は、各実施例と同様に制振塗料組成物を調製した。
【0051】
<試験片の作製>
表1に示す制振塗料組成物を厚さ0.5mmのガルバリウム鋼板(アルミニウムと亜鉛との合金めっき鋼板)に塗布した後、220℃で40秒間加熱乾燥することにより塗膜を形成し、試験片とした。なお、制振塗料組成物の塗布量は、加熱乾燥後の塗膜の厚さが100μmとなるように調整した。
【0052】
<耐食性の評価>
この耐食性の評価では、JIS K5600−7−1(1999)に準拠して、中性塩水噴霧試験を行い、以下の評価基準によって判定した。前記噴霧試験を300時間以上継続させたときに、白錆が発生したものを「4」、260時間以上継続させたときに白錆が発生したものを「3」、250時間以上継続させたときに白錆が発生したものを「2」、240時間以上継続させたときに白錆が発生したものを「1」として表1に示す。
【0053】
【表1】

表1に示すように、比較例1では第2粒子が含有されていないため、各実施例よりも耐食性に劣ることが分かる。また、実施例1と実施例2とを対比すると、実施例1の耐食性は、実施例2よりも優れることから、第2粒子の平均粒径がより小さいことが好ましいことが分かる。
【0054】
【表2】

表2に示すように、第2粒子の含有量を増すと、耐食性が高まる傾向にあることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、前記塗膜の制振性向上剤として無機粒子とを含有し、金属物品に用いられる制振塗料組成物であって、
前記無機粒子は、平均粒径が1〜10μmの第1粒子と、平均粒径が1〜100nmの第2粒子とを含み、
前記第2粒子は、前記第1粒子1000質量部に対して、1〜20質量部の範囲で配合されることを特徴とする制振塗料組成物。
【請求項2】
前記第1粒子の含有量は、前記樹脂粒子100質量部に対して、540〜735質量部であることを特徴とする請求項1に記載の制振塗料組成物。
【請求項3】
前記第2粒子の平均粒径が15nm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制振塗料組成物。
【請求項4】
モリブデン酸系化合物と含硫黄有機化合物とを金属腐食抑制剤として含有するとともに、水溶性ジルコニウム化合物を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制振塗料組成物。
【請求項5】
前記水溶性ジルコニウム化合物が炭酸ジルコニウム塩を含むことを特徴とする請求項4に記載の制振塗料組成物。
【請求項6】
前記含硫黄有機化合物が3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸トリエタノールアミンを含むことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の制振塗料組成物。
【請求項7】
前記樹脂粒子がアクリル系樹脂粒子を含むとともに、前記第1粒子が炭酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の制振塗料組成物。

【公開番号】特開2012−214584(P2012−214584A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79849(P2011−79849)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】